聖遺物/物語

Last-modified: 2022-09-27 (火) 14:36:28

武器片手剣 | 両手剣 | 長柄武器 | 法器 | || 武器/物語
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物語:キャラ/ア-カ | キャラ/サ-ナ | キャラ/ハ-ワ || 武器物語 || 聖遺物/☆5~4 | 聖遺物/☆4~3以下 || 外観物語
図鑑:生物誌/敵と魔物 | 生物誌/野生生物 | 地理誌 | 書籍 | 書籍(本文) | 物産誌


聖遺物/物語/2

☆5~4

剣闘士のフィナーレ

詳細

剣闘士の未練
伝説の剣闘士がなぜこの花を胸につけたか誰も知らない。これは残酷な戦士にある唯一の弱点だ。

元々は普通の小花。剣闘士の優しい主に採られた。
剣闘士の胸につけると、それは戦士の最も優しい部分になった。

剣闘士がまだ伝説になっていなかった時、幼い主と荘園を歩いていた。
昔、主がついでに一輪の小花を採って、無言の奴隷に送った。
「恩賜は報酬とは限らない。ただの気まぐれかもしれない」
数年後に、狡猾な主は笑ってこう言った。

無敗の戦士は異国の少女に倒され、ふと思い出した。
数年前に自分も夢見ていた。
「美しい花だな。いつかまた見たい」
「野に咲く花はどんなものかな」


剣闘士の帰着
ハヤブサのように飛ぶ夢の羽根、自由の鳥は彼の心にこの羽根を落とした。

常勝の剣闘士は結末を迎えた。
若い相手が彼に最後の敬礼をした。

勝利の虚飾、自由を取り戻す渇望が露や朝霧のように消えていき、
血の雲からは曙光が漏れ、剣闘士は鳥を見た。

自由を取り戻すまであと1勝の剣闘士は、予想外にも無名の少女に負けた。
観客の怒りと悲しみの声が暴風と稲妻のようであったが、勝者は恥辱の処刑を断った。
彼女は最後まで敗者の喉を突き通さなかった。奴隷を処刑するようにとどめを刺さなかった。

血が固まった傷口に形のない羽根ができて、
戦士はやっと自由な鳥のように、
花が自由に育ち、鳥が舞うところへ旅に出た。


剣闘士の希望
剣闘士が戦場にいる年月を記録した時計。本人にとって、それは自由への道の象徴でもある。

剣闘士は自分のためにこの砂時計を作った。戦う度に砂時計をひっくり返す。
砂時計がひっくり返せなくなった時、剣闘士はもう血の海に倒れていた。

剣闘士は闘技場に入場する前、いつもこの時計を傍らに置いた。
決着がついて、歓声が沸き起こった時に、砂はまだ完全に下部へと落下していなかった。

それは剣闘士の最後の戦いで、相手は新人の少女であった。
彼女の目に、彼は怯えを感じた。幼い獅子のような凶暴な目つきを感じた。
そして彼女は、彼の歩き方から、時の流れという重い鎖に縛られる苦しみを感じた。
戦闘は激しかった。歳を取った勇者は若返ったように戦いを楽しんでいた。
だが冷たい刃が心臓を刺した時、砂時計の砂も何もかも無音のまま決着がついた。


剣闘士の酩酊
古代の剣闘士が勝利の酒を楽しむ金の盃。盃には彼の歳月に満ちていて、彼が倒れる最後の時まで。

飾りが華麗な金盃、元々は主から剣闘士へのご褒美であった。
無敗の戦士はこの金盃で、美酒や戦士の血を飲んだりした。

剣闘士はまた勝利をおさめた。傷だらけの彼は勝利を主に捧げた。
勝利、栄光、拍手喝采は美酒よりも酔いやすく、体の痛みを忘れさせてくれた。

主は同席を許し、さらに盃を彼に賜った。
あれは特別な盃であり、優しい気持ちに満ちた証でもあった。
虚飾は黄金の鎖のようであり、詩情は骨を蝕む毒である。
英雄は勝利のお酒に躊躇し、自由を取り戻す好機を見逃した。


剣闘士の凱旋
古代伝説の剣闘士の兜。数え切れないほど敵の鮮血を浴び、数え切れないほどの歓声を浴びた。

古代モンドの伝説の剣闘士の兜。目立つ羽根がたくさん施されている。
狂熱の観客にとって、この兜は百戦百勝の象徴である。

伝説の剣闘士は一千以上の死闘を経験した。人類や魔物は彼の剣に一度も勝てなかった。
恒例の凱旋式に、常勝の剣闘士は英雄が城門を通るように観客の歓声を浴びていた。

勝利の時だけ、奴隷はまるで主のように扱われていた。だが自由の輝きは虚飾の歓声に覆われた。
凱旋の時、戦士は監獄の外の世界に美しさを見た。自由を取り戻す希望がまた増えた。

だが、英雄の兜が地面に落ちた時、観客と剣闘士は気づいた。
ただの奴隷の安い命をかけても、主の歓心は買えなかった。

大地を流浪する楽団

詳細

楽団の朝の光
小さい花の形をしたバッジ。耳をすませば、笛の音や歌声を聞こえるかもしれない。

小さな花形の徽章。中から音が聞こえるらしい。
流浪楽団に颯爽とした剣士がいた。
水面に映る霞光よりも清らかで美しかった。夜明けを知らせる雀のように優雅であった。
彼女が剣を振るうたびに、笛の音と歌は風と共に舞い上がる。

その曲、その舞は雨のち晴れのようであった。
全てが落ち着き、舞台の上も下も静寂であった。

彼女が手にすれば、音楽も剣も同様に美しく、武器として非常に強力であった。
これは流浪楽団の演奏、観客は2種類に分かれた。
目の前の観客は悪党であった。だが楽声は遠い舞台の外まで届いた。


琴師の矢羽
青藍色の矢羽、長い年月の中で少しも色褪せない。水の流れのような琴の音さえ聞こえるようだ。

凛とした藍色の矢羽、いくつもの苦難を超えて今に至った。
向かい風の環境では、矢羽の先から音が漏れるらしい。

流浪楽団の琴師は同時に優れた弓使いでもあった。
伝説によると、彼は優しい琴声で鳥を惑わせて射落としたらしい。
鳥のために死の曲を作る時、琴師はいつも目をつぶっていた。
それは楽師の自矜だと思った人がいたが、仲間はそれを狩人の慈しみだと思っていた。

琴師が矢羽に、可哀想な犠牲品を飾ると、
澄んだ琴声は死を告げる無情な哀声になった。


フィナーレの時計
楽団の演奏に使用されていた砂時計、きちんとした音を出していたが、彼らのパフォーマンスはとうに幕を閉じた。

流浪楽団の砂時計、本体は一張の琴である。
時間が経つにつれて、どんどん音が濁っていく。

毎回演奏が終わる前に、流浪楽団はハープを奏でていた。
時を経て、ハープの音もどんどん濁ってきた。
低音が空気の中に消えてなくなって、楽団の演奏にも終止符を打たれた。

天下に終わらない宴会はないように、楽団にも終点があった。
運命に抗えなかったメンバー、砂に埋まった楽器。
やがて楽団の時計はフィナーレを演奏した。


吟遊者の水筒
変わった形をした水筒、内側に弦があって、水の流れと共に旋律のない音楽を奏でる。

変わった形をした水筒。水の流れと共に旋律を奏でる。
楽団のメンバーは水を飲む時でも音楽を忘れない。

古い伝説によると、流浪楽団は剣を持って世界を歩いた。
相手が観客でも敵でも、彼らは剣や弓を笛や琴として使っていた。
悠々と砂漠を歩いたり、燻っている残り火の海に足を踏み入れていた。

水筒の琴声はずっと彼らに言っていた。
「我々の足跡は果てのない音律と同調する」
「音楽があるところに我々がいる」


指揮者のハット
長い年月を経ても、輝きを失わない礼帽。古い滑らかな音楽の音さえ聞こえるようだ。

美しい礼帽、時を経てもその美しさは変わらない。
よく聞けば、古くて抑揚のある音が聞こえる。

千年前に、大地を流浪した楽団があった。
楽団は楽譜がなかった。見たことを歌って、聞いたことを奏でた。
やがて楽団の人はこの世界の広さに気づいた。

「ああ。世の中に、歌にできるものがこんなにいっぱいあるとは」

メンバーたちは音符を言語として、見たことや聞いたことを記録し始めた。
死んでも楽章を手放さなかった人は指揮者であった。

雷のような怒り

詳細

雷鳥の憐み
災難の日に紫炎の怒りから逃れ、災禍の生き残りとなった雷色の花。

山を燃やした火の灰燼の中にあった紫色の野花。
古い部族の滅亡を見てきた。

ある年の祭りで、シャーマンは無辜の人の血で雷の雷鳥*を呼び寄せた。
部族の者は、雷鳥が奉納品を快く受け取ってくれると、いつものように御神託を頂けると思った。
だが、彼らを待っていたのはそれとは異なり、滅亡を告げる狂雷であった。

偶然聞こえた歌声に報うために、少年のいた一族に残酷な復讐をするために、
雷の魔鳥は恐ろしい一面を見せた。この矮小な部族の存在をこの大地から完全に抹消した。


雷災の生存者
雷の羽根は雷の魔鳥が与えた残酷な罰の証、落ちた羽根にその怒りを表す雷光がちらつく。

雷の魔鳥が落とした羽根、紫色の艶を放っている。
滅ぼされた部族が存在した最後の証かもしれない。

古い部族は雷鳥を守護神としたが、雷鳥は古い部族を滅ぼした。
ある愁いの夜、雷鳥は少年と無垢な友情を築いた。
魔鳥が帰った後、偶然落とした羽根を少年が拾った。

「また雷雨と一緒に来た時」
「他の歌を歌ってあげる」

果たされなかった約束に、魔鳥は悔恨し発狂した。
そのまま灰燼となった山から遠く離れる。
そして数年後、魔鳥は世を乱す妖怪として討伐された。

時を経て、焦土だったこの場所に、再び青々とした木々が芽吹いた。
雷の羽根が草木の間に埋まっていた。
雷鳥と少年の物語は部族と共に無に帰した。


雷霆の時計
雷鳥を信奉する部落が天空の雷の主が降臨の予告に使われた砂時計。一族の終焉によって永遠の静止に陥った。

飾りの華麗な砂時計、雷鳥を崇拝する古い部族が所有していた。
だが部族は滅ぼされ、この砂時計の存在も忘れられた。

紫色の水晶と琥珀金で作られた華麗な砂時計、元々はシャーマンの時計であった。
雷の魔鳥が降臨する季節、この砂時計は祭りの時期を知らせてくれる。

最後の祭りでは、発狂した雷鳥が血に染まった祭壇をひっくり返した。
守護神の降臨を告げる時計が雷霆を招く弔いの鐘となった。
雷霆の巨鳥は1人の歌のために、部族の者に滅亡の災いを下した。

だが雷鳥は知らなかった。少年は自ら犠牲を選んで命を捧げたことを。
部族が巨鳥から恩賜を頂けるように、少年は自らこの苦しみを背負う道を選んだ。


落雷の前兆
鮮血が注がれた儀式の杯、雷鳴が中に響き渡るように願う。最終的に雷のような怒りが溢れていた。

古い部族のシャーマンが使う祭祀用の盃。
生贄の血を雷の魔鳥に捧げるためのもの。

雷鳥が空を飛ぶ季節、雨が降る山で1人の少年が恐れずに歌っていた。
孤高な雷電の魔鳥は少年の澄んだ歌声に惹かれ、静かに彼の隣りに舞い降りた。

「面白い歌だ。お前、小さき人間、雷霆と暴雨を恐れないか」
「一族の大人が言った、私みたいな子供は雷災を鎮め、暴雨を慈雨にできると」

少年は歌うのをやめて、雷鳥の質問に答えた。
雷鳥は誇り高く唸り、何も言わなかった。
それが美しく心に響く歌声であったから。

それは天と地ほどの差がある幼い生贄と雷鳥の最初の出会いであり、最後の出会いでもあった。
雷鳥が再び少年に会った時、目に見えたのは高く建てられた祭壇と金盃の中の血であった。


雷を呼ぶ冠
雷の魔鳥を崇拝した古代のシャーマンが被っていた冠。純粋な信仰は気ままに生きる魔獣を感動させることはなかった。

雷の魔鳥を祭る古い部族。
人徳のあるシャーマンが戴いた冠である。

雷霆の中を飛ぶ鳥は、紫電と雨をもたらし山を潤し育てる。
愚かな部族の人々は彼の恩賜に感謝し、彼の力を恐れた。
故にシャーマンを選び、血の祭りにより神の守りと許しを願った。

雷鳥は所詮魔物であった。人の崇拝は無意味であった。
だが人々はそれが分からずに、雷鳥の気まぐれを天啓と捉えた。
雷霆は彼の呼吸、人の生死のようなものであった。
空を飛ぶ雷鳥にとって、人の命は獣と同じもの。

しかし、澄んだ歌声が雷雨を貫いたあの日まで、
雲を切り裂き、小さな光が彼に届いたあの日まで。

雷を鎮める尊者

詳細

雷討ちの心
雷霆の中に咲き誇る花、今でも雷雨の中を行く人々に勇気を与える。

雷雨の中で採れた小さな紫色の花。
つけると雷を恐れなくなる。

紫電の中で咲いた花、雨に打たれ続けたが、枯れたことは一度もない。
これは雷電の花、雷獣討ちの尊者が跪いてこの花を採った。

勇者はいつもこの花を胸につけて、雷に向かった。
雷の魔獣との死闘中でも、この花は揺れなかった。
尊者にとって、この紫色の花は気まぐれで採った花であったかもしれないが、
冒険する旅人にとっては、雷を克服する揺るぎない決心である。


雷討ちの羽根
伝説によると、雷電を退治した英雄が使用していたバッジ、狂雷の中を飛ぶ猛禽の羽根でできたらしい。

鷹の羽根模様の徽章。雷を突き抜けるハヤブサの羽根に倣って作れ*られたもの。
胸につけると雷と山の火の息が感じられる。

雷や山火事を恐れないハヤブサが、
焼け焦げた森に残した羽根。
勇者はその羽根の形に倣って、紫色の水晶でこの徽章を作った。
敵と対峙する時、紫色の羽根がピカピカと光って、
小さい徽章についている眩しい電光の龍が散っていく。
雷の魔獣が裁きを受ける兆しのようである。

勇者は雷や炎を恐れないハヤブサのように、
雷電の魔獣の首を切断した。


雷討ちの刻
雷電を退治した勇士が使用していた時計、中の雷の結晶は雷電のように過ぎていく時間と共に落ちていく。

砂の代わりに雷の結晶を使った砂時計。かつて尊者が使用していた。
結晶は時間が経つにつれて、砕けて落ちる。そしてまた下部に溜まって一つになる。

雷の魔獣を殺した勇者は紫色の水晶でこの砂時計を作った。
時間の流れは雷のように、一瞬で消えて行き、追いつかない。
雷獣討ちの尊者でも、時間という仰天の雷には敵わない。

