物語

Last-modified: 2024-09-19 (木) 04:04:41

物語:キャラ/ア-カ | キャラ/サ-ナ | キャラ/ハ-マ | キャラ/ヤ-ワ || 武器物語 || 聖遺物/☆5~4 | 聖遺物/☆4~3以下 || 外観物語
図鑑:生物誌/敵と魔物 | 生物誌/野生生物 | 地理誌 | 旅行日誌 | 書籍 | 書籍(本文) | 物産誌


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主人公

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キャラクター詳細
調停者は死に瀕し、創造主は未だ訪れぬ。
だが、世界は二度と燃えぬ。あなたが「神」の座に就くから。


キャラクターストーリー1
見知らぬ空の下、旅人は砂浜に立っていた。
あなたたちは旅をする双子で、いくつもの世界を渡って、星屑に分かれた国境を乗り越えてきた。
この「テイワット」という大陸に降臨する前に、あなたはこの世界と仲良くなろうと思った。
だが目を覚ますと目の前は天地異変と災禍の光景だった。――
でもあなたたちがここを離れて、次の世界へ行こうとした時…見知らぬ神が、あなたたちの前に現れた。
塵一つもない神が濁世の天空に浮かび、あなたを俯瞰していた。
神があなたの唯一の血縁者を奪い去った。そしてあなたは封印され眠りへと落ちた。
再び目を覚ませば、目の前の光景が変わった。
そこは戦火もなく、見たことのない世界だった。
自分は何年眠っていたのか?答える人など誰一人いない
そしてかつて会ったその神の居場所を突き止めるために、君はひとり、旅に出た…


キャラクターストーリー2
その後、あなたは旅の仲間パイモンと出会い、共に旅をしていた。
あなたはこの世界に7つの神が存在し、「俗世の七執政」の名の下で、7つの国を統治しているという情報を手に入れた。
最初の行き先は、詩とお酒の自由の都――モンド。それが風神の造った国。
異邦人としてモンドに足を踏み入れた時、モンドはほかの国と同じように人類と人類以外の双方から脅威を受けていた。
人類以外の脅威というのは、非人類によって結成された「アビス教団」のこと。
人類内部の脅威とは、スネージナヤの神である氷の女皇の野望。
アビス教団は風神の眷属――モンドの「四風守護」の東風の龍を腐敗させた。
スネージナヤの使節団は口実をつけて、モンドに圧力をかけた。
内外の危機に直面する時、モンド神が戻ってきた。風の神は吟遊詩人と化し、あなたと共に巨龍を救い出すことになる。
この時のあなたはまだ気づいていない。深淵に落ちた巨龍の瞳に映ったあの人影は…
深淵を統べる者。
かつて、あの(少年or少女)があなたと共にいくつもの世界を渡って、星屑に分かれた国境を乗り越えていた。


キャラクターストーリー3


キャラクターストーリー4


キャラクターストーリー5


運命の織機


神の目
抗えぬ運命を前にした時、人々は自身の無力を嘆く。
しかし人生の最も険しい分岐点にて、その渇望が極致となれば、神の視線は降りる。
それが「神の目」。神に認められし者が得られる外付けの魔力器官、元素の力を引き出す物。
天の上は神々の領域。地上にいる選ばれし「神の目」の所有者は、死後、天空の領域に入ることを許されている。
この世界に来てから、よく人々からこのことを聞かされる。
あなたは「神の目」を取得することができない。外界の者はただただ見ていることしかできない…
一瞬の渇望を一生かけて貫く、これは良いことなのか?それとも悪いことなのか?
数々の世界を渡る旅の中で、「神の目」のような、時間をかけて考えなければと*いけないことはまだまだたくさんある…

ア行

荒瀧一斗

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キャラクター詳細
花見坂を歩いていると、「荒瀧一斗」という鬼族の青年が必ず目に留まるはずだ。
目立つ鬼の角とよく通る大音声。だが、それら特徴を抜きにしても、子供たちと夢中で遊ぶ荒瀧一斗の姿は人の目を引くことだろう。
花見坂には大勢の職人が集い、忙しない日々が流れている。しかし、彼という存在は暇を持て余しているようだ。
自称「荒瀧派の初代親分」一斗は、かつて町内での些細な喧嘩が原因で天領奉行に職務質問をされたことがある。しかし、二分と経たずに彼の言葉は打ち切られ、「無職」と記録された。
ただ「無職」というのは些か妥当ではない。幕府の認可を得ていない荒瀧派だが、その雑務以外にも生計を立てるため彼は臨時の仕事をしているのだ。
その頻度は一日働いたら三日休む、という非常にゆったりとしたもの。
ゆえに「四分の三は無職」と記録したほうが妥当だろう。


キャラクターストーリー1
客観的に見て、稲妻城での一斗の評判は決して良くはない。
悪人とまではいかないものの、善良な町民でないことは確かだ。
ただ、彼の恐ろしさを言葉で表すのなら、稲妻の家庭で子供を言い聞かせる際、「父ちゃんと母ちゃんの言うことを聞かないと、荒瀧一斗にお菓子を奪われちゃうよ!」と脅される程度のもの。
無論、荒瀧一斗に菓子を奪われる可能性は十分にあり得ることだ。そのため、「袋貉に山へ連れて行かれる」や「将軍様に神像にはめ込まれる」よりも効果はてきめんである。
しかし、「奪われる」という言葉には少々語弊があるだろう。一斗は真っ向から勝負を挑むことで、子供から菓子を手に入れているのだ。
子供に勝って菓子を奪うなど、卑劣な行為だと思う人もいるかもしれない。
だが、相手が五歳児であろうと、尊き雷電将軍であろうと、一斗は勝負に対して真剣であるべきだと考えている。
たとえ子供相手でも一斗が素直に負けを認められるのは、この純粋な信条を持っているからなのだろう。
大人たちは一斗に不満を抱いている。
しかし、一方で子供たちは、この鬼族のお兄ちゃんを良い遊び相手だと思っているようだ。
荒瀧一斗は巷の様々な遊びに精通しており、どのような遊びであろうと楽しみながら挑む。それだけではない、もしいじめられている子がいれば、必ずその子の味方をするのが荒瀧一斗なのだ。
ここ最近、子供たちが夢中なのは一斗との「虫相撲」である。
この昔ながらの遊びは単純ながらも、非常に苛烈なぶつかり合いによって、見ていて飽きることがない。そして何より重要なのが、他の遊びに比べて一斗の勝率が悪くないという点だ。


キャラクターストーリー2
長いこと、天領奉行は「荒瀧派」をたまに騒ぎを起こすだけの、さほど注意の払う必要がない集団だと認識していた。
この一派の構成員は十人にも満たず、結成日でさえ人によって意見が分かれている。
晃の場合、数人のゴロツキに絡まれていたところを一斗に助けられたことがあり、その日を結成日だと考えているようだ。ゴロツキ相手に一斗は七回も膝を突かされたのだが、まったく負けを認めず、ついには呆れ果てた相手が去って行ったという。そして、一斗は倒れていた晃に手を差し伸べ、こう言った――「お前も今日から荒瀧派の一員だ!」
元太と守の場合、ある年の暮れ、稲妻の郊外で一緒にうずくまりながらスミレウリを焼いた日を荒瀧派の始まりだと思っている。
その日、彼らは無一文で腹を空かせていた。すると、焼いたスミレウリを食べながら、一斗は感慨深げにこう言ったのだ――「荒瀧派の野郎ども、これからは毎年こうやってスミレウリを焼いて、一緒に食おうぜ!」と。
ただ残念なのは、元太も守も、そのような出来事は懐かしむべきものではないと考えている点であろう。
久岐忍の場合、初めて一斗を牢屋から救い出したときこそ、荒瀧派が結成された日だと考えている。なぜなら、そのとき初めて公文書に「荒瀧派」という名が記録されたからだ。
そして一斗の場合、「荒瀧派」の三文字が頭に浮かんだ瞬間から存在していると思っている。
残念ながら、この考えがいつ生じたのか、もうほとんど覚えていない。
しかし、幼い頃から一斗の面倒を見てきた鬼婆婆は、荒瀧派が結成されたことなどないと考えている。
彼女にとって、それはただ一斗と仲間たちが集まっているだけに過ぎないのだ。


キャラクターストーリー3
稲妻には、古くから妖怪の一族が住んでいる。
「白辰狐王一脈」や「天狗党」に加え、「鬼人衆」もこの地で活躍をしてきた。
これら妖怪の大半は、人間が羨むような特殊能力を備えている。だが鬼族の場合、特別な力をほとんど持っていない。
頭に生えている鬼の角を除き、特徴と言えるのはその気性の荒さと厄介事をよく招いてしまう点のみ。
また鬼族が豆を恐れるという言い伝えがあるが、これはすでに学術的に証明がされている。
実は、鬼族の大多数は豆にアレルギーを持っているのだ。ただ鬼族の血は時の流れとともに次第に薄まり、そのほどんど*は軽いアレルギー反応を起こすだけとなっている。
しかし、悲しいことに非常に深刻な豆アレルギーを持っている者がいる、それが荒瀧一斗だ。豆を食べるのはもちろんのこと、肌に触れれば全身にかゆみが走り、呼吸もままならなくなってしまう。
そのため、普段は大雑把で周りを気にしない一斗も、「豆」にだけはいつも警戒しているようだ。
荒瀧派の一員は親分への忠誠心から、一斗と飲みに行っても決して枝豆を注文しないという。
なお、豆を使った食べ物の中でも、一斗がもっとも恐れているのは「油揚げ」である。本人曰く、見ただけで三日は吐き気が続くそうだ。


キャラクターストーリー4
「油揚げ」で真っ先に思い浮かぶのが、ある勇ましくも悲壮に満ちた勝負のことだ。
その勝負の始まりは、日常の小さな揉め事であった。一斗が給料を貰った日、行きつけの屋台へ行くと、一つしかない店の席に狐耳の女性が座っていた。
その席を奪おうとする一斗であったが、次第に狐耳の女性と口論となる。そして、その席を賭けて真剣勝負(必要のない)をすることとなった。
話し合いの結果、勝負の形式は一斗が決め、その具体的な内容を狐耳の女性が決めることになった。
働いた後で腹を空かせていた一斗は大食い勝負を選び、狐耳の女性は食べる料理を選んだ――それが「きつねラーメン」である。
ラーメンの中に油揚げが入っていることを想定していなかったのは、一斗にとって致命的なものであった。しかし、持ち前の根性で勝負を乗り切り、なんとか鬼としての威厳を保つ。
そんな一斗の迫力に腰を抜かした店主は、その争いの火種となった席を彼に渡したそうだ。
それら数々の勝負をくぐり抜けてきた一斗であるが、その中でも心残りが二つある。
一つは天領奉行によって神の目を奪われた際、自分を打ち負かした相手である九条裟羅との再戦が果たされていないことだ。
今なお、九条裟羅は町中での相撲を拒否しており、一斗は不満を抱いている。
そして、もう一つが幼い頃にあったある出来事だ。ある日、天狗の子供と口喧嘩となり、白狐の野で相撲を取ることになった一斗。しかし、その最中に二人とも山から転げ落ちてしまうということがあった。
結局、足を挫いて歩けなくなった一斗を、天狗は家まで運んであげたそうだ。もちろん、勝敗は決まらないまま終わっている。
両方とも天狗が絡んでくるとは、なんともツイてねぇ!
天狗っつうのは痩せてやがんのに、どうしてあんな力が強いんだ。


キャラクターストーリー5
赤鬼と青鬼の話は、どの鬼も子供の頃に聞いたことがあるだろう。
優しくてお人好しの赤鬼が、悪事を働く青鬼を倒し、人々から鬼族の尊重を勝ち取る物語。
これは一斗が幼い頃に一番好きだったお話だ。赤い鬼の角を持つ一斗は、赤鬼の血筋を誇りに思っている。
しかし、そんな子供の純粋な思いは、ある事件をきっかけに揺れ動いた。
一斗の住む村で、凶悪な強盗や暴行事件が相次いだのだ。人々の疑惑の目は、鬼族である荒瀧の家に向けられた。
一斗は、当時のことをもうほとんど覚えていない。しかし両親に連れられて村を出るとき、村人たちから向けられた嫌悪感と警戒心に満ちた視線、そしていずれ幾度も耳にすることになる言葉を、彼はいまだに覚えている。
「やはり鬼はどう足掻こうと鬼のままなんだ。」
いつの時代においても、人間から見れば鬼は鬼でしかないのだ。何も悪いことをしていないのに故郷を追われた両親と比べたら、人々に恐れられている青鬼のほうが幾分かマシなのかもしれない。
両親が病死した後、幼い一斗は町中を彷徨い、鬼の悪口を言う者がいれば喧嘩を吹っかけていた。
しかし、殴られるのはいつも一斗のほうである。彼は地面に何度倒れようとも諦めず、厄介な相手だったことだろう。
だが、このときの一斗はまだ子供。ゴロツキどもに痛い目に遭わされ、飢えと疲れで体は悲鳴を上げ、やがて路上に倒れてしまう。
そんな満身創痍な状態の中、一斗はある人間の老婆に助けられた。
「おい、俺様は鬼だぞ!どうして助けた?」「お腹が空いとるんじゃろう?今ちょうどおかゆが出来たところじゃ。」
「聞いてんのか、俺は鬼族だ!俺の頭に生えてる角が見えないのか?」「もちろん見えとるとも…それより、おかゆはどうだい?」
「あああッ!もう、話を聞けってんだ――ゴホッ…ちっ、婆さん…じゃあ、おかゆを一杯頼む…」「ああ、少し待っとれ。」


「豪歌会」
年の瀬を目前にして、荒瀧派はどう年を越そうかと話し合っていた。
一般的な組織と異なり、荒瀧派は決まった活動拠点を持たず、モラの蓄えもない。きちんとした場を設けるのは些か難しいことだろう。
案の一つである「スミレウリの会」は却下された。スミレウリ自体を焼いて食べるのは問題ないが、食料がスミレウリだけなのはあまりにも惨めだからである。
「虫相撲の会」も悪くない案であったが、年の瀬はオニカブトムシの繁殖期ではないため、いまいち闘志に欠けている。
結局、くじ引きにより「豪歌会」なるものが選ばれた。
これは一斗が提案したもので、崖の上に立ち、潮風に吹かれながら熱き想いと未来への希望を歌にするというものだ。
それを知った面々は心の内で拒絶したという。海に向かって熱唱するくらいなら、スミレウリを食べているほうがマシだと。久岐忍はその場で休暇を取って実家に帰りたいと言い出した。
しかし、豪歌会は予定通り開催されることとなる。大声で熱唱するのは実に気持ちのいいこと。そして、意外にも一斗の歌唱力は見事なものであったという。


神の目
ある朝、眠りから覚めた一斗が腰の下に手をやると、そこには神の目があった。これは一斗が花見坂に来てもう何年も経ち、生活がある程度安定していた頃の出来事である。
「父ちゃん、母ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃん。それに鬼婆婆…とんでもねぇことが起きちまった!」
神の目を見た瞬間、一斗の頭にはそのような言葉が浮かんだという。
その日、彼は人に会うたび神の目を見せびらかしては鼻息を荒くし、神の目を下敷きにしてできた腰のくぼみを見せつけた。皆、耳にたこができるほど聞いたことだろう。
しかし数日後、荒瀧一斗の話す内容は一変していた。
「神の目を見た瞬間、俺様の心は一寸たりとも動かなかった。なぜなら俺様は荒瀧派の初代親分だからな、神の目を手にするのも当然と言える。
そもそも、人の価値なんざぁ、神の目で量れるもんじゃねぇ。そうだろ?」
だが目敏い人であれば、一斗が非常に柔らかな眼鏡拭きを買ったことに気づいていることだろう。
つい先日、『月刊閑事』の質問欄にある投稿が寄せられていた。
「ヒナさん、神の目をより輝かせるためには、どうしたらいいんだ?他のやつらよりもピカピカにしたいんだが…」
それを読んだ荒瀧派の面々は、興奮しながら一斗にその本を見せた。しかし、長年ヒナさんに絶大な信頼を寄せてきた一斗が、一瞥しただけで本を手放したのは想定外だっただろう。

アルハイゼン

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キャラクター詳細
才能ある者があまりに控えめでいると、何か底知れぬ身分や目的があるのではないかと疑ってしまうーーアルハイゼンはこのつまらない考えに対する、有力な反論である。彼は十分優秀ではあるが、ただの教令院の一般的な職員に過ぎない。スメールに安定した仕事とよき住まいを持っており、悠々自適の生活を送っている。
執務室にこの教令院現書記官の姿を一切見つけられないことがあるが、人々は現書記官の名がアルハイゼンで、執務中は出勤しているべきだということくらいしか知り得ない。実際、書記官の居場所を知る者はないため、みな資料や文書を彼の机に置いておくことしかできないのである。
しかし、アルハイゼンはこの現状に大変満足している。彼は家にいることもあれば、図書館にいることもあるが、とにかく人々が彼にいて欲しいと願う場所には決していない。
他人に己が「いつどこで何をするのか」を判断させないようにすることで、初めて自由に己のやりたいことができるのだ。


キャラクターストーリー1
「書記官」というと、教令院にいる大半の一般学生に「何だかすごそう」と思われる肩書きであるが、現実は違っている。この職位が何やら迫力ある響きの名を持っているのは、単に職名を付ける際に面子を気にする、院内の風潮のおかげである。
実のところ書記官は用がなければ重要な会議にも滅多に顔を見せず、核心となる決断にも参与しない。加えて、担当する業務は重要な資料の整理と保存のみなのだ。しかし、紙の書籍と書類がかつて管理されていたスメールにおいては、書記官はむしろ教令院で最も多くの情報を知ることのできる職位の一つであり、グランドキュレーターの位置づけに近いと言えるだろう。書籍の管理人であるグランドキュレーターが、最上位の知恵を記録した書籍に触れる可能性が最も高いことを否定する者はいない。
スメール教令院の現書記官に、アルハイゼンはぴったりである。必要のない会議には出席しないし、例え出席するようにと言われても記録するのは必要事項のみで、他の内容の記録はすべて気分任せ。もし会議の内容が彼の利益に影響しないものか、あるいはまったく彼の関心を引かないものであれば、意見すら出したがらないのだ。そして、愚かな観点を提示する者がいれば、心の赴くままに直球で胸を突き刺すような評価をすることもある。
アルハイゼンのポリシーはこうだーー判断してもいいというなら、判断に利用する手段も権利も、すべて任せるということだ。彼の言葉を引用すると…「俺が大きな野心を持つのを面倒に思う人間でよかったな。」とのことである。
学者は皆、知識と真理を追い求めるもの。名誉や理想のためだという者もいれば、知識と真理を征服して踏みつける過程から生まれる優越感を楽しむ者もいる。しかし、アルハイゼンはそのいずれにも属さない。彼の成すことすべては、いわば趣味なのである。彼からしてみれば、多くの学者は知を追い求める最中で自我を見失い、誤って真理を自己実現の道具、ないしは近道と見ている。
しかし人々の追求があろうがなかろうが、真理は常に空で光り輝く天体のように、高い場所に在り続けるものだ。
真理は旅の目的地でも競走や試合の終着点でもないし、人々がいようがいまいが、揺らぐことはないだろう。また、人々の探求心とは、絶対にある知識を得たからと言って容易く終わりを告げるものではない。たとえ、「自分は収穫の喜びを享受できるし、そのためにすべてを犠牲にする準備もできている」と認識していたとしても、知識に対する欲求は依然として彼らを鞭打つ。
真実を見抜けぬ者にとって、この道は終わりがない。そして見抜けた者はこう述べるーー真理は誰かのために誕生したわけじゃない。己の知識に対する欲求を制御できない者は、いずれ知識によって滅ぼされる…それこそが学問の国のルールだ。もちろん、学問の国に馴染みたいというのなら、そのフリをしても全く問題はないが。


キャラクターストーリー2
スメール人はクラクサナリデビの救出に参加した一同を英雄と呼ぶ。しかし、これを言い伝える者は事件の全貌を知らない人間がかなりの割合を占めており、ただちょっとした話を耳にしただけで、それを美談として口にしている。参加者の一人であるアルハイゼン本人は、その英雄という言葉に特にこれといった感想もなく、それを口にするべきことだとも思っていない。
また、彼は大賢者の位に就いてくれという教令院からの勧誘を、幾度となく断った。しかし、ちょうど情勢が安定しないときであったため、最終的に代理賢者の兼任を承諾した。
賢者や大賢者になることを断るというだけでも十分不思議なのだが、それ以上に、すでに代理賢者を担った者がそのままその座に居座ることなく予定通り辞任し、大して重要ではない書記官の職に就いたことのほうが、人々を驚かせた。
収穫といえば、一つは経済面だ。アルハイゼンは書記官の職務をこなしながらも賢者の福利厚生を受けている。その上、彼の手には自身で完成させた優れた研究もあるため、生活に不自由することは一切ない。もう一つの収穫は、人間関係である。例の一戦を経たアルハイゼンは、他の計画参加者を戦友として見てもいいと感じており、出かけた際にたまに出会うと、挨拶代わりに会釈したりもする。
また、クラクサナリデビは時たま、今は同じ教令院にいるアルハイゼンをスラサタンナ聖処へと招き、各事項について話し合うのだが、そこで彼は結構な人数を目にする…大マハマトラのセノ、傭兵のディシア、ズバイルシアターのスター・ニィロウ…「アルハイゼンさんはどうやってあんなにすごい計画を思いついたんですか?後になって思い返してみたら、お互い怪我しなくて本当によかったなって思って…」そうニィロウから話しかけられることもあった。
ニィロウは言葉を続けることを少し躊躇った。アルハイゼンには彼女の疑問が理解できた。神の缶詰知識の罠からうまく逃げられたことには誰だって驚くだろう。しかしアルハイゼンからしてみれば、彼は本当の意味で危機に陥る事など全くなかった。なぜなから彼は、最初からあの缶詰知識を使ってはいなかったのだから。
そんなことができたのも、書記官という職務がもたらしてくれた知識のおかげだ。幸運にもアーカーシャシステムの関連説明書を読んだことのある学者として、頭部に取り付けるアーカーシャのパーツと缶詰知識を研究したのは確かだ。その経験から、どうやってアーカーシャの見せるものを改竄するかということから、アーカーシャ自身の持つ投影バリアを逆転させれば、後頭部への一撃があった場合にも防げるだろうということまで思いついた。
計画がすべての基礎であり、また事前の研究こそが計画の基礎となることを、事実こそが証明してくれている。しかし、アルハイゼンは自分が無傷であったことをひけらかすことに興味もなかったため、ただニィロウに「俺の知っている限り、この件についてはセノやディシアも疑問に思っているようだ。しかしこうやって聞いてきたのは君だけだった。あいつらは、俺に聞くのがそんなに恥ずかしいのか?」と問い返しただけだった。


キャラクターストーリー3
アルハイゼンは人と個性や性格について軽々しく議論しない。彼は主流派の提唱する見解には誤りがあると考えているのだ。仮に人の個性は能力や考えと全く関係ないとするならば、そのような説を固く主張する者は他人をどの面からも判断できない事となる。聡明な者が愚かな者に向ける態度と聡明な者に向ける態度はふつう異なるものであるし、愚かな者は成功したときと失敗したときとで、異なる考え方をするだろう。アルハイゼンに対する他人の評価も、この理論を裏付けているーーその優れた才能と自己中心的な性格から、人々はあまりアルハイゼンに近づきたがらず、ただ彼を客観的で優秀な人材だとしか見ていない。
これこそ、彼自身が望んでいた通りの立ち位置である。学問一筋な石頭の学者は少なくないが、彼はそうではない。実際、時に鋭い言葉遣いも、アルハイゼンの考え方を示す一つだ。社会(あるいは集団)は、しばしば規則で個人を縛ろうとする。そして言葉はまさにその規制の一つだ。文章や単語を逆手に取って操ることは不合理的な規則に対する反撃であり、その力を借りれば人は面倒事から遠ざかることができる。
「天才」などといった言葉は教令院に溢れているし、奇才、鬼才も例外ではないーースメールでの生活においては、才能自体がある種の試練だ。群を抜きすぎた能力は、必ずしも完璧な授かりものとして見なされるわけではない。それは目に見えぬところで、人を区別するのだ。一般人は想像を絶する輝かしい実績を目にすると、すぐに天才、超人、人とは違うなどの賛美の言葉を口にする。しかしよくよく考えてみれば、そこからは話し手自身すら気が付いていない深意を読み取れる。天才の本質とは、常人と異なる集団である、と。
ある人が他の人にはできないことができるとすれば、その人は絶対に特別な能力か身分を持っている。優秀な者に対する度の過ぎた煽てや想像の根源を辿れば、それはある種の疎外に他ならない。私と違って素晴らしい…これは凡庸な人々がよく使う言い訳だ。このような愚昧な規則は、アルハイゼンにとってまったく意味がない。彼はたとえ人との付き合い方を理解していても、己の労力を無駄な事に費やしたくないのだ。
「規則」というものは境界であると同時に、束縛でもある。その束縛を受ける者の数が、規則の優劣を推し測るための唯一の拠り所となるべきではない。
故に彼は、自分なりの規則を打ち出した。それは彼が万物を見て、世界と対抗する力であり、彼のすべての考え方を究極的に表現したものである。己の規則を守るため、アルハイゼンは自身の意志に従って行動し、自分から見て有害なものに対処する。
真実を見ることができるのは、客観的な者だけだ。個人の違いをはっきり認識し、能力と知恵の差をはかることができれば、答えはもう目の前だ。他人から区別されることなど彩りに過ぎず、評価権を他人に委ねることは自身に対する否定である。人と違うということは、単なる他人に貼られたレッテルであるべきではないし、天才たちも特別さはある種の富であると早く認識するべきである。
また、こうも言えるだろうーー天才は、自身が他人とは違う正真正銘の天才であることをはっきりと認識できて初めて、本当の意味で才能の価値を意識できるのだ。あれこれ心配して、いまだに主流の観点に麻痺している者は、未だに完全には自分を見つけられていない。


キャラクターストーリー4
平穏で安定した生活を送るには、いくつかの条件を満たさねければならない。一貫した性格とロジック、適切な戦闘能力、のんびりとした仕事、そして職場に近く住みやすい家。
これらのすべてに、アルハイゼンはもう満足できている。学術能力によって社会資源が決まる学者の国での生活に己が向いていることを、彼はまったく否定しない。
今のアルハイゼンの住処は教令院の近辺に位置しており、これも優れた研究によって獲得できた学術資源の一つである。この家について語るならば、学生時代に携わったその研究課題の話は避けられない。当時の同窓たちがもしアルハイゼンのことを未だに覚えているのであれば、彼が集団行動を好まない人間であったことを知っているはずだ。唯一誰かと共にこなした研究といえば、課題自体はかなりの成功を収めたのだが、大喧嘩をした末に別れるという結末に終わった。人々はアルハイゼンがこの物語の主人公だとはっきり認識しているわけではないが、彼と大喧嘩した協力者が、妙論派の建築デザイナーであるカーヴェであったことなら知っているかもしれない。
この学術事件はさほど広まっていない。結局、教令院のような場所で二人の天才が性格や理念の違いから協力を続けられない事例は、そう珍しいことではないからだ。しかし、たとえ協力関係が破綻しても、双方は互いに相手が類まれなる聡明な頭脳を有していることを否定はしない。その時、保留となってしまった共同研究も、その後関連規定に従ってこれを提唱した者の資産とされたのであった。
解散した後は、二人ともこの研究課題に対して精力を注ぐ事はなかったが、その初期段階はそれほど成功したわけであり、アルハイゼンの学術能力の強力な証明となった。それは最後に教令院が資源である物件を分配する際に、この取り消された研究課題を参考から外すのを忘れる程で、アルハイゼンとその課題はかなりの好物件を受け取ることになった。そして研究課題のもう一人のメンバーであるカーヴェは当初、彼と資源の所属問題について一切話し合わず、後になってこれを知る事となった。カーヴェは担当者に、自分はもう住所があるのだからこの資産は必要ないと言って、教令院とアルハイゼンへの伝言を頼んだ。
アルハイゼンが長く疎遠となっていた彼と久しぶりに出会ったとき、カーヴェは既に破産していた。能力にそぐわない観念と性格を有する、これがアルハイゼンがこの昔の友人に下した評価だった。彼らは多くの物事に対して真逆の観点を持ち、未だに折り合いを付けられずにいた。
そんな彼がカーヴェを家にしばらく居候させているのも相当面白い議題となっている。資産の一部を有していたにも関わらず、自ら放棄したのだから、法律及び社会的な面から見て、彼は家賃を払うべきである。しかし学術の面から見れば、家賃を払うという事は多かれ少なかれ彼の研究中にあったすべての努力を否定することとなり、学術精神には適さない。
この件について考えるのは面白いのだが、アルハイゼンはその答えに関心がなかった。破産した元課題協力者を受け入れ、当たり前のように家賃を受け取って、日常のこまごました事を任せる。もちろん、カーヴェがこの件に対して文句があることは十分承知している。だが、それでもいい。アルハイゼンからしてみれば、自分と同じく家族をほぼ持たず、しかしながら互いにをよく知る自分と真逆な学者と接触することは鏡の他の面を見るようなもの。人間の視覚はいつだって完璧なものではないが、もう一人の天才がいれば、完璧にできる可能性がある。これを切り口に、彼は世界の他の面を観察でき、本来は見透かすことのできなかった物事を理解できるようになるのだ。


キャラクターストーリー5
学者の国スメールでは、学術と知識がすべてである。言い換えてみれば、スメールで教令院からある程度認められた学者は往々にして高い地位に就く。アルハイゼンはそんな学者家系の生まれであった。両親が事故により若くして亡くなったため、彼は妙論派出身の祖母によって育てられた。
アルハイゼンには、両親についての印象があまりない。後に祖母の口から、両親はともに教令院で職についていたことを知った。父はかつて知論派で指導教員を担当しており、母親は因論派で有名な学者だったのだ、と。
アルハイゼンの優秀な頭脳は、そんな両親からの遺伝によるものだ。彼は幼少期から非常に聡明で、七歳か八歳のころには既に同世代の子が触れたがらない難解な学術書籍を読んでいた。祖母はそんな彼の優れた素質に気づき、教令院へ早めに入学することを勧めた。…しかし、アルハイゼンはたった半日授業を受けただけで、家に帰ってきてしまった。——この半日、教令院で関わったのはみんなつまらない人たちだった。あの人たちの、まったく価値のない授業を聞いているよりも、自分で読書している方が好きだ——彼はそう祖母に伝えた。祖母はアルハイゼンの中に彼の両親が持っていた才能や性格を見て取り、家で独学することに同意した。
アルハイゼンの独学とは、閲覧と分解、そして再築と懐疑である。学者家系の一員である彼は、幸運にも紙媒体の本に触れることができた。面白い事に、アーカーシャから情報を取得するよりも、彼は祖母のコレクションである紙の書籍を読む方が好きだった。
アーカーシャと比べて、紙の書籍は不便で、古臭く、内容の正しさすら保証されない。このような知識の媒体を利用するということは、間違っている可能性のある情報とも闘争せねばならないことを意味しており、大半のスメール人はそのような闘争を避けたがる。しかしアルハイゼンはそんな闘争を楽しんでいた。彼はそこから、学習し、分析し、訂正する能力をものにし、さらに懐疑という概念を身に着けた。もし質素で原始的な読書が「面倒事」だとすれば、それはアルハイゼンの最も気に入っている面倒事と言えよう。
祖母はアルハイゼンにこう告げた。「あなたもあなたの父親と同じで本を読むのが好きねぇ。あなたたちのような人が聡明さを与えられすぎたのかどうかは分からないけれど、特別だということはいつだって富なのよ。絶対に覚えておいてね。」
知識を認め、追求して信じ、さらに疑うことも絶対に忘れないように。恐らくこれをできた人間だけが、缶詰知識といった便利な媒体にも簡単に心を動かされずに済むのだろう。そして、その条件に適う人材しか知恵の殿堂の奥に保管されているアーカーシャの説明書にまで手を伸ばすこともないだろう。
祖母の言った通り、本には無用な情報が数多く存在している。しかし優れた頭脳はアルハイゼンのために選別をしてくれる。彼が読んだ後もなお記憶に残る本があれば、それはいつの日か彼の助けになり得るかもしれない。
祖母が亡くなった後、アルハイゼンは一人で彼女の葬儀を手配した。そして、彼女が残した財産と、家にあった小さな書庫を受け継いだ。亡くなる前、祖母は心を込めて彼にある言葉を贈った。「あなたは聡明すぎる人間よ。天才の大半は自分勝手で独りよがりな行動を取る。優秀なことも、一般の人々よりも高い視野を持つことも、悪い事じゃないわ。でも必ず用心深く、人より冷静でありなさい。虚栄心から追求し続けることはすべて塵よ。あなたの最大の知恵をもってして、自分の道を識別して選びなさい。」
アルハイゼンが教令院に提出した申請書はすぐに許可され、入学試験を高い点数でパスした彼は知論派に入ることとなった。学院側はアルハイゼンに、彼の祖母が生前、他の学院の傍聴資格を申請していたことを告げ、暇があれば他の授業を聞いてみるのもいいと伝えた。アルハイゼンは祖母の教えに従って、終始、自我と理性、そして控えめな態度を保ち続けた。
数年の後、アルハイゼンは新しい家へと引っ越した。彼は書庫にあった紙の書籍をすべて新居に運んだ。整理する際、彼はかなり昔に読んだ本を何冊か見つけた。本の扉に祝福の言葉が書かれている文化関連の書籍はほとんど母親のコレクションで、本に資料が挟まれており、ページにメモがぎっしりと書かれているのは、基本的に父親の物。それからもう一冊、上質な装丁で作られた翡翠色の分厚い本の扉には、祖母の筆跡が残されていた。「私の孫、アルハイゼンが平和な生活を送れますように。」


実行家の腰掛けカバン
丈夫で耐久性のある、青緑色の布カバン。
その腰掛けカバンの色があまりにもアルハイゼンの衣裳*の色に近いせいか、それが実際はただの幅が広いベルトではないことに、人々はなかなか気づかない。
カバンの中に入っているものはそう多くない。鍵と、最近読んでいる本、そしてヘッドホンとセットになっているポータブルオーディオプレーヤーが一台…これで全てだ。
このオーディオプレーヤーは書記官になったばかりの頃、彼が自分の手で作ったものであり、同色のコードを使ってセットのヘッドホンが繋げられる。音楽を流してることもあれば、ノイズキャンセリングの機能のみを使うこともある。


神の目
「言葉の価値は、その文面の意味に留まってはならない。言葉の一貫性を借りて、人々は思考を支配する。言葉とは、即ち最低条件であり、規則であり、武器であり、暴力である。言葉を唯一無二のものにすることで、我々はやっと新たに道を切り開いて思想上の相対的な完全に辿りつけるのだ。
ただし、思考を統御することは一部の人にとっては無意味な事だが、ほとんどの人にとっては大切な意味を有する。個々の独自性の追求は、我々に様々な言語を習得させ、異なる媒体を利用させることに繋がった。多くの場合、人は言葉によって統制される。」

アルハイゼンは文章が刷られたページをめくる。それは既に最後のページで、さらにめくれば裏表紙のようだ。彼は本の下に、光る精巧な装飾品があることに気づいた。
もちろん彼には分かっていた——その正体は、力を証明する「神の目」であると。しかし彼にとって、それはさほど崇高な意味を持つものではなかった。
奇蹟というものは信仰者の身に起こってこそより神々しく見えるものだが、彼にとってこれは、ただ少し使いどころがあるというだけのサポートの品でしかない。
神の目を獲得したその瞬間、アルハイゼンはちょうど研究課題のために外出しているところであった。
彼は長い時間をかけて神の目を眺めるつもりはなかった。自分のものなんだから、いつ見ても同じだろう。
既に身についた知識と同じで、手にしたものは逃げられやしない。

アルベド

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キャラクター詳細
「錬金」、その技術の歴史は古く、長い年月の中で多くの知識が失われてきた。そして現代において、錬金術は物質の欠片を組み合わせることで、僅かなモラを節約するためだけの技術として人々に認識されていた。
もし人々がこう話すのを錬金術師が聞けば「そんなくだらない学問ではない!」と叫ぶことだろう。
だが、アルベドがモンド城に現れたことでその認識は一変する。
彼は誰もが驚く技術を披露し、錬金術の真髄を皆に知らしめた。
スメール教令院ですら認知していない膨大な知識を持ってして、この少年は人々を魅了したのだ。
「宇宙――それは空の頂点。地層――それは時間が忘れ去った夢。これは灰、生命という複雑な構造を最もシンプルにした状態である」
この奇妙な言葉を証明するかのように、アルベドは草スライムの頭に生えた花から燃えるような灰を手に取って掲げる。
すると数秒後、その灰の中からセシリアの花が咲いた。
「新たな生命の誕生だ」


キャラクターストーリー1
アルベドは騎士団において、極めて重要な職務に就いている。だが、彼が人前に姿を現すことは滅多にない。
学者にありがちな変わった性格が災いしているわけではなく、むしろ彼はとても誠実に人と接する。
ただ、行き過ぎた情によって結ばれた親密な関係を彼は当てにしておらず、またそれを維持するための多大な労力を良しとしていないのだ。
そのため、アルベドは他人と友好的かつ適度な距離を置くことにしている。
彼が工房の鍵を閉めて外へ出かけたり、素材を探しに行ったりしている日には、彼の姿をモンドで見つけることは決してできない。
だが、人を遠ざけるその行為は、アルベドの心が冷淡であることを示しているわけではない。
助手であるティマイオスやスクロースを指導している時、彼は心の底から楽しんでいるのだ。
そして、モンドの人たちに描いたばかりのクロッキーを渡すときも、彼は心の底から喜びを感じている。
また才能に恵まれたリサが図書館司書の職に甘んじている姿を見れば…心の底から残念に思うのである。


キャラクターストーリー2
「アルベドは、師匠の推薦状によりモンドに腰を落ち着けることができた」
これは一応事実である。ただ、モンド城はいついかなる時もあらゆる者を歓迎しているため、推薦状は大して重要ではなかっただろう。
むしろ、アルベドにしてみれば推薦状がなかった方が、モンド城の生活はもっと居心地の良いものになっていたかもしれない。
――なぜなら、推薦状の受取人はかの有名な観光ガイドの作者アリス、アルベドの師匠レインドットの旧友だ。
アリスは推薦状を読み終えた後、しばし考えにふけった。
「レインが、君に実験室を用意してくれだってさ…でも、この規模になると一般市民じゃ手が届かないよね。うーん…あ、そうだ!」
こうして、アルベドはアリスによって西風騎士団へと放り込まれたのであった。
騎士団の仕事はアルベドにとって、実に楽なものであった。実力の5%ほどの力を出せば、騎士団の仕事は万事処理できてしまう。
つまり、それ以外の力は全て実験に費やせる上、騎士団の実験室や機材を好きに扱えるということだ。
ところが――
アリスには娘がいたのだ、名前はクレー。
…そう、あの「クレー」だ。
「今日から私たちは家族よ。この子のことは実の妹だと思ってあげて!」
それからアルベドは、クレーの後始末によって日々労力を費やしていくことになる。


キャラクターストーリー3
アルベドは実の親のことを覚えていない。物心ついた頃から、彼は師匠と共に秘境深界を探索していた。
騎士団の人たち、アリス、そして星海の気をまとう旅人。誰もがアルベドにとって特別な存在であるが、その中でも師匠はひと際特別である。
なぜなら、アルベドにとって彼女こそが唯一の親であるからだ。
師匠は冷淡かつ厳格な女性だった。彼女はアルベドを育て、錬金術の秘訣を教えた。
「宇宙――それは星が輝く漆黒の空の本質、地質――それは時間と生命が蓄えた記憶。
白亜――それはあなた、黒土――それは錬金術の語源であり、命の根源でもある。そして――」
彼女はアルベドにその技術を見せる。
巨大な生命が卵を突き破り、培養槽の破片が床一面に散乱した。
「これが誕生だ」


キャラクターストーリー4
かつて、アルベドは煩わしさとは無縁の気楽な生活を送っていた。
何も考える必要はない。生命とは単調なものであり、ただ師匠と共に行動し、師匠の指示に従い、師匠の期待を裏切らなければよかった。
ある日、その師匠と弟子が世界の奥底で「ナベリスの心」と呼ばれる聖遺物を見つけた。
だがその日を境に、師匠は姿を消してしまう。残されたのはメモと推薦状、そして1冊の書物。
メモには「アルベドをモンドへ向かわせ、旧友であるアリスに推薦状を渡し、最後の課題を成し遂げさせる」と書かれていた。
書物は師匠が収蔵していた「大義秘典」の断片。
また、師匠からアルベドへ向けた少し変わった贈り物もあった、それは見習いを卒業したことを証明する「白亜の申し子」という称号。
過去にアルベドがこなしてきた課題は、いずれも困難なものであった。
「できなければ見捨てる」といった師匠の脅しも、アルベドは本気で信じ、課題に打ち込んできた。
ただ、今回アルベドが受け取った課題はあまりにも難問であり、彼の許容範囲をゆうに超えていた…
もしかすると、これは二度と師匠と再会できないことを意味しているのではないだろうか?
「最後の課題――私に世界の真相、そして世界の意義を示せ」


キャラクターストーリー5
アルベドの「錬金術」は、テイワットの七国に存在するどの技術とも異なっている。
彼が師匠から受け継いだものは、七国とはまた別の国――「カーンルイア」に由来するものだ。
カーンルイアは地底奥深くに隠された国であり、そこには動物がめったにいない。そのため、その地の「錬金術」は「生命の創造」に重きを置かれていた。
命を育てる術、「黒土の術」。
幼いアルベドは師匠のメモからそれを理解した。
また「黒土」のもう一つ上の存在が「白亜」である。これについては、師匠が過去に口にしたことがあった。
「白亜は無垢なる土であり、原始の人々の材料である」と。
今のアルベドは、あの頃よりも錬金術の理解を深めており、知識も過去のものとは比べ物にならない。
「黒土が白亜を産む」
彼はこの一言に込められた意味を完全に理解していた。
言葉で言い表せない神秘は、師匠との思い出に固く結びついている。
師匠は母ではない、だがアルベドの命は間違いなく師匠から生まれたものであった。
「はぁ、ボクの思い込みじゃなければいいのだが。両親が子供に求める『世界の意義』は…きっと幸せな暮らしのことなのだろう」
アルベドは、たまにそう考えるのであった。


アルベドの絵
アルベドの絵を描く習慣は、師匠と旅をしていた頃に身に着いたものだ。
最初はメモの挿絵を描く程度だった。だが、細部まで絵を描き込む事で物体の構造や法則を理解しやすくなり、錬金術を学ぶのに大いに役立つことに気付いた。
その上、絵を描いている時は無心になれる、対象の観察と筆を動かすこと以外は何も考えなくていいのだ。それは心地いい感覚であった。
そしてアルベドは独学で絵を学び、芸術家の域に達するまでになった。
モンド城内を散策する時、アルベドはいつもスケッチをする。彼は人々の幸せな時間を記録するのが好きであった。
時折、彼は描いた絵を事情の知らない「モデル」へとプレゼントする。なぜなら、幸福な時間が閉じ込められた絵は、大切にされるべきだと考えているからだ。
時が経つとともに、アルベドの画力も日に日に増していった。それでも「稲妻の挿絵」を初めて目にした時、彼の全身に衝撃が走ったという。
この世界に、絵を使って膨大な物語を伝える技術が存在したことにただただ驚いたのだ。
奇妙な感覚であった、それをアルベド自身も試してみたいと強く思った。
…そして、行秋という小説家と出会い、共に『沈秋拾剣録』を出版することになったのである。
ただ残念なことに、この小説はあまり反響を呼ぶことなく、「神絵師の絵が載っている本」という評価だけが世に残った。


神の目
「神の目」を手にしたことに対し、アルベドは特に驚きを示さなかった。
神の目を手にした瞬間、アルベドはそれを一瞥しただけで、元の作業に戻ったのである。
彼の感情には一切の変化もなく、まるでそれがさも当然のことであるかのように平然としていた。
アルベドにとって、神の目はただ研究を便利にするだけの道具に過ぎなかったのだ。
彼が喜ぶのは、「未知」なるものが知識となった時だけ。
いつの日か、彼は世界中の神秘と智慧を解き明かすことだろう――もちろん、「神の目」もそのうちの一つである。

