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研究領域
- wikipedia 嘘
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%98%98事実に反する事柄の表明であり、特に故意に表明されたものを言う。
嘘とは、特に故意に表明された、事実に反する事柄の表明である。
前提となる学問・研究領域
心の理論・メンタライジング・マインドリーディング
- フランス・ドゥ・ヴァール『サルとすし職人』7 くるみ割り人形組曲 P246
おもしろいのは第二の可能性だ。
あるチンパンジーが、たまたま誰かに背中をかいてもらって気持ちよかった。
それで別のチンパンジー、おそらく自分より優位にあってご機嫌をとりたい相手にも、同じ喜びを体験させることにしたというものだ。
だがそれには「見通し」が必要になる。
つまり自分の身体で経験したのと同じことを、他者が経験できるように行動に移し替える。
また自分が感じたことは、相手も同じように感じることを理解していなければならない。
これは感情移入と役割逆転が伴うかなり複雑な能力で、類人猿が自発的に支援したり、相手をあざむいたりする行動にその兆候がある。
相手をあざむくには、相手に心があり、自分が感じたことは、相手も同じように感じる、ということを理解していなければならない。
すなわち、嘘は心の理論を前提とする。
視点取得
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 実験で自我の存在を検証する P131
だが、騙すことは、視点取得がもたらす多くの効用のひとつにすぎない。
嘘は視点取得がもたらしたものである。
自制心
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 実験で自我の存在を検証する P130
たとえば霊長類学者のフランス・ドゥ・ヴァールは、飼育下の大集団のなかで、二頭の雄が群れを支配するアルファの地位を求めて張り合うケースについて語っている。
二頭が互いに威嚇しようとしていると、どちらも恐怖をはっきり示す、歯をむき出したしかめ面を見せた(32)。
この表情は無意識に現れるのだが、対決が長引くと、片方の雄が賢くも自分の口元を手で覆いだして、自分がストレスを感じているという視覚的な手がかりを相手に与えまいとした。
いくらか似た行動は、ゴンベでも報告されている。
興奮した野性の雄が、無意識に発してしまうフードコール(食べ物の存在を知らせる声)を懸命に抑え、与えられた大事なバナナが見えないところにいるライバルに気づかれて奪われないようにしたのだ(33)。
嘘をつくためには、表情や情報をそのまま表出しない自制心が必要になる。
均衡
不当利得・フリーライド目的の嘘は均衡に反する形で行われる行為である。
友情
- wikipedia 互恵的利他主義
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%92%E6%81%B5%E7%9A%84%E5%88%A9%E4%BB%96%E4%B8%BB%E7%BE%A9・感情:他者を好む傾向、友情、好感の持てる知人に対する利他的行動の動機付けとなる。
・道徳的攻撃性:「いかさま師」は互恵主義者のこのようなポジティブな感情を利用するため、いかさま師を見つけ排除するシステムは自然選択によって対抗適応として選択されやすい。
利他主義者は違反者に献身的な行為を続けるのではなくて、違反者の態度を変えさせようとする。
このメカニズムは非互恵的個体を教育したり、極端なケースでは隔離したり、傷付けたり、追放する。
不当利得・フリーライド目的の嘘は友情を利用する。
過去に位置する学問・研究領域
原因となる学問・研究領域
解決すべき問題となる学問・研究領域
罰
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 類人猿は「罪悪感を抱く」のか? P149-151
この期間、心理学者のロジャー・ファウツがルーシーにサインのやりとりを教えに来ていて、言語のレッスンの直前、ほかのだれも部屋にいないときに、ルーシーがテマーリンの家の居間で床のど真ん中に粗相をした。
(中略)
ルーシーが粗相の責任をどこかへ押しつける「戦術的欺瞞」をしようとしたのは、埋まった果物を探すふりをしたり、恐怖のしかめ面を覆い隠したりするのと同じカテゴリーに入るようにも思われる(55)。
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 類人猿は「罪悪感を抱く」のか? P155
だが保守的な科学的解釈によれば、ルーシーがしていたことはすべて、自分とつながりのある支配的な人間に見つかったら不満をもたれ、叱ったり罰したりされるという認識に対する政治的な反応だということになる。
類人猿においては罰を避けるために嘘をつくことがある。
目的となる学問・研究領域
印象管理・同情・地位
- フランス・ドゥ・ヴァール『政治をするサル チンパンジーの権力と性』3.権力奪取 P135
ラウトは、イエルーンにたいして、力強く誇示した。
そして、ライバルとの対決において、歯をむきだすようなことは一度だってなかった。
だが、イエルーンは、歯をむきだしたのである。
これは、チンパンジーが、自信のなさをしめすときのサインである。
初期の段階で、イエルーンは、この自信喪失を、ラウトからかくそうとしているように見えた。
はっきりした表情はなにもみせずに、イエルーンは挑戦者のそばからたち去る。
じゅうぶんにはなれて、ラウトに背をむけてから、彼はやっと歯をむきだし、静かな悲鳴をあげたものだ。
体面をつくろう、というこの魅力的な光景は、より後期の優劣争いの過程で、ますます目立つようになった。