砂時計に囚われた雷でさえも、永久の時間の法則に抗えない。

水晶は何度も砕け、そして一つになるが、時間は電光の中で消えていき、そして戻らない。
万物の盛衰の道理は、勇者の魔獣討伐が鍵となった。


雷討ちの器
雷討ちの勇士の盃。雷の魔獣を退治した英雄がこの盃を使って紫電を飲んだらしい。

雷を鎮めた尊者が使っていた酒盃。
もしかしたら前の持ち主は紫電を飲み物としていたかもしれない。

魔獣を虐殺する尊者も普通の人と変わらずに喜怒哀楽がある。
ただその感情は雷のように急に現れ、また急に去っていく。
雷を鎮める男を見届けてきた紫色の酒盃に全ての喜怒哀楽がこもっている。

家族が生贄に選ばれた時の祭酒も、
酒を飲んで、勇気を出して魔獣の巣窟に行った時も、
そして尊者の最期も、この酒盃は共に過ごした。


雷討ちの冠
雷討ちの勇士の冠。古き英雄が大地に害をなす雷の魔獣を倒して獲得した冠である。

非常に古い紫色の冠。
雷を征討する光を象徴している。

昔、暴虐の雷の魔獣が、
雷霆の如き暴政で人を統治した。
だが一瞬で消えていく雷のように、
魔獣の死後は、彼の威厳もすぐ散っていった。

勇者は雷を耐えながら、魔獣の爪を祈って、
この雷獣討ちの冠を手に入れた。
しかし過ぎ去った過去には戻れない。

翠緑の影

詳細

野花の記憶の草原
かつてある場所に咲いた野花、大地を離れ、狩人の胸につけられた。

かつて大地の至るところに茂った真っ白な野花。
枯れることなく、未だに清新な香りを放っている。

獲物が大地に無数に存在していた昔、魔物はまだ誕生していなかった。
狩人は今は名も知られていないこの野花を使って、自分の匂いを隠した。
この時代、こんな噂があった。もし無言で優しくて孤独な狩人に会いたいなら、
淡い野花の香りを追って、裸足で目を閉じたまま、林間と野原を歩けばいい。
狩人のように歩かないと、落ち葉を踏んでしまってすぐ狩人にバレるから。

もう一つ噂があった。やっと見つけた狩人は少年であった。
当時の古国は災難が始まったばかりで、人々は塗炭の苦しみを味わっていた。


狩人の青緑色の矢羽
一瞬で獲物を貫通した矢羽、今でも綺麗に整えられている。

艶々した猛禽の羽根。矢羽の製作に最適な材料である。

昔、狩人は矢に射抜かれた獲物の命が大地に還るまで、
何度も何度も獲物を宥めていた。彼女は分かっていた。
獲物の還った場所に、自分もいずれ辿り着くことを。

優しい狩人は命の終わりに現実から目覚めて、
果てのない猟場で、もう会えない人たちと再会できると信じていた。

しかし彼女も分かっていた。少年を殺そうとした魔物を射抜いた後、
彼の願いを聞いた自分はもう、復讐のために、
他人の仇を取るために、苦痛のために、歪な魔物を狩っていると。
自分は既に、信じていた命の最後にある果てのない猟場に行く資格を失っていたと。


緑の狩人の決心
狩人が持ち歩いていた奇妙な機械、永遠に獲物を指す。

変わった構造をした小さな装置。方向と方位を教えてくれる。

伝説によると、狩人が裸足で野原を歩いていた時に、
足の下の草や、泥の中の根に聞いたこと、
木に止まっていた雀が見たことを彼女に教えてくれたらしい。

古国に災難が訪れてから、草木は喋れなくなった。
それは草木を司る神が災難で亡くなったから。

以降、彼女はこの機器に頼って、大地での狩りを始めた。
少年に頼まれてから、彼女の獲物はもう鳥や獣ではなく、
古国から災いと苦痛をもたらす魔物であった。


緑の狩人の容器
緑の狩人が使用していた革水筒、中の空間は想像よりもずっと大きい。

非常に頑丈な容器で、密閉性に優れる。
伝説によると、狩人は篝火で休憩している時の内緒話をこの中に入れた。

狩人はかつて、深夜の野原で他人の匂いを嗅いだ。
狼の群れと魔物を相手にしても恐れなかった彼女だが、
他人の会話に参加する度胸はなかった。
あの時の狩人は既に人間の言葉の発音を忘れていた。

たとえ彼女が人に頼まれて、緑の魔物狩人になっても、
彼女の話すところを誰も見たことがない。彼女が行動の痕跡を一切残さないように。

……ある夜、彼女は自分の笑い声を革水筒に詰め込んだ。
時折、彼女は寂しいと感じると、必ずその笑い声に耳を傾ける。


緑の狩人の冠
かつて緑の狩人が使用していた自慢の冠、野原の風のような青緑色が特徴。

血に染まったことのない狩人の帽子。
無冠の狩人の王と呼ばれた者が所有していた。

狩人の基本は大地や森を敵に回すことではなく、
大自然に溶け込み、一体化することである。
かつて鳥がこの帽子に巣を作ったらしい。

誰も最も優秀な狩人に冠を授けることができない。
彼女より偉いのは自然の天地だけであった。

自然を象徴するこの帽子は、
やがて魔物に恐れられる光景となった。

愛される少女

詳細

彼方にある少女の心
永遠に咲く花、長い時を経ても枯れずに香りを放ち続ける。

淡くて優雅なピンク色の花、未だに瑞々しい。
本の記載によると今は絶滅品種になっている。

少女が読んだ物語に何度もあったように、
救われた少女とまだ純白であった騎士が、
互いの花と祝福を交換した。

少女の心は通常、花のようにすぐ散っていく。
この花だけが、未だ瑞々しい状態を保っている。
それは彼女の心があの時に止まったから。
少女が初めて彼女の騎士に出会った頃に。


少女の揺らぐ思い
誰かの思いを乗せた羽根飾り、まるで風と共に遠くへ去った渡り鳥のようだ。

精巧な羽根の飾り。
時を経て、羽根に結構な埃が溜まっていた。

騎士に出会った日、少女の運命は終わった。
青春、恋愛、これらのために今を生きることはできない。
届かぬ思いは、巣を探し彷徨う鳥のように永遠に漂流する。

この思いは、
あの騎士道に溺れている騎士の心に届くだろう。
滅亡した古国にいる騎士に、
彼女が夢見た景色は届くだろう。


少女の短い華年
時計の針に終点はないが、少女の愛される歳月はそうではない。

精密な器具。持ち主の気持ちを考えず、
物事の変移を永遠に示している。

少女の時間は限られていた。
だが彼女の待つ時間に限りはなかった。
懐中時計の秒針がぐるぐると回りに回った。
持ち主の思慕と思い出も同じであった。

時が経っても、彼女はまだ覚えていた。
数年前に出会った純白の騎士のことを。


少女の暫く息抜き
酒ではなく紅茶の容器。中は苦い味ではなく甘い味である。

少女がずっと気に入っていたコップ。
上品な紅茶に満ちていた。

悠々とお菓子やお茶を楽しんでいる。
世の中から離れて暮らせるのは少女の特権である。

「俺の褒章はこの花で。それでいい」
騎士と出会った日に、騎士はこう言った。
「でも私の心はもう」
それを口にしなかったのは、彼女の特権であり、
少女の矜持でもあった。


少女の儚き顔
丁寧に手入れされた帽子、目じりの皺をも完璧に隠せる。

求愛者と花に囲まれても、
少女は一度も礼帽を外さなかった。
名前と顔を覚える必要すらない人たちの顔は見もしなかった。

長年、彼女は眠りにつく前に、
礼帽についた埃を払っていた。
だが顔に溜まっていく埃は拭えない。

求愛者と、贈られる花束の数は時間が経つにつれて減っていったが、
彼女の心は過去のある日に留まった。

悠久の磐岩

詳細

盤石芽生の花
磐陀巨岩に咲いた金石の花。花びらが風と踊り、生気が宿るように感じられる。

硬い岩の隙間から花が咲き、
それは岩の精が集まる美しき生命。

民の間でこう言う話しが流れた。
昔、誰かが岩君に、枯石に命はないと言った。
すると岩君は金色の花を、岩の中から咲かせた。

岩の神が誠にこのような諸行を成したことがあるかもしれない、
若しくは、この地に散らばった無数の伝説の一つにしか過ぎない。
しかし、怒りの海に向き合って、
高い山に成長するのは、
こうこう*いった眩しき花であろう。


嵯峨連山の翼
磯岩巨鳶の硬い羽根、玄石の羽先が露を凍らすことがたまにある。

山の峯に残された片羽は、
青色の頂のように鋭かった。

天地がまだ今の形ではない古代、岩君が山を抜いて巨鳶を作ったと言われる。
鳶は玉と岩で作られ、形を取ると空へ飛び立ち、
九天まで至り、数多くの山峯を彫り出した。

そして、岩の鳶は海へ飛び、
槍のように落下し、
海獣へと沈んだ。

今も海の岩柱が鳶たちを吸い寄せていると言われる。


星羅圭玉の日時計
丸一枚の圭璧を彫って作られた日時計、模様は無数の星が連なっているように見える。無言のままに時間の流れを記録している。

崖で彫られた日時計は、
黙って光と時間を追う。

いかに硬い岩であろうと、結局時間の流れで崩壊し、砂になってしまう。

伝説によるば*、岩君は星を時計に作り、先祖たちに時間の大切を教えた。
時間が経ち、日時計は人間界に流れ込み、まだ書生であった昆吾の手に入った。

「少年は幼き時から学問を学び、須弥山へ辿り着くことを願った」
「偶然に時計を手に入れ、その精密さに驚き、毎日手放さなかった」
「少年は遂に師と分かれ、時計の主に挑むため、匠の道を選んだ」


危岩盤石の杯
華麗さと荘厳さを併せ持つ杯、千年前は美酒に満ちていた。

山の岩で杯を作り、
中に注いだのは至高の酒。

玄石は極めての硬さでなければならなく、水晶も極めての玲瓏さでなければならない、
世間の歩くには、極致の快楽を求めるべし。

昔、民の間で岩王帝君の飲酒についての話しが流れていた。
岩王は玉碑を骨にし、
玉釧を胆にして、酒の杯を作った。

杯は元々七つあるべきだと、古籍を知る者が言った。


不動玄石の相
玄石を彫って作られた荘厳な仮面、形のない両眼が冷たく永遠に前方を凝視する。

伝説によるば*、神魔が混戦する時代、岩神は殺戮の相を見せたと言われる。
神たちの争いで、岩神から優しさを見出すことはできなかった。

いつも正しい判断をつけることができて、反目した友人にも冷静に刃を向けることができた。
伝説時代の岩王帝君の顔に、一つの波乱が起きることもなかった。

その岩のような顔を取り外したのは、すべてが落ち着いてからだった。
そしてそれも、「契約」を守るためであった。

逆飛びの流星

詳細

夏祭りの花
永遠に咲き続ける造花、その中には命が宿っているかな?

永遠に満開する夏の花、
氷雪に埋められても萎えることはない。

ある者はそれが偽りの偽造生命であると誹謗した。
従来、命というのは変化であり、苦痛であり、成長であり、
いずれ訪れる死亡にある。

だとしても、あの夏祭りで彼女と見た花火、
空中できれいに咲いてまた消え去った記憶、
あの細長い狐の目をもって、突然離れた女は、
この彼女が残した散らない花しか覚えてないでしょう。

結局、ある命は
この花のように不朽で、
多数の命は瞬間の花火でしかない。


夏祭りの終わり
精巧な木製ダーツ。終点に着くまでは止まらない物。

木で作られたダーツは夏祭りでよく見かける。
稲妻の志怪小説では、
人と非人のものがであう物語があった…

妻の妊娠を祝うために、神社へ願ほどきに行った。
けれど知らないうちに、
七歳の水風船と、十七歳の狐面、
百年も散らない花を持っていってしまった。

どうしてまだ彼女に会いたい、
媒酌の仲でもないし、生活が貧しくても、
長い時間う*をかけて、跡継ぎができたとしても、
生活に満足しているはずなのに――

途中で、私は寄り道で昔彼女と花火をみた場所に行った。
木立を分けて、彼女がそっと石の上で座っているようだった。
近くにいくと、ただひなたぼっこをしている狐であった。
私の足音を聞いて、奴は跳びあがって森に走った。
木の葉から光る白斑のように、ちらちらっと消え去った。
私はもっと近寄って、石の上に残された古い木のダーツを見かけた。


夏祭りの刻
ある時間に止まった懐中時計。

精美な部品を飾った懐中時計。
しかし、ある時間に止まった。
稲妻の志怪小説では、
非人のものとであう物語と関わっている…

夏祭りの夜に、好きな少女と参道を歩いた。
かすかに、私は迷子の泣き声を耳にした。
恍惚して、足を捻挫して、懐中時計も壊れた。

彼女が薬を取りに傍を離れた。
私は通行人の道を避けて、
道端の岩で休憩をとった。
面を被った麗しき女性が隣に座った。
「ここは人が少ないね」
「花火を見るいい場所だわ」

ただの夢かと思った。
十年ぶりの再会だったが、
十年を過ぎても全然老いてないが…

「お主も大人だし、風船釣りは止めておこう」
「どうだ?酒を持ってきてぞ*、一緒に花火を見るか」


夏祭りの水風船
夏祭りでは水風船がよく見られる。しかしこれほど精巧な水風船はこの一個しかない。

水を盛った精巧な風船。
稲妻の志怪小説では、
非人のものと出会う度に得られる記念品である…

夏祭りの人波で両親と離れた。
水風船が見たくて、
父の手を放しただけなのに。
神鉾を運ぶ人は私たちをかき分けた。

私は参道の端にある鳥居で泣きながら、
登山する通行人の足を数えた。
いつごろから傍に立っていた、
狐のような美しい女性が私の手を取った。

「こんなに可愛い子を置いとくなんて、酷いわ」
「どうだい?花火とダーツと風船を見に行こうか」


夏祭りの仮面
伝説の神のイメージを元に作った仮面、とても流行っているもの。

神の相を凭す。
伝説の神の外見を依拠して作った面。

狐の姿で、現世の神の姿で、
顔を隠す者がたえずにいた。
恐らくその変化万端を羨望していたんだろう。

稲妻の伝説で、八百万の神がいた。
――誠であるとしても、
恐らく大多数は将軍の威圧の下で、
町から離れ、森に隠れたんだろう。

しかし、人はあいかわらず狐凭きを、
千年の年月が動物を仙にさせることを信じた。
だから、この狐面が代表するものも信じた。

面の後ろには秀麗な字で言葉を残した。
「花火の音に隠れて離れてすまない」
「もう二度と会うことはないであろう。お大事に.*」

燃え盛る炎の魔女

詳細

魔女の炎の花
かつて世の魔物を全て燃やそうと夢見た炎の魔女が触れた花、名も無き炎は触れた人を優しく舐める。

花の品種から言えばごく普通の花。
だが炎の魔女の燃焼に抵抗し続けている。

百年前の災難が起こった時、少女は結んだ約束を全て失った。
大切な人たち、思い出の時間、輝く未来、何もかも失った。

煙と余燼の中から、炎の魔女が誕生した。彼女は炎で全ての痛みを消した。
だが、この花はなくならない。ずっと生き生きしとして柔らかく瑞々しい。
多分その中にある苦痛と美しい思い出は、彼女の2つの内面を表すものなのであろう。


