物語/物語_サ

Last-modified: 2024-02-10 (土) 18:12:42

早柚

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キャラクター詳細
ほとんどの稲妻人は、「終末番」の存在を知らない。事実、「終末番」は「社奉行」傘下の秘密組織なのである。
そして、「終末番」に早柚という名の小さな忍者がいるが、彼女は更に知られていない。
早柚は「終末番」の中でも特別な存在。幼い頃から「終末番」で育った彼女は、組織に高い忠誠心を持っている。
しかし、彼女の一番の特徴は「忠誠心」ではなく「怠惰」だ。
「怠惰」は早柚の得意芸だ。逃げ技や気配の消し方など、様々な忍術を駆使してサボってきた。
彼女の習慣を知らない人は、彼女を見つけるのに一苦労するだろう。
怠惰について、早柚はこのように話している。「怠けているわけではない、ただ時間を有意義に使っているだけだ。」


キャラクターストーリー1
早柚は非常に小柄だ。
小柄は同時に、彼女が複雑に思う点でもあるーー
同年代の子は次々と身長が伸びていくが、自分は子供のまま、身長が全く伸びない。
早柚は非常に焦った。
日が経つにつれ、周りの全てが高くなっていくように感じるのに、自分はまだ小柄のまま。
次第に早柚は、身長を伸ばすことに執念を持つようになった。
「長く眠れば、いつか背が伸びるかもしれない!」
彼女は強く信じていた。そして、あらゆる機会を利用して寝るようにした。
機会がなければ自分で機会を作り、寝る環境がなければ無理やり寝られるようにした。
周りの人も小さな早柚に気を使い、邪魔しないようにした。
そして、今では、早柚は立ったままでも寝られるようになった。


キャラクターストーリー2
早柚の忍術は戦闘にあまり向いていないが、サボりたいときに非常に使いやすい。
彼女は姿を隠したり、痕跡を消したりすることに長けており、この分野の専門家だ。彼女が隠れようと思えば、普通の人に見つかることはない。
しかし、巧みな謎解きには必ず答えがあり、隠された宝物には必ず手がかりがあるように、早柚にもバレる時がある。
早柚と長い時間一緒に過ごすと、彼女の癖や好みが分かり、彼女を見つけ出すことも不可能ではなくなる。
例えば、早朝に早柚の部屋に行って布団をめくれば、大抵はそこにいる。
お昼に神社付近の木を観察してみれば、思いがけない発見があるかもしれない。
夜になると見つけ出すのが難しくなるので、早柚の家で待ち伏せする方がいい。
ただし必要な時以外は、くれぐれも成長している早柚の邪魔をしないように。
優しいウサギも怒ると人を噛む。早柚を怒らせると…同じようにしてくるかもしれない。


キャラクターストーリー3
早柚を探し出したからといって、彼女が素直に仕事するとは限らない。
それに、早柚の「終末番」での仕事は、毎日やることが決まっているようなものではない。必要な時に突如来る任務だ。
それゆえ、このようなことが起きてしまう。
新たな任務が下された時、彼女はいない場合が多い。
苦労してやっと彼女を見つけた時には既に、もっと適任の者が任務に向かっている。
また、早柚以外に適任者がいなかった場合、彼女はそれを避けるために逃げ出すことが多い。
これほど高度な忍術…もし仕事で真面目に使っていれば、「終末番」で大活躍していただろう。


キャラクターストーリー4
早柚は忍術流派――「嗚呼流」の最後の後継者である。
敵をいたぶることで有名な流派だが、早柚は逃走術や身代わり術だけを学んでいた。
これらの忍術は、実戦ではほとんど役に立たないが、鑑賞に長けている。
落ち葉の中、一瞬にして消える人影。そよぐ風の中、地面に突然現れる凧…驚くべき光景は、芸術的な演出に匹敵する。
そのため、お祭りになると、色んな関係者から招待され、不思議な忍術を披露することになる。
宵宮が来たら、早柚はまだ隠れたままでいられる。
だが来るのが八重宮司様の場合、早柚は抵抗を諦める。
身代わり術はあのお方の鋭い目を欺くことはできない。息止めの術も全く役に立たなくなる。
直接逃げることも、あのお方を怒らせてしまう恐れがある…
幸いなことに、宮司様が自らお出ましになることは滅多にない。
よってほとんどの場合、早柚はうまく逃げ切ることができるのだ。


キャラクターストーリー5
物心ついた頃から、早柚は「終末番」で先生から忍術を習っていた。
「終末番」は影で活動している組織だが、年長者たちはとても優しく、幼い早柚の面倒を見ていた。
「人に頼りすぎるのは、忍者にとって決していいことではない。」
忍術の勉強に詰まった早柚を見た先生は、心の中でそう思った。
年が経つにつれ、早柚は着実に成長していった。彼女が自分の身を守れるようになった頃、先生は静かに彼女のそばから離れた。
親の庇護から離れた幼い獣は、素早く成長する。先生は早柚にも同じことを期待していた。
若き忍者は先生の期待を裏切らなかった。間もなく、早柚は「神の目」を手に入れた。
そして、彼女は「終末番」で真面目に…サボるようになった。
早柚は常に寝たり隠れたりしている。そういう意味では、彼女も多忙だ。
時折、一人で月光を楽しんでいる時、彼女の心の奥底に迷いが生じた。
いつも共にいた人は、いつか離れていく…これが人生というものなのか?
それでも、もしかしたら未来のある日に、一緒にいてくれる人に出会えるかもしれない。
そう考えているうちに、小さな忍者は眠りについた…


小狢服
早柚の服は、先生からもらったものだ。
小動物の「ムジナ」を参考にした様式で、特別に早柚の好きな色を選んでいる。
軽くて動きやすいため、忍者に適している。
服の大きな頭巾は安心感をもたらしてくれるため、早柚は特に気に入っている。
長いしっぽは、木の上でバランスを保つためのものだ。
この服の唯一の欠点は…タヌキに似すぎているため、よく間違えられてしまうことだ。
最初は相手に真剣に説明していた。
「タヌキじゃない、拙は早柚だ!」
しかし、同じようなことが何度も起こった結果、早柚はタヌキを恨むようになってしまった。
今、このようなことが起きると、早柚は怒りを露わにする。
ゆえに、早柚と仲良くしたいのであれば、以下の内容をちゃんと覚えておこう。
早柚はタヌキではなく、早柚だ。
服装もタヌキ服ではなく、ムジナ服だ。


神の目
早柚が独り立ちしたばかりの頃のお話だ。
弱き生物がこの世を一人で歩めば、さぞかし怖い思いをするだろう。実際に経験しなければ、その様な気持ちを理解することはできない。
早柚もそうだった。観察力と回避に長けた彼女は、自分が戦闘に向いていないことを常に理解していた。
小柄すぎる体は、パワーの面では何の優勢もなく、実戦になると忍術もそれほど役に立たない。
任務は、忍者が完全に成長してから受けられるようなものではない。混乱の時代、早柚は小さな仕事でも危険に陥ったことがある。
強敵に囲まれながらも、必死の思いでなんとか逃げ切った。無事に情報を持ち帰るために、全力を尽くした。
疲れ果て、傷付き、気を失いそうになった早柚の心に残ったのはただ一つ。
「勝ち取ることができるのは強者だけではなく、弱者にも生き延びる道がある。弱いからこそ、見えない瞬間に気付いて運命を変えることができる…ここから脱出できる可能性は低いけど、拙の忍術はそのためにあるんだ。」
葉が落ちる瞬間、彼女は姿を消した。追っ手は皆、驚きを隠せなかった。小さな忍者は、まるで風の中の塵のように消えてしまったのだ。
翌朝、早柚は必死に起きようとしたが、足につけていた忍者袋が消えていることに気付いた。
しかし、忍者袋の代わりに、そこには意外なものがあった。朝日に輝く「神の目」だ。
「神の目」の力で、早柚は自分よりも背が高い両手剣を振り回すことができるようになった。もう、乱世での争いに怯える必要はない。
ただ、早柚の一番の悩みはまだ解決できていない。
彼女の身長に関しては、神の目でもどうにもならないようだ。

珊瑚宮心海

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キャラクター詳細
海祇島の住民は、かつて海の底にある淵下宮に住んでいた。
魔神オロバシが彼らを地上に連れて行き、そのおかげで今の海祇島の文明がある。
オロバシが雷神に斬り殺された後、遺体は骨となって残り、その怨念が祟り神を生むこととなった。
しかし、海祇島を守ろうとする意志は決して消えていない。
その意思は珊瑚宮家の血筋に溶け込み、代々受け継がれることになる。
その血筋を受け継いだ者が、海祇島の「現人神の巫女」だ。
それは神々の意思を俗世の人間へと宿し、彼らに代わって土地を守る者を意味する。


キャラクターストーリー1
心海が「現人神の巫女」になった日、海祇島に住む無数の人々が彼女に会うため珊瑚宮へと足を運び、彼女を遠巻きに眺めた。
驚き、疑い、戸惑い、喜び…彼らの表情がそれぞれ違うのは、彼女があまりにも若すぎるように見えたため。
陰謀が渦巻き、疑問の声は絶えず、野心家たちが裏で動き始める。嵐の到来が近づき、海祇島は平穏ではなくなった。
しかし、心海が即位して間もなく、一切が平常に戻った。
彼女は賞罰を公平に与え、民を愛し、軍事に長けていた。その優れた才が、多くの人の心を鷲掴みにしたのだ。
「珊瑚宮様がいれば、きっと大丈夫」という言葉が、そうして島中に知れ渡った。


キャラクターストーリー2
様々な要因が勝敗を左右する。
地形、天候、兵力や装備の差…いずれも慎重に検討する必要があるものだ。
細かなことに気を取られすぎては、戦局の変化を見逃してしまう。戦略だけを語る者は、机上の空論で判断している可能性が高い。
大局と細部の両方を把握できる者だけが、戦場で奇跡を起こすことができる。
その裏には、数え切れないほどの努力と、数多の失敗から得られた教訓がある。
最後まで研鑽を続けられる者はごく少数だが、心海はそれが得意であった上に、独自の戦術をも編み出した
「より大きな戦局を操り、相手を降伏させます。そして、最小の犠牲で戦に勝利しましょう。」


キャラクターストーリー3
戦場でも、戦場の外でも、心海は「敵を知る」ことを心掛けている。
彼女は事前にすべての可能性を想定し、戦略を考え、そのすべてを虎の巻に書き留めて実行者に委ねる。
その結果、虎の巻があまりにも分厚く、重くなるという問題が生じたが、この方法によって海祇島は安定した発展に繋がった。
現在、海祇島はさらなる繁栄に向けて、日々動いている。優秀な人材が多く登用されたことで、心海が手配する虎の巻も減っていった。
心海にとって、それは実に喜ばしいことである。


キャラクターストーリー4
時間に余裕がある時、心海は一人で海祇島を散歩することがある。
人混みを避け、紫色の森の中をあてもなく歩いたり、海辺に座って遠くを眺めたりするのだ。
太陽と月が海面から昇り、空には星々が輝く。波の音は耳に心地よく、心海に癒やしを与えた。
時折、貝殻を拾ってはそれを頭の上に乗せ、帰るときに元の場所に戻した。
その貝殻に迷い込んだカニが、そのまま住みつくかもしれない、そんな物語を想像しながら。
時に、心海は水の中に潜り、ひとり穏やかな雰囲気を楽しむ。群れを成して泳ぐ魚が、心の憂いをすべて海底へと沈めてくれるのだ。
心海は海祇島のあらゆる景色を大切にし、すべての人の名前を覚えている。
ただ残念なことに、美しい景色が変わることはなくとも、人の心は複雑で移ろいやすいもの。
戦に勝利することは容易なことだ。しかし、すべての人に幸せで楽しい人生を送ってもらうのは極めて難しいこと。
これもまた、彼女の憂いの一つだろう。


キャラクターストーリー5
心海は幼い頃から読書家だった、特に兵法に関する書物を好んで読んだ。
そのため、心海は豊富な知識を有し、あらゆる分野に精通している。
しかし、そのような兵法書や軍事図鑑に長年浸かってきた結果、心海は人付き合いが苦手になっていた。いつの頃からか、知らない人と接するのは彼女にとって大きな負担になっていたのだ。
現人神になったことで、心海は人付き合いや興味のないこと、苦手なことに向き合わなければならなくなった。
しかし、好きでもないことを無理して行ったことで、彼女の精神力は著しく消耗し、ひどい疲労感に苛まれた。
そこで心海は、自分の中に「エネルギー」という指標を設けた。自分が楽しいと思うことをすればエネルギーが回復し、逆に楽しくないことをすればエネルギーが減少する。
エネルギーがなくなると、心海は現人神の巫女としての仕事を一時中断し、自室に引きこもって、ただの少女に戻るのだ。
兵法の本を読みふけり、忙しない世間から身を引くことで、心海は煩雑な日常から一時的に解放される。
その束の間のひと時こそが、彼女にとって最も大切な休息なのである。


秘密のノート
「支配者の思いの通りに、民は動く。」
この戒めは昔、心海が母から聞いたものだ。
現人神の巫女は海祇島にとって最も重要な意味を持ち、その存在の一挙手一投足は常に人々に見られている。
彼女が好きなものは民間で流行り、嫌いなものは距離を置かれる。
心海は人々の生活に影響を与える事を望んではいない。それゆえ、普段は自分の好き嫌いを公にさらさないようにしている。
彼女はすべての物事に対して平等に接し、「公平公正」と「信賞必罰」を信条としている。
しかし、それは必ずしも彼女の本当の気持ちではない。そのため、彼女は自分だけの秘密の手記を用意した。
その中には彼女の「エネルギー」の変化だけでなく、気分の浮き沈みも記録されている。
夜が深まり、世界が静寂に包まれた後、心海は手記を開き、その日の楽しかったこと、悲しかったこと、残念だったことを書き留めるのだ。
…もちろん、絶対に他人には見られてはいけないものである。


神の目
強い意志を持った指導者は、周囲の人間を明確な方向に導くことができる。
しかし、心海はそのような考えを持ってはいない。彼女は人々の意思を尊重し、それぞれの道を歩んでほしいと願っているのだ。
広大な海が数多の生きとし生ける者とその欲望を受け入れることができるように、心海は自分の定めた規則もそのようにあってほしいと願っている。
目狩り令が下された時、民衆の憤りが反逆の叫びとなり、心海は彼らを率いて反旗を翻した。
そして戦争が終わり、人々の心が平和と安寧を望み始めた今、心海は政治と経済に力を注いでいる。
しかし、この労苦の源となったのは何だったのか。現人神としての意志、または彼女自身の使命感から来たものかもしれない…それとも、その両方か。
現人神の巫女として、当然ながら心海は自分の神の目を所持している。珊瑚宮から海祇島の海を眺めたあの日、その頃から彼女の願いは一度も変わっていない。
「海祇島のすべてを守り、人々が幸せな生活を送れるようにして見せます。」

鹿野院平蔵

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キャラクター詳細
鹿野院平蔵、彼は卓越した才を持つ少年探偵である。
天領奉行に所属しながらも、公権力の「威厳」、「恭しさ」、「厳粛さ」とは相反する印象を与える。
新人の誰よりも愛想がよく、礼儀正しいように見えるが、実際は常識から外れた人物だ。
他の同僚と違って、毎日のように奉行所に顔を出すことはなく、日頃の見回りにもほとんど参加しない。
時に十数日ほど姿を消して、事件現場にだけ顔を出すこともある。彼がいつも浮かべている笑みは、仕事をまじめにやっているのかと疑わしくなるほどだ。
しかし面白いことに、このような「公職が正しい道理に背く」ことは各方面から黙認されているようだ。
だが、同僚は喜んで彼の仕事に協力し、上司も彼の自由気ままな行動にほとんど口を出さない。
その上司のさらに上の立場の人でさえ、「最近、平蔵の調子はどうだ?」と時々気にかけている。
彼のこの独特な立場は、すべて類い稀なる事件処理能力から来ている。
奉行所が珍事件や大事件に直面するたびに、平蔵はいつも重役を任され、最後には解決する。
奉行所の責任者も、彼が持つ捜査の経験に感嘆の声を漏らすほどだ。しかし、平蔵本人はそれに対し、違う考えを持っている。
「経験というのは、人が過去に犯した失敗に使う別名だ。僕の切り札はそんなもんじゃないよ。」
「僕の才能は、生まれ持ってのものなんだ。」


キャラクターストーリー1
天領奉行に入るのは、そう簡単なことではない。能力試験に合格するだけでなく、厳しい身辺調査を通過する必要もあるのだ。
そのため、新人は貴重な財産など重要な情報の申告を求められることが多い。
審査を担当した大和田与力の記憶では、平蔵が入ってきた時の申告書には何も書かれていなかったという。
風薫る朝、大先輩の大和田はその真っ白な申告書と、向かいに座り好奇心から辺りを見回している平蔵を見ながら、意味深な言葉を発した。
「私はこれまで、思想の豊かな若者とたくさん出会ってきましたが、結局、誰一人として奉行所に入ることはできませんでした。」
その言葉を聞いた好奇心旺盛な少年は突如、辺りを見回していた視線を大和田に向け、背筋を正した。
「じゃあ僕みたいな若者はどうなの?」
少年に起きた変化が唐突すぎたからか、鷹のような眼差しで睨まれた大和田は息を呑む。
その瞬間、まるで自分が審査されているかのような不思議な錯覚に陥った。
大和田は緊張をほぐすように、冗談交じりにこう言った。
「天領奉行は貧しい人を拒まないが、申請書に何も書かれていない場合、より注意して審査することになる。」
だがそれに対し、予想をしていなかった沈黙が訪れる。相手は何も言わず、変わらずまっすぐ大和田を見つめていた。
大和田は気分が悪くなり、暑さのせいか額が少しむず痒くなると、手の甲で汗の滴を拭った。
しかし、額には何もない。それはただ拭うだけの動作となった。大和田は乾いた手の甲をぼんやりと見つめた。
すると、向かいにいる少年が突然笑い出す。大和田はそれを目にして、心にあった戸惑いが消え去る。
机の縁に体を預け、片手で顎をさすり、軽くうなずく平蔵。彼は笑みを浮かべながら、大和田を見てこう言った。
「僕が天才であること以外に、申告することはないよ。」


キャラクターストーリー2
天領奉行が平蔵の探偵人生の始まりではない。
それよりも前に、平蔵は「万端珊瑚平蔵探偵所」という自分の事務所を持っていた。
それは、現在稲妻城にある「万端珊瑚探偵所」の前身であり、平蔵と珊瑚が設立したものである。
二人の物語は、互いに信頼する出会いから始まった。だが、残念なことに二人は異なる道を歩むこととなる。
探偵事務所の看板であった平蔵の名声も、協力関係が決裂したことで、当然のように消えてしまった。
そのすべての理由は、概ね「理念の違い」という一言に集約できる。
珊瑚にとって探偵の使命は、何よりも真実を明らかにすることであった。おそらく、ほとんどの探偵がそう思っていることだろう。
しかし、平蔵の考えはそれだけに留まらない。真実の裏には、より大切なものが隠されている可能性がある。
長年、事件の捜査をしてきた経験上、探偵が依頼を受けるということは、何か良くないことが既に起こっているということ。
加害者にいくら罰を課そうとも、誰かが傷ついている事実に変わりはない。
どんなに腕のいい医者であろうと、怪我人を治療した後、平気な顔して「ほら、傷も完璧に治ったし、怪我をしていなかったみたいなものだろ?」と言えないのと同じである。
だが怪我人は、医師や診療所、手術の跡を見るたびに、自分が負った傷のことを思い出してしまう。
暴行はどうして起こったのか?そう医師は無力感を覚える。犯罪はどうして起こったのか?そう探偵は無力感を覚える。
「諸悪の根源を断つことができなければ、僕は悪の天敵となるまで。」
「『鹿野院平蔵』の名は、テイワット中に広まり、世界中の悪人を抑止する力になるだろう。」
「闇に身を委ねた者には、必ず罰が訪れ、安寧を得られないことを理解させる。」
それに気づいた彼は、探偵所を辞めて、天領奉行にやってきた。
これが、「探偵」を目指す彼の原点である。