アルレッキーノ

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キャラクター詳細
ヴァザリー回廊にあるブーフ・ド・エテの館は、清潔な壁と綺麗に磨かれた窓を備えた、美しい建物だ。そこには毎日身だしなみの整った、礼節をわきまえた子供たちが出入りしている。
フォンテーヌ廷にある他の建物とは違い、ブーフ・ド・エテの館の所有者として登録されている人物はここに居住していない。そればかりか、近所の人々は、その名を聞いたことすらないという。
何故ならば、書類の署名は偽名であり、本当の家主は別の人物だからだ。
夜が訪れ、館の扉が閉まると、闇の中に子供たちの囁きが響き始める。そしてその声には、「お父様」という言葉が混じる…
「お父様」の言葉と共に、敬慕を滲ませる者、恐怖の表情を浮かべる者、或いは複雑な面持ちになる者…反応はさまざまだが、その言葉遣いに注目すれば「お父様」が彼らに深く敬われていることがわかるだろう。
子供たちのいる組織は「壁炉の家」と呼ばれており、ファデュイに属している。
「壁炉の家」は世界各地の孤児を受け入れており、気高きブーフ・ド・エテの館も、「家」の一つに過ぎない。
そして、子供たちが「お父様」と呼ぶ人物…つまり「壁炉の家」の主こそ、現在のファデュイ執行官第四位「召使」——アルレッキーノである。
ファデュイや彼女に対する世の評価はまちまちだが、「家」で暮らすほとんどの子供たちにとって、「お父様」は人生で最も重要な存在だ。
「『お父様』がいるからこそ、ここは本当の『家』になるんだ。」


キャラクターストーリー1
「召使」に会った者は、そのほとんどが目に見えない威圧感を覚える。
いとも簡単に会話の主導権を握ってしまう彼女の特別な瞳に見つめられながら、平然と心に秘めたことを隠し通せる者はそういないだろう。
戦いの場においても、アルレッキーノは一切の容赦をしない。談笑のうちにすべてを片付け、後にその場を訪れる者が嫌な思いをしないようにと、親切にも現場を綺麗に片づけさえする。
しかし、こうした一面はみなが彼女を恐れる最大の要因ではない。人々に恐怖を植え付けているのは、彼女の「未知」なる一面だ。
日々、生活を共にしている子供たちでさえ、彼女のことに詳しいとは言えない——何が好きで、何が嫌いなのか…彼女が海面を見つめるとき、一体何を考えているのか…すべてが謎のままだ。
毎年八月になると、子供たちはアルレッキーノに誕生日プレゼントを用意するため、一生懸命頭をひねる。しかしプレゼントを受け取る時も、彼女の表情は大して変わらないのだった。
…そんな状況が変わったきっかけは、昨年八月、フレミネが天井から落ちてきたヤモリにびっくりしたことだった。リネットはその小さな「侵入者」を捕えまえようと、適当に掴んできた底の深い皿を被せるようにして素早く机の上に伏せた。
そこへちょうど家に帰ってきたアルレッキーノは、なんとその食器とヤモリをその年のプレゼントとして受け取ったのである。
翌日、「お父様」の執務室へ仕事の報告に訪れたリネは、机の上に置かれた飼育ケージの中に見覚えのある姿を見つけた。
ケージの中はちょうど良い温度と湿度が保たれているようで、ヤモリは何とも居心地良さそうにくつろいでいた。
——『お父様』は、爬虫類を飼ったことがあるのかも。
アルレッキーノがティーカップを手に取ると、リネはすぐ視線を戻したが、直前の発見についてはしかと頭に刻み込んでいた。
「お父様」と近づくことのできるチャンスを、子供たちが見逃すはずはない。
その日以降、リネとリネット、フレミネはヤモリの飼育について色々と調べた。次に「お父様」に会ったら、少しでも長く話がしたい一心で…
ところが数日後、リネが再び執務室を訪れると、飼育ケージの中は空っぽになっていた。
「『お父様』…ヤモリはどうしたのですか?」
「何度かケージの蓋を開けようとしていたから、解放してやった。短い付き合いだったが、まあ、それもあいつの選択だろう。」
淡々と告げられ、リネは呆然としてしまった。すると、窓の外からちょろちょろ頭を覗かせる鳥を指さして、アルレッキーノが言った。
「ああ、ヤモリは外に出るや、彼の腹の中に収まった。それでもまだ物足りないらしいな…リネ、そいつを追い払ってくれ。」


キャラクターストーリー2
美への憧れは人の本能とも言える。子供たちは思春期になると容姿を気にして、アクセサリーを身に着けたり、鋏で前髪を整えたりする。
そのような些細な反抗を「お父様」が気に留めることはなく、干渉もしない。
しかし、頑なにネックレスを外さなかったせいで、夜間の任務で居場所が漏れてしまったとなれば…「指導」すべき範疇である。
アルレッキーノは精巧に作られた小さめの袋を手に、少女の部屋に入った。
己の過ちを理解している少女は、ネックレスを外して机に置き、おどおどしながら立っていた。
アルレッキーノはネックレスを手にとって一目見ると、少女に歩み寄り、その白い首に着けてやる。
そして、少女の長く柔らかい金髪をそっと耳にかけながらこう言った。「ふむ、やはりピアスを開けてたんだな。」
「お父様」は袋の中からベルベットのリボンと、宝石の嵌め込まれたピアスを取り出した。そして、少女の髪を結び、高価なアクセサリーを着けてやった。
そして彼女の肩に手を添えて、鏡の前まで連れていった。鏡に映る少女の、宝石を身に纏った姿はまるで高貴な薔薇のようで、たとえ表情が不安で強張っていても、その美しさは寸分も損なわれていなかった。
「容姿が気になるようになったのは悪いことじゃない。しかし、これらのキラキラした小物に虚栄心を煽られ、心を揺らすのは感心しない。」
「も、申し訳ありません、『お父様』。」
「二度とこんなことはしません…」と謝りながら、少女は震える手でピアスを外そうとした。
鏡に映る「お父様」の穏やかな笑みは、平生と寸分も違わぬものであった。
「落ち着け…そう固くならなくていい。手に入らないものであればあるほど、人は執着してしまう。君には、悔いなどという言葉で過去の記憶を美化してほしくない。」
「これはこのまま着けているといい。これに慣れれば、どれほど美しい宝石や装飾品も、結局は冷たい無機物にすぎないと分かるようになるだろう。」
「これは君に課せられた新たなレッスンだ——自分の感情がどこから来るのか、しっかりと認識しなさい。感情に支配されるのではなく、自らそれを支配し、利用するんだ。」


キャラクターストーリー3
「お父様」が「家」のルールを書き換える前、壁炉の家はまったく異なる様相を呈していた。
先代「召使」の本名はクルセビナだったが、本名で呼ばれることはほとんどなく、子供たちには「お母様」と呼ばれていた。
優しい笑顔と穏やかな態度、家族への細やかな気配り、そして子供たちに聞かせてあげる素敵な物語…彼女は完璧な母親に見えた。
しかし、もし普通の環境で育った人が彼女の語る物語を聞けば、ぞっとしてしまうことだろう——
何せ、「お母様」は残忍極まりない話を美しい童話に見せかけていたのだから。さらに彼女はそれを利用して壁炉の家のメンバーに殺し合いをさせ、一番強い者を「王」にしようとしたのである。
「お母様」と自らを呼ばせながら、彼女自身、ここを「家」だと思ったことは一度もなかった。数え切れないほどの犠牲も、彼女にとっては興味深い実験に過ぎなかった。
……
「召使」の座を受け継ぎ、アルレッキーノと名を変えるまで、少女は「ペルヴェーレ」と呼ばれていた。
壁炉の家の他の子供と同じく、彼女も出身不明の孤児で、「お母様」の「子供」であった。
「お母様」がペルヴェーレを贔屓し、実の娘であるクリーヴよりも可愛がっていたことは、周知の事実だった。
だからこそ、なぜペルヴェーレの「お母様」への恩返しが大がかりな暗殺であったのか、多くの者が理解に苦しんだ。
クルセビナの狂気じみた実験は人目のない場所で行われたために、事情を知る者はごく僅かだったのだ。
一方、クルセビナを殺したペルヴェーレには「母殺し」の悪名がつきまとい、彼女の残酷さだけが世に知れ渡った。
……
しかしすべてが一段落した後も、かつてのペルヴェーレ——つまり、現在のアルレッキーノが自ら説明することはなかった。
噂が世間を騒がせていても放置するどころか、加担することさえあった。
外交官にとって、そして殺し屋にとって、最も重要なことは相手の本質を見極めると同時に、自身を霧の中に包むことなのだ。
「お母様」が殺された場所には、小さな墓碑が立てられた。そしてそこには、アルレッキーノ直筆の弔辞が刻まれている。
「ここに落日の残光を葬り、昇り来る陽を迎えん。」


キャラクターストーリー4
アルレッキーノはかねてより、表向きにはフォンテーヌ人であると自称してきた。自らの出自を隠し、事実を炎の中に葬り去るためである。
——幼い頃に気づいた、自分が奇異な炎を操れるという事実を。
当時、「家」の子供たちは彼女の力の正体を知る由もなく、好奇心を露わにしたが、幼い彼女にとって、それは決して自慢したいような能力ではなく、むしろ根深い呪いのようなものだった。
少しでも油断しようものなら、制御が効かなくなったその力は彼女の身体を蝕み、指先から手のひら、さらに腕へと広がっていく——
漆黒の模様はまるで焼かれた木のようで、彼女は自身が燃え盛る薪になったように感じた。
何となく、ある「予感」があった。もしこの黒い模様が腕から肩へ、さらに肩から心臓へと広がれば、自分という存在に何らかの「変化」が起こるだろう、と。
もしかしたら、その瞬間こそ運命が手の内を明かしてくれる時なのかもしれない。
……
身体を侵されることの他にも、炎によってもたらされたもう一つの厄介事がある。
炎に呑み込まれた者の、「残影」が残ることだ。それは記憶の断片として残ることもあれば、目が眩むほど鮮やかな色として残ることもある。
自ら手にかけた命が増えていくにつれ、アルレッキーノは様々な声を聴くようになった。
絶叫や悲鳴、呪いの声に夢から引きずり出されることもあるが、彼女にとってはとうに慣れたことだ。どうせ普段から夢に見るのは赤い月や荒野ばかりで、未練が残るようなものでもない。
ごく稀に、比較的完全な形を留めた残影が「意識を持った個体」を成して現れることがある。
クリーヴの「残影」のような目立った特徴があるわけではないが、彼らはアルレッキーノの傍に現れ、ほかの雑音を振り払い、しばしの間安らぎを与えてくれる。
ゆらゆらと集まっては離れる残影たちは、まるで戯れる子供たちのようだ。
アルレッキーノは彼らの生前の姿を覚えているが、決してそれらの名前を呼ぶことはない。


キャラクターストーリー5
女皇に謁見し、邪眼とともに「アルレッキーノ」という名を受け継いだあと、若き「召使」はある人物との面会を許された——
統括官「道化」の表情は、顔の半分を覆った仮面に隠されて見えなかった。
「貴様が未だ不満や疑念を抱いていることは知っている。貴様の質問に五つ…世界に関する、或いは貴様自身に関する疑問に答えてやろう。」
「我輩に何らかの保証を求めたり、ファデュイの規則や女皇陛下の理想について問うたりすることについては、この五つに含めない。包み隠さず答えると約束しよう。」
しかし「道化」の示した誠意を、彼女が完全に信じることはなかった。
「では私からも一つ——ごまかしや曖昧な返答、言葉遊びや嘘はやめてくれ。」
「慎重だな…では、貴様が抱いているであろう最初の質問に答えよう。なぜ貴様が選ばれたのか、そして、なぜ貴様が我々の選択を受け入れねばならぬのか——『未熟な者は理想のために死ぬが、成熟した者は成し遂げるために生きる。』——これが答えだ。」
……
「三つ目の質問。私がよく夢で見る赤い月と私が持っている力は一体何だ?」
「我輩はかつて、地下にある古国の最後の王朝に仕えていた。その王朝の名は『黒日』。それより前の王朝は『赤月』だった。貴様が生まれる前の秘密について知りたければ…『恋に落ちたレオブラント』という書籍を求めて読むがいい。我輩が学術に励んでいた頃、その類の本はあまり読まなかったものだが、偶然読む機会に恵まれたのだ。物語自体は虚実入り混じるものだったが、重要な細部においては抜けも誤りもなかった。」
……
「五つ目の質問。すべてが終わったら、私と壁炉の家の子供たちはどうなる?」
「正直に言えば、我輩の理想の中には貴様らの誰も存在しない。我輩はただ『愚者の道義』を実践するのみだ。だがその後については…女皇陛下はきっとすべての者を愛する神に戻ってくださることを保証しよう。彼女の理想のもと、すべての者の願いが叶うだろう。」
「愚者の道義」は曖昧な言葉でごまかしているようにも感じられたが、アルレッキーノはそれらの答えを受け入れることにした。愚者への五つの質問を終えて、視界を覆っていた霧は徐々に晴れていった。
「アルレッキーノ。」
踵を返して立ち去ろうとしたところを「道化」に呼び止められ、アルレッキーノは振り返った。
「世界の真相を究明するよりも、世界がどこへ向かうべきかを考えるべきだ。」
再び背を向けて、歩み始める。響く足音が、返答の代わりであった。


「マレル」
壁炉の家のメンバーは隠密作戦を遂行するとき、安全を確保するため、様々な暗号を定めている。そのうち「マレル」という暗号は「召使」が自ら決めたものだ。
「マレル」とは、フォンテーヌの子供たちがよく遊ぶ遊戯のことである。地面に決まった順番でマスを描いて、マスの中にお手玉を投げ、ルールに従って順番にマスの中と外をジャンプする遊びだ。
いつからこんな遊びが流行り始めたのか、誰がルールを作ったのかは分からない。しかし壁炉の家の幼い子供たちは皆、年上の子から「マレル」を教わり、共に遊んだ。
軽やかなジャンプ、明るい笑い声…子供たちにとって「マレル」の記憶は、太陽のように輝く思い出に結びつくものだ。
だから、その暗号の意味を「安心」にすべきか、それとも「危険」にすべきか「お父様」が迷った時、子供たちは不思議でならなかった。
かつての壁炉の家では、マレルは遊びと言えるようなものではなかったことを、今は誰も知らなかったのである。
当時、子供たちは大人の監視下で、地面に描かれたマスに次々と飛び込ませられた。マスからはみ出してはならず、飛び込むリズムを乱してはならない。
失敗した先にどんな罰が待っているかは、尋ねるまでもない——マスの外側にびっしり聳え立つ、尖った刃がその答えだ。
バランスを崩す者、体力が追いつかない者、恐怖のあまり踏み外してしまう者…多くの子供たちがマスの外側に倒れていった。深紅に染まった地面は、沈痛な過去を物語っていた…
あの頃は「マレル」と聞いただけでみな顔を蒼くしたものだ。「安心」などという言葉を連想する人など誰一人いなかったであろう。
だが、しばらく考えた後、アルレッキーノは「安心」のほうを選んだ。
今の子供たちにとって、マレルは「危険」とはまったく関係ない、笑顔を連想させる遊びだ。
ならば、つらい記憶は彼女の心だけに留めておこう。過去の血や塵など振り払って、子供たちにはもっと明るい未来を見せるべきだろう。


神の目
アルレッキーノの力は様々なところに由来する。
彼女の体内で燃え盛る古の凶月血炎。その高貴な血筋は呪いであると同時に、天賦の才でもある——これが、彼女に与えられた最初の力だ。
また、慈悲深き女皇が彼女の母殺しの罪を赦し、授けた邪眼——女皇に認められた証でもあるこれは、彼女に与えられた三つ目の力だ。
そして一つ目と三つ目の間、まだ彼女が「ペルヴェーレ」という名だった頃に、彼女は神の目を授かった。
クリーヴがまだ生きていた頃、ペルヴェーレは彼女に「お母様」を暗殺する計画を持ちかけたことがある。しかし、自信がなかったのか、或いは肉親の情に縛られてか、クリーヴは応じなかった。
冷たい刃に身体を貫かれ、クリーヴの運命は終わりを迎えた。しかし少なくとも死を迎えるその瞬間、自由を手に入れた彼女は幸せだった。
一方、生き残ったペルヴェーレの運命の歯車は、動き始めたばかりであった。
「王」を選抜する実験は終わったが、「お母様」の野心は留まる気配がなかった。
ペルヴェーレは、一度投げ出された計画を独り完遂すると決めた。
その日から、彼女は粛々と「お母様」との力の差を計算し始めた。彼女の武術は「お母様」から教わったもので、その血筋に宿る力も「お母様」はすべて把握していた。
子供の中では抜きん出た「王」とはいえ、大人からすればただの雛鳥に過ぎなかったはずだ。
しかし、どんな逆境も彼女を諦めさせることはなかった。
度重なる戦いで満身創痍になっても、まだ完全に制御できない凶月血炎が腕を真っ黒に染めても、彼女はただひたすら実力を磨き続けた。
そんなある日、冴えた月明かりが差し込む夜…何の前触れもなく、目の前に神の目が現れた。
真円の神の目は月とぴったり重なって、玉のごとく透き通ったそれは眩しい月を赤く染めた——
それは彼女の願いに応えたのだろうか?それとも、夜もなく昼もなく、何百回と考え続けてきたことがついに実を結んだに過ぎないのだろうか?
どのみち答えは得られまいし、その問いに彼女自身も、さしてこだわる気はなかった。
アルレッキーノはただ、静かに神の目を心臓に一番近いところに隠し、「お母様」に小さな「サプライズ」を用意した。
ファデュイ執行官、アルレッキーノは、如何なる神にも頭を垂れることはないが、七神制度を象徴するこの神の目だけは大切に保管している。
それは彼女が運命に抗い、自らの未来を切り開いた証だからである。

アンバー

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キャラクター詳細
アンバーは西風騎士団の偵察騎士、偵察騎士がすでに没落した今の代でも、彼女は一人でその職務を全うしている。
初めてモンドに来た人でも、3日しないうちにこの炎のように熱い少女と打ち解けられる。
どんなありえない場所にも、たとえそれが「鹿狩り」の看板の前、シードル湖の岸辺、風立ちの地のオークの木の上、この機敏な赤い騎士はその足跡を残した。
そのため、彼女が目をつけた「不審者は」彼女の質問から逃れることはできない。


キャラクターストーリー1
幼い頃から、アンバーはずっとパワーと元気に満ちている。
燃える炎のようなパワーを持つ彼女は、風のように素早く動き、目の前の困難を解決する。
しかし、溢れるパワーは時折、彼女を思わぬトラブルメーカーにしてしまう。
幼い頃のアンバーは、このせいでいくつもトラブルを起こした。鳥の卵を取り出そうとして、うっかりその巣を祖父の頭に落としたり、草スライムの葉っぱに火をつけ、暴れたスライムが狩人たちを驚かせたり、様々な問題を起こした。
しかし、トラブルを起こしたアンバーは、いつも素早く現場から逃げ去り、べテランの偵察騎士でも彼女に追いつけないほどだった。
アンバーがトラブルを起こす度に、彼女の祖父はいつも何も言わずに、彼女のやらかしたことを片付けるのだ。
この言葉のない気遣いを、アンバーはいつもばつ悪そうに笑いながら、受け入れていた。
祖父が騎士団を去るあの日まで、アンバーは祖父が担ってきた「責任」を知らなかった。


キャラクターストーリー2
アンバーの祖父は璃月港から来た傭兵の首領で、大陸を跨るキャラバン隊の護衛を担当していた。ある運搬任務で、キャラバンが巨大な魔物に襲われ、彼一人だけが西風騎士団の医師に助けられた。
故郷に戻る顔がないと思ったアンバーの祖父は恩返しのため、そのまま西風騎士団に加入した。
彼は騎士団のために偵察騎士小隊を作り、自ら騎士たちを訓練し、引率していった。
やがて、彼はこの土地で最愛の人と出会い、自分の家庭を作った。
時が経ち、幼いアンバーは偵察騎士を訓練する祖父の姿を眺めていた。朝になると木に登って、騎士たちの訓練を見て、夕方になるとこっそりと見たことを庭で復習する。
もちろん、アンバーの祖父はそれを知っており、自分の経験やコツを好奇心旺盛な賢い孫娘に教えた。
「モンドが私を受け入れたから、わたしはこの土地を守ることにした。いつか、お前も責任を背負う日が来る…かもしれないな」
頭をなでる祖父の手のぬくもりを感じながら、彼女は力強く頷いた。


キャラクターストーリー3
4年前の出来事をきっかけに、アンバーは大きく変わった。
あの日、彼女の祖父は騎士紋章と剣を騎士団に残し、何も言わずに去っていった。手紙も何もなかった。
元々、祖父に頼りっきりだった偵察騎士小隊は、支柱を失い散り散りとなった。
収穫のない任務を数回経た後、偵察騎士の存在感はますます薄くなった。小隊の制度は保てていたが、実際はすでに壊滅的な状況であった。
経験豊富な騎士たちは別の隊に異動するか、騎士を辞めて家に帰った。「偵察騎士小隊」のメンバーはどんどん少なくなり、日常の見回り任務もこなせなくなった。
更に悪いことに、去った祖父を「反逆者」だと考える人がいた。それにより、偵察騎士の評判はますます下がった。
当時、偵察騎士になったばかりのアンバーは、小隊の崩壊を目の当たりにし、初めて落胆と悔しさを味わった。早く一人前になりたい、本物の偵察騎士になりたいと彼女は願った。
きちんとした計画も、熟練の技もないが、彼女には自信と勇気がある。
彼女は偵察騎士を受け継ぎ、祖父の行き先を調べたいと思った。
そして何より大切なのは、祖父の責任を受け継ぎ、この土地を守ることだった。


キャラクターストーリー4
アンバーの騎士団での生活は、最初からうまくいっていたわけではなかった。
幼い上、祖父が行方不明になったばかりのアンバーは、よくベテラン騎士たちの世話になった。
しかし、この強がりな少女にとって「世話される」ことは、自分がまだ半人前だということを意味する。
こうして、少女は自分自身に与えた責任を背負い、先輩たちに見守られる中、真剣に職務を行った。
やがて、ある魔物殲滅の戦闘で、先輩たちはアンバーの勇敢さと機敏さを目の当たりにした。
彼らはその時初めて、目の前の「少し腕の立つ女の子」が成長したことに気づいた。
しかし、沈黙や気遣い、そして皮肉に対し、アンバーの返事はいつも同じだ――
「先輩たちと比べてまだまだ経験が足りないけど、わたしは最も優秀な偵察騎士になるから!」
落ち込みも迷いもなく、彼女は自分の思いを素直に、率直に話した。
彼女は祖父の願いを絶対に裏切らないと、強く誓っていた。


キャラクターストーリー5
今のアンバーは依然、炎のような少女であり、果てしない情熱とパワーが燃え盛っている。
守られていた子供時代から成長し、祖父の教えを胸に、アンバーは今日も風に乗り、鷹のような鋭い目とウサギのような機敏さでモンドの自由を守っている。
「炎のような赤い騎士」は、モンドの誰もが知っている。
人々はあのやんちゃなアンバーが、頼れる守護者になることを喜んで見守っている。
「心配しないで、わたしは偵察騎士アンバーよ!」彼女の誇りは揺らがない。
「わたしは唯一で、一番優秀な偵察騎士アンバー!」


アンバーの冒険ノート
アンバーは、毎日日記を書く習慣がない。特別なことがあった日だけがこの冒険日記の出番である。
「今日は魔鳥を捕まえた!名前はラミなんだっけ。ここ3日はずっと追っていたから、今日はやっとちゃんとご飯を食べるようになったよ。魔鳥はずるいよ、茂る森に隠れていたの。でもわたしは諦めなかった!それとジンさんはご褒美として特別にわたしに一枚の羽根をくれたの!これからは毎日腰につけるんだ、へへっ!」
「レシピ通りに6分焼いたのに、なんで表面が焦げたんだろう、でも中身は火が通ってない…火加減のコントロールに失敗しちゃったわけ?でもお腹が空いたから、明日もう一度やってみよう。いつか世界一美味しい焼き肉を作ってみせる!よし、決めた!名前は、偵察騎士ステーキ!」
「今日は変な異邦人と出会った。最初は怪しい人だと思ったが、意外とすごくて頼もしい人だった。えっと…でももしそのようなすごい人が悪い人だったら困るね。あっ、ダメダメ、負けてたまるか!わたしも頑張らないと!!」


神の目
祖父の跡を継げば、祖父がモンドを離れた真相にたどり着けるとアンバーは信じていた。
だが、正式な偵察騎士になっても、彼女は祖父が別れを告げずにモンドを離れた真相を、明かすことができなかった。
祖父がアンバーに残したものはなかった。アンバーは自ら道を切り開くしかなかった。
あの日まで、アンバーは迷っていた。彼女が、その後自分の宝物となる寓話の本を開く日まで。
「大事なのは、強き風ではなく勇気だ。それが君たちをこの世界で初めて飛ぶ鳥にした」
アンバーは気づいた。誰かの導きを待つのではなく、自分が勇気を持つ鳥になり、空へ羽ばたくべきだと。
「わたししかやらない」ことがきっとある。「わたしにしかできない」こともきっとある。
そのことを悟った瞬間、「神の目」がアンバーの腰に現れ、光を放った。

アーロイ

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キャラクター詳細
異端者、機械狩人、探究者、申し子、救世主…元の世界では多くの身分を持っていたアーロイは、その「遺伝子」から、世界を救うことを宿命づけられていた。
しかし今、彼女は新しい世界に来て、かつてないほどの困難に直面し、狩りの旅に身を投じることに喜びを感じた。


キャラクターストーリー1
アーロイは生まれた時から異端者だ。部族から拒絶され、敬遠されていた。
彼女は、部族に隣接する危険な山の中で、経験豊富な狩人であるロストの手によって育てられた。
ロストは彼女に猫のようなフォームと致命的な精度を持つ狩りの方法を教えた。しかし、彼は最も重要なこと、つまり彼女の出身を伝えることが出来なかったのだ。彼女の両親はいったい誰なのか?なぜ彼女は追い出されたのか?
残念ながら、その理由は彼女を追放した部族の族長にしか分からない。


キャラクターストーリー2
アーロイの両親を知るには、一つだけ方法があった。それは部族に年に一度開かれる狩猟大会「試練」で優勝することだ。優勝者は自由に報酬を要求することができる。
この日のために、物心ついた時から一生懸命練習してきたが、いざ本番になると、その儀式は悲劇に終わってしまう。
謎の刺客が参加者であるハンターたちを襲撃した。そしてロストの犠牲によって、アーロイは脱出することができたのだ。
その後、アーロイは自分が真の標的であることを知る。何故ならアーロイは、謎めいた古代から訪れし女性と、そっくりな顔をしていたからだ。


キャラクターストーリー3
アーロイは理解していた。自分の出身を知るためには、その犯人を見つけなければならないということを。
探し求めた結果、彼女は想像をはるかに超えた荒々しく危険な世界に入り込み、奇妙で強力な部族、謎めいた古代遺跡、恐ろしい敵が彼女の前に現れたーーそれは人間か、それとも機械なのか。
最後に彼女の前に現れたのは、真の敵「ハデス」だった。それは悪意に満ちた人工知能で、世界からすべての生命を浄化しようとするものだった。
「ハデス」を倒す方法はただ一つ。それは彼女とあの古代の女性との繋がりを調べること。過去に存在していたアーロイ…それは、アーロイの母親だったのだろうか?


キャラクターストーリー4
「ハデス」の痕跡をたどり、アーロイは数々の古代遺跡を訪れ、ついに自分の起源を発見した。そして自分は人間の血肉から生まれたのではなく、クローンで作られたものだという衝撃的な事実を知った。
千年前に命を救った女性の遺伝子が、彼女のオリジナルだった。
このような秘密は、彼女に生来の力を与えるだけでなく、彼女の運命を導くものでもあった。これらの遺伝物質は、終末の日が再び来るのを防ぐための要なのだ。
この知識と、各部族からの盟友の助けを得たアーロイは「メリディアン」での壮大な決闘で、「ハデス」とその悪党や機械の手下を倒した。


キャラクターストーリー5
「ハデス」を倒したアーロイは、「ハデス」が踏みにじった土地の浄化を目的として、そして古代の技術を追求する新たな旅に出た。
その長い旅の中で、アーロイは「古のもの」の秘密を求めてあらゆる「古の遺跡」を訪れた。
崩れかけた古代の研究所で、彼女は見たことのないものを発見する。それは、きらめくポータルだ。それに近づくと強力なエネルギーに包まれ、その中に鏡を覗き込むように自分の姿が見え、同時に二つの次元にいるような不思議な感覚に襲われた。
閃光とともに、アーロイが知っていた「世界」は完全に消え、彼女は奇妙な美しき新世界にいることに気づいたのだ。

夜蘭

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キャラクター詳細
璃月総務司の仕事は透明性が高い。上は玉京台の高官から、下は八門の末端従業員まで、全員の基本情報が政務名簿に載っている。
しかし唯一の例外は、総務司所属を自称する夜蘭だ。ほとんどの同僚は、彼女の名前すら聞いたことがなく、名簿にもそのような人物は載っていない。
その点は、神出鬼没、変幻自在な夜蘭らしいと言えるだろう。
彼女は幽霊のように、様々な姿であらゆる事件の中心に現れ、嵐が止む前に姿を消してしまうことが多い。
時折、一方の勢力が彼女の支援を受け、いい気になったりするのだが、そんな時は必ずもう一方の勢力にも同様の支援がなされる。
彼女にしてやられた者は、みな怒りに駆られるが、それでも、彼女の意図や立場を見抜けた者は誰一人いない。
中には、こう考える者もいる──彼女は謎の勢力のスパイで、波乱を煽り立て、利益を得ることに長けているのだと。
さらには、彼女はどこの組織にも属さず、明確な目的も持たない、ただのいかれた無法者だと断定する者までいるほどだ。
たとえ所属する組織や目的があったとしても、彼女はただ水をより濁らせ、火に油を注ぎ、すべての者を自身の創造した狂気の世界に引きずり込もうとしているのだろう。
こうした様々な憶測が飛び交う中、彼女に関することはやがてすべてが謎に包まれていった。真実を知るには、おそらく夜蘭本人に聞くしかないだろう。
ただ残念ながら、それすらも容易なことではない。なぜなら、彼女が誰かに会うと自ら決めるまでは、何人も彼女を永遠に見つけられないからだ。


キャラクターストーリー1
璃月港の薬屋には、時折奇妙なケガ人が訪れる。
ある時はスメールの傭兵、ある時はフォンテーヌの冒険者、またある時は不注意で水に落ち、岩に頭をぶつけたと言うモンドの釣り人…
これらの人々は年齢も身分も異なり、それぞれ遠く離れた場所から来るが、いずれもーー痛みを求める少し変わった癖を持っているらしい。
その者たちはあざを押したときの痛みや、傷口に薬草を塗るときの痛みを好む。
中には、強い痛みを伴う治療であっても、麻酔の有無を気にしない人までいるほどだ。
新人の薬剤師の多くは、その負傷者たちの並外れた忍耐力に気を引かれ、それらの者たちがみな同一人物であることに気づかない。
そう、上述した人物たちはいずれも、変装した夜蘭なのである。優れた変装の技を用いて、彼女は常に人目を忍ぶ。
体に出来た生傷は当然、相次ぐ危険な行動によるものだ。
珍しい仕事をしているとはいえ、夜蘭はこの世界にさほど興味がない。
もちろん常人のように食事も睡眠も取るが、心の底から彼女の興味を惹くような物事はほとんど存在しないのだ。
立ち回りが上手いのは人をからかうためではないし、書物を広く読むのも、本が好きだからというわけではない。
様々な場所を渡り歩き、数々の国へ行ったことがあるが、遠出や旅そのものに興味はない。
夜蘭からすれば、成し遂げなければならない物事は、趣味とは言えないのだ。
そのせいか時折、どんな暇つぶしをするかさえもサイコロで決めることがある。
彼女はまるで、辛いものに舌が慣れてしまい、普通の食事では満足できなくなった辛党と同じだ。
「平淡なときは無頓着、激烈しいときは明晰に」
そのような理念のもと、彼女はより過酷な生き方を選び、身を潜めながら各地を旅している。
危険、秘密、そして強い達成感…それらと共に行動することで、初めて彼女は自身の存在を深く実感できるのだ。


キャラクターストーリー2
すべての仮面を脱いだ裏にある夜蘭の正体は、天権凝光直属の特別情報官だ。
ただし、単に情報官と称するのは、些か正確さに欠けるかもしれない。なぜならこれはあくまでも彼女の仕事を描写するだけの言葉であり、彼女と天権の関係性までは表せないからだ。
夜蘭は自分が誰かの部下であるとは心底思っていない。彼女と凝光の協力関係は、上下関係と言うよりは交渉…あるいは、ある種の「契約」と言ったほうが正しいだろう。
夜蘭は凝光のために、危険の花に実る情報という果実をもたらすことができる。しかし彼女がその見返りに求めるものは、危険そのものと達成感だけだ。
この協力関係がいかにして結ばれたのか、知る者はいない。
唯一確かなことは、夜蘭の足跡がとっくに璃月の外にまで及んでいるということ。
テイワット大陸にある他の国から、さらには危険に満ちたアビスまで…
謎深き危険な洞窟はすべて、満開の蘭の花園になり得る。
天星が語る場所には、常に幽客が巡遊しているのだ。


キャラクターストーリー3
夜蘭はしばしば層岩巨淵一帯を巡廻し、最深部の暗闇を凝視する。
彼女は古い家系の生まれで、祖先はかつてこの地の巨大な災厄に抗った。
その一戦では無数の民の血が流れ、さらには仙衆夜叉でさえ、その地に骨を埋めたほどだった。苦しい戦いの後、生存していた者はほとんどいない。
二人いた夜蘭の祖先も、一人は亡くなり、生き残ったもう一人も精神に異常をきたしてしまった。このことが、夜蘭の一族に影を落としたのだ。
当時何が起こったのか、夜蘭はずっと知りたがっていた。近づいてはならないと理性が告げていても、体はしきりに引き寄せられていく。
まるで体を流れる血の中で、得体の知れない何かが彼女を巨淵へ誘っているかのようだった。
あるいはいつか、彼女もその暗闇に堕ちるのだろうか?当時祖先の身に纏わりついた災厄は、彼女の身にも降りかかるのだろうか。
おそらく、これが自分の奇怪な性格の原因だろうと夜蘭は思う。血筋に潜む未知なるものが、自分に恐怖を感じさせず、また危険を渇望するのだろう。
彼女はずっとそう考えていた…成年に達し、層岩巨淵の封印が解除されるあの日まで。
そのとき、多くの仲間の助けにより、祖先に何が起こったのかが目の前にはっきりと映し出された。
あれは、分水嶺とも言える瞬間だった――
以前の彼女は、ただ危険に引き寄せられる本能から暗闇に足を踏み入れる獣であった。
彼女が真にその本能の意味を知ったのは、その後だ。
彼女の血に潜み、絶えず彼女を呼び続け、憂慮をもたらしながらも、彼女を導いたもの。
その正体は、五百年もの長きに渡って叫び続けた英雄の血であったのだ。
恐れないのは、その勇気が彼女を強くするが故。危険を渇望するのは、英雄の血が平凡を望まないが故。
いつの日か、彼女は祖先と同じ道を歩むのだろう。
彼女は英雄の末裔であり、彼女もまた、後世の英雄となるのだから。


キャラクターストーリー4
総務司には、特別重視名簿というものがある。
掲載されている人物の数は多くないが、いずれも実力の侮れない強者だ――
比類なき威容を誇る武装船隊の長、優秀で万能な異郷の旅人。
さらには、世を退いてもなお名声高き、仙人の名までが含まれている…
これらの者はみな、たとえその意図がなくとも、簡単に璃月の情勢を変えられる力を持っている。
そのため万が一に備えて、総務司は今でも彼らに目を光らせているのだ。
また、この名簿とは別に、より機密レベルの高い秘密情報名簿というものも存在している。
その名簿に載っている人物こそ、正真正銘璃月に危険をもたらす可能性のある者たちだ。
一体、どのような名前が載っているのだろうか?
ファデュイの執行官?あるいは謎深きアビスの勢力?
あるいは、神の名さえも登録されているのだろうか?
七星以外でこの質問に答えられるのは、おそらく夜蘭だけだろう。なぜなら彼女こそが、この二つの名簿の編集をしている者だからだ。
この仕事の成果は彼女に愉悦感をもたらしてくれる。まるで鴉が毎日キラキラの宝物を巣に運ぶかのように、彼女は日々名簿の完成に向けて動く。
だが、この二つの収集癖には違いがある。鴉は翼をはためかせるだけで収集を達成できるが、夜蘭は収集のコストとして、血と汗を支払わねばならないのだ。
しかし幸い、このことにおいて彼女はまったくコストを気にしていない。どれだけの代価を払おうと、情報の価値とは比べ物にならないと考えているからだ。
いつの日か必ず、役に立つときが来る――璃月が五百年前のように、危険に対して無知なまま、災厄のさなかに堕とされることはもう決してないだろう。
彼女がいる限り、璃月が準備不足に陥ることはない。


キャラクターストーリー5
岩上茶室で賽を振ってはならない。
どうしても遊びたいのなら、知り合いと一緒に行ったほうがいいだろう。
もしも見知らぬ女性から誘いを受けた場合は、絶対に無視するように。
これは、界隈の者からの忠告だ。
良い一日に別れを告げたいのでなければ、その恐ろしい女性と勝負してはならない。
その茶室の常勝将軍こそ、夜蘭のことである。岩上茶室の主――これが彼女のもう一つの身分だ。
彼女が異国から戻ってきたとき、ちょうど璃月は渦の魔神がもたらした危機のさなかにあった。そしてその一件が過ぎた後、岩上茶室を占拠していたファデュイがすべて追放されたのだ。
この機に乗じて夜蘭は岩上茶室を引き継ぎ、そこを秘密の事務所に改造した。
理由は二つ。まず、茶室には様々な者が訪れ、格好の情報源となり得るから。もう一つは、たまには一息ついて常連のふりをしながら茶を飲み、賽遊びをするのも悪くないと考えたからだ。
危険の本質は変数にある。夜蘭からすれば、賽を振って遊ぶことも同じだ。
宴席ではジャンケンでさえもが小さな冒険となり、賭け事をすればスリルを味わうことができる。どんな些細な挑戦にも、彼女は決して飽きることがない。
一人の情報屋として、彼女は自身の腕に自信を持っている。相手の目から情報を読み取ることができるし、必要なときには軽く手首を振るだけで、ルール顔負けの目を好きに出せるのだ。
もしも勝負が引き分けになれば、それが意味することは一つ――相手がイカサマをしているということ。
道理を説くべきではない。岩上茶室に道理などなく、あの女は尚更持ち合わせていないのだから。
故におとなしく、「敗北」か「イカサマ」か、一つ選ぶといい。
どちらも選びたくない?ならば初めに戻るだけだ。
――岩上茶室で賽を振ってはならない。


幽奇なる腕輪と白き肩掛け
これまでの情報屋人生において、夜蘭には失敗と成功を兼ね備えた、記憶に残すべき特殊な経験がある。
失敗は、その任務において、「幽奇の腕輪」と呼ばれる先祖代々の腕輪を失くしてしまったこと。
腕輪には一族の術法が刻まれており、簡単な情報伝達に使うことができた。しかしこういった小型法器は二つを一組として使う必要があり、一つしか残っていない今ではただの飾りでしかない。
成功は、相手が彼女から何も得られなかったこと。その相手は、決して小者ではなかった。現ファデュイ執行官第九位――「富者」。
「富者」が密かに敷いた貿易ルートは夜蘭の侵入を受け、貨物は足止めされた。その上、最も貴重な品が腕輪の代償と称し夜蘭に奪われてしまった。
――古く、その毛皮から作られたコートに多大な価値を持つ魔獣がいた。しかしそれはかなり希少な品で、市場には存在しなかった。
魔獣の力は強大であり、数百年前に死を迎えたにも関わらず、未だ遺骨や残骸は腐ることなく、毛皮も香り立つようであった。
女皇へ贈るはずだったそれが、夜蘭に横取りされてしまったのだ。
それだけでなく、スネージナヤの人々が陛下のために心を込めて厳選した様式までもが、夜蘭によって否定されてしまった。
彼女は獣の皮を剥ぐと、璃月の苧麻と組み合わせ、新しく袖付きの肩掛けを自作した。
大きいとも小さいとも言える一連の事件は、二文字で表すことができる――得失。
何かを得て、失う。何かを失い、得る。それはまるで、夜蘭の人生のようだ。
しかし彼女はそんなことは気にもせず、ただそれを楽しんでいた。


神の目
夜蘭は元より単独行動をしていたわけではない。かつては彼女のそばにも、水魚の交わりと称せるような同僚がいた。
様々な理由から、夜蘭と共に暗闇の中へ潜入することを選んだ者たちが少なからずいたのだ。
しかし当時の夜蘭は、まだはっきりと見極められていなかった――詭計、囮、罠…彼女の得意とするこれらのことだけでは、すべてに対応できないかもしれないことを。
自制心の強い敵は囮に食いつかず、狡猾な敵は策謀にはまらず、驚異的な力を持つ敵は罠に落ちない。
その結果、彼らは代価を支払うことになったのだ。この道を選んだ彼ら自身が、とっくに覚悟を決めていたとはいえ…一人、また一人と同僚たちは少しずつ数を減らしていった。
そして、あるアビスの調査任務が終わるのを境に、ついに夜蘭の傍らには誰もいなくなってしまった。そこで彼女は進むのをやめ、長い間足を止めた。
ある日、凝光が直々に彼女の仮住まいである小屋を訪ねた。
「長いこと璃月港に戻ってきていないわね。きっと何かあったのでしょう?ここでやめても、理解に苦しみはしないわ。」
小屋の外に立つ凝光は、表情こそ安らかではなかったが、それでもいつも通りの口調で話をした。
「別に構わないわよ、私は使う者を疑わない。あなたはきっと、ここで道を探っているのだと信じているわ。退路も進路も、どちらも道よ。」
小屋は依然として静寂に包まれ、返事はない。随分と時間が経った頃、凝光は背後からの声を聞いた――
「お互い、間違いを犯していたのよ。私たちがしていることに、常人を巻き込むべきではなかった。」
「常人?」
凝光が思い耽ったと同時に、青い光が空中を突き破り、凝光の後ろで止まった。
極めて繊細に制御された矢は、瞬く間に珠玉のような水滴となって砕け散り、地面に降り注ぐ前にきらきらと輝く光の破片になった。
凝光が振り返ると、遠くからこちらへ近づく夜蘭の姿があった。彼女は手に弓を持ち、指先からは血が滴り落ちていた。
射手の十指に見える血は、全力を尽くし、日夜研鑽を積んだ証拠。
凝光には分かっていた。夜蘭の性格からして、きっと常人を越える挫折を味わい、常人を越える決断をしたが故に、再び武術の修行に励む道を選んだのだということを。
凝光に応えるかのように、夜蘭は遠くの山へ向かって弓を構えた。
放たれた矢はまるで白虹のように、そして飛翔する雷光のように、空を貫いた。その瞬間、山間の泉がせわしくうねり、まるで見えない力に呼び出されたかのように、いくつもの水の矢となって上空に舞い上がった。
何本もの矢が交差しながら空中で凝集し、夏の夜に降る驟雨のように、一瞬で水の幕を下ろした。
やがて空が晴れたとき、そこには蝶も虹もなく、ただ一筋の淡い光の柱が夜蘭の手に降り注いでいた。
凝光によると、その「神の目」はまるで――「これからは、この常人ではない夜蘭にすべてを任せよ」と告げていたようだったという。

ウェンティ

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キャラクター詳細
正体不明の吟遊詩人。古い詩を歌うときもあれば、誰も聞いたことのない新しい歌を口ずさむときもある。
リンゴと賑やかな雰囲気が大好きで、チーズとべたべたするものが大嫌い
「風」元素を導く時、元素が羽根の形になることが多いのは、彼がふわふわしたものを気に入っているから。


キャラクターストーリー1
モンドに来てからまだ数ヶ月しか経っていない吟遊詩人ウェンティの収入は、同業者と比べて少ないほうだった。「仕事」の後、地面に置いた帽子の中のモラが十分に溜まると、彼は慌ただしくその場を離れる。そして、その目的地はモンドの酒場である。
しかし、ウェンティは見た目のせいでいつも未成年だと間違えられてしまい、ほぼ毎回酒を売ってもらえなかった。
初めて断られた時は、「前回モンドに来た時は、そういうルールはなかった」と文句を言ったが、ノンアルコールの飲み物しか出してくれないことに気付いた時、このままではいけないと彼は思った。
そして、ウェンティはライアーを弾きながら、コップをくわえて酒を飲むというパフォーマンスを思いついた。吟遊詩人の「仕事」をしている時、彼は観客に金を酒に替えてほしいとお願いする。彼の曲を気に入ったなら、酒場でいい酒を買って奢ってほしいと。
このパフォーマンスを始めてからは、ウェンティはモンドで水を得た魚のように、素敵な暮らしができるようになった。
唯一彼を悩ませたのは、猫が近くにいると、くしゃみが止まらなくなることだ。それがコップをくわえている時ともなれば、現場の状況は最悪だ。
そのため、ウェンティは、いつも猫のいない場所を「仕事」場に選ぶ。
しかし、なぜか彼は、猫にかなり好かれているようだ。


キャラクターストーリー2
風立ちの地の中心にある巨大なオークの木は、千年前にモンドを解放した英雄ヴァネッサが、高天に上った時に芽生えたものだそうだ。
ここ数ヶ月、木の下で休む人々は時折、風神バルバトスの物語を紡ぐ少年の歌声を聴くようになった。
神がまだいる他の国とは違い、モンドはバルバトスが去ってからかなりの時が経ち、残っているのは「七天神像」の姿だけだ。それでも、神の歴史は史書や聖典に書かれ、吟遊詩人たちに歌われる。
しかし、ウェンティが歌う「バルバトス」は、なぜか変わった冒険ばかりしていた。たとえば、氷の神の杖を盗み、代わりにヒルチャールの棒をその場に置くなど。
当然、風神を信奉する聖職者たちは、その詩に不満を抱くわけだが、問い詰められたウェンティの答えには、反省の色が少しも感じられない。
「どうしてそれが嘘だと分かるのかい?」
確かに、一番敬虔なシスターでも、バルバトスの千年前の出来事を全て知っているわけではない。不敵な笑みを見せたウェンティだけが、その歌の真偽を知っている――
うん、嘘だよ。酔っぱらって適当に歌っただけさ。


キャラクターストーリー3
今から約2600年前、魔神戦争はまだ続いており、世界は七神の統治下に置かれていなかった。
当時の「モンド」と呼ばれた都市は暴風に包まれ、鳥一羽も通さなかった。狂風は鳴り止まず、城内の土地と岩を水のように粉々にした。
高塔の上に君臨する風の君王は「竜巻の魔神」デカラビアン。狂風に吹かれ跪いている臣民を睥睨し、それ*光景を従順と捉えた彼は、満足していた。
当時のウェンティは、北境の大地で咆哮する千風のうちの一つであった。
後世に「バルバトス」と称される彼は、その時は魔でも神でもなく、風の中に流れる微小な元素精霊で、「小さな転機と希望をもたらす風」であった。
かつてのモンドで、ウェンティはある少年と出会った。少年はライアーが得意で、一番美しい詩を書くことを目標としていた。
「僕は、鳥が自由に空を飛ぶ姿が見たいな」
風の壁の中に生まれ、青空と鷹、緑の草原を見たことのない少年は言った。狂風の音は彼の声をほとんど覆い隠した。
「友よ、一緒に見に行かない?」


キャラクターストーリー4
風の城に生まれ、空を飛ぶ鳥を見たことがない少年のために、元素精霊ウェンティは鷹の羽根を集めた。
その後、モンドでは「自由」を追い求める戦争が勃発した。
ウェンティが持っていた羽根は、彼と共に反抗の戦いで孤高なる君王が死没するのを見届けた。
かつて、君王は臣民に苦しみのない温かい住処を提供した。死の直前までに、自分が臣民を愛するように、自分は臣民に愛されていると君王は思っていた。
勝利を手に入れたが、ウェンティがこの羽根を少年に渡せる日は来なかった。少年は抗争の中で、詩歌と青空、空を飛ぶ鳥、そして同じ風の壁の中に生まれた同士とのために、戦死してしまったから。
古い神の座が崩れ、新たな神が誕生した。風神バルバトスは、指先に流れる力を感じた。
この力の最初の使い道は、少年の身体を*姿を借り、自分の形を作ることだった。
――人の身体がないと、少年が大好きだったライアーをきちんと演奏できないからだ。
ライアーを奏で、神の風で氷雪を吹き散らし、山を一刀両断する。
新たなモンドを、自由の地にしよう、王のいない国にしよう。
そしていつか、とても素敵でロマン溢れる国になるはず…
「彼もきっとそんな場所で暮らしたいよね」
こうして、「新モンド」の幕が上がった。


キャラクターストーリー5
モンドの全てが、風神のお陰であるわけではない。
君のために、今ここで万物を讃える歌を奏でよう――
西風に感謝を、
春の花がこんなに美しく咲いている。

ヤマガラ、アヒル、ウサギ、それとイノシシ、
モンドが蘇り、万物が育つ。
夏はライオンが野原を歩み、
僕は褒めたいけど、歌詞が思いつかないな。
もっと汗を流して、冷えたお酒を飲んだほうがよくない?
こんなに暑いのは、ライオンの鬣が太陽に見えるから?