魔女の炎の羽根
かつて世の魔物を全て燃やそうと夢見た炎の魔女が触れた鳥の羽根、常に烈炎と同じ温度を保っている。

止むことを知らずに燃え続ける赤い羽根。
どんなに燃えてもなくならない。

地獄の炎の道を歩んだ彼女、その野原には灰燼しか残らない。
たとえ彼女が焼き殺したのが人に害を加える魔物であろうと、彼女の火を見た人は、
ドアと窓を閉めて、炎の魔女を遠ざけた。でも彼女は気にしなかった。

全ての苦痛を焼き尽くさないと、新たなる希望はないと彼女は思った。
理解はいらない、人の慰めはいらない。人の同情もいらない。
炎の魔女の沈黙を理解できるのは隣の鳥だけであった。。*


魔女の破滅の時
かつて世の魔物を全て燃やそうと夢見た炎の魔女が使用していた時計、中に流れているのは魔女が炎に捧げた歳月である。

熱い溶液が流れる小さな器。
伝説によると、溶液の正体は融解した邪霊である。

燃える魔女がまだ少女で、災いがまだ起こっていなかった頃、彼女が遠足へ出かける前に、
もらった特製の水時計。時計が一周回る時間は、彼女が教令院で勉強する時間と同じである。
時計が一周回って、彼女が故郷に戻った時、時計をくれた人はすでに災いの糧となっていた。

少女の時間はこの瞬間に静止した、そして炎の魔女の破滅の時が始まった。
世の全ての魔物と、魔物による苦痛を焼き尽くすまで。


魔女の心の炎
かつて世の魔物を全て燃やそうと夢見た炎の魔女が残した流火の甕。中の炎は消えない、まるで魔女その人のようだ。

透き通った琉璃瓶。中には液体の炎が流れている。
液体の炎の作り方は、今はもうその伝承が絶えてしまっている。

炎の魔女は各地を旅し、猛烈な灼熱の炎で魔物を焼き殺した。
彼女が人間をやめたとか、体に流れているのは血液ではなく液体の炎だと言う人がいた。

だが、彼女もかつては少女であり、心には愛と思慕の念があった。
一本の火が、少女の心にあった全ての美しくて弱い部分を焼き尽くした。
その後、彼女は歴史学者が記録するのも忌避する魔女となった。


焦げた魔女の帽子
かつて世の魔物を全て燃やそうと夢見た炎の魔女が被っていた帽子。広いツバは彼女の視線を隠した。

つばが大きく、先の尖った伝統的な魔女の帽子。
畏敬と恐懼の視線をもたらしてくれる。

炎の魔女にとって、このような大きな帽子は周りの混乱を遮断してくれる。
まだ学生だった頃、この帽子のお陰で彼女は一心に炎の力を鍛えることができた。

戦闘に身を投じた後、この帽子のお陰で、烈火に飲まれて灰燼になった魔物の顔を見ずに済んだ。
この帽子のお陰で、水面に映った自分の顔を、煙と烈火によって焦げた顔を見ずに済んだ。

魔女はこうして盲目的に焼き続けた。

烈火を渡る賢者

詳細

火渡りの堅実
烈火の中で咲く花、古代の知者はそれをつけて火の海に入ったらしい。

烈火に燃えてから咲く花。
灼熱の痛みでつける者はどんどん強くなる。

火のように赤く染まった花。キラキラ光るメノウのようである。
この火を浴びた花を、火の上を歩く賢者が胸につけた。

火渡りの賢者は最期、人々にこういった。
「これが烈火に燃えてから咲いた花。もし私が灰燼になれなかったら」
「熱い波と黒い煙の中で、必ずこの花は余燼の輝きを放つ」

その後、人々は輝きを追って、マグマの海の淵に辿り着いた。
だが賢者はもういない。残ったのは余燼の中で咲いている花だけであった。


火渡りの解放
火を浴びる孤高な鳥の羽根、炎の中で羽ばたく音が聞こえる。

猛火を浴びた高く鳴く鳥の羽根。火渡りの賢者が手に入れた。
つけると野火に羽ばたく音が聞こえるらしい。

伝説によると、生まれつき孤高な鳥がいるらしい。この鳥は火の中でも歌う。
民衆は鳥を崇拝し、君主は宝として大事に扱った。

火山の地の賢者は鳥の羽根をつけて、烈火に身を隠した。
孤独に生まれた彼は孤独に還って、そのまま行方不明になった。
それ以来、静かなマグマの奥から鳴き声が聞こえる。

あれは猛火を浴びた鳥の鳴き声か、それとも火渡りの賢者の愁吟か?


火渡りの苦しみ
光る熱砂が流れる砂時計。砂は流れていき、何の烙印も残さない。

この砂時計の中身は普通の砂ではなく、輝く熱砂である。
時間は熔流のように、何の跡も残さず流れていく。

これは賢者がマグマの海を渡った後の物語である。
伝説によると、彼はまた100年に渡る隠者生活を過ごした。
だがそれは深い苦しみから解放された一時的な時間に過ぎなかった。

賢者は永久の灼熱に耐えられずにこの砂時計を作った。
天を突き上げる火焔の中で、赤い熱砂が行ったり来たり。いつもと変わらない。

可哀想なことに、燃える烈火に耐えた賢者は時間の流れに耐えられなかった。
全ての弟子、家族を遠ざけたこの冷たい炎には、耐える方法がない。


火渡りの悟り
流火の高熱を耐えるコップ、何が入っていなくてもその熱さを感じられる。

空っぽの盃にマグマの余熱がまだ残っている。
火渡りの賢者の酒盃。数多くの知恵がこの酒盃から溢れていた。

烈炎を操る賢者に弄ばれても、高温による傷は一つもない。
賢者がマグマを飲み物とするという噂があったが、賢者はそれを戯言としか思わなかった。
美酒は高温によって揮発してなくなるが、知恵は全ての灼熱に耐える。

賢者にとって、美酒は天賦の才の助燃剤に過ぎなかった。
酔っ払った時の火花がインスピレーションを燃やす。

無言の酒盃、知恵が炎から誕生したことを見届けた。
賢者は最後の遠征をする前、盃は孤高に溢れた。


火渡りの知恵
火の海を渡った賢者の冠、熱い浪の中に立つ古い姿を映したものである。

かつてマグマの海の流浪賢者が所有していた古い冠。
じっと見てみると烈火からまっすぐ立つ面影が見えるらしい。

流浪する賢者は高温に耐えるように、赤いメノウを使ってこの冠を作った。
知恵と灼熱の執念によって防火の冠ができた。だがこれは同僚と先輩の恐怖と嫉妬を引き寄せた。

「この傲慢な若造、岩漿の怒焔に挑むとは、この100年になかった冒涜だ」
「火の海は必ず彼を呑み尽くす。彼の灰燼も熱い波によって空まで吹き飛ばされ、やがて虚無と化す」

嫉妬深い先生は彼の生徒に嫌がらせのため、冠をかぶって火の海を歩いてもらおうとした。
だが、この冠の持ち主は悠々とマグマの上を歩き、皆の視線から消えた。

血染めの騎士道

詳細

血染めの鉄の心
血に黒く染められ、鋼鉄のように硬くなった花。過去の持ち主にとって、記念品の一つかもしれない。

元々はただの白い花であり、助けられた仕女が騎士の胸の前につけたもの。
殺戮の中、何度も黒い血に染まった花は、その花弁を硬化させた。

遊侠騎士が初めて魔物を倒した時、ある仕女を危険から救った。
報酬を断った彼は、少女から真っ白な花をもらった。

「騎士の唯一の報酬は、騎士道を行くことだ」
「俺の褒章はこの花で。それでいい」

ずっと胸の前につけていた花は、幾度となく血に染められた。
騎士の銀色の兜のように、冬の夜のように黒くなり、
そして騎士の心のように、鍛え抜かれた鋼鉄のように硬い。


血染めの黒羽
騎士のマントにあった羽根、大量の黒い血を浴びたせいで黒に染まった。

偶然、血染めの騎士についた無数の黒鴉、その羽の一本。
鴉は賢い鳥類であり、血を渇望した飼い主と共に獲物を狩る。

最後、血染めの騎士はもう分からなくなった。空気に漂う血の匂いは、
敵の血なのか、それとも自分の血なのか。

彼はやっと気づいた。長年の殺し合いで、彼の騎士道は、
純白だった騎士を魔物のような悪鬼羅刹にしていた。
彼の後ろにつくのは、血の足跡を元にやってきた鴉の群れだけであった。


騎士が血に染めた時
騎士が使用していた時計。中の液体は完全に固体になり、時計としての機能を失った。

血染めの騎士は、太陽、月、星の見えない深淵の地下に足を踏み入れた。
時間を観測する唯一の道具であったが、時間そのものは意味をなくしていた。

血染めの騎士の最後の物語であり、その後、彼は身を引いた。
血に黒く染められた騎士は、もう自分の居場所がないと気づいた。
だから、崩壊した古国に入り、魔物の戦いで戦死する道を選んだ。
世界の底で、彼は古国に終末を告げた魔物の起源を理解した。

「偉大なる古国は不義の裁きを受けた」
「偉大なる古国の民は化け物だと歪曲された」
「我が騎士道、こんな不公平を断じて許さん」
「彼の名前は深淵ならば、我は深淵に忠誠を誓う」


血染めの騎士のコップ
血染めの騎士が持つ金属の杯。外側は硝煙と乾いた血の影響で黒くなった。

精巧で美しい金飾りの銀盃。英雄の功績が描かれている。
血と煙によって漆黒に染まっており、元の様子は窺えない。

猟魔騎士は、災いの狼煙を追って戦場に赴き、魔物を倒した。
だが、焼かれて崩れた瓦礫の中に救いを求める人はもういなかった。

失敗を味わった騎士は、廃墟の中にあった煙で黒く燻った盃に、
悪を根絶し、弱く貧しい人を助ける騎士道を貫くと誓った。


血染めの鉄仮面
騎士が顔を隠すための鉄仮面、仮面の下の顔は誰も知らない。

ある名門出身の騎士が持っていた、華麗な白銀色の鉄仮面。
血に染まりすぎて、元の色にはもう戻らない。

騎士が100回目の魔物を討伐し、危機から人を助けようとした時、
女性が彼の助けを拒否した。その時、血染めの騎士は気づいた。
戦いの中で、自分の血と敵の血に染められた自分の顔は、
魔物より怖くなっていた。

「この鉄仮面が私の顔になる」
「私の騎士道で守られた人に」
「私の憎い顔を見せなくて済むから」

旧貴族のしつけ

詳細

旧貴族の花
絹で作った琉璃色の花、様々な場面で付けられた。今でも捨てられた日と同じくらい鮮やかである。

緻密で滑らかな絹で作られた青い百合。
旧貴族の女性が使っていた冠り物。

かつてモンドを支配していた旧貴族が残した精巧な髪飾り。
あの伝説の時代、貴族の容姿と立ち居振る舞いは一般人の模範であった。
その行動や知恵によってモンドの民を導き、臣民を統べただけでなく、
容姿までもが整っており、彼らはモンド人を代表するものであった。
それは単に高貴な血を受け継いだからではない。
彼らが美徳を守り、周囲に原則と尊重を保って行動したためであった。

だが、彼らの限りない欲望によって、貴族の寿命は縮まった。
自慢だった華麗な美貌も衰えていった。


旧貴族の羽根
モンドの旧貴族が狩りの時に帽子につけた羽根、今でもまっすぐに立っていて、時間の影響を受けていない。

猟鷹の羽根、旧貴族の帽子のつばに誇り高く立っている。
領民と共に狩りに出て、獲物を分かち合うのは古い伝説である。

かつてモンドを支配していた旧貴族は、よく荒野に出入りしていた。
従者や領民と共に広い大地で狩りをした。
出猟は貴族にとって、力と寛大さを示すものであった。
民にとっても、楽しみのひと時であった。

やがて、狩りは貴族の私欲を満たす虚しいものとなった。
貴族は欲望のままに従い、獲物を分かち合わなくなった。
羽根はまだはためいていたが、色は変わったように見えた。


旧貴族の時計
モンドの旧貴族の懐中時計、長い族譜と共に今日に伝わった。

青い宝石で作られた懐中時計、見た目は極めて精巧で美しい。
時を経ても、カチカチと鳴っている。

かつてモンドを支配していた旧貴族の懐中時計、今でも精確に動いている。
時間を守ることは最も基本的な美徳の一つ。そのため、貴族はいつも手元にこれを置いていた。
臣民に用心させるためだけでなく、自分を律するためでもあった。
正しい貴族であれば、毎朝、民よりも鋭敏でなければならない。
また夜になれば、民よりも先々まで深く考え、より早く起きなければならなかった。

だが長年を得て、厳しかった貴族の日課は怠惰な子孫によって捨てられた。
貴族の懐中時計はより煌びやかとなり、その荘厳な意味は失われた。


旧貴族の銀瓶
モンドの旧貴族が使っていた瓶、中身は何もなく、悲しい風の音だけが響いている。

青い宝石で作られたアクセサリー瓶、白銀の徽章が飾られている。
見た目は精美で優雅である。モンドの旧貴族の高貴なセンスが窺える。

かつてモンドを支配していた旧貴族が残したアクセサリー瓶。
今はもう、その中に精美なアクセサリーはない。
贅沢なアクセサリーは貴族の地位と財産を象徴していただけでなく、
モンドの民の自身と尊厳、繁栄を表した。

やがて、貴族の欲望は徐々に止まらなくなり、
民から搾取し、自分の欲望を満たすこと以外、何もしなくなった。
アクセサリーも虚飾を担うものとなった。


旧貴族の仮面
モンドの旧貴族が舞踏会に使用していた仮面、空洞となった目の縁は今でも昔の光景を見つめている。

精巧な花柄の彫刻が施された白銀の仮面。黄金と宝石が散りばめられている。
作りは清良で繊細であり、旧貴族の優雅な礼儀が窺える。

モンドを支配していた旧貴族は、元々民衆の中から選ばれた英雄であった。
偉大な族長と優雅な子弟、美しい姫と貴婦人たちも
宴の中で同じ土地の人民と共に食糧や喜びを分かち合っていた。
あの遥か過去の時代に、自分の知恵と財を惜しむ貴族などいなかった。

あの黄金時代、貴族は知識と利益を人々へ公平に分配した。
だが、やがて貴族は堕落していき、宴はただの権力を誇示する私欲を満たすための虚しい場となった。

氷風を彷徨う勇士

詳細

吹雪の中の思い
絶滅した氷河の花、上には凍った露がある。孤高な勇士もかつてこの花のために身を屈したらしい。

柔らかな手で摘まれた、永劫に凍れた氷の花。
ある人にしては、極寒が温もる抱き合いのように感じさせてくる。

「ここの4番目の壁画はあなたのために用意されています。あなたの肖像はこの壁に永遠に残されましょう。」
「この壁画のために、みんなのために、私はいつまでもここであなたの帰りを祈っています…」