キャラクターストーリー3
「カツ丼には必ずトンカツが乗っているように、名探偵には助手が付きもの、って小説で読んだんです。」
奉行所内で、新人の上杉が満面の笑みを浮かべながら平蔵に近づいてきた。
「そこで平蔵先輩、僕が助手になるっていうのはどうです?僕って、けっこう賢いんですよ。」
平蔵は、その陽気な新入りの様子を窺いながら微笑み、顎をさすって答えた。
「君はあまり賢くない、僕の直感がそう言ってるよ。」
「え?平蔵先輩の直感が間違ってるんじゃないですか?」
上杉の言葉には、まるで喜劇のオチのような不思議な力があった。その言葉を発した途端、何人もの同僚や大先輩たちが思わず吹き出す。
賢い上杉は、自分が間違ったことを言ったとすぐに理解し、慌ててこう言い繕った。
「つまり…僕らの仕事は、直感だけに頼っていてはいけませんって意味ですよ!」
すると、今度はみんなが大笑いし始める。上杉は何がおかしいのか分からなかったが、ふと「自分は喜劇役者に向いてるのかも」と思った。
平蔵が手を伸ばし、肩の上の埃と気まずさを払う。
「さっきのは冗談だよ。上杉はきっと優秀な同心になれる、僕の直感がそう言ってる。」
「だから時間があったら、自分の助手を探しなよ。」
平蔵はそう言うと、戸惑う上杉と大笑いしている同僚たちを残して、風のように去っていった。
……
「そんなんで、鹿野院同心の助手になれると思ったのか?」
「僕はただ、平蔵先輩に助手がいないから、手伝おうと思っただけですが…」
「助手ならいるに決まってるだろ。あいつは何度も言ってたじゃないか。」
「えっ!?いたんですか?」
「ああ、何度も『直感がこう言ってる…』って言ってただろ。」
「えっと、つまり平蔵先輩の助手は…直感?」
「そう、あいつは直感を頼りに事件を解決するとんでもないやつなんだよ。」


キャラクターストーリー4
仕事の成果を鑑みれば、平蔵は何度も昇進できるほどの実績を残している。
しかし、実際は天領奉行に入ってからずっと、平蔵の役職は同心のままで一度も変わっていない。
それどころか、平蔵の功績のおかげで、同僚や上司の数多くが昇進をしている。
平蔵の従姉妹である鹿野奈々はそれを聞いて、不満を抱いた。
「あなたも大概だけど、天領奉行のやり方ってばあんまりじゃない?」
「あなたよりもずっとひどいわ。ちょっと話をつけに行ってくる。」
平蔵は彼女の性格をよく知っていたため、面倒なことにならないようにと、珍しく事細かに理由を説明したーー
「僕が上のお偉いさんよりも劣ってると思うかい?」
「奉行所の牢屋に行って聞いてみてよ。与力の名前を言える人が、牢屋に何人いると思う?」
平蔵は手の平を開き、それを鹿野奈々に向けると、「せいぜい、この数が精一杯だ」と言った。
鹿野奈々は彼が何を言っているのか理解できず、戸惑いながら「五人?」と聞いた。
「じゃあ、名探偵である僕の名前を言える人は何人いる?」
平蔵は再び手の平を開き前に出すと、今度は手の甲を見せた。「少なくともこの数はいる。」
「また五人?何が違うの?」
すると、平蔵は大笑いしながらこう言った。「毛の本数のことだよ!」
「与力の名を何名も言える犯人なんか、手の平のうぶ毛みたいに、一人もいないよ。」
「僕の名を言える犯人の数は、この毛の本数ほどいるんだ!」
「与力ほどの地位を得ても、僕の名声に勝てはしない。だから、役職に就いたところで何の役にも立たないのさ。」
「犯罪により近いところにいれば、もっと多くの悪党どもに『鹿野院平蔵』という名の恐怖を植え付けられる。それが僕の目指すものなんだ。」
「だから、心配しないで!今までも、これからも、自分の進みたい道から外れはしないよ!」


キャラクターストーリー5
平蔵自身が言うように、天領奉行の牢屋で一番有名なのは、与力でも天領奉行の将領でもなく…小さな同心の「鹿野院平蔵」である。
ここでは雷電将軍の名でさえ、彼と比べればやや霞むという。
何しろ、大物から小物まで、雷電将軍に捕まった賊は誰一人としていないが、「鹿野院平蔵」はその大半と関係しているからだ。
事の発端はこのようなものであったーー
ある日、自惚れた囚人たちが自分の犯罪手口がいかに巧妙であり、官兵たちをどう欺いたか自慢した。まるでそうすると、他の囚人たちから高い評価を得られるかのように。
しかし、なぜそんな巧妙な犯罪であったにも関わらず、尻尾が出てしまったのかを問われると、彼は歯を食いしばりながら自分を捕まえた「探偵」のせいにするほかなかった。
「俺は最善を尽くしたが、相手が悪かったみてぇだ。」
その「探偵」の名声は、徐々に牢屋内に広まっていった。
それからしばらくして、囚人たちが話していると、偶然にも自分を捕まえた「探偵」が「鹿野院平蔵」という同一人物であることが発覚する。そして、状況は一変した。
もし優れた頭脳を持つ犯罪者たちを何人も捕まえてきたのなら、その探偵は相当な凄腕だろう。
しかし、数々の狡猾な犯罪者は皆この探偵によって敗北を喫した。つまり、彼は「凄腕」という言葉だけでは物足りなくなる。
その瞬間、全員の頭にほぼ同じような人物像が浮かんだーー
それは人間に化けた狡猾な神で、陰湿で策士であり、あらゆる人間の心を簡単に見透かすことができる者。
服さえ変えれば、そいつは歴史上、もっとも完璧な犯罪者になれるかもしれない!
これ以上自分の罪を増やしたくなかった者は口をつぐむことを選び、悪意に満ちた者は口では不服を漏らしながらも、内心では怯えていたという。
「彼を敵に回さないほうがいい。もう悪口も言わないでおこう。」
囚人の中でもっとも闘争心に溢れ、攻撃的な者たちでさえ、その探偵と手合わせした経験から、彼を名前では呼ばず、代わりに「嵐」という名で呼ぶようになった。
看守を担当していた同心たちは、「一体、なんのことだ」と思い、「嵐」の意味を尋ねる。すると、囚人は小声でこう漏らした。
「あれは天災だ!犯罪者だけを襲う、天災なんだ!」


武道会優勝メダル
平蔵の考えでは、探偵は頭を使って相手の防御を崩すものである。
常に武力で悪人を裁くとなると、どうしても劣勢に陥る場合があるからだ。そのため、平蔵は日々の仕事の中で、できるだけそれを避けてきた。
そのような背景もあり、奉行所に入った当初の彼の評価は、貧弱な「頭脳派」というものであった。
しかし、奉行所内で行われた自由武道会で、彼は大勢の同僚に痛い目を遭わせることになる。
この自由武道会とは、階級や流派、武器に制限はなく、あらゆる手段で相手を幅五十歩の台から出すことで勝者となる。
「頭脳派」の平蔵は、神の目を使わないだけでなく、武器も持たず、素手で決勝戦に臨んで周囲を驚かせた。
決勝戦の観戦に来ていた将領·九条裟羅は、試合が始まってすぐにその勝敗を見抜いた。
「鹿野院同心の動きは機敏で、その拳はいかなる武器よりも勝る。近接戦闘で彼に対抗するのは困難だ。彼に勝てるのは、熟練した弓の使い手のみだろう。」
結果、鹿野院は相手の左肋骨に十七発も拳を打ち込み、勝者となった。なお、平蔵は刀で髪を少し切り落とされただけである。
しかし、平蔵の優勝が決まろうとしたその時、九条裟羅が自ら台に上がり、横の棚から弓と矢を手に取ると彼に勝負を挑んだ。
会場は騒然とした!大会に参加するのはどちらかというと下っ端の同心たちばかりで、まさか将領が自ら参加するとは誰も想像していなかったのだ。
平蔵は目を細め、九条裟羅を見つめた。元々この大会に参加したのは、腕試しをするのが目的で、知恵だけでは解決できない状況に備えて己の力量を見極めるためであった。
しかし、いざ将領から勝負を申し込まれると、少年特有の負けず嫌いな性格が災いし、彼はあっさりと戦いを引き受けてしまった。会場の空気は一瞬にして熱くなり、皆の顔も真っ赤になる。
「さすがです!平蔵先輩!」と観客席から上杉同心が興奮して叫んでいる。その横で大和田も静かに拳を握りしめていた。
しばらく準備した後、両者は台の上に立つ。ルールはこれまでと少し異なり、どちらも神の目は使わず、先に相手の体に触れたほうが勝ちというものとなった。つまり、幅五十歩の台の上で裟羅の矢と平蔵の拳、どちらが先に命中するかの勝負である。
熱く滾る空気の中、戦いの火蓋が切られた。しかし、強者同士の戦いは一本の矢が放たれるだけで終わってしまう。
裟羅が矢を放つと、五十歩先で平蔵が右手を胸の前で握りしめ、心臓から指二本分のところで、大蛇のように震える矢を受け止めた。
「なんという速度だ、僕の負けだよ。」と平蔵は笑いながら、掴んでいた矢を放り投げる。「かわしきれそうになかったから、手で矢に触れてしまった。」
「私が勝てたのは、このルールが私に味方したからだ。素手で私の矢を受け止められる者はそういない。これが実戦であれば、勝敗は分からなかっただろう。」
九条裟羅は鋭い目で彼を見据えたが、その目には感嘆の念が込められていた。
「鹿野院同心、お前の文武両道な姿には驚いた。少しばかり指導しすれば、必ずや大成するだろう。」
……
半月後、鳴神大社に天領奉行特製の武道会優勝メダルが、手紙を添えて届けられたーー
「姉さん、これは僕が勝ち取った小さな成果だ。時間があったら、おやじのところに持っていってくれ。これでおやじの教えに、少しは応えられたかな。」


神の目
平蔵は、自分の幼少期のことをほとんど語らない。それは、決して幸せなものではなかったからだ。
彼は稲妻の辺境の村で生まれた。父は武道家として少し名を馳せており、一応、名門の家柄である。
しかし、世の反抗期の子供たちと同じように、彼は家業を継ぐことから逃れたいと願いながら、仕方なく父から武術を学んでいた。
そんな状態が、とある祭りで裕福な商家出身の友人ができるまで続いた。
この友人は実に聡明で、よく「家の蔵にあったものだ」と言っては、いろいろな目新しい物を持ってきて平蔵と一緒に遊んだ。
スメールの本、フォンテーヌの不思議なおもちゃなど…これらは、単調になっていた平蔵の生活に大きな安らぎを与えてくれた。
大きくになるにつれて彼らの友情も深まっていったが、平蔵はあることに気づいたーー
友人の服がいつも汚れており、髪もボサボサなのだ。とても金持ちの商人の息子とは思えなかった。
そこで、彼は友人と胸の内を打ち明け合うことにする。それはまるで大人同士の会話みたいであった。
意外にも、友人はすぐに平蔵に嘘をついていたことを認め、贈った物はすべて地元の商会から盗んだものだと告白した。
初めて出会った祭りの時も、平蔵から貴重品を盗むつもりだったそうだ。しかし、いつの間にか仲良くなっていたという。
まるでこれは面白いことかのように、彼は豆を流す如く大笑いしながら話した。
平蔵は怒りを露わにした。だが、自分が何に怒っているのか理解ができない。一番の友人に騙されたからだろうか?それとも、友人が犯罪者だったからだろうか?
平蔵は彼に向かって、「君とはもう仲良くできない!」と声を張り上げた。
激怒した彼は家に帰り、貰った物を一つ一つ探し出して、すべて投げ捨てる。そして、最後に残ったのがある緑の石であった。
これは、二人が小川で釣り上げた一対の「お宝」のうちの片方で、二人が一枚ずつ持っていた。これだけは窃盗品ではなく、二人の友情よりも純粋なものだったかもしれない。
平蔵はそれを見つめ、心を鬼にして窓に向かって投げた。しかし、それは窓の枠に当たって跳ね返り、寝台の下へと転がっていってしまう。
平蔵の苛立ちが収まることはなく、まるで腹に穴があいた蛙のように、床に横になって動かなくなった。
彼は落ち込んで天井を見ながら、いつかこの嫌な思い出を忘れようと自分に言い聞かせた。だが、この世にある嫌なことは、忘れようと思えば思うほど、心に根付くものである。
一年後、その友人と初めて出会った祭りの日に、平蔵はなぜか寝台の下から小石を取り出し、それを握りしめて祭りに行った。
自分でも何を期待していたのか分からない。しかし、運命はすでに答えを用意していた…思いもよらない形で。
平蔵は祭りで再び友人と会ったが、なんと彼は血を流して道端に倒れており、観客も悲鳴をあげていた。
平蔵が到着するその少し前、親友は悪漢に財布を取られそうになっていた。そして二人は口論となり、取り乱した相手が短刀で親友の心臓を突き刺したのだ。
平蔵が親友の怪我を確認するため駆け寄ると、その拍子に手に持っていた石が地面に転がり落ちる。その石を見た親友の目が、一瞬光ったように見えた。
「平蔵…僕に会いに来たのか?」
平蔵は親友の胸元に手を押し当てるも、指の合間から血が流れ続ける。一年前よりも激しい怒りが湧き上がり、親友に向かって平蔵は怒鳴っていた。
「この馬鹿ッ!もういい、喋らないでくれ!」
親友は首を振って、命がけで守っていた財布を必死に開けた。中にはモラなど入っておらず、もう一枚の緑の小石が入っていた。
彼は最後の力を振り絞り、平蔵に石を差し出すと、血に染まった口角を持ち上げ、一年前に別れた時よりも大きな笑みを見せた。
「ぼ…僕も平蔵に会いに来たんだ…」
……
その後、どうやって家に帰ったのか、平蔵は覚えていない。頭の中は完全に真っ白で、あるのは怒りと吐き気のみであった。
その瞬間から、彼はあるものに対して怒りと嫌悪感を抱くようになる。自分とそれは常に敵対する存在であると認識したのだ。
それのせいで友情に偽りが混じり、命を突如終わらせてしまった。それこそが罪悪である。
しかし、それは友人の偽称や窃盗とは異なるもので、ましてや盗人が犯した殺人の罪でもない。もっと抽象的な、より高い段階にある何かであった。
それは、この世に漂うあらゆる罪の集合体であり、空を覆う大きな黒い影のように、美しい世の中を冷たく見下ろし、そしてそれを死に至らしめようとするもの。
一ヶ月後の早朝、平蔵は別れの言葉を残して静かに家を出た。宿敵を見つけた平蔵は、これから戦いの旅に出ることにしたのだ。
今回、彼の旅に同行するのは友情の証であるあの石ではなく、決意に満ちた神の目に変わっていた。

シャルロット

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キャラクター詳細
フォンテーヌ廷では、日々刻々と様々な「物語」が誕生している。
例えば、ロマリタイムハーバーが急に猫の手を借りたいほど忙しくなって、明らかにフォンテーヌ人ではない船員が大勢働いていたこと。ポワソン町の某魚屋が、唐突に一ヶ月間でいつもの三ヶ月分に当たる魚を買い占めたこと。某所の魚が格別美味しいというビラがフォンテーヌ廷に大量に出回ったこと…
凡庸な記者や一般市民は、それらを単独で発生した「物語」としか見ない。海面で絶えずうねる波のようにありふれた、些細な出来事ととらえるのだ。
三流記者たちも波を追いかけながら、その形、方向、流速といった退屈で「表層的な物語」を淡々となぞらえるだけ。
だがシャルロットにとって、これらの波は表層的なものでしかない。彼女が知りたいのは、波がなぜ激しく逆巻くのかといった物語なのだ。
海面を吹き荒れる狂風のせいなのか、タラッタ海底谷の底部の環境が複雑すぎるせいなのか、それともエルトン海溝の深部で微振動が起きているからなのか…
シャルロットはそうした「ディープなニュース」を追い求めていた。
記者は頑固で愚鈍な「記録者」ではなく、機敏で柔軟な「探求者」であるべき。
それがシャルロットの「仕事のモットー」だ。
どうすれば自分自身が「ディープなニュース」に押し流されずに済むか、その点についてはユーフラシア女史や明達な市民の皆さんのお力を拝借するしかなさそうだ。


キャラクターストーリー1
シャルロットは幼い頃からこの世界に強い関心を抱いていた。
春の庭で最初に咲くレインボーローズのひと際美しい花びら。嵐のあと枝葉に覆われた大通りで楽しげに水たまりを踏む子どもたちと、その隣で困ったように笑う家族。砂浜にひっそりたたずむ美しい貝とその下からおずおずと世界をのぞき見る小さなカニ。誕生日に家族と一緒に食べたプクプクシュークリーム。それと…シューの中の色がちょっと濃すぎるクリーム…
他の人の目には、花はただの花であり、貝殻はただの貝殻、甘すぎるシュークリームもただのシュークリームにしか見えないし、世界とはそんなものだ。
でもシャルロットにとっては、視界の端に人知れず潜む「ディテール」こそが世界の全貌を描き出す鍵であった。
野生動物の生態が専門のベテラン記者であるシャルロットの父は、「観察」に興味を持つ娘の才能に気づいた。彼は娘の十歳の誕生日に、特注の「写真機」を贈った。サイズやボタンの位置にまでこだわった写真機は、シャルロットの手にぴったりなじんだ。
「誰もが物事の些細で特別なところに目を向けて観察するわけではない。シャルロット、それはお前の唯一無二の才能だよ。」
——シャルロットの父である「草原の記者」ガラノポロス氏はそう言った。
それからというもの、大きな記者の隣にはいつも小さな記者の姿があった。父娘のコンビはフォンテーヌ廷の街や森、河畔のあちこちに出没しては、大小一台ずつの写真機を手に、数々の美しい光景をフレームに収めた。
優しく厳しいガニュ・プチ夫人は二人の「取材」にしょっちゅう苦言を呈した。でもシャルロットの笑顔を見ると、あきらめた顔で素早く愚痴をひっこめるのが常だった。汚れた服や帽子に関しては、何でも器用にこなすガラノポロス氏に任せきりだった。
シャルロットには世界が巨大な宝の隠し場所に見えた。
そして写真は、彼女だけの宝の地図なのだ。