山の狭い道や峡谷は、歩いている酔っ払いのように見える。
どうせ東風は歩かずに飛ぶから問題ないさ。
果樹と同じぐらいの高さで飛び、
翼は収穫と果物の香りがついている。

北風は森で静かに眠っている。
本来なら、彼のそばには狼の群れがついているはずだ。
だが、彼らを見た者は誰もいない。何故かというと、狼の群れは冬が苦手だと北風は知ってるからだ。
自分の夢の中には、きっと温かい思いがあると風神も分かっている。

――四季が終わり、四風は吹き止まない
まあ、当然ながらこれは彼らのお陰じゃなくて、ほとんどこのボクのお陰だよ。
だって吟遊詩人がいないと、それを唄う人がいなくなるよね?


「風上の密約」
モンドができてから1600年後、今から1000年前、モンドの「自由」はかつてないほどのどん底までに落ちていた。
バルバトスは己が暴君にならないよう、モンドを去った。彼は想像もしなかった。自由を授かった人の中から「人」の暴君が生まれるとは。
貴族による残虐統治がモンドに蔓延り、貴族は民の声を無視し奴隷制度を導入した。
1600年後、風神は再び「自由の都」に戻った。神は奴隷の少女ヴァネッサの願いに応えた。神と少女は共に貴族による統治を転覆させた。
──以上のことは、現在の人なら皆知っているモンドの歴史である。
実は、この歴史の中に面白いエピソードがある。
闘争の中でモンドの民をまとめたのはヴァネッサであった。そして、貴族の兵士たちを寝返らせたのは「風上の密約」であった。
密約の内容は、売国の取引であった。
上層部の貴族は風を裏切り、モンドの全てを隣国の岩神に売り込んだ。
この密約の最後の部分に、神々にのみ印す事ができる神聖なる印があり、その名は「岩王帝君」とあった。
奴隷を虐げてきた兵士たちは、自分が異国の奴隷になることを想像するだけで恐れた。
戦火が貴族を呑み込むことは、当時の誰もが想像できなかった。数年後、歴史学者はあの密約は偽物であったことを発見する。
──実は、岩神にイタズラをしかけるために、ウェンティは密かに彼のサインを練習していたが、あの富と取引の神を欺くことはついにできなかった。
使い道がなかったとっておきの技を、数百年後にやっと披露できたのだ。
めでたしめでたし。


神の目
「俗世の七執政」は「神の目」に期待していない。彼らはすでに偉力を持っている。
だが、バルバトスは人間の世界が好きで、「ウェンティ」の姿でモンドを気ままに歩くのが好きだった。彼は神に選ばれた者に倣って「神の目」に似ているガラスの珠を作った。
模造品の珠に特別な力はなく、元素力を導き出すこともできない。
だが、天空のライアーはそばになく、またウェンティはわざわざ普通のライアーを腰につけたくないから、ガラスの珠を「フリューリング」に変化する能力を追加した。

雲菫

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キャラクター詳細
「和裕茶館」は、璃月人が仕事終わりによく通う良い店だ。
和裕茶館がこれほど繁盛しているのも、オーナーである範二の経営手腕のおかげであろう――彼が招待した茶博士の講談はまさに一流と言える。
また璃月の有名な劇団「雲翰社」が、和裕茶館に所属している影響も大きい。雲翰社の現座長兼大黒柱――看板役者の雲菫が、時折この舞台に立って演じることもある。
食べ物は美味しく、講談師の物語も秀逸、時期を見計らって行けば楽しめること間違いなしだ。しかし、雲菫の歌を聴ける機会だけは滅多にない。
そのため、雲菫のファンはよく和裕茶館に居座り、雲菫の劇について語ったり、感想を話し合ったりしている。
茶館に足を運ぶ常連客も多くなり、その十人に九人は雲菫のファンだそうだ。
これには範二もかなりのご満悦らしい。


キャラクターストーリー1
璃月人には、先祖から代々受け継がれる伝統芸能が数多くある。璃月劇もその一つだ。
長い歴史を持つ璃月劇は今日に至るまで受け継がれ、現代の役者たちにも歌われている。しかし、最初とは形が大きく変わってしまっているようだ。
それでも、古い璃月劇に見られる複雑な声楽と抑揚に富んだ曲調は、現代の璃月劇にも受け継がれている。
今の璃月役者は劇団で公演することが多い。その中でも一番名が知られているのが「雲翰社」だ。
「雲翰社」は劇を生業とする一族・雲家によって代々受け継がれ、現座長はいま璃月港でもっとも名を馳せている看板役者――雲菫。
雲菫は、幼い頃からその頭角を現している。初舞台で雲菫が響かせたその甘美で澄んだ歌声と、婉美な姿に観客は心を奪われた。
演じる役が増えていくにつれ、彼女の迫真とした、躍動感ある演技も成熟していったという。
艶やかな令嬢、義理堅い女傑、どのような役も彼女は特徴を捉え、見事に演じ分ける。
さらに特筆すべきなのは、彼女が劇の脚本も手がける点だ。『神女劈観』以外にも、「雲翰社」がここ数年で上演した新作は、その大半が雲菫の書いたものである。
なお、雲菫のファンが彼女の劇を鑑賞したくなった時、まず最初に和裕茶館へ公演時間を聞きに行くそうだ。


キャラクターストーリー2
雲菫は璃月劇を演じる一族の出身である。
彼女の母は祖父の跡を継ぎ、昔は璃月港で名の馳せた看板役者だった。そして、父は脚本家である。
このような家系に生まれた雲菫は、幼い頃から両親の影響を受け、母を真似して璃月劇を口ずさむのが好きだった。
普通、子供の頃の趣味を一生の仕事にするのは難しいことだろう。だが、雲菫は例外だ。
幼い雲菫が抱いていた璃月劇への熱意は、ただの遊び心から来るものではなく、自ら両親に指導を懇願するほどのものであった。
娘の積極的な姿に歓喜した両親は、懇切丁寧に指導したという。そうして、幼い雲菫は芝居を習い始めた。
しかし、璃月劇は細部にまでこだわった劇である。本格的に学ぼうとしても、一朝一夕で出来るものではない。
たとえ、雲菫のように聡い子供であっても、芝居の苦しい修行から逃れることは不可能だ。普通の子供であれば柔軟の痛みや、韻書を暗記する退屈な作業に耐えられないだろう。しかし、幼い雲菫はそれらに耐え、見事にこなしていった。
彼女が一人前になった時、「雲翰社」で雲菫の成長を見守ってきた年配の役者たちは、「これから、璃月港にとんでもない役者が誕生するよ。」と言葉を漏らしたという。


キャラクターストーリー3
「雲翰社」には年配の役者が大勢いる。彼らは雲菫の祖父が座長であった頃から、この劇団の一員だった。
雲菫が祖父から「雲翰社」を継いだ後も、彼らは誠意を尽くし、雲菫が劇団を経営するのを手伝っている。
彼らは心から芸術を愛している。しかし、その愛が深すぎるゆえか、彼らにとって璃月劇以外の音楽――例えばロックなどは異質なものであった。
一方、雲菫はそのように思ってはいない。彼女はロックが持つ絶大な力を気に入っている。さらに、彼女はロックミュージシャンの辛炎とも友人になった。
芝居の稽古中、年配の役者たちは雲菫の指示に喜んで従う。だが日常生活では、若い雲菫のことを孫娘のように思っているようだ。
「よしよし、ワシの言うことをちゃんと聞くんじゃよ。辛いものは喉に悪いから、食べてはならん。肉を食べるのはいいが、食べ過ぎては太ってしまう。気をつけるんじゃぞ。」
「何か食べたい時は、エビをたくさん食べるといい。あの、なんといったか…ロック?なんてものは聞いちゃいかん。大声で叫んだりするようなものが、いいものなわけがない。」
雲菫がロックのライブから帰るたび、彼女は小言を聞かされる。
頑固なお年寄りを説得するのは難しいことだ。そのため、雲菫は小言を聞かなくても済むように、言い訳を考えることにした。
辛炎のライブを聞くのは許されないが、範二の養女「星燕」と一緒に璃月劇の話をするのは問題ないようだ。
お年寄りたちはロックを歌う辛炎を好いてはいないが、範二家の星燕にはいい印象を抱いている。
「星燕という娘は、刺繍も料理もできるそうだ。きっと礼儀正しく優雅な子なんじゃろう。この子と親睦を深めたら雲菫の勉強にもなる。うむ、いいことじゃ。」
雲菫は、これを言い訳の口実に利用している。すでに範二とも相談して口裏を合わせているため、この小さな嘘がバレる心配はない。


キャラクターストーリー4
雲菫に様々な呼び名があるのは知っているだろうか。雲座頭と呼ばれたり、雲先生と呼ばれたり、人によって呼び方が変わるのだ。
彼女が雲座頭と呼ばれるのは、雲菫が「雲翰社」の座長だからである。細かなことはマネージャーが処理しているが、重要なことを決めるのは雲菫だ。そのため、商業界では雲菫を雲座頭と呼ぶ者が多い。
一方、雲先生という呼び名には、ある逸話が隠されている。
雲菫の祖父が「雲翰社」を管理していた頃、劇の愛好家たちは彼を尊敬し、雲先生と呼んでいた。そして、雲菫が劇団を受け継いだ後も、その愛好家たちは彼女の劇をよく観に行った。
ある愛好家が雲菫の役者としての実力を見て、公演後に「今の『雲先生』の芝居も悪くないね。」と言った。
すると、人混みの中から反論の声がすぐに上がった――「若い女性にも、先生と呼ばれる資格があるのか?」と。
その話は雲菫の耳にも入った。彼女は微笑みながらこう話したという。
「人より先に生まれた者であれば、年の功があり、見聞も広いことでしょう。先生と呼ばれるのも当然なことです。」
「しかし見聞の広い者が、必ずしも年配の方というわけではありません。それに、女性では見識を備えることができないのでしょうか?」
「あなたは率直に意見を言うお方だ。それに、若い女性がこのような質問に、真摯に答えてくれた。あなたは先生と呼ぶにふさわしい人だと私は思います。」
その場にいた者たちは感銘を受け、この話をよく人に語る。そしてついには、雲菫本人に会ったことがない者も、彼女のことを雲先生と呼ぶようになったのだ。


キャラクターストーリー5
伝統ある璃月劇でよく題材とされるのが、仙人や岩王帝君に関する物語だ。
『神女劈観』などの劇がそれにあたる。人々は仙人に対して、美しい幻想を抱いており、舞台上で仙人たちがどのように表情を変化させるのかを観て楽しんでいる。そのため、璃月劇の大半を占めるのが、こういった物語だ。
子供の頃、これら物語が雲菫の心の琴線に触れた。しかし、仙人の物語をすべて演じきった後、彼女の考えは徐々に変わっていった。
他の題材に変えてみたらどうなるのか?例えば…私たちの物語を演じたら…。
俗世の哀歓を描き、人が持つ愛憎を讃える。
このような凡人の物語は璃月劇の主流ではないが、歌われる価値がないというわけではない。
愛執、貪欲、妄念。人間は美しさ、あるいは悲壮な気持ちの中で心を確立し、魂を味わうもの。
雲菫は仙人ではないため、仙人の立場に身を置いて彼らを理解することはできない。しかし、人の様々な感情ならよく知っている。
「それでは、人自身の物語を歌いましょう。私の筆と喉で、人々の心を歌いたいと思います。」
それは、誰にも言ったことのない、雲菫の心に秘めた夢だ。


長命錠
雲家は元々劇を生業としていたわけではない。かつては武器の鍛造に専念していた一族だ。
だが、先祖の一人が槍や棍を造る意欲をなくし、劇に興味を持つようになった。雲菫の代では、もう鉄を打つ人間はこの家にいない。
しかし、先祖はいくつかの物を残してくれた。雲菫が身につけている錠の形をした銅の飾りもその一つだ。
幼い頃、彼女が身のこなしに関する稽古をしていた時、炎天下で一日中立っていなければならないことがよくあった。だが、その酷な環境と疲労感から、彼女は気を失ってしまった。
両親は雲菫を可愛がっているが、基礎的な稽古を疎かにしてはいけないということも理解している。
そこで、この錠を雲菫の服につけることにした。これで雲菫の運勢を縛り、健康に過ごせるよう祈ったのだ。
大きくなっても、雲菫はこの錠を肌身離さず持っている。公演が始まる前、あのつらくも幸せな日々を思い出そうと、彼女はいつも錠を手に取り丁寧に磨く。
その時の雲菫の優しい表情は、まるで芝居を習っていた頃の幼い自分が抱く、真摯な心を撫でているかのように見える。


神の目
雲菫が舞台に立って間もない頃、大小合わせて数十回の公演を通じて、芝居の要領をその聡い頭ですぐに理解した。
雲菫が舞台に上がれば、必ず観客からの喝采を浴びる。しかし、歌えば歌うほど、これは自分が求める劇ではないと彼女は思うようになった。
舞台上で演技する時、対立が激しくなれば高い声を張り上げ、形勢が不利になれば声を低くしてゆっくりと吟じる。
時が経つにつれ、雲菫には劇の登場人物がすべて似通った顔を持つように見えてきた。
旋律を奏で、優雅に舞い、美しい声を響かせれば、『神女劈観』の神女も『連心珠』の漁家の娘も、そこに大きな違いはない。
観客はそれで心が満たされるかもしれないが、雲菫はそれに満足していなかった。歌唱力と綺麗な身のこなしだけで、本当に人の心を動かす物語が演じられるのだろうか?
その壁を乗り越えるきっかけとなったのが、『歩雪』という劇であった。
それは、雪の中のつらい行脚を題材にした一人芝居である。雲菫が初めて『歩雪』を歌った時、劇と同じように空から細雪が降っていた。
雪の中で方向を見失い、途方に暮れた劇中の人物が嘆く。するといつの間にか、劇の中にある風雪が現実の風雪と重なり、雲菫も道に迷う旅人に姿を変えていた。
そう、まさにその感じである。彼女は自分自身であると同時に、これまで演じてきた何千もの人物でもある。
彼女は劇中の人物のように呼吸し、生活する必要があり、彼女の気持ちも劇中の人物の表情によって変わっていく。
この何千という人物が織り成す人生が、心ある世界を作り出していくのだ。これこそが、彼女が語りたい物語。
雲菫はその日、それを悟った後の自分がどうやって舞台を降りたのか覚えていない。ただ、舞台衣装を脱いだ時、袖の中に神の目があったことだけは覚えている。

エウルア

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キャラクター詳細
エウルアは西風騎士団で「遊撃小隊隊長」という席に就いている。
彼女は常に小隊を率い、魔物やアビス教団を退治しているため、モンドに帰ってくることは滅多にない。
「波花騎士」の称号を持つエウルアは、剣術に長けているだけでなく、知略と胆力をも兼ね備えた人物だ。ファルカ大団長にもその高い実力を認められており、彼女は「蒲公英騎士」に匹敵するほど優秀な騎士を評価されている。
二人の力ある騎士がモンドを守護していることは、実に喜ばしいこと。しかし、エウルアとジンの間には大きな違いがあった。
エウルアは、旧貴族であるローレンス家の末裔なのだ。彼女にはモンドを闇に堕とし入れた罪人の血が流れている。
特殊な出自であるため、エウルアに対するモンド人からの評判は極めて悪い。ローレンス家は旧モンドの愚かさと防錆を象徴する一族、心の底に潜む痛みを思い出させる存在である。
エウルアが表舞台に立つということは、人々の古傷を再び広げるのと同じこと。旧貴族を憎んでいる人々は、彼女に恨みをぶつけてきた。
しかし、そんなエウルアが選んだのは騎士の道。しかも、隊長格にまで昇進する。
城内で向けられる様々な疑いのまなざしに対して、自分の目的は全て「復讐」のためだと隠さず主張する彼女。人々はその包み隠さない振る舞いに恐れ、一次は騎士団の内部を探る「スパイ」だと思い込んでいた。
だが、西風騎士団の代理団長であるジンはそのように思ったことなど一度もない。エウルアの話をすると、ジンがとても友好的な態度で彼女と接していることが分かる。
「噂を信じてはいけない。人々は本当の波花騎士を理解していないだけだ。」


キャラクターストーリー1
罪人ローレンス家の出身、旧貴族の末裔、同時にモンドでも指折りの剣術の達人。
罪深き血筋と高い剣術の腕を兼ね備えた人物、それがエウルアだ。
いつ反乱を起こすのか、何を奪われるのか…モンドの住民にとって、この遊撃小隊隊長は嵐の夜に揺れる波のように予想のつかない存在である。
ただ他人からそのように扱われることに対し、エウルアは無関心で冷淡。もし目の前で嫌疑をかけられれば、彼女はこのように返す――「いい度胸ね…この恨み、覚えておくわ。」
根深い恨みに苛まれる彼女は、いつも城外の任務を請け負っている。たまにモンド城内に戻って来ると、大剣を持ったまま西風騎士団本部へとまっすぐ向かう。
ある日、二人の新人衛兵がそんな彼女を見かけ、慌てふためいた。しかし止めることもできず、彼女がジン団長の執務室に入って行くのを黙って見届けてしまう。
ただ奇妙なことにいくら時間が経っても、執務室から戦いの気配は感じられなかった。
衛兵たちは心配し、騎兵隊長のガイアと図書館司書のリサに助けを求めた。
「あの遊撃隊長がまた勢いよく代理団長のところに?」
「あら、お茶会かしら?そういうことならわたくしも早く行かないと。」
リサは足早に執務室へ、ガイアは二人の衛兵を外に連れ出し笑いながら説明した。
「ジンには人を見る目がある。お前たちもそれは知っているだろう。俺たち西風騎士団が見るのは、出自よりも能力だ。だからジンはわざわざ時間を作って、遊撃小隊隊長と剣術を切磋琢磨し合っている。それは騎士団のためであり、過去の怨念のためだ。賢いと思わないか?」
「は、はぁ…そういうことでしたか…」「お茶とは、切磋琢磨という意味だったんですね…」
このようなことが、ほぼ毎月起こる。しかし、怨念を終わらすために剣術を磨き合っている割には、音が全くしてないのは一体どういうことであろうか?


キャラクターストーリー2
実際のところ、エウルアに危険人物らしき雰囲気はない。そのイメージは先入観のせいであり、むしろエウルアは弱者の立場にあると考えてもいい。
たとえば、商店は彼女に物を売らず、飲食店であれば彼女の注文を雑に扱う。さらには、勤務担当エリアの住民が協力を拒否することもある。そのため、エウルアは仕事中よく壁にぶつかる。
その影響から揉めごとに発展した場合、エウルアは強気にこう言い返す――「この恨み覚えておくわ、いつか必ず返すから。」と。不思議なことに、この言葉はまるで魔法の呪文のようで、それを言うと揉めごとがその場でぴたりと止む。
そんな言葉を口にするエウルアだが、実際にモンドの人々を傷つけたことなど一度もなく、彼女は常に規則を遵守している。彼女の態度は冷淡に見えるものの、その言動や立ち振る舞いは真っすぐとしたものなのである。
彼女の普段の行いから文句をつける理由を見失った人々は、次第に恐怖心が薄れていった。彼女の「恨みを覚える」という発言は、自然と「そこまで」という警告の言葉となったのだ。
西風騎士団を滅ぼすかもしれないエウルア、スパイかもしれないエウルア…騎士団の新入りにとって、そんな彼女は厄介な人物である。
新兵がジン団長の伝言を伝えようとエウルアを探しに行くと、冷たい一言を返されるのだ――「モンドの罪人の末裔を働かせるなんて、君たちもまだまだ努力が足りないわね。」
厳しい口調でそう返すも、彼女は全ての任務を完璧にこなしてくる。そして、伝言を伝えた新兵も彼女の実力を認めざるを得なくなる。彼女は飛ぶ鳥を落とすような勢いで昇進していき、数年で「遊撃小隊」の隊長となった。
冷たく無愛想な波花騎士、騎士団と敵対関係にある旧貴族、付き合いにくい悪人…果たして、どれが本当の彼女なのだろうか?
伝言を伝えた帰り道、新兵は遊撃小隊エウルアの振る舞いを真剣に振り返ってみた。
彼女が他人に目をやる時、優しくて心強い表情になるのはなぜなのか?これほど真面目な人ならば、頼りにしてもいいのではないか、と新兵は考えるのであった。


キャラクターストーリー3
モンドは自由と喜びに満ちた都。ここでは罪人の末裔でも友人を作ることができる。
エウルアと民衆の間には、頼れる橋渡し役がいる、それが偵察騎士アンバーだ。
人に好かれるアンバーといる時、店主は通常価格でエウルアに物を売ってくれる。店主の機嫌が良い時は、アンバーとの雑談が長引いてしまうこともあるが、隣にいるエウルアは社交的な振る舞いを見せる。
お人好しのアンバーはエウルアとよく一緒に出かけ、必要があれば代わりに日用品などを彼女の家に届ける。
また遊撃隊長が積み上げてきた数々の功績は、アンバーが皆に伝えたものだ。民衆がその功績を耳にすると、誰もが驚きを隠せないといった表情をする。
週末の早朝、アンバーは木箱を積み上げて作った講壇の上で、エウルアの新たな功績を伝える――「先日、西風騎士団の遊撃小隊隊長がドーンマンポートで一人の女性を救出しました。そして調査の結果、港に潜伏していたアビス教団を発見し、一網打尽にしたんです。救出した女性は璃月でも有名な法律家で、後日騎士団は璃月の和記庁から感謝の手紙を…」
歴史がもたらす偏見を変えたのはアンバーの努力のおかげかもしれない、もしくはエウルア自身の騎士としての行いがモンド人の長年抱いていた恐怖心を晴らしたのだろう。ここ数年、民衆のほとんどは彼女に対し敵意を持たなくなった。騎士団のメンバーも、彼女の活躍を目の当たりにし感嘆を漏らす。
エウルアが率いる「遊撃小隊」の隊員達も彼女の味方であり、強き後ろ盾となってモンドを守っている。
これらの変化を一番嬉しく思っているのはアンバーだ。なにせ、エウルアが騎士団に入るずっと前から二人は知り合いなのである。祖父の弟子であったエウルアを、アンバーは心の底から信頼している。


キャラクターストーリー4
普段は冷たく鋭いエウルア、そんな彼女だが優れた料理の腕前を持っている。
遊撃小隊の隊員が「騎士団で最高の兵糧」と自慢するほどだ。彼らの懐には常に月の形をしたパイが入っている。この携帯食は絶妙な味をしており、食べた者は皆必ず絶賛する。
小隊の専属料理人がこの携帯食を開発する際、エウルアの作ったデザートを参考にし、長時間焼くことでパイの歯ごたえを高めたそうだ。元のレシピにあった長期保存に向かない材料を変更することで、コストを下げると同時に保存期間を延ばしたという。
これほど手を加えられていてもパイの味は美味しい。遊撃小隊の隊員はそれを食べながらふと思った――隊長が作ったオリジナルのパイは、どれほど美味しいのだろうか?
それほどまでの腕を持つに至った理由は、図書館の古い本の中に記されている――遥か昔に没落したローレンス家だが、今も支配階級に戻ることを望んでいる。その偉大なる時を迎えるため、跡継ぎとなる子供には異常とも呼べるような厳しい英才教育を施してきた。
「貴族の義務」とは、あらゆる面で完璧でなくてはならない。所作、礼儀、学問だけでなく、そこには料理や家事も含まれる*ている。
ローレンス家ではこのように考えられてきた――「解放後のモンドは礼儀と品位に欠けている。我ら一族がいずれ権力を取り戻しても、適任となる召使いを見つけられないかもしれない。俗世の泥沼にはまらぬよう、注意せねば。」
ローレンス家に仕える料理の先生は非常に厳しい人物である。生地を作る際、小麦粉を小さじ半分間違えたり、塩が多すぎたり、焼き上げのタイミングが二秒遅れたりしただけで、叱責と罰を招くおそれがある。エウルアにとって、他人から羨ましがられるような料理の腕も、古いしきたりに従っただけの無駄な結果に過ぎない。
彼女に認められた…いや、彼女に「恨みを持たれ、世話を焼くも素直になれず、いつも近くをうろうろとしている者」のみが、彼女の手作り料理を味わうことができるだろう。


キャラクターストーリー5
伝統的な礼儀作法の他に、旧貴族が「第二の魂」として尊重するものが芸術である。
祭礼の舞――名門貴族が自身の高貴さを誇示する儀式はまさにその魂の結晶、権力の頂点に位置する最も輝かしい宝石だ。
民衆の間で伝わる話によれば、旧貴族が力でモンドを統治する前、大貴族たちがこの祭礼の舞を作ったという。
ローレンス家を表す第三幕「輝きの燭光」は、祭礼の舞の中でも一番重要な部分だ。舞人は地位の高い者が担うことになっており、通常は一族の長女が務める。
舞を完璧なものとするため、ローレンス家は一流の踊り手を教師として雇ってきた。つま先から体の端々へと流れる血は栄光の証、舞人は誇りを胸に踊る。
この古き伝統は長い年月を経てもなお脈絡と受け継がれ、ローレンス家が民衆から追放されて久しい今日まで守られてきた。
しかし、華麗な舞を踊るのに相応しい盛大な饗宴と優雅な舞台を失った今、かつてほど「祭礼の舞」は高貴なものではなくなった。舞に対する要求も次第に低くなり、教師の指導も厳しいものから緩いものになっていった。ローレンス家は己が無力をついに痛感した、こうして舞の練習は時間が余った時にのみ行うものとし、必修科目から外されることになる。
時が経つにつれて、この舞が背負ってきた悪しき色彩は薄れ、そして今は美しい舞のみが残った。
辛く苦しい他の鍛錬と比べ、舞の練習はローレンス家長女のエウルアにとって唯一息抜きができた時間だ。
今のエウルアは芸術とは無縁に見える。他の人が見ても、「波花騎士」と舞を結び付けるのは難しいだろう。
だが舞が持つ独特な芸術、言葉では表現しきれない律動の美しさは、エウルアの剣術に引き継がれている。
大剣を振るう優雅な姿は、まるで月の光のように穢れなく、遠く手の届かない存在だ。


「堅氷」と「波花」
エウルアはローレンス家の家紋「堅氷の印」を所持している。これは一族の武力を象徴する至高の証であり、モンド開拓時代初期、まだローレンス家が没落していなかった時の意志を表したものでもある――この印は高潔で炎を恐れず、冷静で揺るぎないことを意味した。
過去千年の間、「堅氷の印」を受け継ぐ試練を通過した者はごく僅かである。この家紋は一族の希望と共に継承されてきた。
エウルアが試練を受けたのはまだ幼い頃のこと。だが、彼女はいとも容易く試練を突破し、「堅氷の印」を授かった。この誇りを背負い彼女は一族の屋敷を離れ、家族との連絡を最小限に留めるようになった。
彼女の氷の剣は、まさにその実力を表している。吹雪のように冷たく、あらゆるものを足止めさせる。
冷たく透き通った、氷のように輝く彼女。しかし、彼女の称号は氷のイメージとはほど遠い「波花騎士」。人々がこの称号を聞けば、水元素の使い手だと勘違いするだろう。
この称号の由来は彼女の戦い方が関係している。
エウルアは精巧な骨笛を持っており、それを吹くことでまるで本物の波が打ち寄せるかのような音が辺りに響き渡るのだ。
彼女が率いる小隊の勤務エリアは海岸の隣。そのため波の音は戦略の幅を広げ、敵の判断をかく乱させることができた。さらに知力の低い魔物であれば津波と誤認させ、四方に散り散りにさせることも可能にした。
このような技術を用いて、エウルアは少数で多数の敵を制してきた。他に類を見ないこの戦術こそが、「波花騎士」の称号を賜った所以である。また、エウルアが波を選んだのには、彼女なりの理由も存在する。
「波花」よりも「堅氷騎士」の方が彼女のイメージとして想像しやすいだろう。
それでも、冷たく堅苦しい堅氷より、踊る波花の方が彼女は好きなのだ…
波であれば珊瑚や砂浜を優しく抱きしめることができる。
厳しく鎖で束縛するのではなく、自由に打ち寄せる波こそが彼女の憧れなのである。


神の目
「恨み」の根底には何があるのか。
悲惨な境遇?それとも不幸な出来事?
「復讐」で何を成せるのか。
正しき地位を取り戻す?それとも憎き相手に苦痛を与える?
一族の栄光を取り戻し、民衆の畏敬を勝ち取り、再び支配者として頂点に君臨する…しかし、エウルアの胸の内では、そんなこと全てどうでもよかった。
彼女は過去の屈辱を直接受けたわけではない、むしろ一族の重圧の方が彼女を苦しめていた。枷を取り除こうにも、人々に認められるのは決して容易いことではない。
恨みと復讐、それは彼女にとってただの惰性であり、争いを避ける合図と盾に過ぎなかった。
特殊な身分と立場を持つ自分は批判の言葉をどう無視し、どのような価値観を重視すべきなのか…
どう戦えば、重く苦しい血統と決着をつけられるのか…
様々な悩みを心に抱えながら、彼女は世に忘れられた年老いた偵察騎士に弟子入りした。そこで広い心と堅実であることがいかに大切かを学んだ。
恨みや復讐よりも、家族や他人よりも、まずは「自分自身」を見つけなければならないことを学んだ。
「自分」らしい生き方、「自分」を守るすべ、「自分」の目標…
恨みや復讐を口にしてきた彼女だが、その根の善良さと打たれ強さは本物だ。
エウルアだけの優しい復讐の道。彼女がその道を見出した瞬間、神の目が静かに現れた。

エミリエ

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キャラクター詳細


キャラクターストーリー1


キャラクターストーリー2


キャラクターストーリー3


キャラクターストーリー4


キャラクターストーリー5


◯◯◯◯


神の目

煙緋

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キャラクター詳細
璃月は契約と貿易を重んじる港町、故に富が集まる場所でもある。
様々な国の商人がここで商売を営み、璃月に繁栄をもたらしてきた半面、数々の争いも生み出してきた。そのため、「天権」である凝光が細かな法律を制定した。しかし、それに精通するものはごく僅か。
そこで誕生したのが「法律家」という職業である。法律家は璃月の法を熟知し、必要な人に代わって法的処理を行い、相応の報酬を得る。
煙緋は璃月で名高い法律家だ。彼女は常に法律の許す範囲内で、顧客に最大限の利益をもたらす。彼女こそが璃月の歩く「規則」と思う人も多い。
岩王帝君と契約を結んでいない極めて稀な混血の仙獣である彼女は、縛られることのない心躍る生活に憧れている。
そして、『璃月百法通則』を腕に抱え、法律家の仕事をしている彼女は、常日頃よりこのように考える――
「規則に縛られたくないのであれば、まずは規則を全て理解するべきだ。」


キャラクターストーリー1
璃月港で引く手数多の法律家、相談料も抜きん出ている。
それでも彼女を予約する人は後を絶たない。商人は調停に掛かる費用を気にしない、しかし誰が調停人になるかは気にするのだ。
「金は多く使っても構わないが、煙緋に頼まないと気が済まない。」と商人は皆口を揃えて言う。
大多数の人間が煙緋に抱く評価は頭の回転が速く、口達者。また、法律の基盤である「公平」を重んじている点を挙げる。
彼女が調停に入ると、そのほとんどが円満に解決する。敵対していた商人たちも大人しくなり、敵意を収める。
岩神と契約を結んでいない彼女だが、璃月の平和に大きく貢献しているのは間違いない。


キャラクターストーリー2
優れた法律家である煙緋にも、苦手な分野がある。それが「民事訴訟」と言った情や家族愛の絡んだ感情的な内容のものだ。
例えば離婚の際の財産分与、子供の親権、高齢者の扶養、家族との縁切り問題…等々。
家庭のいざこざを処理するのは難しことだ。幼い頃から愛されてきた煙緋からすれば、なおさらである。また、彼女がこの分野に関する知識が乏しいのも事実。
過去の調停を振り返ると、双方とも筋が通っていると感じるときも、双方とも間違っていると感じるときもあった。親権の問題になると、どのように調停しても罪のない子供を傷つけてしまう。結果、無理して調停を成し遂げ、煙緋はくたくたに疲れ果ててしまうのだ。
「みんな相性がいい人と結ばれてほしい、こんなにもつらい事はもううんざりだ。」


キャラクターストーリー3
璃月で煙緋の顔が広い理由は、彼女の器の大きさが関係している。
彼女と会話する時、逆鱗に触れる可能性は一切心配しなくていい。話し上手であろうとなかろうと、彼女は全ての人と楽しく会話できる。
もちろん、彼女と討論をしないことと、彼女の前で法律を語らないことが大前提ではあるが。彼女が「仕事モード」に切り替わると、別人と感じるほど雰囲気が変わる。
また、長年法律を研究してきたせいか、煙緋は「細かくて厳しい」。たとえ雑談であろうとも、話の中の矛盾と誤りをなくすため細かな説明が入り、話が長くなりがちになるのだ。このようなしゃべり方が相手を不快にさせていると気づいた時には、反省して本の角で自分の頭をたたく。
しかし、法律関連の著書に大量の時間を費やす彼女にとって、この習慣を直すのは至難の業だろう。


キャラクターストーリー4
法律の研究をする時、煙緋は条文を通してその背後に隠された意図を読み解く習慣を持っている。
この影響から、人付き合いにおいて相手を理解することに煙緋は長けている。
例えばある日、旅人が煙緋と偶然出会った時、旅人は「ここで会えるなんて思わなかった」と挨拶をした。
本来、どこでも聞くような挨拶だが、煙緋は全く異なる意味を見出す。
「ここで会えるなんて思わなかった」ということは、旅人は彼女と会うことを「思った」ことがあると推測できる。それなら「思わなかった」はどのように解釈すればいいのか?つまり、煙緋が現れるところに対して、旅人は「大まかな予想」があったと推理できる。そして、実際はその予想が裏切られた。しかし、旅人の予想はどこから来たものなのか?旅人が煙緋のことを常に「注目」していた可能性は?
「もしかして、ずっと私に興味を持っていたの…?」
その日の夜、煙緋は何度も寝返りを打ち、眠ることができなかった。


キャラクターストーリー5
煙緋が最も大切にしている物は、父親から譲り受けた竿秤。
一説によると、この竿秤は帝君から頂いた宝物で、全ての物の価値を計ることができるという。煙緋はモラを分銅代わりに、すなわちモラで物の価値を量るようにしている。
もちろん時が経つにつれて、物の価値も変化し続けている。だが、竿秤はモラが生み出された当時の価値しか量ることができない。残りの部分は己の知識で判断する他なかった。
色んなものを計っていくうちに、煙緋は璃月の遷移を身をもって感じた。千年前にごく一般的だったものが、今では千金にも値するものになっている。
また、多くの物は俗世の価値観では測れないということを竿秤から教わった。
煙緋は「神の目」の価値を計ったこともある。しかし、どんなにモラを積んでも、竿秤は平衡にならなかった。
苛立ちを覚えた煙緋は、常に腰に提げている手写しの法典が入った箱を載せた。するとなんと、竿秤は水平になったのだ。


最後の法典
煙緋が集めている数多くの法典の中で、最も特殊な一冊。
数多とある分厚くて煩雑な法律書に比べると、この本は驚くほど薄くて軽い。
読んでみると、序言以外は基本的な法律理論が何条か書かれているだけだと気づくだろう。
煙緋からすれば、もしかしたらこれこそが法律の最終形態なのかもしれない。遥か遠い未来では、法律が人々の心に刻み込まれており、誰もが友好的で、謙虚で、楽しく暮らしている世になっているかもしれない。法廷の外はガラガラ、山のように重ねられた法典も歳月の埃に埋もれているそんな世に。
長い長い時が必要になるだろうが、仙獣の血が流れる煙緋であれば、そのような時代まで生きることはそう難しくないだろう。
「でもよく考えてみると、その時は仕事を失っているのでは…」
未来の自分は何をすればいいのだろうか?
ある日、偶然辛炎のロックコンサートを拝見した彼女は、その場で新しい様式の芸術の虜となった。
しかし、ゼロから楽器を学び始めるのは困難なこと。そのため、煙緋は様々な資料を研究し代案を考えた。
――もし本当にその日が来たら、ラッパーになるのがいいかもしれないと。
一時間以内に何万字もの璃月の法律を完璧に暗唱できる彼女は、少なくとも「早口」の面ではすでに達人の域に達している。


神の目
煙緋の父親は仙獣で、母親は普通の商人である。平和な時代に生まれた煙緋は、岩王帝君と契約を結んでいないが、両親と「楽しく生きる」という約束をしている。
煙緋は璃月港の法律家の頂点に立つ者、必要とあらば法の抜け穴を突くこともある。それは自分のための場合もあれば、他人のための場合もある。
煙緋は規則を必ずしも遵守する性格ではない。彼女は規則に縛られることを嫌う。
彼女は自身の幸せを追求すると同時に、璃月を良くしたいと願っている。そのためには多少、法の目をかいくぐることもいとわない、しかし決して悪用はしない。
「天権」凝光が毎年法典を改定する際、煙緋のしたことを大量に参考する。煙緋は璃月に存在する法律の検査官みたいな存在なのかもしれない。
ある意味、煙緋は最小限の代価で、規則の改善に貢献している…これが法の抜け穴を突こうとも、彼女が罪に問われない理由の一つなのだろう。
「矩有らずして事為せず」を信望としているが、真に望むのは「心の欲する所に従えども、矩を踰えず」である。
煙緋は神の目を所有している。そしてその神の目は、彼女が信じている「規則」と等価である。

カ行

カーヴェ

開く

キャラクター詳細
人材輩出の国スメールで「デザイナー」と言えば、浮かび上がってくる名はいくらでもある。しかし「建築デザイナー」と言えば、多くの人は無意識にこの名前を思い浮かべることだろうーーカーヴェ。
教令院妙論派出身の彼は、直近の数十年で最も優秀な建築デザイナーとされ、妙論派の星と称される名誉をも得ていたほどだった。しかし残念なことに、カーヴェ本人はこの称号に心動かされはしない。
名声と肩書は彼が認められていることの証だが、同時に彼を束縛するものでもあるのだ。例えば今、カーヴェは自身の破産を恥じている。無名の者であれば破産を公言できるが、有名な建築デザイナーがそのようなことはできない。過剰な誠実さは、信頼の危機をもたらすのだから。そのような事情があって、面子の問題からカーヴェはこの話題を避け、必死に楽しく気楽に生きているフリを続けている。
幸い、彼の高いデザイン能力と深い美学への造詣といった才能を買っている人々は、この偽りのことも信じている。
ーー大建築家であるカーヴェが、多くの悩みなど抱えているはずがないだろう?