空白の壁の前で、少女は微笑みながら勇者の胸に花を飾った。
優雅で冷静な人は、例え死に迫ろうとも変わりはない。

古い歴史が北境の猛吹雪に覆われた。
そして雪が溶けた時、この花は散らずに咲いていた。


氷を砕く執念
極寒の冬を放つ鳥の羽。この猛禽が、雪原と氷峰の上で羽根を羽ばたかせた風を感じ取れるようだ。

寒冬に属さない猛禽の羽根、冷たい触感がする。
触れると吹雪からの号泣が感じるかのようだ。

洞窟を探さず、巣を築かず、寒風に直面しても誇り高く鳴く鳥が残した羽根。
寒風に吹かれて霜雪ができたため、まるで宝石が嵌ったように見える。

冬の風が一羽の鷹からこの羽根を引きちぎった。
風に舞う羽根に霜雪が付き、どんどん重くなって地面に落ちた。

「信じています。小鳥たちがあなたの跡を追い蒼翠の夏園へ帰ってくることを」
「寒潮に駆り出されし命が、故郷を失った幼子が、あなたの跡を追い夢の巣に戻るのでしょう」

思いを託された勇者が吹雪の中で、羽根の色を見分けようと努力する。
風雪に濡れ凍れた羽根は、勇者の歩みと共に色褪せた思いのよう。


雪覆う故郷の最後
勇士の帰りを待つ故郷の人々が使っていた時計。その中を流れるのは砂ではなく、溶けない氷の屑のである。

古い砂時計。中には極めて小さい氷晶が入っている。
例え最も激しい寒流でも、時間を凍らせることはできない。

「天降りの寒さは時間さえも凍らせる」
雪に葬た都の間に、こういった噂がある。

勇者が寒風の壁を乗り越えた時、夜遅くに猛吹雪に見舞われた。
日光も月光も突き抜けない蒼白の風。
どんな猛吹雪でも、時間の流れを阻止することはできない。

たとえ都城が氷雪に埋められても。
たとえ英雄そのものが記憶と共に消え去っても。


霜を纏った気骨
寒氷でできたコップ、冬のように堅い。かつての持ち主はそれで不凍の酒を飲んだらしい。

寒冬の中で希望を探してくれる異邦人、
晶氷で彫刻された痛飲用の器。

盃によそわれた酒は氷剣の如く喉を刺す。
普通は遠ざける舌触りだが、沈黙の勇者はそれを気に入っている。

彼は氷のような沈黙の戦士、その身で星々よりの寒風を防ぐ。
守られることに耐えられなかった少女は、憧れの人に告げた。

「臆病と絶望があなたを押し倒して、あなたが二度と戻って来なくなっても…」
「…生き延びるです。私たちと共に滅び、冷たき意思に飲み込まれてはなりません」

別れの酒が口を潤すと、少女の濡れた瞳を避けて、
彼は終わりのない道に辿り、雪境と深淵へ旅立った。


氷雪を踏む音
氷雪を征服すると夢見る古代英雄の冠、寒い冬に直面しても怯まない勇気の証。

英雄は僅か残された雪都の希望を背負い、救いを求めるたびに出る。
冬の冠をかぶって、誇らしげに果て無き風雪へ踏み込んだ。

山城の契約をその背中に、清らかな瞳をその背中に、勇者は一度も氷の外の未知に怯えなかった。
緑で覆われる山々と、天上から降りなくなった祝福が、勇者の進む動力。

「氷封の扉を開き、深淵を回廊を下る」
「銀白の枝を折りて、彼は雪の国に希望をもたらします」

少女が歌で一族を慰めながら、彼の記憶を守った。
いつか暖かな日差しと共に彼が帰ってくると、少女は信じ切る。

しかし、雪に去った勇者が帰郷することはなく、
吹雪に巻き上げた怨みの言葉だけが、彼の逃走を訴えた…

沈淪の心

詳細

金メッキのコサージュ
仄暗い色をしたクロークピン。金色のメッキは既に海風に削り取られてしまった。

海風で色が褪せたコサージュ。
千の風を翔ける男でも、
大事にする飾り物と思い出がある。

副船長と船師を乗せた艨艟が再び出航した。
船師のばかげた望みのため、思い出に眠る故郷のために、
副船長は下手な鼻歌を口ずさんで鯨と波に応える。

「一族の名を捨てた賊人が命取りにきた魔女と流浪(できなかった)」
「一族の名を得られなかった弟はやがて族長となる(だろうか)」

「口に出せない歌詞…真実に背き、幻想を選んだのか」
「全てを失い全てを諦め、全てを受け入れ海に沈む」
「悪くない結末かもしれないな、ハハハハハハ!」


追憶の風
咽び泣く海風と、鮮やかな赤い波が連れてきた羽。長い年月がその形状と色を変えた。

不吉な赤い羽根。死の兆候かもしれない。
ある日、海獣の残骸と共に海岸に打ち上げられた。

不真面目な航海士は瑠月の出身ではなく、灰色の国である貴族の出身だった。
かつては貴族だったと言われていたが、あることで一族に恥をかかせ、追放された。
しかしそれも無稽は伝説である。彼が港に着いたとき、手にあったのは一本の細い剣だけだった。
それ以外に、青宝石色の小さな羽が一つ、古びたマントに飾ってあった。

その後、彼は船師と共に海を渡り、嵐、海獣、そして波と戦った。
かつて青宝石の色をした羽は、真っ赤な血で染められ、大海の塩気が染み込んでいた。

そして最期のとき、
彼は強い酒に覆われていた過去をはっきりと思いだした。
波に流れる砂の下に現れた宝のように…


硬い銅のコンパス
旧式の銅製のコンパス。針は始終、皆との存在しない遥か彼方を示している。

海の男が使う銅色の羅針盤。
波に揺られる一生で、
持ち主の心想を指す。

じだらくな船師はかつてこの羅針盤で巨船を引き、
危険な海域を超克し、巨大な渦潮を征服した。
奔放な笑い声から滲み出た恨みと酒、
死を求める結末で、落魄れた者を導いたこともあった…

「小賊はいずれ絞首台行きだ…お前らの歌はこう歌うよな?」
「居場所さえあれば、魚の餌になっても構わない――」
「船隊に入った時にこの船と契約を結んだじゃないか?」
「その記憶も酒に洗われたのか?ハハハハハ!」
「忘れてなきゃいい。さあ、契約を果たす時だ。」

「ああ、それでいい。もうどうだっていいんだ…」


浮沈の杯
何気なくすくい上げた色あせた酒杯、仄暗い外観は波の底にいた日々について囁いでいる。

少し色落ちした上質な盃、
海淵の砂で磨かれたもの。

上質な盃が航海士の手から滑り落ち、海にほんの少しの水しぶきを立てた。
大量の魚の群れで、光が薄れる海淵で、一体何を経験したのだろう?
静寂で暗い路地で、花壇の柵前で、一体何を経験したのだろう?
金の盃はゆっくりと、海に潜む怪物の夢に、船の上の航海士の夢に沈んでいった…

「この罪はあなたから被せられたもの、この屈辱はいつか必ず返させてもらう」
月明かりが青宝石の眼とまばゆいばかりの傷跡を照らす。
彼の記憶の中にある彼女の顔は、明るくて美しかった。
しかし彼は当時のことを忘れてしまい、悔しさだけが残った。

「ところで、過去を忘れるのはこれで何回目だろう…」

「過去のことを言ったってどうにもならないだろ!」
「すべての死は無駄であり、救いはないのだから。」


酒に漬けた帽子
旧式の船長帽、今でも抜けきらない酒の匂いが纏わり付き、酒の痕跡があちこちに染みついている。

強い酒の匂いがする三角帽子、
その形はかつての持ち主を象徴する。

裂けに溺れる副船長は終日酔っぱらったままにいる。
その身に酒臭が染み込み、口からは千切れた記憶が囁かれていた。
だが船師はちっとも気にせず、ただ微笑む。依然として彼に重任を任せた。

「だって俺らは皆、なんもねぇ奴らだからな。ハハハハハ!」

「酒がしみついた帽子は嵐に巻き上げられ、千波万波に飲み込まれ」
「やがて故郷を失う者は、無欲の争いを続け」
「追憶の海で無くなった物を、彼らは深邃の海で取り戻そうとする」

「風もよし、海もよし。とうとう見つけた。」
「夢の中でさえ俺らを食いつく獣…」
「今こそ敵討ちの時、帆を上げろ!」

千岩牢固

詳細

偉勲の花
金箔で作られた精巧な花。所有者の功績と栄誉を象徴している。

遥か昔、層岩巨淵に星が落ちた。
星の鉄が夜空に降り注ぎ、土を晶砂に変えた。

人の命は有限であるが、帝君は千岩軍に鉱脈守護の責務を託した。
アビスは急流のように噴出し、千岩軍は民を避難させた。
鉱夫たちに伝わる逸話では、層岩巨淵に残った兵士たちは、
無名の夜叉と共に戦い、岩々の間で最期を迎えたという。

山や川が年々変わり、死した凡人と夜叉の名前も忘れられたが、
彼らの名誉が忘れられることはない。この金箔の花のように、彼らは永遠に輝き続ける。
災いから五百年が経った今、港は安定した平和を保っている。
兵士たちが誇らしげに身に着けている金色の花は、先祖たちの高貴なる犠牲の証である。


昭武の羽根
式典の際に着用し、外国からの訪問者に威厳を示す羽毛。

空高く舞い上がる猛禽類の羽は、武道の象徴として千岩軍が着用している。
この羽毛は、外国からの訪問者に威厳を示すために、式典の際にのみ着用される。

伝説によると、千岩軍が儀式の際に着用する羽毛は、もともと無名の夜叉から来たものであった。
夜叉がアビスの手先と戦ったときに散らばった羽が、希望の象徴と見なされるようになった。
勇敢な夜叉と恐れを知らない凡人たちは暗いアビスの底で眠りに落ちた。
帝君はそれらの犠牲を胸に、山や岩のせせらぎの中、長い間沈黙した。
層岩巨淵を守る無名の夜叉は、帝君から命じられたものではなかったという噂がある。
長年の罪を贖うため、そしてかつて臆病が故に逃げた自分への戒めとして。

真実がどうであれ、かつて空高く舞い上がっていた夜叉は、今や自在な雲となった。
深淵の奥深くに眠る兵士たちは、神話の中に存在し続けるだろう。


金銅の日時計
素朴な見た目の計時器。戦争の時代、千岩軍の標準装備だった。

太陽と月の光で動く不動の時計は、最も暗い日でも光線を捉えることが出来る。
璃月が黒き悪意に脅かされた時、この時計は戦士たちに白昼の温かみを思い出させた。

夜叉と並んで戦う兵士たちは、業障から逃げることができなかった。
業障に飲み込まるまでの時間を掌握するため、千岩兵士たちはその時計で黙々と時間を計った。
統一された歩調と規律で、前方の兵士と後方の兵士を交代させていった。
この交戦は深淵の奥深く、夜叉と勇敢な兵士たちは共に倒れた地まで続いていた。

百年後、この時計は鉱夫により発掘された。星光に輝く光沢を放ちながら。
うわさによると、黒いローブを着たコレクターが市場を歩き、この時計を高値で買い取ったという。
売り手はその理由を探ろうとしたが、巧みな口頭トリックによって質問をそらされた。
その物の目的がなんなのか、おそらく時間だけが満足のいく答えを提供できるだろう。


誓いの金杯
千岩軍が誓いの時に使う黄金の杯。酒の香が少し残っている。

千岩軍が創立された頃、璃月の地はまだ荒涼としていた。
町、村、部族の長老は黄金の杯を以って互いと契約を交わした。
岩王帝君に忠誠を誓い、民を守る責を担う、
各地より軍に選抜された者は、千岩と呼ばれる。

夜叉と共に戦い、黄金の杯で美酒を飲んだ。
岩王と最後の一杯を交わし、アビスに突入した。
数百年後、うぬぼれた冒険者はアビスからその杯を取り、綺麗に洗った。
黄金の杯は百年もの間、腐植することなく漆黒にも染まらなかった。

数百年後、璃月人が再び災いの過去と無名の夜叉について語った時、
様々な場所から来た英雄がいかにして団結し、アビスと戦ったか...
この黄金の杯がどのようにして血に染まったのか、語らずにはいられない。


将帥の兜
古きから伝わる華麗な兜。埃を拭き取ると新品同様に明るく光る。

名前も残さなかった夜叉と共に戦った指揮官、
同胞たちを守るために共に死を選んだ。
苦しむ民を安全に避難させ、帝君の期待に応えるために、
兜を被った指揮官たちはアビスに長槍を突き刺した。

災害が琉璃の地に降臨し、過去の敵が泉のように湧いた。
帝君の命により、夜叉はアビスと戦った。
最後の一滴の血が大地に染み込み、穢れたものがすべて浄化されるまで戦いは続いた。
アビスが退いていくにつれ、琉璃の沙は光沢を取り戻した。

層岩巨淵に覆いかぶさった漆黒は取り除かれ、夜叉は失踪した。
戦場に兜を残した指揮官と兵士は、その地で永遠に眠った。

蒼白の炎

詳細

無垢の花
決して枯れず色褪せない、青くて硬い造花。

「貴様は実に不思議な存在だ。人間の体で、それほどまでの力を背負うとは。」
「涙と血はもう流し尽くしたと言っていたが、炎で体を満たしただけであろう・・・」
「満身創痍になろうと、傷口と両目から流れるのは灼熱の炎のみ。」
「話が逸れたな。私が狼煙をたよりにここへ来たのは、貴様と交渉するためだ・・・」
「我らが『陛下』 の恩恵で貴様の炎を飲み込もう。どうだ?」

一人目の愚者は命の炎が尽き果てようとする少女に「力」を授けた、
少女は「妄念」を通して穢れた過去と無垢な未来の境界を見た・・・

消え去った私の過去を堅氷で満たし、燃え続ける炎を消そう。
漆黒の闇、世界の痛み、人と獣の罪、それらすべてを沈黙の氷で浄化しよう。

それでも、蒼白で無垢なる炎は彼女の心の中で燃え続けていた・・・

「私とあんた、それにあんたの女皇とは、目的が一致している。」
「愚かな神々、漆黒のアビス―それら世界の歪みを生み出す根源を浄化する。」
「いいでしょう。その目的を実現するためなら、何をしてもかまわないわ。」
「だって私、白衣を着ていても、もうとっくに洗い落とせないほど死骸の油と灰に染まっているもの。」


良医の羽
非常に鋭いふちを持つ不吉な羽。異類の不羈を象徴しているのかもしれない。

「『人』とは、複雑なだけの機械に過ぎない。」
英知の畑で、ある少年はそう語った。
部位を取り外し、変更を加えれば、
その機械の性能は大幅な上昇を得る。
神の目、体格、武力に関係なく、
「最適化された人間」は常識を超えた力を持つだろう・・・

たとえ「外道」と蔑まれ、賢者の輪から永久に追放されたとしても、
少年は研究ノートの端に 自身の感想を書いた。
I.予想通り、教令院のやり方では、研究に突破口は開けない。
II.しかし、追放されたのは損失だ。良い研究環境がなくては。

「異端」のうわさを辿り、一人目の愚者は彼を見つけた・・・

「『最適化された人間』か―貴国が十分な物資と時間を提供してくれるのなら、我
は貴様たちが『神』と呼ぶものさえ作ることができる。どうだ?」
沙金が流れるような暑く眩い砂漠の中で、彼は冬国の使節に尋ねた。
お前も教令院の人たちみたいに俺を「怪物」や「狂人」と呼ぶのか。
それとも故郷の人たちみたいに、俺を追い払うのか・・・

しかし・・・
「よかろう。では、今から貴様は我らの仲間だ。」
「貴様の名は、そうだな―」
自身に付けられた名があまりにも皮肉めいたものであったため、少年は大声を上げ
て笑わずにはいられなかった。