もっとあとの段階でも見られたことであるが、私が、これこそ終末のはじまりであろう、と解釈するようになったもうひとつの現象は、負けたほうがおこなう"だだこね"行動である。
(中略)
ラウトの挑戦に直面して、イエルーンの無力感が増大するにつれ、イエルーンのだだこね行動もふえた。
それは、あわれみを呼び起こして、アンチ・ラウトの共感者を動因しようとくわだてているように見えた。
- 江口絵理『ボノボ 地球上で、一番ヒトに近いサル』第5章 言葉を話せるカンジ P103
マタタは、この人が私のボウルを取ったのよ、やっつけてちょうだい! とスー博士に訴えているようでした。
しかし、ことの真相は、マタタは自分でボウルを女性に渡したのです。
そしておもむろに「この人が取ったー!」と鳴きさけびはじめたのでした。
チンパンジーやボノボの嘘は、体面をつくろったり、他の仲間の感情に訴えかけたり、地位を維持しようとするために行われる。
食事
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 実験で自我の存在を検証する P129-130
それでも、飼育下のチンパンジーを使った実験では、被験者はほかの仲間を騙すために意図的に視点取得をおこなっていた。
かなり大きな集団を使った実に巧みな実験のひとつでは、研究者が野外の広い囲い地に果物を埋めるところを一匹の若い雄に見せるが、仲間には見えないようにしておく。
集団全体がこの囲い地に放り込まれると、もちろんその若い雄はまっすぐ食べ物の場所へ向かった(31)。
実験を繰り返すと、やがて年配でより地位の高い雄たちが、若い雄は食べ物の隠してある場所を知っているようだと気づいた。
そして若い雄の動きを見て、彼が食べ物を掘り出したら、年配の圧政的なチンパンジーたちは若者を追い払い、それを奪って食べたのである。
しかし実験を続けるうちに、若い雄は、そうした圧制者たちの考えを推し量って出し抜けることがわかった。
あとになると若い雄は、果物がないとわかっている場所へ走っていき、猛然と掘りはじめた。
そしてほかの連中がそれに続くと、地位の低いその若者は、本当に果物が埋まっている場所へそっと移動し、地位の高い連中が気づいて駆けつける前に、少なくとも一部は自分で食べることができたのである。
他者に餌をとられないために、食事においてだましがみられることがある。
不当利得・フリーライダー
互恵的利他主義の見地からは、不当利得・フリーライド目的の嘘がある。
秘密
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 類人猿は「罪悪感を抱く」のか? P155
ゴンベで私は、いつでもこそこそする様子を目にしていた。
たとえば発情期の雌が、こっそり谷へ行って若い雄と会い、近くでアルファ雄が食事をしているあいだに交尾することがあった。
二頭とも、自分が本当に関心をもった雌と地位の低いライバルが付き合っているのをアルファが知ったら、往々にしてその雄をおどしたり攻撃したりするとわかっていたので、見えない場所で安全に短い情事(平均でたった八秒)に耽っていたのだ。
この状況において、こそこそする様子は雄弁に恐怖を表していた。
だが私は、彼らは内面化したルールを破ったことに対し、道義的に自分をとがめるという意味で「罪悪感」をもっていたのではなかったというほうに賭けたい。
じっさい、先述の雄と雌が完全にふたりきりの状態で会うと、こそこそするしぐさはまったく見られなかった。
チンパンジーにおいては、地位の低い雄と雌が交尾関係を持った場合、彼らは地位の高い雄に対して秘密を隠蔽しようとする。
属する全体である学問・研究領域
防衛機制
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 祖先の「社会統制」 P137-138
チンパンジーが飼育下の大集団で暮らしている場合、事態は雌にとって決定的なまでに変化する。
(中略)
このように団結した雌は、身近な雌を叩いてフラストレーションをぶちまけたがる雄に集団で襲いかかる傾向がとりわけ強い――野生の状態ではかなりよくある行動だ。
フランス・ドゥ・ヴァールは、アルファ雄がはるかに地位の低い雄に対して攻撃的になったときに起きた、そうした出来事について語っている。
ジモーは、ヤーキーズ・フィールド・ステーション[ヤーキーズ国立霊長類研究所の野外調査拠点]の集団で現在アルファ雄となっているが、あるとき若い雄のソッコと、ジモーの大好きな雌のひとりが、こっそり交尾しているのを見つけた。
(中略)
ふだんなら、この年配の雄はただ罪人を追い出すだけなのだが、なぜか――ひょっとしたらその雌がその日、ジモーとの交尾を何度も拒絶したためかもしれないが――このときは全速力でソッコを追い回しつづけた。
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 類人猿は「罪悪感を抱く」のか? P149-150
この期間、心理学者のロジャー・ファウツがルーシーにサインのやりとりを教えに来ていて、言語のレッスンの直前、ほかのだれも部屋にいないときに、ルーシーがテマーリンの家の居間で床のど真ん中に粗相をした。
(中略)
ルーシーが粗相の責任をどこかへ押しつける「戦術的欺瞞」をしようとしたのは、埋まった果物を探すふりをしたり、恐怖のしかめ面を覆い隠したりするのと同じカテゴリーに入るようにも思われる(55)。
- クリストファー・ボーム『モラルの起源』第5章 太古の祖先をいくつか再現する 類人猿は「罪悪感を抱く」のか? P150
テマーリンは、ルーシーが飼育者を欺こうとしたほかのケースについても語っている。
そんなとき、ルーシーはとてもよく知っているサインを「理解しなくなる」のだ。
類人猿においては、八つ当たり(置換の萌芽)、嘘(合理化の萌芽)、理解しなくなる(退行の萌芽)などの防衛機制の萌芽が見られる。
この見地からは、嘘は防衛機制の一種であると見ることが可能である。