キャラ外観変更/物語

Last-modified: 2024-05-07 (火) 22:36:24

物語:キャラ/ア-カ | キャラ/サ-ナ | キャラ/ハ-マ | キャラ/ヤ-ワ || 武器物語 || 聖遺物/☆5~4 | 聖遺物/☆4~3以下 || 外観物語
図鑑:生物誌/敵と魔物 | 生物誌/野生生物 | 地理誌 | 書籍 | 書籍(本文) | 物産誌


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■は未記入の項目の目印

服装

※実際の服装名には【名前】はついていない

【ジン】海風の夢

代理団長の生活は歯車のように、重たくのしかかる責任によって動き、忙しい仕事の中で摩耗していく。
時間とともに、騎士の心得によって作られた「鎧」はジンの肌に溶け込んでいった。きちんとした身だしなみを維持し、制服姿で人に会うことは、すでに習慣になっていた。
しかし実際のところ、ジンの年齢は普通の少女と違わない。

少女たちが好きな小説によれば、鮮やかな服装とは、夜空に輝く星のように欠かせないものらしい。そのため、高貴な貴族の末裔は、宮殿のように広いクローゼットを所有している。ドレスが重なり合い、布が波のようになびく。
ジンもこのようなロマンチックな憧れを持っていたのかもしれない…華麗な服に憧れを持つのは誰にでも経験があるだろう。

そして今、ジンの願いは叶ったといえよう――彼女は自分自身に一番似合う夏の服装を手に入れた。この服は、小説にあるどの華麗な服よりも遥かに勝っていた。
「最初に提案したのはバーバラだ。リサと共にありとあらゆる店を回り、最も似合う水着を探したらしい。」
「職人にデザインを改良してもらうため、まさかガイアが本当にディルック先輩を説得するとは…」
「布地はアンバーが選んだ。ウサギ伯爵を作った経験を生かし、とても着心地の良いものとなっている。あまり貴重な物じゃなくて助かった…」
「アクセサリーに使われた宝石の中には、アルベドとクレーのコレクションがある。」
「裁縫の仕事はノエルが担当し、一針ずつ丁寧に縫った。」
「そして具体的なサイズは、リサが提供したんだ…彼女は手作りの美しい薔薇のアクセサリーを縫ってくれた…」
ジンのために皆が心を込めて作ったこのプレゼントが、これまでにないサプライズとなった。

前回の休暇は忙しい日々の中の短い休息だった。しかし今回の海辺の旅ならば、ジンの身も心もリラックスさせられるだろう。
「鎧」を脱いだ後の姿は、空に浮かぶ蒲公英のようにしなやかで、海に差す光に輝いていた。
「こんな穏やかな夏の休暇は…初めてだ…」

【ジン】グンヒルドの伝承

「これ、お姉ちゃんの服だよね?部屋を片付けている時に見つけたんだけど…」
バーバラはきれいに畳まれた礼服を手にしながら言った。服についている騎士団の紋章は、陽光に照らされて金色の輝きを放っている。
見覚えのある服ではあったが、ジン自身はこのような服を持っていないと断言した。
そう言えば、普段着ている制服は、母が手縫いで作ってくれたものであることを思い出した。ということは…
「もしかして…これは母上様の?」

娘の問いに、フレデリカは珍しく笑みを浮かべた。
「ずいぶんと昔のことで忘れていたけれど、サイモンがまだ保管していたなんて。」
「これは、私が『赤楊騎士』の称号を授与した時に着た礼服よ。もしよかったら、あなたも着てみて。」
かつての苗木はすくすくと育ち、その木陰は慣れ親しんだこの地を守護している。
過去の栄光は受け継がれ、さらに輝きを増すことだろう。
彼女たちは騎士の敬礼を行い、久しぶりに抱擁を交わした。

【バーバラ】サマータイムスパークル

バーバラの踊りと歌はみんなの心を癒すためにある。
しかし人々に笑顔を届けるバーバラも、時に寂しさを覚える。
同い年の女の子みたいに、仲の良い友達とのんびり買い物をしたり、家族と温かい時間を過ごしたり。
他人にとっては些細で小さな願いかもしれないが、彼女にとっては贅沢なものだ。

アイドルとしての彼女は、出かけるたびに熱狂的なファンに囲まれてしまう。
せっかく休みを取り、両親と姉と一緒に過ごしても、幸せな時間はすぐに過ぎ去ってしまう。
優秀で忙しい姉はいつも仕事に没頭している。バーバラは彼女に悩み事を言おうとするたび、姉が抱える仕事のせいで口に出せない。

姉の疲れは見ればわかる。バーバラもそれをちゃんと知っている。
これは仕方のないこと、ジン・グンヒルドはみんなの代理団長だから。
「でも、できれば…お姉ちゃんを返してくれないかな?」
忙しい姉を見ながら、バーバラはそう独り言を呟いた。

その時、バーバラは奇妙な群島のうわさを耳にした。
夏、島、海…これは絶好のチャンスではないだろうか?
夏には冷たい炭酸水や甘い氷菓、金色の砂浜、青い海、水遊びに来た人々。
そうだ!砂浜、海!そうしよう。

海辺に行く準備をちゃんとしなきゃ。
お菓子にスイーツ…そうだ!それにピリ辛小魚、全部かわいいアヒルちゃんのバッグに入れておこう♪
それに服も!動きやすい水着に着替えないと。このミニスカートがいい感じかも、靴に付いている白いお花もかわいい♪
それに、襟にリボンを結べばもっとかわいくなるかも?
ラーララララーララ♪バーバラは嬉しそうに歌い始めた。

しかし、姉はきっと水着を用意する暇がないのではないだろうか?
それは困った。だけど方法がないわけじゃない。
「リサさん、時間ある?一緒に服を選んでほしいんだけど。」バーバラは微笑みながら図書館のドアを叩いた。

【モナ】星と月の約束

星拾いの崖に着いた時、すでにモナは到着していた。
彼女は星空を見上げながら、あなたの知らない歌をうたっている。ちょっとしたイタズラ心で背後から忍び寄ると、肩を叩く前に彼女は歌を止めた。
「私を驚かそうって魂胆でしたら、もう遅いですよ。」

さすがは偉大なる占星術師、アストローギスト・モナ・メギストスだ。あなたは大人しく隣に座る。モナは声の調子を整えると、先生のように喋りだしたーー
「今夜は見事な星空です、観測するにはもってこいでしょう。しかも、先ほど星拾いの崖に居座っていたカップルを追い払いましたので、『占星術基礎講座』の場所も無事確保できました。」
マーヴィンとマーラが見当たらないのは、それが原因だったのか。
「では、始めますよ。」
「『占星』とは、物質の運動法則を研究する学問の総称であり、天体はこの学問の基礎的な研究対象でしかありません…」
最初は理解できたが、話が進むにつれて早口になっていき、不明な点が増えていく。だんだんと、彼女の考えが分からなくなってきた。しかし、熱く語る彼女の姿を見ると、とても口を挟める気にはなれない。
彼女のキラキラと輝く瞳と話す時の仕草を前にして、申し訳ない気持ちになってくる。おや?
「服を変えたの?」
いきなりの質問に彼女は戸惑ったが、すぐさま落ち着きを取り戻した。
「そうです。占星術を教えるのは厳粛なこと。ですから、あなたの教師として、その…敬意を表すために、服を着替えました。」
少し気まずい空気が流れたが、彼女がそう言うのだ、認めるしかない。疲れていたあなたは頬を叩き、気合を入れて講義を聞くようにした。
「物質的なことは簡単で、一番難しいのは人に関する道理のほうです。だからこそ、私たち占星術師は…」
絶対に…寝ないようにと…自分に言い聞かせた…
「もう、仕方ありませんね。」と、占星術の先生はそう言葉を漏らすのであった。

【ロサリア】教会の自由人へ

「一応、みんなからの気持ちだよ!」
バーバラは嬉しそうに綺麗に梱包されたプレゼントを、不満と疑いに満ちたロサリアに渡した。

包装紙を破ると、箱の蓋にメモが貼られている。流麗で美しい筆跡は、まるで音符が踊っているかのようだ。
「親愛なるシスターロサリア。我々はバーバラさんにこのプレゼントを託されましたが、どうか彼女の見えないところで蓋を開けてください。」

背中を向けて蓋を開けると、内側にもう一枚メモが貼ってあった。同じ筆跡で、こう書かれている。
「親愛なるシスターロサリア、あなたが自分の誕生日を多くの人に知られたくないということは承知しています。しかし、この情報はファルカ団長があなたの履歴書に描いたものです。だから、この大切な日に、西風教会から特製の制服をプレゼントします。
どうかその無愛想なオーラを慎み、一日ぐらい普通のシスターとして振る舞ってください。」

ダリア助祭(この手紙は、シスターヴィクトリアの依頼で書かれたものです)