停頓の時
ふたが開かない懐中時計。時間の経過と同時に、しっかりカチコチと音を立てる。

金銭が流通する軌跡は、世界の静脈を構成する。
ならば世界の中心とは、黄金の心臓とも言えよう。

認められることのない彼は、俗世の力を追求するしかない。
しかし、「彼ら」にとってなんの意味もない金銭も、
無数にある権能の一つとして、「神」の手中に収まっている。

もしかすれば、彼がかつて貧しかったが故に、金銭に対して病的なまでに執着して
いるのかもしれない。
もしくは、神の支持を得られなかったが故に、対抗の意志を燃やした・・・

「金貨発祥の地の人々は、『契約』を重んじる。」
「金銭の名のもとに、 『契約』 を守ろう―」
「すべての手段を使い、世界を流通する金の心臓になる。」
「そして必要な時に、自らの意志でその心臓を止めるだけだ。」


超越の盃
何年もの歳月を経たか見た目からは全く見当がつかない精巧な盃。

誕生の時すでに至高の美を有していた「彼」は、
長い「時間」と空っぽの「意志」を持つ運命にあった。

神が創造した超越者であるにもかかわらず、役立たずとして捨てられた。
未知なるエラーで「休眠」から目覚め、
天地と凡人の世界を渡り歩いた。

愚者が彼を見つけるまで、彼は数え切れないほどの年月の漂流から、
こんな経験を会得した。

僕はすべての人間を越える「人間」、
神でさえも僕の運命に干渉できない。
人も神も運命も僕を裁く権利はない。
どのように残りの寿命を過ごすかは、僕の自由だ。

仮面を被る彼らと一緒に行動するのは面白そうだ、
その仲間になってもいいだろう。


嘲笑の面
誰にも表情がわからないように顔を隠すことができるマスク。

同胞の身に染まった血が洗い流せないのなら、運命を嘲笑する「道化」を演じよう
才と学が「賢者」に及ばず、先代王者の支持も得られず、
深くに眠った罪を掘り返し、神の怒りと破壊を招く彼らを阻止できなかった。
ならばいっそのこと不器用な「道化」となり、我の苦痛を理解する「陛下」に忠誠を誓おう・・・

我が名は「道化」のピエロ―

誇り高き愚人どもよ、怒りの炎と永遠の冷気を心に抱け。
我ら世界定理の不条理と無常を知見せし者、
世界を嘲笑う面を被り、天理を書き換えようではないか。

追憶のしめ縄

詳細

羈絆の花
精巧な水引お守り。願いを叶える力を秘めているとの噂。

「水引」という結び方をしたお守り。
願いと縁を固く結ぶことができるという。

何でも知っている狐様に師事し、神社の事務を勉強した。
あの頃の私は、小さな漁村から鳴神に来た幼い巫女だった。
茶筅よりも鈍く、子供っぽいわがままや好奇心も抱いていた。
斎宮様の優雅で回りくどい言葉に、いつも無邪気な疑念を持っていた。

「物事は絆で結ばれ、故に実の中から希う幻が生まれる」
「お守りに願いを実現する力はない。でも、絆の力で、それを永遠にできる」

私が茫然としている様を見て、狐様は耐えきれない様子で笑った。
楽しそうに煙管で私の頭を軽く叩き、すぐさま話題を変えた。

「響ちゃんも、因縁の人と出会ったんだね?」

「あんな野蛮人と因縁なんてありません!」

「あら、そうかしら?」

そして闇夜がすべてを呑み込んだ。
因縁とやらも、失われてしまった。


憶念の矢
少し古い仕様の破魔矢。何者かによって大切に保管されているようだ。

神社が魔除けに用いる破魔の矢。
すべての心の魔を祓えるという。

破魔の矢は邪悪なものを祓うと人々は言う。しかし邪悪とは客観的なものではない。
邪悪は人の心から生まれる。恐怖に怯え、冷たくなった心から生まれる。
斎宮様が去って久しい。私ももう鳴神大社の見習い巫女ではなくなった。
あの空の煙管を握るたび、空虚と痛みが私を雁字搦めにする。

想う人ができて、想わずにはいられない人を失っても、時は待ってくれない。
狐様の白い姿が漆黒の深淵へ静かに沈んでいく様は、巫女の夢に深く刻み込まれたまま。
大天狗様も、守れなかった自責の念で、光代を一人残して、自分を追放した。
晴之介も悲しみの余り国を出て、長正は御輿の汚名を濯ぐために幕府に入った。
杜で私に弓術を教え、緋色の櫻の下で私の幼い約束を聞いてくれた男は、
いずれ私の元へ帰ってくるだろう。飛び散った血が彼の目を覆っても、漆黒な穢れが彼を化け物にしても……

私たちの弓矢で彼を救って、失うことが定められた約束を終わらせて。
私たちの弓矢で魔物を滅ぼして、無駄な懸想も執着も祓って。

「会いに来て、賭け事ばかりするお馬鹿さん」
「もう迷わないで、昆布丸」

でも、最後の賭けは、一体誰か*勝ったのだろう……
そんなどうでも良いことを考えながら、彼女は綺麗な弓を撫でた。


朝露の時
水引と鈴で装飾された銅の懐中時計。時は、ある秋の夜明けに永遠に止まっているようだ。

雅な懐中時計。神社の鈴が飾られている。
時計の針は永遠に朝露が消えぬ時に止まってしまった。

空が白む頃、朝露は草葉になってまた消える。
万華鏡のように綺麗な景色も、瞬く間に消えゆく。

秋の夜の坂道で、私は斎宮様とともにセミの声を聞き、月を眺めていた。
あの頃の私は幼く、わからず屋な、田舎からきた巫女だった。
うるさい雀のように、自分の見解ばかり語っていた。
狐様の笑みに見惚れても、彼女の言葉を理解できなかった。

「刹那の美を永遠に留めておきたいのは、朝露を手に握りしめようとするのと同じ」
「私は朝露のように消えゆく。君の抱く私の印象は、残留した願いでしかない」

薄れた記憶の中、彼女は難しい言葉を話しながら、とても悲しい顔をしていた。私は呆然とした……
それもつかの間。彼女は煙管で私の頭をコンコンと叩いて、いつも通りのからかう色で言った。

「夜が明けるわ、響ちゃん」
「そろそろ帰ろうか」


祈望の心
特製のおみくじ筒。底面には、望ましくないくじを簡単に取り除くことができるからくりが組み込まれている。

神社で吉凶を占うためのみくじ筒。
狐が与えた運気をまとっているという。

占いは迷人の問いであるため、吉凶問わず、先に進めるための回答になる。
平たく言えば、この世に迷いを持って問う者がいても、不確かな占い結果は存在しない。
神社で学んだ時間はとても大切だった。私でさえも狐様の言い回しができるようになった。
その間、人間味のなかった影向天狗様が娘を授かった。
お馬鹿な昆布丸も、将軍殿下の旗本になり、武家の女の子を娶るそうだ……

「かわいい子。殺伐としていた天狗様も、少しは母親の自覚を持てるようになったのね……」
「しかし……神社に子供の生気が足りないわ。これはいけない。響ちゃん、子供に戻ってくれない?」

いつものように、狐様は大げさな冗談を言って、緋櫻酒の酒気を帯びて顔を近づけてくる。

「そんな仏頂面しないでよ、響ちゃん。斎宮様が占ってあげようか?」
「アハ、大吉よ!ほら、大吉!どういう意味か知ってる?」
「凶のくじを全部抜き取ったからでしょう。からかわないでください、斎宮様……」
「いいえ……このくじは、君が恋する人は、君の永遠の記憶になれる、という意味だよ」

だから強く生きて、これからずっと。
大切な人が皆逝ってしまっても、君が生きていれば、
その人たちと過ごした日々は永遠に消えたりしない……


無常の面
丁寧に保存された儀式用の狐面。常に奇怪な微笑みを浮かべている。

雅な祭りのお面。とある神子のものだった。
口角に淡い笑みを浮かべても、その目に光はない。

大社でのお務めも少し慣れてきた。
私も小さい頃みたいに鈍くなくなって、一人前になった。
でもどうしてだろう、私が成長すればするほど、斎宮様の面影に翳がさす。
そのお顔にあるのは憂いでも、恐怖でもない。 深い深い悲しみと名残惜しさだ……

「この世は無常。消えゆくものに恋しても、永遠の記憶を失うだろう」
「記憶を失うことは、命を失うに等しい。長く、暗い死だ」

今度は、薄い笑みも隠せない悲しい表情。
お祭りの日なのに、まるで別れを告げようとしているかのよう……

「そうだ、あのお馬鹿な昆布丸の話をしておくれ……」
「なんだ、私が彼を横取りするとでも?」

絶縁の旗印

詳細

威厳の鍔
将軍を裏切った鬼人が、かつて授かった美しい鍔。

母が恩のある、宝刀を授けてくれた将軍に牙を向いた。
御輿家に戻ってきたのは、彼女が愛した鐔だけだった。

母の悲願は、熱き血潮を持って生と死の運命に打ち勝つこと。
減り続ける同族のために、戦鬼の名で不朽の功績を残すこと。
漆黒の罪の虎に呑まれれば、口の中から猛獣を切り裂く。

雷の三つ巴の旗のもとで武勲を挙げ、
血に染まった十二単を濯ぐはずだった。
しかし、彼女の強く鼓動する心とともに、永遠に黒く染まってしまった……

家督を継ぐはずだった長子は城外に隠居し、
影向山の林に入り浸った。彼はそこで、少女に出会った……

「鬱陶しいわね。そんなに過去を捨てたいなら、私が新しい名前をつけてあげる」
彼の過去を聞いた黒き翼を持つ彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「岩蔵にしよう。磐座のことだよ。人の言葉に左右されない物」
「鬼の血を継ぐ人間、喜べよ。さあ、笑え」
「影向の天狗がつけた名には、神通力がある」
「それに、石の名前は、脳筋な君にぴったりでしょ」

「じゃあ、来年櫻が舞う頃、またここで戦おう、『岩蔵』」
「鬼の子よ、しっかり鍛錬しなさいよ。影向の天狗の相手に相応しい人間になりな」
「そうだ、私に触れることができたら、その剣を『天狗抄』と呼ぶことを許す」
「だってその時、君は『天狗にも勝てる剣術』の使い手だから」


切落の羽
ある天狗の所有物であった黒羽。昔の剣豪が秘蔵していた記念品。

剣による風圧で散った黒い羽が舞う中、剣豪になる人間が、
遂に長年触れることのできなかった天狗の少女を捕まえた……

「いやはや、危なかった。さすがだね」
「剣が君の力に耐えきれなかったのね」
「そうでなかったら、私は死んでいただろう。さて……」

光代、来年の決闘は、場所を変えるか?
緋色の櫻が舞う場所なら、いつくか*知っているのだが……
自分が壊した社を見回し、天狗の震える手を握りながら、
切り落した黒い羽を見つめて、道啓はそう言おうとした。

「私に触れたのだから、君の勝ちだね」

勝負はまだ決まっていない、来年また会おう。そう言おうとした。

「君の剣は天狗よりも速くなった」
「十三年間、君と戦う日々を、私はずっと忘れない」
「でも私は影向の天狗だ。一族を背負わなければならない」
「当初君の名を変えたのは、君を鬼の血の呪いから解放したかったから」
「人ならざるものの血筋は、あの戦の後、どんどん薄れてきている」
「まあ、私たち人ならざるものは、人並みの幸せを求めてはいけない。でも君は違う」
「今の君は『岩蔵』、鬼の血を背負う御輿ではない」

「じゃあ、さようなら、道啓。私を忘れて。そして君の剣で」
「岩蔵の血筋のために、岩蔵のためだけの道を切り拓いて」


雷雲の印籠
黒色の細緻な印籠。光り輝く螺鈿と精巧な金物が装飾されている。

遥か過去、セイライ島がまだ雷雲に覆われていなかった頃の記憶を呼び覚ます。
雷鳴を閉じ込めた容器は、約束した人に渡せなかった。

「糸が切れたから、また私のところに来たの……まったくしょうがない奴だ」
「剣術がなかったら、ただの間抜けな博打打ちのおっさんだろ」

「ふん、俺をなめるなよ。俺の弓もすごいんだぜ、天狗に教わったんだ」
「俺の剣術が凄すぎたから、皆弓のことを口しなかっただけで」
「よく考えたら、もったいないことをしたな。せっかくだから、弓術を教えてやるよ」

いつか、憎まれ口を叩きながら、あの馬鹿のために切れた籠を直した。
いつか、憎まれ口を叩きながらも、笑みを浮かべていた。

「旗本になったのに、責任を負う立場なのに、なんでいつも喧嘩ばっかりなの?」
「家を持ったのに、かわいい妻がいるのに、なんでいつまでも遊んでばかり、賭け事ばかりするの?」

だって……
ついぞ口にできなかった質問を、投げないことにした。
斎宮様がここにいたら、気軽に言えたのかもしれないね……

「そんなのどうでもいいんだよ。今日は休みだ、勝手に決めたけど」
「神社の仕事を置いて、海へ行こうぜ。お前の小さい頃のように」

そうやって彼に港に連れて行かれ、行き交う船をぼうと眺めた。
神社のあの光代が、いかに師匠の美貌と武芸を継いだのかを聞かされ、
彼が見た自分の首を斬り落とした悪夢の話を聞かされ……
二人ともわかっていた。言葉で取り戻せない悲しみを誤魔化しているだけだと。

その後、ずっと、ずっと後の話。
苔むした石と、二人が密会した港を見下ろし……
あの博打打ちがもう一度勝てるように、彼の無事を祈るように……
再び危険を冒して高いところに立ち、手作りの籠を高く掲げた。
記憶の中の希望を取り戻せるように、稲妻の力を集めた。


緋花の壺
精巧な酒壺。かつて、名が轟く武人の酒用の器だった。

我流の秘剣「天狗抄」で、岩蔵道啓は九条家の剣術指南役になった。
「道胤」の号を授かり、自身の剣術流派を作り上げた。一時期門下生が絶えなかったという。
九条の屋敷に就任する前に、道啓はすでに酒を嗜んでいた。
最後に、秘剣「天狗抄」の完成で廃墟となった社に踏み入れた。
十三年の間、何度も影向の天狗と真剣勝負をした場所で、
ここで「影向の光代」と名乗った黒い翼の天狗と出会った時のことを思い出した。

夢のような十三年
櫻吹雪のように舞い
気が付いたら、君がいない

あの頃の神櫻も雪のように舞い降りた。
社も祀る神がいないだけで、建物は健在だった。
泉のような軽快な笑い声が谷間に響いた。
だが、廃墟となった庭に、二人は二度と戻らないだろう。


華飾の兜
高貴な武士が着用していた、頑丈で硬い兜。

「道胤公の秘剣は、雷光をも断ち切れそうだな、ハハハ」
刀を納めると、若き勘定頭の弘嗣のからかう一言に、抑揚のない声で返事をした。
「そんなことはありません。精々空を飛ぶ天狗を切り落とせるくらいでしょう」
「まあ、天狗を切り落とすなんて、一度もしたことはありませんけど」

「そうなのか?なら、秘剣『天狗抄』の名はどうやってついたのか?」
道胤が答えないのを見て、離島を立ち上げた勘定頭は残念そうに言った。
「九条のおやじに先を越されたな。君が欲しかった」
「君の剣の腕があれば、セイライの赤穂百目鬼も敵じゃないだろう……」