キャラクターストーリー2
ガラノポロス氏がシャルロットに絶えず言い聞かせている言葉がある。
「写真に力強い美が宿っていれば、誰もそれを無視できない。」
ガラノポロス氏はシャルロットに断りを入れて、自分と彼女が撮影した写真を『スチームバード新聞』に送った。編集者たちは一瞬でその写真——主にシャルロットの撮った写真——に魅了された。彼らはガラノポロス氏の熟練の撮影技術を褒めたたえ、これまでと同様に紙面の目立つ場所にその素晴らしい写真を載せた。
写真が掲載されると、フォンテーヌ写真界に激震が走った。評論家たちは我先に称賛の声を上げ、新聞の切り抜き愛好家は自身のスクラップブックを華やかに彩りたい一心で、せっせと新聞を買い集めた。
評論家と記者仲間がガラノポロス氏の自宅を訪れ、美的センスの磨き方を尋ねようとしたとき…
ベテラン記者はシャルロットをそっと自分の前に押し出し、玄関先できょとんとする人々に静々と告げた。「私にはそんな写真はとても撮れません。それは全部うちの娘の手柄です!」
経験と幅広い見識を備えた紳士淑女たちはまず絶句し、それから驚愕の表情を浮かべた。そして誰からともなくヒソヒソ話を始め、最後には質問を始めた。
シャルロットは目をぱちくりさせて、仰天する大人たちを眺めた。それはまるで突然の嵐に見舞われ、慌てて隠れ場所を探す小さな虫のようだった。彼らは互いに触角を触れ合わせながら、「葉っぱはどこ!ねえ、葉っぱは!」と叫んでいるように見えた。
「はい!皆さん、こちらにご注目!」
幼い声に呼ばれてビクッと反射的に顔を上げた人々の目線の先で、特製の写真機がパシャリと音を立てた。
その刹那、玄関先で眉根を寄せ、口角を上げ、顔を真っ赤にして、髪を振り乱し、腕をぶんぶん振る人々の姿が写真に収められた。その細部が、嵐に遭遇して慌てふためく小さな虫たちの様子を存分に伝えていた。
小さな記者は写真機をぽんと叩き、にっこり笑った。
「この写真のタイトルは…『そんなんじゃダメ!』で決まりね。」


キャラクターストーリー3
シャルロットの卓越した写真技術が評判を呼ぶと、原稿の依頼人、雑誌の編集者、新聞切り抜きの愛好家や父親の記者仲間がひっきりなしに訪ねてきた。その中に『スチームバード新聞』の編集長、ユーフラシア女史がいた。
女史は単刀直入に来意を告げた。シャルロットを「専属記者」として招き、撮影や取材、執筆を任せたいというのだ。
…だが普段は人の好い父親が、「専属記者」の件に関しては断固反対した。彼は娘に心根の腐った、腹に一物ある人々と付き合ってほしくなかったのだ。
「大自然は厳しいが、誠実だ。暴雨は理由もなしに降らないし、猛獣も訳もなく襲ってはこない。」
「だが人間は息をするように嘘をつく。人の顔は写真機で映せても、人の心にピントは合わせられない。」
父は娘の選択を応援したいと思っていた。でもそれ以上に、平凡で幸せな暮らしを送ってほしい、どろどろした人間関係に足を踏み入れてほしくないという思いのほうが強かった。
この世界はシャルロットにとっては宝の隠し場所。お宝の手がかりを記した写真は、彼女の宝の地図だ。
だが彼女は初めて気づいた。その宝の隠し場所の裏には、まだ発見されていない無数の「真実」が渦巻いているのだと。
そうした「真実」は「お宝」ではなく、ほの暗い未練の数々だ。人々はそれらを故意に隠蔽、破棄、偽装して、そこに投げ捨てることで永遠に葬り、それらにまつわる物事に決着をつけようとした。
シャルロットは自分ならそれを発掘して、すべての真実を明らかにできると気づいていた。花園でチューリップの球根を掘り出したり、貝殻からヤドカニを引っ張り出したり、リスの隠した木の実を見つけ出したりするように。
…鳥が山津波を見下ろし、穴ネズミが地震を察知し、魚が津波の到来を感知するように。
彼女は才能という責任を帯びていた。
「真実」を発掘する能力のある者には、その「真実」を世に知らしめる義務がある。
唯一の問題は、彼女に「勇気」があるか否かだ。
両親は沈黙で応えた。彼らはもう娘の決心に気づいていたのだ。立派に成長したシャルロットは鳥のように巣から飛び立つ日を迎えていた。
翌朝ユーフラシア女史が時間通り出社すると、『スチームバード新聞』社の入口に写真機とノートを抱えた準備万端のシャルロットがいた。
「ようこそわが社へ、シャルロットさん。」
ユーフラシア女史は手を差し出してこう言った——
「次のラヴェール賞は、あなただと信じてるわ。」


キャラクターストーリー4
『スチームバード新聞』が出資して創設した「ラヴェール賞」は、フォンテーヌ廷の記者たちが最も価値を置く賞だ。
過去の受賞者には、傑出した記者がずらりと並んでいる。執律庭の苦難の道のりを取材し、未解決事件の真実を暴く過程を詳細に記したイライア女史。海洋生物の生態を撮影するために海辺で数十年暮らし、苦労の末に成功を収めたオブロー氏。また率直な物言いで知られるデューレブクス氏ももちろん受賞者だ。彼は数十年に及ぶ記者人生において、どんな脅しや個人攻撃にも屈することなく記事を書き続けた。
当然フォンテーヌ廷のメディア界に名をはせる天才記者シャルロットも、早々にその仲間入りを果たした。報道の分野で類いまれなる才能を発揮したシャルロットは、数度に渡る連続受賞を成し遂げたのだ。
評論家たちは彼女の記事を手放しで褒めたたえた。曰く、彼女の記事は「他の追随を許さない筆致」、「新鮮この上なき視点」、「疑問の余地なし」、「唯一無二」…
だがシャルロットに幾度も賞が与えられたのは、『スチームバード新聞』と「ラヴェール賞」選考委員会が結託していたからだと非難する者もいた。シャルロットは世間知らずのただの若手記者であり、彼らが名誉や利益のために推挙した操り人形に過ぎない…でなければ、なぜシャルロットが選考委員とあれほど親しいのだと。
だが部外者がどれだけ中傷しようと、シャルロットの才能は疑うべくもなかった。次期「ラヴェール賞」の選考が近づく頃には、彼女は同僚たちから次の受賞を確実視されていた。
彼女は犯罪集団のアジトに単身潜入し、悪徳業者の工場の極秘取材までこなした…幾多の障害や困難を乗り越え、片時も休まず無数の記事を書き上げた。真実を読者に届けたいというその一念で…記者としての素養、筆力、報道姿勢という点から見ても、シャルロットが選考委員の本命視する記者であることに疑いの余地はなかった。
人々は——特に投機家たち——シャルロットがどの記事を選考委員会に提出するか推理した。
その記事が「ラヴェール賞」獲得の足がかりになるはずだ、その記事の掲載紙はきっとプレミア感が増して…金銭的な価値が上がるはずだ、と。
だが誰も予想しなかったことが起きた。シャルロットは、提出するのはすでに掲載済みのどの記事でもなく、完成したばかりの最新記事だと宣言した。そこで史上まれに見る「真実」を明らかにするというのだ。
親愛なる読者の皆さん、どうか明日の『スチームバード新聞』の一面をお楽しみに!


キャラクターストーリー5
「威信はどこに?『ラヴェール賞』選考に不正の疑い」
——それが授賞式当日の『スチームバード新聞』の一面だった。
その中でシャルロットは過去十年間に選考委員会常任委員と組織や個人との間で発生した金銭の授受、不公平な選考基準について詳細に指摘し、被害に遭った記者や報道の内容を具体的に列挙した。
報道が出ると、フォンテーヌ廷は騒然となった。記者が大挙して「ラヴェール賞」選考委員会の所在地に押しかけた。もちろんシャルロットもその中にいた。
写真機のシャッターが山海の鳴動のごとく鳴り響く中、彼女は事前に用意しておいた分厚い質問リストを広げ、呆然とする選考委員たちにそれを掲げて一つひとつ質問した。顔を真っ赤にした選考委員たちはしどろもどろに釈明したが、その説明は穴だらけだった。うろたえた彼らは質問の仕方がルール違反だと言い捨てると、記者たちの前からそそくさと姿を消した。
だがシャルロットの「報道」はまだ始まったばかりだった。
彼女は『スチームバード新聞』に「ラヴェール賞」関連の記事を続けざまに発表した。その矛先は選考委員会と結託する社内の人々にも向けられ、彼らがいかなる手段で利害関係にある記者を推薦したか、その記者からどんな見返りを受け取ったかを詳細に記した…
その記事はフォンテーヌ報道界に大騒動を巻き起こした。激しい糾弾の声を受け、執律庭は「ラヴェール賞」の徹底調査に乗り出した。選考作業を止め、疑惑の受賞者に対する本格的な聞き取り調査を始めたのだ。
シャルロットはその頃、新聞社に仮住まいしていた。彼女との「対話」を望む人々は、ユーフラシア女史によって固く断られた。終いには執律庭が社の入口に警備要員を派遣するほどだった。
シャルロットは誰も触れたがらない巨石を動かし、そこを隠れ蓑にする虫けらどもに強烈な「真相」を突きつけた。
執律庭の調査は三ヶ月で終わった。不正を働いた選考委員、不当な手段で賞を得ようとした記者、私腹を肥やした編集者…卑劣な者たちみな、当然の報いを受けた。
選考委員会も各方面の監督の下、組織を一新した。再編が終わった後、彼らが真っ先に手掛けたのは、威信の失墜した「ラヴェール賞」のトロフィーをシャルロットに贈ることだった。
だが、それはもはやただの鉄屑同然だった。
彼女にとっての真の栄誉は、あの一本の記事——とその後の多数の記事——が「真相」を白日の下にさらしたことである。


「ヴェリテくん」
父親から贈られた写真機は、今も彼女と共にある。
彼女が『スチームバード新聞』の専属記者に本採用された後も、父はその厄介な仕事を嫌ってはいたが、結局は娘の意思を尊重した。
彼は装置と写真機の改造に詳しい友人に、小さな写真機の大幅な改良を依頼した。
たとえばもっと素早くカバーを取り外せたら、シャルロットは片手で簡単にフィルムを取り換えられる。また写真機の筐体が防水防火、耐爆耐衝撃なら、激しい衝撃を受けて外部構造が全壊しても筐体内部の写真には傷一つつかない…
最初は「その必要はないだろう…」と苦笑していた友人も、父親の粘りに負けて写真機に高性能の拡声器を取り付けた。起動するだけで、大きな警告音が鳴る仕組みだ。さらに側面には鋭利なナイフを隠した収納部があり、ボタンを押すだけで強力なバネがナイフを超高速で弾き出す構造になっていた…
そのうえ「スローシャッター機能」、「オートフォーカス装置」も追加された…
父は思いやりと無数の装置を搭載して、写真機を娘同様に全幅の信頼に値するこの世でたった一つの…スーパー写真機に仕立てあげた。
改造が終わったその日、シャルロットは写真機に「ヴェリテ」という新たな名を授けた。
その意味は——「真実」である。


神の目
「神の目」については、シャルロット自身もいつそれを手に入れたのかはっきりと言えない。
先日、水中作業員の待遇に関する新たな記事を書くために、潜水士を大勢雇用しているドーランダー社長を取材した。そのでっぷりと太った社長は真実を話すつもりなどハナからないのか、あらゆる質問を適当に受け流し、その場しのぎの回答に終始した。彼の雇用する潜水士たちも何も語ろうとはしなかった。
長期間の潜水による肺や鼓膜の深刻な損傷、過重労働による疲労の蓄積、ズタボロの潜水服や喉を通らない食事…だがドーランダーの前では、誰もが口を閉ざした。ドーランダーは収穫ゼロのシャルロットを見て、勝ったとばかりにほくそ笑んだ。
翌日、シャルロットはコネを使って潜水服を手に入れ、密かに業務中の潜水士に近づき、労働者酷使の実態を写真に収めた。そこは巨大な海底地溝で、フォンテーヌ廷の潜水規則では作業が厳禁とされる場所だ。
それから彼女はぷつりと消息を絶った。『スチームバード新聞』の記者に分かるのは、執律庭の警察隊員たちが社に出入りしているということだけだった。ユーフラシア女史は珍しく不安な顔を見せ、毎晩遅くまで社内に待機していた。
ある記者は、古びた格好をした人が全身ずぶ濡れで社の入口にうずくまって震えているのを見たと証言した。
またある記者は先日のタラッタ海底谷大地震の際、ドーランダーという人物の雇った潜水士がそこで引き揚げ作業をしていて、危うく誰かをケガさせるところだったと語った。
さらにある記者は、ドーランダーという人物が写真機の捜索に密かに懸賞金をかけていると話した。そこに彼にとって極めて重要な写真が収められているというのだ。
だがいずれにせよ、シャルロットはまだ姿を見せなかった。
しかし、記者がやられっぱなしでいるはずがない。『スチームバード新聞』の記者たちは秘密裏に行動を開始した。ある者は人脈を駆使してドーランダーの商売を探り、またある者は人知れず潜水士たちを尾行し、さらにある者は自らのペンで遠回しにドーランダーを非難した…
『スチームバード新聞』の目覚ましい働きにより、ドーランダーの労働者酷使の実態を報じる記事が完成した。
だが、その記事には証拠写真がなかった。記者たちが頭を悩ませていたその時…
新聞社のドアが突然バタンと開き、ぼろきれを身にまとい、モノクルや靴を失くしたシャルロットが大股で入ってきた。彼女は胸元に抱えた「ヴェリテくん」を机に置くと、笑って言った。
「写真ならここにあります!」
彼女に何があったか尋ねる者はいなかった。全員が申し合わせたように仕事を再開し、写真を一枚一枚記事に配置した。
翌日の『スチームバード新聞』にて、「ドーランダー、水中の守銭奴」と一面で報じられる予定だ。確かな証拠を元に不適正な雇用、給与のピンハネ、従業員の健康被害といった劣悪な雇用実態を指摘している。その記事には「スチームバード新聞記者」という署名が入っていた。
新聞発行の前夜、シャルロットはいつも通り、印刷所で最終校正をしていた。
最後の文字を確認し終え、原稿を閉じた時、彼女の手元にはアイスブルーの「神の目」が端座していた。
シャルロットはそれをまじまじと眺め、諦めたようにつぶやいた。
「…まあ、このことは記事にしないでおこう。」

香菱

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キャラクター詳細
「はいはい、豚肉の油炒め!それと、『モラミート』、それから特製大根の揚げ団子。」
璃月には「チ虎岩」という場所があり、「チ虎岩」には「万民堂」という食堂がある。
この賑わう街で目的地にたどり着くには神経を全集中して進まなければならない。
初めてここを訪れる旅人は少しでも気を緩めるとすぐに料理の匂いに釣られてしまう。
または騒音に気を取られ、思わず店の中を見てしまう。
そう、香菱はこの「万民堂」のホールスタッフ兼シェフ、
そして今の彼女は客に出来たての料理を運んでいる。
「空いてる場所に座って!メニューにないものでも作れるからいつでも言って!」
「万民堂」で働くスタッフにとって、相手が「万民堂」の常連かどうかを判断する方法は顔を見る他にもう一つ。それは店に入った後の一言目だ。
メニューを見ずに直接注文するのは少なくとも数回は来ている。
そして「香菱は今日いるのか?」と聞いてくる客は常連客で間違いないのだ。


キャラクターストーリー1
香菱がこれまでに壊した鍋は数えきれない。炎スライムの高温で溶けてしまったものもあれば、霧氷花の急速冷却に耐えきれず、ひび割れたものもある。爆発した後、変り果てた姿になったものも。
この凄惨さを目の当たりにしたことで、香菱の父親も娘に「キッチン出入り禁止令」を出すべきか考えに考えた。
「元々そそっかしい子だからな。それにあの子は溢れんばかりの想像力で、なにか『創作料理』を思いつくとすぐに作ろうとしてしまう。だがそれは決して悪いことではない」……父親はそう自分を慰めることにした。
こうして、「万民堂」の帳簿に鍋購入という項目が増えていくのだ。


キャラクターストーリー2
「料理にはたくさんコツがあるが、一番大事なコツは、料理を愛する心だ。」
香菱が料理を勉強すると決めた時、彼女の父親は自分が心血を注いだ「レシピノート」を彼女に渡した。ノートの扉ページには、その言葉がかかれていた。
見る人によれば、古臭いと文句を言うかもしれないが、香菱はその言葉を今でも大切にしている。
この信念があるからこそ、父親は「璃菜」と「月菜」の派閥の中で、今日までやり遂げたのだと香菱は考えていたのだ。
しかしある時、二つの菜系の闘争は白熱し、たくさんの食堂が圧力をかけられた。もちろん、「万民堂」も例外ではない。
「美食に身分の区別はないはずだよ!」
松茸やカニなどの貴重な食材が独占されるのを見て、香菱は怒りを感じた。
そして彼女が行き着いた怒りを表現する方法は「万民堂」のシェフになることだった。
父の下で自分がこの状況を変えるのだ。
「どんな食材でも、絶品料理を作ってみせるんだから!」


キャラクターストーリー3
香菱の活躍は、絶雲の間のヒルチャールにとっては災難かもしれない。例えば、目覚めると戦闘用の木棒がなくなっているなど。
もちろん、荻花洲の花や草にも同じ不幸が降りかかる。
彼らの協力のおかげで「丘々木の焼き魚」、「馬尾もち米肉」などのレシピが生まれた。
先人たちが残したレシピを使うだけでは、新しい料理は作り出せない。常識を破って、自分だけのレシピを見つけないと。
やがて、香菱はようやく色も香りも味も自信作といえる「特製鳥肉の和え物」を作り出したが、試食した父親を二日も寝込ませてしまった。
「ミントの葉っぱと清心花を一緒に食べると、腹を下す可能性がある…」
こうして、香菱のノートには貴重な情報が一つ増えた。
自分もたくさん食べたけど、なんで何ともなかったんだろう。香菱は少し申し訳ない気持ちになった。
それが香菱の生まれ持った体質なのか、それとも食べすぎて耐性がついたのか、誰も知らない。


キャラクターストーリー4
いつも香菱のそばにいる「謎の生物」について、客人たちから尋ねられる度に、香菱はこの話を彼らに教える。
あの日は大雨が降っていた。突如として降り始めた雨の中、それでも「琉璃袋」を求めた香菱は歩き続けていた。だが、疲れと空腹のあまり、おぼろげな頭で洞窟に入った。
洞窟の中には祠があった。祠のそばに座った彼女は、カバンからピリ辛蒸し饅頭を二つ取り出した。
一つを勢いよく平らげた後、少し休もうと思った彼女は、もう一つの蒸し饅頭を祠の前に置いて、そのまま眠ってしまった。
目覚めた時、置いてあったピリ辛蒸し饅頭は消え、代わりに「謎の生物」がすぐそばで彼女を見つめていた。
「美味しかった?」
謎の生物は頷いた。
「まだいる?」香菱がカバンから干し肉を取り出した。
謎の生物は頷いた。
こうして、香菱に新しい友達ができた。香菱の料理を気に入ったのか、香菱がどこに行っても彼女の後ろについてくる。
香菱は自分の大好物───「グゥオパァー」でその子の名前をつけた。


キャラクターストーリー5
璃月の様々な食材を食べたことで、香菱の料理の技術は目覚ましい進歩を遂げた。彼女の作った「激辛料理」は、二十数年料理人として働いた父親も褒めずにいられなかった。
唐辛子を思い切り使った上で、フルーツやハーブで香りを付け、独特な味を実現したのだ。油と香りに重きを置く璃菜と、新鮮な魚介を使う月菜の特徴を融合した「黒背スズキの唐辛子煮込み」はこうして「万民堂」の看板メニューになった。
香菱のレシピをこっそり真似ようとした人もいたが、その味を再現することはできなかった。
「新鮮な琉璃袋を蜜で一晩漬け、次の日に粉状にして料理に入れるとより香りが立つ。」
これは何回もお腹を下し、何回も膝を岩にぶつけかすり傷を作り、そしていくつもの鍋を犠牲にして得られた――香菱だけのレシピなのである。