【アンバー】100%偵察騎士

アンバーはこの三ヶ月間、ググプラムに悩まされていた。偵察の際、制服や靴下がその果物に引っかかり、破れてしまうのだ。その上、ここ最近は多忙で、縫う時間が取れない状況が続いている。
騎士団の後方支援部隊からは、同じ制服が三着支給されている。そのため、一着ぐらい駄目になっても差し当たり問題はない。だが、三着とも大切にしてきたアンバーにとって、この出来事は心を痛めるものであった。
「わたしのウサギ伯爵も、この制服の色使いに合わせてデザインしたのに!」と、アンバーは落ち込んだ。

任務が落ち着いた後、アンバーは破けた箇所を補修したが、縫った跡が残ってしまった。
しかし、それからわずか半月後のことである。アンバーは騎士団の年末会議で新しい制服を支給されることになった。
以前のものよりフォーマルで、より洗練されたデザイン。しかも、頑丈で破れにくい!
その際に、後方支援部隊のヘルター隊長はこう言ったそうだ。「西風騎士団を代表して、唯一の偵察騎士に新しい衣装を贈ります!いつもありがとうございます。」

【刻晴】霓裾の舞

一番最初に咲いた霓裳花の花弁を厳選し、古代の秘法で最高級の絹に織り上げる。紫の染料をあでやかな琉璃袋から抽出し、古画のように美しい色彩を作り出す。璃月と異国の風格を融合させたこの独特な服は、百日にも及ぶ時間をかけて緻密に縫製されたもの。一本一本の線は、まるで筆で書かれたかのように細く整っている。
おそらくこのドレスは、刻晴がこれまでに着た服の中でも最も貴重なものだろう。その来歴も、実に美しきものだ――
「玉衡」に就任して以来、刻晴はその職位がもたらす恩恵を受けたことがいない*。それどころか、私的な時間を膨大に費やしてきた。普段着ている服は、仕事の効率を上げるため実用性に特化したもので、必要最低限の美しさと優雅さしか持っていない。そのため、かつての刻晴は、美しさを謳歌する年頃でありながら、美しさを引き立たせる服とかけ離れていた。
甘雨や凝光と共に仕事をした後、刻晴はあることを感じた――
夜通し働く甘雨の姿を見て、自分には半仙の血を受け継いだあの秘書の真似はできない。また、彼女はあることを知った。凝光が山のように積まれた明日の事務を忘れ、心身共に休むため――仕事を終えた後に湯浴みし、服を着替えて「気持ちの切り替え」を行っていることを。
刻晴は理解していた。変革の最前線にいるからこそ、勢いのみで行動してはならないと。自らの体と心を大事にしながら、目に見えない消耗を避け、着実に進んでいくべきだと。
刻晴を説得する時、凝光は簡潔に自分の期待を述べた。
「これまでのお祭りで、あなたはいつも同じ服装で人前に出ていた。だから、人々もその姿をよく知っている。でも、今の璃月は昔とは違う。もし新しい服で人々の前に現れれば、きっと皆を喜ばせ、大きな励みになるはずよ」
刻晴はもちろんそれを理解していた。彼女はただ同僚を心配させないよう、静かに変わっていきたいと思っていたのだ。
ならば、海灯祭の礼服から始めよう。
「この礼服は、私の仕事と生活が互いに干渉しないことを表す境界線。これのおかげで、私は一歩一歩着実に皆を先導して、璃月の新しい時代に近づけていける」
そんな思いから、刻晴は凝光の専属仕立てに服を依頼した。ただそれでも、最終的な設計は「最低限の贅沢」を遵守したものとなっている。その後、刻晴は仕事に戻り、海灯祭の準備を進めた。
再び、極端とも言えるような忙しい日々を過ごすが、それは小さな問題にすぎない。
群玉閣で旅人と話をしながら、耳元で自分を心配する声を聞いた。より明晰な考えが浮かび上がると共に、少し前の自分の決断を思い出して、刻晴は軽く喜びの笑みを浮かべた。
呼吸が合うとはこのことだろう。理想的な旅の仲間は、常に心が通じ合っているものだ。
長いこと準備してきた礼服に着替え、旅人の眼差しを受けた後、そっとささやく。
心地の良い返事を聞けた後、満開の花火を見上げた…
礼服には、虹のように華やかな星空が反射し、佳節の光が映っていた。そして、風に揺れる花のように、刻晴の澄んだ足取りに合わせて揺れ動いた。

【凝光】紗の幽蘭

璃月の商界で燦々と光り輝く人物、天権凝光。その顔には常に、自信に満ちた微笑みが浮かんでいる。
しかしそんな彼女でも、普通の璃月人のように、挫折や未練、孤独といった悲しみを抱えている。
かつて凝光は、璃月港に災いが降りかかろうとした時、何年も苦心し建てた群玉閣を自らの手で犠牲にした。
過去の甘い記憶も苦い記憶も、群玉閣と共に大海へと落ちていった。それは凝光であっても、名残惜しさを感じるものだった。
たとえ時が過ぎ、かつての夢を再建する機会を得ても、彼女はため息を吐くだろう。
この世には、いつ消え失せるか分からないものが多々ある。
それを思い出すたび、彼女は心が沈むのだ。

空での宴が再び始まると、凝光は藍色の礼装を身にまとい、皆と共に祝杯を上げた。
しかし、酒が酌み交わされる合間、名品や珍玩、煌びやかな料理、音楽、笑声が飛び交う中で、
璃月の天権は、再び愁思に包まれていた。

雲がかった心で彼女は席を立ち、夜空の下を歩く。
遠くの楼閣から響く笑い声も、すでに聞こえなくなり、この広大な世界にまるで彼女しか存在しないかのように思えた。
彼女は昔と同じように、足元に広がる璃月を眺める――
輝く月光が、薄い絹のように璃月を包んでいた。碧水の原から璃沙郊まで、しなやかな白が大地の壮大さを引き立てている。
それが凝光のもっとも慣れ親しんだ景色だった。群玉閣が建てられてからというもの、彼女の目には毎晩のように、壮大な天地が映し出されていた。
時が流れても、山や海が変わることはない。

「この世には、簡単に変えられないものがある」
「でも百年もすれば、天地万物は変わっているかもしれない。その時が来たら、私の容貌も体も、すべてがなくなり、骨となっているわ」
「それはこのドレスも同じ。過去にどれほどの光を輝かせていても、色褪せる時が来る」
「けれど、私がこの世に存在する限り、数え切れないほどの財を手に入れ、天権の力を使うことができる」
「この一生を、思う存分生きるの。権力、富、友情、どれも欠けてはならない」
「これは、とうの昔に決めていたこと。だったら、過去のものにとらわれ、一時の喪失感で理性を失うなんてもってのほか」
「人生とは短いもの。だからこそ、この短い百年を大事にしなきゃいけない」
「どれほどの時と時代が過ぎても、後の者にこの名を覚えてもらえるように。そう――凝光という名を」

彼女が席に戻った時、心にかかっていた雲は消えていた。
その彼女の顔には、自信に満ちた微笑みが再び浮かんでいたという。

【ディルック】レッドデッド・オブ・ナイト

ラグヴィンド家の長男、騎士団史上最年少の騎兵隊隊長として、ディルックはかつて花束と拍手に囲まれ、大きな期待を寄せられていた。あの自由で気ままな北風騎士ファルカでさえ、「騎士団の誇り」と真剣な面持ちで褒めたほどである。

父であるクリプスは大いに喜び、ディルックが自分以上の成果を収めることに期待した。ラグヴィンド一族の栄光を受け継ぎ、モンドのためにアカツキを紡ぐだけでなく、群衆の頂点に佇むことで高貴な資質を導き伝え、良き西風騎士になるのだと。

その期待は普段の会話や訓練、生活の小さな瞬間にまで溶け込んでいる。それが誇らしかった父は、早くから準備を進め——ディルックのために礼服をオーダーメイドした。

しかし、あの陰鬱な雨の夜のこと。父親の賞賛は、ディルックが歩む騎士の道と共に消え去り、礼服もその意味を失ってしまった。

数年後、過去の悲劇と茶番は終わりを告げる。旅から帰ってきたディルックは、「罪悪を駆逐する」ため行動を始めた。

それは亡き父のためではない。苦慮の末に見出した信念を貫き、自分なりの方法でモンドを守るためであった。

埃まみれであった礼服は、彼の手によって新たな戦闘服に姿を変えた。この久しく懐かしい質感を持つ生地を、ディルックは心の中で大切にしている。

「さすが私の息子だ」。首にある宝石が赤い髪を映し、かつてそのような口調で話していた父の記憶が蘇る。

静寂に包まれし深き夜、眠りし刃は貴公子の名の下に鞘から抜かれ、その切っ先は脅威へと向けられる。刃は行く先々で大剣の弧光を瞬かせ、燃え盛る炎を立ち昇らせた。そして、罪悪が隠れ潜む場所を燃やし尽くしていく。

「闇夜の英雄」の名がモンドの人々の記憶に刻まれた頃、目を焼く真紅の赤は、すでに魔物や悪人たちから恐れられる色となっていた。

「真のアカツキは、まだ訪れていない。」

父の期待から外れたことを、ディルックは理解している。なぜなら、彼は「先駆者」となるからだ。

【フィッシュル】極夜の真夢

――開幕――


我々の聖なる統治者、幽夜浄土の皇女!