キャラクターストーリー1
アルカサルザライパレスや教令院を歩く者は、今でもあらゆる場所で妙論派の学生たちが繰り広げる、卒業した「カーヴェ先輩」に対する想像や議論を耳にすることだろう。同じ学院の生徒たちにとって、カーヴェはここ数十年における妙論派屈指の人材であり、名高いデザイナーなのである。優れた作品で、カーヴェは教令院の歴史に己の名前を刻み込んだ。妙論派の学生たちが道端で彼について議論する場面を目にすることがあれば、カーヴェの業績について聞くことができるはずだーーアルカサルザライパレスを単独でデザインした上に、オルモス港のランドマークとも言える古灯台を修復し、港口のリフトや貨物運搬システムを改造。おまけに森林や圏谷地形の空間最適化方法を最初に発表する…などなど。
これほどの成果を収めた「カーヴェ」の名は多くの人にとって、もはや単なる名前ではなく、ある種のデザイナーキャリアの代名詞にもなっている。多くの人が、カーヴェのような経歴を辿ることを望んでいるのだ。学院でずば抜けた才能を見せ、卒業後は大手の各建築関連事業者から内定を得て、数年のちには独立して個人名義で仕事をする…
しかし、世間が理解している彼の経歴は、ここまでだ。数々の業績の裏に隠された真実を知る者はほとんどいないが…それこそが、彼のずっと隠していることだ。無論、彼が優秀なデザイナーであることは確かだが、そんな彼も人々が思い描くような完璧な生活は送っていないのである。
過去の経験から、彼はこう言うだろう。誤解は避けられないトラブルだ、と。人はたまに、固定観念に自己の判断をゆだねてしまうことがある。例えば「デザイナー」と聞いて、人々が最初に思い浮かべるのは、ほんの少し指を動かして筆を走らせるだけでお金を稼ぎ、名声を手にできるという夢であろう。また、「芸術」と聞けば、浮かんでくるのはチャラチャラとしていて自己中心的で、陰気かあるいは短気な性格で、あごで人を使う…などといった、どこから来たのかも分からない変わった人物像だ。
しかし、カーヴェは前述のイメージとはまったく合致しない。筆を走らせるだけでデザインを完成させることなど出来るはずもなく、いつも一つひとつの仕事と真剣に向き合っている。彼は成功者の恰好をしているが、その実、報酬だけでプロジェクトの良し悪しを判断することはない。スメールの大多数を遥かに超えるデザインへのこだわりを持つ彼は、デザインの根本に芸術性を置きながらも、人文的意義や実用性をおざなりにしたりはしない。そのため、プロジェクトを進める中で、何かを犠牲にせねばならない場面が出てくる。それは、時に休憩時間であり、時に芸術の装飾的効果であり、そして時に己の報酬だ。
長年の下積み期間を経て、カーヴェはついに成功した。アルカサルザライパレスが落成した後、彼はスメールに名を轟かせたのだ。同業者は巨木の上に聳え立つ伝説的に優れた宮殿に感嘆の声を漏らし、デザイナーの自由奔放な想像力に驚き、様々な価値を融合した美しさに酔いしれた。ーー建築的機能と文化的佇まいを集大成した、贅沢な工芸美と建築自体の精確さ、精巧さを併せ持つ存在。この作品は山々に包まれた辺り一帯の雰囲気を一新した。アルカサルザライパレスが大いに成功した試みであることを、認めない者はいないだろう。
しかし、彼自身のポリシーやキャリアでの境遇などの積み重なった問題から、カーヴェがこのプロジェクトで破産した件について同業者たちは未だ何も知らない。真実は、成功の裏に隠された苦労のように、カーヴェが努力して隠し続けているのだ。


キャラクターストーリー2
カーヴェはスメールの典型的な学者家庭に生まれた。父は明論派出身で、教令院に勤めていた。母は妙論派の卒業生で、カーヴェと同じく有名な建築デザイナーだ。両親の影響を受け、カーヴェは子供の頃から建築デザインに興味を示していた。両親が買ってくれた積み木で彼が遊んでいたとき、両親はリビングに座っていたものだった。
たとえ言葉が交わされなくとも、家とはある種の「雰囲気」として、そこに存在するものである。カーヴェの「家」に対する価値観は、あの頃に形成されたものだ。
しかし良い時というのは、いつまでも続くものではない。カーヴェが教令院に入る前のある年、父は息子に背中を押されて、教令院が主催する学院トーナメントに参加した。試合自体は複雑なものではなかったが、有望な優勝候補とされていたカーヴェの父はチャンピオンになれなかった。そればかりか、試合が終了したのち、失踪してしまったのだ。
その後、父が砂漠で事故死したという訃報が届くまで、そう時間はかからなかった。あまりに突然の出来事に、残された母子は混乱に陥った。特に、カーヴェの母はかなりショックを受けた。生来敏感な人であったために夫の死からなかなか立ち直れず、長い間不安感を抱え、憂鬱な気分から抜け出せないでいるようだった。そしてカーヴェもまた目を閉じて眠るたびに、出かける直前に冗談を言い、「いい手土産を持って帰る」と約束してくれた父の姿を何度も夢に見た。幼いカーヴェは気づいてしまっていたのだ。もし自分が提案しなければ、父は試合に参加しなかったかもしれないーーそうであれば、失踪することも、死ぬこともなかったのかもしれないと。しかし彼がどんなに願おうとも、起きてしまったことは変わらない。父の死も、母の苦しみも…取り返しのつかないすべての出来事の起因は、自分が口にした、たった一言だった。その日から、カーヴェの人生はすっかり罪悪感に囚われてしまった。
父は善良な優しい人で、こういう人と一緒に暮らせて幸せだと、母は言っていた。父が亡くなった後、母が再び笑顔を見せることはなかった。こうして、「家」は暖かい日の差し込む聖域から、冷たく淋しいただの部屋に変わり果てた。ソファに座った母が、己の震える両手を呆然と見つめる姿を、カーヴェは何度も見た。母の頭の中は真っ白になってしまったようで、彼女は何も描けなくなった。そんな母を見るたびに、カーヴェは見えない手によって押しつぶされたような心地になり、自分に問いただしたーー僕があんなことをしなければ、この家はこうならなかったはずなのに。
当時のカーヴェはまだ幼く、できることも限られていた。しかし、負い目を感じていた彼はできる限り母に付き添い、落ち込んだ表情を見せずに、ありとあらゆる面で支え続けた…焼け石に水だと分かっていても。
落ち着かない日々が過ぎ、教令院に入学する歳となったカーヴェは、妙論派に入った。息子が入学すれば、母子が一緒にいる時間が減ってしまうのは仕方のないことだ。気分転換にと、カーヴェの母はフォンテーヌへ赴き、その期間中に現地で仕事の誘いを受けた。スメールに戻った彼女は、カーヴェにその良い知らせを伝えた。母がフォンテーヌに行けば、寂しい生活を送ることになると分かっていたカーヴェであったが、それでも彼は喜んで賛成した。そして母がスメールを発つ日、見送りに出掛けた。
…船が出港してからかなりの時間が経っても、カーヴェはずっとそのまま、遥か遠くを眺めていた。どうしようもなく名残惜しかったが、母にとってはこの哀しすぎる場所を離れるのが最善だったのだとも分かっていた。彼女に幸せになってもらうために、カーヴェは己の孤独な気持ちを認めないと決めた。自分はもう大人で、一人で生活しても絶対に大丈夫だと、母と約束したのだ。もしもある日、孤独に苦しみ、バラバラになった家族のために眠れなくなったとしても、それは自分が父に試合への参加を示唆したことの罰だ。父を死なせ母を苦しませた罪人には、どんな報いがあろうと当然のはずで、自分はこの烙印をずっと背負って生きていかなければならない。
こうした考えが、その後も彼の中にはあり続けた。家庭はカーヴェに思いやりの心を教えたと同時に、彼から人を傷つける能力も奪ってしまったと言える。そのためか、それからの幾年も、カーヴェはずっと個性と理想に囚われ、求められるままにどんな人のことも力を尽くして助けた。抗おうとしたこともあったが、本気で他人と敵対できなかった。そして常に善行を重ねているのに、それでも不安を感じずにはいられず、時に罪悪感に蝕まれた。それだけではない…彼は純粋な好意に応えることができない。何かを決断する度に、自分は罰を受けてしかるべきだと、苦しみの中にこそ慰めがあるといつも考えてしまうのだ。
カーヴェを彫像に例えれば、彼はどの角度から見ても完璧だ。しかし、核となる脆弱な一点さえ見つければ、それだけで全体は完全に打ち砕かれてしまう。


キャラクターストーリー3
卒業直後、カーヴェは同じ学院の先生や同級生のチームでプロジェクトの手伝いをしていた。デザインを任されていたが、駆け出しの彼は作業量の重さに押しつぶされていた。しかし強がりの彼は弱音も吐かず、すべての時間と精力を仕事に注ぎ込んだ。丸二年間、彼は様々なプロジェクトに呼び出されて、昼夜を分かたず他人のために働いた。
十分な経験を積んだ後、カーヴェは協力していたプロジェクトを離れ、個人の名義で仕事を受け始め、彼のスタイルを気に入ってくれる客を抱えるようになった。彼に設計を依頼してくる人は少なくなく、これが彼の事業の始まりだった。頑張り屋の彼はまとまったお金を貯めることができた。しかし、しばらく経つと、カーヴェはキャリアのスランプに陥った。実際の市場は学校でのデザインとはうって変わって現実的で、ある意味、現金とも言えるものだったのだ。それに、顧客の要望は指導教員の要望よりもさらに満足させにくい。また、スメールの学術的風潮もカーヴェに大きな影響をもたらした。誰かが言っていた通り、自身の理想とキャリアは簡単には実現できない…そうカーヴェは気づき始めた。
スメールの学者たちは新たな流派や観点を次々と生み出していく。そうした中で自己批判、自己懐疑を始める者は少なからずいたが、社会の進歩と変化はこれらの考え方を後押ししたのである。過去に称賛されていたものは、いつか批判の対象になるかもしれない…書籍や、芸術がそうだったように。
真に芸術に打ち込んでいる者以外に、芸術家がスメールでどんな扱いを受けているか、知る者はいなかった。教令院の学術的成果への崇拝と渇望が激しくなるにつれて、学者たちはますます単純に学術そのものと実用的な技術のみを信奉するようになった。六大賢者のやり方は極端になり、「芸術は無益」という見方がだんだんと主流になっていった。芸術従事者はのけ者にされ、芸術と関連する学科でさえ、いつの間にか芸術の要素を取り除くようになった。
カーヴェが担当していたプロジェクトの多くは、流れ作業だと思われていた。彼がプロジェクトのために提案した様々な美しいデザインは、「意味のない過度な装飾」「プロジェクトに必要なのは実用的な建築のみ」と言った理由で、すべて却下された。彼はかつて、人々のために芸術の美と実用的な価値を兼ね備えた良いデザインを目指していた。しかし、芸術が笑いものにされ、人々が芸術の存在する必要性と価値を否定してしまえば、カーヴェは自由にデザインすることなどできない。建築は芸術であることを貫くカーヴェは、芸術が無益という見方に断固反対するが、職業上、彼にはどうしても技術的サポートと投資が欠かせないのだ。そうすると、彼は輪から脱することも、自分の本音を言うこともできない。もしそんなことをして資金提供から手を引くと言われてしまえば、多くの人を巻き込んでしまうからだ。
夢とキャリアの挫折を経験したカーヴェは、長い休暇を取った。家に帰ると、思いがけないことにフォンテーヌから手紙が届いた。母からの手紙にはこうあったーー残りの人生を託す相手を見つけた、フォンテーヌで再婚する、と。不安と期待を胸に、彼女はこれを唯一の肉親に伝えたのであった。
カーヴェは手紙の返信で母の幸せを願うとともに、心から祝福した。そして、フォンテーヌでの結婚式にもはるばる出席した。参列者は僅か数名しかいない、簡単な式だった。再び母の笑顔を見ることができて、カーヴェはとても嬉しかった。しかし、次に襲って来たのはどうすればいいのかわからない、行き場のない感覚だった。
母はスメールにあるすべての財産をカーヴェに残した。三日後スメールに帰った彼は、家の中がどんなに空っぽだったかということに、改めて気が付いた。ソファに座っただけで、人生に孤独を感じてしまうほどに。…まさに、昔の偉い学者が言った通りだ。「正しいと思うことをしなさい、たとえすべてを捧げることになっても」ーー


キャラクターストーリー4
建築業界にいる期間が長くなるにつれて、社会の現状に対するカーヴェの不満は募っていった。そんなある日、彼は突然転機に恵まれた。大商人のサングマハベイ様が彼を訪ね、豪邸を作ってほしいと依頼してきたのだ。
業界でかなりの名声を博する「サングマハベイ様」が、実はドリーという、莫大な富を築いた気前のよい人物であることを、カーヴェは彼女に出会うまで知らなかった。彼女が邸宅に求めたたった二つの要望は、「広く、豪華に」。カーヴェはデザインのスタイルや細かい要望についても聞いてみたが、ドリーはさほど関心がないようだった。カーヴェが今までに抱えたすべての顧客と比べても、ドリーはかなり変わっていた。彼女は商売をするが、学者が何を考えていようがあまり気にしない。彼女が豪邸を静かでひと気のない場所に建てたい理由は、商売上必要だからだということらしい。深くは尋ねずに、ただ人に畏敬の念を抱かせるような豪邸を作ってくれればいいと、彼女はカーヴェに助言した。そして芸術性に関して、ドリーは感心も示さなければ、反対することもなかった。
目の前にあるこの仕事がどれだけ有難いものかということに、カーヴェはすぐ気が付いた。制限なしの豪邸ーーつまり、彼はやりたいデザインを思いっきり貫き通せるのだ。依頼主が資金を出し、依頼を受けた人は力を尽くす。もとより、これが商売のあるべき姿だ。学術の流派によって本領発揮を制限されるなど、本末転倒。突如溢れ出たやる気のままに、カーヴェは徹夜で設計案を作り、依頼される身でありながらドリーに更なる修正を提案したーー本当の大商人様は山に住むだけじゃ足りない。歴史に名を刻む豪邸にするためには、もっと美しく、もっと伝説的なものにしないと!庭を付けるのはもちろん、そこに植える花も厳選しなければ。専門的な植物学者に意見を聞こう。構想は大胆に、提案は着実に。建物自体は実用性に重みを置きつつ、豪華にして…サングマハベイ様ご指定の倉庫と休憩室も増設しないと。場所は…北の山の崖が良さそうだ。これでサングマハベイ様は毎日、目を覚まして窓を開けたときに、山と川の絶景を目にできる。
ドリーは再三、崖はやめたほうがいいと止めたが、カーヴェは職人魂と芸術を追求するため、依頼主を全力で説得した。そうして始まった大掛かりな工事はカーヴェの監督の下、昼もなく夜もなく着実に進んでいった。
だが、理想とは叶え難いものだった。カーヴェはあらゆる要素を熟考して場所を選んだのだが、その年、死域の増加が大幅に加速するということだけはどうしても予想できなかったのだ。七割ほど工事が進んだ、ある静かな夜のこと。ひっそりと生まれた死域に、完成したものはすべて壊されてしまった。あちこちに散らばる残骸を目にしたカーヴェは、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。これを聞きつけてやってきたドリーは憤慨し、プロジェクトから降りるようカーヴェに命じた。すぐにレンジャーたちが駆けつけて死域を処理したが、壊れた建物が戻ってくることはなかった。
このような機会は二度と得られるものではないと分かっていたカーヴェは、せめてアルカサルザライパレスが完成するまでは残りたいと、ドリーに何度も懇願した。しかしドリーは鋭く肝心な問題を指摘した。場所の変更を積極的に提案したのはカーヴェだった。建物が壊され、資金が水の泡になった今、彼女が責任を追及しなかったとしても、どのみち工事は続けられないだろう。もし建て直しになったら、損した分の資金は誰が出すのかーーと。
カーヴェは廃墟に座り込んで、一晩中考えた。彼には貯金と、両親が残してくれた住宅がある。そこはかつて彼の「家」であったが、今やただの抜け殻だ。そもそも、「家」とは何なのか?建築デザインに携わる彼は、誰よりもよくその違いを分かっていたーー家族を失った建物は、ただの家屋だ。本物の「家」なんかじゃない。
夜が明けると、カーヴェはスメールシティに戻って家を売り払った。そうして得たモラと、貯金、そしてドリーが支払ってくれた報酬をすべて工事に投じ、七割分の資金の穴を埋めた。足りない部分はドリーに立て替えてもらった。
そして美しく晴れたある日、ついにアルカサルザライパレスが落成した。カーヴェは己のすべてを捧げて、己のものではない伝説的な宮殿を作り上げた。プロジェクトは終了したのに、彼は一モラも得ることなく、そればかりか後半の工事が予算を超えたせいで、依頼主に大きな借金を作ることとなった。カーヴェは表面上抗議したものの、借金の現実は避けられないことを、心の奥底では分かっていた。そして、彼の心はまたも罪悪感に苛まれていた。サングマハベイ様は賢い商人だ。カーヴェは依頼主のためではなく、自身の理想のためにこうしたのだと一目でわかっただろう。
博打打ちがすべての財産を自分の理想に賭けるところを、商人が止めるわけがないのである。建築も所詮は商売だ。しかし、理想の価値というものは測ることができない。その後、カーヴェが帰る場所をなくしたのは、また別の話だ。


キャラクターストーリー5
破産した後、カーヴェはしばらく落ち込んでいた。アルカサルザライパレスは、様々な出来事で出来た彼の心の穴を一時的に埋めてくれたが、同時に彼に証明したーー理想を叶えるには、いくら捧げても足りないということを。彼は戸惑い、モラがなければ何もできない世の中に苦しめられた。幼い頃から強がりだったカーヴェは、破産して懐に小銭しか残っていないことを同級生たちに知られたくなかった。仕方なく酒場でやけ酒にふけると、一本飲み干した後、テーブルの横で酔いつぶれてしまったようで、起きても同じ場所にいた。
酒場のマスターであるランバドがいつも好意で彼に席と無料の飲み物を取っておいてくれるもので、お返しに、カーヴェは酒場の二階にある特別席をデザインし直してあげた。たまに酒場で教令院の学友に出会うこともあったが、カーヴェはここで酒を飲みながらアイデアを練っているフリをした。そうしてカーヴェは酒場に半月以上も居続けた。その期間に、彼はもう友人とは呼べなくなった「彼」に再会したのである。
カーヴェの昔の友人と言えば、知論派出身の現書記官アルハイゼンを抜きには語れない。学生時代のアルハイゼンは同年齢の者たちよりも遅れて入学したが、成績はずば抜けていた。人々は高い点数を取った学生がいることのみ知っていたが、それが誰で、普段どこにいるのかまでは知らなかった。その学生のことと言えば、妙論派の年配学者までが首を横に振り、賢すぎて扱いにくい天才だと評するほどだった。
その年、カーヴェは母との離別を経験したばかりで、孤独な日々を送っていた。彼は偶然図書館でこの後輩と出会い、好奇心に駆られるまま話しかけた。こうしてカーヴェは知論派の天才アルハイゼンと知り合ったのだ。しかしその後…一方的な思い込みに頼って友人を作ろうとしてはいけないと、時間が証明することになる。自分より二歳年下のアルハイゼンは才能と知恵に富んでいるが、個性や人となり、学術の方向性から理想と観念に至るまで、すべてが自分とは真逆の人間だということにカーヴェはすぐ気が付いた。
学院にいた頃、カーヴェは様々な思い出を作ったが、最も不愉快だったのは、やはりあの共同研究課題だ。二人は互いに才能を認め合い、古代建築と古代文字および言語学の研究を行うプロジェクトを始動することに決めた。カーヴェはアルハイゼンに、研究チームの提唱者になることを勧めた。最初、研究グループには他の学生もいたが、課題が進むにつれ、みんなついて来られなくなった。個人間の、あまりに残酷で直観的な才能の差に、カーヴェは初めて気が付いた。教令院は才能と学術資源を限界まで結び付ける。そのため、人々はある理屈を切実に理解している。アルハイゼンの言葉を借りると、一部のことに関して上限を決めるのが才能で、下限を決めるのが努力だという。一般人と天才はいずれ現実的な要因によって分けられるのだから、属さないグループに無理やり入ろうとする必要はないーーしかし当時のカーヴェは、それらは結果ではなく過程にある障害に過ぎず、知恵は多くの人によって共同で開発されるべきだと、頑なに考えていた。これ以上脱落者を出さないために、カーヴェは他の学生たちがやるべき仕事まで、己の時間と体力を割いて処理し、重い負担を自ら背負った。アルハイゼンはこれに始終反対していた…カーヴェがやることは理想主義的すぎる、と。学術は慈善事業ではないし、一時凌ぎの手助けでは現実を変えられないのだ。このようにして二人の意見は別れた。
そしてあるとき、ついにチームに残ったメンバーはアルハイゼンとカーヴェの二人だけになった。積み重なった問題は限界点に達し、一気に爆発した。カーヴェは、アルハイゼンは個人主義的すぎた、より多くの人を助けてやればもっとみんなに受け入れられたはずだと主張した。一方アルハイゼンは、カーヴェの現実離れした理想主義は現実逃避にすぎず、いつかは人生の負担になる。そしてその根源はカーヴェの内にある、避けられない罪悪感から来ていると指摘した。ここまで話してきて、何よりもカーヴェの心を刺したのは、最も親しい友人の核心を突く言葉だった。アルハイゼンは彼が長年直視出来なかった事実を突き付けた。そうしてカーヴェは初めて、現実に傷つけられた痛みを感じ、賢すぎるこの男と友人になったことを後悔したと宣言した。
別れた後、アルハイゼンはためらいもせず論文から署名を削除し、カーヴェは怒りのあまり、己が担当した箇所の論文を破った。しかし、しばらくするとまた後悔して、それらをかき集めて貼り合わせたのだった。カーヴェはあの友人を変えられないと気づいた。逆もまた然りだった。
後日、二人は学術的刊行物に何度も正反対の意見を出し、互いの論点に反駁し合った。『キングデシェレト文明の古代遺跡における古代文字と建築デザインの方向性についての解読』の研究はすでに、学術界に著しい進展をもたらしていた。言語学における成果について言えば、一部の古代文字における、欠けていた文法的理論の空白を埋めたおかげで、複数の重要な古文書の解読を可能にした。建築学における成果もなかなかのもので、一部スメールの特殊地形における家屋の耐力構造を最適化し、偏狭の地に住む民の生活を大幅に改善した。教令院はこれを奨励して、この研究プロジェクトに特別な研究場所を提供した。しかし、人材不足と、主たる研究者の価値観のすれ違いによって…このプロジェクトは最終的に中止となった。
研究課題の失敗は、カーヴェの人生における、消せない過去になった。あれから数年間、何度も挫折を経験したカーヴェは、独りよがりの考えを堅持することが必ずしも役に立つとは限らないことをようやく認めた。すべてを失って初めて、彼は過去の友人の言葉に含まれた深意を理解した。ーー何にも頼らず天上の花園へと登ろうとすれば、足を踏み外して落ちて死ぬことは避けられない。カーヴェは天才でありながら群集に憧れ、のけ者にされることを無意識に恐れている。彼とアルハイゼンの違いは、まさにそこにあった。
時を酒場のテーブルへと戻そう。それは数年ぶりの再会だった。カーヴェはたまたま酒を買いに来たアルハイゼンの出現に驚き、アルハイゼンは彼が置かれている最悪の現状を一目で見破った。長く生活に追い詰められていたカーヴェはすべての悩みを打ち明けた。問題はどうせ隠せるものではない。それに、唯一関係性が破綻しているこの友人の前でなら、取り繕う必要もなかったからだ。彼は様々な愚痴をこぼした。夜が更けて酒場をあとにし、かつて家だった方角を見るまで、彼は口を閉じなかった。アルハイゼンはと言えば、話を聞くと、またカーヴェのことを見透かしたように、答えにくい質問をしたーー「君の理想はどうなった?」
学者に間違いを認めさせられるのは現実だけだが、カーヴェは何が現実なのか分からなかった。逃げる必要など無いほどに美しい幻境を追い求める彼は、自分自身を代償として支払うことさえ厭わない。故に、この理想自体は間違いではなく、それを実現する自分の手段のほうが間違っていたと、彼は未だにそう信じていたのだ。
諦めてはいけない。たとえ彼の施した善行が埋め合わせのためだったとしても、それがもたらした結果は一部の人にとって有意義なことだった。理想の国に辿りつけなくても、その輝きが人々を惹きつけることは紛れもない事実なのだ。
幻のような現実…例えば、帰る場所をなくした彼がひょんなことから昔の友人の家に住み着いていること。この書記官名義の不動産は、まさに当時教令院が提供してくれた研究所を転用したもので、あの頃カーヴェがそれを放棄していなければ、余った学術資源も合法的なルートを辿って住宅になることはなかっただろうということ。アルハイゼンが無条件で善いことをしたりしないと知っているカーヴェは肩身が狭く、家事の手伝いを自ら提案したが、結局はすべての雑務を引き受けることになったこと…それらはドン底にいる人間にとって、一応の悩みではあるが、同時にあることを証明してもいる。変えられない友人こそが、人生の中で揺るぎない過去なのだと。理性と感性、言語と建築、知識と人情…これらの決して融け合うことのできないものたちは、いつも鏡の表と裏を、ないし世界全体を形作っている。


古い絵日記
革表紙の古く分厚い絵日記。落書きだけでなく、貼り付けられたものが大量にある。持ち主はこれを記念アルバムにしているようだ。
1ページ目:『建築製図の基本』、作:ファラナク。コメント:「母さんの著書。今こうして見てみると、印刷の色がちょっと思ってた色と違うかな?」
15ページ目:隠されたラフスケッチ。誰かの影が流砂に落ちるところが描かれている。隠された、というのは、前後の二ページがのりで貼り付けられているからだ。
コメント:「父さん…ごめん。何を書けばいいか分からない…ごめん。どうか僕を許して。」
26ページ目:一枚の課題申請表。コメント:「これは良い始まりだ。こんなに賢い協力者には、もう二度と出会えない可能性が高いだろう。」
31ページ目:学術メモと建築の図画。コメント:「僕たちの考えはまるっきり一致している。何一つ欠けのない、完全なものだ。」この一文は打ち消し線で消されている。
「僕たちの考えは相反するものだ。矛盾からは、多くの思弁と哲学が生み出される。」こちらの一文は残されている。
42ページ目:いったん破られ、つなぎ合わされた論文の表紙。コメントなし。
47ページ目:学内刊行物の抜粋。元のタイトルは不明だが、保存された本文の内容は以下の通りである。
「利己的な人間が知恵の終点を理解できないのは明白だ!たとえ誰もがこの広い学術の殿堂の一角を占めていると主張したところで、この俗世を形作っているものは結局人間であり、知識ではないということを、我々は理解すべきだ。媒体がなければ、知識は住処を失う。普遍的価値にはその名にふさわしい価値がある。大多数を否定しても、少数派の観点が認められるわけではない。例えば美学。美はずっと人の中にあった客観的な概念だ。一部の人間に理解されないからと言って、その価値を失うことはない。」
「自分自身を偉大な容器と考えているところが、まさに学者の狭隘なところだ。真理が個人のために存在している訳ではないと言うのは、分かり切ったことだ。この世の理は自然と共に在り、解釈されたかどうかに関わらず、それが変わることはない。客体の過信は自己開示とまったく同じであり、主体に自信がない現れなのだ。また、自身の観点に自信がある者は人称代名詞の複数形(例えば『我々』)を常用しない。俺なら一人でこの観点を十分に論証できると断言しよう。」
56ページ目:手書きの教令院の風景画。コメント:「もうここに戻ることはないだろう。でも、できればいつか、講師としてここに帰って来ることができたらいいな。」
次の二十ページは丸々、スケジュール表と図画付きのメモで埋まっている。筆跡は最初の方は整っているが、段々と雑になっていき、時間に追われていたことが見て取れる。メモを書いた人は仕事で忙しかったようだ。
85ページ目:ラフにしては繊細過ぎる、ある偉大な建築作品の設計図。コメント:「実行は可能だが、莫大なリソースが必要だ。細部を検討する必要がある。」
91ページ目:乱雑な落書き。めちゃくちゃになっている。コメントなし。
92ページ目:不動産の売買契約書。コメント:「衝動的だったと思う。でも、これが希望に満ちた可能性であることを考えると、どうしても抗えなかった。すべてがうまく行くといいな。」
101ページ目:いくつかの小さな落書き。コメント:「これでおしまいだ!書けない。明日はもう書かない。」
107ページ目:室内の設計図。ランバド酒場の二階のものらしい。コメント:「僕は果たして、もっと立派なことができるのだろうか?」
112ページ目:家賃の記録。コメント:「悪いことだとは言えないが、どうしてこうなったんだ!?あいつは絶対、理由もなく僕の身を引き受けたりはしない…ただ、僕はあいつに何ができるのだろうか?」
115ページ目:工具箱の設計図。コメント:「メラックは古代の言葉だ。これを工具箱の名前にしたい。『小さな光』という意味だ。何はともあれ、こいつが僕の言葉を本当の意味で分かってくれるといいな。」


神の目
学生時代のカーヴェは課題のために奔走し、幾度も同級生たちと様々な遺跡を訪れた。当時の参加者たちはみな若く、陵墓の奥深くまでは入れなかったが、収めた成果はかなりのものだった。
しかし、古代遺跡の探索にリスクは付き物だ。いくらプロとは言っても、参加した限りは、危険な目に遭うことは避けられない。とある調査の途中、学生たちのチームはかなりの危機ーー小部屋の崩壊に出くわしてしまった。カーヴェが、同行していた二人の妙論派の学生を陵墓から全力で押し出していなければ、彼らは中で命を落としていただろう。カーヴェ自身はと言えば、散々な目に遭った挙句、なんとか軽傷を負ったのみで脱出したが、同級生たちの気持ちの変化を止めることはできなかった。他人が成果を得られるようにカーヴェは手伝っているつもりだったが、結局大半の人は現状と己の能力の差に戸惑い、最終的には課題から降りてしまった。
カーヴェは「神の目」の存在を知っており、不思議な証は危険が訪れた際に与えられるものだと思っていたが、調査が進むなかで生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされてもなお、彼は神から眼差しを向けられず、己の力を尽くしてみんなを救い出した。
数年後、カーヴェは卒業して教令院を離れ、職に就いた。もう長いこと、彼は神の目のことや、それがどんな人間に与えられるかについて、考えなくなっていた。願いある者だけが、神の眼差しを受けられると言われている。しかし恐らく自分は、そういった人物ではないということだろう。
その後、カーヴェは味気ない日々を送っていた。彼はデザインで忙しくなり、一時的に追い詰められていた。芸術が認められず、彼は疲弊していたのだ。母はフォンテーヌで新しい家庭を築き、不動産やその他の財産を息子である彼に残した…どれも彼にはどうすることもできない、論ずる価値すらないようなことだったーー
アルカサルザライパレスが突如として現れた死域に破壊されたあの日まで。カーヴェは廃墟に座り込み、一晩中考えた。そして突然、とある考えが脳裏に浮かんだ。何も顧みず、すべてを捧げて目の前の夢を掴みたい…そう思った彼は家に戻り、関連機構に連絡して手続きを行った。偶然にも、不動産の売買がちょうど盛んな時期だったため、カーヴェは僅か半日で住宅を売却し、工事に投入するための資金を回収できた。
様々な雑用を処理し終えると、カーヴェは最後に長年生活していた旧宅に戻った。彼はピタパンで小さなアルカサルザライパレスを創り上げると、それをプレートに載せ、ソースとヨーグルトをかけて、精巧なデザートに仕上げた。
この料理は難しいものではなく、幼かったカーヴェは、父からこれの作り方を学んだ。しかし、父が亡くなってからは、あまり作らなくなっていた。今日はただの気まぐれで、久しぶりに味わいたかった。
厳密に言えば、これはカーヴェの一番好きなデザートではない。それでもこれを食べるために、築きあげられたアルカサルザライパレスを崩さなければならないとき、彼は喉の奥に苦いものを感じた。
そうして砕かれたピタパンの中には、輝かしい「神の目」が静かに横たわっていた。
カーヴェは信じられない心持ちでそれを眺めた。何年も遅れて、それはやっと彼の目の前に現れたのだ。それはあまりに眩しく、まるで天上にある幻の国のようだった。しかし幸い、それは理想と比べれば、こんなにも近くにある存在だ。

ガイア

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キャラクター詳細
ガイア・アルベリヒは、造酒名家「ラグヴィンド」家の養子である。
彼がディルック・ラグヴィンドを「義兄」と呼ばなくなってから、随分長い時間が経った。
今のガイアは、西風騎士団の騎兵隊隊長。頼れる行動派で、ジンから信頼されている人物である。
そして、このモンドで何かアクシデントが起こった時、その後始末をするのはいつもガイアなのである。


キャラクターストーリー1
面白いことに、この騎兵隊隊長と最も遭遇できる場所は、騎士団本部ではなく、夜の酒場だ。
ガイアはよく一人でカウンター席に座り、モンドで有名な混成酒「午後の死」を飲みながら、酒好きなモンドの住民たちと会話を楽しむ。
彼は、モンドの酒飲みと年寄りの間で特に人気があり、「安心して孫娘を託せる男」という称号すらある。
会話を楽しみながら、ゆっくりと酒を嗜む。これほど親しみやすい男を、西風騎士団の騎兵隊隊長と結びつけることは難しい。
ガイアの酒の相手は、すでにほろ酔い状態の狩人もいれば、酒好きな盗賊もいる。しかし警戒心がどれほど強い者でも、ガイアの前ではつい本音を漏らしてしまう。
その後が悪夢となるか、それともなんともない冗談で済むか、それは相手がうっかり話してしまった内容次第である。
「誰もが秘密を持っているが、皆がそれを正しく扱う方法を理解しているわけではない」
少し憎たらしい微笑みを浮かべながら、ガイアはそう言った。


キャラクターストーリー2
「正義は絶対的な原則ではなく、武力と策略のバランスによってできた結果だ。だからその過程で…あまり自分を追い詰めなくてもいいかと」
大団長ファルカの前で、ガイアはそう口にしたことがある。
結果が期待通りであれば、結末がどんな形であろうと、ガイアは気にしない。
その考えが、彼の型にはまらないやり方と、自由気ままな態度を作り上げた。まるで、刺激の強い「午後の死」のようである。
しかし、このような自分勝手なやり方は、多くの批判を招くものだった。
ある日、盗賊の首領を正面から討つため、ガイアは上古遺跡の守衛をわざと発動させ、敵の退路を断つことに成功した。しかし、それは同時に、自身と仲間を危険に晒すことになった。
こういう時、彼を信頼している代理団長ジンでさえも、頭を横に振るのだ。
しかし、ガイアはそんな事を少しも気にしていない。むしろ、他人に選択を迫られる状況を、楽しんでいるようにすら見える。
仲間が共に戦う時に見せた一瞬の迷いも、決死の戦いを前にした敵が恐怖を隠そうとする姿も、彼の大好物である。


キャラクターストーリー3
長い歴史を持つ醸造業はモンドに富を運び、そしてその富は盗賊と魔物を引き寄せた。
影に潜むそれらの根源は複雑で、集まる理由も様々である。モンドに侵入してくる盗賊と魔物に抵抗するため、ガイアは剣だけでなく、その頭脳とユーモアセンスをも駆使して敵を倒す。
ある若い騎士が、数年かけて観察し得た結果は、彼自身も信じられない内容だった──
名酒「午後の死」の出荷時期が過ぎると、城内外の襲撃報告は大幅に減る…
そしてそれは、次の「午後の死」が出荷されるとまた増える*始めるのだ。
若い騎士は緊張した顔つきで、報告書を情報整理に長けた騎兵隊長ガイアに見せ、彼からアドバイスをもらおうとした。
目の前の不安そうな騎士を見ながら、ガイアは怪しく微笑みながら答える。
「…いい考えだ、参考にさせてもらうぜ」


キャラクターストーリー4
普段のガイアはかなり饒舌な人だが、自身の過去に関することになると、口を固く閉ざしてしまう。
たとえそれが、大団長の命令であっても、彼は詳しく話そうとせず、当たり障りのない言葉で、自分の身の上を説明した。
「あれは十数年前、ある夏の日の午後。俺は父に連れられ、アカツキワイナリーの前を通りかかった」
「『ブドウジュースを買ってくる』そう言ったのを覚えている。しかし父は行ったきり、二度と帰ってこなかった」
「クリプス様が助けてくれなかったら、あの嵐の夜に、俺はもう死んでいたかもな」
理にかなった説明に聞こえるが、それは真実を隠すための嘘だ。
あの午後にあった本当の出来事を、ガイアは誰にも教えたことがない──
「これはお前のチャンスだ。お前は我々の最後の希望だ」
父親が彼の薄い肩を強く掴んでいる。
その目は、彼を通り抜け遥か遠い先を見ていた。
地平線の果てに、親子の故郷カーンルイアがある。
ガイアは、あの憎しみと期待が混ざった眼差しを忘れることはない。


キャラクターストーリー5
数年前、モンドにいた一際目を引く二人の少年を、今でも多くの住民が覚えている。
一人目は完璧な紳士、ディルック。在りし日の彼は、剣を執る優雅な剣士で、優しい笑顔と自信に溢れる姿が印象的だった。
もう一人は異国の風貌を持つ庶務長ガイア。あの時の彼はディルックの友人、協力者、そして「頭脳」であり、ディルックの戦いの後始末をしていた。
彼らは、まるで心が通じ合う双子のように、表と裏からモンドを守り、一度も失敗したことがなかった。
…あの暗い日までは。ディルックが護衛をしていた馬車隊が、森で魔物の襲撃を受けたのだ。
あれは、ガイアにとって初めてで唯一の失敗だった。
彼は急いで現場に向かったが、到着した時はもう何もかもが終わっていた。
彼とディルックの「父親」は、正体不明の力を操って魔物を撃退したが、その力の反動により命を落とした。
ガイアもディルックも目の前の光景に呆然とし、騎士が持つべき冷静さを失っていた。
「クリプス様のような人でも、危険な力に手を出すとはな。」\*悪い考えが頭をよぎり、ガイアは微笑んだ──
「この世界は、本当…面白い」
共通の「父親」を失った夜、二人の少年は別々の道を歩き始めた。


ある名簿
騎士団の公文書に書かれた名前のリストが、『アンゲロス探偵集』に挟まれている。
リストにはモンド内や郊外の盗賊、傭兵と宝盗団の中高層人物の名前及び、その活動範囲や個人情報が記載されている。
そのうちの十数人の名前が丸で囲まれており、隣に「退屈すぎるとまずいから」と書かれていた。
このリストに対しガイアは「酔っ払って適当に書いたのだ」とコメントした。
ガイアが、わざとこのリストを見せてくれた気がしてならないと思うが、その証拠はどこにもないのだ。


神の目
ガイア・アルベリヒが「神の目」を手に入れたあの夜、モンドの空から大雨が降っていた。
この日の午後、クリプス・ラグヴィンドが無理やり邪な力を使用し、結局「邪眼」のフラッシュバックに襲われた。父を苦しみから解放しようと、ディルック・ラグヴィンドは自らの手で父にとどめを刺した。
養子であるガイアは隣で見ていただけであった。養子の彼は親子の惨劇に溶け込めなかった。
あの夜、クリプスを弔うようにモンドの空から大雨が降っていた。
ガイアには人に知られていない一面がある──彼はカーンルイアがモンドに送り込んだスパイであった。この使命を果たすために、生みの父はガイアを異国に見捨てた。当時のガイアを引き取ったのはクリプスとモンドであった。
カーンルイアとモンドが戦争になったら、どっちにつく?自分を見捨てた生みの父と自分を引き取ってくれた養父、どっちを助ける?
長い間、ガイアはこの答えのない問題で苦しんでいた。本音を言わない彼にとって、忠誠と使命、真心と幸福は同時に手に入れない。
だがクリプスの死がこのバランスを崩した。苦しみから解放されたと同時にガイアは自分の利己的な気持ちを恥と思った。養子であった彼はクリプスを救うべきであったが、彼は間に合わなかった。義兄弟として彼はディルックと共に苦しみを分かち合うはずであったのに、彼はただ後ろに隠れて古い陰謀を考えていた。
罪悪感に追われて、ガイアはディルックの部屋のドアを叩いた。土砂降りの雨が嘘の匂いを洗い流し、ガイアの秘密は暴かれた。
ディルックが憤るのをガイアはもう予想した。兄弟二人が剣を抜き相手に向けた。嘘つきの報いだと、ガイアは心に思っていた。
だが戦いが始まると、ガイアは初めて身体中に迸る凄まじい元素力を感じた。今までディルックの影響で彼はずっと自分の実力を隠していた。全力を出して自分の兄と向き合ったのは今回で初めてであった。
冷たくて、脆い元素の力が剣先を経由しディルックの炎へと。赤と青の力がぶつかり、凄まじい嵐を形成した。そしてガイアの「神の目」はこの時に誕生した。
あの日から、ガイアと彼の義兄弟の間に少し変化が起こった。だが彼は一切口にしない、自分の「神の目」の由来を教えないように。
たとえそれが全力の一戦の記念、家族に本音を語った結果でも、ガイアはそれを自分への警告としか思っていない。そして嘘の重みを背負いながら生きていくと。

楓原万葉

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キャラクター詳細
楓原万葉という人間に初めて会った時、ほとんどの人は「南十字」武装船隊の見習い船員だと思うことだろう。
万葉は温厚な性格の持ち主であり、暇を見つけては詩を吟じ、人と会話するときも気ままに語るからだ。彼が稲妻幕府から指名手配されている危険人物であると誰が想像できるだろうか。
温厚な少年から繰り出される刃はとてつもなく鋭い。人の心を読むのが得意な船長の北斗でさえ、万葉を受け入れる判断を下すまで彼が百戦練磨の強者であることを見抜けずにいた。
風と雨が、その少年の尖った部分を削ったのか、それとも彼が自身の尖った部分をわざと心の内に隠しているのか、それは誰にもわからない。


キャラクターストーリー1
璃月の「南十字」武装船隊は一年を通してほぼ海に出ているため、船員たちは皆、異国の地を目にすることに慣れている。それどころか、旗艦「死兆星」号には他国出身の船員もいるほどだ。
その船員は「死兆星」号が稲妻の港ーー離島に停泊した時に加わった。
船長の北斗はその若者と親交があり、彼がやって来るや否や「こいつはしばらく船に滞在する、みんな面倒を見てやってくれ。」と部下たちに告げた。
船員たちは、北斗の人を見る目を信じて疑わない。それに、その稲妻人は武芸に秀でており、さらに天候の移り変わりを見抜く力を持っていた、たとえ彼の素性がわからなくとも、彼が船に滞在することをみなは受け入れた。
しかし、隠されたことを知りたくなるのが人の性というもの。船員たちは彼の素性を知ろうと、様々な口実を作って過去を探った。
「稲妻で作られた刀っつうのは、切れ味が半端ねぇって聞いた。身分が高けれ高いほど業物を持てるらしいんだが…お前の刀はどうなんだ?やっぱり凄いのか?」
「……」
ただ、返ってくるのは沈黙だけ。
いくら探ろうとも答えが返ってくることはなく、船員たちは次第に諦めかけていた。
しかし数日後、重佐という一人の船員が放った何気ない文句に対し、意外にも言葉が返ってきた。
「おい稲妻の、名前を言わないんじゃ、どう呼べばいいかわからんだろ…」
船員はタコだらけの手で汗を拭いながら、愚痴をこぼすように言った。
「姓は楓原、名を万葉と申す。元は浪人であった。拙者を受け入れてくれたこと、誠に感謝いたす。万葉と呼んでくれて構わぬでござるよ。」


キャラクターストーリー2
万葉は平民の出身ではない、彼はかつての稲妻における良家――楓原家の末裔である。
数々の一族が名を連ねる稲妻城で、楓原家は強大な力を誇っていた。しかし、時代とは移ろいゆくもの。万葉が家督を継いだ時には、楓原家は廃れた荒山のようにすでに衰退していた。
当時の万葉では手の施しようもなく、借金で屋敷は差し押さえとなり、家来は散り散りとなってしまった。しかし、彼は逆に胸をなでおろしたという。これを機に浪人となり、世を渡り歩くのもいいと思ったからだ。
山や竹林、自然の中を巡ることは万葉の夢だった。彼は幼い頃から、自然の美しさと趣を心地良く思っていた。
万葉にとって、自然は静かなものではない。それらはいつも独特な言葉で心情を語っているのだ。
風が突如止み、すべてが静まり返る。即ち空が涙を落とす前の静けさ。澄んだ泉が跳ね上がり、地面が揺れる、即ち大地の怒りの表れ。
これらは自然が彼に授けた特別な感性である。万葉は生来、名声や誉を追い求めるような性格ではない。一族の負担が肩から下りたからこそ、気ままに旅へ出ようと、そのように考える人間だった。
こうして、中庭の落ち葉が風に乗って空へ舞うように、万葉は旅に出た。


キャラクターストーリー3
旅をするには、ある程度の技能が必要である。風の音を聞き、雲を眺めることは、万葉の十八番だった。
稲妻城を離れた後、万葉は各地を旅した。旅に出てからというもの、何もかもが一変した。天と地、山と海が彼の最も親しい住み家となり、雲の下を歩きながら風と水の音を聞くことで、身も心も癒されるようになっていった。
旅の途中で見聞きしたものは、旅をより一層新鮮で刺激あるものにした。そのような心境の中、万葉は南方のとある山を訪れた。
初夏、雨の多い季節、山道はぬかるんでいた。日が暮れていくのを見て、雨をしのげる場所を探していた万葉は、道の先に小さな小屋があるのを発見した。
旅の途中で偶然出会い、行動を共にしていた商人は、その小屋を見るなり興奮して甲高い声を上げた。「おい、見ろよ万葉!泊まれる場所があるぞ!」
しかし、万葉は黙っていた。しばらくして、万葉が口を開く。「拙者の意見を聞くのであれば、行かないことをお勧めするでござるよ。」
雨に濡れたくなかった商人は、万葉を置いて一人小屋へと駆け出す。
商人が戸を叩くと、中から美しい女性が現れ、彼を小屋の中へ招き入れた。香りのよいお茶、美味しい食事、暖かい布団、それらすべてを用意してくれた。
あまりの心地良さから、商人は食事をしている内に眠くなってしまい、そのまま眠りについたという。
目を覚ましたのは夜明けと同時だった。頭上にあったはずの屋根はどこかに消え、陽の光が直接顔に当たっていた。微笑みながら自分を見下ろす万葉が商人の視界に入る。
商人が口を開けて言葉を発しようとした瞬間、大量の木の葉と泥が口の中から吐き出された。暖かい布団などどこにもなく、あるのはぬかるんだ地面だけ。
「家屋のある場所では、風の音が他より小さくなるのでござる。しかし、あの小屋を前にしても、風はいつも通り吹いていた。拙者が思うに、おそらく化け狐による仕業だったのでござろう。…やはり旅をする時は、風の音に耳を傾け、目を見張ることが大切でござるな。」万葉は笑いながらそう言った。