香菱の地図
このテイワットの地図には香菱が行った場所とこれから行く場所が書かれている。
「孤雲閣の浅海の貝類がすごくおいしい。怪獣が出没するという噂も?」
「怪獣のお肉は美味しい。今度は北斗姉さんを連れて行く。卵をかけて蒸し焼きにすると、さらに美味しくなるかな」
「モンドに龍がいる?よし!3日分の保存食が用意できたら出発だ。」
「ヴァルベリー甘い!ここにいっぱいあるね。今度かごを持ってくる。木を丸ごと持ち帰りにしようか。」
「このモンドのレストランが出す松茸のバター焼きは贅沢すぎるよ!松茸だけを売ってくれたらいいな。松茸の絶雲の唐辛子炒め、絶対美味しいよね。いっそうのこと明日、厨房を貸し切って作ってみる」
「龍はどこだろう、場所は合ってるのかな?」
……


神の目
「どんな食材でも美味しい料理にする。」
この信念を貫いた香菱は「神の目」に認可された。彼女は全身全霊でずっとこの理想を徹底している。例え作った料理が「恐怖」級と言われても、彼女は動揺せずに様々な組み合わせを何度も試す。
「ぐっ…この清心の花とトカゲの炒めはちょっとまずいかも・・・今度からトカゲは岩焼きにしよう」
「スライム炒飯は良くも悪くもない。今度はスライムとキノコ炒めにする」
「魔神大乱闘」のような味に耐えられなかった友達に、やめようと遠回しに言われても、香菱の頭は、どうすればこの「特殊食材」を美味しくする方法しか考えていない。
単純で執念深い香菱にとって、毒がない限り、「食材」は皆平等だから。
彼女の「神の目」が正にその証明――神でさえもそれを認めているのだ。

シュヴルーズ

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キャラクター詳細
法律が完備されている——というよりも、いっそ複雑なほどの——フォンテーヌ廷には、よそから来た観光客が訝しがるような法律や条例が数多くある。
例を挙げれば、クリームフルーツタルトをまだ温まっていない皿の上に直接置いてはいけない、飲み終わっていないフォンタを道の真ん中にわざと置いてはいけない、ペットの猫の爪を切り忘れてはいけない、といったものである…
このような状況では、法律に違反してしまうことは避けられない。一方、フォンテーヌ人はこれらを熟知しており、彼らは法律違反の取り締まりに来た者の身分から事態の深刻さを判断し、次に何をすべきか決めるのだという。
やってきたのがただの店員ならば、簡単な議論だけで済むはずなので、野次馬になるのも悪くない。ただし、やってきたのが制服姿の共律官ならば、周囲の人々まで煩わしい小言を浴びせられるハメになるため、急いでその場を離れるのが得策だ。そしてやってきたのが執律庭の警察隊員ならば、その問題に関わった者は苦しむことになり、違反金などの支払い義務が発生する可能性もあるため、ただちに自身が違反行為とは無関係であることをはっきりさせるべきだろう。
だが、もしもやってきたのが帽子をかぶり、銃を背負った特巡隊隊長のシュヴルーズと隊員たちであったならば…
それは、悪人が暴力行為をもって逮捕に抵抗したか、あるいは凶悪犯が人質を取ったか…とにかく、そのように悪質な事件が発生している事を意味する。そんなときに取るべき唯一の行動は、特巡隊隊員の誘導に従って速やかにその場を離れ、「強行犯処理係」の行動を邪魔しないよう、十分な空間を作ることだ。また、好奇心は心の奥にしまっておくべきである。どこかに隠れて、近くから特巡隊の公務執行を見物しようなどと思ってはいけない。たとえ取材がしたくても、事件の処理が完了するまでは待ったほうがよい。
何よりも覚えておいてほしいのは、不安や恐れを感じる必要はないということだ。
なぜなら、シュヴルーズ隊長が現れた時点で、凶悪犯が法の網から逃げおおせることなど不可能——これは、フォンテーヌ人ならば誰もが知っていることだからだ。


キャラクターストーリー1
「これ以上いたずらしたら、特巡隊に連れて行かれるぞ!」
フォンテーヌの親たちは、悪さをした子供を叱る時、よくこのような文句から始める。
そんな風に両親から「脅されて」育った子供たちも、長じると、歯磨きをサボったり、寝坊したり、窓を割ったり、ケーキを盗み食いしたりした子のために特巡隊が出動することはないと気づく。それでも彼らは、現特巡隊隊長のシュヴルーズを見ると、思わず姿勢を正し、視線をそらしてしまう。そして本能的に両手を握りしめながら、自分が捕まるようなことをしたのではないかと恐れるのだ…たとえ、罪を犯した記憶がなかったとしても。優秀な警察隊員たちが犯罪撲滅を担う尊敬すべき善良な者たちであることを知っていてもなお、彼らは身をすくめてしまう…
こうした「轟く不吉な名」については、特巡隊内部からも溜め息が漏れる。かつてある者は、こうした「不吉な名」が広まれば、特巡隊のイメージが悪くなると考え、シュヴルーズに次のように進言した——執律庭所属の厳然たる法執行機関である我が隊が過激な行動も辞さず、法的な強硬手段を取るのは、相対する罪人がいずれ劣らぬ極悪人ぞろいだからであり、特巡隊の名前を使って子供を脅すなど、もってのほか…
いっそ、『スチームバード新聞』に隊長のインタビュー記事を載せてもらうよう、依頼してみてはどうか…「特巡隊は凶悪犯罪に対処するための単なる法執行機関であり、そのすべての行動はフォンテーヌ廷の平和と安全を維持するためのものであって、正当な理由もなく市民を困らせることなどない」…そう、隊長自ら強調すべきである——
しかしシュヴルーズはこの提案を却下した。
「その名声が人心に深く刻まれ、一生忘れられないものになれば、人々は道を踏み外しかけた時に特巡隊の『不吉な名』に怯え、尻込みするだろう。」
「…そうすれば、彼らを捕まえる日が訪れずに済むだろうからな。」


キャラクターストーリー2
フォンテーヌにおける法の拘束力を担保する重要部門、「フォンテーヌ廷大執律庭」は厳粛な組織である。この組織に関わる法の執行者たちはみな、厳しい審査と教育を受けることとなる。彼らの発する一言一句が執律庭、ひいてはフォンテーヌ廷の法律を代表することになるからだ。決して間違いは許されない。
しかし、「フォンテーヌ廷特巡隊」のやり方は、他の法執行機関とはまったく異なったものだ。特巡隊は隊員に制式武器の使用を強制せず、非公式の場で制服着用を求めることもない…さらに、シュヴルーズが特巡隊を引き継いでからは、隊の全員が銃を法執行の武器の一つとしてみなすようになり、ついには警備ロボとの共同任務を拒否する者まで現れた。微動だにしないロボは銃使用の妨げとなるうえ、凶悪犯に支配権を奪われ、反撃の材料にされてしまうリスクもあるからだ。また、人材選抜においても、特巡隊は誇りを奪われた罪人の子孫を受け入れ始めた…
一刻も早い凶悪事件解決のために、執律庭はこの状況を容認し、特巡隊やシュヴルーズに対しても忍耐強く接している。だが、そんな執律庭にもどうしても許せないことがある。それはシュヴルーズが凶悪事件の処理を取り仕切るとき、重罪人を「特別顧問」として捜査に当たらせることだ。
シュヴルーズがそのやり方に固執するのは、いち早く犯人を逮捕したいという一念があるからだ。しかし同僚の中には、「犯罪者に犯罪者逮捕への協力を求めるのはフォンテーヌの法律や法の執行者全員を侮辱する行為であり、このままでは執律庭や法の尊厳が失われてしまう」と考える者もいた。
そうした疑問に対して、シュヴルーズは平生通り簡潔に答えた。
「凶悪犯を野放しにしておくことこそ、法への最大の侮辱。」
「執律庭の『尊厳』など、フォンテーヌ廷の安寧に比べれば取るに足らないものだ。」
それは彼女の父親の教えでもある。


キャラクターストーリー3
「ドナテッロ氏は誠実な法の執行者だ。」
——シュヴルーズは自身の父親を、いつもそう端的に評価する。それは、幼少期の彼女が父親に対して抱いた、たった二つの印象のうちの一つでもある。
ドナテッロは常に多忙だった。毎日朝早く出かけて、夜に疲れた様子で帰ってくると、母親とシュヴルーズにハグをして、帰宅を待ちわびていた二人に優しく謝った。帰りが特に遅くなったときには、シュヴルーズにちょっとしたスイーツを持って帰ってきてくれたものだ。しかし、残念ながらシュヴルーズはとっくに歯磨きを済ませていて、もう甘いものを食べてはいけないのだった。
母親は毎回、貴重なプレゼントが夜の間に悪くなってしまうのを気にして、小さなシュヴルーズにスイーツの生クリームを少しだけ舐めるのを許すと、それをコーヒーと一緒に父親の寝室に運んだ。
そんな時、父親は決まって写真と画鋲で埋め尽くされた壁の前で、ぼんやりしたり、歩き回ったり、タバコを吸ったり、髪をかき乱したりしていた。時には拳を振り上げることもあった。しかし、やがてそれをそっと下ろし、力なく机を叩くのだった…シュヴルーズはそれをドアの外からそっと盗み見ていた…
街中で父親の姿を見かけることがあれば、シュヴルーズは興奮して手を振った。多くの場合、彼は微笑みを返すと、すぐにまた忙しい仕事に戻っていってしまった。
「誠実で良い人。」
母や隣人、同僚、さらには近所の子供たちまでもが、父をそう評した。
しかし常日頃から父を誠実だと褒めていた同僚たちが、ある日突然シュヴルーズの家を訪ねてきた。
母親はなす術もなく、家中を歩き回る彼らを見つめるばかりであった。シュヴルーズは自分の部屋にいたが、外から聞こえてくる口論の内容からおぼろげに事情を察した。どうやら父は、それまで彼自身が捕えてきたはずの「罪人」となり、今まさに審判の時を待っているらしい…メロピデ要塞に送られる可能性も、大いにあるようだ。
「パパは…悪いことをしたの?」
彼女は近くにいた見知らぬ大人たちに尋ねた。相手は少しの間すすり泣くと、こう答えた——
「…それでも彼は誠実な法の執行者だよ。」
誠実な罪人。
それが幼いシュヴルーズが父に対して抱いた、二つ目の印象だった。


キャラクターストーリー4
たとえフォンテーヌ廷きっての小説家に頼んだとしても、子供に説明するのは難しいだろう、ということは存在する。例えば、なぜあらゆる証拠が罪をはっきりと指し示しているにもかかわらず、容疑者になかなか判決が下りないのか。なぜ罪なき法の執行者が濡れ衣を着せられた時、誰もが沈黙を貫いたのか。なぜ犯行を目撃しているはずの人々は、真相を明かそうとしないのか。そして、なぜ無実の罪を着せられた者が正義を実現するために、自身の前途や名誉を犠牲にせねばならなかったのか…ということだ。
さらに名状しがたいのが、なぜ正義を貫くために、犯罪をその拠り所にせねばならなかったのかということである。
しかし、より切実なものとしてシュヴルーズに迫ったのは、母親と共に「サーンドル河」に転居した後、暮らしが激変したことだった。
狭い家、さして美味しくはない食事、二度と連絡の取れない友人たち、日に日に疲労の色を濃くしていく母親…父親の同僚たちは、しょっちゅう私服で色々なものを届けに来てくれた。彼らは母に、皆こぞってドナテッロ氏のために陳情しているのだと話した。ドナテッロ氏が法を犯したのは明らかで、法的な減刑は望めない。それでも、せめて彼を厳しい尋問から守りたい…その一心で、警察隊や特巡隊の隊員だけでなく、彼らと顔見知りの共律官までが幾人か加わって、共に嘆願してくれているようだった。しかし、それでも母の表情が晴れることはなかった。
母の面倒を見なければならない。そう思ったシュヴルーズは、幼い子供には不似合いな責任を迷わず背負うことにした。そして「サーンドル河」のほの暗い流れの中に、自ら身を投じたのだ。
噂を聞きつけたのか、あるいは過去に誠実だったという彼女の父親の世話になったことがあったのか——「サーンドル河」では多くの住民がシュヴルーズに救いの手を差し伸べた。親切な店主は彼女に仕事を与えてくれ、隣人夫婦は体の弱い母親の面倒を見ると申し出てくれた。
子供たちは、警察隊員の子が「サーンドル河」に来たと聞いて、まるで裁判官を見つけた原告や被告のように、未解決のもめ事の処理を彼女に丸投げした。
「シュヴルーズ、絶対に正義を貫けよ!」
子供たちは声を合わせてそう叫ぶと、一斉に大笑いした。皆、本気でシュヴルーズに善悪の判断をさせたいわけではなく、子供同士の単なる遊びのつもりだった。
しかし翌日、シュヴルーズは分厚い法律の資料を抱えて子供たちの前にふたたび現れた。そして、けらけら笑う子供たちを前に、まっさらなノートの一ページ目を開き、まじめな口調でこう告げた。
「それではまず、双方の証拠を提出してください。」
こうして「サーンドル河」の一員に、小さな法の執行者が加わった。しかし地上の法の執行者と異なっていたのは、シュヴルーズが自身の下した裁決の監督や執行までを、己一人で担当していた点だ。
彼女は「サーンドル河」で様々な手段を学びつつ、「正義」を徹底的に貫く術を身につけたのだった。


キャラクターストーリー5
「…さて、シュヴルーズさん。本廷の調査によれば、あなたの父親は警察隊の規則を破り、重大事件の情報を漏えいした罪で、メロピデ要塞に送られました。」
「その後、あなたは母親と共に『サーンドル河』に転居した…父親の罪名と『サーンドル河』在住時の経歴を、本廷に対して補足説明してください」
「『サーンドル河』居住中の経歴について、次の通りご説明します…」
法を犯して牢獄行きとなった父親のドナテッロのこと、困窮してやむを得ず「サーンドル河」に転居したこと、「罪人の子」であるが故に執律庭で働けず、特巡隊で犯罪撲滅を続ける選択をしたこと…
特巡隊隊長になるための審査で、シュヴルーズは毎回同じ原稿を読み上げた。刑期を終えて特巡隊に職を得たドナテッロ氏も、原稿に誤りや見落としがないか、何度も確かめた。
職を追われてからかなりの月日が経っていたが、彼は今でも執律庭の考え方というものをよく理解していた。シュヴルーズがスムーズに特巡隊隊長に就任するためには、執律庭のお偉方に「聞こえのいい」説明を用意し、はっきりとした確信を——かつ「一定の余地」を——与えたうえで、任命について公表させるのが一番だ。
シュヴルーズはもはや子供ではないため、当然理解していた。父親が重大事件の情報を漏えいしたのは、記者たちの好奇心を利用して容疑者に関する捜査を進めたかったからだ。「サーンドル河」に移り住んでからも、執律庭の隊員たち、そしてさらには長官までもが密かに援助してくれたお陰で、実のところ、さほど生活に困ることはなかった。しかも特巡隊の長官や同僚たちは下準備をしたうえで、隊にシュヴルーズを招いて実習を受けさせてくれ、早く仕事になじめるようにしてくれた…
しかし、それを口にしたところで、シュヴルーズの特巡隊隊長就任には役立たない。
ドナテッロ氏は娘が自分の背中を追うことに、依然として不安があるようだったが、シュヴルーズはすでに彼が用意した訓練をすべて終えていた。わざと難しく設定していたテストも、彼女は全力で乗り越えた。
シュヴルーズが冬の凍てつく海を必死に泳いでいる間、ドナテッロ氏は一生分ともいえる忍耐力でその場に留まり、幼い娘を抱きしめたい衝動に耐えた。そして、シュヴルーズが震えながら自分の元へと泳ぎ着いた時、ドナテッロ氏はついに気がついた——娘は自分よりも強く、「正義」を貫くのに向いている…と。
だが、そんなことはもう、「サーンドル河」の流れに残していくのがいい。
彼ら父娘は冬の冷たい海を泳ぎ切り、今まさに前進の時を迎えているのだから。
「…父が警察隊の規則に反し、罪を犯したのは確かです。審理に誤りはありません。」
最後に罪状を陳述し、シュヴルーズは原稿を閉じた。
正義は必ずや、予定通りその座につくことだろう。


特巡隊弐型制式銃
初期型と比べて改良された特巡隊の制式銃は、人の肩周りの構造に基づいて銃床のデザインが調整されており、銃身も長くなっている。一部の特殊な弐型制式銃にはさらに、銃本体と銃身の下に多機能ガイドレールが備えられている。このレール上にはスコープ、グレネードランチャー、発煙弾発射器、ソニックブーム発生器、近接武器を含めた各種戦闘装備などが取り付け可能で、あらゆるケースの戦闘任務に対応できるのだ。
しかし、銃の改良によって隊員の戦闘力を高めると同時に、シュヴルーズは銃器使用スキルに関する審査基準をさらに厳しくし、素手での格闘といった銃とは無関係の審査項目を多く加えた。
「特巡隊の目的は凶悪犯を捕まえることだ!銃を持ち歩き、見せびらかすことではない!」
「銃が無かったら、まさかお前たちは任務遂行を拒否するつもりなのか?」
そうして、弐型制式銃のおかげで全隊の訓練量は再び大幅に増えた。
もちろん、シュヴルーズはすべての訓練プログラムを完璧にクリアしている。
鉄人然として訓練場の中央に佇む隊長を見て、隊員たちは口を揃えてこう言った。
「隊長、もう勘弁してください——」


神の目
特巡隊隊長のシュヴルーズが、「神の目」を手に入れた経緯を進んで人々に話すことはあまりない。対外的には、「特巡隊の権限は法律と正義に基づくものであり、神の目の強調は誤解を招くことにもなりかねず…また法律の威厳を保つためにも、あまり多くは語らないほうがいい」というのがその理由だとされている。
しかし、シュヴルーズ隊長のことをよく知る隊員たちは、彼女にとって「神の目」とはむしろ重荷に近いものだということを知っている。
特巡隊に入ってからというもの、彼女は生まれつきの才能と超人的な根性で一連の訓練をすべてクリアし、特巡隊の行動規範や法執行に関連する条例をすべて暗記した。そうして彼女は、その代の紛うことなき最優秀隊員となった。その「正義」を追求する姿勢も相まって、彼女は多くの隊員たちからますます尊敬された。
しかし、当時の指導役であった副隊長グリゼッティはそうではなかった。任務で出動するとき、彼は決してシュヴルーズを抜擢しなかった。隊員たちは、それを「シュヴルーズを守るための決断」であると推測した。彼は以前からシュヴルーズの父ドナテッロ氏と親交が深く、よくシュヴルーズの面倒を見ていたという。それに、シュヴルーズのほうも彼を「おじさん」と呼んでいたというではないか。あるいは、シュヴルーズを育成して、彼女をより重要な仕事に就かせる心算かとも思われた。
一方、シュヴルーズはそのようには考えていなかった。任務執行メンバーの選に漏れること六回、ついに我慢の限界が来たシュヴルーズは、グリゼッティおじさんに、なぜ自分を任務に行かせないのかと尋ねた。
「君はまだ準備ができていない。」
平生はとても話しやすいグリゼッティは、そう答えた。
「理念を見つめ直しなさい、シュヴルーズ。君の理解する正義が『目には目を、歯には歯を』に過ぎないならば、ここを出たほうがいい。ここは私刑の場ではなく正義の声を上げる場なのだから。」
その時のシュヴルーズには彼の言葉が理解できず、一体いつ自分の準備が整うのかも見当がつかなかった。それを理解するには一生かかるのかもしれない。しかし…次の瞬間にすぐ準備を整えなければならないということもある…
ある緊急の追跡作戦において、人員不足のために、グリゼッティはやむを得ずシュヴルーズを隊に参加させた。彼はシュヴルーズに何度も言い聞かせた——自分のそばから絶対に離れないこと、行動するときは必ず指揮に従うこと、その場の衝動で勝手に動かないこと…その後、隊員たちは激しい雨風の中を分かれて行動し、凶悪犯たちの行く手を阻んだ。
シュヴルーズとグリゼッティは共に低木の陰に身を潜めていたが、凶悪犯たちはいっこうに現れなかった。だが…二人が情報に誤りがあると判断してその場をそっと離れようとした、その瞬間——奇襲があり、グリゼッティは撃たれてしまった。もちろん、シュヴルーズはすぐさま直前の銃撃で光が見えた位置から相手の居場所を特定し、正確な狙撃によって凶悪犯を制圧した。しかし、「グリゼッティおじさん」は二度と起き上がらなかった。
残されたのはシュヴルーズと凶悪犯の二人だけ。風雨は、銃声を覆い隠してくれるだろう。特巡隊は…もしかすると、隊員を殺害した凶悪犯が撃ち殺された理由を、詳しく調査しないかもしれない。
さらに重要なのは、彼を殺した犯人が目の前にいるということだ。正義を貫きたいと思うのなら、今しかないのだ。彼女は銃口を上げて凶悪犯の眉間を狙い…それから銃を下ろした。
特巡隊は正義のために声を上げる存在に過ぎず、真の「正義」を下すことができるのは法廷だけなのだ。もしかすると、これこそがシュヴルーズが特巡隊の隊員となるために整えるべき「準備」だったのかもしれない。
「…私はフォンテーヌ廷の特巡隊だ。お前を逮捕する。」
シュヴルーズはそう宣告しただけであったが、凶悪犯はためらうことなく体を跳ね上げ、よろめきながら逃げ去ろうとした。銃声が響いた。凶悪犯の右足に弾が命中する。彼は大声で口汚く喚き散らしながらのたうち回り…駆けつけた他の隊員たちの前に転び出た。
法における「正義」は法廷のみが決められることだが、シュヴルーズにとっての「正義」は、彼女自身によって完遂された。
シュヴルーズは銃を完全に下ろした。その時の彼女はまだ、銃床に「神の目」が宿ったことに、まだ気づいていなかった。
それは風雨の中で青白い輝きを放ち、未だ明かされぬ正義のように、仄暗い光をたたえていた。