彼女が見せる英明な統治、公正な裁断、バラのように優雅な姿は称賛に値するものである。


雷霆は彼女のために咆哮し、高塔は彼女のために建てられた。


浄土の国の領主たちと、忠誠な大書記官オズヴァルド・ラフナヴィネスは、貴女の勅命を待っている。


そして、高き山嶺の如く静寂な騎士たちも今ここに集った。


第一席、勇気の騎士。龍の鱗を貫くほどの鋭い剣を持つ。


第二席、誠実な騎士。その鎧は、龍の翼が巻き起こす暴風にも耐えられるほど頑丈である。


第三席、善良な騎士。品行方正で、闇に怯むことはない。


他の騎士たちもその後に続き、塔の頂上にいる皇女の足元に集結した。


やがて皇女は、深き夜を見つめる目を逸らし、臣下たちに言葉を告げる。


「勇気、誠実、善良、それと卓越せし民たちよ、永劫にわたくしに従いなさい」


「何故なら、わたくしは幽夜浄土の至高なる者。心の臓が鼓動し続ける限り、あなたたちを見捨てることはないのだから」


騎士たちは、彼女にこう答えた――


「我々の剣と鎧は、貴女のためにあらゆる桎梏を打ち砕き、すべての侵略に抗いましょう」


「そして真心も捧げ、貴女の聖潔なる魂を守ります」


これは邪龍タスラクと対抗するため、皇女の腕となった騎士たちの誓いである。


彼方では、邪龍タスラクが万物を庇護せし夜空を引き裂き呑み込むと、それを己の巣穴としていた。


その爪と牙を研ぎながら、ゆっくりと歩む邪龍。火を孕んだ吐息が皇女の心を焼き、瞳を赤くした。


それは皇女の宿敵であり、いずれ戦うべき相手。


しかし、運命はすでに預言を下している。誠実で善良な魂たちにとって、それは心配する必要のないこと。


ただ目を見開き、彼女が勝利を収めて凱旋する瞬間を見届ければよいのだ。


――閉幕――

備考:『フィッシュル皇女物語』によると、皇女フィッシュルは「赤い宝石のような瞳」を持つとのこと。それをしっかり再現できるよう、役者のフィッシュルさんには見た目を調整していただきたい。

【神里綾華】花時に訪れた手紙

神櫻の木の下に美しい錦が敷かれ、その上には様々な料理がずらりと並んでいる。
あなたが招待状の案内通り、「ピクニック」が催されている場所にやって来ると、目の前にはそのような光景が広がっていた。
しばらくして、「ピクニック」の主催者である神里綾華がその手に扇子を持ち、微笑みながら木の陰からゆっくりと姿を現した。
「フォンテーヌの人々はピクニックが好きだと聞いたので、私も試してみたくて…小説にある異邦の雰囲気を体験してみたいと思ったのです。」
無理もないことだ。八重堂から新たに出版されたフォンテーヌの娯楽小説『オルツィ嬢事件簿』は、今稲妻で人気を博しているのだから。
最近、綾華もこの小説を読み、あなたにこの本の推理についてたまに話している。
彼女はこの物語を気に入っているようだ。

長い髪を束ねて、ドレスハットをかぶった綾華は、まるで小説の挿絵に描かれるフォンテーヌの麗人である。
その顔は馴染みあるいつもの綾華だが、不思議なことに服装を変えただけで、全体の雰囲気は一変していた。
目の前にいるフォンテーヌの麗人が、あなたにこう言う――
「『オルツィ嬢事件簿』を読んでいると、常々こう思います。違う国の文化と習慣には通ずる部分もありますが…」
「一個人の生活に関しては、似ている所より違う所のほうが多いと。」
「自分の経験から稲妻以外の国の生活を想像するのは、まるで厚い雲の向こうの月を見ているかのような感じがします…」

彼女は顔を伏せ、少し悩んでいるようだ。
社奉行のお嬢様である彼女は、冒険者のように気ままに生きることはできない。あなたはそれをよく知っている。
落ち込んでいる綾華を慰めようとすると、彼女は逆に会釈し、何かが吹っ切れたかのように先に口を開いた。
「現実はそうとはいえ、普通の人と比べたら、私はずっと恵まれていると思います。」
「貴方のような友人がいるから、たとえ遠出ができなくとも、知っている物語はもう稲妻に限られることはありません。」
「…他の皆様も、もっと稲妻以外の世界を知ることができればと願っています。」
あれ、綾華は自分のことで悩んでいたわけではないのだろうか?
「荒谷さんがおっしゃったように、稲妻の他にもスメール文学、モンド文学、フォンテーヌ文学などが盛んになっていますが…」
「私たちは、あまり詳しくありません…」
「ですので、より多くの外国作品を輸入するよう、お兄様と八重宮司様に提案したいと思います!」
「文学作品を窓口にすることで、見たことのない景色をたくさん知ることができるかもしれません…」
綾華の器の大きさは、あなたの予想を遥かに超えていた。さすがは社奉行神里家の白鷺の姫君だ。
「…八重宮司様とお兄様に進言する前に、詳細な一覧表を準備したいと思います。ですから、貴方の意見をお聞かせください。」
あなたが感嘆していると、いつの間にか綾華は詳しい話に移っていた。
あなたは少し思案したのち、一覧表の一行目にこう書いた。
「『イノシシプリンセス』ですか?」
「うん、これは残酷でありながら美しい童話で、普通のものとは一線を画してる。だから、きっと多くの人が面白いと思ってくれるはず。」
綾華は、数多の本を読破してきた荒谷編集にこの一覧表を提出した。ただ残念なことに、荒谷編集は何の迷いもなく『イノシシプリンセス』の名前を削除してしまう。
「えっと、この童話は少し特殊すぎるから、みんなにはまだ早いと思うわ…」

【リサ】葉に隠れし芳名

一般人から見て、花の生長習性で希少度が異なるように、学術的成果も応用価値で違いが生じる。
ある一部の学者が、トップクラスの学術的成果をパティサラに、凡庸な成果をどこにでもあるミントに例えたことがある。
やがて、一部の学生もその影響を受けて、花をある種の称号として冗談を言い合うようになった。
皆が口を揃えて言ったのは、教令院でもっとも多いのは「スイートフラワー」と「ミント」であり、次が「薔薇」であること。それに対して、パティサラは非常に少ないということだ。
ただ理解に苦しむのは、天才であるリサ・ミンツには「パティサラ」の素質があるというのに、「薔薇」の称号を気にしていない点である。
彼女は先人たちが完成させられなかった多くのプロジェクトに、円満な形でピリオドを打ってきた。その論理的な基盤は確かなものと言えるだろう。彼女はこれらの貢献で頭角を現し、指導教員から重宝されると、もっとも奥深いとされる課題の研究を許された。しばらく後、彼女は数多の実績を残すことになる。
当時、一部の学者たちは研究の方向性さえ調整すれば、彼女はいつか必ず最年少の賢者になるだろうと考えていた…
しかし、彼女は既存の学術的成果の署名式に出席せず、学院の核心となるプロジェクトからも手を引いた。その後、彼女は自らの意思で教令院を離れてしまう。
不思議に思う同級生からの問い詰めに対し、彼女はいつもと変わらず、優しく優雅にこう答えた。
「わたくしの仕事は散らばっている書籍を整理し、それらを探しやすい場所に配置するのと同じようなもの。ただそれだけなの。署名式のような立派なものなんて、わたくしには必要ないわ。」
「そうだ。学生の間で流行っている歌は覚えているかしら?」
「『カルパラタ蓮の控え目を求めず、パティサラの高潔さを求めない。』」
「『日々歌と共にし、香りを手にする。』」
「昔、薔薇は他と比べられないくらい珍しい花だった。けれど、一世代また一世代と学者が絶えず栽培の技術を研究し、今日に至って、薔薇はどこでも見られるようになった。」
「これは薔薇にとって悪いことかしら?もちろん違うわ。薔薇はいつもかぐわしい香りを放っている。珍しいかどうかなんて、人のつけた定義に過ぎないのよ。」
「だからいつの日か、みんなが主観的な考えでこれらの花を評価し、定義するのではなく――花たちの生長習性と環境を選ぶ理由に目を向けられるようになった時こそ、記念すべきことなんだと思うわ。」