キャラクターストーリー4
万葉は旅の中で数々の友と知り合ってきた。その中でも、ひと際強い絆で結ばれた者と、しばしの間行動を共にしていたことがある。
しかし、万葉とその友の目的地は異なっていた、旅の途中で二人は別々の道を行くことになる。
偶然の出会いではあったが、心の通ずる友であった。一度は別れたものの、またいつか会えるだろうと、万葉はそう思っていた。
だが、後に起きる出来事により、万葉のその思いは無残にも瓦解する――神の目を狩り尽くす「目狩り令」が将軍により下されたのだ。
万葉をはじめ、「神の目」を所有する者たちは皆、恐怖を感じた。彼らは身を隠しながら日々を過ごした。
そんなある日、万葉は耳を疑う話を聞くことになる。それは、ある人物が「御前試合」に挑もうとしているというものだった。そして、その人物とは万葉の友。
敗者は将軍によって罰せられるのが「御前試合」である。万葉の友は強者に勝つため、そして勇猛さとは何かを世に示すため、危険を顧みず御前試合に挑むことを決心したそうだ。
しかし今の時世、「御前試合」を仕掛けた本人が敗れれば、将軍の下す雷により命を落としてしまうかもしれない。
普段、冷静さを欠くことのない万葉でさえ、その時は動揺を隠せなかった。刀を持ち、天守閣へと乗り込む万葉。だが、時はすでに遅く…
刀は折れ、神の目は抜け殻となっていた。断腸の思いでその場を離れる万葉であったが、将軍に目を付けられ幕府のお尋ね者となる。
それ以降、万葉は幾度となく戦いに巻き込まれることとなり、生活は一変してしまう。
戦うことを恐れはしなかった、ただ延々と続く果てのない戦いに万葉は虚しさを覚えていた。
だが、彼は友を助けるため行動したことを決して後悔していない。自分を残し、勇猛な英雄として世を去った友を責めることもない。しかし…
「仁義を貫くためには、こうも他者と争わねばならぬのでござるか。」


キャラクターストーリー5
現在、万葉は「南十字」武装船隊の一員として、海上を旅している。
時に厄介事に見舞われることもあるが、「南十字」の船員たちのおかげでそれらも難なく解決ができている。
「死兆星」号の高い見張り台の上に座り、紺碧に染まる海と空を眺めながら、ようやく過去の日々を振り返る整理がついた。
刀を振り、自らの名誉を勝ち取る――武士たちは皆、そうした激動の生涯を望んでいる。
しかし、それらの中には欲望に駆られ「仁」や「義」を蔑ろにし、刀を使って果てのない憎しみに駆られる者も存在する。
世界は生きとし生けるものすべてに血肉を与え、神はその命を守ってきた。だがそれは決して、人々に刀で争わせるためではない。
己が持つべきは、人を殺す剣ではなく、人を活かす剣でなければならない。
武士の一生を懸け、そのただ一つの信条を守る、それが自らの歩む「道」。
そんなことを考えているうち、万葉は詩を書きたくなり、その言葉を座右の銘として残そうと思った。しかしその時、甲板から不満げな声が聞こえてくる。
「万葉、見張り台で空ばっか眺めてないで、降りて手を貸してくれ!」
操舵手の海龍が彼を呼んでいた、座右の銘についてはまたの機会に考えるとしよう。


神の目の抜け殻
あの大戦の中、「神の目」が一瞬光ったことに万葉自身も驚いた。
誰かの手を借り、再びこの「神の目」に光を灯したいと思ってはいたが、まさか最終的に自分の手で灯すことになるとは思ってもいなかったからだ。それはまるで、かつての友が後ろから支えてくれているかのような感覚だった。
「神の目」の抜け殻はそれ以外にも、万葉に様々な出会いをもたらした――
抵抗軍に迎え入れられ、姉君に救われ引き取られた。そして、噂の旅人にも出会うことができた…
この世に生きる以上、波乱に満ちた経験をすることもあるだろう。しかし、恵まれた出会いというものは確かに存在する。
山道のように勾配が厳しく、苦難に見舞われようとも、いつの日か雲の上へと至る時は必ず来る。それが人生というものなのだ。


神の目
早朝、霧のかかった崖とその小道、そこを万葉が一人歩いていた。
辺り一帯は静寂に包まれ、鳥の羽ばたきも虫の鳴き声もない。打ち付ける波ですら寝静まってしまったかのように、風の音だけが聞こえた。
その中で万葉は舌を出す、湿った重苦しい味を空気中に感じた。
雨が降る、そう万葉は悟った。
顔を上げ遠くを眺めると、視線の先に煙の立ち上る家屋がいくつか見えた。今夜はきっと宿にありつけるだろう。
万葉は家屋に辿り着くと、大雨が降ることをそこの家主に伝えた。最初は家主も半信半疑であったが、昼を過ぎたあたりから突如大雨が降り始める。
家主はこの旅人にいたく感心し、食事と寝床を提供してもてなした。
夜になり、窓の外は澄んだ空気で包まれていた。万葉は布団の上に寝そべり、雨が秋の葉を叩く音を聞きながら思いにふけっていた。
楓原家の財が底を突き、跡取りである万葉が旅に出てから、彼はいくつもの島を巡り、旅をする者の困難を数多と知ることになった。
稲妻の島々を行き来するには、本来海を渡る必要がある。しかし一人孤独に旅をする万葉は、自身の力のみで小舟を漕ぎ、ゆっくりと海の上を渡るしかない。向かい風や雷雨、数々の試練が旅を危険なものにしてきた…。
心が「空」であれば、天地万物すべてが「空」となり、心が「浄」であれば、天地万物すべてが「浄」となる。
手には刀、心には道、それさえあれば彼は何も恐れず、詩を吟じながら自身の道を歩んで行ける。
そうして気持ちを新たにした彼は、満ち足りたかのように深い眠りについた。
翌日、鳥のさえずりで目覚めると、万葉の腕の中には光り輝く神の目があった。

カチーナ

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キャラクター詳細


キャラクターストーリー1


キャラクターストーリー2


キャラクターストーリー3


キャラクターストーリー4


キャラクターストーリー5


◯◯◯◯


神の目

神里綾華

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キャラクター詳細
稲妻城で最も崇高なる三大名門の一つ――神里家を受け継いだのは、二人の兄妹である。
兄の綾人は「当主」として政務を取り仕切り、妹の綾華は「姫君」として家の事務を担当している。
綾華はよく社交場に現れるため、民衆との交流も多い。結果、人々により知られている彼女の方が兄よりも名声が高く、「白鷺の姫君」として親しまれている。
周知のように、神里家の令嬢である綾華さまは、容姿端麗で品行方正な人物であり、人々から深く慕われている。


キャラクターストーリー1
稲妻では、雷電将軍のところまで届かぬ事務は、そのほとんどが「評定所」によって処理される。
「評定所」の議事権利は三家に分かれており、三奉行と呼ばれている。すなわち――「社奉行」、「天領奉行」、「勘定奉行」である。
この3つの奉行権利を有する一族の名が、神里、九条、そして、柊。稲妻で知らない人などいないほど有名な御三家である。
そして神里綾華は、まさに社奉行神里家の令嬢、かの有名な「白鷺の姫君」だ。
なぜ彼女が白鷺の姫君と呼ばれているか、稲妻人はそれぞれ違った解釈を持っている――
「綾華さまは白鷺のように優雅で高貴な方です。見てください、あの澄んだ美しいお姿、知的で丁寧な言葉遣い。まさにお姫様ではないでしょうか?」
「綾華さまは、身分が高いとはいえ、私たちにも礼儀正しく、親身に接してくれるんです。彼女は優しくて寛大で、人々に手を貸すことを惜しみません。知ってますか?周りの反対を押し切って、庶民であるトーマさんを引き取ったのも彼女なんですよ。」
数々の意見があるが、「白鷺の姫君」の名の由来について、正確に言える者は誰もいない。
ただ、綾華が人々に慕われていることだけは、一目瞭然だろう。


キャラクターストーリー2
社奉行神里家の娘として、綾華は常に公家同士の権力争いに気を配らなければならない。
彼女は若くして天下に名を馳せた。そのため、時に、神里家兄妹に嫉妬する名門の子息たちに挑発されることもある。
公共へと向けた印象を作ることは、本来は形式主義である。だが神里家の場合は、その地位から、そのように無意味な慣習でも社会的な重要性を持っている。
稲妻の関係網に参加しなければ、社奉行の地位が揺らいでしまう。そのため、兄妹はあることに対して合意に達した。
兄の綾人は政務で忙しく、顔をあまり出さない。神里家の公共の場での印象は、上品で社交的な妹の綾華に任せている。
控えめでおしとやか、礼儀正しく優雅な綾華は、社交的な場での地位を確立している。潜在的な仕事相手との交渉も、気難しい貴族とのやり取りも、彼女は上手にこなし、非の打ち所がない。
また、お家の内部の事柄も、ほとんど綾華が管理している。彼女がいなければ、家はとっくに混乱に陥っているだろう。


キャラクターストーリー3
ある秋の午後。綾華が用事を済ませて家に帰る途中、偶然にも古い屋敷の中から年老いた歌声を聞いた。
屋内に住んでいたのは失明した老婦人だった。やせ細った指で弦をつま弾き、木製の琴から出る音はまるで水の流れのようだった。
耳が良かったからか、老人は足音に気付くと、門の外の人が誰なのか尋ねた。綾華は彼女に迷惑をかけたくないと思い、自分はただの迷子で、誤ってここに入ってしまった近所の住民だと告げた。
社奉行として、綾華は民をよく知っている。一目見てすぐ、この子供のいない老人が、よく晴れた日に路上で弾き語りをして稼いでいる人だと気付いた。
古くて時代遅れの曲、歌も然り。目が見えない老人は、すでに他人とは随分遅れている。永遠を追求する国にすら、このような苦労をして生きている人がいるのだ。
好意から、綾華は自身の身分を隠して老人と話をした。老人は彼女を普通の少女だと思い、琴の作り方や弾き方を教え、さらには自分が集めていた茶葉を分けた。
神里家に常備されている極上の茶葉と比べ、この粗茶は草の葉程度のものだろう。しかし綾華はそれを大事に受け取り、何度も老人に礼を言った。
この日、彼女は何度も両親のことを思い出していた。もしまだ両親が生きていたら、このように歳を取っていたのだろう。
家に帰った綾華はこのことを兄の綾人に告げ、老人から贈られた粗茶を二人で飲んだ。
その後、綾華は一定の期間ごとに老人に会いに行った。依然として付近の住民の名義で、彼女のために平民が愛用する生活必需品を贈っていた。
「町の緋櫻が咲きました。」綾華は微笑みながら老人に言う。「貴方の琴の音と同じように、美しく。」


キャラクターストーリー4
一般的な想像では、武家の生活は庶民とは桁違いのものだと思われているだろう。ならばきっと、高貴な神里綾華も、極めて贅沢な生活を送っているに違いない。
しかし、その考えは半分しか合っていない。
形から見れば、綾華の生活は確かに普通の民より凝っている。
普段は華道、茶道、名茶の試飲、珍しい花の鑑賞など、多くの費用がかかる。しかし、それは武家の令嬢として備えておくべきスキルであり、「放漫」というわけではない。
真に綾華を笑顔にすることができるのは、まさに庶民でも楽しめる普通のことだ。
お菓子を作ったり、池で金魚すくいで遊んだり、隠れて八重堂の最新小説を読んだり…どれも些細なことである。
そのような時の彼女は、人々に慕われる白鷺の姫君でも、神里家の屋敷を取り仕切る綾華さまでもなく、ただの「少女綾華」なのだ。
厳かなイメージを脇に置き、気ままに自身を表すこと。「少女綾華」として居る時だけ、重責を下ろすことができる。
深夜にお腹が空けば、使用人を避けながらこっそり厨房へ行き、歌を口ずさみながらお茶漬けを作る。茶道の授業の時、こっそりと茶葉の形で恋愛運を占う…などなど。
これまで誰にも言ったことはないが、綾華は自身が普通の少女でいる時間をとても大切にしている。なぜなら、このような自由な時間は滅多にないからである。


キャラクターストーリー5
様々な技能で綾華を指導している先生方は、みな、満足そうに言う――茶道、剣道、棋道、それらのいずれにおいても、綾華は完全に習得していると。
彼女は文武両道で、容姿端麗な武家の令嬢なのだ。そんな学生を指導できるのは、指導者としても嬉しいことに違いない。
しかし…本当に後悔はないのだろうか?綾華は静かにそのことについて考える。
茶の心、和敬清寂な正の心。
剣の心、鋭く勢いのある武の心。
棋の心、状況を判断する慧の心。
茶の心、剣の心、棋の心、すべて彼女の心である。それに加え、友人に対する真心も持っている。
綾華は彼女と同等に接し、肩を並べられる友人が現れることをずっと待っている。
その者は彼女を「社奉行」や「白鷺の姫君」とは見ず、礼儀や地位に制約されることもない。さらには数々の知識を知っていて、数々の物事を見てきた経験があり…時には、彼女に物語を聞かせるだろう。
そのような者こそ、彼女の親友になれるのだ。
「難しいことではないと思いますが…このようなお方は、いったいどこにいるのでしょうか?」


杜若丸
「あんたがたどこさ」
「稲妻さ、稲妻どこさ」
「神櫻さ、神櫻どこさ」
「影向さ」
「影向山には手まりがあってさ」
「それをみんなで遊んで取ってさ」
「見てさ、持ってさ、投げてさ」
「それを綾華ちゃんのもとへ」
これが幼少期の綾華が最も好きだった童謡である。
当時の彼女は最も気に入っていた手まりに「杜若丸」という名を付けていた。毎日色彩鮮やかな杜若丸を叩いて遊んでは、童謡を歌っていた。
綾華の歌声を聞くと、父と兄は思わず微笑む、彼女の遊びに参加する時もある。家族みんなで輪になり、順番に手まりを投げる。
しかしそれはすでに遠い昔のことだ。今の綾華はもう手まりで遊ぶことはない。
彼女は今や、一人前の大物だ。子供時代を象徴し、貴重な思い出が詰まった杜若丸も、綾華のたんすの中に仕舞われている。


神の目
何年も前、一族に大きな変化が起こり、兄の綾人に重責がのしかかった。その時、綾華はまだ今のように大人びておらず、能力もなかった。
彼女は元々、遊びが好きな子供であり、一族の責任などは知らず、様々な人物とやり取りをする技能も経験も不足していた。
しかし、病床の母と疲労した兄を見て、綾華は思ったのだ――一人前に成長しなければ。
そして彼女は、長い間やっていなかった剣術や詩と再び接した。これは武家としての基本的な教養であり、この二つを習得できれば、彼女はきちんとした神里家の令嬢として見なされ、兄の代わりに祭典などの場に出席することが可能になる。そうすれば、兄の負担も多少なりとも肩代わりできるだろう。
綾華は並外れた才能を持っているわけではない。かつては詩を覚えられず、字が綺麗に書けず、剣術も上手く繰り出せないことで悩んでいたほどだ。
しかし彼女が動揺したことは一度たりともない――一回で覚えられなければ五十回覚え、一回で上手く書けない字は五十回書き、一回で上手く繰り出せない剣術は五十回練習する。
「何千回も磨かれた素振りを止められる者はいない。」――それが、母が言った言葉であった。
母が亡くなってから、彼女は子供の綾華ではなくなった。今の彼女は、神里綾華。将軍の下にある三家の一つ、社奉行神里家の令嬢なのだ。
剣術の訓練はすでに日常生活の一環となっていて、始めた日から今まで、途切れたことはない。
何日目だろうか、綾華はついに敵を一撃で倒すことができるようになった。その瞬間、氷の花が道場内に咲き乱れ、道場の中心にいた彼女の刀の先には、氷のように明るい「神の目」がぶら下がっていた。
何千回も磨かれた素振りを止められる者はいない。それは、神さえ動かすことのできるものかもしれない。

神里綾人

開く

キャラクター詳細
三奉行の一人――社奉行神里家当主、神里綾人の名を稲妻で知らぬ者はいない。
しかし、優雅で心優しい「白鷺の姫君」綾華とは違って、兄・綾人に対する民衆の認知ははっきりとしたものではない。
人々はただ、彼が幕府の重鎮であり、名門貴族の当主であることしか知らないのだ。彼の詳細について聞かれた時、誰もが皆口をつぐんでしまう。
ある者はこう言う――「社奉行が主催する祭事や催しは、少しも手抜かりがない。それに、近隣住民の面倒もよく見てくださる。きっと奉行様の苦労あってのことだろう。」
しかし、またある者は言う――「ちっ、官界には公にできないもんが数多くある。裏のやり口を知らなけりゃあ、高官になんてなれないのさ。」
ただ、それらの言葉を神里綾人本人は気にしていない。
「私はただ…将軍様の下で真面目に仕事をし、職務を全うする役人に過ぎません。」


キャラクターストーリー1
稲妻名門の長男である神里綾人は、生まれた時から愛されて育ってきた。
両親は執務で忙しく、常にそばにいるわけではなかったが、それでも彼の面倒をよく見ていた。もちろん、日頃から「坊ちゃま」に色々と気を配ってくれた者も数多くいた。
年を重ねて少し大きくなると、綾人は父の求めに応じて、一族の「後継者」に足る能力を基準とし、複雑で難解な勉学に励んだ。
しかし、負担の大きな政務と一族復興の重圧から父は過労で重病を患い、不幸にも早くに逝去してしまう。
まだ年若かった綾人は、一族の地位が危機に瀕している中、権力争いの渦中へと身を投じることになったのである。
当時、まだ駆け出しであった若き青年に期待の目を向ける者など誰一人としていなかった。神里綾人は裕福な家で育った貴公子から、巷で噂される「神里家の可哀想な坊ちゃん」、そして政敵からは鼻で笑われる「見込みのない小僧」と呼ばれるようになった。
だが、その者たちの考えが間違いであったと、時間が証明することとなる。
当主の跡を継いだ神里綾人は、並々ならぬ大胆さと一流とも言える手腕によって、神里家の衰退をくい止め、一族の地位をより確固たるものにしたのだ。
手が回らなくなるほどの激務や悪意の潜んだ欺瞞、至る所に蔓延る詭謀…彼はそれらすべてを払いのけ、さらには自らに有利に働くよう利用した。
時が流れ、幕府と民から寄せられる社奉行神里家への声誉は、ますます高くなった。
今の神里綾人は紛うことなく、稲妻名門の筆頭格たる神里家の「当主」であり、要職に身を置く「社奉行様」だろう。


キャラクターストーリー2
社奉行は鳴神の祭祀を司り、また文化や娯楽活動の管理をしている。神に通じ、民衆と心を通わす、筆頭格に恥じぬ存在だ。
無論、携わる領域が広まれば、仕事の量が増えるのは必然のこと。
ただ幸いにも、妹の綾華が兄に代わって家業の大半を引き受け、社奉行と民の間でされる交流をほとんど担ってくれている。そのおかげで、綾人はより政務に専念できるようになった。
幕府の役人との交渉は簡単なものではない。所属する奉行、一族、立場、そのすべてが各々で異なっている。一つの事柄に対して関わる者が多ければ多いほど、それを遂行するのは困難になる。
綾人の強みは、それら事柄の対処に長けているところだ。彼からしてみれば、人の行動はすべて利益に準じたものであり、要所さえ押さえていれば、相手を妥協させることができるという。
標的に狙いを定め、相手を自分の理論に引き込む。そして建前を織り交ぜながら諭し、少しばかりの恩を売れば大方の問題は解決する。
もし仮に相手が考えを変えない頑固者であっても、より強い勢力を引き合いに出して制圧すればいい――どれだけ地位が高く、尊大に構えていようとも、天の威光を揺るがせる者などいない、そうは思わないだろうか?
教養があり、礼儀を知る神里家当主は、やがて幕府の中で高い名声を手に入れた。
「これは…なかなかに難題だな。社奉行様に聞いてみたらどうだ?」
人々は常々そう口にする。
ただ、数多の手段を持つ綾人ではあるが、いつでも手を差し伸べるというわけではない。
すべての事柄が社奉行と関わっているとは限らないからだ。その上、他の勢力の僅かな利益のために、神里家を巻き込むのは割に合わないだろう。
大半の場合、綾人が熱い茶を手に持ちながら微笑みを携え、相手を立てつつ話に付き合うだけに留まる。
「まあまあ、長岡様、そう腹を立てる必要はございません。皆さん将軍様のために動こうとしているのです。他意など誰も持ってはいません。腹の内を明かして話し合えば、必ずや共に解決できるでしょう。」


キャラクターストーリー3
その身分と仕事の制限から、神里綾人が人前に姿を見せることはあまりない。町中を出歩く時間も滅多に取れないほどだ。ただ、それら制限は彼の新しいものを追求することへの妨げにはならない。
――朝起きて剣の稽古をしていると、たまに八重堂の者が門の外からこちらの様子を伺っているのが見える。どうやら、また「報告の作業」に来たようだ。そんな時は気付かぬふりをして、彼女がどのような新しいサボり文句を口にするのか聞く。機会があれば、それを「さりげなく」八重宮司に伝えるのもいいかもしれない。
――天守閣へ足を運び、時代後れの頑固者たちと会合をする際、発言を急ぐ必要はない。いい歳をしながら顔を赤くし、些細な利権や利益で争っているのを見るのは、実に愉快だからだ。
――町の辺りまで来て、ふと独特の感性を持つ屋台があることを思い出す。新しい料理はないか、商売はうまくいっているかを店主に尋ね、新商品を試しに買って味見をする。それが興味深いものであれば、家の者にも少し持ち帰る。
――近ごろ花見坂一帯でよく見かける鬼族の青年は、虫相撲の腕があまり達者ではないようだ。親切心から少し励ましの言葉をかけてやり、彼を立ち直らせる。何気ない雑談の中で、この赤鬼が「綾人」という名が何を意味するのか知らないことに気付いた…だがそれでいい、改まって説明する必要などない。
――帰り道、鎮守の森を歩いていると、妖狸にいたずらされている通行人を偶然見かけたため、その幻を見破った。もしも今後、妖狸たちの変化の術がより熟練されることになったら、自分に感謝してほしいものだ。
――たとえトーマほど有能な者でも、夕食の献立が思い浮かばない日がある。そんな時には、鍋遊びを提案する絶好の機会だろう。綾華は毎回、予想だにしない食材を入れてくる。さすがは自分の妹。
これらすべてが、社奉行様の楽しみなのだ。


キャラクターストーリー4
執事と家司の尽力により、神里屋敷は内も外も整然としている。しかし、ただ一か所を除いて――
神里綾人が使用した後の文机は、いつも散らかっているのだ。
無造作に広げられ、そのまま伏せられた本。雑多に積み重ねられた大小様々な書類。使用後の硯と墨汁も片付けられておらず、文机の下には将棋の駒や紙札が散らばっていることもある。
当主様が執務を終えると、使用人たちは毎回、文机や書斎の片付けに時間を費やすことになるという。
その時、乱雑に置かれた紙の間に小さな便箋が挟まっているのをよく見かける。手に取ってそれを見てみると、便箋の筆跡はすべて異なり内容も様々。
「若、家来からまた新鮮な花が届きました。花瓶を置くために机の一角を少し片付けておいたので、また倒してしまわないようお気を付けください。」
「当主様、本日は鳴神大社の巫女がいらっしゃいました。宮司様からお願いがあるそうです。とても重要なことらしく、離島の一部地区の収用に関する内容のため、神社へとご足労いただきたいとのことでした。」
「奉行様、『百代』未だ枯れず。枝はまだ伸びております、ご安心を。」
「お兄様、この間、旅人さんと一緒にお祭りへ行き、新しい料理を覚えました。旅人さんが異国からいらしたことを考慮して、料理に手を加えるべきか迷っています…お兄様はどう思いますでしょうか?」
「当主様、使用人たちではこの件を口にする勇気がないようなので、この婆やからお伝えさせていただきます。食べたいものがあれば、どうぞ何なりと家司にお申し付けください。勝手に厨房の食材を使うのはどうかご遠慮いただきたく存じます…当主様に料理をさせるわけにはいきません。皆が困惑してしまいます。」
神里綾人は多忙なため、朝早くに出て、夜遅くに帰ることが多い。彼に会えない時、神里屋敷ではこのようにして彼と連絡を取っている。
これは綾人が考えた方法である。神里家ではこの小さな便箋が、屋敷全体を支えているのだ。
ただ残念なことに、この方法を使うと元より散らかっていた当主様の机が、さらに散らかることになる…しかし、気にすることはない。これは些細な犠牲に過ぎないのだから。


キャラクターストーリー5
稲妻では、とある柏木の葉を神に捧げて祈ることがある。
ただ、神を祀る儀式は稲妻に数多とあるため、規模の小さいものはよく見過ごされてしまう。
もう随分と昔のことだが、綾人には今も忘れられないことがある。それは母から聞いた話だ。その柏木は常緑の高木であり、葉は針状ではないらしい。葉は大きく、葉脈もとてもくっきりとしている。新たな葉が芽吹いても、古い葉が色褪せることはない。
そのため、それは「繁栄」を意味し、古くは食べ物を捧げる際の器としてよく使われていたそうだ。
現在では料理の盛り付けに葉を使うことはなくなったが、柏木の葉を捧げる習慣はそのまま残っている。
趣味の影響か、あるいは元より見聞が広く、知識が豊富だったからか、母はそれら祭礼のことになると淀みなく流れるように語る。
「神里家が代々社奉行を管理しているのは、生まれながらにして神を守る存在だからかもしれないわね。」
それに対して、幼い頃の綾人は完全に同意することができなかった。
神里家は神里家であり、家族のいる場所であると彼は考えていた。一族は家族がいてこそ存在するのであって、神に仕えることはただ流れに従って行う仕事に過ぎない。
しかし、このようなおこがましい考えを口になどできなかった。それに、興に乗って話をする母を遮るのはとても忍びない。
母がどんなに長く話しても、綾人は母の前に正座し、足が痺れても最後まで静かに聴いた。
歳月は流れ、綾人が成長すると、日々の時間を剣術と書物に費やした。「講師」は母親から父親に変わり、内容も祭礼の知識から一族の後継者に求められる必須科目へと変わった。
一族の責任という概念が、次第に綾人の生活における割合を占めていく。「雷電将軍」への認識も、もはや童心の中に浮かぶ幻想ではなく、正真正銘実在する神――稲妻の永遠と平和を守る大御所様となった。
「かつて、鳴神の恩恵を受けたことで、神里家は今日まで存続することができた。そのため何があろうとも、神里家は『永遠』の道を守護し、永久に将軍様に付き従う。」
「これは既に定まった約束であり、破ることの許されない一族の掟。しかと心に刻んでおきなさい。」
先祖の教えを読んでいた綾人は、その理由を既に少し理解していた。神里家の先祖が職務を疎かにした結果、国の重要な宝である「雷電五箇伝」に多大な損失を及ぼしてしまったのだ。八重宮司の進言によって将軍様の許しを得られていなければ、神里家は他の没落した有力者たちと共に消滅していただろう。
これは大御所様からの恩賜であり、神の眷属からの警告だった。
そのため、父の教誨に対して、神里綾人も当然それを踏み外すようなことはしていない。一族を守るという信念が何より大切であろうとも、彼は道理を弁えている――稲妻は雷神の守護により存続しており、稲妻の安定のみが、一族の長きに渡る繁栄を保証できる、と。
今後、稲妻の情勢がどのようになろうと、神里家だけは御建鳴神主尊に反旗を翻してはならない。
たとえ異議を心に秘めていようと、水面下深くにある暗い川の中に隠すのだ。
そう、かつて母が言っていたように――
神守の柏は古き枝をそのままに、新たな材へと生まれ変わる。
庭の椿は冬に呑まれることなく、澄んだ香りをかもし出さん。


夢見材筆箱
幼い頃にもっとも退屈であった習字の授業が、今や良い暇つぶしになるとは、神里綾人本人でさえ思っていなかっただろう。
昔、秀麗な字を書くために練習に励んだのは、神里家長男たる身分に相応しくあろうとするためであった。
しかし今、様々な詩歌を時折模写するのは、思考を整理して静かに考える時間を自分に与えるためになっている。
もちろん、それ以外にも理由はある。手の空いている時でもまるで政務に追われているかのように見せることで、面倒なことや会いたくない者を後回しにしているのだ。
やがて、彼の身の回りの世話をする使用人たちは、当主様は将棋以外にも書道を趣味にしていると思うようになった。
そして、この話は人づてに広まり、多くの人が知ることになる。慶事や誕生日が訪れると、綾人のもとには良質な筆が贈り物として届くようになった。しまいには、精巧で高価な羽毛筆を国外から仕入れ、奉行様に喜んでもらおうとする投機的な輩も多く現れる。
それに対し、綾人も特に説明をすることなく、精美な木箱を購入してそれら文具を収納した。
彼は元より目新しく珍しいものを好む。そのため、多種多様な新しい筆を試せるのは、実に愉悦を覚えることなのだ。
それに、様々な出自の贈り物には、贈り主に関する情報が含まれていることが多い。これら情報は綾人が彼らを掌握する手段の一つとなっている。
この筆箱は文具の収納のために買ったものだが、三つの特別な筆だけは未だその中に入れたことがない。
一つは作りが丁寧で、筆の持ち手は細く、社奉行の文机の上に直接置かれている。多少傷みはあるものの、書き心地はとても軽く滑らかであり、公文を書くのに使用している。
二つ目は、文机の一番下の引き出しにしまわれており、筆先が少し毛羽立っている。かつて愛用していたもので、子供の頃の習字の際に綾人が選んだものだ。初心者向けであるため、以前はよくトーマと綾華が借りていた。
三つ目は、骨董品が保管されているタンスの奥深くに隠されている。絹の袋に入っており、高級な素材と精巧な設計がなされたものだ。これは綾人が成人した日に、母から贈られたものである。


神の目
何年も前のある夜のこと。病気で寝たきりだった父が突然、綾人をそばに呼んだ。
その夜、病で疲弊していた今までと比べ、父の様子は少し違っていた。ただ、厳かな表情をしてはいるものの、彼の目に浮かんでいる心配の色は隠せていない。
どうにか気力を振り絞り、父は綾人に聞く――「今日の修行は終わらせたか?」「夕食はしっかりと食べたか?」「剣術の修行に進歩はあったか?」
綾人がそれに一つ一つ答えると、父は満足気に微笑みながら頷いた。しかし、すぐにまた顔に陰りが差す。何かを言いたいのに、言えずにいるようなそんな表情だった。
長い躊躇いの後、母の憂いに満ちた眼差しを受けて、父は重々しく口を開いた――
「綾人、これを…覚えておきなさい。この先、神里家がどのようになろうと、綾人は私たちの長男であり、綾華の兄であり、そして神里家の紛うことなき後継者だと。」
安心して休んでいただくよう父に伝えた後、綾人はゆっくり寝室へと向かった。
扉を開けてすぐ、光り輝く「神の目」が文机の上にあることに気付いた。
綾人は幼少の頃、「神の目」とは神の眼差しを象徴しており、人々の願いに応じて生まれるものだと聞いた。
何か大義があるわけではない。ただ、一族が末永く繁栄し、家族の安寧を守ることこそが、幼い頃より綾人の志すものである。
「神の目」がこの時分に現れたということは…彼が責任を担うべき日が来たということなのかもしれない。
そこまで考えを巡らせると、綾人は使用人に明かりを点けさせることなく、文机の前に正座した。
様々な事柄が、まるで渦潮のように彼の脳裏をよぎる――
父は重い病を患い、母も体調が芳しくない。一族には当主もおらず、政敵たちは神里家の地位と権力を狙っている。
妹はまだ幼く、心安らかな成長のためには己が身を賭して事に当たらねばならないだろう。幕府官界はまるで暗礁に囲まれた海域、何をするにも慎重でなくてはならない…
代々神里家に仕える「終末番」も当然見捨てることはできないだろう。神里家が衰退する中、周りにいる使用人にまだ信頼できる者がどれだけいるのか…
それから異郷出身のトーマについても。彼は友人であり頼りになる存在だが、低迷する神里家に対して本当に何も企てはしないだろうか…
乱雑に存在する事柄すべてが、綾人の脳内で整理されていく。その情報の渦の中心にあるのが、彼の変わらぬ信念だった――
未来のため、家族の安寧のため、使えるものは手段を問わずすべて使い、邪魔するものは一切の代価を惜しまず排除する。
その夜、室内には明かりが点くことなく、神の目だけが彼に付き添う唯一の照明となった。
黎明が訪れ、その日、最初の光が窓から文机に降り注いだ時、すべてを迎え入れる準備を終えた一族の若き長男がそこにはいた。

嘉明

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キャラクター詳細
遺瓏埠の埠頭で貨物が円滑に流通し、商隊と荷物が安全かつ効率的に璃月の各地や他の国へ辿り着けるのは、鏢師たちの護送のおかげである。
昔から、護送は決して簡単な仕事ではない。たとえ流通のルートが安定した今でも、道中には数多くの不確定要素が存在する。
雇い主が急にルートを変えることもあれば、顧客が受け取りを拒否することもあるだろう。また道中でコソ泥に遭遇したり、運悪く盗賊に遭遇したりもする。
剣鞘鏢局には有能な人材が揃っているが、顧客を怒らせることなく、賊にも問題なく対処できるのは鏢局を見渡しても一人しかいない——嘉明だ。
この能力に優れた少年鏢師を商会は当然指名し、自分の商品の輸送を任せる。鏢局の外でも、嘉明の人気は依然として衰えない。近所の人々が彼のことを話せば、皆が親指を立てながら奔走するこの親切な若者を褒めちぎる。
「こんくらいわけないさ!オレの獣舞劇を見に来てくれればそれでいい、時間があったらな。先に礼を言っとくぜ、ヘヘッ。」
助けてもらった人が礼を言ったり、お返しをしようとしたりすると、彼はいつもこのように冗談めかして言う。


キャラクターストーリー1
嘉明はお茶で有名な翹英荘の生まれだ。代々茶農家を営んでいたが、父・葉徳の代からは茶葉の売買を生業とするようになった。両親が力を合わせて経営したおかげで、葉家の商売は順調に繁盛していく。そして当然、父は息子に跡を継いでほしいと望んだ。
父と母が苦心したおかげで、嘉明は耕作に苦労することも、自ら起業する大変さも経験せずに済む。だが「この親にしてこの子あり」というように、かつて父が茶葉の栽培をする祖父の道を歩みたくなかったのと同じように、嘉明も心に決めた道を持っていた。
親子が譲ることなく対立した結果、嘉明は家を出ていき、その論争は一時的に中断されることになった。
家を出た後、人々が行き交う遺瓏埠へ行くことにした嘉明。生計を立てる手段は家を出る前から決めていた——小さい頃から大好きな獣舞劇だ。
意気揚々とした少年はまず急いで獣舞の道具を購入し、自己紹介のチラシを配って、劇をするための場所を予約した…遺瓏埠で足場を固めた後、璃月港に進出し、最終的には獣舞劇をテイワット全土に広めようと計画したのだ…
そんな懸命な努力の末、嘉明はそう経たないうちに、家を出る前から貯めていた夢の創業資金を使い果たしてしまった。
「獣舞劇を生業に?そんな簡単にできるわけがないだろう!?飢え死にしないだけで、ありがたいことなんだぞ!」
ちょうどお腹を空かせた嘉明の頭に父の言葉がよぎり、深く納得した。
「ここまで来たんだから、まずは飯の問題を解決しよう」と考えた嘉明は、まず自分を養うための仕事を探すことにした。
幸い、運命は鞭を振り下ろした後に飴をくれた。海灯祭が間近に迫っていたその時、あるフォンテーヌの商人を親切な嘉明は剣鞘鏢局まで案内した。すると、ちょうど鏢頭が人手不足に悩んでおり、嘉明は勢いで自分を売り込んで、臨時で雇ってもらったのだ。
毎日、獣舞劇の稽古をしている嘉明の身体は鍛えられており、そのおかげで疲れを知らない。結果、臨時の護送を終えた後、嘉明は鏢頭に誘われて正式な鏢師となった。
これも獣舞劇の腕で食べていけている…ということなのだろうか?とにかく、嘉明自身はそう思っているようだ。


キャラクターストーリー2
言葉は人と人が交流するための重要な道具の一つだが、嘉明が持つその「道具」は、彼の人となりと同じように独特で興味深い。
「あのさ、ぶっちゃけ『三長両短』なことがあって、『冬瓜豆腐』を食べるはめになるって想像したら、オマエのことが心配になってきたんだ…」
「えっ?何だって?何が長くて何が短いんだ?冬瓜と豆腐なら大好物だが…」
相手が戸惑っていると、嘉明は別の言い回しで補足し、必要に応じて手振りや身振りを加える。
嘉明によると、その話し方は翹英荘に嫁いだ母親譲りのものらしい。嘉明は生まれてからずっと、いつも彼女のそばにくっついていた。母親と共に過ごしてきた子供の嘉明は、自然と話し方や人柄がうつり、また彼女と似た習慣や趣味をたくさん持つようになった。
暇があったら早茶をして、体調が優れなければ涼茶を煎じ、料理を作れば必ず野菜を入れる…ちなみに、瓜や果物は野菜に入らない。
それらの習慣は別に鉄則ではなく、もし新しい提案をしてくれる友人がいたら、彼も喜んでそれを試すだろう。「四海兄弟」、そして「真心を持って人と接する」というのが嘉明の信条だ。
遺瓏埠の住民たちは皆、子供からお年寄りまで、嘉明と共通の話題を持つ。この少年と知り合ったばかりの人の多くは、その口の達者ぶりをただの社交辞令だと思う。しかし付き合いが多くなるにつれ、嘉明の厚意が本心から来るものだと気づくのだ。彼は時々、雑用係の篤勤に仕事を紹介したり、忙しい知貴氏の手伝いをしたり、鏢局の仲間たちのために璃月港から薬をもらってきたりする。さらに、会ったことのない子供に猊獣のおもちゃを贈ったこともあった。贈った理由は、獣舞劇を見るのが好きだと迭躍が言っていたからだ…
清き水のような友情だが、真心が大切である。だから、皆もこの熱心な少年に対して、同じように友好的な態度で接するのだ。嘉明が荷物を届けに来るたび、彼を部屋に招いて休憩させる人もいれば、早茶の時にいつも嘉明を誘う人もいる——ただし、唯一の条件は嘉明に「奢る」ことを申し出ないこと。
遺瓏埠で自立できたのは皆のおかげだと、嘉明はよく笑いながら言う。しかし、彼をよく知る者なら誰もが知っている——彼のように謙虚で誠実な少年なら、どこに身を置いても立派な人間になれると。


キャラクターストーリー3
日々の練習が大事だと思う嘉明は、鏢局の仕事がどんなに忙しくとも、毎日必ず稽古の時間を作る。
ご飯を食べているとき、いつも食卓の上では仲間たちと箸で料理を取り合いながらふざけているが、その下ではしっかりと馬歩を構えている。荷物を梱包した後も、嘉明は荷車をほぼ使うことがなく、自分の手でそれらを一つひとつ持ち上げて倉庫との間を往復して腕力を鍛える。
鏢頭は皆の仕事が大変な上に退屈なことを知っているため、時々皆の意見を集めては、娯楽のために鏢局に様々な品を置くようにしていた。
これまでに柔らかな敷布団、ふわふわな枕、七聖召喚のデッキなどが置かれてきた…
だがある時、嘉明が立ち上がって咳払いをした。「コホン!できれば、練習に使える柱を置いてほしいんだ、前庭に。そうすればいつでも稽古できる。それにきちんと基礎を作っておけば、護衛の効率も上がるだろ?」
それを言い終えた途端、皆は口を揃えて不満の声を上げた。仕事が終わってどこで遊ぶか話しているときに、「残業こそが最高の休憩」だと言わんばかりのことを声を大にして言うのは、実に悪質な行為だ。「教訓」を受けるのは免れず、万死に値するだろう!そうして、皆は一斉に飛び掛かった。「叫ぶ」人もいれば、「許しを請う」人や「忠告」するフリをする人もいる…皆が笑いながら騒いでいた。
「みんな、もう勘弁してくれ。出しゃばった真似をして悪かった、許してくれてありがとな。代わりに、みんなに早茶を奢るってのはどうだ?お詫びとしてさ。」
鏢局の仲間同士でこういう茶番を演じるのはよくあることだ。嘉明が柱を設置したいのは獣舞を練習するためだと誰もが知っている。ただ、嘉明に誕生日のサプライズを渡そうと、皆で合わせてふざけただけだ。現に彼らはもうとっくに柱を用意して外に積んでいて、嘉明と一緒に設置するつもりでいた。
時間があると、嘉明はよく仲間たちを獣舞の練習に誘う。「格好いい」という理由で、基本的に全員試しはしたが、最後まで耐えられた者はほとんどいなかった。ある鏢局の仲間がこういう冗談を言ったことがある。
「大変さランキングの三位は鏢師、二位は獣舞をやる人、一位は嘉明だ。だって、あいつは両方をやってるだろ。」
よくよく考えてみると、確かにその通りだ。


キャラクターストーリー4
「よその子」というのは、遺瓏埠の住民たちが嘉明を高く評価して与えたあだ名だ。彼は物分かりがいいため、そう評価されるのも当然だろう。世を渡り歩く中で得た評判は、すべて嘉明の力で勝ち取ったものだ。
しかし、嘉明の成長を見てきた親戚たちだけは知っている——その昔、彼は翹英荘で知らぬ者はいない「やんちゃ坊主」だったことを。
いつも屋根の瓦を外したり、木に登って鳥の巣を漁ったり、大人たちが茶葉を摘んでいるときに畑を荒らしたりしていたのだ。父が近所の人たちに謝罪する光景は、もはや日常茶飯事である。
だが本当は、屋根の瓦を外したのは父のへそくりを隠すためで、鳥の巣を漁ったのは母親の髪飾りの羽根を集めるため、そして茶畑を駆け回っていたのは、害虫を駆除するためであった…
茶目っ気のある嘉明の頭の中には、いつも奇抜なアイデアが詰まっている。それはいつも微笑ましいものであったため、いくら彼がやんちゃをしても、両親の愛情は衰えることなく増していく一方であった。
ある日、遺瓏埠の有名な獣舞隊が翹英荘で舞を披露すると嘉明の父は耳にした。そこで、その当日は従業員への仕事の手配を早々に済ませ、嘉明を連れて最前列で獣王の姿を拝もうと計画を立てた。
だがその日、父は早茶を共にした友人との会話で盛り上がり夢中になってしまう。結局、嘉明に引っ張られて会場に辿り着いた頃には、舞台の下がもう人で埋め尽くされており、獣舞劇を見るのは難しい状況になっていた…
「親父の嘘つき!デカい猊獣を見せてくれるって約束したくせに!」
両親のなだめる声は嘉明の泣き声にかき消され、おもちゃを買ってあげると言ってもその耳に届かない。
「言うことを聞かない子供は猊獣に食べられるぞ!ほら、すごく怖いだろう?」
父はそう言いながら嘉明を肩車した。ちょうどその時、舞台にいた猊獣が高い柱に跳び上がり、こちらを振り向いて嘉明と目を合わせた。
一瞬で泣き止む嘉明。目を見開いて、舞台上の獣舞劇に見入っていた。劇が終わった後の帰り道でも、その視線は舞台のほうに釘付けになっている。その姿を見て、両親はやっと嘉明の異変に気づいた。もしかして、さっきの言葉にショックを受けたのだろうか?
「嘉明、怖がらないでいい。あれは偽物なんだ!中には人が入ってる!子供を食べたりはしない…」
「親父!もっと観たい!オレもあのデカい猊獣みたいになりたい!ガオー!」
昔はどんな遊びも三日で飽きた嘉明だったが、獣舞劇を観てからというもの、彼は一つのことに専念するようになった。獣舞劇に連れて行ってとしょっちゅう父にねだるようになり、目的のない普段のいたずらも、次第に計画的(本人いわく)な獣舞の練習へと変わっていった。
獣頭を蹴って格好よくキャッチする動きを練習するために、家中の竹ざるは嘉明に何個も壊された。
厨房の行方不明になった「しゃもじ」や「おたま」は、考えるまでもなく、嘉明の太鼓の練習に使われたのだろう。そして、その道連れになったのは、家中の桶や椅子だ。
ある日、嘉明が父に連れられて、茶農の新茶を買いに行ったとき——嘉明は竹ざるを渡された途端、その場でそれを掲げて踊りだし、父に「金の猊獣の祝福」を演じて見せた。だが、その拍子に地面に落ちてしまう茶葉。嘉明は父に追い掛け回されることになった。父が息子の耳を引っ張って家に帰ると、料理はもう冷めていた。そして、そんな二人の帰りを玄関ではたきを持ちながら待っていたのが母だ…
季節が移り変わり、父が茶を飲み、母がひまわりの種を食べる傍ら、嘉明は庭で獣頭を掲げて踊る。その様子を父と母は、時に眉をひそめ、時に笑いながら眺めていた…
残念ながら、この平凡でありふれた光景も、今や夢の中でしか見られない。