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キャラクター詳細
見た目は少年ではあるが、魈の実年齢はすでに2000歳を超えている。
だが、見た目で彼を見下す者はいない。彼が只者ではないと、誰もが肌で感じ取れるからである。
──危険、無口、刃のような鋭い眼差し。
世代も声望も仙人の中では上位であるが、人間の間での名声はあまり高くないようだ。
なにせ、彼は幸福や金運をもたらすような仙人ではない上に、絶雲の間で暮らす仙道の秘密を象徴する衆仙でもない。
仙力を使う魈を見た人物がいるというのなら、おそらくその人は生と死の瀬戸際に立たされ、極めて危険な状態だったのだろう。
それは決して、魈が人に危害を加えているわけではなく──魈がいつも璃月の灯りを呑み込まんとする闇と戦っているからだ。一般人がその戦闘を目撃したのなら多少の影響を受けるのは避けられないだろう。
もちろん、それは口封じを理由に殺されるような秘密ではない。


キャラクターストーリー1
魈は一体何と戦っているか?
真相を婉曲的に表現するのであれば、過去の憎しみ、実現できなかった願望、敗者の嘆きと言えるだろう。
直接的な言い方をすれば、七神制度が確立される前の「魔神戦争」の中で敗れた魔神の残滓だ。
それらはモラクスに敗れ、様々な盤石の下に鎮圧された。
しかし、魔神というのは不滅の体を持っている。その意識は消えども、力と憎しみは沈泥化し、その穢れが民の暮らしを徐々に侵すのだ。
「靖妖儺舞」――真実を知る璃月の実権者は、魈が戦ってきた幾千の夜をそう呼ぶ。
それらの戦闘には勝者がいない、終わりもない。
魈の戦いに立ち会う人もいなければ、彼に感謝する人もいないのだ。


キャラクターストーリー2
「魈」というのはこの夜叉の真名ではなく、安全のためにと、とある人が付けた偽りの名である。
かつて、若く何も知らなかった彼は魔神に弱点を突かれ、その支配下に置かれた後、あらゆる残虐な行為を強要させられてきた。
彼は数多の人を殺め、理想を踏みにじった――敗者の「夢」を無理やり飲み込むことさえあった。彼は苦しんでいた。しかし、体が思いどおりにならない彼は逃げる術がなかった。
やがて魔神戦争の戦場で、岩神モラクスが夜叉を支配する魔神と出会った。
歴史にはこの戦争の勝敗が記されている。
「岩王帝君」は夜叉を解放し、彼に「魈」という名を与えた。
「異邦の伝説で、魈というのは数多の苦難や試練を経験した鬼怪という意味だ。お前はまさにそのようである。今後、その名を使うと良い。」


キャラクターストーリー3
岩神に恩返しするため、魈は璃月を守ることにした。
邪悪な魔神に支配された長い年月の中で、かつて持っていた無邪気さと優しさは消え失せ、今の彼には殺戮の腕と殺業しか残っていない。
戦うことは、唯一彼が璃月の人々のためにできることだ。
では、彼のために人々ができることはあるのだろうか?
普通の人間なら、こういった発想にはまず至らないだろう。なぜなら彼が放つ空気に怯えて逃げてしまうからだ。
しかし…彼に感謝を伝えたい人がいるのなら、ひとついい話がある。
魈の降魔を支援する七星の部下は、表では「望舒」という名の旅館を経営している。
魈はたまにそこで杏仁豆腐を食べているのだ。彼が杏仁豆腐を食べる時に浮かべる表情を見ると、本当に好きなのだろうと分かる。
ただ魈はこの甘さにハマっているわけではない、この「食感」がかつての「夢」と似ているのだ。


キャラクターストーリー4
魈は一体何と戦っているのか?
彼は魔神の残滓が引き起こす現象と戦っていると、璃月の実権者はそう考えている。
しかし魈本人に聞くと、答えはそうでないかもしれない。
かつての魈は邪悪な魔神に使役され、嬲られていた。岩王帝君に出会い、救われ、ようやく自由を取り戻した。
魈の仙力は仙人の間でも上位であり、妖魔の退治は彼にとって難しいことではない。
ただ、魔神の執念は強力で、その残骸から生まれた不浄なるものを倒していくうちに、飛び散った穢れがどんどん魈の精神を侵していく。
それでも穢れを消すために、それらの「業障」を背負わなければならない。長年溜まり続けた業は心を焼き、骨を蝕むほど魈の肉体を苦しめた。
だが、魈は何かに憎しみを抱いてなどいない。2000年を超えた命にとって、全ては瞬く間に消えてしまうものなのである。
千年も晴れぬ憎しみはなく、千年かけて返しきれぬ恩もない。
長い命の旅で己と共にいるのは、己だけだ。
魈の戦いには意味がある。
彼はずっと、自分自身と戦っているのだ。


キャラクターストーリー5
魈は一体何と戦っているのか?
旅人はよく理解している、魈が璃月の人々を脅かす暗黒と戦い、璃月を守っている事を。
ならば、誰が魈を守ってあげるのだろうか?
かつて、一夜の戦いのうちに力を使い果たした魈は敗走寸前に陥ったことがあった。
激戦により荻花の海のほとんどが吹き飛ばされた後、魈は地に刺さる槍を抜いて帰ろうとする。
帰ると言えども、それといって帰るような場所などはなく、ただ戦場から去るだけ。
疲れ果てた魈は、その身を蝕む魔神の怨念により発作を起こす寸前であった。
奥底から無限に湧き上がる憎しみが魈を絡めとり、それに抵抗するたびに、さらに激烈な苦痛が彼に襲い掛かるのだ。やがて、魈は苦痛のあまり荻花の茂みに倒れた。
しかし、なぜか魈を苦しめる痛みが突如消える。
魈自身が邪念を抑えたのではない、謎の笛の音が彼を苦痛から解放し、救ったのだ。
澄んだ音色は、蜒々たる大地を撫で、盤岩に守られながら、そよ風に乗りここへやって来た。
夜明けの光と鳥の羽ばたきと共に、笛の音は段々とはっきりと聞こえるようになった。
笛に乗せた力は、魈の心を落ち着かせ、彼を守護し、しばしの安寧をもたらした。
助けてくれたのは誰なのか?魈は気になったが、深く追及することをやめた。何故なら、彼の心には漠然とした心当たりがあったからだ。
かつて、彼を助けた力を持った者、それは俗世に君臨した七柱の神の一人だった。そして、今回もおそらく――


『空遊餓鬼布施法』
スメール教令院の学者が璃月の民俗に関する研究を行った。研究の結果は『琉璃岩間国土紀行』というスメールと璃月で2種の版が存在する本にまとめられている。
その内、璃月版は『匣中琉璃雲間月』へと書名を変え、巫術と神秘的な内容が大量に削除されている。
『空遊餓鬼布施法』に関する内容は、スメール教令院が蔵する完全版にだけ保留されている。
本によると、「仙衆夜叉」は凄まじい仙力と威厳を持つが、「業障」を背負うゆえに多大な苦しみと恐怖を経験しており、それは幾千万年も消えぬ空遊餓鬼の苦しみである。
また本には夜叉仙人をなだめる方法――例えば食の奉納、妙音による布施などが書かれている。これらの仕来りをなすと、夜叉は喜色を浮かべ、人々の平安を守ってくれる。
仙人の貴族たる夜叉は戦いが得意で、常に戦将が如き姿で自ら戦場を駆ける。しかし、この千年近くは戦乱が多く、夜叉一族も滅亡寸前の危機に陥っている。璃月地域には未だに降魔の夜叉の巨象*が残っているが、既にその顔は無残にも破壊されている。
ちなみに、スメールの学者が書いた内容はとても難解であったため、『匣中琉璃雲間月』の人気は、『テイワット観光ガイド』とエル・マスクの書いた各国の風土記ガイドには全く及ばなかった。


神の目
仙人の全称は「三眼五顕仙人」である。
「三眼」とは、生まれつきある両目とは別の「神の目」のことを指す。
仙人が神の目を授かることは、人間がそれを授かる時と同じ感覚なのだろうか?
その時のことについて、魈は既に忘れている。人間にとっては一生忘れられない特別な瞬間かもしれないが、魈にとっては無尽の戦いの前奏に過ぎないのだ。
魈が本当に忘れられないのは、別の瞬間だった。
世の祭りには喜ばしい物が多いが、その背景にある物語を覚えている者はほとんどいない。
祭りの大半は、人を喰らう怪物が仙人によって退治された日だ。人々は仙人を模倣し、英雄を記念して妖魔を払う儀式を行う、それが徐々に祝祭へと発展したのだ。
モラクスに鎮圧された璃月各地の魔神は、時に異様な怒りと憎しみを爆発させる。その中でも、海灯祭の夜は常軌を逸していた。
命令を受けた魈は「靖妖儺舞」を行い、海灯祭の夜に魑魅魍魎と殺し合う。魈が海灯祭を嫌っているのは、それが原因なのだろう。
だが、魈は決して戦いを恐れない。何故なら、彼の努力によって、璃月は平和を保つことが出来ているから。人々は海灯を町中に掛け、祝福の光は夜空と海を明るく映した。
この瞬間、魈の心の中にも特別な感情が湧き上がる。
寂しさ?安心?それとも、未来への恐怖?
少年の姿をした仙人は自分に問い掛けたが、答えは見つからなかった。

鍾離

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キャラクター詳細
璃月の伝統において、「仙人を送る」ことは「仙人を迎える」ことと同じくらい重要な意味合いを持つ。
その璃月で、最も「送別」が得意なのは七十七代続く胡家の「往生堂」である。しかし「往生堂」の堂主、胡桃は、主に凡人を送ることを得意としていた。
仙人を送る儀式は、鍾離に託すことが多い。
仙人は璃月と共に長い年月を過ごしていたため、3000年にも及ぶ歳月の中、天に召した仙人は極めて少ない。そのため、伝統に関するしきたりは、紙に書くことでしか伝えることができない。あまりに間隔が空き過ぎているのだ。幼い頃に1回見て、死ぬ前にもう一度見れるようなものではない。
だが、最もしきたりに厳しく、古い伝統に夢中な学者たちでも、「往生堂」の送仙の儀式の失敗を見付けることはできない。
儀式の服装、儀式を行う時間、場所、道具、その日の天気、儀式の長さ、参加者の人数、職業、年齢などなど、全てが規則に則っているからだ。
人々が「博学多識」などと鍾離を褒めると、いつも彼は苦笑を浮かべこう返す、「ただ…記憶力がいいだけだ」と。


キャラクターストーリー1
璃月では、細部を必要以上に気にして、特定の物事に譲れない判別基準がある人を形容する時「こだわり」という言葉が使われる。
誰もが自分なりのこだわりを持っている。辛いものを食べない、魚を食べない、豆腐は甘い物でなければいけないなど…
鍾離もこだわりを持つ人である。
たとえば、芝居を観る時は一番人気な役者のものを観る、鳥は最も高いガビチョウを買う、「明月の玉子」を食べる時は、台所に行って料理人に卵液に入れる貝柱と魚肉の比率を、自ら指導するなどだ。
鍾離は服飾、珠玉、瓷器、食、茶、香料、花や鳥など全てに精通しており、貿易や政治、七国の話題でも問題なく語れる。
しかし普段の彼は、使い道のわからない知識しか披露しない。なぜなら、彼は面白いことを共有したいからだ。


キャラクターストーリー2
買い物に値切りは必要不可欠である。
これは璃月の常識である。店主が商品をどう紹介しても、まずは値切りから始まるのだ。そして半額から切ることが多い。
しかし、鍾離が支払う(というより支払ってもらう)時はいつも値段を見ない。彼は気に入った物を、いつも店主の言い値で買っている。店主より高い値を言い出すこともある。
しかし、なぜか鍾離はいつも財布を忘れる。
少額のものなら友人に支払ってもらうが、高額のものなら、彼は何らかの理由で経費で落とすようにしている。
口ではお世辞を言い、内心喜んでいる商人たちには、鍾離にはある変わった特徴があるように見えた。彼は金の本当の価値や意味を分かっており、人間の苦についても理解しているが、自分にも「貧乏」が訪れる可能性があるということを、理解していないようだ。
言い方を変えると、彼は金を持っていない自分自身を想像できないようだ。
こんな人が、なぜ今日まで生きてこられたのか、不思議である。


キャラクターストーリー3
鍾離が餓死することはない。
富の損益は、鍾離が心配することではない。七国と世界こそが、彼が力を入れる領域である。
なぜなら、彼自身が富そのものだからだ。
璃月を統御する「岩王帝君」、七神の中の岩の神、モラクス。テイワット大陸の共通貨幣「モラ」の名はここから取られた。
夜が訪れ、賑やかな璃月港が眠りについた時、時折彼は岩山に立ち、自分の手で作ったこの都市を眺める。
璃月の人々にとって、「岩王帝君」は様々な偉業を成し遂げた存在だ。
神力を用いて璃月港に法律を作った時、彼は「契約の神」になった。
最初の1枚の「モラ」を作り、商業を礎に璃月港を大きく発展させた彼を、商人たちは「商業の神」として崇めるようになった。
無数の年月を経て、七神の最年長である彼を、歴史学者たちは「歴史の神」と呼ぶようになった。
数千年前、璃月港の先民たちが荒れ地を開拓した時、石で火を起こし、岩でかまどを作った時から、岩の神は「炉火の神」となった。
外国人は彼を「モラクス」と呼ぶが、璃月の人々は彼を「岩王帝君」と呼ぶ。
そして、芝居好きや子供たちにとって、数々の偉業の中でも、やっぱり魔神軍を一掃し、璃月を作り守る「武神」の彼が、一番人気がある。
「岩王帝君」が道に迷った時に出会ったグルメ、「岩王帝君」が書いた扁額、「岩王帝君」がエキストラとして出演した演劇…璃月のたくさんの文化や歴史を細かく分析すると、どんな時代もこの神が深く関わっていた。そして、璃月の人々はこの神と共にある歴史を誇りとしている。


キャラクターストーリー4
璃月港の創健者として、この商業の城でモラクスが最も重視しているのは「契約」である。
単純な「金での売買」から、商人たちが結ぶ契約、璃月港創建時にモラクスが自ら制定した律法まで、「契約」はこの都市のあらゆるところに存在する。
商人たちにとっても、引渡しの時間、金額、場所などを定める「契約」は、最も重要な規準である。
良好で厳格な秩序だけが、商業活動を盛り上げられる。そして商業は璃月港の支えとなる。
そのため、モラクスの神託を守るだけでなく、璃月港が常に活力を維持できるよう、法律を違反した人を「璃月七星」は簡単には許さない。
数千年の歴史の中で、歴代の「璃月七星」は法律の解釈に力を注ぎ、様々な「補充条項」で法律をより完全なものにしてきた。気付かれていない法の抜け穴は、商人たちに「禁止されていないから」と黙認され、気付いた「璃月七星」によって、新たな補充条項が追加されるまで、大儲けの道具にされた。
こうしたやり取りの中で、璃月港の法律の解釈本である「補充条項」は、すでに279ページにも及んだ。
この本の改訂を担当する当代の「天権」――凝光は人々からこっそりと「璃月の裁縫師」と呼ばれている。
しかし、凡人たちの法律がいくら複雑に解釈されても、「岩王帝君」本人にとって、大事な法律はただ一つだけだ。
「契約を違えた者は厳罰されるべし」


キャラクターストーリー5
七神で最も古い一柱として、「岩王帝君」はすでに長すぎる時間を過ごした。
「岩王帝君」は今でも、魔神戦争が終わったばかりのことを覚えている。最後の七人の魔神は、それぞれ「神」の座に登り、「魔神戦争」の時代を終わらせた。彼らの性格はそれぞれ異なり、互いとの距離も離れているが、どれも「人類を導く」という責任を背負っている。
時代が変わり、七神の世代交代も少なくなかった。今となっては、最初の七神の中で残っているのは二名だけだ。
「岩王帝君」とあの自由で快活な風神。七神の中で二番目に古いのが自由で快活な風神、バルバトスだ。
2000年前、バルバトスが初めて璃月を訪れた時、「岩王帝君」は最初、この同僚は困っている、自分の助けが必要なのだと思った。
そのため、バルバトスが風から降りる前、岩の神はすでに出迎えの用意を済ませて、彼が口を開けば力を貸せるようにした。
しかし、風の神は彼に酒を渡した。
「これはモンドの酒だけど、君も飲んでみる?」
――酒を渡すために己の責務を放棄することは、岩の神には理解できないことだ。
しかしその後、風神は何度も訪れ、璃月港を巡り歩きながら、様々な質問を彼にぶつけた。この風神の好奇心は彼の手にある酒と同じで、終わりがないのだ。
その時から、あの時代の七神はよく璃月で集まるようになった。
今でも「岩王帝君」は、あの時の酒の味を覚えている。
世界は変わり続け、馴染みのあるものは徐々に消えていく。七神の世代交代も続き、酒の席にいた七人は二人になった。
最初七神の「人類を導く」という責務も、新たに就任した神に重視されなくなりつつある。
3000年余りの時間は、丈夫な岩をも削る。
風も、彼のそばを訪れなくなった。
ある小雨の日、古の帝君は璃月港を歩き、商人が部下褒める*言葉をたまたま耳にした。
「君は君の責務を果たした。今はゆっくりと休むがいい」
……
賑やかな人の群れの中で「岩王帝君」はその足を止めた。
「俺の責務は…果たされたのだろうか?」
神はそう自分自身に問いかけた。