【クレー】星燭に揺れる爛花■

【ガイア】帆影に戯る風

「ガイアお兄ちゃん、なんで短刀の大盗賊はいつも短刀を持ち歩いてるの?」
モンド城の西風騎士団の中で、大きな騎士と小さな騎士がおしゃべりしていた。
二人が舞台で大盗賊と魔女を演じ切ってから、もう数日経つのだが、小さな騎士はまだ、ある疑問を抱えたままだった。
コホンッ、大盗賊が短刀を持ち歩く理由か…――ガイアが使った台本の中には、短刀に関する説明はどこにも書かれていなかった。
もしかすると、キャラクターにカッコいい称号を付けようという、単なる監督の思い付きで、「短刀の大盗賊」に決まっただけなのかもしれない。
しかし、目の前の幼い騎士が眉間に皺を寄せて真剣に考え込む姿は、今日の夕飯が何かについて考えている時よりも深刻だ。
好奇心旺盛な子供はいつだって質問をしたがる。質問攻めにされる大人からしてみれば、少々困る場合もあるが、幼い頃の好奇心が満たされなかった子供は、好奇心を持つことを諦めた、退屈な大人になってしまうかもしれない。
人生における無数の可能性の中でも、退屈な人生ほど悲しいものはない。だから、子供の質問には誠意をもって向き合うべきだ。
「そうだな、なんでだろうな?とてもいい質問だ…」ガイアは微笑みながら答えた。

舞台の上で、少しの間ではあるが、大盗賊の身になった彼だ。照明の光に包まれながら、今の自分とは異なる人生についても考えてみた覚えはある。
騎士には騎士の生き方があり、大盗賊には大盗賊の生き方がある。
公明正大に弓と剣を背負い、守ることへの決心を見せるのが騎士の姿。
刃を隠し、暗闇の中で罠を仕掛けるのが大盗賊の姿だ。
生き方は人それぞれ。大盗賊が騎士の剣を持ち歩くことはないし、正統派を貫く騎士が、こっそり短刀を取り出して人を傷つけることはない。
もしこの鉄則に反する物語があるとすれば、きっとそのキャラクターは運命を裏切ったという設定であるはずだ。
しかし、そんな答えをこの子に聞かせる必要はないだろう。まして、答えは一つだけとは限らないのだから…そう彼は考えた。
短刀の大盗賊が持っている短刀は、仲間からの贈り物だったかもしれないし、大盗賊が侠客として生きてきた証かもしれないし、はたまた彼の偉業を讃える勲章なのかもしれない…
ならば、童話を作ってみよう。英雄譚、伝説、そして美しいファンタジーを織り込んで、これまでと同じように、子供に夢を与えるのだ。
彼は部屋に掛けてあった舞台衣装の腰辺りから、小道具の短刀を取り出した。
「そのことなら、大盗賊がまだ小さかった頃のことから話さないといけないな。ちょっと難しい物語だが、聞きたいか?」
「ガイアお兄ちゃん、また物語を聞かせてくれるの?クレー、聞きたい!」

【甘雨】玄玉瑶芳

半仙の血による不思議な体質のおかげで、甘雨の辛苦に耐える能力は、凡人のそれを遥かに上回る。彼女は年中、月海亭と総務司の事務のために奔走し、昼も夜もなく働き続けている。もちろん、衣服のことを気にする余裕などない。アクセサリーやメイクともなれば、尚更だ。
時が経つにつれ、甘雨に対するイメージは「忙しい」という単語と強固に結びついていった。短い休暇中の甘雨の姿を見かければ、残業の末にうとうとと眠りにつく彼女の様子が思い出されて、心配になる。あるいは、何かの急用を処理しに突然仕事に戻ってしまうのではないかと、気掛かりになってしまうのだ。
閑雲はそのすべてをしっかり目に留めており、対策も考えていた。再び海灯祭の季節が巡ってくる頃、閑雲はふと、街中で聞いたとあるアドバイスを思い出した。
「服を変えれば、気持ちも変わる…」
そんなわけで、真君は長年封印していたたる仕掛けを取り出した。友人のピンが育てた上質な霓裳花を原料に、洞天の仙草で作った染料を加え、多くの布地と織物を編む。質感も色合いも完璧だ。また、精巧な髪飾りとペンダントは、仙人の仕掛けと同じ材料で作られており、素朴にして優雅――ほのかに良い香りまで放っている。
その後、閑雲は布地と織物を持って、璃月港の優秀な仕立て屋を訪ねた。仕立て屋はたいそう驚いた――民間の価値観ではかるなら、これらの布地と織物は、「モラを溶かした糸で作ったもの」に匹敵するほどの価値があったのだ。
仕立て屋の反応に、閑雲はご満悦であった。
「妾の弟子はこれほど長く月海亭で働いてきたのだから、かなり偉いのだ。貴重な服を着るに相応しい!」
もちろん、この贈り物を甘雨に渡す時、閑雲は仕立て屋の腕前が良かったとだけ伝え、この織物や装飾品の特別なところについては何も言わなかった。
しかしその水のように滑らかな質感と瑕一つ無い精巧な作りから、甘雨は衣装の価値と真君の心遣いをしみじみと感じ取ることができた。
普段から着慣れた仕事着を脱いで、軽やかな姿で真君や友人たちに向き合うと、心にまで変化が訪れた。
それはまるで美しい玉の如き星々が照らす、明るい夜空が見えたような――芳しい花々が咲き誇る静かな幽境に身を置くような気持ちだった。
「全ての事務は一旦置いておき、皆さんと共に憂いなき海灯祭を過ごすのも、この上なく貴重な経験ですね。」

【申鶴】冷花幽露

「子供たちはみなおもちゃが好きだ。」――これは申鶴が山ばあやのおもちゃ屋を観察して導き出した結論だ。
凧、霄灯、それから色とりどりの紙で作った装飾用の剪紙「窓花」。窓に飾られた切り絵の前を通りかかるたび、璃月の子供たちは、それらをじっと見つめている。
周りの大人たちは気が向いたら、おもちゃを買って子供たちにプレゼントする。すると、子供たちは笑顔を見せる。
申鶴の幼少時代に、このような記憶はない。だから、その瞬間の子供たちの気持ちはあまり理解できない。それでも、子供たちのキラキラ輝く瞳を見て、これらのおもちゃはきっと美しい感情と結びつくものなのだろうと思った。
彼女はまだ自身の抱える感情の正体を理解していなかったが、この美しい希望に触れて、少し柔らかい気持ちになった。

「申鶴はおもちゃに興味があるようだ。」――これは閑雲がおもちゃ屋を眺めながらぼーっとしている申鶴を観察して導き出した結論だ。
閑雲の弟子である申鶴は、幼い頃に家族を失ってからはずっと、閑雲と共に修行をしていた。そのため、おもちゃに触れる機会などはほとんどなかった。
今、申鶴は俗世の生活に戻り、閑雲自身も人間の姿となって俗世にやってきた。そして俗世に溶け込んだ閑雲は、一般の子供たちと比べて、申鶴が笑う機会をあまりにも多く失ってしまっていたことに気がついたのだ。
弟子のおもちゃ屋巡りに付き合ってやらねばならぬ。これは師たる者としての責任だ、と彼女は思った。

「師匠はおもちゃが好きなようだ。」師匠閑雲の強い要望に応える形で、閑雲と共に山ばあやとの六回目の会話に挑んだとき—―申鶴は心のなかでそう思った。
正直に言えば、窓花や爆竹の魅力はよくわからない。
師匠はよく呪符で色とりどりの鳥を作り出し、洞天を飾り付けていた。呪符で作られた鳥は窓に飾られた切り絵などよりもよほど生き生きとしていて、色鮮やかな光を放つ姿が実に美しかった。爆竹の音は、彼女が聞き慣れた仙人界の美しい音楽と比べると、あまりに荒々しいものだった。
彼女にとって、おもちゃ自体の魅力は溢れるものではなかった。彼女が好きなのはあくまで、子供たちがおもちゃを見る時の笑顔なのだ。
しかし、師匠はおもちゃに興味があるようだ。色々なおもちゃの作り方から爆竹のコツまで、事細かに質問しているのだから。最後に、師匠は申鶴に好きなおもちゃについて尋ねた。
師匠が興味を持つ物事には、きっとそれなりの意味があるのだろう――そう思った申鶴は、ありのままに答えた。
彼女の落ち着いた表情を見て、師匠は何やら考えを巡らせたようだっが*、それ以上は何も言わなかった。

「申鶴はおもちゃが好きなわけではない。」何度か彼女を連れておもちゃ屋を回った後、閑雲はようやくこのことに気づいた。
山ばあやが売っている剪紙に使う用紙の弱点から、爆竹の表面をどのように改良すれば子供たちがより安全に遊べるかまで、山ばあやに感心されるほど話し込んだにもかかわらず、申鶴はあの日、おもちゃ屋の前で見せた優しい表情を一度も見せなかったのだ。
自分の弟子に必要なものは…おもちゃそのものではないのかもしれない。
人の幼少時代と青春は一瞬にして過ぎ去り、二度と戻らない。では、年長者である自分に、いったい何が出来るだろうか?
まもなく海灯祭の季節が来る。人間たちの風習に従えば、この祝祭はものを贈るのに適しているようだ。かつて、自分も七星から贈り物をもらったではないか…
贈り物…これはいい考えだ。