雲を裂くように、彼に新しい名を与え、新しい命をくれた、
錆だらけの刀を渡して、自分を斬ってみせよと言ったあの天狗が、
彼の刀が折れた時、最後に言った言葉は……

華館夢醒形骸記

詳細

栄花の期
六枚の花びらを模した小さな金の飾り。枯れることのないその姿は、世の儚い栄華を知り尽くしているようだ。

夢で見たのは、月明かりの下で歌に合わせて踊り出した幻影。
まるで遠い昔の白紙のような少年である。
また、恨みや苦しみがすべて解消された後、
最終的に脆くて壊れやすい、単純な自我が表面に出る。

浮浪人は自分が夢を見る能力を持っていることが知らない。
これは単なる学者たちの子供騙しと思い込み、
あるいは、かつての心臓の些細な抵抗だったのかもしれない。

「かつて、あなたは憧れの『心』を手に入れた。」
「しかし、それは嘘やごまかしのための道具に過ぎない。」
「だが今は、あなたがやっと自分だけの物を手に入れる。」
「この偽りの結合の体も、日の目を見る権力を得られる。」

「しかし、これらはただのえいがのゆめ。」
「やがて、大地の苦しみの嘆きの中に散っていく...」
これを言ったのが、未来の自分なのか、それとも過去の自分なのか分からない。
浮浪人はそれを全く気にしていない。いずれにせよ、夢から覚めた時、
消えていくのは自分ではなく、縹渺たる未来である。


華館の羽
俗世間より切り離されし館から持ち出された矢羽状の物証。作り手の憐憫により、眠りについたある亡き骸と共に館へと置かれた。

長年流浪してきた傾奇者は、もうそれのことを思い出さないだろう。
しかし目を閉じても、たたら砂の月夜や炉火が見える。
若くて心優しい副官が言った。
「この金の飾りは将軍から授かれた身分の証である。」
「世を渡り歩く時、やむを得ない場合を除く、」
「自分の身分を決して他人に明かさないこと。」
剛直である目付が言った。
「この金の飾りは将軍から授かれた身分の証である。
しかし、あなたは人間でも器物でもない。
このような処罰を与えるしかないが、どうか恨まないで欲しい!」

昨日を捨てた傾奇者は、もうそれのことを思い出さないだろう。
しかし、耳を塞いでいても、その時の豪雨や嵐が聞こえてくる。
期待に満ちた目が言った。
「この金の飾りは将軍から授かれた身分の証である。」
「きっと人々を苦しみから解放できるだろう。」

美しくて活気がある巫女が言った。
「この金の飾りは将軍から授かれた身分の証である。」
「将軍は決してあなたを見捨てない。」
「私も最善を尽くし、即刻の救援を手配する…」

…しかし、金色の矢羽はやがて埃に埋もれ、
すべての物語も業火に焼き尽くされ、消えてしまった。


衆生の歌
稲妻にとって舶来の小物。芯部は既に取り外されており、針も回っていない。

彼は最初、「心」の容器として生まれた。
しかし、夢の中で涙がこぼれた。
創造者は認めたくないが、それを気づいた。
彼は器物としても人間としても、あまりにも脆いこと。

創造者は、彼を破壊することに忍びない、そのまま眠り続けさせた。
彼女のそれ以来の作品は、心臓を収納する設計を諦めた。
その直後、世間で最も高貴で尊い「証」が、
置き場所がないため、影向山にある大社に送られた。

その後、美しい人形が目を覚まし、流浪を始めた。
彼は様々な心を見てきた。
善良なもの、真面目なもの、毅然としたもの、柔らかなもの…
人形にも、心臓を欲しがっていた。

そして、美しい人形がやっと、その「心」を手に入れた。
それは彼の誕生の意味であり、存在の目的である。
しかし、それは人形が本当に望んでいる物ではなかった。
なぜなら、それは祝福が一切含まれていない、
ただ友好的な外見に包まれた、
自分勝手で、偽善、狡猾、呪いが満ちた供物。

善と悪、全てが衆生の物語、無用でありながら騒がしい。
しかし、この「心」を掘り出せば、
もう何も感じられなくなる…


夢醒の瓢箪
黒漆と金粉で彩られたひょうたん。本来どのような色だったのかは、もはや知るすべはない。主に演劇の小道具として使われていたようだ。

天目、経津、一心、百目、千手、
それは、かつて「雷電五箇伝」と呼ばれたもの。
しかし、今は「天目」だけが伝承されている。
「一心」にも、かろうじて後継者はいた。
民衆の考えでは、これらは単に時間の流れが招いた必然の結果。
突如として訪れた衰退に、何か秘密が隠されているなど思いもしなかった。

流浪者は決して認めない、
自分が成したことは、刀職人への復讐のためであったと。
そして当然、これも口にはしないだろう、
計画も半ばのところで、急に興が乗らなくなってしまったことを。
彼はある学者から習ったような口調でこう言った。
「すべては、人間の本質を知るための小さいな実験に過ぎない。」

稲妻の伝統的な芝居には、「国崩」と呼ばれるキャラクターがいた。
彼らは通常、国を盗むことを目的とし、悪事を働く者。
流浪の果てに、彼は自らの意志でこの名前を選んだ。
そして、それまで使ってきた名は、今はもう自分さえ覚えていない。

稲妻の伝統的な芝居は、三つの幕の名前をつなげて芝居の演目にすることが多い。
例えば『菫染』『山月』『虎牙鑑』の三幕は、
『董染山月虎牙鑑』の一つにまとめられる。
もしかしたら、この形骸が経験してきたことが、
いつか人間のあいだで語る物語となり、地脈の遥かな記憶になるのかもしれない。
ただ今は、彼の第三幕がまだ語られている最中だ。


形骸の笠
かつて流浪者を日の光や雨から守った笠。後に顔や表情を隠すのに役立つ道具となった。

「流浪者、流浪者、どこ行くの?」
流浪の少年は子供の声を聴いて立ち止まった。
彼はたたら砂の労働者の子供、病気をしていても、澄んだ目をしていた。
少年は子供に、自分がどうしても稲妻城へ行かなければっと言った。
「しかし、今は大雨だし、この前出た人たちは誰も戻っていないって彼らが言ってた!」
少年は口を開き、何か言おうとしたが、結局微笑みしかできなかった。
彼が再びこの島に足を踏み入れた時、子供の姿はすでに消えた。

「稲妻人、どこへ行く?これはあんたが乗れる船じゃないんだぞ!」
流浪の少年は港の船夫に止められた。
ちょうど少年が抜刀する直前、同行する男が彼を抑えた。
男は船夫に、この異国の少年は自分と同行することを伝えた。
「閣下の客人ということですね、これは失礼しました。」
男が防寒の上着を少年に渡したが、少年は首を横に振った。
彼はただ、今回の旅でどんな面白いことが見られるのかを知りたがっているだけ。

「執行官様、どちらへ行くのですか!」
少年は騒がしい人間が大嫌いのため、部下の顔を殴った。
しかし、少年は怯えた無力な人間を観察することを何よりも楽しんでいた。
この愚かな部下が彼のそばにいられるのも、部下の表情の豊かさが原因だろう。
彼は震えながら地面に跪く人に、今回は東方向のモンドへ行くっと言った。
「かしこまりました。直属護衛たちに準備をするように!」
護衛なんて必要はないが、彼はもう馬鹿者と話す気がなかった。
彼は再び流浪の笠を被り、一人で東へ向かった。

「少年よ、どこへ行くのじゃあ?」
帰国の少年は道端で婆に声をかけられた。
西へ向う準備をしているって婆に伝えた。
「ヤシオリ島へ行くのか、何しに行くんじゃあ?」
婆は深く考えていない、ただ最近はどこも物騒だった。
少年は、「人との約束があるから」と言って、心からの笑顔で彼女の気遣いに感謝した。
船はゆっくりと停泊し、岸辺には異国の服装をしている女性が立っている。
彼女は、少年に向かって、小さな水晶玉を投げつけた。
少年は簡単に水晶玉をキャッチし、血に染まったような太陽に向けた。

海染硨磲

海染の花
多様に変化する海の色を帯びた、しなやかな花。月明かりに照らされると、不思議な色彩を反射する。

大海より生み出た繊細な花。穢れなき純粋な真珠が花の真ん中に飾りつけられている。
海の民の島唄では、このような花は光り輝く海淵で咲くことになる。
海女の想いと月光の優しさに染まりながら、煌々と輝く。

すべての争いが止み、海獣も孤独な仲間のために涙を流すことがなくなった時、
月が東山から昇り、美しき神君が姿勢を正して歌う時、
「来てくれ、海女たちよ、見てくれ、私の最愛の人よ、今夜の月光を。」
「たとえ東山が今宵落ちたとしても、稲光と嵐は決して、その輝きを曇らせることはない…」

孤独な巫女は唄を口ずさみながら、月の光を浴びる波の中、ひらひらと舞う。
海女たちは失われた悲しみを忘れ、柔らかな花も再び活気を取り戻した。


淵宮の羽
珊瑚と同じ色をした脆き彩羽。巫女の羽衣に使われていたらしい。

多くの氏族が初めて天光を目にした時、大御神が海の民たちから巫女を選んだ。
この島唄の歴史の中で、最初の「現人神の巫女」は真珠の採集を生業とする海女の中から選ばれたとある。

無意味な争いで未来を失った子供たちの中から生まれ、
無慈悲な災いで幸せが奪われた老輩の中に降臨した。
現人神の巫女は雅な島唄と優しき言葉で人々を慰め、
嵐に揺さぶられた時代の中、海抵の人々は初めて希望を抱いた。

伝説によると、この大海より生み出た羽根は、「現人神の巫女」の羽衣から取ったものだという。
子供の愛らしい手で偶然にも摘まれ、また悩みを抱えた人によって永遠に保管された。

その後、勇士は祝女と共に、取り返しのつかない犠牲を払う場所へと向かうこととなる。
しかし、現人神の巫女の羽衣は消えてなどいない。その記憶は、今の時代にまで伝わっている。


別れの貝
底なしの深き海に由来する、透き通った無垢の貝殻。

蛍光色の静かな深海では、時がいつも止まっているかのように見える。
透き通った貝殻も、長い寿命のため健忘がひどくなった。

海祇の民は深海の長き夢に別れを告げ、暗く遠い海淵の下より訪れた。
暗夜の龍の後継者が目を光らす中、その詮索を避け、燐光の珊瑚の階段を登って太陽の国へゆく。
伝説によると、海淵の民は氏族の記念物として、一枚の貝殻を持って行ったそうだ。
氏族を失った孤独者も、この時に新しい家庭へ入ることとなった。

先人たちの古代の言葉で、このような透き通ったきれいな貝殻を「別離」と呼ぶそうだ。
抱き合う二人を外部の力によって隔てることはできない。
しかし、互いを支え合うことも、永遠に続くことではない。
それは、先人たちが海淵に別れを告げただけでなく、太陽の下で新たな始まりを迎えた時でもあった。


真珠の籠
海祇島の巫女たちが祀る真珠。常に微かな光を放っており、その光が弱まることはない。

海祇島の神君が讃えた光り輝く真珠。海の民たちにとってかけがえのない宝でもある。
真珠を主題にした「御唄」は、昔から現人神の巫女だけが歌えるものだ。

玉虫色の輝きを浴びた巨大な貝からは、海祇の優しさが感じられ、無垢な美しさを持つ真珠を生んだという伝説がある。
後の世で現人神の巫女として祀られる一脈は、最初、真珠から生み出されたとされる。
巨大な貝の柔らかなゆりかごから歩き出し、海月と共に踊る姉妹は高く評価された。
喜びと慈愛の中、大御神は彼女たちに美玉を下賜し、天光を追い求める純粋な夢を与えた。

海祇の血が流れる人々の手にかかれば、真珠はさらに輝くだろう。
あるいは、それはただの古い伝説に過ぎず、その真偽を確かめるのは難しいことかもしれない。
伝説によると、敗北を喫した瞬間、巫女は双子の姉妹と衣服を交換し、絶えることのない激しい波に隠れたという。
しかし、その一粒の輝く真珠だけが、激動の波の中で失われ、静かな海淵へと舞い戻っていった。


海祇の冠
忘れ去られた「神人」が所有していた精巧な古の冠。今は海祇の人々によって大切に保管されている。

かつて、大御神は数多の氏族の中から神人を選び、自ら冠を被った。
しかし、神がいなくなった時代のあと、神人の逝去と共に、その優雅な冠も封印された。

海の民が歌う島唄の中で、真珠と珊瑚で作られた絢爛たる冠が汚れることは決してない。
海祇の冠を賜った人こそ、大御神に認められし「人君」である。
海の民たちに「東山王」と呼ばれた勇敢な藩主や、自由奔放に海を渡る双子…
その者たちは大御神の慈愛に満ちた目に見守られ、島唄により不滅の魂を与えられた。
伝説によると、これら人君は大御神を補佐し、海の民たちに島での農業、漁業、狩猟などを指導したとある。
しかし、命を賭した避けられぬ戦いにより、神々は終焉を迎えた。

海淵からの希望と記憶を心に抱き、とうに失われた文明と歴史が染み込んでいった。
これら精巧で優雅な冠は、その主と共に忘却の裂け目へと滑り込んでいく。

辰砂往生録

生霊の華
いにしえの時を思い起こす品。まるで数百年前に保存された生霊のごとく生気を放っている。

辰砂色の古い崖には、鮮やかな花も咲いている。
黒い血が溢れるこの時代に、わずかな穢れにも染まっていない。

千岩牢固、揺るぎない。たとえ暗色の妖魔を前にしてもである。
沈黙を貫く山民と鉄色の明月が、彼らのため静寂な陣地を築いてくれた。

「岩々と琉璃晶砂の娘よ。どうか私のために泣かないでくれ」
「天衡の影に生まれし私は、岩王の恩恵に報いるため戦う」
「四臂夜叉に命を託し、蛍光の深淵へと向かおう」
「暗く深い洞窟の影の道、浮遊する険しき岩宮の晶石」
「湧き出す深淵の汚れし流れ、山の底に伏す歪みし妖魔」
「どんな恐怖や奇異も、私の心を怯ませはしない」

夜風が千岩軍の兵士を遮り、彼に別れの言葉を言わせなかった。
忘却の証として山民の娘に残されたのは、この小さな花だけ。

「私が恐れる唯一のことは、忘れ去られることである」
「もし厄運が私を無名の地に埋めようとも、どうか私のことを忘れないでくれ」


潜光の羽
薄暗い質感を持った羽。重々しい記憶を秘めている。

ある英傑が層岩巨淵のもっとも高い崖に立ち、空を飛ぶ鷹の羽を手にしたという伝説がある。
また言い伝えによると、この偉業を成し遂げた才ある者は、仙人と肩を並べて死地に赴く資格があるそうだ。

「民衆を守り、何かを求めるため死地へ赴くのは良きことだ」
「だがよく考えてみれば、これは深き淵に潜む魚、幽谷へ堕ちる鳥のようなものである」
「己の想いは叶うが、成し遂げたことは皆に知られず、やがて忘れ去られてしまう」
「我々のような凡人は、竜巻に運ばれた羽のように、深空に散って落ちていく」
「救済も堅守も、いずれも無駄で意味のないこと」

不気味な囁きが、名を残すことのできない人々の心を静かに揺さぶる…

だが、やがて戦塵は収まった。多くの兵士が岩穴の奥深くで眠りに落ちる。
漆黒の軍勢が放つ気味の悪い咆哮も、波紋が収まるかのように静かなっていた…
たとえ人間の過ごす歳月は短くとも、大地はそのすべてを記憶していく。