水産物
魔神戦争時、戦火がテイワットのあらゆるところに飛び火した。魔神たちの戦争に乗じて、無数の妖怪が自身の領地を拡張しようとしていた。
その中に、まだ七神になっていなかった「岩の魔神」を困らせていた魔物がいた。
これらの魔物は深海から来たもので、柔らかい皮と鱗、俊敏な手足を持ち、体の一部を切り落とされても生き延びることができる。さらにネバネバした液体を噴射することもできる…
以上の特性だけでも十分に気持ち悪いが、恐ろしいのはこれだけではない。
一番恐ろしいことは、ヤツらがとても小さく、しかも何処にでも存在することだ。
テーブルや椅子、ドアや窓、カーテンや服、さらに茶碗の中、書籍や筆立てからもヤツらの存在を発見できる。
手を伸ばすと、冷たくてネバネバとしたものに触れてしまう。そして、これらの魔物は手を登り、きらきらと光る痕跡を残す…
璃月の先民の願いに応え、モラクスはこの魔物の消滅を引き受けた。だが、人間社会に寄生する魔物を相手に、モラクスは過去のように戦場で無数の石槍を投げたり、大地もろとも砕け散らすようなマネはできない…
しかし、彼は後世に「契約の神」と呼ばれるモラクスだ。彼が約束した願いは必ず叶う。
責任感を感じた彼は、岩の檻を自由自在に操り、これらの魔物を無数の部屋から引きずり出した…
長い殲滅作戦が終わった時、モラクスは初めて「肩の荷が下りる」という言葉の意味を理解した。
面倒すぎた殲滅と水生魔物の異臭を放つ粘液は、彼の中に強い印象を残した。
人間の姿の化身である鍾離は、港都市に住んでいるが、うごめく水産物からは距離を置くようにしている。
だが、見た目から原材料が判断できない海鮮豆腐はまだ食べられるのだ。


神の心
「ファデュイ」の「淑女」が彼の目の前に現れた。
事前に結んだ「契約」により、彼女は岩神モラクスの「神の心」を貰いに来たのだ。
旅人と二人の「ファトゥス」の目の前で、鍾離は自分と「氷の神」との契約を明らかにした。
彼曰く、これは最後の時に結んだ「全ての契約を終わらせる契約」だ。
しかし、今まで璃月港を守ってきた神の力までも失うのは、どう考えても、この取引における岩の神の代償は大きすぎた…
人間同士の契約おいても*「等価交換」が鉄則だ。
数千年に渡り、無数の「契約」を結んできた岩神が、今回のような重要な契約を結んだのは、きっと利があるからこその行動だろう。
岩の神は、自らの「神の心」を取引の天秤に掛けた。
氷の神は、一体どんなモノを天秤のもう片方に掛けて、均衡を保っているだろう。

辛炎

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キャラクター詳細
ロックはフォンテーヌから伝わってきた文化で、璃月港の人間にとっては新しい芸術の1つだ。そして、辛炎はこの芸術の先駆者と言われている。
夜になると、彼女は手作りの楽器を背負い、手作りのステージに立ち、観客に自作の曲を演奏する。
彼女の曲は彼女自身のように率直で豪快で、自信と誇りに満ちていた。
彼女の音楽センスは良いとは言えないが、彼女の熱狂的なファンは、彼女と共にステージを盛り上げ、声と体で日中のストレスと悩みを発散する。
辛炎が我を忘れる時に、彼女の神の目から放出される炎は、まるで夜空を白昼に変える程であった。
「天才ロックミュージシャンであり、場を盛り上げる名人でもある」
「蒸気鳥新聞」はかつて、辛炎をこう評価した。
璃月で生きていくのは簡単なことではない。だが、辛炎は俗世に捉われている人々に向かって告げるのだーー
ロックすれば問題ないと。


キャラクターストーリー1
辛炎の演奏は常識にはまらない。あらゆるものが彼女の楽器になる。
ステージの柱、床、観客の叫び、そして神の目の火花と爆発など、なんでも彼女のロックの一部だ。
臨時のステージは、毎回ライブの途中で燃えてしまい、熱気を纏った黒い木炭だけを残す。
千岩軍が今まで何度も注意してきたが、辛炎は無視し続けたため、見回りを強化し辛炎のライブを止める方針が定まった。
頭脳と体力の勝負、勝者はいつも辛炎だ――彼女はいつもライブに最適な場所を見つけ、神速でステージを作り、観客と一緒に盛り上がる。
信憑性の高い噂によると、多くの千岩軍のメンバーが辛炎のライブを止めようとしているうちに、彼女の「ロックの魂」に惹かれて、結局彼女の熱狂的なファンになったという。
そのため、辛炎はいつも事前にこれらの「ロックフレンド」から千岩軍の見回り計画の情報を手に入れ、無事に見回りの目から逃れることができているわけだ。
そうこうして、始終なんの成果もなく、ライブで怪我人が出ることも聞かないため、千岩軍は辛炎の行為を黙認するようになった。


キャラクターストーリー2
辛炎は大きな体と、黒い肌と、鋭い目つきをもっている。ロックの心境を保つため、彼女はいつもステージに立つときは、奇抜すぎるファッションをしている。
普段、街を歩いている時、他人から見れば、辛炎はいつも怖そうな顔をしていて、まるで乱暴なチンピラのように見えた。
彼女が列を並んでいると、前の人は必ず慌てて避け、順番を譲ってくれる。
誤って子供と目が合ってしまったら、子供はすぐに親の後ろに隠れて大声で泣き始める。
辛炎が何もしていなくとも、強面の彼女は、いつも濡れ衣を着せられる。
辛炎は特に他人の目を気にしていないが、他人を驚かせたり、迷惑を掛けたりすることはよくないと彼女は思っている。そのため、彼女はいつも現状を変えようとしていた。
毎日起床すると、彼女は鏡を見ながら、眉間のシワと目つきを和らげるマッサージをしている。
それに、鏡に向かって笑顔の練習や上品な表情と喋り方の練習もしている。
練習を重ねた彼女はある日、いじめの現場に出くわし、迷わず助けた。
そして、自分が一番優しいと思った笑顔を浮かべながら、子供の頭を優しく撫でた。
その子は確かに一瞬で静かになった――
正確に言うと、その子は魂が抜けるほど驚き、ズボンまで濡らしてしまった。
いじめっ子たちも、蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出した。
「あの怖いババア、人食いの鬼になったんだ!早く逃げろ!!」
「おい、誰がババアだー!鬼ってなんだー!」
怒りの咆哮により、練習は全て台無しとなった。


キャラクターストーリー3
辛炎が全ての物事を判断する基準は二つある。「ロック」か「ロックじゃない」か。
それが正義や勇気に溢れているなら「ロック」。騙しや盗み、背を背けることは「ロックじゃない」。
ロックの精神の中には反発や反抗が含まれているが、もしそれが道徳に反することであれば、それも「ロックじゃない」方に分類される。
具体的な判断基準は、彼女に委ねられている。その時の結果でも変わるし、彼女の気持ちで変わる事もある。だが、この二つの基準は明確なものに変わりはない。
凶悪な外見のせいで、辛炎には友人がほぼいなかった。「万民堂」の香菱は、彼女が意気投合できる数少ない人物の一人だ。
辛炎が「万民堂」を訪れるには、特別な理由があった。そこに行けば、作曲のインスピレーションを得られるからだ。
香菱が新しい料理を開発する度、他人と違って辛炎は積極的に試食した。
味わった事のない酸味甘味苦味辛味、それらが舌の上で爆発する時、彼女の脳内ではインスピレーションが迸る。
「香菱、あんたまたロックな料理を作ったな!」
辛炎にとって、これは最高の評価だった。だが、それを聞いた香菱は、どこか不機嫌そうな様子であった。


キャラクターストーリー4
永遠に変わらないロックのテーマは、反抗である。
辛炎が抗いたかったのは実在するなにかではなく、「先入観」という名の手枷だった。
辛炎は貧しい農家に生まれた。両親は彼女に高い期待を託し、いつも一番いいものを彼女のために残していた。彼女が雀から輝く鳳凰になるのが、両親の夢だった。
――当然、この「鳳凰」とは、人々が考える一般的な鳳凰の姿を意味していた。
だがそんな思いに反して、辛炎は普通の女の子よりも大きく成長し、外見もお世辞にも「可愛い」という言葉では、形容できなかった。
女の子が一通り身につけなければならない料理、家事、縫物、どれを取っても上手くできなかった。
「先入観」に幼少期を支配されていたからこそ、辛炎は「先入観」の本当の恐ろしさをよく知っていた。
ロック歌手になっても、彼女は、幼い頃できなかったことを諦めなかった。
負けず嫌いだったのもあるが、それよりも、才能がなかったと諦めることも、彼女にとっては「先入観」の一つだったからだ。
少し前、ファンの一人である雲菫が、辛炎に招待され彼女の家を訪れた。
ドアを開けたのが辛炎でなければ、雲菫は家を間違えたのかと勘違いする所だった。
部屋は埃一つ落ちておらず、窓は磨かれ、部屋に丁寧に並べられた置物は、ほとんどが手作りのように見えた。
台所が濡れていることから、恐らく少し前まで料理をしていたのだろう。
べッドの前には、途中まで織られた虹色の布が置かれており、辛炎が演出に使う衣装の装飾によく似ていた。
まるで、たおやかな女性の部屋のようで、どこにもロックの気配を感じられなかった。
「ロック」とのイメージからあまりにもかけ離れているため、ファンには受け入れ難いのではないかと、辛炎は心配した。
だがあの後、雲菫の応援や追っかけはますます熱烈なものとなったように感じた。


キャラクターストーリー5
辛炎の目には、大人たちは「先入観」を恐れるために、全力を出し切れず、いつも不安がっているように映っていた。
何のために生活しているのか、未来はどこに向かっているのかも知らないようだった。
彼女はこの考えを歌にしたが、大人たちの冷たい嘲笑をもらっただけだった。
『小娘に人生の何が分かるんだ?」
辛炎は特にそれらを気にすることはなかった。この嘲笑も、彼女の年齢に対する「先入観」からきているものに過ぎないからだ。
仮に「先入観」が簡単に覆せるようなものなら、それは反抗する価値のないものだ。
彼女は、ロックは小さい種だと信じていた。一度のステージで、きっと数人の大人の心にロックの芽が生える。
その人達が次の日目覚めた時、心に何か変化が起きているのかもしれない…ほんのわずかな変化で構わない…もしかしたら、彼らは自分達を捕えていた「難題」は、ただの茶碗に映る風景なのだと気付くのかもしれない。
もちろん、観客と「ロックフレンド」以外、誰もこれが「ロック」のおかげだと思わないだろう。
だが、人々は食後の談笑の時にきっとこう言うのだ。
「あのロックを歌っている小娘は面白いな」


辛炎の楽器
辛炎がメインで使う楽器――独特な形をした琴は、彼女の手作りだ。それは、フォンテーヌから伝わったロックの楽器を土台に、彼女自身がさらなる改造を加えたものだった。
例えば、彼女は楽器の後頭部に、三日月型の斧を付け加えた。いざという時に、すぐに戦えるようにするためだ。
更に、「神の目」の力も楽器の中に組み込み、簡単に炎を噴射し、火花を散らせるようにした。
そして、実は楽器の内部も炎を噴射できるのだ。万が一、楽器が他人の手に落ちても、悪用されないための保険として、自爆するようになっている。
…それ以外にも、数えきれない程の機能がある。
つまり、これは世界で唯一の楽器であり、奏でる音楽も世界で唯一のものだ。
――ん?この改造は、音楽とあまり関係がないと?そう思うなら、君はもう少し辛炎のロックに耳を傾け、その真意を理解した方がいい。


神の目
璃月港は辛炎にとって、しっくり来ない場所であった。「ロック」と遭遇した日、彼女は己の帰る場所を見付けたのだ。
だが、彼女が生まれ育った場所には、ロックの文化はない。ここにいる人達に自分の音楽を受け入れてもらうには、人の注目を集めるしかない。
彼女は音楽の世界に深く入り込み、人々の心を震わす方法を探した。数えきれない程の楽器を壊れるまで弾き、両手にはタコができた。だが、それでも結果は予想通りのものだった。
「うるさいぞ!」
度重なる悪評に、辛炎の頭に諦めの文字が浮かんだ。
彼女は天衡山に座り、夜の璃月港を見下ろした。炎は町の明かりを灯しているが、「ロック魂」をしてはくれない彼女は、どこか遠くのロックを理解してくれる場所に行こうと考えた事もある。しかし、これは逃げることを意味し、ロックの精神を反することを意味する。
――彼女はここに残って、本当の意味で璃月港を照らす「炎」となるのだ。
彼女は、炎を使い人々の心を震わせる試みを始めた。音楽の中に火花と爆発を織り込んだのだ。
だが、普通の人にとって、炎をコントロールするのは簡単なことではない。
練習中、彼女は数えきれなほどの火傷を手に負い、楽器を吹き飛ばした。だが、それでも彼女は毎日、天衡山の上で練習を続けた。
もしかすると、神もこの全く新しい音楽が、七国を席捲することを期待していたのだろう…
燃え滾る「神の目」は、龍の絵に眼を入れた。
辛炎は全速で山を駆け下り、璃月港で一回目のロック音楽会を開いた。
火花と爆発にのって、彼女の音楽の道は始まった。

ジン

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キャラクター詳細
西風騎士団はモンドを守る剣と盾である。
荒野の魔物を退治し、町や道路の安全を守ることだけでなく、騎士団にはモンドの秩序を守るという大事な使命がある。
モンドは自由の都ではあるが、自由を守るルールがなければ、混沌と不安が溢れることになる。
ジンはそれをわかっているからこそ、謹厳であるべきと自分を一番厳しくしてきた。
――そして彼女はいつも自分でも気付かないうちに、月初めにその月に割り当てられたコーヒーを全部飲んでしまう。


キャラクターストーリー1
グンヒルド家は古い騎士の一族である。伝承によると、最初の史詩が生まれた日から既に彼らはモンドを守ってきたそうだ。
しかし、歴史の長い血脈には必然的に重い責任が伴う。ジンは幼い頃から母親に騎士の継承者として育てられた。
騎士に相応しい身だしなみ、礼儀から、騎士の歴史、詩、騎士に必須な剣術、身体能力まで、ジンは全てマスターした。そうしなければ、グンヒルド家の家訓「モンドを守る」ことを実行できないからだ。
昔、酒場ではある冗談が広まっていた。グンヒルド家の長男長女は「ママ」よりも「モンドを守る」という言葉を先に覚えると。
『森の風・ベストコレクション』から顔を上げ、自分と同じくらいの年の子が風車を手に、笑いながら走っている姿を見て、幼いながらもジンはその言葉の意味を理解した。
そして今、たくさんの書類から顔を上げ、風車を手に笑いながら走っていくモンドの子供たちを眺める代理団長は、あの時間に対して少しの後悔も感じていない。
「これは正しいことだ。どんなにつらくても、正しいことは全力で行うべきだ」


キャラクターストーリー2
「ジン団長はとても頼もしい」
「なにかあったら、彼女に頼めば間違いない」
モンドでは、騎士も民衆も、ジンのことを頼りにしている。
助けが必要な時、理由が合理的であれば、彼女は必ず助けてくれる。
たとえ市場の口喧嘩でも、恋に関する些細な悩みでも…
たとえそれが騎士の仕事と全く関係がなくても、ジンに頼めば、彼女は必ず助けの手を差し伸べる。
「なぜ助けるのか?――困っている人を助けることが、騎士の仕事ではないか?」
彼女にとって、「代理団長」の仕事よりも騎士としての責任の方が大切なのだ。そして彼女は、困っている人を助けるには自ら動くのが一番確実だと思っている。これは彼女が配下の騎士たちに対して求めているものでもある。
図書館司書のリサはかつてジンに「たまには、レディのアフタヌーンティータイムを楽しむべきよ」と諭したことがある。
しかしジンにとっては、騎士の責任はレディであることよりも大事である。
「ジン団長はとても頼もしい」
人々は常にそう言って彼女のことを褒める。
しかし彼女にも悩みはある。それは一日の時間に限りがあるということ。たとえ睡眠を犠牲にしたとしても、全ての人を助けることはできない。
頼もしい人間であり続けるための努力は、他人には想像もできないものである。


キャラクターストーリー3
ジンが代理団長になった今、彼女の上に「大団長」がいることを忘れた人は少なくない。
もちろん、彼女はそんな事を気にしたことはない。騎士団内の地位と称号は、彼女の行動になんの影響も与えないからである。
ジンの熱意、正直さ、そして真摯な姿勢は二つの要因から来ている。
一つ目は、彼女が幼い頃に受けた教育と訓練。それらは騎士道精神を彼女の魂の奥深くに刻んだ。
二つ目は、現在席を離れている西風騎士団団長ファルカによる教育だ。あの自由で締まりのない飄々とした騎士は、ジンの成長に大きな影響を与えた。
「大団長、真面目に仕事をして下さい。モンドのあなたに対する期待と向き合って下さい」
「お嬢さん、あんたは俺の助手。俺の仕事を分担するのは当然だよ。そうすれば、この大団長ももっと大事なことをする余裕ができるだろ?」
「……」
彼は征服と伝説を創った騎士。そして彼女は平和と自由を守る騎士である。
ジンはファルカを嫌っているわけではない。ファルカのやり方にも一理あるのかもしれない。だが、ジンは大団長ができなかった正しいことをしなければならない。
半年前、ファルカは西風騎士の精鋭たちを連れて、再びモンドを離れ遠征に出た…
遠征――大団長らしい冒険である。
「騎士団は任せたぞ。ここ数年はあんたが団長の仕事をしてきたしな。」
「安心して任せてください、大団長。」
あなたが帰ってくる日、モンドは今よりも暖かく、平和で、栄えた場所になっているはずだから。
窓から団長を見送った彼女は、そう思ったのである。


キャラクターストーリー4
風立ちの地にある神木は、初代「蒲公英騎士」の終点である。
記載によると、ここは西風騎士団を作り、モンドを再建した初代蒲公英騎士・ヴァネッサが人生の最後に訪れた地だ。
彼女は風立ちの地で自分自身が守ってきた城と別れを告げ、自身の物語と一株の苗だけ残した。
この苗は千風の加護の下、太陽と月に照らされ、天に届く巨木となった。
ジンが「蒲公英騎士」の名を授かったのは彼女が15歳の時。
「蒲公英騎士」、またの名を「獅牙騎士」。それは歴代で最も優れた騎士のみが得られる栄誉である。
称号を授かる儀式が終わった後、ジンは祝いのパーティーをこっそり抜け、憧れの英雄が歩んだ道を追いかけるように、その木の前に来た。
「蒲公英騎士」の名は、ヴァネッサの戦いと慈愛を象徴するもの。自分にそんな偉大な称号を受け継ぐ資格はあるのだろうか?
モンドの再建から1000年以上が経った今、自分にはこの古くから自由と誇りに満ちた土地を守る力はあるのだろうか?
いくら外見が大人びているとは言え、彼女は騎士の成人式を済ませたばかりで、まだ心の準備ができていない少女である。
その時、遠くから一陣の風が吹き、彼女を柔らかく包み込む。そして、その胸にある不安を吹き飛ばし、乱れた心を風の中で整え、揺らぎない決心だけを胸に残していった。
「モンドを守る。」
――ヴァネッサのような、優しくも決して揺らぐことのない戦士になって、同胞のために戦い、自由のために抗う。きっとあの単純で厳しい家訓が伝えたかったのはこれなのだろう。
今でも、疲れや不安を感じた時、ジンはこの木の下に来る。風は彼女の戸惑いを消し、前進する力を与えてくれるから。
風立ちの地にある神木は、初代「獅牙騎士」の道の終点であり、
そして「蒲公英騎士」ジンの始まりでもある。