申鶴と甘雨が師匠から海灯祭の贈り物をもらったとき、申鶴は初めて師匠の意図に気がついた。
おもちゃ屋の前に立っていた時、彼女が哀愁に浸ることはなかった。だから、師匠の意図は意外に感じた。
贈り物の箱から師匠が用意した長いドレスを取り出し、滑らかな裾を優しく撫でる。この時、突然…あの日おもちゃを眺めていた子供たちの気持ちがわかった。
師匠と人間界に来て生活するようになって、自分はずいぶん変わった。これからも、このような驚きがおそらくたくさんあるのだろう――
失われた過去の笑顔を取り戻す機会は、これからもきっとある。周囲からもらった温かさは、全て彼女の心に降り積もり、心の奥底の雪を溶かしていくのだ。

【行秋】竹身雨化

「なにっ、『遊侠猫』がいなくなっただと!? この肝心な時に?」
舞台裏で、座長の怒鳴り声が響く。
「よりによって、飛雲商会がフォンテーヌの貴賓を迎えるこの宴でか? ここで名を落とせば、俺たちの劇団はおしまいだぞ! 璃月だけじゃない、フォンテーヌにおいてもだ!」
「遊侠」役の役者は、今や「遊侠」の気迫の欠片もなく、ただただ恐れ、怯えた様子であった。
「わ、私たちの出番までにはまだ時間がありますので…今から探してきます!」

ちょうどその頃、窓の外――屋根の上には、行秋がのんびりと座っていた。
「なるほどね、『飛雲商会』に猫探しを依頼しなかったのは、名声を気にしてのこと…というわけか。さて、困ったな。君がここにいることを、どうやって彼らに伝えればいいだろう…ねえ、猫大兄?」
そう言うと、行秋は立ち上がって煙突の方を見た。大げさに飾り立てられた黒猫は、警戒した様子で彼を見つめ返している。
当然、宴席をこっそり抜け出して、自ら顔を合わせるわけにはいかない。「飛雲商会」の次男という身分で「遊侠猫」の存在を知らせにいけば、きっと劇団の人たちは気まずくなってしまうだろう。
「救い出して、こっそり舞台裏に連れ戻すしかないかな…はぁ、服が汚れないといいんだけど。でないと、兄上にまたどこに行ったか聞かれてしまう…」
行秋は注意深く煙突に手を差し伸べたが、「遊侠猫」はそれを受け入れなかった。ニャーと一声鳴いて、隅っこに隠れてしまう。
「…見知らぬ環境が怖いかい? それとも、君も宴会の雰囲気が好きじゃないのかい? でも猫大兄、他人を窮地に追い込むなんて、『遊侠』の名に恥じる行いだよ。」
行秋は苦笑いした。どうやら今日は多少身を汚さなければ、この「猫大兄」を返してあげることはできないようだ。

宴はつつがなく進み、無事に劇団の出番が来た。
「遊侠猫」は力強い太鼓のリズムに合わせて素早く樹下に飛び回り、拍手喝采が鳴り止まなかった。
「いいぞいいぞ!」行秋も兄を引っ張っていき、歓声を上げる。しかし、兄の方は行秋の新しい服が気になってしまうのだった。
優雅な竹模様のフォンテーヌ風衣装は、体にぴったり合うよう仕立てられている。見ただけで名うての職人によるものだと分かるしろものだ…
しかし弟はこれを受け取った時、苦い顔をして「動きにくい」「隠れられない」などと言い放ち、一度試しただけでずっと仕舞いこんでいたのだ。それを今さら受け入れる気になったのは、一体なぜだ?
兄の困惑した表情を読み取ったかのように、行秋は微笑んでこう言った。「夜、本を読んでいたんだけど、その中にこんな一説があったんだ。『来る者帰るが如し』…フォンテーヌからの賓客をもてなすなら、この衣装に着替えておくのもある種の礼儀だといえるだろう?」
疑惑はほとんど解消され、兄はまた行秋を上から下まで眺めた。美しい衣裳の様子を見る限り、どうやら去年のようにこっそり外に逃げ出したりはしていないようだ。
あるいはこの一年で、多少成長したのかもしれない。兄はそう思い、少し嬉しくなった。
…ただ、そこらに漂う煤の匂いは、一体どこから来たんだ?

「君たちの手を煩わせることはない。自分で着替えるよ。」
宴が終わると、行秋は侍従を下がらせた。服を脱ぐと、ところどころ黒く汚れた服が現れる。
「ふぅ…危なかった。この衣装があって助かった。これがなければ兄上の目はとてもごまかせなかっただろうな…」
次の小説は、フォンテーヌから来た侠盗に関する内容にするのもいい――行秋は密かにそう思った。
「うん、冒頭はこうしよう――豪華な衣装が姿を隠すことに不利なものであることは誰もが知っているが、名士の身分こそが侠盗の秘密であるということは、誰も知らない…」

風の翼

始まりの翼

偵察騎士に新米が入隊するのはずいぶん昔のことであった。
素質がある後輩が入ってきたらこの風の翼を直接渡そうと、アンバーは思っていた。
しかし何年が経っても、その日がくることはなかった。

偵察騎士は風の翼の使用率が高い職業である。何年もかからないうちに消耗する。
それに、アンバーの行動スタイルは結構「翼を消費する」、彼女に消耗された風の翼は少なくとも十着以上ある。
けれど、彼女は一度もこの「特別な」風の翼を使おうとしなかった。

なぜだか、その日は特別にいい気分だった。
久々に、アンバーはこのほとんど新品の風の翼を持って家を出た。
その日に郊外の討伐任務があったはずなのに。
その数日聞風災が多発して、滑翔が極危険になっているはずなのに。

それからは…
どうしてかその金髪の異邦人を信じることになった。
どうしてかそいつに素質があると判断した。
あの人ならば、 もしかして…

「それで、お礼っていうのはね――」

見守りの翼

すべての翼に飛ぶ機会があるわけではない。
この世にはたくさんの飛ベない雛がいる、
もちろんクオリティテストで不合格になった風の翼もある――

…あなたの表情から、彼女はあなたの悩みごとに気が付いた。
「――風の翼のテストで、傷を負った人はいないよ。」
彼女は続いて説明した。傷を負ったのはイノシシかヒルチャールの方だよ。
あなたが空を飛ベるように協力した小さい命に対して、 同情する気持ちになったが…
彼女の言葉はあなたを少し安心させた。

彼女は話した。
「風の翼が滑翔できるのは、ほぼ風神様の祝福のおかげ。」
「もちろん、今まで頑張った人たちの知恵も含まれているよ。」

彼女は自分が「風の印」を集めている理由を説明しなかった。
冒険者の血と商人の心が同じ体に共存しているからかもしれない。
彼女はぺラペラと、探検者精神に溢れる者の話しをした。
その話によれば、数千年も前から滑翔設備を研究する探検者がいたらしい…

あなたは善意に咳払いをした。すると彼女は少し気まずそうに、続けてその特別な風の翼を説明した。
ちょっと変わっただけで、風の祝福を受けていないと疑われた。
ちょっと職人に勇気があるだけで、このきれいな作品と一緒に避難された。
この子にこれだけのつらい思いをさせて、ひどすぎる…

だけどあなたは勇敢な人だ。世間の視線に囚われない人だ。あなたならば、きっと上手くやっていける。
――彼女は特別な風の翼を君に渡した。
「もちろん飛ベるさ、あんたを連れて高く飛ベる。しかし前提があるの。あんたがこの子を信じて、この子を信じる自分を信じることね。」

降臨の翼

これはあなたが特殊な方法でこの世界にたどり着いた証。
これは月日と星々を駆ける者にしか、羽織ることができない紋章。

「これからの旅は危ないかもしれない、」
あの人があなたに言った。
「この布が君を守れるとは思えないけど…」

確かに──
遥か天の彼方へ渡る旅で、すれ違った星は生まれ滅びを繰り返し、
追い払われた闇も再び光を吞み込んだ。
布一枚では灼熱と極寒も、呪いと悪念も防げない。
けれどたまにテイワットの夜を経験したら、布を身にかぶるのが何よりも役立っていることが分かる。

「だけど一つ、若しくは二つの世界からの敵意を受ける時、」
昔あなたに優しく接した人の姿がうまく思い出せない。あなたは頑張って思い出してみたけど、
「果てのない暗黒を、或いは宇宙を吞み込む光を前にして…」
でも、それはもう以前の世界の事情であった。

今のあなたは野宿をしなくて済む。
城内のベットは柔らかくて心地良い。野宿をしていても、草の手触りは雲のようで、生命の香りが響いた。
そこで、女の子から風の翼をもらった瞬間、あなたの頭にそれの新しい使い方が浮かんできた。