キャラクターストーリー5
かつて鼻水を垂らしながら獣舞劇に見入っていた子供は、ひと皮むけて立派な少年に成長した。唯一変わっていないのは、少年の獣舞劇に対する情熱だ。彼は今でも璃月港で名を上げることを夢見ている。しかし遺瓏埠と違って、沈玉の谷を発祥の地とする民俗の獣舞劇は、璃月港で受けはよくとも稼ぎがよくなく、璃月劇のように人々の心に深く根付いていない。
父は嘉明の止まることを知らない勢いを見て、息子の将来を心配した。父は何度も嘉明に「起業は難しい」と言ってきたが、嘉明は「家業を守るほうがもっと難しい」と言って、父の茶葉の商売を継ぐことを断った。母がいた頃は、父と子がいくら揉めても食卓を囲めば和解できた。だが、そんな母は病気で亡くなった。それからというもの、二人の関係は接着剤がなくなったかのように、徐々に離れていってしまった。
父は母の病気を、若い頃に自分の起業に付き合わせて苦労させすぎたせいだと考え、自分を責め続けた。たった一人の息子にもしものことがあったら、愛する亡き妻に合わせる顔がない。嘉明が獣舞の練習でまた怪我をしたのを見て、ついに父の堪忍袋の緒が切れた。父は嘉明の獣舞の道具を——母が作った獣頭以外——すべて他人にあげてしまったのだ。その次の日、嘉明は一言も言わず、獣頭を持って家を出ていってしまった。
息子が家を出た後、父の胸には怒りだけでなく、動揺や反省もいくらか含まれていた。複雑な心境であったのは間違いない。ここ数年、父は密かに和記庁で働いている知り合いに息子のことを気にかけるよう頼んでいた。だが、息子のことを話すときはいつもキツいことばかり言い、和解しようとしなかった。
手伝いの小梁は佳節の日になると、他愛のない話を綴った手紙を嘉明に送った。十中八九、父の差し金だろう。嘉明も馬鹿正直にそれを指摘することなく、そうと分かりながら小梁の話に合わせて返事をし、それとなく家の状況を聞いた…
嘉明にとって、小梁の手紙を開封するのは、まるで爆弾を解除するかのように緊張するものだ。時に、彼からの手紙を受け取りたくないと思うことすらある。子供の頃、一番怖かったことは「父がゲンコツをお見舞いしにこっちに向かってる」だったが、今一番怖いのは「父が家で倒れた」と言われることだ…今も昔も、便りのないのは良い便りと言ったものだ。
とにかく、父と子は膠着状態にあり、時間が経てば相手が自分を理解してくれると互いに思っているようであった…幸い、後悔するような事態が起きる前に、親切で有名な閑雲が辛抱できずに裏で手を回してくれた。皆の協力の下、父は初めて心を落ち着けて、嘉明の華麗な獣舞劇を真剣に見た。最初、父と子の間には気まずい空気が流れたが、徐々に言葉を交わし、そして最終的に互いの心を打ち明けるようになった。父はようやく、嘉明が獣舞劇を生業にすることを受け入れた。
「今度オレが璃月港で獣舞劇をやるときは、絶対見に来てくれよ、親父!」
「言われなくても見に行く。」
「早茶の時に話し込んで遅れないようにな。オレが人気になって、入れず後悔して泣くなよ…」
「まったく、お前というやつは!」


「我が子、嘉明へ」
嘉明は読書家ではないが、枕の下にいつも一冊の本を置いており、その中には母からの唯一の手紙が挟まっている。
「…母ちゃんが一番心配なのは、あたしがいなくなった後、あんたと父ちゃんが毎日喧嘩することなんだ。頭に血が上ると体に響く。父ちゃんは口ではきついことばかり言うけど、とても優しいんだよ、実は。父ちゃんのことを責めないであげて。この先、あんたが一人で頑張らなくて済むよう、苦労を減らしてあげたいだけなんだから。覚えてる?あんたが足をくじいたとき、父ちゃんはすごく焦りながらあんたを負ぶって医者に行ったよね。あの夜、心配で布団の中で泣いちゃってたのよ、父ちゃん…。あんたはもう大人だし、色々と譲ってあげて。喧嘩はできるだけしないようにね…」
「…獣舞をやることを母ちゃんは反対しないから、安心してちょうだい。むしろ、小さい頃にもう自分の好きなやりたいことを見つけて、母ちゃんは嬉しく思ってたんだ。でも約束して、健康に気をつけて、無理して体を壊さないようにね!それと火邪を起こす食べ物とか、生ものは控えるように、好き嫌いもダメだから…雨や風の強い日なんかにはちゃんと着込んで、無理に格好つけるんじゃないよ…」
「世間を渡り歩くのに大事なのは、良心に恥じないようにすること。一番いけないのはできない約束をすることよ…」
「…友達をたくさん作るのは悪いことじゃない。気が合う友達ができたら、その人のことを大切になさい。知己は求め難し、一人でもいればとてもありがたいことだから。つらいことがあっても、あんたは父ちゃんに絶対言わないって知ってる。だから、そういう時は友達に相談するの。何でもかんでも心にしまわないで。思い込みはなおさらいけないことよ。分かった?」
「母ちゃんは疲れたから先に休むね…母ちゃんのことを恨まないでちょうだい。いつも『悪い子ね、あんたを産むより叉焼を産んだほうがよかった』って言ってたけど…あんたは悪い子なんかじゃない。叉焼なんかよりずっといい…嘉明はいつまでも、母ちゃんの一番大切で、一番愛しい子よ…」
折り目の感じからして、この手紙は何度も開いては畳まれたようだ。本に挟んで保存するのは、確かに賢い方法だろう。
手紙を挟むのに使っているこの本を、かつて母は湯呑の下敷きに使っていた。そして嘉明に受け継がれた後、その本は新たな使い道を持つようになった。
「本をたくさん読めって言ってたくせに、この本を読んだことあるのかよ?おっと、いけない!今のはナシだ。おふくろが夢枕に立って、オレのことをしばきそうで怖いからな!」
人前で母親のことを口にするとき、嘉明は一度も涙を見せたことがない。明るく生きてほしいと母が望んでいたことを、彼は知っているからだ。そして、彼にはその生き方ができた。
ただ、なぜか一人でいるとき、母のことを思い出すと目に砂が入るようなことがよくある、たとえ風や塵のない寝室にいてもだ。


神の目
嘉明の心の中にはずっとこんな疑問があった——「猊獣って、一体どんな姿をしてるんだ?」…先輩たちも本物の猊獣は見たことがないという。獣舞劇も、すべて師匠たちから教わったものだ。どうにかして調べるにしても、きっと大変な労力が必要になる。
しかし偶然、嘉明は行秋からいくつか山隠れの猊獣のことが記された古書を手に入れた。それから数夜の奮闘を経るのだが、やはり蟻のように小っちゃく並んだ馴染みのない言葉に嘉明は屈してしまった。記憶に残ったのは、「猛々しい」「迫力ある」「手強い」といったいくつかの単語のみだ。
聞くからに、堂々として勇ましい巨獣であるのは間違いない!もし自分の目でそれを見ることができたなら、獣舞劇のパフォーマンスにもきっと大いに役立つだろう。そんな想いを胸に抱きながら、嘉明は古書の中によく登場した場所を巡った。霊濛山の近くに来たとき、どうにも妙な気迫に圧されるような感覚を覚えた。まるで物陰から自分をじっと見つめる両眼がどこかにあるかのようだ。ここに違いない、まさにこれがそうなんだ!嘉明は直感でそう思った。
翌日、まだ空が明るくなる前に嘉明は支度を整えて、最もお気に入りの獣頭とお供えの食べ物を入れた大きな袋を持って、霊濛山に踏み入った。すると突如、強い風が吹く。嘉明が反応するよりも早く、黒い影がその周りをぐるりと何度か回った。嘉明はすぐにぎゅっと目を閉じて両手を合わせ、敬意を込めながら大声でここに来た理由を告げた。
「猊獣様、こんにちは!オレは嘉明!猊獣様のお姿を拝見したくてここに来たんだ…お供え物をするために、美味しいもんもたくさん持ってきた!問題なければ、目を開けるぞ?」
辺りから物音がないのを確かめた後、嘉明はゆっくりと目を開けた。視界に映り込んだのは、まさしく大きな——いや、想像していた勇ましい姿とは異なる小さくて可愛い猊獣が、驕り高ぶった様子で巨石の上に座っていた。
「わあっ!こんなに小さくて、可愛いのかよ?こんにちは、猊獣ちゃん。ほらほら、頭を撫でさせ——」
あまりに興奮する嘉明に、猊獣は機嫌を損ねたようだ。身体は小さくとも、尋常ならざる気迫がある。電光石火のごとく周囲を跳び回る猊獣と、それに目を回してしまう嘉明。そして、持ち物が地面に散らばってしまった。しかし嘉明もすぐ獣頭を被って、無意識のうちに対抗していた。猊獣が見せた動きをそのまま真似て、人間一人と猊獣一匹、久しぶりに会えた友と一日中愉快に遊び回るかのように、日が暮れるまで互いにじゃれ合った。最後には、猊獣も嘉明を認めたのか嬉しそうに頭を振り回し、キラキラと光る石を体毛の中から一つ落とした。
「うわっ!?マジかよ!今日、他にもいいことがあるなんて!?『神の目』をくれんのか?」
嘉明が注意深くその石に近づくと気がついた、それが正真正銘——ただの鉱石であり、夕日に照らされて光っていただけだったことに。
「ハハッ、ちょっと早とちりしちまったな。」残念な気持ちも少しあるが、嘉明は相変わらず上機嫌だった。なぜなら、その日から「威水獣舞隊」が正式に発足したからだ。
それ以来、嘉明とウェンツァイは互いに離れたことがない。そして、神の目のことも次第に忘れていった…
ある日、嘉明が商人たちを護送していると、悪名高い盗賊に遭遇した。同行する商人たちは、荷物を捨てて命を優先しようと言い、嘉明にすぐさま逃げようと提案した。
「オレはな、こうやって盗みや略奪に頼って暮らしてるやつが大っ嫌いなんだ!相手がただ通りかかっただけだとしても、オレは決してやつらを見逃さない!それにオレは鏢師だ、なおさらだろ。みんなは先に行っててくれ。ここはオレがどうにかする。荷物は一つたりとも失くしはしない、髪の毛一本たりとも触れさせやしないさ!」
そうして、たった一人で十人もの相手に立ち向かった。最終的に傷だらけになりはしたものの、強盗たちを縛り、なんとかして千岩軍と鏢局の仲間たちのもとへと届けた後、安堵したのかそのまま倒れ込んだ。
その後、商人たちが荷物を点検すると、本当に一つも失くなっていないことに気がついた。しかも、リストには載っていなかった「神の目」まで一つある。
商人たちはその神の目を慎重に包み、嘉明への感謝状と共に剣鞘鏢局に送り届けた。
神の目を見た瞬間、嘉明は目をぱちくりさせ、喜びではなく驚きで頭がいっぱいになり、たくさんの疑問が湧き上がった。
「いや、そんなわけない…!?本当にオレのなのか?ちょっと護送しただけだってのに。オレは大したことしてないし、普段通り働いただけだ…」
「返すか?いや、でも返すって誰に…?商人にか?けど、商人たちも自分のじゃないって言ってた…もしかしたら、あの盗賊のもの?」
「はぁ!縁起でもない!何を考えてんだ、オレは!この状況からして…この神の目は、確かにオレのもの…なんだよな?」
「いや!神の目は何かしらの強い願いに関係があるって聞いた。けど、ウェンツァイの前で獣舞を披露したときには何もなかったし、護送をしてもらえたってことは…まさか、オレの天職は獣舞じゃなくて鏢師だったってことか!?」
「もしかして、獣舞を諦めろってことじゃないよな!?だったら、こんな神の目いらないぞ!」
感謝状を覆う布を取るまで、嘉明はそう思っていた——
六方に目を配り、八方に耳を澄ます彼は、まさしく瑞獣のように飛耳長目。
悪党や強盗を成敗する彼は、まさしく猊獣のように邪気を払い、吉瑞をもたらす。
嘉明の疑問はこうしてついに晴れる。服の裾でささっと手を綺麗にしてから、慎重にその神の目を受け取った。

甘雨

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キャラクター詳細
璃月、ここに住む人々の多くは「玉京台」の生活に憧れを抱くが、その規則を知る者はほとんどいない。
人々は「璃月七星」が才能に溢れた集団であり、璃月の命綱を握っていることを知っているが、全ての決断がどのようにして決定されているのかを容易には理解できない。
人々は新しい年に公布される条例が市場を大きく動かすことを知っているが、それがどのようにして繁雑な議事録の中から抜き出され、理解しやすい言葉に書き換えられているのか知らない。
甘雨は「月海亭」の秘書であり、世の人々の目に映らない仕事をいくつも担当している。
人々は甘雨の地位を知っているが、それでも「月海亭」の秘書と、夜明けに埠頭で黙々と朝食を楽しむ彼女を結びつけるのは困難であった。
朝日が昇りきる前に、彼女は再び玉京台にある月海亭へと戻り、引き続き「契約」を完遂する為に働く。
――そう、それは三千年前に彼女と「岩王帝君」が結んだ契約なのだ。


キャラクターストーリー1
甘雨は、七星のうち誰か一人の「専属秘書」というわけではなく、「璃月七星」全体の秘書である。
その温厚な見た目とは裏腹に、その内には盤石な意思が秘められている。
このことを、仙人たちを率いる岩王帝君はとうに見抜いていた。
遥か昔、「璃月七星」が初めて璃月に現れたとき、甘雨は初代七星の秘書を務めることになった。
それから璃月七星は幾度となく世代交代を繰り返すも、そのそばにはいつも甘雨がいた。
それはその長い年月の間、璃月各所の膨大な書類の処理を全て甘雨が担ってきたことを意味する。
彼女は仕事量が七倍、百倍、千倍になったとしても、微塵も責任感を減らすことなく、あの最初の日から変わらずに働いてきた。
かつて、何が甘雨をそうまでして突き動かすのか理由を探ろうとした者がいたが、その答えは明らかになることがなかったそうだ。
「私がしたことは、帝君の功績と比べたら…足元にも及びません」


キャラクターストーリー2
「私の仕事は、璃月に存在する数多の命に、最大の幸福を与えることです」
ほとんどの状況下において、甘雨は信頼に値する秘書である。
膨大ともいえるその仕事の数々を、彼女以上に上手く処理するものはいないだろう。さらに、彼女は璃月のあらゆる物事に対して、独特で鋭い視点を持ち合わせている。
ただ、甘雨が頼りになるのは「ほとんどの状況下」でのことであり、一部はそうではない。
肝心な場面であればあるほど、少しの失敗も許されないと力み、彼女は余計な緊張をしてしまうのだ。そして、その緊張のせいで失敗を犯す。
例えば、璃月の1年の中で最も重要な儀式のひとつである「七星迎仙儀式」でのことだ。
甘雨はある年の「七星迎仙儀式」に3分遅刻し、群衆が見つめる中、人混みをかき分けてやっと儀式の場に到着したことがあった。
その後、甘雨は顔を赤面させながら口ごもり、言い訳もせず、ただ心の中で「岩王帝君」に何千回と謝罪した。
仲のいい同僚は、この失態には何か裏があると考えた。
顔見知り程度の同僚たちは、帝君が特に気にしていないのを見て、それに倣うことにした。
プライベートでも付き合いのあるものは彼女を心配し、仕事量を調整するか、短期の休暇を取得するよう勧めたが甘雨は首を横に振った。
「今年の式典に来ていく衣装の飾りをどれにすべきか悩んでいたら、2時間も経っていました…」
ーーこのような理由を、甘雨は絶対に誰にも言わないだろう。


キャラクターストーリー3
千年はどれくらい長いのか?
それは荻花洲に咲き誇っていた琉璃百合が洪水により絶滅するほど長く、賑やかだった帰離原が戦後寂れて廃墟と化すほど長い。
千年はどれくらい短いのか?
甘雨にとって、それは瞬く間のこと。
凡人では想像もできない長い年月の中、甘雨は玉京台に座り続け、あらゆる書類を処理してきた。
全ての楼門の建設を記録し、すべての産業の繁栄を目にした。
甘雨は時間の流れを客観的に捉えていた。時間は白紙の上で絶え間なく更新される膨大な数字であり、あらゆる色を使って区分される必要のあるテーブルであると。
時間は、甘雨の心を変えることができなかった。彼女はずっと、「人」と「仙獣」の間で揺れ動いている。
麒麟である彼女には、人間の世界で起こるたくさんの争いを理解できない。
一方、その身に流れる人の血が彼女に、人間社会に融け込む希望を囁くのだ。


キャラクターストーリー4
ひとたび仕事から離れると、甘雨は普段とは違う一面を見せる。
彼女には昼寝の習慣があり、まるで体内に寸分の狂いもない時計が埋め込まれているかのように、時間になると場所や状況に関係なく、体を丸めてすぐに眠ってしまうのだ。例えヒルチャールが彼女を囲みながら騒がしく踊っていても、彼女が目を覚ます事はない。
この習慣は最初「璃月七星」の身内同士の笑い話でしかなかった。
だが、ある日「天璇星」に同伴し昼食を外で済ませた後、満腹になった甘雨が道端に積まれた干し草の上で眠ってしまったことがあった。そして、そのまま荻花洲へと運ばれてしまい、荷下ろしの時に頭を地面にぶつけてようやく目を覚ましたという。
元の場所へ戻るまでの3時間、「天璇星」は甘雨が何も告げずに姿を消すやつではないと重々理解していたため、危うく失踪届けを出してしまう寸前だったそうだ。
その後、「今後、昼寝は安全な場所で行うこと」という訓戒を受けた甘雨は、落ち込みながらこう口にした。
「璃月は…どこも安全な場所ではないのですか」と。
甘雨の世間に対する認識が多くの人とズレているのは、彼女の中に仙獣の血が流れているからなのかもしれない。


キャラクターストーリー5
甘雨に仙獣「麒麟」の血が流れていることは、璃月港であまり知られていない。
緋雲の丘を通る時、彼女を初めて見る者は毎回、その長い髪から伸びている物について聞く。それに対し、彼女はいつも家に伝わる髪飾りだと誤魔化すのである。
「もし、みんなに本当のことを知られてしまったら、もっと距離を取られてしまいます…」
今まで、一度も璃月の民と親しくなったことなどないが、甘雨にとって心の距離を置かれることは悲しいことなのだ。
また、それとは別にもう一つ重要な理由がある。これが「麒麟の角」であることを正直に話してしまえば、好奇心から角を触る人が現れるかもしれないからだ。
ーー心理的や生理的に関わらず、角にも感覚があるのだ。
また他にも、甘雨が用心深く隠してる秘密がある、それが「体型の維持」だ。
麒麟は菜食主義者だが、璃月の料理はその名を天下に轟かせるほど美味であり、たとえ野菜料理であっても食欲を抑えるのは難しい。
そのため、町での生活に慣れた甘雨は、己の体型と体重を常に気にするようになった。
気づけば美味しいものに吸い寄せられていたなんてこともしばし*あり、食欲をコントロールすることはドラゴンスパインで烈焔花を見つけるのに等しいくらい困難であると彼女は考えている。
だが、たとえ困難なことであっても、甘雨は努力を怠ったりしない。
彼女は数千年前の魔神戦争中、毬のように丸々と太っており、その体型ゆえに巨獣の喉を詰まらせたことがあった。息の出来なくなった巨獣はいとも容易く降伏したという。
その恥ずべき過去を繰り返さぬよう、甘雨は何がなんでも体型を維持すると心に強く誓っているのである。


玉京台植物誌
玉京台でよく見られる植物の特徴や習性を記した手記、その秀麗な字は甘雨の手書きによるものである。
手記は明確に部類分けされており、内容は簡潔かつ的確で、小難しい内容は分かりやすく要約までされている。例えば、琉璃百合の保護の要点や霓裳花の移植についてなどだ。
読み物としても専門書としても、正式に出版しても良いレベルのものである。
ーー以上が、最初のページをいくつかめくった時の感想だ。
ページを後ろからめくった時、その内容に驚かされることだろう。
手記の後ろの数ページは、その大部分が黒く塗りつぶされているのだ。
じっと目を凝らすことで、そこに各種野菜の育て方が記されていることを辛うじて判別できる。
「自分で野菜を育てられるようになると、食欲をコントロールするのがもっと難しくなります」
甘雨は拳を強く握りしめながら己の欲望を抑え、苦労してまとめ上げた成果を全てなかったことにしたのである。
ある日の事、お腹を空かせた甘雨が花の水やりをしようとした時、霓裳花へと頭から突っ込んでしまった。その時、もしこれがスイートフラワーだったらと妄想することで、自分の食欲を紛らわせたという。
そして、そのまま昼寝の時間になり、彼女は山積みのスイートフラワーに包まれる夢を見るのであった。


神の目
麒麟は仙獣の中の仁獣であり、露を飲み、稲を食す。
生きた虫を踏まず、生きた草を折らず、群れず、旅をせず、罠に入らず、穏やかで寛大で、温厚で優雅な一族だ。
過去に海の中で巨獣が暴れまわり、足元の大地が脅かされた時、平穏という言葉は日常の中から消え去った。
三千年前、甘雨は岩神モラクスの召喚に応え、魔神戦争において彼に助力した。
戦争が終結すると、彼女は璃月に残り、人々がより完璧な国を作り上げるための手伝いを始めた。
初代の璃月七星が補佐を必要とした時、彼女はこの任を引き受けて七星の秘書となる。
そして彼女がこの決断を下した瞬間、腰元に「神の目」が現れたそうだ。それは彼女に卓越した肉体と、世界と共鳴する力を与えた。
その時、甘雨の心は平和と安堵に満たされていた。
どんなに強くなろうとも、「神の目」を使うことはないだろう。これは璃月を守る最後の手段である。
仙獣と人間の混血として、彼女は二つの種族の架け橋となることを選択した。そして「神の目」は、その新しい責任への証人である。

閑雲

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キャラクター詳細
『清斎広録三家集注』なる典籍によれば、仙人は旅をする時、「八の清らかな霞気」を伴い、「光に乗り、雷を追う」ように空を舞うという。寿命は非常に長く、凡人にとっての数百年や数千年は、仙人からすれば仙府での一休みにすぎず、「閬風に昼夜あらず」とも書かれている。
さらに、この清斎広録には仙人の住処に関する記載もあり、仙人は天を枕に、地を布団にし、山河湖海のあらゆる場所を住処にするとされている。だからこそ、璃月の史書には仙人との邂逅に関する話が数多く登場するのであろう。以上が、仙人にまつわる一説である。
さて、金石典籍『歩虚石譜』においては別の説が展開されている。石譜は、絶雲の間の奇石を高く評価するとともに、さりげなく警告の文を記載している。「絶雲の諸峰、百丈の背丈を各々競って天へと伸ばす。各山に主あり。慶雲頂は削月築陽真君、琥牢山は理水畳山真君、奥蔵山は留雲借風真君。君子主ある山を登らず、亦た主ある石に手をつけず。」
世に伝わる書物に仙人の容姿に関する記載が少ないのは、こうした畏敬の念ゆえなのであろう。歴史学者子萇の著書『石書集録』および古の歌謡におけるわずかな描写から、仙人の姿はまさに千変万化であることが垣間見える。留雲借風真君を例にとれば、人の姿のときは「容姿端麗にして、紅の絹を身にまとい、化粧を施している」という。一方、鳥獣の姿のときは「力強く空を羽ばたくその翼は雲を掻き分け、その鳴き声は月にも届く」とされる。
清斎広録には興味深い逸話が収録されているが、仙人の超然とした気質をよく現している——昔、絶雲の間で留雲借風真君と出会った一人の旅人が、自作のからくり水時計「玉瓶浮溢」を仙人に見せながら得意げに語り始めた。しかし、仙人は浮溢で時を測る際の欠点をたったの一言で言い当てたのだ。その後、旅人は仙人に教えを乞い、手解きを受けた。そしてやがて、仙人に見送られて山を下りていった…
「世を逍遥し尽くし、万物は我が手中にありと、傲慢の心あり。仙人にまみえ、初めて衆生の小さきを知る」とはよく言ったものである。


キャラクターストーリー1
璃月港には絶えず大勢の人々が出入りしている。裕福な璃月の大商人、変わった身なりの異郷人、高級官僚、そして親切な鏢師など…性格も職業も様々な人々が行き交うこの街には、どんな者が現れようとも不審に思われることはない。
たとえ見覚えのない者が突然街に一人増えたとしても、住民たちは特に何の反応も見せないのである。
ある日、璃月港に突然やってきたとある女は、「閑雲」と名乗った。それはすらりと背が高い、なんとも気品のある女で、赤い縁をした眼鏡をかけている。
璃月にマシナリーを売りに来ているフォンテーヌの商人たちは、彼女をたまに見かける。彼女は屋台の前を通りかかると、足を止めるのだ。そして、仕掛けの設計をめぐって商人たちと議論を交わすうちに、日が暮れていることもある。万民堂の卯師匠と香菱は、彼女と顔馴染みらしい。彼女はしょっちゅう店を訪れては、グゥオパァーと一緒に卓につき、熱々の龍髭麺を待っている。新月軒と琉璃亭の従業員も、彼女を知っている。たまに往生堂の鍾離先生の客人として、一緒に来店することがあるからだ。おもちゃ屋の店主・山ばあやは彼女を覚えている。よく白い長髪の若い女を連れて、おもちゃを見に来ていた。申鶴と呼ばれる連れの女は、しばらく品を眺めてはいたが、特に気に入ったものが見つからなかった様子だった。それでも閑雲は、時々彼女をおもちゃ屋に連れてきていた。
ちょっとした趣味があり、広く人々と付き合い、友人も多い——璃月港のほとんどの住民と、彼女はさして変わらないようである。
だから、彼女が玉京台近くの池のほとりでピンばあやと語り合っていても、その姿に何ら違和感はない。
「近頃、理水にはあまり会っておらぬな…削月のやつは、前に貸してやった『多用途洞天掃除呪符』をまだ返さぬのだ。」
「おや?新しく作ったと言っていた、呪符型からくりかい?」
「その通りだ。ふむ、説明しよう…」
また、璃月港の家々から灯りが消え、街がしばしの静寂の中で、再び目を覚ますまでの時間を持て余した頃…時に、閑雲は小径を辿って天衡山へ向かう。
岩だらけの険しい道も、閑雲にかかれば造作もない。両足で軽く地面を衝けば、たちまち足元には風が吹き起こり、瞬く間に山頂へと辿り着く。
朧気に見える遠くの街の景色を見降ろしながら、「閑雲」から鶴の姿となった彼女は、翼を広げて空高く飛び上がる。
なにせ、森羅万象を抱く璃月港なのだ——仙人が幾人か住んでいたとしても、何ら不思議ではないだろう。


キャラクターストーリー2
璃月の歴史の一部は歳月とともに失われ、一部は古代遺跡の形で大地に遺され、そのまた一部は仙縁ある璃月人によって、史籍に記録されている。璃月史に興味があるならば、璃月の隅々を探訪するだけでなく、史料の精読にも励むべきである。その過程において、蔵書家は重要な役割を果たす。璃月港には「東明居士」を自号する博識な学者がいるが、これはまさにそうした蔵書家の一人である。
東明居士は往生堂の客卿・鍾離と親交があり、よく彼に古書の真贋鑑定を依頼している。ある時、鍾離が所用で向かえず、代わりに友人に鑑定を頼んだことがあった。
赤縁の眼鏡をかけ、すらりと背が高いその友人は「閑雲」と名乗った。東明居士は、鍾離と同じく、風雅の道に心を寄せる文人が来るものと想像していた。ところがどっこい、部屋に入ってきた彼女は目の前に広がる古書には目もくれず、扉の古いからくり錠前ばかりに視線を投げかけているではないか。東明居士は緊張し始めた。彼がどこから話を切り出せばよいかわからず途方に暮れていると、沈黙の中に漂う気まずさを察知したかのように、閑雲が口を開いた。「視力は古書を鑑定するのに何ら問題ないぞ」——東明居士をなだめるような口調で、彼女は眼鏡について語り始めた。
「視力が悪いわけではないのだ。眼鏡に頼らずとも、よく見えている。眼鏡というのは、視力を補う道具というだけでなく、装飾品としての一面も持つ。その観点からみれば、眼鏡の縁の色とて、ありふれた定番の色に限る必要はなかろう?赤という選択肢も十分あり得るのだ…」
「変わったお方だな」東明居士は思った。
「それに、眼鏡を掛けていれば、より親しみやすく感じてもらえるだろう。人間らしさも増す…」。それを聞いた東明居士の顔が、一気に青ざめた。
「璃月港の人間にとって、より馴染みのある格好になるという意味だ。私は元々、ここいらの者ではないのでな…」
なるほど、そういうことだったのか。東明居士も地元の出身ではなかったため、話を聞いて随分女に親しみが湧いた。そして彼は、鑑定依頼をする予定だった古書へと話を運んだ。
しばらくページをめくったあと、閑雲は眉をひそめた。「『その屈強さは牛のごとく…尻尾に翼あり』…北の浮錦がそのような姿で人の前に現れるわけがない。それに、理水畳山についても…出鱈目だらけだ。」
古書の真贋を判別する方法の一つに、記述内容の検証がある。専門家が記述に誤りがあると言うならば、高値で買い取った古書も偽物である可能性が高い。古書の収集は大変な苦労と金銭を要する作業なのだ。時に、ひもじさを我慢しなければならない時さえある。東明居士は苦笑した。両親と妻を亡くし、苦難多き人生を過ごしてきた彼にとって、書籍に浸る時こそが世の苦しみから逃れる唯一の方法だった。
万感の思いが込み上げてきて、東明居士は嘆いた。「凡人の一生は苦難に満ちている。仙人のように悠々自在に逍遥することなど、夢のまた夢…私が仙縁を得ることは生涯かなわないのだろう」
閑雲は眼鏡越しに、やせ細った蔵書家をしばらく見つめ、やがて口を開いた。「かねてより、仙道を求めるには、天に上り、地に潜ることも厭わず、苦労に苦労を重ねねばならぬ…そうしてようやく、道を論ずる縁を授かるのだと言われておる。仙人になるまでの苦難は、人の苦しみに劣らぬぞ」
「おっしゃる通りです。つい、つまらぬ愚痴をこぼしてしまいました」
挨拶を交わし、東明居士に見送られながら書斎から出る際、閑雲はふと何か思い出したように告げた。「書籍は本物ではなかったが…扉の古い錠前を外して、骨董品屋に持っていくといい。書籍の購入額程度の値打ちはあるだろう」
「それから仙縁のことだが——お前は確かにそれを得ている故、長い目で未来を見据え、英気を養っておくがいい」


キャラクターストーリー3
歴史学者の間で主流となっている見解は、以下のようなものである。「太古より物あり。天地の上下八方に極尽あり、宇宙の四方に伸ぶ川に始終あり。六合の間に、仙人は神の誕生を待たずして生まれ、陰陽に頼らずして形を成し、草木を潤わせ、金石に融ける。此れ即ち自然と言うべし。其の始まりを知らず、終わり料り難し。」分かりやすく言えば、天地には境界があるが、神の造物でない仙人にはそれがない…ということだ。
璃月という言葉がまだ存在しなかった昔、仙人たちはすでに山野を往来していた。世を守り、人を救うことを己の責務とする者もいれば、人を害する者もいた。清斎広録には、この時期に関する記録が一部ではあるが残されている。
「旱魃猛威を振るい、赤野焼ゆるが如し。人心燻る中、誰をか恃まん。瘴気災いと化し、疫病蔓延す。人心焼焦せし中、誰か我を救ふ者あらん」
「仙人来りし時、雲留まり、風立ちぬ。厚き雲、多き雨を下す。旱疫悉く逐はれ、万民悉く救はるる。」
のちに「留雲借風真君」と尊敬を込めて呼ばれるようになったこの仙人は、干ばつを鎮め、危機から民を救った。当時、その恩恵にあずかった民が、感謝の意を込めてこのような記録を残したのである。
その後、魔神戦争が勃発した。人々を憐れんだ契約の神・モラクスは、留雲借風真君をはじめとする諸仙人と志を共にした。仙人たちは命に従って四方へ征戦した末に、ついに天下を平定し、世に再び晴天が訪れた。
英雄と仙人が活躍したその時代は、感慨深い想いとともに後世に語り継がれた。歴史に刻まれた仙人たちの雄姿は、無数の伝説となって璃月人が成長する過程で親しまれるようになった。しかし、人が仙人について語っていても——特に、彼女自身に関する部分を語る時——閑雲は殆ど何の感情も表に出さない。
かつて奏楽が響き渡っていた絶雲の間は次第にもの寂しさに包まれる地となり、かつて共に笑っていた友人たちは、幾人も戦争で逝ってしまった。それを思うたび、閑雲は虚しくなるのだ。旧友たちは世を守るために進んで身を戦地へ投じた。しかし友がいなくなっても尚、この無念が消えることはない。
とはいえ、誓いは必ず守る…皆、かつてそう岩王帝君と約束した。その契約にこそ、皆の信念と願いが刻まれているのだ。誓いを破り去ろうなどという考えが、閑雲の中に浮かんだことは一度たりともない。なにせ彼女は、仲間との友情を何よりも大事に思っているのだから。皆の願いを見守るためにも、絶対に璃月を見捨てることはしない。
悲しみと決意は心に渦巻き、様々な想いが胸に押し寄せては、次第に静まっていく。人の語る伝説に静かに耳を傾けていた閑雲は、最後に一言だけ口にした。
「ふむ、実にいい話だ。」


キャラクターストーリー4
知音が散り行く前、時折仙人たちは一堂に会して共に音を奏で、絶雲の間にその音色を響き渡らせていた。
歌塵浪市真君は音楽に精通し、琴を奏でるのが得意で、塵の神・帰終は作曲が得意だった。
夜叉の伐難と応達はよく留雲借風真君と一緒に、歌塵浪市真君の琴音に合わせて歌を歌った。興が乗れば、留雲借風真君は様々な姿に変化し、風に乗って軽やかに舞った。
このような光景が繰り広げられるたび、山や水に棲む生き物たちは顔を上げ、耳を立て、静かに仙音に聞き入った。他の仙人たちも足を止めて、音に耳を傾けたものだった。
しかし、今や静まり返った絶雲の間では、風の音と鳥の鳴き声しか聞こえなくなった。
たまに奥蔵山にある仙府の奥深くから、留雲借風真君が弟子と会話を交わす声が聞こえてくるのみ…
憐れみの心から受け入れた数多くの弟子の中には、その哀れな生い立ちに心が痛む者もいたが、数年間の敬虔な修行を経て、その悲しみや辛さに満ちた雰囲気はすでに消え去った。霜に覆われた梅の枝が、雪が溶けた後に、より一層強い姿を現すように。
そんな弟子たちを見守っていると、かつての友人たちの願いに込められた美しきものが弟子たちに引き継がれていることを感じて、閑雲は微笑ましい気分になる。
だからこそ、「我があの子たちを守ってやらねば」と思う。時に思いが行き過ぎて、かえって弟子たちを戸惑わせることもあるが、閑雲は大して気にしていない。
友人を亡くし、みながバラバラになってしまったことも、大地が血に染まるような壮絶な経験をしたこともない弟子たちに、真君が大切に想うすべてをはかれるはずがない。皆が無事で、元気でいてくれるなら…それだけで満足なのだ。


キャラクターストーリー5
玄妙なる天道は捉えにくく、仙人たちの修行法もそれぞれ異なる。
留雲借風真君のそれは、「格致」を経て己の外に存在する道を求め、それを己の内に修めるというものである。そうして、外に頼って己を磨き、外なる理と内なる心を一つにするのだ。「格致」とは即ち、森羅万象に秘められた「天地の道」を窮めただすことである。世の万物には、意識の有無に関わらず、道理というものが存在している。その道理を研究し学ぶことは、万物が従っている道について理解することであり、これこそが修行の正道なのである。
真君は千年にも及ぶ熱心な研究の末に、大いなる気づきを得て常人の届かぬ境地に至った。しかしながら、凡人の命の短さ故に、道理の真髄をすべて弟子に授けられないのは実に残念なことである。そればかりか、資質に欠ける者はたとえ彼女の導きを受けたとしても、悟りを開くことができないのだ。
知恵を絞って考えた結果、彼女はある方法を思いついた。
凡人が天道を悟ることが至難の業ならば、その道理を仕掛けの術に溶け込ませて、人々に伝えてやればよいのだ。
難解極まりない「天地の理」も、細かく分けて少しずつ世に伝えれば、人間がより理解しやすいものにできるだろう。
それに、仕掛けの術で生産が捗れば、労力と物資の消費を大幅に抑えられ、その恩恵は計り知れないものになるはずだ。
からくり装置で洗濯ができれば、「夜闌にして臥して衣を濯ぐを聴く」ことはなくなる。
人を乗せて走る装置があれば、杖や草鞋を拠り所にして何千里も歩く必要もなくなる。
なにせ、平和なこの時代だ。彼女が雨を降らせねばならないような干ばつはなく、人々もすでに田畑に水を引く術を得ている。そして、戦火もほとんど消えた。みなの心に安らぎが訪れた今、人々が望んでいるものは、より豊かな生活だろう。
この時代、契約の通りに俗世を守る方法は、殺生と魔物退治だけではあるまい——装置を作って、人々の暮らしに利便性をもたらすこともいい方法と言えるだろう。
凡人が限りある生涯のうちに、天地の理を悟り、世のためとなる功績を残すというのは至難の業だ。しかし、彼女が手を貸せば、「桃源郷」を築くことも夢ではないかもしれない。
かつて絶雲の間に響いていた音色を再現することはできないが、街の家々から聞こえる笑い声を守ることならできる。それは彼女の、心からの願いでもある。
それに、仕掛けの術は留雲にとって大いに興味をそそられるものだ。こよなく美食を愛する彼女も、新しい仕掛けの術の研究となれば寝食を忘れるほどなのだから。
斯くして、「留雲借風真君は仕掛けの術の研究を好む…というよりも、我を忘れるほどのめり込んでいると言うべきだろう」——これはいつしか、弟子の誰もが知る公然たる事実になったのである。


玉虚
伝説の中で、仙人の住処は「玉虚」と呼ばれている。絶雲の間の各山にある仙府は、まさにこれである。
しかし「玉虚」は元々、俗世を俯瞰する慶雲頂の雲上を指す言葉であった。ほとんどの凡人はお目にかかれない場所である。
また、「玉」は仙府の土台となる、無欠なる浮生の石を指していた。これがあるからこそ、かの地は雲の上に浮いていられるのだ。
「道は虚にあり、登虚すれば即ち道を得る」。かつて仙道を求める者は天に登り、地に潜って修行を行わねばならなかったが、ここはそのうちの「天」の試練の場であった。
玉虚は元々、道心をはかるためのものではなく、留雲借風真君が己の心を静めるために作ったものだったのだが、削月築陽真君と理水畳山真君の提案のもと、仙道を求める者のために譲ることにした。その後、帝君が承諾し、帰終と歌塵も賛成したので、留雲借風真君は快く玉虚を譲り、そこに小さな亭を建てた。
今や、仙道を得られる者は極めて稀だ。俗世において伝説となりつつあった「玉虚」は、再び留雲のものとなった。だが、雲上に戻った彼女の心境は、昔とは異なるものであった。
果てしなく広がる雲海に陽が昇っては沈む…その光景は確かに壮観だが、俗世の賑やかな日常にもまた、それなりの趣がある。
閑雲という名で人と共に生きる——今の彼女にとっては、そのほうがより楽しみなことなのだ。
「ちょうど小腹が空いてきたな。今日は万民堂のかにみそ豆腐をいただくとしよう。」


神の目
璃月の仙人は、天地の間に漂う元素の力から生まれた純然たる元素生物である。つまり、常人と比べて「道」の根源に近い。
閑雲にとって、元素力を導くことはほとんど無意識のうちにできることであり、何らかの器官に頼る必要もなければ、もちろん神の目も必要ない。
だが、人の姿で俗世に生きる以上、その身も俗世の法則に従うのがよいはずだ。神の目を身につけても、それを媒体として元素力を駆使することは容易いだろう。——そう閑雲は考えたのである。
そのため一般人と違って、閑雲は腕に着けた神の目をさほど重視しない。しかし、閑雲には神の目のお陰で気づいたことがあった…
以前、荻花洲でがっちりとした体格の農夫が、いかにも弱そうな強盗二人に匕首で脅されているところに出くわした時のことだ。農夫は手にクワを持っていながら、小柄な強盗たちに抗うどころか、ガタガタと震えるばかりであった。助けようと思って歩み寄った閑雲だったが、か細い女にすぎないと思ってか、農夫はこう言った——「やめておけ。巻き込まれたら、怪我をしてしまうぞ」
しかし、話しながら彼女が横を向いたとき、農夫は閑雲が神の目を持つ「侠女」であることに気づき、態度を一変させた。「共に強盗共を追い払ってくれ」…そう言いながら、クワを振り回して強盗に向かって突進したのだ。そして農夫はなんと、クワ一本で強盗を追い払った。閑雲が手を貸したのは、強盗の一人が手にしていた匕首を落としてやったことだけである。農夫は、彼女の腕にキラキラと輝く神の目を見つめながら、繰り返し嘆いた。「俺にも神の目があればな…」
農夫に必要だったのは神の目などではなく、ほんの少しの勇気だった。にもかかわらず、神の目に気付いたとたん、まるで別人のように振る舞えてしまうほど、彼の心は神の目に大きな影響を受けた。人間がどれだけ外部の影響を受けやすいものなのかを如実に表した一例だろう。
農夫の反応が理解できず、彼女はしばし戸惑った。
世の物事には必ず、客観的な性質が存在しているものだ。しかし、その表面だけに囚われ、媚びを売ったり蔑んだりするのはなんと愚かなことであろうか。閑雲はこれまで生きてきた中で、一貫してはっきりとした物言いをし続けてきたが、その言葉は常に物事の表面に留まらず、根本に触れるものであった。
尊敬に値する人には敬意をもって接し、そうでない人には冷ややかな態度を露わにする。留雲借風真君のときも、侠女閑雲のときも、その性格が変わることはない。
「よく見るがいい、私はほとんど手を貸しておらぬ。お前一人で敵を打ち倒せたのだから、もっと自信を持て。」そう言い放つと、閑雲は袖をひるがえして立ち去った。
義侠の心を以て俗世を濯ぎ、慧心を以て天道を伝える。今日も、閑雲は颯爽と俗世を渡り歩く。

キィニチ

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キャラクターストーリー1


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◯◯◯◯


神の目

キャンディス

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アアル村を訪れるすべての旅者に対し、キャンディスは必ず最大の善意を尽くし、一部の人が無礼を働けば、相手をすぐに正してそれ以上の追求はしない。
キャンディスにとって、何よりも重要なのが村の掟だ。この辺境の地を尊重しさえすれば、誰もがアアル村で休息を取ることが許された。
しかし、もしこの寛容な態度を弱さと見なし、アアル村で不義を働こうとする者がいれば、もっとも大きな代償を払うこととなる。
その時、彼らはキャンディスの槍と盾が何よりも恐ろしい武器だと気づくだろう。
アフマルの子孫、砂漠の民、ガーディアン…重き身分を背負ったキャンディスは、アアル村を守るという永遠の職責を担っているのだ。
「この村では、掟を守る人だけを歓迎します。」


キャラクターストーリー1
「アアル村こそが、キングデシェレトの末裔にとって最後の安息の地である。」
「アアル村の『ガーディアン』の使命とは、最後のキングデシェレトの民がいなくなるまで、この村を守り続けることである。」
八歳の時、キャンディスは正式に新たな「ガーディアン」に任命され、彼女に職位を授けた者からそう忠告された。
キングデシェレトが逝去し、彼ら末裔がこのような俗世から離れた地を手にしたのは何よりも良いことだった。
ガーディアンたちは代々、黙々とその職務を執行した。無数の村人が「キングデシェレトの末裔」としてこの世を去り、永遠の安寧を手に入れられるよう守り続けた。
そうやって村の中で静かに消失していくことが、アアル村の人々の悲願なのだ。
しかし、この古の村に新たな生命が現れた時…これまでのすべてが、変化せざるを得ないかもしれない。