陽轡の造品
頑丈な見た目をした古代の時計。晶砂の光沢が特徴的。

伝説によると、岩王がまだ若かりし頃、太陽は大地を巡行する高車であったという。
夜空の三姉妹が災いにより殉じた時、陽手綱の車も深き谷に落ちた。
山民は皆、太陽の馬車が修復され、暗い空が再び輝きに満ちたのは良きことだと言う。
陽手綱は果てのない西回りへと戻ったが、ある欠片は永遠に残った。
山民が港町に移り住んだ後、欠片を晶砂に変え、それを目の肥えた人に売った…

「冗談はさておき、それらは根も葉もない民間の噂。軽々しく信じることはできない」
「盛露庁の商人はすでに蒙昧から脱却し、馬鹿げた過去を忘れている」
「なにせ、輝く晶砂は陶器の製作や贅沢な塗料には向かない」
「またこれも根も葉もない話だが、層岩巨淵の鉱夫によると」
「この時計とわずかな晶砂は、五百年前の千岩軍の兵士が持っていたものであるという」

光と闇が争う漆黒の深淵では、夜叉の力をもってしても抗うことが困難である。
凡人こそ明かりが必要なのだ。さすれば、人を飲み込む漆黒の鉄幕を相手に身を失うこともない。
まるで純白の月光のように、千岩軍の兵士が蛍光の砂を集めて照明として利用した。
時計は犠牲を恐れぬ人の証、人が深淵に残る時間を計算するためのものである。


契約の時
いにしえの晶砂の杯。歳月の侵食を受けてもなお、まだ色褪せてはいないようだ。

古来より辰砂色の輝きを放つ地「層岩巨淵」。
山奥の鉱夫と市井の宝石商人の間では、夜叉の伝説が今なお語り継がれている…
かつて、肩から四本の腕を生やした孤独な旅人が、天星の降った荒れ果てた地にやってきたという。
邪気を払うことのできる孤客がこの地へ来たと聞き、山奥に住む族人が大挙した。

「遠路遙々訪れし客人よ、どうか我々の酒を飲みながら、耳を傾けてほしい」
「熟成された山の酒は酸味が強く、飲みづらいかもしれない。きっと帝君が称賛した天衡山の美酒とは、比べ物にならないだろう」
「しかし、山民は天から授かりし奇石や玉を素晴らしき宝として大事にし、生計を立てるために険しい岩壁を削ってきた」
「望み通りの生活とはいかないが、帝君の優しさにより、とても快適で平穏に過ごせている」
「ただ状況は以前と異なり、天星の恩恵は漆黒の影に阻まれてしまった」
「我々は今、契約を結ぶための高尚な祭礼を用意できない。それでも、あなたに救いを求めるために参じた」

客は長老たちの訴えを黙って聞き、手にした盃に入っている苦い酒を黙って飲み干した。
そして、何の約束をすることも人々の無礼を咎めることもなく、引き留められるのを無視してそのまま東へと引き返した。

その後の話は、今はもう誰もが知っている…

山民と交わした素朴な晶砂の盃も、契約を結んだ証として残されている。


虺雷の姿
山民が夜叉のために作ったと言われる冠。古朴な見た目だが、光沢があり艶やかである。

四本の強靭な腕を持つ夜叉が、天穹の谷を訪れた。
遠方より層岩へとやって来た彼は、その地の人々から喝采を浴びた。
彼のために沢山の料理と酒が用意され、豪勢な宴が催される。
そして、彼は深淵の谷に刃を揚げ、民衆のため災いを払いに行った。
その体捌きは鬼の如く俊敏で、紫に光る眼からは獰猛な殺気を感じられた。
轟々たる雷が死の霧を払い、まるで蛇のような雷光が暗い川の波へと溶けてゆく。
星河を飲み込むかの如く、巨淵を覆いし雲が現れた。
狂風が再び吹き、辰砂が真っ暗な地を包み隠す。
岩石が響いた。山道は揺さぶられ、深き谷も大半が崩れ落ちていく。
巨淵の瓦解が大地に轟音を響かせる。そして、突然の静寂が訪れた。
濃雲は夕陽の光を凍らせ、止まりし鳥はまるで涙を流しているかのようであった――
「知っているか、北風の中で太鼓や角笛が鳴り止み、英傑が渦の中に消えていったことを」
「夜明けまで戦い抜いた夜叉の姿を見ることはできない。無意味に流れた時間を嘆き、ただ長い嘆息を漏らすしかないのだ」

来歆の余響

魂香の花
花の形をした宝玉の彫刻。幽幽たる魂の気を纏っている。

毎年、魂香の花が咲く頃になると、翹英荘の奉茶儀式の準備が始まる。
花びらが散る頃には、花の香りを九回ほど茶の葉に染み込ませた花茶が、堂の前に供えられる。
突如として訪れた仙人が飄然と去るかのように、魂香の花期は短い。
そして、薬君という曖昧な名と、支離滅裂な数々の伝説だけが残った。

とある物語では、薬君の仙人は肉体を葉の繁る古き茶の木の枝に変えたという。
また別の物語では、手懐けられた悪獣に乗って、仙山へと飛んでいったという話もある。
さらに、こんな物語も――

少女が陸に上がるや否や、地面に落ちていた帷帽を拾い上げ、無造作に頭に被った。
顔を隠すようなものがないと、彼女は恥ずかしくて口も開けなくなってしまう。
すると、彼女をこんな無様な姿にした張本人が水面から顔を出し、
まるでこの対決の勝敗を誇示するかのように、色とりどりの鱗をキラキラと輝かせた。

「…ぐッ!泳げるのがそんなにすごいことなの?呪ってやる、いつか溺れてしまうように!」

その時は確かに頭に血が上っていたが、あくまで冗談であった。
しかし、あの光り輝く流光はやがて深き淵に消えると、二度と姿を見せなくなった。


垂玉の葉
葉っぱの形をした玉佩。かつて、ある友人たちの間で特別な意味を持っていたようだ。

遥か昔、彼岸に船を泊める場所がまだなく、雲煙の立ちこめる山しかなかった時代。
その山の持ち主が何を植えるか迷っていると、他の者に先を越されてしまった。

「この木が成長したら、葉を摘んで茶を淹れよう」
「その時が来たら、留雲借風と理水畳山たちをここに呼び…」

「私の土地に木を勝手に植えたくせに、そんなことを考えるとは」
山の王である少女は怒りを露わにしたが、ついお茶の香りを想像してしまった。

そして、誰かがこの玉玦を小さな木の細い枝にこっそりと結びつけた。
その後、山の持ち主は戻ってきたが、別の姿となっていた。
紐を解く指も失われている。だが、それはもうずいぶんと昔の出来事…

長い年月を経た後、その枝は山民によって向こう岸へと移植された。
お茶の香りも沈玉の谷から璃月港へ、さらに様々な場所へと広がった。

沈玉の谷にある茶の木に関して、様々な伝説がある。その中の一つはこのようなものだ。
水文、土壌、日照に関わらず、この木は沈玉の谷でしか育たない。
それは遠い昔、茶の木の苗の傍で旧友と交わした約束を覚えているからだ。


祭祀の証
円形の玉佩。とある伝説では、儀式を開始する時の証として使われていたという。

この玉佩の天然石は、長年封印されていた神山に由来するものだという伝説がある。
海辺を離れた星螺が波の音を思い出すかのように、
その飾りからも細やかな水の流れる音が聞こえた。

旅館ではこんな噂をよく耳にする…
「伝説によると、山奥の至宝は元々恵みの雨を降らせる璞玉である」
「しかし、後に世が混迷に陥った時、その力を手に入れようとする妖魔たちが現れた」
「そこで山主が璞玉をいくつかに分け、異なる形に変えて目を欺こうとした」
「それらを水に沈めたり、山奥に隠したり、祠に供えたりしたという」
「沈玉の谷の伝説では、それらの玉は神の契りによって祝福されたものである」
「ただ、何年経とうとそれを見つけ出せた者はいない…」

祭司はこの飾りをいつも大切に身につけていた。
ある年のこと、出かける直前に風情の分からない友人にそれをこっそりと見せたことがあった。
祭司はこの模様の由来や、先祖と神々の長きにわたる契りについて粛々と語った。
しかし、友人がその言葉に興味を示すことはなかった。薬を粉にする杵を手に汗をかいている。

「毎年、同じような祭祀を繰り返し行ってる。その話だってもう何回も聞いた」
「帰ってきたらお茶を奢るって約束しただろ?話はその時にしよう」
しかし、水の中から現れたのは、彼女が思っていたものとは違っていた。やがて、水の中へと消えてしまう…

今もなお、遺瓏埠の職人たちはこの形を模した伝統的かつ素朴な飾りを作ることができる。
往来する商人たちもその伝説に倣い、精巧な飾りを耳元に近づけ、
岩を打つ雨の細やかな音が聞こえるかどうかを確かめている。


湧水の杯
水が永遠に湧き出る杯。恐らくは仙人からの贈り物か遺物、もしくは落とし物だろう。

最初、それは友人たちからの贈物で、小さな洞天へと通じていた。
湯飲み茶碗の清泉は乾くことなく、仮住まいに最適である。
太陽や月の倒影を中に映せば、泳ぐ魚を入れることもできるだろう。

夜叉の定められた厄運と比べれば、自分は幸運だと彼女は言った。
ただ、古い儀式を引き継ぐ代償として、陸地に上がることができなくなってしまうらしい。
あの頃、璃月の地表を奔流する甘き水は、今ほど豊かではなかった。
山の下の港町も平原の集落も、彼女にとっては夢のような存在。
しかし厄介事を嫌う者が、この湯飲み茶碗を持って発つと言い出した。

その者が言う璃月港は、村で催される縁日のように明白な嘘だと分かった。
この旅路はきっと今と同じ、争いと様々な面倒事に満ちている。
彼女は二人とも、よく知りもせず話をする傾向にあると知っていた。賑やかな人混みに近寄るのを恐れているようだ。
その者たちのように繁栄を妬み、恐れる小さな仙人はもうこの世にいない。

「しかし、私たちの間には沢山の約束がある。これはいいことだろう」
出発の前、彼女はそう思った。
「この旅はきっと面白くなるに違いない。彼女を旧友にも紹介できる」

その後、風炉や茶釜は有効活用され、湯飲み茶碗の形も人々の心へと刻まれた。
こうして、皆の机の上にも手のひらの上にも、明月を持つことができたのである。


浮流の対玉
美しい玉石をあしらった耳飾り。優しい温もりが紛れもなく感じられる。

沈玉の谷には多くの山、絶えない水、数え切れないほどの物語がある。その中でも特に有名なのが――
その昔、妖魔の手に落ちないよう、水に沈められた璞玉だ…

伝説という名の川には、常に多くの支流が生じる。その中には次のような話があった。
美玉はかつて神山の中の璞玉であり、帝君の手によって精巧に彫刻されたもの。
清水に浸る奇石は珏、璋、玦、または盃であろう。
また、このような説がある。物語に登場する「玉」とは、実は美人の比喩表現であると。

伝説によると、このような景色を見た者がいる…

太陽の光に照らされ輝く、宝石のような鯉が無数といて、
水生生物を束縛する河川や湖沼から解放されると、
群れとなって、谷間の空を風と共に自由に飛び回った、と。
誰かの耳元にある一対の玉玦も、別の形へと変化した。

深林の記憶

詳細

迷宮の遊客
森林王の冠から取れた、装飾用の金の花。

森林王が誕生した時、草木の王から冠を授かった。
それは最後に、王の足跡を追って初めて迷宮をくぐり抜けた少女へと受け継がれた。
森で迷子になった、野花を踏んだこともない子供たちを彼女はたくさん引き取った。

彼女は、王に仕え、王のために迷宮を守る生活しか知らないから、
この世界は、森が見た夢に過ぎないということを知っていたから、
森で狩りをし、夢の中を歩く術を子どもたちに教えた。
森の草木を愛せよ――それらは王の庭だから。
矢に倒れた獲物を尊重せよ――それらは王の臣民だから。

彼女の言葉は、深林の中で迷子になった子供たちに伝わってゆき、やがて大きく変化を遂げた。
そうしていつしか、これらの教えの起源は忘れ去られてしまった。しかし、一部の子供は森を見回る守護者となった。
彼らは人々の世界に戻り、いっとう長い夜が訪れる時には、焚き火をして闇の暗影を追い払った。
また、樹木の咲の間を縫って歩き、最後には獣を狩るため、月日すらも忘れて黒い血を纏う者もいた。

彼女は最後の森林王と同じくらいに古い。最期の時、彼女は迷宮と狩りの夢を見た。
その夢は、すべての森の民たちの夢を包んでしまうほどに広大であった。
この迷宮は、限りなく広い猟場であり、木の根と小川の描く道は、虎の縦模様よりも濃く密集し、
流水に映る月明かりよりも千変万化だ。「死」を説こうとする深い囁きは、迷宮の中で迷ってしまったようだった。
何せ、この迷宮を通り抜け、無限の猟場にたどり着けるのは、彼女と森林王の教えを理解している子供しかいなかったのだから。
囁き声が消え、悪しき獣が逃げ出した時、すでに完全に侵食されていた彼女は、その大夢と共に消え去っていった。

そうして最後、彼女は数多の夢の欠片と共に、人の子の夢の中へと流れ込んでいった。
割れた鑑が、様々な角度から異なる姿を映し出すのと同じように、
彼女が残した夢も、様々な形で人々に、物語として受け継がれている。
しかし、最終的に広まった(抜きん出た)物語は、彼女とは全く関係がない。

物語の中で伝えられてきた彼女の名前というのは、実はあの冠の名前だった。
最後に彼女が自分に残したものは、本当の名と、月明かりを映す一掬いの水、
そして、敬愛する王から授かった冠から取った、金メッキの花だった。


翠蔓の知者
羽毛のように軽やかな翠色の葉っぱ。森の知者の衣服から摘み取られたものである。

あれは迷宮の王の時代だった…
王の近侍の中で最も賢い乙女は、すべての獣の言葉を解し、月明かりの詩を味わうことができたという。
そして彼女は静かな森と、月が映る聖水、そして夢の森の果てにある、果てのない猟場を守っていた。
「わたしたちは青々とした偉大なる森の中で生まれた。わたしたちの世界は木陰の下と、それから草地の上にある。」
「森から来たものは、すべて森へと還る。天地の理に従えば、生死をおそれる必要はない。」
「自然に従うものは、いずれ偉大なる森の迷宮を通り抜けて、果てなき野原へとたどり着くのだから。」
彼女の教えは数多の子供たちを啓発したが、それはやがて虎の血脈のように薄まっていくのだった…

あれは、不吉な月の時代だった…
盲目の少年は、白い鎧を着た兄の足跡をたどり、多くの王国と山河を抜けて行ったと言われている…
やがて彼は、暗い森の奥深くへと迷い込んだ。
剣術に夢中であっても、その実彼は誰より優しかった。教えを厳格に守りながらも、誰より正義を貫いた…
心の中にある永遠に真っ白な幻影の成れの果てに見つけたのは、月明かりのように潔白な、林を鎮める聖なるものの一つだった。
彼は既に願う力を失っており、心の中で彼を導いていた純白の姿も次第に闇に包まれて、消えてしまった…