今もう一度、月日と星々を駆けることができる。

蒼天清風の翼

「風があればいいのにな。」
果てのない荒野を跋渉する旅人がこう嘆いた。
大気の子供が高天に居住している。そのうちの一吹きの風が旅人の嘆きを聞こえた。あの人に清風をもたらしていいのかを自分に問いかけた。
「良いよ。でもあなたは東の海岸から出発しなければならないのだ。山と谷を越え、小川と河川の砂辺に沿い、渡りに渡って、彼のそばに着くのだ。」

そして一吹きの風が海岸線から出発し、自らの旅を始めた。
蒲公英の種が旅をしたいから、風がついで種たちを遠方*
殻を破った鳥の雛が飛びたいから、風が彼らの羽根を持ち上げた。
年寄りが小麦の製粉ができないから、風が一旦止まり、製粉風車を回した。
人を助け大地を愛撫した風が、なんと変化し始めて人の形態になった。
故に、旅の終点であの旅人と再開した時、
彼はもう、旅人が祈った風でなくなった。

「風があればいいのにな。」
彼はあの旅人と、大地を跨ぐ旅を続ける…

ーー「西風教会のこの聖徒の物語は結構可愛いと思いますね。とにかくその趣旨は人々を助ける精神を持つことです。あなたの善良と優しさを認めます、故にこの風の翼を贈ります。」

金琮天行の翼

「岩間や雲の深処に、秀逸な人と風流人がたくさんいる。裁虹と剪雪は名利を求めず、悪を制裁したり談笑したりする。」
――これが今から話す物語の始まりだ。
周知の通り、璃月の大地は名の通り、山、森、郊外、岩間や雲に仙道の侠客の跡が見つかる。彼らは七星の手が届かないところで任侠している。裁虹と剪雪、この二人の無名侠客のことは以前話した。今から話す内容、もう一人の侠客の話だ。

この侠客は東から風に乗ってくる者だったらしい。
彼は岩王から陰陽虎符を授かり、この金琮天行の翼を作り、そして璃月の大地で命令に従い人助けを始めた。
あの血飲みの邪悪な螭があちこちで災いを引き起こしたから、侠客は奥蔵山と同じぐらいの大きさの拳で、邪悪な螭を土の下まで叩き込んだ。
孤雲の邪悪な妖魔との戦闘で仙人たちが力尽きそうになった。助けに行った侠客は剣を振り回し、一瞬で妖魔の群れを一掃した。
またあるファデュイの御曹司が公の場で岩王を侮辱し七星を見下したと聞いた侠客は宴会であの御曹司をボコボコにした。結局あの御曹司が岩王と七星に土下座した後、宴会の場を去った…

確かにこの風の翼は華やかだし、璃月のみんなに褒められて、こんな綺麗なプレゼントをもらって嬉しい。
でも、講談といった形の説明書に侠客伝記の内容とは、ある意味で自分の期待を超えている…

雪隠れの翼

我らは必ず戻ってくる。
すでに枯木は新しい枝を咲かせ、困難に立ち向かう準備をしている。

梟は鷹に忠告した。

しかし大地を見下ろし、空を支配する鷹は絶対的な自信を持っている。
自分たちが支配するこの空の下で、一体何に怯えればいいのか?
鷹たちは梟の忠告を無視し、彼らを嘲笑った。
闇夜にコソコソ捕食する鳥は、臆病で哀れだと。

それから、鋭釘のように凍った霜雪が、国を覆う樹を粉砕した。
そして、洪水のごとく埋もれた大陸は、鳥がとまる枝さえなくなった。
鷹ですら、雀と同じように地に落ちた。

この出来事は、風の国の鳥たちにあることを教えたーー
自由の空でさえも、凍える風によって白く染められ、黒に塗られる。
白日は完全に隠され、星と月の明かりもない。

雛たちは巣に縮こまり、最期の時を待った。
しかし光が失われた今、闇に輝く梟は夜の支配者となった…

それから時が過ぎ…
だれがくれたか分からない獲物を頼って、鷹は無事に大きく育った。
まだ氷雪に覆われていたが、空は少しずつ晴れ、大地にも命が芽生え始めた。

しかし、一体だれが助けてくれたのか。雛たちは知らない。
宝石のように美しい龍と同じように、闇夜に輝く梟の瞳も忘れ去られる。
鮮血に染まってはいたが、鳥たちが立つ枝も生えていた…

直接的なつながりはないが、闇を守ったはぐれ者の赤い鷹は夜梟の名を背負った。

静寂の夜、彼らの鳴き声に込められているのはーー
我らは必ず戻ってくる。
すでに枯木は新しい枝を咲かせ、困難に立ち向かう準備をしている。

今、この翼で、一緒に見届けよう。

饗宴の翼

これは異世界からここへと漂流してきた物、世界で最後の饗宴と、週末の到来を象徴している。

その世界のその時代、大地を支配しているのは龍だ。
だが物語のような空を飛ぶではなく龍ではなく、大きなトカゲと鳥の間の形をする。

海には巨大な魚龍がいて、大きな翼を持つ龍が空を飛んでいた。クレーにとっては想像できないかもしれないが、当時の世界はそういう感じだった。
彼らは強いゆえ、他の全ての生き物を軽蔑した。
その世界では、彼らは王だった。

その後、その世界には人類が現れた。
人類はどのように現れたかは誰にも分らない、隕石と共に落ちてきたのかもしれない。人類には不思議なな*習慣がある、それが――「日曜日のディナー」。
その日が来るまでそれ程かからなかった。宴会の始まりだ。
龍のもも肉と龍の手羽肉は小麦粉で包まれ、人類が作り出した煉獄で烈火の炎を苦しんだ。
彼らは人類の食料と変わった。話によると、龍の肉はとても美味しい、人は思わず指をしゃぶり出す。
本来は毎週の日曜日だけのごちそうは、結局お肉が美味しすぎたゆえ、毎日の開催となった。
「素晴らしい!」
「日曜日のディナーを週7で頂く!」
人類はそう宣言した。
こうして、「龍」の時代は終わった。

この風の翼はあの大絶滅事件の記念だ。本来はこのような色ではなく、青と白だった。
クレーの母親は風の翼を家族の色に変え、これが今の姿だ。彼女は少しの間家に帰り、この風の翼を残して再び出発した。
「お母さんは忙しくなってきたの。ここ数年、テイワットの辺境はますます脆弱になったからね。」

雷騰雲奔の翼

「天狗って言うのはね、歴史の長い影向の天狗一族以外に、身のこなしの素早い人間や、神出鬼没な人間を指すこともあるのよ。ほら、天狗にも翼があるじゃない」
本当だろうか。

「『天狗』と呼ばれるには、まず空中で自在に飛べないと。君は稲妻のいたるところで風に乗って、屋根を走り、壁を登っていたわよね。その身軽さは、カラスやハヤブサにも負けないと思うの」
「その昔、稲妻にも天狗に憧れ、天狗の真似をする『天狗党』がいたのよ。天守閣の屋根の上や、高い杉の上、鳥居の上から、下にいる民衆や役人に対して高笑いして、さらに稲妻中を震わせた『天守閣下天狗落書き』を御苑に残したそうなの。不敬極まりないわ」
「自由すぎる人たちだったの。その後、その人たちは本物の天狗に捕まって、こっ酷く叱られたらしいわ」
「ああ、でも、君はちゃんと公序良俗を、法を守る人よね。この伝説を気にする必要はないと思うわ」
よく風の翼を広げて町を俯瞰したり、石垣や高い壁を登ったりしていたが、余計なことは言わないでおこう。

「それから、剣術に長けた剣客を天狗と呼ぶ時もあるそうなの。鳴神直伝の流派と、伝説になった『霧切』と『明鏡止水流』、まだ伝承されている『岩蔵流』などがあるわ。岩蔵剣術には門外不出の秘剣『天狗抄』があるの。剣筋が読めない、とてつもなく速い影向天狗にも勝てる剣術らしいわ。君の腕と戦果は、言うまでもないわよね」
「最後にね、天狗は風や雷を操る術を持っているの。影向の天狗に代々伝わる宝器の中には、『風雷の扇』というものがあるらしいわ。表は風を呼び、裏は雷を呼ぶ。君は風元素も雷元素も操れて、まさに天狗と称されるに相応しい人物ね! ちなみに、風雷の扇子はただの目くらましみたいよ。風を呼べる天狗と雷を呼べる天狗は、バレないように、良くつるんで出かけるんだって」
隣にいる裟羅のほうが気まずそうだ。

「君の稲妻への貢献を讃えて、この風の翼を贈るわ」
もしかして、天狗の翼もこうやって……?
疑いの眼差しに気付いた裟羅は、すかさず答えた。
「違うに決まっているだろう!」

 
翻訳修正前

「天狗って言うのはね、歴史の長い影向の天狗一族以外に、身のこなしの素早い人間や、神出鬼没な人間を指すこともあるんだよ。ほら、天狗にも翼があるでしょ」
本当かなぁ。