キャラクターストーリー2
村長のアンプおじさんが、スメールシティからやってくるキャラバンがまもなく村に到着し貿易を始めると宣告すると、前任の「ガーディアン」たちは自身の耳を疑った。
考えが古い前任の「ガーディアン」たちは激昂し、「お前は伝統を破壊している」と責め、現任の「ガーディアン」であるキャンディスに守衛を集めて商人たちを追い出すよう要求した。
しかし、キャンディスはそれを拒否した。彼女はすでに村長と合意していたのだーー村の人々の未来のため、アアル村は変わらなければならないと。
何度も説得したが、前任の「ガーディアン」たちは聞く耳を持たなかった。さらには「キャンディスがやらないのなら、自分が武器を取ってガーディアンとしての責務を果たす」と主張し始めた。
最終的に、槍と盾のぶつかる音が彼らの激しい口論を鎮めた。キャンディスは立ち上がり、槍と盾を手にして微笑みながら周囲を見回すと、驚いた表情の古参たちに向かってこう言った。
「皆さんの気概が見られて、私はとてもうれしいです。」
「でも、今のアアル村の『ガーディアン』は私ですから、皆さんはもう休んでいてください。」
武器の説得力が言葉に勝ったのか、激しい口論も止まったようだ。
短い準備の後、キャンディスは「ガーディアン」として村長に同行した。そして、正式にキャラバンを迎え入れて彼らと貿易の交渉を行い、相手が村から出る時は自ら護衛についた。
数日後、再びキャラバンが村を訪れると、一見何の変哲もない布地の取引を済ませていった。
このキャラバンが取引を成立させた情報をスメールシティに持ち帰りしばらくすると、スメールの商人たちの間で新たな話題が出回り始める。
「なぁ、知ってるか?アアル村に商売をしに行ったらかなり儲かったらしいぞ!今度、俺たちも試してみないか…」と。


キャラクターストーリー3
実際のところ、キャンディスが槍と盾を使って他人と発言権を争うようなことはほとんどない。
アアル村の子どもたちはいつも「キャンディスお姉ちゃん」がどんなに怒ったとしても、ただ眉をひそめて、悪いことをした子どもにクルスームおばあちゃんが用意した法帖を書き写させるだけだと思っていた。
アアル村の他の守衛たちは、キャンディスの要求は厳しくとも、適切に行動しない人や怠惰な人に対して彼女は体罰を加えることはせず、懇切丁寧に彼らを指導すると思っていた。
村の老人たちは、キャンディスは負の感情を表に出さない人だと思っている。彼女はこれまで、彼らの前で悲しい顔を見せたことがなかったのだ。
村を訪れる商人ですらも、キャンディスからはとにかく完璧なおもてなしを受けた。出迎えから宿泊に至るまで、すべてが彼女によって整然と手配された。
彼女があまりにも優しすぎるせいか、商人たちを少し不安にさせてしまう程であったーー
この村は、大赤砂海に隣接しているのだ。周囲には多くの魔物がいるだけでなく、無法者の盗賊たちがこの村を狙っているに違いない。
このような「ガーディアン」で、本当にみんなの暮らしを…それと商売を守っていけるのだろうか…?
ある晩、酒が入りすぎた行商人が勇気を持って聞いてみた。
「ガーディアンさん、俺たちはこの村で商売ができるようになったけど、知ってるでしょう?この砂漠には無法者もたくさんいるってことを…」
「それなら心配いりません。掟を守る人だけがアアル村のお客様ですからーーつまり、掟を守らない人は…」


キャラクターストーリー4
掟を守らぬ者はアアル村の「敵」である。
砂漠に身を潜めるエルマイト旅団、冒険者になりすましてやり過ごそうとする盗賊、荷物を奪うため現れる宝盗団……この村を脅かそうとする者は、どんな手段で逃げ隠れしようとも最終的には相応の罰を受けることになる。
心から罪を認めて反省した者は赦され、砂漠を越えるのに十分な補給も与えられるが、その代償として彼らは二度とアアル村の周囲に姿を見せてはならない。
頑なに抵抗を続ける者の場合…その卑劣な魂は、その場で砂礫と運命を共にするだろう。
砂漠を離れたあるエルマイト旅団のメンバーはかつて仲間に対し、アアル村の恐ろしい「ガーディアン」キャンディスこそ真のキングデシェレトの末裔だと警告した。
彼女の盾にはアフマルの祝福が宿っている。盾を手にすれば、大赤砂海のすべての砂礫が彼女の呼びかけに従う。彼女が願えば、巨大な砂嵐を引き起こしてすべての敵を呑み込むことすら可能なのだ。
それだけに留まらず、彼女の琥珀色をした左目には未来を見通し、相手の運命を見抜く力があるという。これほどまでに恐ろしい存在の彼女だ、その追跡から逃れられる者は誰一人としていない。
人々は、キャンディスがこれら神通力でアアル村にとっての「敵」をすべて一掃したと信じている。


キャラクターストーリー5
アフマルの恩恵を真に感じ取ったことがないのは、キャンディス自身が知っていた。
「ガーディアンは未だかつて神に祝福されたことがない」ーーこれは「ガーディアン」の間に伝わっている秘密だ。
新たに「ガーディアン」となり盾を手にし、正式に任命されて初めて、その者は真実を知らされる。
真実を知った「ガーディアン」の反応は様々であり、ある者は自暴自棄になって落胆し、武芸の修練すらも怠けるようになる。またある者は自分が見守られていないのなら規律を守る必要がないと身勝手な行動をし、果てには掟を無視する。
しかし、キャンディスはその事実で落胆することはなかった。
「私の槍と盾は、神の恩恵を祈るために振るうものではありません。」
「神の祝福があろうと無かろうと、『ガーディアン』の責務が変わることはありません。」
来る日も来る日も彼女は鍛錬に励み、他人より優れた意志と武芸を自ら身に着けた。
アアル村を訪れた多くの客人がキャンディスを引き抜こうとした。彼女は誰よりも優れているのに、どうしてアアル村のような目立たない場所に留まる必要があるのか?もし彼女が外の世界に出たいと思えば、新しい事を始めるのも不可能ではないかもしれないのに…
しかし、キャンディスはいつもこう答える。「『ガーディアン』が守るべき対象から離れることはありません」と。


キャンディスの装飾品
キャンディスはよく、アアル村を訪れた客商から様々な装飾品を購入する。
水色の石がはめ込まれたヘアピン、シルクでできたヘアバンド、金メッキが施された首飾り、カルパラタ蓮の模様が刻まれた金属の腕輪、教令院の各大学院の紋章が描かれたペンダントなど…
ディシアからは、普段からもっとおしゃれをしてお金を自分のために使ったらどうだと勧められるが、装飾品の中にはあまりに脆いものもある。普段の仕事環境のことを考えると、せっかく買った品を壊してしまうのではないかとキャンディスは心配し、結局それらを衣装棚の奥にしまっていた。
どうやら、これらの装飾品はキャンディスが一時的に「ガーディアン」の職務から解放され、他の服に着替えて日陰で休む時になって初めて役立ちそうだ。もしくは、いっそのことプレゼントとして友人にあげてしまう手もある。


神の目
部外者がひっきりなしに訪れ、アアル村は未だかつてない状況に置かれていた。
商人を装って村に潜入した宝盗団、キャラバンを脅かす傭兵集団、悪巧みをする悪徳行商人…
それに、外の人々と関わったことでアアル村の住民たちは次第に外での生活に憧れを抱くようになった。そうして次第に外で生計を立てようとする人が増え、村に残りたいという若者が減ってきた。
前任の「ガーディアン」たちは伝統に「背いた」キャンディスに早くから不満を抱いていた。アアル村がそんな状況に置かれているのを見て、彼らは再び会合を開きキャンディスを非難した。
「ガーディアンがすべきことは、村の秩序を守ることではないのか!」
「キャンディス!お前のやっていることはすべて、この村から平穏を奪うことにしかなってないではないか!」
「キャンディス!今すぐ自分の職務を全うしろ!」
激しい論争の最中、長槍を持った女戦士が猛然と立ち上がった。
「もう十分です!」
「あなたたちがこの村の『過去』をそんなに守りたいと言うのなら、自分で守ってください!家の中に閉じこもろうが、アアル村を離れようが、あなたたちの勝手です!」
「私はアアル村の人々を永遠に『過去』に縛り付けておくことはしません。」
「あなたたちが前に進もうとしないなら、私が一人でみんなの『未来』を守ります!」
古参のガーディアンたちは女戦士の激昂する様子に驚いた。若く、炎のように燃え上がる瞳を前に、彼らはそれ以上問い詰めることなどできなかった。
めったに見せない怒りと共に、キャンディスは長槍を持って争いにまみれた小屋をあとにした。
まるで彼女の信念に応えるかのように、槍の先端にはいつの間にか輝く「宝石」があった。
神の眼光が彼女に気づき、彼女を認めたのだ。
「神の目」、それは揺るぎなき心。それは最良の装飾品となる。

凝光

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キャラクター詳細
「璃月七星」は璃月港のビジネスを管理している。高い位置にいると、自ずと狙いの的になることが多い。そのため、何事も慎重であるべきというのは彼らの共通認識であり、顔を晒すのは彼らが好むやり方ではない。
しかし、七星の中の「天権」星・凝光は唯一の例外である。
凄腕の商人、優しいお姉さん、玉京台の宴会で見かける美女、スイーツ業界一のコメンテーター…凝光の話になると、誰もが彼女について語れるが、話の内容はどれも異なっている。
ただ「凝光様はすごい人」ということだけが、どの話にも見受けられる共通点である。


キャラクターストーリー1
璃月港の上空には、浮石で駆動する空中宮殿が浮いている。それは凝光の産業、「群玉閣」である。
晴れた日には、宮門外のデッキから璃月港の景色を見下ろすことができる。
何か大きな問題を処理せねばならない時、凝光は3名の腹心を連れてこの空中宮殿に来る。腹心たちに資料を整理させ、結果が出次第、要点をまとめて壁に貼ってもらうのだ。一方、凝光自身は手すりに凭れて璃月の景色を眺めながら、静かに考え事をする。
そうして、壁が資料で貼り尽くされる前に、凝光は必ず解決策を思いつく。
その後、彼女は全ての書類を粉々にし、まるで粉雪を降らすかの如く、大量のくずとなった紙を窓の外に捨てるのだ。
紙くずに染みた筆跡は、璃月港にいる全ての商人にとって、雪の上の墨を零したように目立って見えた。
そして、この「粉雪」が降る度に、璃月港の商売合戦に大きな変化が訪れる。


キャラクターストーリー2
「凝光様は何でも知っている」。璃月の住人はよく外部の者にそう警告する。
法の抜け穴をつく商会、売り惜しみする悪徳商人、禁制品をこっそり持って帰る船隊…「天権」はこれらのことを全て把握している。
昔、とあるスメールの錬金術師が、璃月留学中に偶然、黒岩場の10年前の取引の帳簿を見てしまった。そして、その日の夜のうちに、凝光の近侍が彼の部屋を訪れ、彼を「群玉閣」へと誘ったらしい。
あの巨大な空中宮殿「群玉閣」には凝光の魔法がかかっており、璃月港にいる人々の言葉をすべて集め、一つ一つ凝光に聞かせているという噂もある。
しかし、凝光の本当の「耳」は、璃月港の街で無邪気に遊ぶ子供たちである。
見知らぬ人の来訪、秘密の会話などは全て子供たちに見られている。そして子供たちが「凝光お姉さん」の周りに集まる時、凝光の手にある菓子によって、彼らは持っている情報を全て凝光に渡すのだ。
凝光が子供の言葉に隠された真実を見つけた時、この璃月港で彼女の知らない事はなくなるのだろう。
彼女は誰よりも「人情」の価値を知っているからこそ、市井に時間を使うようにしているのだ。
もちろん、個人的な感情も少し含まれている――彼女は子供たちの笑顔が大好きなのである。


キャラクターストーリー3
金を稼ぐことにおいて、凝光は多くの人と同じ、金は多いに越したことはないと考えている。
彼女にとって、稼いだ金は自身の富であると同時に、勝利の象徴でもある。
凝光は、民衆に対しては優しいが、相手が同業者になると話は別である。
ビジネスの場での競争は、彼女にとってはかけがえのない刺激的なゲームであり、商人たちが仕方ないと言って渡してきたモラは彼女の笑顔を濃くする。そして、商会が彼女の言うことを聞く様子を見る度に、彼女の機嫌がよくなるのだ。
重なる勝利は「璃月七星」の財力を強くし、璃月港の経済の日々の発展は、凝光に更なるビジネスゲームと利益をもたらす。この双方にとって好都合な展開は、「璃月七星」全員を満足させた。
すでに巨万の富を持っているのに、なぜまだビジネスの場から引退しないのかと凝光に聞いてくる人はよくいる。
「巨万の富?それはもちろんいいことでしょう」
変わった質問に、凝光は困惑する。
「でも、モラは多いほうがいいに決まっている…そうでしょう?」


キャラクターストーリー4
規則を守って暮らすのが璃月での決まり事である。規則は人々の利益を守るもので、それを守らない人々には処罰が与えられる。
これらの規則は璃月の守護神「モラクス」が最初に作った法律であり、絶対的な信憑性を持つ。そして、璃月の数千年の歴史の中で、歴代の「天権」が法律の解釈を担当するのだ。これらの法律は本にまとめられ、279ページの解釈付録をつけて全ての璃月の住人に配られる。
凝光は規則に守られた璃月港が大好きだ。それは、きちんと整った秩序はビジネスをよりパワーアップさせるからであり、彼女本人が誰よりも秩序の細部を理解しているからでもある。
しかし、ある「北斗」という名の船長は、珍妙な貨物と唯一無二の情報を武器とし、何度も規則を破った。凝光の中では、彼女は璃月の規則を破る厄介者である。
凝光は「天権」として、規則を破った北斗に重い処罰を与えてきたが、いつも平然として受け入れている北斗に彼女は少し驚いたものだ。
立場上のためだけでなく、彼女自身も個人的に、何度も北斗にやり方を変えるよう遠回しに言及していたが、北斗にいつも「人助け」、「助太刀に入った」、「船隊を養うため」などの理由でごまかされてしまう。
時間が経つにつれて、「頑固者」という言葉以外で、凝光がこの船長を評価することはなくなった、*


キャラクターストーリー5
凝光のような魅力的で富に溢れる女性を、もちろん男たちが放っておくわけがない。
玉京台出身の貴公子、若い事業家、七つの国を周遊する船長、誰もが凝光の笑顔を得るためにあの手この手を尽くした。噂によると、あるフォンテーヌ廷のオーナーは、偶然凝光と言葉を交わしただけで、璃月港との貿易ルートを開けと部下に命令したという。なんでも、ただ彼女と話す機会がもっと欲しいためだけだということだ。
凝光は、こういった男たちにはいつも礼儀正しく、優雅に振る舞いながら、適度な距離を保つ。そのため、凝光様を射止めるのは一体誰なのかという話題は度々、港に上がった。
――凝光は「有限」なものを愛さないし、「有限」に囚われるつもりもない。
「群玉閣」、この璃月港の上空を飛ぶ、凝光だけの宮殿は最初は一部屋ほどの大きさだったが、今では璃月上空の月を隠せるほど広くなった。
凝光が稼いだ金の一部はいつも「群玉閣」に使われる。トップクラスの職人を招聘して、「群玉閣」をより広く、華やかにするのである。
凝光にとって、「群玉閣」は彼女の権威と力の象徴であり、彼女のビジネスが良好な証でもある。
まるで「無限」を思わせるこの場所は、モラの次に凝光が愛するものだ。
いつか「群玉閣」の影は七国を覆うと彼女は信じている。


ボードゲーム「璃月千年」
凝光は暇つぶしに棋戯のゲームを開発した。
璃月港の街の地形を元に作った棋盤に露店、茶館、商店、食堂と店舗があるほか、6面、10面、12面のサイコロがついている。プレイヤーはサイコロを振って進むマスを決める。止まったところによって様々なイベントが発生する。
ゲーム終了時に所持チップで勝敗を決める。
凝光の機嫌によって、ルールは常に変わる。他人と遊ぶ時のルールは、凝光が持っている最新版を基準にしている。
機嫌が良い時はその場で紙を持ち出しルールを更新することもある。ーー今まで凝光に勝った者はいない。ちなみに最新バージョンはVer.32.6である。
市場に流通しているもののうち、凝光が最もわかりやすいと評価したのはVer8.0である。だが一般市民にとって、このルールは相変わらず複雑である。
でも棋の設計が極めて美しいため、買う人が後を絶たない。
実は、このような目的で購入した人は、実際に棋をプレイした人よりも多い。


神の目
「神の目」はどういう風に誕生するのか、誰も知らない。神の目はいつも突然現れる。逆に、いくら求めても現れてくれないこともある。
持ち主のいない「神の目」の抜け殻は、使用者が死んだ後に残ったもの。中に元素力はなく、それを呼び起こすこともほぼ不可能である。低い確率で人と共鳴できるが、試す機会は限られている…
凝光はこの抜け殻を見た時、頭にアイデアが浮かんだ。これが新しい商機なのだ。
この抜け殻を競売に出したら、金持ちはきっと大金をかける。例え共鳴できなくても、飾りとして自慢できるはずだ…
抜け殻の入手ルートが分かれば、うまい話になるじゃないかと凝光は考えていた。
凝光は「神の目」の抜け殻をいじりながら、競売の計画書を書いている。これから次々に入ってくるお金のことを考えると、彼女は思わずニヤッと笑った。だがその時、抜け殻が急に光り出した。
「神の目」の覚醒と共に、凝光の笑顔はどんどん消えていく。
部屋に入った近侍が凝光の手にある「神の目」を見て、「凝光様おめでとうございます」と連呼した。
だが、凝光は機嫌悪そうにこう言った:*
「何がめでたいの?開封済は、売り物にはならないわよ!?」

綺良々

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キャラクター詳細
もし稲妻人に「一番信頼できる配達会社はどこか」と聞けば、みんな「狛荷屋」の名前を挙げるだろう。
そして、その業者の印象に残っているサービスについてさらに質問を続けたとしたら、みんな笑顔で口を揃えて、ある特別な配達員のことを話してくれるはずだ——
彼女は元気で可愛い女の子で、後ろには二本の尻尾が踊っている。荷物を受け取って彼女に感謝の言葉を述べれば、大事なものを受け取ったのは彼女のほうだったかと錯覚するほどの、幸せに満ちた表情でお辞儀を返してくれる。
もう少しだけ時間をかけて「評価欄」に五つ星の高評価をつけてあげれば…あるいは彼女にお菓子をあげれば、この妖怪の少女が感激のあまり目をキラキラさせ、嬉しさに尻尾をユラユラさせるところが見られるかもしれない。
おっと!しかし…同時にみんなはこう忠告するだろう——この「猫又」を見た目で判断し、甘く見ないほうが良いと。もし他の顧客の荷物に良からぬ考えを持っていたら、もしくは調子に乗って彼女の尻尾を触ろうとしたものなら…相応の代価を払うことになる。
そんな話を聞いてしまった人は、きっと好奇心に駆られて「狛荷屋」まで足を運ばずにいられない——
「こんにちは…店長、配達をお願いしたいんですが、例の猫ま…」
話し終えるまでもなく、店長は慣れた素振りで店の奥に向かって叫ぶ。「綺良々!ご指名だ!」
すると一人の少女がニコニコ微笑みながら表に出てくる。そして彼女は髪の毛を直し、服を整え、笑顔のまま話しかけてくる——
「いらっしゃいませ、こんにちは!狛荷屋をお選びいただきありがとうございます!」


キャラクターストーリー1
綺良々は物心ついた頃から、稲妻の野外を流浪していた。
当時の彼女はまだ名前すらない子猫で、尻尾も一本しかなく、毎朝目が覚めると音が鳴るほどにお腹を空かせていた。伸びと欠伸をしてから、不平を漏らすかのように一声「ニャー」と鳴くと、不注意なヤマガラや、岸辺に集まる好奇心旺盛な魚たちを狩りに行っていた。
野外でたまに冒険者と出くわすと、彼女はいつも遠くに伏せて、彼らがカバンから沢山の不思議な道具を取り出すところを、羨ましそうに眺めていた。「カチャ」、温かな火がついて…「ガシャン」、奇妙な鉄の鍋が置かれる。「コトコト」、じきに美味しそうな匂いが漂ってくる…
綺良々はまるで不思議な魔法を見ているかのように、目をまん丸にしてその全てを眺めていた。人間社会への憧れが小さな蝶のように彼女の心に飛び込んで来たのは、恐らくその時だろう。
ある冬の夜、冷たい風が吹き荒れて、まだ子猫だった綺良々は寒さのあまり自分の尻尾の存在すら感じ取れなくなっていた。
「小さな木のほらでもいいから、早く暖かいところに避難しないと…」頭の中でそう考える。そして彼女が再び顔を上げたとき、少し先に暖かな明かりが一つ踊っているのを見つけた…
綺良々が人間のすみかに入るのはこれが初めてだった。周りの全てに興味津々だったが、同時に少し怖くもあった。部屋の主人は、まだ小さな猫が一匹部屋の中に入って来たことには気づいていないようだ。しかし綺良々は部屋の主に目もくれず、玄関にあった四角い箱を見つけて中に潜り込むと、そのまま眠りについた。
「ここで一晩だけ眠らせて、一晩だけだから…」そう思いながら、彼女の意識は夢の中へと落ちていった…
けれども、次に彼女が目を覚ましたとき、近くには暖かな囲炉裏と、香ばしい猫まんま、それから編み物をするおばあちゃんがいた。おばあちゃんは彼女に何か話しかけた——どうやら、綺良々に食事を勧めたみたいだ。綺良々は尻尾を低くして、警戒しながらも心惹かれるままに、猫まんまに一口かぶりついた…
それは彼女がこれまでに食べた中で一番美味しいものだった。自分はまだ夢の中にいるのではないかと思ってしまうほどに。
こうして、彼女はこの温かい家の中で何度も冬を越し、優しいおばあちゃんから幾つもの物語を聞くことになった…
綺良々は時々、この家にやってきた最初の夜のことを思い出しては、毎回首をかしげて自分に問いかける。
「おかしいなぁ…あの夜わたし、眠る前に何を考えていたんだっけ…」


キャラクターストーリー2
綺良々は人間の街が好きだ。活気のある市場や、密集する建物…初めて見るものが、そこら中にある。
「猫又」になったばかりの頃、彼女は妖力を使って人の姿に変化し、稲妻城の中に入って隅々を散策した。将軍様の天守閣の屋上ですら、彼女は見逃さなかった。そんなわけで、「天領奉行」は彼女が最もよく知る場所の一つだ。
「他人の家の屋根に登ってはいけない」とか、「鑑賞池の中の魚を食べてはいけない」といったルールは「天領奉行」から習い、「どうすれば人間社会の中で良い妖怪でいられるか」については、あの「鳴神大社」の「妖狐様」に教えてもらった。綺良々に「超すごい大妖怪」と称される八重神子は、この元気で面白い少女のことを気に入っていて、自分の経験を惜しみなく伝授した。綺良々が稲妻の街と道にとても詳しいことを知って、「狛荷屋」で仕事を探してみるよう助言したのも神子だ。
「人間社会に溶け込むためには、普通の人のように仕事を持つのが、最も肝心じゃ」——妖狐様はそう彼女に話した。
「ああ、そうじゃ」彼女はこう付け足した。「宛先が『鳴神大社八重宮司様』のものがあれば、優先するんじゃぞ。これは先ほどの話よりもさらに重要なことじゃ」


キャラクターストーリー3
時々、良からぬ考えを持つ盗賊がパンパンに詰められた荷物に目をつけてくる。盗賊たちはいつも交通の要所で待ち伏せをして、そこを通る配達員を観察するのだ。
もし相手が手強そうだったり、複数人で行動していたりすれば、盗賊たちは諦め、一日お腹を空かせたままで我慢する。
綺良々のような弱そうで、その上単独行動をしている配達員を見かければ、モラの当てができたと、盗賊たちは内心さぞ大喜びすることだろう。
そして綺良々がその道を通る時に、盗賊たちは突如として陰から現れ、怪しげな雰囲気で彼女を取り囲んで道を塞ぐ。
「あれ?皆さん、何かご用ですか?」綺良々は事態を把握できないまま、歩みを止める。
よく見ると、尻尾が二本ついてるのは些か変わっているが、貧弱な体つきで、人相も善良そうで、見るからに強請りやすそうな少女だ。しかも彼女の背負った荷物はパンパンに詰まっているではないか——今日は、最高の強盗日和だ!
「ええと…皆さんも配達を依頼したいのであれば、どうぞ稲妻城の…」
彼女が話し終えるのを待たずに、盗賊たちが刀を抜く。比較的礼儀正しい者は、命を大切にして、荷物を残していくよう彼女に警告する。急いでいる者は一斉に襲い掛かって、無理矢理奪おうとする。
しかしいずれにしても、結果は同じだ。
翌朝、天領奉行の軒先には大きな箱が何個か置かれていることだろう。荷物を封するように貼ってある紙の「荷物の種類」欄に、たった二文字——「悪者」と添えて。


キャラクターストーリー4
稲妻城で暮らすようになったばかりの頃、綺良々はよく道端に伏せるように座って、行き交う人々を観察していた。
「わあ、人間の女の子って、みんなあんな風にお洒落するんだ…」人間社会に溶け込みたいと願う彼女は、自分の装いが周りと似たようなものであるかどうかをすごく気にしていた。
春、女の子たちはよく道端に咲く小さな花を摘んでは耳元や生え際にさしていた。その後は、特殊なアクセサリーが流行って…さらにまた時が経つと、今度はみんな、とあるブレスレットを追い求めた…
最初の頃、綺良々は何一つ逃さず、すべてを見様見真似で取り入れた。彼女自身は特に問題があるとは思っておらず、たまに一部のアクセサリーが昇り降りに邪魔で不便だと感じる程度だった。自分が野外で子猫をしていたときとは全く違っていたのだ。
しかしそんなある日、フォンテーヌにいる「千織」という名の古い知り合いに配達をした時、こっぴどく叱られたのだ…
あの時、綺良々は礼儀正しくドアをノックしてから部屋の中に入ったが、千織は彼女のことを、まるでペンキ缶に落ちた猫を見るかのような目で見つめた…
フォンテーヌで有名なアパレルショップを開いているこの稲妻のデザイナーは、綺良々の古くからの知り合いで、ストレートにものを言う人だった——
「バケモノかと思っちゃったわ。来る途中で、フライムと喧嘩でもした?全身に一体何をつけてるのよ?こんなに目立つ花…どうやって頭にくっつけたの?唯一靴のセンスだけは悪くないけど…」
「あの…千織お姉さんは知ってるはずだけど、そ、それはわたしの足だにゃ…」綺良々が歯切れ悪く答えた。
千織は呆れたように顔を手で覆うと、すぐさまハサミと生地を持って綺良々を試着室に引きずり込んだ。
「勘違いしないでよね!そんな格好のまま、うちから出て行くところを誰かに見られたりしたら恥ずかしいでしょ!」
生地を切ったり縫ったりする音がしばらく響き…そうして今、綺良々が身に纏っている衣装ができ上がったのだ。
それからというもの、綺良々は配達時の仕事が一つ増えた。顧客に、自分の服がどこで仕立てられたものかを答えるという仕事が。そして千織のアパレルショップも、より広く名前を知られるようになったのだった。
「ふん、だから言ったじゃない。私のセンスは間違いないって」綺良々が再びフォンテーヌに配達に行った時、千織は随分機嫌が良さそうだった。
「衣装の注文以外に、何か用?」千織がそう問いかけた。
「あるにはあるけど…その…」
「いいから言ってみなさいよ。お世辞は勘弁してよね」
「お客さんたちが、千織お姉さんのお店で…猫の肉球仕様の靴を作れないかって聞いてくるの」


キャラクターストーリー5
綺良々にとって、荷物の一つ一つは宝物のようなものだ。彼女を色んなところへ連れていき、色んな景色を見せてくれるのだから。
仕事の合間に、綺良々は倉庫の「滞留荷物」置き場に来て、様々な理由で受取人に届けられなかった荷物たちを確認することがある。
「住所間違い」、「受取人の引越し」、「名前間違い」…
届けられなかった荷物は一つ一つが魚の骨みたいに、綺良々の心に突き刺さった。そして綺良々は黙々とそれらの荷物の情報を記録し、仕事と休みの時間を使って、道行く先々で受取人の情報を聞いて回った。
結果、「狛荷屋」の評判は日に日に上がって行った。みんな、ここのサービスは素晴らしい、真面目で責任感が強くて、届けられない荷物なんてないと褒めるようになった。
評判を聞いた「狛荷屋」の店長は、大急ぎで綺良々に「金等級配達員」の称号を与えた。
「実は、スカスカの滞留荷物置き場を見た時、盗っ人に入られたのかと思ったよ…」店長は正直にそう話した。
綺良々にとっては、荷物を受取人に手渡す瞬間こそが、一番幸せな時間だ。一日の配達を終えると、綺良々は高いところに登って街の景色を眺めながら、街中から聞こえる笑い声に耳を傾けるのが好きだ。
そういう時、彼女はいつも自分がまだ子猫だった頃、おばあちゃんの膝の上で物語を聞いていた時間を思い出す。おかしくて変化に満ちた物語と、怪奇千万の妖怪たちが、そよ風のように記憶を辿って、綺良々の心を吹き抜けた。
昔のように、彼女はゆっくり目を閉じる。そうして物語と夢の混じり合うままに、安心して明日の到来を待ち望むのだ。


謎の荷物
「狛荷屋」に依頼したことがある顧客の自宅に、時折謎の荷物が届けられることがある。大半は小さく精巧なもので、綺麗な装飾が施されている。
みんな玄関先でその荷物を丁寧に持ち上げると、何のメッセージも残されていない荷物を見つめて頭を掻きながら、「何も買い物してないはずだけど…」と首をかしげるのだ。そんな彼らは恐らく、少し前にあの尻尾が二本生えた配達員にお菓子を渡したことを忘れている。
荷物の中身はふつう、綺麗な小物だ。例えば、サウマラタ蓮のドライフラワーや、星螺でできた小さなアクセサリー…そして、もしその家に子どもがいれば、不思議な模様を持つ聖金虫が入っているかもしれない。
これらはすべて、綺良々が配達の途中で集めたものだ。どれも彼女にとっては珍しくて面白い宝物で、お返しのプレゼントに最適だと思ったものだ。残念ながら「狛荷屋」には、従業員と顧客の利益関係を明確に禁止する規則がある。だから綺良々は自分で小さな箱をたくさん作って、可愛らしい装飾を付けて、こっそりみんなの玄関先に置いておくのだ。
「謎の荷物」を一番多く受け取っているのは、稲妻郊外にあるあの家だ——
口では野外に戻って大妖怪になんかなりたくない、などと言っている綺良々だが、時間が空くとすぐにあの古い家に帰って、ついでに「プレゼント」を玄関先に置いている。もしそのとき、ちょうどおばあちゃんが庭で日向ぼっこをしていたら、綺良々は嬉しそうに元の姿に戻って、「ニャーニャー」鳴きながらおばあちゃんの膝の上に飛び乗って、身体を丸めて甘えるのだ。
「あら、綺良々が戻ってきたの?」おばあちゃんは笑顔でそう話しかけた。彼女はまだ、この子猫が既に立派な配達員になっていることを知らず、ただ最近は外で「遊ぶ」時間が長くなっただけだと思っている。
「本当に大きくなったわね、あのとき箱の中で見つけた時は、これぐらいしかなかったのよ…」おばあちゃんは優しく彼女の頭を撫でながら、ついでにキラキラした真珠を一粒、綺良々の肉球に置いた。
「ほら、これが物語に出てきた珊瑚真珠よ。誰かがね、玄関に置いてくれたの。それにお菓子もね」おばあちゃんは独り言を続けた。「最近目が覚めると、家の中が綺麗に片づけられていて、時々朝ごはんまで用意されているのよ。本当におかしな話よね…」
「まさかどこかの子猫ちゃんが妖怪に化けて、この老いぼれの面倒を見に来てくれたわけじゃないわよねぇ?」
話がここまで進むと、綺良々は毎回、無実のフリで伸びをして、知らんぷりを決め込んで気持ちよさそうな寝息を立てる。
おばあちゃんも喋り終わると淡く微笑む。そうしていつも、二人だけの穏やかな日向ぼっこの時間を過ごすのだ。


神の目
ある真冬の夜のこと。綺良々は炭火の近くでウトウトしかけていたが、どうしても寝付けなかった。
木炭はとうに燃え尽き、灰だけが無気力に最後の呼吸をくすぶらせている。冷たい風が窓とドアの隙間から入り込んできて、綺良々は思わず自分の尻尾を抱えて身を縮めた。最近何だかずっと尻尾が痒くて、じっとしていてくれず、いくら毛づくろいしても落ち着くことはなかった。
「おかしい。おばあちゃんが出かけたのは朝だったのに、いくらなんでも遅すぎる…」彼女はか細い声で鳴いた。
最後の余燼もついに寿命を迎え、温もりが一切消えた。綺良々は伸びをすると、不安げに外の雪を眺めて、窓から飛び出した。
足元の雪は冷たくて、肉球が凍えて痛かった。綺良々は屋根の上まで登って、街のほうへと目を向ける。しかし月もない夜のことだ。辺りは真っ暗で、ひとつの光も見えなかった。
「あっちにはすっごく高い木があったはず…」
綺良々の尻尾は彼女よりも焦っているようで、木登りの途中も言うことを聞かず、何度も危うく落ちそうになってしまった。
この木は高すぎて、頂上まで、中々たどり着けるものではない。しかし綺良々は途中、自分がどこまで登ったかなんて考えなかった。おかしなことに、代わりに彼女の頭の中には、妖怪と人間についての物語がふと思い浮かんだ。まるで、綺良々は木登りをしているのではなく、過去の日々を追いかけているようだった。一歩でも遅れれば、全てを失ってしまうかのような…
「早く、もっと早く…」
やがて、彼女は木の頂上へと辿り着いた。周りにある全てのものは彼女の足元にあった。遠くに見える蛍火のような輝かしい光の粒が綺良々の目に飛び込んできた——それは、夜の街の光だった。
その瞬間、綺良々の心の奥にある何かに火がついた。まるで、幻だった物語がすべて現実となって、沢山の細い光の筋に姿を変え、遠くの街の賑わいの星の川へ流れ込むかのようだった。その物語たちは綺良々にとってすごく遠い存在だったけれど、今はもう、手を伸ばせば届く距離にあるようだ。かつてないほどに、あの光の中にいたいと強く思った。
「ああ!見えたにゃ!」
見えない力に助けられて、あの光の中にいるはずの、探し求めているあの人を、何故だか一目で見つけられた。
彼女が無事に地面へ降りると、雲は散り、月が出て、地面にはくっきりと二本の尻尾の影が落ちていた…
「本当に一晩泊まっていかなくていいんですか?雪はまだ止んだばかりですよ。帰りづらいでしょうに」家主がそう勧めた。
「いえいえ、うちにはまだ小さな猫が私を待っているんですよ、ふふふ…」玄関に立つ老婦は、笑いながらそう答える。
「だったら、わたしが送ってあげるにゃ!」ドアの外から突然少女の声が聴こえた。
二人同時に外へ目を向けると、そこに立っていたのは一人の少女だった。彼女は背後に二本の尻尾を踊らせて、腰には輝かしい神の目を下げていた。

久岐忍

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キャラクター詳細
騒がしさや派手さを美学とする「荒瀧派」の中で、いつも面頬を着け、落ち着き払っている二番手の久岐忍は、他のどんなに騒がしい成員よりも人々の注目を集めている。
他の成員たちがいかなるトラブルを起こそうと、噂を聞けばすぐ駆け付けてくるこの「荒瀧派」の二番手は、いつも専門的な手段ですべての問題を効率よく解決してくれるのだ。
お菓子を盗られた子供におやつを作ってあげたり、欠けたり傷ついたりした漆器を塗り直したり、逮捕された仲間の弁護をすることもある…
それを見た者はみな彼女の手腕に感服する――世の中に彼女がこなせないことはあるのか?と。
「全部の資格を持ってるわけじゃないよ。だって、評価基準なんかない業界もあるから、資格証を取れないんだ。」
なぜだろう。面頬を着けたままでも、彼女が不機嫌そうな表情をしていることはありありと感じ取れる。
「それよりも、どうして資格がなくても働ける職業があるんだろう?本当に理解できない。」
同様に、面頬越しでも、その口調からは疑念や不可解な気持ちがはっきり感じ取れる。


キャラクターストーリー1
名刺は社会人の顔だと、人々はよく言う。
名刺に金や銀メッキの模様を描く人たちの行動はあまり理解できないが、小さな紙一枚で、名前や身分、連絡手段までを残すことができるのは、確かに効率的だ。
忍は社会に出たばかりのとき、名刺の肩書について真剣に悩んだことがある。
元鳴神大社の巫女?その考えに至った瞬間、彼女は心の中で自身の首を絞めた。
それじゃあ、「久岐忍」と、名前だけを書くのは?…まるで長所も何もない、無職の人間みたいだ。
だったら資格証を取りに行こう。これも人々がよく言うことだから。
資格証はいいものだ。一定の期間、頑張ってきた証明にもなるし、説得力があるから自分紹介のときにも使える。
いくつかの資格証をさらっと手に入れた後、これでやっと名刺の空白に何かを書ける、と忍は思った。
しかし、同時に問題も生じた――好奇心と、自分を鍛えようという考えのもと、彼女は一気にいくつかの資格証を取った。そのため、名刺にある肩書がどんどん長くなってきてしまったのだ。
「初級料理人、縫製工、保険数理士、健康管理士、人事管理士…」
身につけたスキルは多ければ多いほどいいと言われるが、あまり多すぎるのも困りものだ。そうなれば忍のように、どの肩書にするのか迷ってしまうことになる。
久岐忍は、今までどれほどの名刺を作ってきたか、もはや覚えていない。
だが、「荒瀧派」に入ってから、名刺の一番最初に書いてある肩書はずっと「荒瀧派の二番手」だ。


キャラクターストーリー2
久岐忍が焼いたスミレウリを食べた「荒瀧派」のみんなは、涙をこぼしながらこう褒めた――スミレウリって、こんなに美味しく焼けるのか!
それにこの味、今まで試してきた焼き方とも全然違う。もしかして、高級料理人の試験には、スミレウリの焼き方を教わる項目でもあるのか?
焼いていたスミレウリを置くと、忍はゆっくりと過去の話を始めた。
法律を勉強するために璃月に赴いたあの頃、暇さえあれば、いつも「万民堂」という店に通っていた。
万民堂の料理は種類が豊富で、料理法も斬新。巧妙なアイデアで作られていた。当時すでに上級料理人の資格を取得していた彼女はとても驚いた。
細切り肉の醤油炒めなのに、魚の風味を感じられる。ゆで白菜なのに、鶏肉スープの旨味がある…世界は広く、不思議なことはいくらでもあるのだ。
各業界において、たとえ上級の資格証を取ったとしても、新たなものを受け入れないという姿勢でいてはいけない。定められた標準に縛られずに色々試して、勇気を持って突破するのだ。
「荒瀧派」のみんなはよく理解できていないようだったが、彼女を喝采し続けた。何と言っても、そのスミレウリが美味しかったからだ。
みんなが美味しそうに食べている姿を見て、忍は物語の結末を言わないことにした。
あの時、忍の言葉を聞いた「万民堂」の料理人は心得たように、卯師匠に塩コショウスライムを作らせた…
そんな料理が料理人試験に出ることはきっと、世界中を探してもあり得ない。
そして、忍がスミレウリをスライムの液体につけてから焼いたのだということについては、「荒瀧派」のすべての者にとって、死んでも知りたくない情報だろう。


キャラクターストーリー3
久岐家は巫女の一族であり、代々鳴神に仕えることを誇りに思っている。
彼女の世代になっても当然ながら例外はなく、姉の幸が大社に入った後、まだ子供だった忍も見習いとして鳴神大社に送り込まれた。
一族の栄誉と共に受け継がれてきたのは、冗長な規則である――誠意と意志を示すためには何日物忌みしなければならない、だとか、神様を冒涜しないためには何回沐浴しなければならない、なんて言うものまで…
これらの規則は一体どこから来て、どのように決められたのかについては、誰も説明してくれなかった。ただ、「ずっとこうやってきたのだから、守るべきだ」と言うことらしい。
忍は初めて神社に来た時、山頂で夜を過ごしたために、風邪を引いてしまった。当時、家族は神社から遠く離れたところにいたし、姉も外で仕事があったため、傍にいなかった。
ところが、子供の頃から強がりだった忍は他の巫女に助けを求めようとせず、山に生えているとげのある草を摘んできて輪を作ると、体に巻きつけた。
そのようにすれば、鳴神の加護を得られ、病を追い払えると言われていたのだ。そんなわけで彼女は、とげのある草の輪に巻きつかれたまま、震えながら「鳴神様のご加護を」と念じた。
しかし夜が明けても、風邪は全く治らず、体にはひりひりと痛む赤い跡が残されるばかりであった。
それからの数日間で、忍は何度も繰り返し気づかされた――先人から伝わる多くの規則は、必ずしも正しいわけではないことを。そして巫女という仕事は、家族の言っていたほどに「なくてはならない」仕事ではないことを。
――それなら、久岐家に生まれたから巫女にならなければいけないという掟も、考え直すべきなんじゃないか?
数年後、神社を出てから随分と時が経ったある日。暇をもてあました彼女は薬理学の本を開いた。
その本には、山に生えているとげのある草には獣を動けなくする麻痺の効果があると詳しく書かれていた。その特性から、古代の人々はこの草を外傷の痛みを和らげる薬に使ったそうだ。
忍は…言葉が出なかった。
そして、様々な規則にはそれなりの道理があるかもしれないが、規則そのものを道理と見るのは少々時代遅れだろう、と思った。
そう考えると、少し幸せな気持ちになる――やっぱり、今の生活の方が楽しいんだ。


キャラクターストーリー4
真に自由な仕事を見つけるために、忍は「役職につかないか」と言う誘いを数え切れないほど断り、短時間労働や外注だけで生活費を稼いできた。
その中で、うっかりぎっくり腰になってしまった手練れの漆器職人から、とある依頼を受けたことがある。すでに漆器製作の上級試験に合格した彼女にとって難しい仕事ではなかったが、ただ…依頼人の地位がやや特殊であった。
忍が手入れの済んだ人形を持って奉行所に到着したその時。建物の中から泥棒が慌てて飛び出してきて、忍にぶつかった。人形はあえなく彼女の手から弾き飛ばされ、空高く舞い上がる。
今までの苦労が水の泡になると思った忍は、電光石火の勢いで人形を掴むと、身を翻して逃亡者をつまずかせた。
すぐに集まってきた群衆が泥棒を捕らえ、その後、今回の依頼人でもあった九条裟羅がお礼を言いにやって来た。
品が無傷だったと聞き、裟羅は漆器職人がこれほどの腕を持っていることに驚いた。
忍の境遇や「真に自由な仕事を見つける」という思いを知った裟羅は、熟考の末、天領奉行への誘いを申し入れた。
忍は「いえ…お気持ちだけ頂戴しておきます。公務員は自由ではなさそうですから。」と断った後、少し躊躇った末にこう続けた。「でも、仰っていた法律や武術の指導については、兼業で宜しければ検討させていただきますよ。」
その日から、久岐忍は新しい兼職を始めた。
忍が驚いたのは、法律講座や武術指南の会を開く度、天領奉行のあの大将が欠かさず来ていたことだ。
「法を執行する者として、もっと法を知るべきだ。」と真摯に語る裟羅。
「同じような技量を持つ武者と手合わせできる機会になんか、滅多に恵まれませんよ。」と忍も真摯に応える。
裟羅の誠実さと迅速果敢な行動力を忍は深く認め、裟羅の方も忍に人形の手入れを依頼するようになり――二人はたちまち仲良くなったのだ。
裟羅は何度も忍を天領奉行に勧誘した。忍はなかなか譲らなかったが、かと言って、「真に自由な仕事」はどうにも見つかりそうになかった。
ある日、忍は裟羅との約束通り、二人がよく会う居酒屋まで人形を届けにやって来た。しかし、裟羅の姿が見えない。夜中まで一人で呑んでいたところ、裟羅はようやく現れた。
「珍しいね、裟羅が遅刻するなんて。」
「すまなかった、騒がしい集団を相手にしていたもので…」
「へえ?あんたを手こずらせるなんて、どんな集団なんだ?」
「手こずると言うほどではないが、やつらは『荒瀧派』と自称していて…」