あれはまだ闇夜が優位にあった、夜明けの遠い時代だった。
悪夢の中で、知者は暗い色をした長剣と、水に溶けゆく赤色を見た。


賢知の定期
賢知の道を歩む者が使う時計。中に入っているのは生命無き砂ではなく、小さなカラシナの種だ。

大昔の伝説によると、森林王は「不老不死」だったそうだ。
その命がおわるとき、その体は密林へと溶け込み、
爪と牙は鉄の木になり、縞模様は果てしない迷宮となり、
輝く両目はそれぞれ、空と水の中に浮かぶ月となった。
死んだものはみな、別の形で生まれ変わる。
腐ったものからは、純粋な新芽が生えてくる。

「けれど、死によって消えてしまった魂と、永遠に失われた記憶…」
「生死の循環の中で、これらの居場所はあるのかしら?」

「魂とは虚無の概念に過ぎず、記憶もいずれ大地に還る。」
「そもそも虚無を恐れることなどないのに、その消滅を心配する必要なんてどこにある?」
「お互いに記憶を刻みつけ、助け合うことで、みんなの姿を永遠に記憶に残せばいい。」
「そうすれば、生と死の循環をも、乗り越えられるはず。さあ、記憶を永遠にするの!」

それから長い時を経て、お互いに覚えておくよう約束した親友は、物忘れの病に罹った。
ならば、まだ完全に忘れ去られてはいない、昔の夢に描かれた三人と、三体の精霊の姿、
そして学院から追放された、狂気に満ち溢れた医者が残した記録と推論をもとに、
夢を狩りに行こう――夢を操ることの出来る森の住人を捕獲しに行って、戦友に己の姿と共有した思い出を、もう一度思い出させよう。

もしも記憶を支配する器官が壊れすぎて、復元できなくなったら、
もう一人の旧友を連れて、過去の夢の中で一緒に暮らそう…
小さなツリーハウスで遊び、深い深い密林を探検する。
――それも悪くはないだろう。夢の中では、誰もが「もう一度」始めるチャンスを持っているのだ。

さあ、まずは夢の中にいる精霊を捕まえましょう。
あの傭兵たちは、私のために沢山尽くしてくれた。
今回も、期待を裏切ることはないはずよね。


迷い人の灯
もともとは砂漠風のランプ出会ったが、濃緑色の光を放つ葉っぱが生えてきた。

愚かな王がその野望によって自滅した後、砂漠の王たちは立ち上がり、そして火花のようにバラバラに飛び散って消えてしまったと言われている。
多くの小さな暴君は、滅びの日から逃げてきた流浪の民を集め、古代の廃墟をもとに神殿や宮殿、そして高き壁を築いた。
しかし遺跡の都は日に日に崩れ、一時は富強を誇った暴君たちも、朝生暮死の儚さであった。
このオイルランプは、その中にあった、とある衰退した王国の若い王子が所有していたもので、貴族の宝物庫に残っていた秘宝の一つである。

「父上は鷹を追って高い塔を登ったが、古びた高い塔はその太い体を支えきれずに、灼けるように熱い流砂の中へと飛び込んでいった」
「王国の命運はこうして尽きた。王位を継ぐはずだった私も無意味な混乱に巻き込まれ、陰謀に翻弄されることになってしまった。」
「あの頃は、私にも愛した人が居た。だが…彼女はただ女王になりたいだけだった。誰が王座に座っていようと構わなかったのだ。」
「そして、私は最愛の人を失った。私は己の命と印璽のために、ラッセルクサリヘビの接吻で彼女の口を封じ、砂の夜着で彼女の身体を覆った。」
「その後、記憶の中にあるすべての王国と同じように、内憂と外観が生じた。舅父たちと叔父たち、奴隷たちと賤民たちは同士討ちで殺めあった。」
「貧困と争いが奇形の双子のように、この神を失った熱砂の上を輪舞し続け、蜃気楼の中に自らを方ミリ去っていく。」

こうして熱砂の王国は熱き砂に埋もれ、かつて豪奢の限りを尽くしていた王子はすべてを失って流浪の民となった。
新天地を征服したいという願望を抱えながら、彼はわずかな財のみを手に、たった一人で雨林への道を歩んだ。
しかし、それから長い時を経て、猛々しいリシュボラン虎のように森を征服しようとしていた王子は、静かな月明かりによって整復されてしまった。
白い弓を持つ女狩人のたくましい姿に魅了され、夜な夜な後を追っては追い払われる日々の中で、故郷を失った王子は、雨林のざわめきと猛虎のささやきを理解できるようになり、慈悲深き夢に受け入れられるようになった――

「ハハハ…それはいい話だな。貴人が流浪の末に再び宿命を見つけ、栄光を取り戻した。いい物語だ…」
「黄金の眠りが、彷徨う砂を呼んでいる…」


月桂の宝冠
草木を支配する神より授かりし王冠。かつては迷宮の王の間で代々受け継がれていたが、最後は王の侍従の手に渡った。

万物は生まれ、そして死ぬ――この繰り返しは延々と続いてゆく。
かつて樹木の君主はこのように、生々流転のことを教えた。
死んだものはみな、別の形で生まれ変わる。
腐ったものからは、純粋な新芽が生えてくる。
地に落ちた果実は獣の糧となり、
そして獣も最後は土に還り、いつしか果実となる。
森の中はいつも、生命に満ち溢れていた。

伝説によると、樹木の神は砂の中に森を創るため、
大地の奥深くに、雨を召喚できる装置を作ったそうだ。
そのため、月は水面に迷宮の光模様を映し出し、
そこから「虎」が生まれた。

虎の縞模様というのは、樹木の道と同じように千変万化であり、
だから虎はビャガラと云う名の、迷宮の王者となれたのだ。
祝福を受けた森林王はその庭園で悠々と頭を高く上げて歩き、
霊長目ばかりでなく、迷宮に頼って生きる鳥と獣をも統率していた。

その後、ザクロの種が土に落ち、森の精霊が生まれた。
森林王は、最初のヴァサラの樹の下で彼らを祝福し、神と約束した――
彼らと迷宮を分かち合い、森に住む鳥や獣が彼らに危害を与えないように命じることを。

太陽は一時遮られ、流水は一時腐って、
最後の森林王は生命の苗圃を守るために息絶えたが、
その王の名を受け継いだ、リシュボランの大型ネコがいた。
かの者は王の姿を真似て、森の獣たちを見回っていた。
王の気迫と力の万分の一にも及ばないが、
王の約束を守って長く森を守り、
一度も木の守護霊を傷つけようとはしなかった。
そう――常に変化し続ける迷宮は死んだが、
森の中は依然として生命に満ちあふれていたのだ。

金メッキの夢

詳細

夢境の鉄花
色みの暗い金で仕上げられたつぼみ。決して開くことのない花びらは、深紅の芯を包んでいる。

「黄金の夢の中では何人も、一滴の苦汁さえも口にすることはない。」
古代の伝説の中で、かつて手をたずさえて共に歩んだ三人の親友があったそうだ。
その中の一人は薔薇のように枯れ、土の中で腐っていった。
花の国は、風と砂ぼこりにさすられ、物語となり、歌の中の夢となった。

他の一人は、砂漠の片隅で、かつてないほどに大きなオアシスを創り上げた。
最後の一人は、知性と力を振り絞って、砂の中に永遠の蜃気楼を作り上げた。
誰も悲しみと別れに隔たれるべきではなく、そのために顔に細かい傷を刻むべきではない。

「月明かりがあなたの掌から去り、砂漠の迷宮が頭上に孤独な銀の光を取り戻した時、」
「夢の伴侶が眩しい日差しの中で燃える様子を覚えておいて。」

こうして、執着の追想が燃え盛る新世界から昇って行った…まるで煙のない炎のように。
こうして、片方の目を過去に、もう片方の目を夢に向けると、必ず迷うことになる。
こうして、彼は罪の深淵に目を向け、蜜のような囁きに耳を傾けた…


裁断の羽根
かつて罪人の心臓の重さを量るために使われた特製の羽根。今はもう、元の機能を失っている。

「新世界では、一切が善である。」
いにしえの時…高天からの勅命は沈黙し、地上は主を失った。
文明と平穏の過去は見捨てられ、濃い闇の中へと沈んだ。

しかしその後、不可逆的な時間の法則によって、砂漠の中のすべての生命は再び測られることとなったのだ。
羽で心臓の重さを量り、熔鉄で精神の重さを量る——それは無私の理性による支配であった。
神王の裁きに従って、血に根ざした法律が砂漠の楽土に刻まれたのである。
しかし、統治の理想は切なき悲願によってねじ曲げられた。官も悪人を助け、悪事を働く者になった。
そうして流砂に沈んでゆく宮殿の基礎を顧みることなく、狂気に満ちた光なき未来に向かって突き進んでいった。

「すべての裏切りに、容赦なく裁断を下すべきだ。」
「その結論は——完全なる殲滅だ。」
その後、規則は浮かび上がる蜃気楼のような傲慢によって腐敗し、桎梏と化してしまった。
神王の選択によって、臣民の運命は鎖のような不幸に拘束されたのだった。


深金の歳月
濃い金の光沢を放つ、いにしえの日時計。かつての砂漠を物語っているかのようだ。

「黄金の願いは、最も古き姿で現れる。」
最初、各部族は砂と共に暮らしており、地脈を大地に繋いでいた。
彼らは血の法を守るとともに、血脈に刻まれた飢饉の記憶を恐れていた。

その後、時間は砂利をたずさえて大地を席巻し、それによって頭角を現した神王は、壮大な影を落とした。
忘れ去られた時代に神は楽土を築き、点在するオアシスや縦横に流れる泉を作った。
神王に従って人々は高い壁を築き、玉座を据え、繁栄する属国を作った。
神王に倣った属国の姿は、王と神官がいた、古き時代を思い起こさせた。
あの頃、賢明であった王は高天からの神託を受け、大地もまだ災いの意味を知らなかった…

「王は知恵で黄金の往日を取り戻し、」
「無限の神力で時間の流砂を止める。」

そうだ。砂漠の王と砂の民の黄金時代が、いずれやってくる。
黄金の眠りは彷徨う砂を呼ぶが、そこには悲しみも別れもない。


甘露の終焉
古代の盛大な宴会で使われた杯。かつての輝きは今や、跡形もない。

「有限の喜びは苦みに終わり、」
「蜜のように甘い思い出は色褪せてしまう。」
初め、楽しい宴会は花と月夜の女主人に、権威は砂漠の王に、命は草木の養育者にそれぞれ属していた。
白銀のような月と黄金の太陽、そして翡翠のオアシス——三柱の神王は同盟を結び、親友になるという誓いを立てた。

「あの頃、月明かりはその幸せをナイチンゲールと薔薇に語った。」
「彼女たちは慌て、そして恥じ、応える歌も歌えなかった。」
「平和と安寧で一つになった、この悩みのない楽園の中には、互いを分け隔てるものも災禍も存在しない…」
「揺らめく蜃気楼のようなこの幸せの瞬間が永遠になれば、別れの苦しみもなくなるのに。」

しかしその後、時間は昼と夜の黙約を切り裂き、久遠の契約をずたずたに引き裂いた。
安らかな月夜が流砂の中に沈み込み、すべてを包む日差しが酷烈な眼差しを投げかけた。
神王の宴の時を分かち合った祭司と民は、あの夢のように美しくて短い時代のことを覚えていた。
しかし、夢はついに理性によって捕らえられ、生命なき機械たちの中に投げ込まれた挙句、挽き潰されてしまった。
そして機械の中から、また漆黒の夢魘の中から、新たな智性が誕生した…

「幾千の考えを一つに、幾千の計算を一つに。」
「こうして、人は諸王の王となり、諸神の神となる。」
孤独な諸王の王のために、挽歌が奏でられた。
しかし、金色に輝く砂はすでに、その敗亡の運命を知っていたのだ。


砂王の投影
その昔、砂漠の祭司が使っていた金メッキの頭巾。伝説の、砂の民の王が身に着けていた頭巾の形を模している。

「王者は太陽のように眩しい光と共に訪れ、」
「人の子たちのため、薔薇で編まれた茨の冠を取り除く。」
最初、神の柱が高き空から降りてきて、流砂の下に草地や林を埋めた。
黄金の太陽が沈んではまた昇って、砂の海に華やかな死に装束を着せた。

その後、時の毒風は国を失った者の眠りをかき乱し、ノスタルジックな妄想を呼び起こした。
呪わしき時代、多くの都市は肥沃なオアシス都市として栄えていた。
神王の理想に従って祭司たちは公正に楽土を治め、四方に富を広げていた。
かつて、大地の支配者であった凡人の賢王と神官は自ら聖なる教えを受けた。
しかし今や、彼らの代わりにオアシスを統治する多くの高官は、神の影となっている。

「レガリアと神の杖は、ヤナギバグミのように地上に散らばっている。」
「影の下に臣民たちは隠れ、生きて来られた。」

長い時間を経て、蜃気楼のような狂想を伴った、不条理な決断が下された。
甘美な期待を餌に、臣民を苦い結末へと導いたのだ。

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  • ☆5未満の聖遺物物語を別ページに移行しました。 -- 2021-01-14 (木) 16:31:47
  • 読んでみるとすげぇ面白いわね、これ。作り込みヤバイわ -- 2021-09-04 (土) 09:21:48
  • 初見読んで意味わからなかったけど、ストーリー進んで「これあいつのことだったのか!」がでてきておもしろい -- 2021-09-04 (土) 10:31:49
  • たたら砂のデイリー中に気付いたけど、たたら砂の各地に落ちてる古い手帳のページに出てくる名無しの傾奇者が散兵の事なら、華館の羽のストーリーに出てくる心優しい副官が桂木で剛直な目付けが御輿長正の事で、長正は義母の千代が闇落ちして将軍を裏切った為、御輿家の汚名をそそぐ為に些細な不正も許さない非情とも言える厳格な人になってしまい、桂木が善意で些細な不正をしたら、桂木達と一緒に作った刀で桂木を殺してしまうんですが、この桂木の善意の不正に散兵が何か関わっているのかな?夢醒の瓢箪のストーリーでは、刀職人に復讐しているし、時期的にオロバシや漆黒の後で古い手帳のページでは撤退したと書かれていたから、たたら砂が何処からか攻撃されていて散兵も将軍に救援を求めたが駄目だったっぽいし、たたら砂は何と戦っていたか気になる。 -- 2021-12-02 (木) 20:07:19
  • 行数オーバーになったため、辰砂往生録以降を暫定的に分割して埋め込みました。 -- 2022-04-10 (日) 01:14:24
  • 淑女と散兵の流れからすると血染めの騎士も執行官かもね -- 2022-04-18 (月) 03:44:54
    • 違うわ、深淵に忠誠を誓うらしいから出るとしてもアビス側だわ -- 2022-04-18 (月) 03:50:34
  • 雷のような怒りが鶴見の話だとわかった時にそんな前からストーリーを作っていたんだと鳥肌がたった -- しぶ? 2022-08-20 (土) 21:31:48
  • 紀行弓の物語に出てくる盲目の少年=血染めの騎士道の騎士の弟って既知の情報? 深林で考察が進む気がする -- 2022-08-31 (水) 15:49:26
  • 実装時は意味わからんかったけど逆飛びの流星は稲妻の話か。んで多分白辰の輪 からするに出てくる狐人は狐斎宮さまで、今更気づいたが逆飛びの流星って花火のことだったんだな -- 2022-09-11 (日) 01:30:10