「『天狗』と呼ばれるには、まず空中で自在に飛べること。貴殿は稲妻全域で風に乗り、屋根を走り、壁を登った。その身軽さは、カラスやハヤブサにも負けないだろう」
「その昔、稲妻にも天狗に憧れ、天狗の真似をする『天狗党』がいたのだ。天守閣の屋根の上や、高い杉の木の上、鳥居の上、などなどから、下にいる民衆や役人を高笑いし、さらに稲妻中を震動させた『天守閣下天狗落書き』を御苑に残したそうだ。不敬極まりない」
「自由すぎる人たちだった。その後、その人たちは本物の天狗に捕まり、こっ酷く叱られたらしい」
「ああ、でも、あなたはちゃんと公序良俗を、法を守る人だ。この伝説を気にする必要な*ないね」
よく風の翼を広げて町を俯瞰したり、石垣や高い壁を登ったりしたが、余計なことは言わないでおこう。

「それから、天狗というのは、剣術に長けた剣客を呼ぶ時もあるんだよ。鳴神直伝の流派と、伝説となった『霧切』と『明鏡止水流』、まだ伝承されている『岩蔵流』などがある。岩蔵剣術には門外不出の秘剣『天狗抄』がある。剣筋が読めない、ものすごく速い影向天狗にも勝てる剣術らしい。貴殿の腕と戦果は、言うまでもないだろう」
「最後にね、天狗は風や雷を操る術を持っている。影向の天狗が代々伝わる宝器の中には、『風雷の扇』というものがあるらしい。表は風を呼び、裏は雷を呼ぶ。貴殿が風元素も雷元素も操れて、まさに天狗と称されるに相応しい人物だ! ちなみに、風雷の扇子はただの目くらましだ。バレないように、風を呼べる天狗と雷を呼べる天狗は良くつるんで出かけるのだ」
隣にいる裟羅のほうが気まずそうだ。

「貴殿の稲妻への貢献を讃えて、この風の翼を贈呈します」
もしかして、天狗の翼もこうやって……?
疑いの眼差しに気付いた裟羅はすかさず答えた。
「違うに決まってるでしょ!」

銀河燦爛の翼

「ある詩人の知り合いがいてね。あっ、ボクのことじゃないよ…」
その緑色の人物はリンゴを一口かじり、話し始めた。

ボクには詩人の知り合いがいる。彼は戦争の炎が鎮まったばかりの時代に生きていた、あまりにも多くの諍いや別れを経験した。
彼はあのような時代に、天空に向かって歌い、頑なな岩石に向かって演奏し、波立つ海に向かって詩を詠んで、そして星空に向かって演じた。
なぜなら彼は、誰かが世界の傷を癒さなければならないと知っていたから。
そのためには、誰かが話し合いの方法を見つけなければならないと考えていたんだ。
もしも大空が、岩石が、海が、星空が答えてくれたら、きっと音楽は万物に通じるだろう。
最初、空からは何の返事ももらえず、鳥の影だけが彼の顔を横切るだけだった。
岩石も反応を示さず、水が滴るのみ。海も同様、塩分を含んだ風が嵐の予兆を伝えるだけだった。
そして星空も、答えてはくれない。
しかし、詩人は知っていた。この星空が答えてくれることなど何もないと。

それでも詩人は諦めなかった。それは心に信念を持っていたからではない、彼の本質がそうだったから。
その後、海は反応を示した。高い崖の上には望風の見張り台が設置され、当番のシスターたちは彼の演奏を拍手で讃えた。
そして、岩石も彼に応えた。岩石は手巾で顔を拭くと、こう言った。「お前の演奏は、確かにこの大陸で他に類を見ないものだ。しかし、もう一度酔っぱらって俺の頭に酒をかけてみろ。我慢できる保証はない。」
それから、空も彼に応えてくれた。ある日、頭上を飛ぶ鳥の影が、太陽そのものを隠した。詩人が頭を上げると、美しい龍が目の前に降り立ったんだ。

「いつか星海を感動させたいな。それができたら、流星群だって喚べるかもね。あっ、そうだ。この風の翼は、星海の返事だよ。君と同じように、空から降ってきたんだ。」
緑の服を着た詩人は、リンゴの芯で空を指した。
「その詩人はボクじゃないけど、この風の翼は空から降ってきたもの。どっちを信じるかは君次第だよ、えへっ。」

樹花爛漫の翼

かつてのスメールは夢が少ないから、人々はとある迷信を抱えている――睡眠中に心の相が形成すれば、それは草神の啓示や悟りであると信じている。その裏には、深遠で神秘的な事実があるに違いない。このような伝統があるからこそ、「アーカーシャ」が生まれたと言われるかもしれない。
かつてのマスターフィルナスは――今教令院にいる大先生のほうではない――夢が多くてそれを記録することに長けていると自称した。そのため、彼は詩人や白昼夢の患者としての身分は、自分の学者や発明家としてさらに有名である。何せ、スメールは夢が少ないから、もしそれが本当だったら、それも毎日クラクサナリデビの前にひれ伏す選ばれし列聖だろう。彼の才能を嫉妬する者にとって、白昼夢が夢でないことを幸いに思う他ならないだろう。

噂によると、彼は遠国の風の翼を見たことがある。器物としての運行原理は全く常識から外れたものと言える。もし風神の加護が風翼の一枚一枚に散りばめられていなければ、鷹がこのアイテムを付けても、空高く転落し、地上の亀甲を打ち砕くことになるだけである。
こうして、マスターフィルナスは――もう一度言わせてくれ、この人は教令院の大先生のフィルナスではない――風神の加護のこもってない風の翼を作ることに決心した。

そして数日苦労をして、ある日がようやく眠気に負けて寝てしまった。噂によると、彼は夢で草神に出会ったという。
生霊の守護者がマスターフィルナスの悩みを聞いた後、笑いながら物語を語った――

内容は人間の姿に化けた風と話せる石、あと…雷元素の木に関するもの。彼らは世の構成について議論していて、誰もが自分のほうこそ基本元素の一つだと思っている。石がこう言った――「俺は万物を支えている。」皆が領いた。木がこう言った――「人間の脳の思考が瞬間的であるのは、雷のおかげだ。」皆が迷った、間違ったとは言えないがあってもない。次は風の番だ、彼はある物語を言った――

異世界の伝説によると、高天は沢山の大気の子供を持っている。彼らは全部、風の精霊である。他の精霊は山や岩を切り裂き、または竜巻を呼び起こして雲や水を運搬できる無類の力を持っている。しかし、一番幼い子は、命の息吹が弱いということで人々から軽視されてしまった。そのため、彼は身を隠していた。人間から授粉されていない風媒花は痛みを覚えた。そして、最も大胆な蒲公英は生命の息吹を見つけた。蒲公英を褒賞するために、風媒花はある物語を言った――

昔々、遠い国に太陽のように輝き、力強く美しい女王が住んでいた。しかし、彼女の弟は御曹司で放浪騎士であり…(中略)…彼女を褒賞するために、女王はある物語を言った――

その夜の後、マスターフィルナスが風の翼を作って、風神に加護を授けるようお願いした。最後の結果はとっくに発明された風の翼と一致しているが、教令院によってただの偶発と判定されてしまった。
話によると、マスターが起きてから最初に口にした言葉は――「分かったぞ!答えはすぐ周りにある。」
だが、本当の言葉は――「勘弁してくれ、分かったぞ!答えはすぐ周りにある。神の恩恵も世界のルール。これ以上口にしないでくれ。」

この物語から学んだこと――この世の真理を極める行為は尊重されるべきだが、空想的な夢に現実的な要素を求めない方が良いである。
どう、このマスターフィルナスの風の翼を受け取るのか?

星宴の翼

「それでは、このたびお届けした不思議な道具は、こちら――」

使者は言いつけに従い、アルカサルザライパレスの主に新しい発明品の由来を紹介しようとしたが、相手の注意は別のものに引かれていた。

「――あっ、違います!そちらは私のお昼ご飯です。不思議な道具とは、その横にある風の翼です。風の翼!」
「ですが…よくよく考えてみますと、この物語と食べ物は、関係がないとは言い切れないかもしれませんね…?」
「と、とにかく、アリスさん曰く、この風の翼はテイワットのものではなく、遥か遠い場所からここに流されてきたもので…」

あの遥か遠い場所で、ある人がこう言った――
「宴のない生活など、まるで宿屋のない長旅だ。」
美味しい食べ物、穏やかな音楽、楽しげな雰囲気、心地よい時間。そして何より大事なのは、みんなで共に作った思い出である。
完璧な宴を催し、美しい思い出を作ったのだから、同じように美しく、相応しい記念が必要というものだろう。
しかし、ただ気持ちを紙に書き留めるだけでは、いささかちっぽけに見えてしまうかもしれない。
なぜなら、たったの数ページや、二言三言では、すべての想いを書き切れないのだから。
最終的に、みんなは知恵を絞り、絶妙なアイデアを思い付いた。
「宴が終わる頃、私たちは見上げ、きらめく満天の星々を見た。星の光に、今この瞬間の願いを託そう!」
なぜなら、想いとは元より形のない光。思い出だけが、その想いを唯一無二の形へと作り変える。
みんなの思い出を一つに束ねれば、想いは輝く星々となって、果てしない夜空へと広がっていくだろう。