キャラクターストーリー5
団長ジンには秘密がある。
グンヒルド家は古い騎士の一族だ。ジンはこの誇り高き血筋を、自分の母であるフレデリカから引いている。
ジンの父は有名な冒険者――サイモン・ペッチ。モンドに定住してから、彼は冒険から身を引き、西風教会に参加した。やがて、彼は西風教会の総監に昇進した。通称「払暁の枢機卿」だ。
かつて愛し合った二人はそれぞれ別の道を選ぶ。幼いジンは母の手を握って、父と妹のバーバラの離れていく背中をただ見ている事しかできなかった。
やがて、バーバラも父のように西風教会の一員となり、モンドの人々に愛される牧師となった。
今までジンは、血の繋がった妹のバーバラに接近しようとしたが、バーバラはどうすればいいのか分からず、ずっと避けている。
この似通う不器用さは、正に姉妹の心が繋がっている証拠であろう。
団長ジンには、もう1つの秘密がある。
歴史の書籍を読み尽くし、「蒲公英騎士」の名を背負い、皆に信頼される代理団長ではあるが…
ジンは、恋愛小説が大好きなのである。
少女時代を訓練と激務に費やした事や、親の離婚の影響ではない。
恋愛小説の中で語られる両思いや脆そうで絶妙な関係が好きなのだ。
騎士として、モンドと西風騎士団を最優先しなければならない。
だが…
「もし、私にも…」
深夜の執務室で『少女ヴィーラの憂鬱』を再度読み終えたジン。
「時間があれば、夜明け前の誓いの岬を見に行っても大丈夫。大丈夫なはずだ…」
ジンは俯き、星の光が照らす窓にもたれ掛り密かに考えた。


ジン団長のスケジュール・Ver.17
ここに分刻みのスケジュール表がある。
「朝、アンバーと一緒にランニングし、ついでにリサの朝食を買う。夜は服を手洗いし整理する」細かいことまでちゃんと記載されており、予定がぎっしりと詰まっている。
完成した項目にはマークが付けられている。外部的要因で遅れた項目は、備考欄に原因が記載されている。
体調不良で完成が遅くなった「モンド公共施設評議報告」の項目の備考欄に「夜中3時に完成、今月末の褒美である書籍購入は取り消し」と書かれていた。
このスケジュール表の書き方は、十年前の母が作ってくれた訓練表の影響を受けているのではないかと、ジンはたまに思う。


神の目
単に強さだけで言えば、ジンはすでにモンドで一二を争うレベルの剣士である。だが腐朽と暗闇を突き通す剣より、歌声と自由を護る盾になりたいとジンは心から思っている。
「守護」は「破壊」より難しい。
小隊隊長から副団長に昇進した時、ジンの目の前にこの壁が立ちはだかった。外部はファデュイからの外交圧力で、内部には裏切り者――元督察長の仲間。こんな状況を立て直すのは簡単なことではない
だが、ジンは一人で外部の圧力に屈する事なく騎士団を率い、アビス教団の数々の陰謀を砕き、西風騎士団のかつての栄光を取り戻した。
「神の目」を手に入れた瞬間の事を、ジンは一生忘れはしない。手のひらに吹き上がるそよ風を感じた刹那、その場は静寂に包まれ、空間からは色が消えた。ただ、グンヒルド家の古く厳しい家訓だけが、ジンの頭の中に浮かんでいた。
「モンドを守る」

申鶴

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キャラクター詳細
申鶴は妖魔退治一族の分家の生まれである。しかし様々な偶然が重なり、彼女は仙人の弟子となった。
留雲借風真君を師としているが、申鶴が持つ優れた胆力と智慧により、彼女はたちまち他の仙人の心をも掴んだ。そして、申鶴は仙人たちのもとで方術を学び、人の身でありながら仙人の方術を習得した。
申鶴が持つ気質からか、彼女の一挙手一投足には仙気が漂っているように見える。その姿は、まるで俗世を離れた仙人と言っても過言ではない。
しかし、申鶴は人目の付かない山奥に長年住んできた人間。仙人たちを除いて、彼女の周りにいたのは鳥や獣だけであった。
その結果、彼女の性格は冷たさを感じる、ますます近寄りがたいものとなっていった。


キャラクターストーリー1
璃月の仙人を訪ねようとした者たちの間で、時折語られる噂話がある。それが本物の仙人との邂逅だ。
誰かがどこかで絶望的な状況に陥った時…
ある白髪の儚げな仙人が、間一髪のところで助けてくれるという…よくあるような話だ。
その後の展開は、街角で幾度も歌われてきたようなもの。美しく、酩酊する展開ばかりである。
しかし、当の白髪の仙人がそれについて語る時、全く違う話になる。
「時折、山の中に迷惑な輩が現れる。いぶかしむような目で我を見る様は、実にうんざりする。師匠の邪魔にならないよう、いっそ方術で追い出すか…。
万が一、手加減できずに傷付けてしまった場合…それも自業自得であろう、仕様がないことだ。」


キャラクターストーリー2
自由気ままで、仙人のような生活をする人間の中でも、申鶴はもっとも俗世から離れた者であろう。
若くして山奥に住むことになった彼女は、常識が欠けており、人間関係を上手く維持することができない。
普通の人であれば一つの物事に対し、いくつかの考えを巡らせるだろう。しかし、申鶴の場合はもっとも単純で、直接的なものしか思い浮かばないのだ。
たとえば、誰かと意見が食い違った時、彼女には「交渉」という選択肢が出てこない。その代わりに「脅迫」という手段を選んでしまう。確かに手っ取り早く、効率もいい方法ではあるが…。
そんな彼女だが、俗世から離れていたがゆえに、妙なことで考えに耽ることがたまにある――
食事をするのに、なぜモラを払わねばならないのだろうか?
人々への脅迫と、賊への脅迫になんの違いがあるのだろうか?
また自分の師である留雲借風真君のことを、話術の長けた仙人だと心の底から信じていた。
その点だけ見れば、彼女はとても純粋な人物だと分かる。
子供のように混沌とした、しかし単純な認識と論理だけで世を歩いている。
かつて、理水畳山真君はこう言った。
「申鶴という娘は優れた才を持つだけでなく、一風変わった性格をしている。」
「世事に疎く、常識にも欠けている。無知蒙昧で勝手気ままだ。」
「留雲借風が彼女を弟子にした時も、容易なことではなかっただろう。」


キャラクターストーリー3
璃月の民間に伝わる逸話の中に、名も無き者が仙人に拾われ、指南を受けることで高みへ登って行く…という仙人との縁を描いた物語が数多く存在する。
しかし、申鶴が弟子入りをした背景はそうではない。むしろ、苦しみを伴うものであった。
彼女が五歳の時、母が病気で亡くなった。妻を心から愛していた父は、その痛みに耐えることができなかった。
時が経つにつれ、その痛みは怨嗟へと変わり、狂気に陥った父は旅に出る。
彼は亡くなった妻を蘇らせる方術を求め、夜も眠らずに、一年間休むことなくそのすべを探し歩いた。
彼が幼い申鶴のもとに帰ってきた時、その顔には狂喜が浮かんでいた。
父が見つけたのは、「命の引換」と呼ばれる神秘に満ちた方術。
その方術で召喚できる「仙霊」に生贄を捧げることで、亡くなった人間が蘇るという。
この時の申鶴はただ喜ぶだけで、これから起こる悲劇に気付いていなかった。無理もない、彼女は普通の子供なのだ…長い間、不在だった父がようやく帰ってきたのであれば、それも当然の反応だろう。
彼は裏山の洞窟に贈り物を用意したと言い、申鶴をそこへ連れて行った。
その後の出来事を、申鶴は今も忘れられない――
辿り着いた洞窟には、父が召喚した不気味な黒い「仙霊」がいた。その血走った眼に映るのは、生命力に満ちた申鶴の命のみ。
申鶴は目を見張った。それがどこから来て、この家から何を奪おうとしているのか全く想像ができなかった。
人は危険な状況に陥ると鈍くなるものだ。幼い申鶴も同様に、ある一つのことしか考えられなくなっていた。
彼女を飲み込もうとする魔物を前に、申鶴はただ生き延びることだけを考えた。
彼女は母の魔除けの短剣を握りしめ、震えながら意を決し、黒い「仙霊」に刃先を向けた…
数日後、とある仙人が残留する邪な気配を辿り洞窟を訪れた。そこにいたのは何日も飲み食いせず、満身創痍となった少女。
仙人は、彼女の不幸な運命を憐れんだ。ただ同時に、申鶴が恐ろしい魔物と渡り合ったことを知り、その才に可能性を見出した。仙人は彼女の傷を癒やし、方術の手ほどきをした。
そして、今の申鶴へと成長していったのである。


キャラクターストーリー4
十数年、山で修行していれば、いかに冷めた心でも波打つことがある。
無論、申鶴も例外ではない。ある夜、ふと思い立ち、彼女は一人で山を下りて故郷に帰ったことがある。
故郷や親族に心残りがあったわけではない。ただ、漠然とした感情に従っての行動であった。
かつて住んでいた家に行き、過去のことに執着する父がどのような生活をしているのか、確かめてみたいと思った。
申鶴が故郷に戻って近くの人に尋ねてみると、父は数年前に亡くなっていた。
子供の頃に住んでいた家も質に入れられた後、取り壊され、記憶の中にあった痕跡も風雨にさらされてすべて消えていた。
申鶴は人々の注目を集めていたが気にもせず、声を掛けられても一切答えなかった。
心の奥底に響く音に耳を傾けながら、彼女はただ黙って立ち尽くすのみ。
怨恨?妄念?これで我の心は晴れたのだろうか?
それらが一瞬にして浮かび上がり、そして何も残らなかった。心には、波の立たない古い井戸があるだけ。
それは完全に干上がっており、波紋も広がらない。
彼女は長い間、その場に立っていた。やがて、人々が怪訝そうに見つめる中、彼女は去った。
一歩一歩ゆっくりと、一度も振り返ることなく足を進めて。


キャラクターストーリー5
占星術のように、璃月にも運命を占う方法がある。
その占いが示す結果の中でも、人々が特に避けているのが二つの「命格」だ。
一つは孤辰の運命。家族や友人と離れ離れになり、生涯孤独となる運命である。
もう一つが劫煞の運命。数多の災難に見舞われ、常に危険が伴う運命である。
幼い申鶴を仙人が引き取った後、削月築陽真君が彼女を占ったことがあった。
結果、申鶴はその命格を二つとも背負っていた。彼女は孤独で仇なす者であり、その溢れ出る殺意は千年に一度の凶兆。
申鶴を平穏無事に成長させ、無関係な人間に害を与えないためにも、仙人たちが施したのが赤紐で彼女の魂を縛る術だ。
その術により、彼女が放つ殺意と害意は確かに縛られた。しかし、同時に人間が持つ様々な感情も封じられてしまった。
それ以来、申鶴は些細なことで動じなくなり、人が大切にするものも彼女の目には塵として映るようになった。
人間性が徐々に薄れていく彼女は、まるで欲のない美しい彫像のよう。
だが、ある異郷の旅人との出会いをきっかけに、自分の運命の奥底にある何かが緩んで行くことに彼女は気づいた。
そして、長いこと消えていた馴染みのない感情が、少しずつ彼女に現れ始める。
削月築陽真君が言うように――運命は天が定めるもの、運勢は人が描くものだ。申鶴とこの世の物語は、まだ幕を閉じてはいない…


翠鈿白玉櫛
琥牢山に着いた時、彼女は岩の上に登って雲海を眺めながら何も考えず、一日中無言でいることを望んだ。
眠くなったら服を着たまま眠り、喉が渇いたら山露を飲み、お腹が空いたら清心を摘んで食べる生活。
留雲借風真君の心は鏡のように澄んでいる。彼女のことを邪魔することなく、仙石で作られた翠鈿白玉櫛を申鶴に贈った。
そして、留雲借風真君はこう言ったという。今後、俗世との縁を切り、仙人の弟子となることを望んだ時、この玉櫛で髪を三回梳かすといい。さすれば弟子と見なされる。
すると、申鶴は躊躇うことなく、髪を三回梳いた。不思議なことに、髪を一回梳かすと、その黒髪に銀色の霜が降りた。
二回梳かすと、黒髪と白髪が半々になった。
三回梳かすと、まるで白雪に覆われたかのようになった。
……
申鶴は今でも、その櫛を仙人との縁を結んだ証として身に着けている。
長年の修行を経て、彼女は髪を三回梳かすこの儀式の意味を理解した。
それは、櫛一回で悩みを溶かし、櫛二回で喜びも悲しみも無にし、櫛三回で白髪になっても後悔しないというものであった。


神の目
これはあまり知られていない話。当時、洞窟で父に生贄として捧げられた幼い少女が、どのようにして何日も魔物と戦ったのか。
申鶴は妖魔退治の家に生まれたが、正気を失った父からは魔除けの符術を教えてはもらえなかった。
同年代の無邪気な子供と同じで、彼女は厳しい現実に直面したことがない。
しかし洞窟の暗闇の中で、親の庇護を失い、血縁者に裏切られたその絶望的な状況で申鶴は生まれ変わった。
削月築陽真君の占いが示した通り、申鶴の奥底に眠る激しい怒りと血への渇望、そして不屈の精神が、その瞬間に一気に噴き出したのだ。
それらはまるで不可視の盾であり、目で捉えることのできない剣となって、少女の細い体を包んだ。
そして彼女に力を授け、牙を飾り、目の前の下等な魔物を殺すことを許可した。彼女は誓う、この暗闇の中でもっとも凶暴で邪悪であることを証明するため、それを八つ裂きにすると。
命を賭けた戦いが連日続いた。狩人と獲物が交互に入れ替わり、互角の戦いが続く…
生死を分ける瞬間、その並外れた力を振るう少女に神々が目を向けた。
ぽとりと、輝くものが申鶴の手の中に落ちた。そうして勝利は申鶴のほうへと傾き、勝敗は決した。
澄んだ氷の光が霞光のように闇を突き破り、未来への道を示してくれた。
過去の悲惨な運命から申鶴を救い出したそれは、きっと未来でも、彼女が俗世に戻れるよう導くことだろう。

スクロース

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キャラクター詳細
スクロースは天才錬金術師アルベドのアシスタントであるが、研究の分野は大分異なる。
錬金術の本質の研究や新しい生命を作り出すことよりも、錬金術で現存の生物を改造し、世界をより豊かにすることが彼女の研究分野だ。
彼女は、若くして数々の功績を成した。特殊な薬剤を散布し、スイートフラワーの花蜜の生産高を7割増やした。
開発した特殊スプレーを使えば、採れた夕暮れの実は丸一ヶ月新鮮な状態に保つことができる。
スクロースの研究に疑問を持っていた人も彼女の成果を見れば、彼女の卓越した天賦の才を認めざるを得ない。
だが、スクロースにとっては、これらの実験の結果は成功とは言えない。ただの偶然だった。彼女の目標はもっと壮大だ。
この目標は彼女の秘密であり、彼女の小さなロマンでもある。


キャラクターストーリー1
「生物錬金」の数々の課題は、スクロースの万物に対する疑問から生まれる。
そして、その疑問は彼女の旺盛な好奇心から生まれたものだ。
スイートフラワーのような砂糖の原料に使われている何の変哲もない植物でも、スクロースの好奇心からは免れなかった。
スイートフラワーの最大の特徴は、その生まれつきの甘味だが、それ以外に使い道はないかとスクロースは思った。
そして、彼女はスイートフラワーの観察を始めた。三十種類以上の栽培方法を計画し、さらに天気や気温などの条件によって、対照群を設定した。
しかし、計画が変化に追いつくことはない。実験が始まると、疑問が減る所か、どんどん増えていった。そして、実験によって生まれた新しい現象から、更に閃きを得る。
スクロースは疑問を無視できない。でないと、罪悪感を覚えてしまうからだ。実験が進み、最終的に栽培の数量は約300種類まで増えていた。
こうして、数々の新種のスイートフラワーが開発された。花びらが元の大きさの3倍あるものや、花びらが元の5、6倍大きくなった上、風に乗り飛べるようになったもの、甘くて美味しい実がなるものなどだ。
数ヶ月に渡った実験を通し、スイートフラワーについての疑問を全て解決した。実験記録の整理を終え、彼女はほっと一息を吐いた。
心身とも疲れ果てていたが、三面の壁に貼り付けた生物実験の記録集を眺めると、やはり楽しい時間であったとスクロースは再確認した。


キャラクターストーリー2
他人からすれば、スクロースは内向的で、口数が少なく、他人に興味を示さない錬金術師だ。
だが、実のところは真逆である。スクロースは全てのものに対して、強い興味を抱いている。だが、彼女にとって錬金術と比べると、人との接し方はあまりにも複雑だ。
錬金術は、実験を積み重ねていけば、いずれ答えにたどり着く。しかし、人間関係においては「礼儀」「感情」などデータ化できない要素が多々あり、試行錯誤する機会もない。
そのため、スクロースはなるべくこういった不安要素を避け、自分に慣れた方法で好奇心を満たすようにしている。
例えば、スクロースはいつも、キャッツテールのバーテンダーで、同じ獣耳を持つディオナと自分とは、同じ遺伝子を持っているかどうかについて知りたがった。
普通の人なら、直接相手に質問するだけで答えを得られるだろう。しかし、スクロースはこのような質問は、失礼ではないかと心配してしまう――もしかしたら、彼女は自分の耳について触れられるのが好きではないのかもしれない。
そして、スクロースは自分の得意とする方法――観察で、疑問を解消することにした。
丸一ヶ月、ディオナはずっと誰かに監視されていると、なんとなく感じていた。そして、酒場の客に尾行しているのかと怒っていた。
「遺伝子の原理は似ているが、根源は違う。猫との関連性については研究する価値がある。注:骨は暫く入手できない」
この結論は最近、研究の成果としてスクロースのノートに記入された。
おまけの成果と言えば…
最近、猫の萌えポイントを理解できたスクロースは、猫耳のメガネを作った。しかし、恥ずかしいため、彼女は自分の部屋以外の場所では、つけないようにしている。


キャラクターストーリー3
スクロースは3日に1度、夕方の時間帯に社交活動に勤しむ。彼女にとって、これは貴重で盛大な活動だ。
彼女は順番通りにモンドの肉市場、冒険者協会、そして清泉町の狩人の家に行き、ある特殊な素材を集める。
「こん、にちは、す、…すみません、あの、私は…新鮮な、えっと…できれば…血がついている肉付きの骨がほしいんだけど」
最初、みんなは彼女の異常さを怪しんだ。だが、次第に彼女に慣れてきた人々は、彼女のために新鮮な骨を取っておくようになった。
今回は大収穫だ。普通の鶏骨と豚骨以外に、完全なトカゲの骨と血が滴るヒルチャールの足骨を手に入れた。
珍しい骨に目がないスクロースは、何度も冒険者協会のキャサリンにお礼を言った。
これらのレアな骨は、スクロースの好奇心を満たすと同時に、組み立てる過程で新しいインスピレーションを彼女に与えるのだ。
だが一番重要なのは、骨集めがスクロースの熱狂的な趣味であるという事だ。
ある日、スクロースは偶然、子供を叱っている母親の言葉を耳にした。
「お母さんの言うことを聞かないと、とてもとても怖いおばあちゃんが、麻袋を担いでうちにくるよ。そして、あなたの骨を抜き出して全部持って行ってしまうよ」
好奇心に駆られたスクロースは、その話が本当かどうかを検証した。結果、子供を驚かすこの怪談は、スクロースが生まれる前からすでに存在していたものだった。
真相を知ったスクロースはほっとした。
――あれから、人々はある変化に気づいた。疑われないためか、それとも恥ずかしさからか、スクロースは今まで使ってた麻袋を革袋に変えたのだ。


