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研究領域
- ヒース「ルールに従う」第6章 自然主義的パースペクティブ 6.1 利他主義の謎 P285-286
人間は群体的な無脊椎動物(colonial invertebrate)や社会的昆虫と並んで、進化生物学者たちが超社会的種と呼ぶものに属している2)。
(中略)
この種の協力はまれである。
(中略)
まれであるだけではなく、人間社会の超社会性が呈している特定の形態に関する謎も存在する。
群体的な無脊椎動物と社会的昆虫のどちらのケースでも、彼らが示す異常に高いレベルの社会性に関しては非常に明白な生物学的・遺伝的基礎が存在する。
たとえば、社会的昆虫(アリ、シロアリ、ミツバチ、ススメバチ)に関して言うならば、その社会性はハチの巣やコロニーにおけるメンバー間の近縁性を増大させる「半数性単為生殖」と呼ばれる生殖パターンのおかげである。
人間の生殖生態(reproductive bology)においては、これと似たようなもので、われわれの超社会性の説明として役立つものは存在しないように思われる。
生殖に関しては、他の多くの側面と同様、われわれは類人猿とそれほど違わないのである。
- ヒース「ルールに従う」訳者解説 本書で言及される哲学者・科学者たち P504
おそらく本書の中でもっとも高く評価されている経済学者・ゲーム理論家は、サミュエル・ボウルズとハーバート・ギンタスであろう。
ロバート・フランクによるものを含む多くの理論が人間が示す「超社会性(ultrasociality)」――人間が遺伝的に無関係な個体間で大規模な協力を示すこと――を説明する理論としては不十分だとして退けられる中で、彼らの「強い互恵性(strong reciprocity)」の理論はそれを説明する可能性を持つ理論として高く評価される。
このwikiでは、超社会性とは遺伝的に無関係な個体間で大規模な協力を示すことである。
前提となる学問・研究領域
合同行為・協力
超社会性とは大規模な協力である。
文化人類学・文化・伝統
- ヒース「ルールに従う」第6章 意志の弱さ 6.5 規範同調性 P319
もしこの分析が正しいならば、人間の超社会性の背後にある利他主義は、遺伝的に不適応で、文化的に伝達されたこうした行動パターンの1つであることが判明するかもしれない。
- ヒース「ルールに従う」第6章 意志の弱さ 6.5 規範同調性 P321
人間に独特なことは、累積的な文化的伝達が存在し、文化がそれ自身の継承システムを構成しているということである70)。
- ヒース「ルールに従う」第6章 意志の弱さ 6.5 規範同調性 P326-328
たとえば、人間が行動を模倣する仕方には重要な同調バイアスが存在している。
(中略)
この領域や他の多くの領域において、人間の学習は「郷に入っては郷に従え」バイアスを持っている。
このことがどのようにして適応的でありうるのかを理解することは難しくない79)。
このバイアスは文化的伝達の特徴に対して、重要な帰結を持っている。
(中略)
しかし十分強い同調バイアスが存在するならば、大多数の行動は全員によって採用されることになるだろう。
このことは、文化的伝達が、生物学的進化にみられるものよりもずっと極端な転換点効果(tipping point effect)に服するだろうということを意味している。
このことはどの特定の文化的パターンの再生産にも直接的に有利に作用しないものの、ダイナミクスを変化させることになる。
たとえば文化の領域において集団選択をより強力なものにする潜在力を有している。
このことはさらに、利他的行動を文化的パターンとしてずっと頑健なものにする。
(中略)
こうして、集団内の変異の水準は、集団間の変異の水準よりもずっと低くなるだろう。
この集団に導き入れられた新たな個人もまた、適合するために自分の行動を変化させる傾向を持っているだろうから、移住が持つ破壊的効果を中和することになる。
したがって、ボイドとリチャードソンは文化的進化を「効果増強的な(potentiating)」集団選択として記述する。
この結果、生物学的モデルとして定式化されるときには説得力に欠けていた人間の超社会性に対する説明のいくらかが、文化的進化の枠組みで定式化されるときには、ずっと説得的なものになるのである。
人類の超社会性は遺伝的な制約から自由な文化によって成り立つ。このような文化は累積的な文化=伝統である。
人類学・人類・人間性
超社会性は群体的な無脊椎動物や社会的昆虫にも存在するが、このwikiにおいては超社会性という用語は、遺伝的に無関係な個体間での話なので、人間特有のものを指して使う。
罰・互恵的利他主義・互酬
- ヒース「ルールに従う」第6章 意志の弱さ 6.4 怪しい仮説のいくつか P312-315
今は、人間の超社会性が互恵的利他主義の強化された形態に基づくと主張する、いわゆる強い互恵性(strong reciprocity)モデルに焦点を当てることにしよう。
強い互恵性モデルは、懲罰が人間の社会的インタラクションにおいて独自の役割を果たすということから出発する。
人間以外の霊長類は自分の意志を強制したり、順位制を維持するために、攻撃的で懲罰的な行動を用いる。
しかし、そのような懲罰的行動と、互恵的利他主義のシステムに関連した行為との間に何らかの関係が存在するという証拠はほとんど、あるいはまったく存在していない。
(中略)
これに対して、人間はしばしば利他的ジェスチャーにお返ししなかった人々を罰するためにコストを負担する。
もっとずっと特異な事実は、人間においては、非協力的に行為した人々を罰するために関係のない第三者がしばしば介入するということである。
サミュエル・ボウルズとハーバート・ギンタスは、懲罰と互恵性との間のこの連結こそ、人間の超社会性を説明する「ひねり」であると主張してきた60)。
(中略)
一見したところ、強い互恵性の仮説にはそれを推奨する多くの利点がある。
人間の超社会性は、罰と結びついた互恵的利他主義が前提となっているという説がある。