「飛んでいけ。飛んでいけ。今この瞬間の希望と願い、歌と宴を想いに乗せて、必ず星々の彼方へ、夢見る明日へと届けよう――」

夜空を眺める時、空を切り裂く流れ星が見えたなら、それは遥か遠い世界から来た、誰かのささやかな願いかもしれない。
子供たちが信じているように、目を閉じ、流れ星に願い事をすれば、きっと素敵な夢を見られるだろう。
もしかすると、今あなたのした願い事も、遠くにいる見知らぬ誰かにとっての、願いを叶える輝かしい流れ星になるかもしれない。

この風の翼こそが、最初に空を超えた数多の願いの中で、最も強かったものなのだ。
いつでも、どこにいても、幾千万の星の海を越えてさえ、変わらず誰かと共に飛ぶことを望んでいる。

「ですから、アリスさんもこの子の願いに応えて、今の形にしてあげたそうです。」

「――なんてこと、お客さまにお聞かせするわけにはまいりませんわ!宴の時、空から落っこちてきたことにしておきましょ!」
そう言いつつも、名高いサングマハベイ様はこの風の翼をあなたに渡す時、律儀にも仕入先から聞いた物語をそのまま教えてくれたのだった。

慈水怒濤の翼

伝説では、原初の海の成分は血液に似ていて、生命は最古の海水に浸ると一つに溶け合ったと言われている。陸と空に足を踏み入れるべく、生命は血管を進化させ、そうすることで原初の海を体内に留めようとした。そして原初の海すなわち血の海を支配した心臓こそが、原初の水の龍である。心臓の鼓動が聞こえるたび、あらゆる生き物が繰り返し立ち上がり、そして跪くという。
ーーもちろん、これらは水のヴィシャップが言い伝える物語に過ぎず、信じるに値しない。他のヴィシャップの物語はまったく異なる内容かもしれない。一方、純水精霊の間ではこのような後日譚が伝えられている。

元々の心臓が取り除かれた後、天空の島の使者であり、聖霊を創造する使命を背負った統率者は、原初の海に別の心臓を創り出した。龍の如き気高さがありながら見た目は龍にあらず、神の如き威厳を纏いながら神聖な使命を持たない。君主の手で創られたが、素材と性質はこの世界に由来し、外来する要素は一つもない。
彼女は胎海に滴る涙の一滴である。交流と理解を追求し、それ故に涙を流す。まさにその慈悲の心のせいで、純水の生命が軽々しく口にはできないような原罪を犯す。

さらにその後の物語については人間が言い伝えるとおりだ。とは言っても研究者たちの間だけだが。
偉大なるレムスがフォンテーヌにやってくると、彼の幻視の中には偉大なる永遠の都、レムリアがあった。彼は人々に教えを説き、ついには自身の夢の一部に手を触れる。続いて告げられたのは予言者による、悪意のない、しかしこの上なく恐ろしい宣告だった。輝かしい楽章にはいずれ終わりが訪れ、レムリアは滅亡するであろう、と。
「英雄が故郷に帰る時、死ぬのでなければ必ずや暴君となる」とはよく言われる。レムリアが運命から逃れるために施した正義は、あまりの甚だしさについには暴政へと転じた。そして暴政は民衆たちによる怒涛の反乱を招く。偉大なるレムス、愚かなるレムス、思慮深きレムス、孤独なるレムス、そのどれもが姿を消した。

人々は後ろめたさから審判を渇望し、渇望ゆえに喜捨を望んだーー人は常に神の存在を求めるのだ。こうして胎海の心臓、慈悲なる工ゲリアは原初のかの人物のピースを授かり、魔神の格および遅れて与えられた神聖な使命を抱くことになる。果たして人々の願いは天に届いたと言ってよいものか、それとも新たな陰謀の幕開けと言うべきか。

これはお前以外に誰も知り得ない物語だ。目が覚めた時、この翼はこれらの物語と共に枕元に現れるだろう。あらゆる種族に証拠を求め、彼らの間で伝わる物語の真偽を確かめることはできる。だが誰もお前を信じはしない。なぜならこの風の翼が、物語と共に何も無いところから現れることなどあり得ないからだ。

須臾の夢の翼

これは『かげろうの夢の羽』という弦楽曲に纏わる小さな物語だ。
優美な名曲とまではいかないが、メロディが感動的で一時期は広く親しまれていた。
だが流行というのは一瞬で、新しい曲が世に出れば過去の曲を聴く人は徐々にいなくなる。
さらに時が経つと、曲を書いた人の名を知る人もいなくなる。
人は皆こう言う。あの人の才能は憂曇華の花のように儚かった。現れてはすぐ消える数多くの歌手たちと同じように、と。

「才能は憂曇華の花のように儚かった。現れてはすぐ消える数多くの歌い手と同じように…」
街の人々からの評価を話しながら、彼女は縁側に腰かける姉を見ていた。
「世間はこうも言いました。一生の短いかげろうが、尚も夢に浸ろうとするなんて、だらしがないにもほどがある、と。」
記憶にある姉は始終彼女に背を向けたままで、引用された言葉にも反応せず、ただただあの徐々に忘れ去られたメロディーを奏で続けていた。
作曲者は自分の作った曲を愛するものなのだ。
しかしその後、姉もそういう余暇を過ごすことが減り、やがて…姉の弾くその曲を聞く機会は永遠に失われた。
とはいえ姉に比べて彼女自身は音楽に疎く、次第にそんな出来事さえも忘れていった。

次に曲を聞いたのは、一人で旅に出て、酒場の庇で雨宿りをした時のことだった。
目の見えない琴師が店主に酒をせびろうと、その曲を弾いたのだ。老人の腕前は上等とまではいかなかったが、十分に聞けた。
曲を弾き終えて一杯の酒を腹に入れ、ほろ酔いの琴師は、この曲は元々最も高貴なお人が作ったものだ、決して嘘ではないと言った。
だが、さすらいの旅芸人がホラを吹くのはよくあること。信じる者はどれだけいただろうか。
その場がどっと笑いに包まれる中、彼女だけが突然に記憶の中へ引き込まれた。
午後の日が明々と差す庭で、池を波立たせたあたたかい風。わずかに揺らめく木陰。手慣れた指が奏でる弦の響き…
そして最後に見てからもう随分と経った、琴を抱え縁側に座る人影を。
今まさに――今まさに振り返ろうと…

かげろうで何が悪い? 万物は一瞬にして生まれ、滅びる。朝の白露が夜には塵になるとしても、情熱的な夢を抱くことはできる。
憂曇華の花の何が悪い? 一晩で咲いて散るその姿は、目にした者の心に一生忘れられない景色を残す。
ならば思い出、思い出とは。
それはまさに、かつて風のように過ぎ去った日々を一瞬の恍惚の中で呼び戻すことではないのか?

「…この風の翼は、社奉行が骨董品を整理している時に埃の被る琴のそばで見つけたそうです。私にはあまり使い道がないから、あなたにあげましょう。」
女性がそう言った時、その手には既に綺麗に塗り直された琴があったが、楽器を持つ姿勢があまりに不慣れな様子だった。
期待の眼差しに気づいた彼女は軽く肩を落としてこう言った。
「先に言っておきますが、私の琴の腕前は武芸のそれとは程遠いですよ。」
昔のことを思い出し、彼女は唯一覚えたその曲を演奏する。

コメント

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  • 風の糞になってる所があるけど原文がわからないので報告だけ -- 2020-12-14 (月) 23:16:23
    • ありがとうございます。確認したら翼でした。恐らくOCRしてそのままコピペしたんでしょうね。 -- 2020-12-14 (月) 23:21:24
    • 草 -- 2021-02-08 (月) 03:40:14
  • 服装について。後々どれが誰の服かわからなくなりそうなので名前をつけました。他にいい方法があったら変更お願いします。 -- 2021-10-04 (月) 23:26:56
  • アンバーのオルタコスチューム、ゲーム内での「心を痛めるもの」が「心を痛める者」になってるのでどなたか修正お願いします -- 2022-02-27 (日) 19:23:45
    • あと落ち着いた痕→落ち着いた後 ですのでそこも合わせてお願いします -- 2022-02-27 (日) 19:25:50
  • このページを見て初めてジンとバーバラが姉妹なのを知った……姉がいるのはデートイベントで知ってたけどジンだったのか -- 2022-03-26 (土) 06:56:09
  • 饗宴の翼ストーリー追加しました -- 2022-04-10 (日) 17:46:14
  • 銀河燦爛の翼が全面的に翻訳が修正されていました。前の文はコメントアウトしてますが雷騰雲奔の翼(稲妻翼)のように折り畳んだ方がよろしければ変更お願いします -- 2022-06-13 (月) 04:02:37