キャラクターストーリー4
アシスタントとして、スクロースはいつも全力でアルベドの手助けをしている。課題の内容は難しいが、いつも勉強になった。
5日も続いた実験が終わった後、アルベドは体力の限界を迎えたスクロースに、一週間の休暇を与えた。
スクロースはこれを機に、体調を整えるつもりだったが、目覚めた時に、逆に違和感を覚えた。
朝食は目玉焼きとソーセージ、そしてコーヒー1杯。特に変わったものはないし、全て研究したことのある食べ物と飲み物だ。
日光を浴びながら本を読む。これもごく普通で、研究した中で最も良い休日の過ごし方の一つである。本もすでに一度読み終わったもので、疑問に思ったところも全部調査済だ。
洗濯、掃除、家の片付け、どれも何の変哲もない事である。清潔な環境は気分を安らげてくれる、これは疑いようのない事実だろう。
――半日が過ぎたのに、疑問に思うところがなかった。
退屈、煩悶、焦り、全く落ち着かないスクロース。
何でもいいから、スクロースはとにかく研究したかったのだ。この際、ベランダに飾ってある花についてでも構わない。
しかし左側のイグサも、真ん中のスイートフラワーも、右側のセシリアの花も、どれも既に研究し尽くされていた。
結局、自暴自棄になったスクロースは無理やり眠りにつき、翌日の早朝に実験室に向かった。
「実験も問題もない日は休みじゃなくて拷問よ!」


キャラクターストーリー5
スクロースの子供時代は、多くのモンド人と同じようなものだ。仲のいい両親と気の知れた仲間――どれも平凡だが、美しいものだ。
子供時代で一番印象深い出来事は、あの「仙境」の物語だ。
テイワット大陸の一角には、誰も知らない秘境が存在する。そこには、数百メートルの高さもあるピンク色の花やあっちこっちを飛ぶ小さな妖精、そして無垢なユニコーンが生息している。
スクロースと二人の親友は、「仙境」に行けば、永遠の喜びと幸福を手に入れられると信じていた。
時が経ち、一人の仲間は冒険者である両親と遠くへ行き、二度と帰って来なかった。
もう一人の仲間は、家庭環境に大きな変化があった。父を病気で亡くした影響で性格が豹変し、スクロースへの連絡も途絶えた。いつか、また三人で会おうという約束も、虚しい言葉に変わった。
あの時、スクロースは今までに感じたことのない孤独感を覚えた。まだ一緒に「仙境」にも行っていないのに、なぜこんなことに…
二度と会うことがなくとも、かつての仲間のために何かしたい。そう思っていた時、スクロースは本の中で、錬金術の存在を知った。
「仙境」の入口すら見つけていないが、スクロースは自分が「仙境」の創造者になるのだと気づいた。
彼女は「生物錬金」に打ち込み始め、自分の強烈な好奇心と尽きない情熱を注いだ。
彼女はまだ、「仙境」と友情の秘密を誰にも告げたことはない。
「仙境」が本の物語から現実世界に出てきたとき、彼女の仲間は帰ってくるのかもしれない。


三式霧氷花改十七号拡大版
「仙境」に相応しい生き物を選ぶことについて、スクロースは厳しい基準を設けていた。それを満たした実験の成果には「成功」のラベルが張り付けられる。
当初、彼女は物語を真似て、全ての生物にロマンチックな名前をつけるつもりだった。だが、いざその時になると、思いのほかに苦戦した。
長い間、学術研究に携わっている彼女は、名付けに関してもロジックを重視する。
名前の一部に「草花」とあれば、「草の上に生える花」を意味する。「花草」なら「草の下に生える花」を意味する。「草草花」は「たくさんの草の上に生える花」のことだ。
こんな「仙境」感に欠ける名前は、スクロースが実験より数百倍も長い時間を費やし、やっと思いついたものだ。
その後、彼女は名付けを諦め、代わりに実験記録集のコードネームをそのまま名前にした。名前にしては少し長すぎるが…
「仙境」の創造者として、どんな名前を付けようが、スクロースの自由なのだ


神の目
スクロースと「神の目」巡り逢いは、何の変哲もないとある午後の出来事だ。
その時、彼女は丹念に配合した緑色の錬金溶液を大鍋に入れ、159回目の蒲公英の種を煮込む実験を始めようとしていた。
しかし、鍋が急に突沸し、一瞬で部屋が蒸気で満たされた。スクロースは中身の変化を確認しようと慌てて鍋に近付き、興奮のあまりに、鍋の縁に両手をかけてしまい火傷を負った。
残念なことに、今回も蒲公英の種は焦げた塊になっていた。しかし、その黒い塊の中央に、新たに生まれた「神の目」が静かに横たわっていた。
スクロースは少し考えると、鍋に残った溶液と「神の目」を一緒に煮込み始めた。
彼女は、蒲公英の種と「神の目」の間にどんな反応が起こるのかを知りたかった。
しかし残念なことに、三時間煮込んだ後、実験は失敗に終わった。
しかし、スクロースは大きな収穫を得た――「神の目」が提供する元素力。それは今でも、彼女の「生物錬金」の道において、重要な役割を果たしている。

セノ

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キャラクター詳細
教令院のマハマトラたちを率いる大マハマトラ・セノ、彼の教令院内における「威信」を知らぬ者はいない。
彼の責務は教令に違反する者の捕縛、禁令に抵触する研究を中止させることである。それらは院内の風紀を維持するためのものであるが…学者たちからは学術を破壊し、研究を徹底的に禁止するもの、さらには「知識を求める道を断つこと」だと思われている。院内で知識を渇望する学者たちは、その全員が彼の「威嚇」を受けていると言えるだろう…
やがて、セノの姿を見ただけで学者たちは皆、彼とは関わるまいと静かに避けるようになった。
しかし大マハマトラは、このような状況をまったく意に介さない。
もし、その大げさな「威信」が本当に学者たちを震撼させているのなら、院内の風紀を保つ者にとってこれ以上に相応しいものはないからだ。
それに友人であるレンジャー長の言葉を借りると―――
「彼らのほとんどの研究は、マハマトラが直接出向くほど重要なものじゃない」そうだ。


キャラクターストーリー1
知恵は人を啓発するが、同時に人を傲慢にもさせる。
教令院の歴史上、教令を無視して自身の「知恵」を利用し、罪を犯した学者は少なくない。
例えば、とあるアムリタ学院の学者はフライムの身体が膨張する限界を検証するため、禁止されている活性剤を使って超巨大なフライムへと成長させた。しかし、そのフライムは実験中に爆発し、研究所を丸ごと吹き飛ばしてしまったという事例がある。また、あるスパンタマッド学院の学者は、遺跡守衛の田畑を耕す能力をテストしようとしたところ、彼の改造した遺跡守衛が制御不能になり大量の農耕地を破壊し、さらには多大な人的被害を出した。他にも学術の偽造や、私利私欲のために知恵を働かせた事件などが数多とある…
このように教令を無視して他者に危害を加える学者は皆、セノが統率する「マハマトラ」たちによって捕縛され裁判の対象となった。
マハマトラたちと対峙したそういった学者たちは口を揃えて、研究費が絶たれた、教令院が不公平な扱いをしている、自分の研究が盗用された…さらにはマハマトラが自分の才能に嫉妬しているから研究の邪魔をするんだろう、と弁解や非難をする。
それらの詭弁に対して、セノは常に沈黙を保ったまま多言な罪人たちを取り押さえて裁判にかけるのだ。
教令に違反した者は、必ず口八丁に理由を主張するが、必ず同じ結末を迎えることとなる。


キャラクターストーリー2
大マハマトラのセノの名声は教令院だけに留まらない。
アビディアの森のレンジャー長いわく、大マハマトラが深夜の密林を無言で歩いているのを見たそうだ。アパーム叢林の外周部に住んでいる人は鮮明に覚えている。白い髪の少年が彼から飲み水をもらい、一人で荷物を背負って森の深くへ入っていったのを。ソベクオアシスで休息をとる冒険者は、セノに道案内をしたことがあると主張した。しかし、その行き先は魔物がはびこる地である。大赤砂海では無法な振る舞いをする傭兵や宝盗団でさえ、大マハマトラの前で問題を起こす勇気などない。法を犯した学者を匿ったことで砂漠の中に葬られた傭兵団の存在が、狂人たちの教訓となっている。
だが、セノの手に落ちた罪人たちからすると、大マハマトラに対する畏敬の念はまた別の事情が由来していた。
教令院から逃亡する際、罪人たちの大半はパニックに陥り、時には危険な状況に身を置かれて逃げられなくなる。しかし、それを捕らえに来たセノは罪人をそのまま危険な状況に置いておくのではなく、身の安全を必ず確保してから教令院に連れ戻し裁判を受けさせるのだ。
セノと共に大赤砂海を越えたことのある罪人が、審問の前に「なぜ、あのような行動を取ったのか」とセノに質問した。するとセノはこう答えたーー
「お前を裁けるのは教令のみ、俺の職務はお前を裁判にかけるため連れ戻すことだ。」
このヴァフマナ学院出身の学者は刑期を終えた後、セノと共に経験した冒険から『極悪人』という小説を書き、現在でも教令院では人気の読み物となっている。さらにこの学者はヴァフマナ学院の要請で講座を開き、彼の著書で「正義」が描写されている理由を詳しく語った。
しかし、セノによればこの本のいくつかのエピソードは「誇張されすぎている」そうだ。彼らはキングデシェレトの末裔が作った魔物に遭遇していないし、砂漠の底にある生きた迷宮に迷い込んでいない。巨大ワームのヒダで砂嵐を凌いでもいないという。
だが、少なくとも学者が本の中で記述している自身の罪に対する説明は、非常に正確で称賛に値するものであり、今後二度と繰り返さぬようにとセノは言葉を残している。


キャラクターストーリー3
教令院において、マハマトラたちの事務室の話になると学者たちはいつも顔を青ざめさせる。
マハマトラたちの「度重なる悪行」に加えて、学者たちをさらに不安にさせるのが、セノが事務室に足を踏み入れると中から背筋の凍るような乾いた笑いが必ず起こる点だ…
学者たちによれば、あれは間違いなくセノが誰を処罰するか決定し、マハマトラたちが満足している時の反応だという。
だが、実際はセノの独特なユーモアセンスのせいで笑い声が起きていることを、マハマトラたちだけが知っている。
「俺がかつて扱った案件だが、ある学者が論文を何度書いても審査に通らず、そのせいで巨大な学術的プレッシャーを背負っていた。だが、やつがとある論文を書いた時、審査委員を密かに買収してそれを通過させたんだ。しかし、その論文のデータはあまりにも杜撰で、あり得ないものだった。そのため、すぐに学術の不正改ざんが発覚して通報された。事件に関与したその学者を捕らえに行った時、やつは『一体何が間違っていたんだ』と俺に聞いてきた…」
一息の間を入れた後、セノは言葉を続けた。
「俺は『お前の論文が間違っている』と答えた。」
黙り込むマハマトラたちを見て、セノは今のジョークが通じなかったのかと少し心配になり、真剣な面持ちで説明を始めた。
「この話の面白いところはだな。その学者が言う『間違い』とは、そいつがプレッシャーに負けて審査委員を買収し論文を通した点だが、俺の言う『間違い』とはやつの論文自体が間違いだらけだったという点だ。このジョークの巧妙なところは、指示語がすり替わっているところで…」
彼の説明が終わるとマハマトラたちは顔を見合わせ、なんとも言えない苦笑いを浮かべたそうだ…
ぎこちない彼らの笑い声の中、いつもは殺伐としたマハマトラの事務室に奇妙な人間味が満ち始めていた。
この気まずい雰囲気が再び訪れないようにと、マハマトラたちはセノがジョークを言い終えた後、必ず全員で笑ってジョークの解説を始めないようにと示し合わせた。
セノの真似をしてジョークを言ったマハマトラは、他の者に食堂のチケットを没収されるなど厳しい手段をもって重い制裁が加えられる。
マハマトラたちのチームにおいて、「セノ」は一人で十分だということだ。


キャラクターストーリー4
セノは、マハマトラとは知識を求める者の敵ではないと常々思っている。
セノに教えを授けた学者ジュライセンはかつて、もし「知恵」が教令の制約を失ったら「災い」となることを彼に教えていた。
暴走した「知恵」は無知の海に浮かぶ餌となり、分別のない者たちを深淵へと引き入れる。
暴走した「知恵」は学者たちを傲慢で身勝手にし、畏敬の念を失うばかりか生命を蔑視して生死に対して妄言を吐き、世の中に取り返しのつかない傷を残す。
故に賢者たちは絶えず新たな教令を発布した。それは、教令院内の知識を求める者たちがそのような「餌」に導かれ、誤った道を進まないようにするためだ。
つまり、違反した者を逮らえて教令に従い彼らを裁くマハマトラたちは、教令院で知識を求めるすべての人々の「守護者」なのである。
しかし、学者たちが持つマハマトラのイメージは、暴力的な手段で知識を排除しようとする「破壊者」であった。
「脳みそが単純なヒト型キノコン」、「ミスター『禁止』マン」、「シュレッダー」…これらはいずれも学者たちがマハマトラに付けたあだ名だ。
だがもっとも有名なあだ名は、やはりハルヴァタット学院の学者が作った「教令駄獣!」だろう。
初めてそのあだ名を耳にした時、多くのマハマトラは怒りを覚え、学者たちがマハマトラの仕事を蔑んでいると感じた。
しかしセノは、このあだ名を逆にとても気に入っているという。
「マハマトラとは教令を背負って教令院を駆け回る『駄獣』そのものだ。」
「風紀監察権の執行中は、俺たちの誰もが自分の背負っている教令の重みを心に刻んでおかなければならない。」
そう言ったあと、大マハマトラはさらに付け加えた。
「…まあ、別の視点から言えば、責務を遂行するとき俺たちも駄獣のように他人と争わず、仕事を『妥当』に処理すべきだが。」


キャラクターストーリー5
教令院が建設されたばかりの頃、院内の学者たちは望むままに資源を使って、自身の想像力と創造力を発揮していた。
地形の改変、天候の制御、古代遺物の再構築…地上の知識だけで彼らの好奇心を満たせなくなると、一部の学者は星空や生死に干渉しようとした。
…しかし、それらの学識は当時の彼らに干渉できるようなものではなかった。
学者たちが学識のために自らを破滅に追いやらぬよう、賢者たちは六つの「根源の罪」を制定する。
彼らは、この世における万般の罪は六つの「根源の罪」によって、すべて引き起こされるものだとした。
その一、人類の進化にまつわること。
その二、生死に対して妄言を吐くこと。
その三、宇宙の向こう側を探究すること。
その四、言語の起源について追求すること。
その五、神明を畏れることなく奉らないこと。
その六、恐れを知らずに奥秘について語ること。
これら六つの罪に基づいて賢者たちは教令を制定し、続けて新旧様々な院内の規範を改定する。そして、マハマトラたちは教令に則り正義を執行した。マハマトラの監督のもと、学者たちも教令を大人しく遵守するようになった。
このように、教令院内の全員が法に従って自身の義務を果たしている。明晰な叡智と繁栄によって、教令院と学者たちは進歩を続けているのだ。
時が過ぎて状況も変わり、古びた六つの罪は人々に忘れ去られたのか、野心を抱く者たちが現れ始めた…
だが、現代の「大マハマトラ」であるセノにとって、彼がすべきことは何も変わらない。
彼はもっとも古いその「根源の六罪」に基づき、すべての違反者を公正に裁くのだ。
そう、賢者もまた然りである。


セノの「七聖召喚」カードケース
「七聖召喚」のデッキが入ったこのカードケースは、セノがもっとも気に入っている品である。
外装は高品質な革によって何重にも巻かれ、丁寧に縫合がされている。革のところの紐をしっかりと締め付ければ、ケース全体が完全に密封され、水滴ひとつ入る余地もない。さらに内部にはシルクが敷かれており、カードの角が折れるのを効果的に防いでくれる。店主によると、これらはすべて璃月から輸入したもので、霓裳花から織られた上質なシルクを使っているそうだ。しかも、このカードケースには頑丈なベルトが付いており、購入者は好きな位置にこのカードケースを簡単に固定できる。さらにケースの表面には「七聖召喚」のマークと購入者の名前が刻まれている。
セノは、自分が構築した最強のデッキをこのケースに入れていた。このデッキと共に戦う限り、自分は決して負けることがないと彼は信じている。
次にすべきことは、彼と対戦したい相手を探すことだろう。
…もしかしたら、あのレンジャー長なら少し暇をしているかもしれない。


神の目
セノが「神の目」を手に入れた方法について、教令院内では様々な説が流れている。
ある者は、「神の目」を模造する方法を研究していた学者を捕らえる命令を受けたセノが、その過程で得たと言っている。その学者は主のいない「神の目」を研究のために購入しており、それによってセノは手に入れたらしい。またある者は、セノが実はキングデシェレトの末裔であると唱えている。彼は小さい頃から大赤砂海のとある神殿に暮らしており、ある無名のヘルマヌビスの祭司に育てられたそうだ。その祭司がセノの武芸と精神を鍛え、準備が整うと彼に「神の目」を与えたという。そして、彼一人で砂漠を越えさせて教令院に向かわせた後、ヘルマヌビスの意志を遂行させていると説いている。またセノの「神の目」は、教令院の禁じられた技術と関係があると説く陰謀論もあった。でなければ、どうして砂漠の民が教令院であのような地位に就くことができるのか、と。
誰もセノに直接問いただすこともしなければ、彼自身もそんなおかしな流言に無駄な気力を費やそうと思わなかった。
実際のところ、彼が「神の目」を手に入れた経緯はとても簡単なものだ。
それは彼が「大マハマトラ」として着任する前日のこと。いつものようにマハマトラとしての仕事を終えたセノは、図書館に行き教令に関する書物を読んでいた。彼ははっきりと覚えている、その日、彼が読んでいた本は賢者たちが総括した「六つの罪」について述べたものであった。賢者たちによれば、それら罪は数々の罪悪の根源であり、現在の教令院における様々な教令の基礎は「六つの罪」から派生したものだという。彼が「恐れを知らずに奥秘について語ること」の罪を論述した章節を読んでいた時、いくつか内容の理解できないものがあった。そのため、彼は目を閉じて知恵を絞り深く考え込んだ。彼が目を開けると、「神の目」が本のページの上に横たわっていたという。
セノは「神の目」をじっくりと観察し、考えに耽った。彼はまず、既存の教令に「神の目」を授けられることを禁じた条項がないことを確認し、「神の目」に関するいくつかの学術的事例を調べ、この「神の目」が悪意を持った罠でないことを確信する。そして、自分が「大マハマトラ」となった後に直面するであろう課題と、この「神の目」が自分に与えてくれる力について熟考した…様々な判断を繰り返し、最終的にセノはこの神からの贈り物を真摯に受け取ることを決意した。
彼が考えを終えた時、窓の外には朝日が上り始めていたという。セノは「神の目」とまだ読み終えていない本を手にして図書館を去り、「大マハマトラ」の着任儀式の場所へと赴いた。
すべてが順調に進めば、彼は三十分後に教令院の新たな「大マハマトラ」となる。
彼にはまもなく神聖な裁決権が授けられ、そしてその「神の目」は神聖な権力のもと職権を円滑に行使できることを保証していた。