キャラクターストーリー5
荒瀧派に二番手が登場したことは、花見坂で少なからず話題になった。
噂によると、その二番手は礼儀正しく、よく法を知り、腕っぷしもかなりのものらしい。入ったばかりだというのに、すでに子分たちを大人しくさせている。
二番手の「後片付け」を目撃した人たちは、ついに荒瀧派が知識のある、筋の通った礼儀正しい人を仲間に加えたと絶賛した。
しかし、心配する声も多々ある――「荒瀧派」はまともな集団じゃないのに、と。
過去の小さな騒ぎは痛くも痒くもないが、頭の切れる成員が入ったことで統率がとれた結果、今後大きな問題が起こるのではないかと疑う者もいるのだ。
何しろ、荒瀧派の日常業務は貨物の運搬や住宅の修繕、会場の盛り上げに留まらず、最近は税務代理や法律相談、宴会の催しなど多岐に渡っており、どれも巨額の資金を必要とする、危険と隣り合わせの業務ばかりなのである。
「業務があまりに幅広すぎないか?まさか無免許営業じゃないよな?」
「無免許かどうかはともかく、新たな業務を開拓するために詐欺なんかしてないでしょうね?そんなことしたら天領奉行に捕まるんだから!」
――このような疑惑や噂は、すぐに払拭された。荒瀧派の様々な行動は、彼らが正々堂々と約束を守る者たちであることを自ら証明したのだ。
ある物好きな人は、新たに追加された「モラ管理業務」を荒瀧派に任せてみた。すると、なんとその人の経済状況は劇的に改善されたのだ。業務過程の透明性や、その快活さと度量の広さは、素晴らしいの一言に尽きた。
しかし残念ながら、荒瀧派はあくまでも荒瀧派である。花見坂の子供たちは未だ、夕飯時におやつを勝ち取りに来る荒瀧一斗のせいで、怒りながら家に帰らねばならない日が続いている。
伝説の二番手と呼ばれる忍の手にかかっても、荒瀧派の奔放さを変えられる未来はまだまだ遠いようだ。


鬼の面頬
「荒瀧派」に入ったばかりの頃、久岐忍はまだ面頬を着けていなかった。
ある事業展開に関する真剣な商談のさなか、「荒瀧派」の他の成員は、忍の後ろに並び、真剣な面持ちをして後ろで手を組んでいた。
「あんたら、この姿勢のまま、何も話すなよ。」「これがあんたらにとって…一番効率的な方法だ。」出発前、忍は彼らにこう言いつけた。
交渉は忍の思惑通り、順調に進んだが――突然、通りかかった子供が忍を指さして嬉しそうにこう言い放ったのだ。
「ママ見て!昔、神社で会ったあの笑うのが好きじゃない巫女のお姉さんだ!ほら、あんなにかっこよくなってるよ!」
子供は怯えた表情をする母親に抱き上げられてすぐにその場を去ったが、忍は気まずさと無力感が顔に出てしまい、今すぐこの地を離れ、山に潜って生きていきたい気持ちでいっぱいになった。
一方、荒瀧一斗の表情は、まるで二匹のオニカブトムシが口の中でケンカしているかのよう。元太たちも必死に抑えようとしたが、我慢しきれず、やがて大声で笑い出してしまった。
――今度の演武で、彼らの顔は今の忍の顔よりも真っ赤に腫れ上がることになる。そのような結末が待っていると知っても、彼らはこのように大笑いできるだろうか。
何はともあれ、その日から忍は面頬を着けるようになった。黒い顔で、鬼神の如く牙を剥く。
「鬼の副手」という肩書きも、その演武によって定着した。


神の目
神社を去る日、久岐忍は「巫女」を務めていた頃に持っていたすべての物を家に残し、最小限の荷物だけをまとめた。
だから、荷物を手に取った瞬間、それが重いことにすぐ気付いた――「あれ、手拭いぐらいしか入れてないのに?」
少し探ってみると、なんと荷物からは光り輝く「神の目」が出てきた。その美しい輝きには、彼女の姉である久岐幸も見とれてしまったという。
皮肉なことに、神に仕えるはずの巫女は、神社からの脱走を決めたことで初めて神の目に振り向いてもらえたのである。
これは忍が手に入れた、最初の「証」であった。神から授かり、自由を証明するもの。
彼女を止めようとしていた幸も、この光景を見て考えを改め、両親は自分がどうにかすると請け負った。
…「目狩り令」の時、久岐忍は自らの意志で神の目を渡した。
一つは、天領奉行にいる知り合いに迷惑をかけたくないという思いがあったからだ。そしてもう一つは、忍にとっての「神の目」が、彼女の持つ数ある資格証明のうち、たった一つのものに過ぎなかったからである。
人が生きていく上で遭遇するほとんどのことは、「神の目」がなくても対処できる。本当に厄介な難題については、「神の目」があれば簡単に片付けられると言うような類のものではない。
例えば、何世代にもわたって蓄積されてきた先入観をいかに排除するか、とか、真の自由をいかに探すか。
あるいは、忍の「神の目」を一緒に取り戻すと駄々をこねて騒ぐ「荒瀧派」の連中を、いかに阻止するかという問題だ。

九条裟羅

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キャラクター詳細
九条裟羅には天狗の血が流れているが、彼女は天狗のように森や山に住んでいるわけではない。彼女は幼い頃から九条家の養子として育てられ、それ以来、天領奉行の一員として活動してきた。
天領奉行は「三奉行」の一つで、稲妻の治安維持を担当している。現在、裟羅は天領奉行の将領として、稲妻城の安全確保という重要な任務を担っている。
彼女は仕事をきちんとこなし、部下に良い手本を示すことを常に意識している。どんなに困難な課題でも、天領奉行の管轄内であれば、裟羅はすぐに解決することができる。
普段の裟羅は笑顔が少なく、迅速かつ毅然とした態度で任務を遂行するため、多くの稲妻人は彼女を近寄りがたく、冷徹な軍官だと考えている。
しかし、対外的には冷たくとも、内には熱を秘めている裟羅のような人間には、その評価は表面的なものに過ぎないのかもしれない。


キャラクターストーリー1
稲妻では、「永遠」を追求する雷電将軍の意志を表した「目狩り令」があり、裟羅はそれを執行している中心人物である。
裟羅は、「神の目」が邪な心を持つ者の手に渡れば、稲妻の基盤を揺るがすことになると考えている。そういった点から言えば、「目狩り令」は必要だと思っているのだ。
とはいえ、裟羅はどんな手段を使ってでも目狩り令を執行するわけではない。
それにより、必然的に稲妻の民が影響を受ける場合、彼女は最大限の忍耐と誠意をもって、将軍様の長きを見据えた考えを理解させようとする。
また、令状の執行という名目で一般市民を傷つけたり、弄んだりする行為も明確に禁止した。なぜなら、そのような悪しき行為は、神の威名に泥を塗ることだからだ。
残念ながら、神の崇高な理想は、人間には理解しがたいものだ。それ故、憤りが生じ、一致団結して抵抗の道を選択する。
このように、行動を起こさざるを得ない状況では、裟羅は武力を行使する前に、無力なため息をつくことが多い。


キャラクターストーリー2
九条裟羅の統率力によって、幕府軍では、恐れを知らない兵士たちが一致団結している。
戦線の調査、訓練計画の立案、武器や防具の選定…裏方で戦略を練ることを好む多くの将とは異なり、裟羅は自ら実行する場合が多い。
裟羅は自分に厳しく、一般兵士の10倍以上の厳しい訓練を行っている。夜になって世間が寝静まっても、道場には裟羅が弓を引く音が響いている。
戦場では、常に槍の穂先に立ち、絶対的な英姿と闘志をもって部隊を率いてきた。
戦いが終われば、自ら負傷者を見舞い、功績に応じて褒美を与えたり、罰を与えたりする。彼女の手にかかる戦闘はすべてうまく管理されており、ミスはほとんど発生しない。
裟羅の部隊の兵士は、彼女の言動を毎日のように目の当たりにしている。彼女と共に戦い、高く評価しなかった者はいない。
大将は軍隊の魂である。しかし優秀な大将はなかなかいない。裟羅は常に、幕府軍の誇りであった。


キャラクターストーリー3
訓練以外の時間でも、裟羅は自身の厳しさを日常生活に取り入れている。
彼女の人生は、ある種の永遠、不変の規則に従っているように見える。決まった時間に起き、決まった時間に訓練し、決まった量の食事を取る…
訓練から食事まで、裟羅は己の視点を持ち、己が作った基準をとことん追求する。
「細々とした日用品は分類し、家具は真っ直ぐに並べる。隅々までほこりがあってはならない。」
これは、自室に対する要求である。
彼女はこれらの雑務も訓練の一環と考えているため、使用人の助けをあまり求めていない。
とはいえ、使用人たちが黙って見ているわけがない。彼らは裟羅に会うたびに、掃除道具を置いて欲しい、自分たちに任せて欲しいと懇願した。
断ることを諦めた裟羅は、扉を閉めて掃除をするようになり、部屋の外に以下の文言を貼った。
「修行中だ、邪魔するな。」


キャラクターストーリー4
人間と共に育ったとはいえ、裟羅は天狗の習性を持っている。たまに天領奉行所を離れるが、そのほとんどは山に行くためである。
彼女は山に詳しく、人間の物語ではあまり語られることのない、多くの妖魔を見てきた。
その中には、凶暴で邪悪なものも多いが、何の害もない小さな妖怪もいる。しかし、裟羅にとって、それらは形態上の違いに過ぎない。
奉行所に、犯人不明の強盗事件が頻発していた時期があった。裟羅が警戒しながら森の中を散歩していたとき、盗品を背負いながら焦る妖狸に気が付いた。
妖狸の本性は悪ではない。彼らはただ食いしん坊であったため、食べ物を盗んでいただけなのだ。
妖狸を捕らえ、窃盗品を取り返した裟羅は、このように言った。
「山に隠れていても、裁きからは逃れられないぞ。これは最後の警告だ、よく聞け。二度と民に迷惑をかけるな、さもなければ…」
怯え、骨の髄まで冷え切った妖狸たちは、うなだれて片隅に丸まってしまった。以後、この約束を守り、二度と悪事を行わぬようになった。
そして、恐ろしい警告を口にした裟羅は、あれから修行に出かけるときに、長期保存が可能な野菜や果物を持って行くようになった。道中、妖狸たちに食べ物を配るのだ。
彼女は何の説明もせず、これを贈り物だとも思っていなかった。強いて言えば、悪の道から更生した者への慰めのようなものなのだろう。


キャラクターストーリー5
養子になってから、裟羅は幕府の兵士と一緒に訓練を受けていた。一時期、兵士たちは裟羅を若い男の子だと思い、世話を焼いていた。
人と接することを少し怖がっていた裟羅は、周りの面々が良く面倒を見てくれたおかげで段々と積極的になり、他の兵士と一緒に遊ぶようになった。
しかし、彼女と一緒に遊んでいた兵士たちは、家主から厳しい罰を受けた。裟羅自身は叱られただけだった。
「規則を守らず、訓練を怠る…そんな無意味なことをさせるために、お前を養子にしたのではない。」
それ以来、裟羅は他人と一定の距離を保つように意識した。周りに溶け込むのではなく、まずは卓越した武術を身に付け、いつの日か、指揮を執ることを常に念頭に置いていた。
「雷電将軍の力。天領奉行の手本。そして、当主様の誇りとなる。」
この三つの身分のすべてを、自分よりも優先していた。冷静、そして厳格を兼ね備えた戦士。それが彼女自身だった。
誰も彼女に「もっと自分のことを考えてあげなさい。」と言ってはくれなかったし、裟羅も、そのような心遣いを必要としていなかった。
彼女の使命と地位は、常に養子としての鎖や、異類としての孤独感を伴っていた。
しかし、そのようなことで立ち止まってしまうわけにはいかない。九条裟羅である以上、ここで止まることはできない。彼女は雷神の最も忠実な信奉者であり、最も頭脳明晰な大将である。


御建鳴神主尊大御所様像
雷電将軍への崇拝と忠誠心から、多くの商人は雷電将軍に関する工芸品を制作し、販売している。
その中で最も人気があるのは、ご尊顔を象った漆器の人形「御建鳴神主尊大御所様像」だ。
裟羅は発売日に早起きし、無事、購入列の先頭に立った。この件は一時期噂になった。
裟羅は、そのような噂に全く反論しなかった。何故なら、彼女の立場から考えれば、敬虔な気持ちでその品を購入したからだ。
将軍に関わる全てのことにおいて、彼女は一度たりとも怠慢な行為をしたことがない。実際、彼女は自ら彫像を購入し、それを安置するための祠も自ら用意した。
彼女はその像を五体安置し、家にいる時は常に掃除をしていた。忙しい時も、職人を手配し手入れをしてもらっていた…
忙し過ぎて友人が少ない裟羅にとって、雷電将軍は単なる神というだけではなく、憧れでもある。
全知全能の将軍は、遠く離れた天守閣の中にいるのではない。知恵、意志、強き心のように、常に彼女を支えている。緻密に作られた神像は、裟羅にそう感じさせた。
彼女はこのような、言葉では上手く表現できない静かな時間を、とても楽しんでいた。


神の目
神の目を獲得した時、彼女はまだ名前を与えられていなかった。
彼女は元々、穏やかな山の森に住んでいた。いつの日か、悪霊が騒ぎ出し、かつての平和を失った。
天狗の力をもってしても、幼かった彼女は魔物に対抗できなかった。そして、戦いで羽を傷付けられ、崖から落とされた。
高所から落ちた彼女は、傷ついた翼を開くことができず、絶望しながら地面へと落下していった。
「そんなはずはない!私の力があれば、この山を永遠に守れると思っていたのに…」
翌朝、山の麓を通りかかった住民が、道端で倒れている少女を見つけた。その少女は、取り乱してはいたが、無傷のようであり、なぜそこに横たわっていたのかという謎が深まった。
人々はあまりにも驚きながら、彼女を町に連れて帰り、天領奉行に報告した。
その当時、九条家の当主であった九条孝行は、彼女が手にしていた光るもの、それが幻の「神の目」だということに気が付いた。
幼いながらも神に注目されたこの少女を、孝行は、天から天領奉行に賜った運命の子だと確信した。
彼はその子を養子として迎え、「裟羅」という名を与えた。そして万能の戦士として鍛え、彼女に、将軍に従い、稲妻のために戦うことを求めた。
九条孝行は、名将を育てることができれば、九条家の地位と民望はますます安泰になると考えていた。そしてすべてが思い通りに、着実に進んだ。
神の目を手に入れた裟羅は、すぐに頭角を現し、多くの人の期待通りに、若くして天領奉行の将領にまで登りついた。
あの時無傷でいられたのは、神の目のおかげだと裟羅は誰よりもよく理解していた。
神の目の注目を浴びた彼女は、自身の生涯を支える力を与えられたのだ。彼女の全ては、全能の将軍によって存在していると言っても過言ではない。
将軍様のために戦うのであれば…
それは命令ではなく、養父の策でもない。彼女が真に望んでいることなのだ。

クレー

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キャラクター詳細
モンドの酒飲みたちに西風騎士団最強戦力の話をふると、おそらく大半の人は代理団長ジン、騎兵隊隊長ガイア、もしくは元騎士のディルックの名前を上げるだろう。
だが中には望風山地を一瞬で廃墟にしたある赤い騎士の存在を挙げるものもいる。
しかしその謎の騎士を正体を知りたいとなれば、西風騎士団の反省室を尋ねることになるだろう。
もし反省室に誰もいないなら、それはトラブルがもうじき起きるということになるかもしれない…。
クレーはそういう「危険人物」である。騎士団の正式メンバーとして彼女の戦力は決して侮れないが、一人の活発な子供として、彼女の破壊力はあまりにも大きすぎる。
なにせ、モンドの他の子供と違い、クレーの大好きなおもちゃは爆発物なのだから。


キャラクターストーリー1
3年前、有名な冒険者の両親はクレーを西風騎士団に託した。
幼いクレーはそのまま「白いお兄ちゃん」と共に、モンドの人と「家族」になった。
クレーは外の世界に純真な好奇心と愛情を持っていて、特に爆発するものに対していつも夢中になる。
騎士団に守られたクレーは悪意とは無縁な環境で成長し、騎士団の人たちと切っても切れない絆を結んだ。
クレーにとって、ジンに反省室に閉じ込められた日常も、アンバーにウサギ伯爵を改良する日常も、こっそり新型爆弾を研究する日常も…全て彼女の宝物である。


キャラクターストーリー2
「あの両親の子供がこうなるのも*、必然なのだろうか…」
山のような報告書に悩まされる代理団長ジンはたまにそう言う。
爆発された車両、突然燃えた倉庫、騎士たちが苦労してやっと消した森林火災…
それから見るに忍びない「星落としの湖の魚大量死亡事件」…
それらの犯人は一人だけ、ちょうどこの騎士団本部にいる。
「クレー!」
代理団長の厳しい視線に睨まれた少女は大人しく持ち歩いている大量の爆発物を提出するしかなかった。
そして彼女は事件を面白がる騎兵隊隊長に送られ、泣きながら反省室に入った。
こういう光景は週に1~2回は見られるらしい。


キャラクターストーリー3
もちろん、トラブルを起こしたクレーは後片付けを手伝おうとするが、その自由気ままな性格は時に更なるトラブルを作ることになる。
例えば、騎士団のみんなに焼き魚を振舞おうとしてコンロを丸ごと爆発させたり、風の力を借りて火を消そうとした結果逆に遠い先の草原まで丸焦げにしたり…\クレーは悪い子ではないが、その好奇心と遊びたい本性はいつも彼女を暴走させてしまう。
過ちを犯す度に、クレーは後ろめたさで補おうと決意するのだが、反省室から出るとそれを忘れて…そしてまたモンド城内のどこかから爆発音が聞こえてくる。
騎士団内で名の知れた「火花騎士」の実力はいつも変わったところで発揮される。


キャラクターストーリー4
騎士団とモンドにいろんな迷惑をかけたクレーだが、彼女は決してただの足手まといの見習い新人ではない。
むしろその才能を正しいところに使うと、かなりの戦力になる。
ある討伐任務中、ジンはクレーの爆発才能をうまく使い、見事に侵入してくるヒルチャールを一気に倒した。
ただ、後先を考えないクレーは予定よりも多く爆弾を仕掛けたせいで、大きな爆発が起き望風山地に穴が開いたことは決して忘れてはいけない。
その後、赤い服を身にまとった謎の騎士が騎士団の宝物を持っているという「望風山地の赤服騎士」の伝説はモンドで広がり始めた。
そしてその「宝物」の正体はクレーだけが知っている。


キャラクターストーリー5
クレーにとって騎士団のみんなは欠けてはいけない家族で、「アイドル」は冒険の旅に出た母親である。
『テイワット観光ガイド』の作者で、有名な大冒険者の母親アリスは、クレーの中でなんでもできる存在である。
昔から、クレーは母親にいろいろ教わった。火薬や信管の選び方を始め、自分のインスピレーションをどう花火の配合に反映させるか、どうやってより大きくて綺麗な花火を*作るか…
爆弾をどこに設置すれば星拾いの崖を丸ごと壊せるか…
はたまた騎士団にバレて、青い顔をしたホフマンに怒られながら二人して気まずそうに舌を出すことも、クレー*にとって大事な思い出である。
その後、クレーの父親と母親は遠い、危険な場所へ赴くこととなり、クレーをアルベドと騎士団に託した。
しかし幼いクレーはわかっていた。いつか自分も大人になって、母親と同じ道を歩くと。
そしていつか、自分は母親の誇りになれるような作品を作り出せるとクレーは信じている。


「ドドコ」
「ドドコ」はクレーの最初の友達で最高の友達の一人である。
昔、クレーの母がこの人形を作ってくれた。
アリスはドドコとクレーの幸運四つ葉を綴ってクレーの大きなリュックにつけた。
こうしてドドコとクレーはいつまでも寄り添う仲間になった。
クレーの母はこう言った、クレーに孤独を感じさせたくない、一人の時も内緒話を話せる友達がいて欲しいと。
困った時もお互いを守ってくれる、アンバーと彼女のウサギ伯爵のように。
しかしこの話*については、騎士団の皆さんがずっと心配している。――アリス親子の他の「発明」を考えると、ドドコはいつ爆発してもおかしくない…
「ドドコ」はクレーが人形につけた名前。
名前の由来を聞かれたら、クレーは顔が真っ赤になり、もごもご答える:*
「えっと…クレーの最高の仲間って意味なんだよ!」


神の目
クレーにどうやって「神の目」を入手したかを聞いたところ、恐らく彼女自身もよく分からないだろう。
生まれつきの爆弾魔として、クレーは小さい頃から「神の目」に認可された。
クレー自身の話*によると、当時は「スーパービッグよりも大きなビッグボム!」を作っている時であった。
これは彼女が初めて制作した作品で、威力は予想より遥かに小さかった*――
作業小屋をぶっ飛ばし、灰燼だけを残した。
その時、がっかりしたクレーは灰塵から浮かんできた炎のような「神の目」を発見した。
なぜクレーが神に認可されたか?
それが爆弾への生まれつきの才能と執着か、それとも母と同じようなマイペースか、あるいは彼女の純真な心の影響なのか?
答えがどうであれ、要するにクレーは何の心配もいらない年齢で、誰もが欲しがる神の目を手に入れた。
今後の人生に何があろうと、彼女はこの「プレゼント」を手放さない。

クロリンデ

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キャラクター詳細
賑やかなフォンテーヌでは、毎日のように様々なトラブルが起きている。
あるパティシエがよその店を責め立てた――「レシピを盗んだ上に、本当は乾燥したバブルオレンジの皮を使うところをミントに変え、私とそのスイーツの尊厳を大きく傷つけた」。またある劇作家が、自分の文体を真似て書き物をしている熱狂的な読者がいると訴えた――「ペンネームまで似たものをつけていて、新聞社でさえ混同するほどですよ!」。
そしてある商人は、 同業者が悪質な競争戦略を仕掛けてきていると主張した――「あいつときたら、商品の値段をしきりに変えて…しかも、わざと真向かいに店舗を構えたんだ…」。
大半の人が自分こそ正しいと主張する。そして周りの人に絶えず訴えかけ、味方に引き込み、応援してくれることを期待するのだ。
このようなトラブルは、大方すぐに駆けつけた警察隊員や共律官によって仲裁される。しかし、時たま下心のある人間がこれを機に自身の勢いを増そう。と企むこともある。
「法廷で訴えてやる!」と、そう大声で叫ぶのだ。事態がそこまで進むと理性よりも感情が勝ってしまい、両者はどちらも譲らず、何が何でもすぐさま裁判を行おうとする。
ところが、仲裁をとっくに諦めた共律官がやれやれといった感じで口を開くと状況は一変する。
「分かった。告訴するというのなら、その権利を尊重しよう。ただ、そのために必要な準備として…」 「…審判が下った後、結果に不服があれば『代理決闘』を申請することもできる」
「ここ最近の『代理決闘』は、クロリンデさんが務めているらしいよ」…
クロリンデの名前が出た瞬間、言い争いはピタリとやむ。
この不敗の決闘代理人の名は誰もが知るところ。正義の仮面を被った卑劣な言動も、隙を狙って私腹を肥やそうとする企みも、クロリンデの剣先の前では真実が暴かれる。「代理決闘」において、彼女が敗れたことは一度たりともない。
「…オホン。 まぁ、よく考えたら、そこまでする必要もなかったか…」
別の意図を秘めた一般人の紛争は、こうしてひとまず幕を下ろした。共律官はやましい考えを抱いた二人の商人が去るのを見届けながら、まだ状況を理解できずにいる若い同僚の肩を叩きながら笑う。
「見てみろ、剣が持つ説得力はこうも口を上回るんだ」


キャラクターストーリー1
不幸にも決闘の場でクロリンデと一戦を交えることになった人、観客席でクロリンデの決闘を観戦したことのある人――彼らが口を揃えて「クロリンデに会おうものなら即刻判決を受け入れるべし」と語るのは笑い話などではない。
決闘開始一分と経たずに敗北を喫した人たちを見れば分かる。ある女性は事前に入念な準備をし、布で自分の手と剣を固く縛り付けたが…クロリンデによって布だけがきれいに断ち切られ、武器は裁縫針のごとく軽々と弾き飛ばされた。 次に、 切羽詰まって体中にありとあらゆる道具を仕込んだ紳士勢――決して一人や二人ではない――は、帽子に銃を仕込み、靴に穴を開けてナイフを隠し、袖には粉薬の入った瓶を隠し持っていたが…手の内を使い果たしたところで結局は例外なくクロリンデに敗れ、おまけに「法廷冒涜」の罪にも問われた始末だ。言うまでもないことだが、窮地に陥った結果、できる限り根回しして自分を被害者に仕立て上げ、市民の同情を買おうとした者も…どのみち決闘では負ける。偽りの鞘に収められた剣で斬れるものなど何もないのだ。
とはいえ、無様な姿を晒して敗北する滑稽な役者たちでも役に立つことはある。彼らが反面教師となってくれるお陰で、観客は「正々堂々と決闘に臨む善人」や「筋の通った『正義』を訴える人」を見極めることができるのだ。結局は負けたとしても、そのような人物の声には人々も耳を傾けようとする――その人は固い信念を抱き、信念のために剣を抜く勇気を持ち合わせているからだ。
かような人と対峙する時のクロリンデは攻勢をやや弱め、手加減する様子も見られるという。近くで見ていた観客はこう語る。「誓ってもいい、クロリンデがニヤリと笑みをこぼすのを見た。きっと相手を認めたサインだろう。信念を持つ者を相手にしてこそ『代理決闘』の意義があるのだから…」。
しかし当の本人は、決闘が観客の心をどれほど動かすか、観客にどのような感情を抱かせるかという点について少しも興味がない。
決闘代理人クロリンデにとっては、公平な決闘を行うこと、勝敗を決めること、道理を明確にすることが代理決闘の意義なのだ。


キャラクターストーリー2
決闘時のクロリンデの姿は多くの者を魅了してきた。
そういう「熱心」な市民は彼女を様々な角度から事細かに分析しようとする。
剣術の由来は? 先祖代々伝承されてきたものなのか、それともたまたま身に付けたものなのか? まさか彼女は滅びた王国の遺児で、卓越した剣の腕もそこで受け継がれたものなんじゃ?
彼女は決闘前、毎回「清めの儀式」を行い剣を清めるという。果たして何で清めるのか? ルキナの泉から汲んできた極めて純粋な水を使うのだろうか? それとも特別な薬剤の入った洗剤だろうか? それとも…自分と武器との絆を深めるために自らの血を…混ぜて使う?
いやいや、違う。「儀式」では長剣を洗うのではなく、剣術の達人の魂をクロリンデの元に降臨させるのだ。だから彼女はここまで強くて負け知らずなんだ!
瞬く間にして、この不敗の決闘代理人には過剰といえるドラマティックなイメージが貼りつき、彼女の物語に対する市民――主に記者たち――の好奇心はピークに達した。
法廷は施設入口の草むらや花壇の後ろに身を隠す記者たちに耐え兼ね、ついに彼らを集めて正式に告げた。
「クロリンデ女史および全ての決闘代理人が戦いの際に使用する武器はごく一般的なものであり、噂にあるような荒唐無稽なものではない…」
ところが記者たちは興奮し、この話を少しも信じない。
「デマが悪影響を及ぼすようなら、法廷はそれを流がし、広める者を正式に起訴する…」
記者たちは鼻で笑い、写真機のシャッター音も未だ止まない。
「…本審判の決闘代理人をクロリンデ女史とする」
それを聞いた記者たちはスッと大人しくなった。
そして、この茶番劇に参加させられたクロリンデ自身がすぐそばで頷き、こう言う。
「私の責務だ」
こうしてクロリンデに関する根も葉もない噂は一掃された。そのデマの跡は、今も脚本や小説の中にだけ影を残している。
それらを書いた脚本家、小説家は口を揃えて「デマから着想を得たわけではない」と断固否定しているようだ。
何が何でも絶対にそんなことはない! と…


キャラクターストーリー3
実際のところ、 クロリンデは得体の知れない奇怪な力などとは何の関係もない。
この決闘代理人の強さの源は、かつてフォンテーヌの大地で不穏な影を追いかけていた「ファントムハンター」にある。
伝説では、 フォンテーヌ建国当初に「黄金の狩人」を自称する英雄が、フォンテーヌの平穏を脅かす魔物を倒すべく「ファントムハンター」を創設したとある。さらには「純水騎士」の末裔を含む英雄たちを招集し、魔物と悪党の退治に奔走し、数々の英雄伝説を残したと言われる。やがてフォンテーヌ全土に平和が訪れると「ファントムハンター」の名も聞かなくなっていった。
今のフォンテーヌ人が「ファントムハンター」を話題にすることはあっても、大概は舞台劇や小説で耳にする「ファントムハンターの誓い」くらいだ。
「ここより、 燭影の帷を通る」
「ここより、 永夜の危険に迫る」
「白昼の誓いを忘れるな」
「涙と命、 仁愛を心に刻め」
「やがて夜明けは訪れる」
「故に――希望を捨ててはならない」
大多数のフォンテーヌ人にとって「ファントムハンター」にまつわるあれこれはドラマ性に富んだ「伝説」にすぎない。
しかしクロリンデからすると、「ファントムハンター」の事跡も誓いも、実際に存在し「受け継がれている」ものなのだ。
師であるファントムハンターのペトロニラから彼女が最初に学んだのは、ファントムハンターが魔物を斬り殺すときに用いる剣術――できる限り獲物に近づき、その急所を最速で突く――だった。その訓練のため、クロリンデは回転する柱がびっしりと並んだ部屋に放り込まれた。どの柱にも大量の木剣が差し込まれていて、その先に袋が巻き付けられていた。
「中身はキャンディかもしれないし、はたまた砂鉄かもしれない。お前の指導のために抜け落ちた私の髪が入っている可能性もある」
「袋を斬りつけて破いてもいいし、避けてもいい。どうするかはお前次第」
「確かランチは済ませてあったね? …ではディナーの時間まで続けなさい。食事する元気はできるだけ残しておくように。 用意――始め!」
こういった具合で、クロリンデはさらにファントムハンターの射撃術、追跡術、偽装術、歩き方を学び…そして同業者と出くわした際に誤ってケガすることがないよう、素早く身分を明かす術も学んだ。…しかし訓練で経験した苦しみを彼女が他人に話 したことは一度もない。今の彼女はあくまで法廷の決闘代理人であり、数百年前の「ファントムハンター」とは違うのだ。
自身の選択については、何も告げずに突然いなくなった師匠も理解してくれるだろうと信じている。ファントムハンターの剣は凶悪な魔物を退治し、フォンテーヌの平和と安寧を維持するためにあった。ならば今、同じ剣で無法者の悪党を成敗するのは当然のことだろう。
師匠に異を立てる際には、ファントムハンターの流儀で論争することも辞さない。
なにせペトロニラはこう言っていた。クロリンデが自分を打ち負かすことがあれば、その時は喜んで意見を聞いてあげよう、と。


キャラクターストーリー4
テーブルトークシアター倶楽部のオーナーは初めてクロリンデを見たとき狼狽えた。
三角帽子をかぶり、制服を端正に着こなし、腰から銃と長剣を提げた決闘代理人。その姿を見た彼の脳裏には、かつての過ち――実際は過ちとも言えぬほどの過ち――と、過去に見た代理決闘のことがよぎった。本来なら「いらっしゃいませ」と声をかけるところだが、何を言えばよいか分からない。
何度も考えた末に口から出そうになった言葉が「いらっしゃいませ」ではなく「どうかお許しを」 だったのだが、ちょうどその時、後ろからナヴィアが入って来てきた。そして嬉々とした声で彼女は話しかけてきた。
「オーナー、友達が『テーブルトークシアター』をやりたいんだって。どう? 何かおもしろそうなシナリオはある?」
「この子、初心者じゃないから、シナリオの出来にはうるさいの。一番おもしろいのを用意してあげてね!」
結局、オーナーの口から「いらっしゃいませ」が出ることはなく、「どうかお許しを」もどうにか避けられた。
「…は、はぁ」
その後、マスターはほぼありったけのシナリオを大慌てで運び出した。遊び方でいえば一番人気の『銅誓紀元』、ストーリーがとりわけ複雑な『スパイラルクロニクル』、至高の名作とされる『オオカミの谷・第三版・拡張ルール二』などなど…
ひとしきりのやり取りの後、 クロリンデは「テーブルトークシアター」の常連客となった。店内の他の客も最初は怪訝そうにしていたが、次第に勇気を出してクロリンデを最新のシナリオに誘うようになっていく。期待のまなざしで見つめられた彼女もまたそれに応えた。
その後、この新参者は様々なシナリオで秀でた能力を発揮していった。彼女はどんな些細な糸口も見落とさず、手がかりをつかむタイミングも逃さず、ベストな流れでシナリオを正確に進めていくのだ。しかもシナリオ内のルールや制度から少しも外れることなく行動するので、ペアを組んだプレイヤーの多くが「クロリンデさんはプレイヤーというよりもゲームマスターだね」と話した。
それを聞いたクロリンデは何も答えず曖昧な笑みを浮かべるだけ。何しろ、以前ナヴィアのためにシナリオの進行役を務め、彼女の突拍子のなさに鍛えられてきたためシナリオの扱いには手慣れているのだ。しかし、皆にそうとは言えない。 ナヴィアの時はあまりに長くて複雑なストーリーだった。
とはいえ、テーブルトークシアター倶楽部の罪のないゲームマスターがこれ以上、奇想天外な行動を取るナヴィアの「特訓」を味わわずに済むよう、クロリンデはしばらくプレイヤーとして遊んだ後に再びシナリオの進行役に戻った。それは店のオーナー、客、ナヴィアの全員にとって喜ばしいことだった。
この部屋で「公正さ」を熟知している者といえば、決闘代理人の右に出る者はいないのだから。シナリオを進める際、彼女の「公正さ」はケーキやポテト、バブルオレンジを前にしても揺るがない。
それらスナックやスイーツが誘惑してくると、彼女はルールブックを伏せて置き、悩んでいるプレイヤーに向けてこう言い放つ。「時間ならたっぷりある。よく考えるといい」
あるシナリオが終わった後、共律官の女性が仲間たちと笑いながらこんな話をした。
「クロリンデさんは朝から晩まで代理決闘に関する仕事で忙しくしてるものだと思っていました」
クロリンデはテーブルを片づけつつちょっと考えてから、わずかに首を横に振りこう答えた。
「さすがに夜までは働かないさ」


キャラクターストーリー5
クロリンデにとって、 ファントムハンターも決闘代理人もその職責に違いはない。
「ファントムハンター」は当時フォンテーヌの地を荒らしていた魔物を一掃し、フォンテーヌの平穏を守った。一方「決闘代理人」はフォンテーヌの法律と規則を象徴しており、網の目をくぐろうとする悪党を処罰する。そして自身の名誉を守りたい者には公正な決闘の場を設け、訴える機会を与えるのだ。しかし物事に決着がついて魔物や悪党が罰を受けた後、正義のために戦った人は振りかざした剣をどう収めればよいのだろうか?
ペトロニラがこんな話をした。あるファントムハンターは魔物退治に没頭しすぎるあまり、猛威を振るっていた悪が討伐された後、かえって戸惑うことになった――これまでの人生を魔の退治に奉げ戦ってきたが、敵のいなくなった今、自分にはどんな存在意義があるのか? と。長考の末にそれまでと同じ生活を続けることにした彼は、ファントムハンターをひっそりと退き、一人で他の魔物を追い続けた。ペトロニラはそのハンターがどうなったのかについては話さず、ただこう語った。
「鞘を捨てた剣の末路は、良くても錆びついて終わるのみ」
当時まだ幼かったクロリンデは、その話を聞いてポカンとした。そこでペトロニラはコーヒースプーンを持ち上げると、近くの皿に乗っている角砂糖のほうに向けながらこう問いかけた。
「クロリンデ、これが何だか分かる? 大事な質問よ、正解すればバブルオレンジジュースをごちそうするわ」
クロリンデはまばたきすると、様子を伺いながら答えた。「角砂糖…?」
「ふぅん、 飲み込みは悪くないようね。その答えを覚えておきなさい」。経験豊富なファントムハンターはこう言った。「コーヒースプーンが角砂糖を指している時、注目すべきは角砂糖であってそれを指すスプーンのほうではない」
「ファントムハンターはすべての人の暮らしに平穏を取り戻すべく戦う。この『すべての人』には当然ハンター自身も含まれる」
「平和で満ち足りた暮らしこそ、 お前が手に入れなければならない角砂糖よ。一方、『戦い』は角砂糖を取るためのスプーンにすぎない」
「なぜ戦うのかを明確にし、『戦い』そのものが目的になってしまわないようにすること」
「でなければ、スプーンだけ見えて角砂糖の見えない愚か者になってしまうわ。そうなるとこの先、口にするコーヒーはどれも苦くて喉を通らなくなる」
夜の帳が下り、フォンテーヌ廷に最初の明かりがパッと点いた。肩を組み、笑い合う人々が通りを行き交う。
クロリンデはコーヒーの最後の一口を飲み干した。カフェ・リュテスの新作だ。元々、口当たりをよくするために使われていたシロップの代わりに、フレッシュな旬の果汁を使っているらしい。口にすると確かに斬新かつ美味である。
明日は休日だ。よく寝た後は午前中に花を買いに行き、その後フルーツも買いに行くとしよう。 そして午後はナヴィアと一緒に「テーブルトークシアター」で最新のシナリオをプレイする…
明日は忙しくなりそうだ。
負け知らずの決闘代理人はフォークを手に取ると、ケーキの最後のひとかけらを口に放り込み、丁寧に味わってから席を立った。


「ファントムハンターの遺したもの」
クロリンデの服装のトレードマークといえば、彼女の背にひらりと落ちるマントに他ならない。
彼女にとってそのマントは一種の「証」である。
クロリンデが十歳の時、 彼女に武芸を教え、生活上の面倒を見ていた師が何も告げずに姿を消した。凄腕のカーレスでさえ、そのファントムハンターの行方を知らなかった。クロリンデは部屋中をひっくり返し、かつて訓練で訪れた場所にも足を運んで必死に捜した。しかし師匠の行方につながる手がかりは何も見つけられず、唯一の収穫はクローゼットに残された濃紺のマントだけだった。
師匠がそのマントを身に着けているところは見たことがない。ペトロニラはいつも真っ黒のマントを 羽織っていた。たとえクロリンデが忘れても、師匠の手のひらで転がされた警察隊や壁に貼られた通告書が彼女の代わりに覚えている。
…マントの内側には見紛うことなきファントムハンターの紋章があった。そして、クロリンデの名が刻まれた短剣付きのネックレスも。それは遅めの誕生日プレゼント。
しかしマントと紋章に関しては別れの贈り物なのか、はたまた師匠からの新たな試練なのか…?
クロリンデには分からなかったが、それでもマントを抱きしめた。
――これが試練だと言うならば…最後の試練が訪れるその時までに万全の準備を整えよう。
たとえそのために一生をかけることになろうとも…


神の目
クロリンデは五分もかけずに「試験官」の剣を弾き飛ばした。最初は面倒臭そうにしていた試験官も今はただ狼狽している。その後、話を聞きつけやってきた三名の代理人を決闘場であっという間にねじ伏せた。普段は物寂しい雰囲気の法廷もめずらしくざわつき、騒がしくなっている。一般的に「決闘試験」は三回戦で終わりだが、代理人たちの熱い意向によって「勝ち抜き戦」が続けられることになった。クロリンデに異議はなく、手にした剣で快諾の意を示した。初めから終わりまで彼女の剣さばきは鈍ることなく、迷いも見えなかった。
その後、クロリンデは決闘代理人の規則や関連知識を学びながら様々な「代理決闘」を経験した。
彼女の不敗戦績は知れ渡り、その名を耳にした対戦相手の多くは降参せずにはいられなくなっていた――しかし、そんな彼女もまだ決闘代理人としては熟しきっていなかった。
「君の剣技は申し分ないが、『代理決闘』はそう単純な戦いではない」とベテランの決闘代理人たちは言った。「君は特別な…というより一筋縄ではいかない決闘を通じて、この仕事に適していることを証明する必要がある」
彼女にその言葉の意味は分からなかったが、 数日後、まさに人生において初めて「一筋縄ではいかない戦い」に直面することとなった。
決闘の相手は大商人で、顔を知っていた。 彼は違法な内容で労働者を雇い、給与をピンハネし、その上労働者の健康を蔑ろにしていた。彼に雇われた潜水士はみな病に苦しみ、耐えかねてこの大商人を連名で訴えることにしたのである。そして判決は下された――他者を苦しめた彼は、疑う余地もなく有罪。しかし、商人は代理決闘を申し出た。自身の名誉が 前代未聞の損害を被ったと言うのだ。
「私以外に彼らを雇おうとする人間がいるだろうか?」
「私が捕まれば彼らは飢え死にする。心清き人々よ、そうなってもいいと言うのか?」
「働いて体を痛めているのは彼らだけじゃない。私は毎日帳簿を付け、書類を相手にしているせいで目が悪くなってしまった。彼らのために薬を買ってやり、医者も紹介したのだ。その事実を彼らは伏せている」
このような主張を載せた数々の新聞がフォンテーヌ廷を飛び交い、巷のあちこちで物議をかもすこととなった。
「ふむ…この話には一理ある…」
「では…彼らは嘘をついてるのか?」
善意または好奇心を抱いた大勢の市民が代理決闘の場に押し寄せた。大商人は姿を現すと観客席に向けて手を振る。すると事前に彼に雇われた人間がそれを合図に声高らかに叫んだ。
「ああ! 彼のような善人に無実の罪を着せるだなんて!」
また中には声を潜めてつぶやく者もいた。
「きっとあいつらが嘘をついてるんだ…」
市民は叫び声や囁き声に包まれたせいか頭が朦朧とし始めて、気づけば自分たちも同じようにつぶやいていた。
「善人だというのに、この決闘で傷を負うことになるのか?」
そんな声を耳にした若きクロリンデは、 まるで深い海の底に身を置いているような感覚に陥る。困惑を隠せず、剣に手を添えながらもそれを抜くべきか分からずにいた。
――あの者は審判を受け、その罪状は確かだ。
だが人々は彼を善人と呼ぶではないか?
大商人はすでに剣を抜き、得意げな表情でクロリンデに迫る。
「クロリンデさん、聞いての通りだ。私は真っ当な人間であり、働き手のためならば物惜しみもしない、至極まともな善人なのだ」
「私のような善人がいなくなれば、フォンテーヌは回らなくなるだろう」
大商人は剣を掲げた。金銀宝石が嵌め込まれた剣はギラギラと輝きを放っている。その豪奢な武器に彼の瞳が映り込んだ。
その時、クロリンデは目にした。男の両の眼に浮かぶ傲慢で薄っぺらい心根と、上辺だけの虚勢を。
こうして彼女は、その剣に自身の剣が負けるはずはないと悟った。あのような剣を握りしめる者にはいかなる説得力もない。華美な宝石たちは彼の虚言を包み隠すためだけに存在している。
彼はまるで木の枝と荊を身にまとい、猛獣のフリをする野良犬だ。そんな偽りに力はない。
剣を交えたその刹那、火花が散り、その華やかな剣が真っ二つになった。同時に、観客席のざわめきも断ち切られた。
「公理が私に真相を告げた。私はこの目で事実を見たのだ」
「ここでは剣だけが、あなたの名誉を証明する」
クロリンデは剣を掲げてそう言った。いつの間にかその胸元に現れていた「神の目」、そこに恐れ慄く商人の顔が映る。
「…それとも、己の名誉のために剣を振るう『勇気』など、端からなかったか?」

刻晴

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キャラクター詳細
岩王帝君が璃月港に繁盛をもたらし、世を治めた彼の威名は演義として言い伝えられている。だが最も神に近い人間の一人──刻晴は最も敬畏の心を持っていない者だ。
「はあ、言い方が悪いかもしれないけど、彼って本当に何でも知ってるの?」
璃月七星が常に港での一切を見守っているのに対して、岩王帝君は年に一度しか顔を出さないのよ。
千年の歴史は帝君につくことが正しいと証明してくれたが、刻晴はそれは少し違うと思っている。「人」として生まれたのなら、「人」としての誇り、「人」としての考えも大事にすべきだ、というのが彼女の考えである。
よって、彼女はいつも帝君と違った意見を主張し、それを率先して行動に移す。
このような過激なやり方で、確かにたくさんの成果を出してきた一方、岩王帝君の信徒の反感を招いた。
このような反感は、刻晴から見れば、ただの怠け者の言い訳に過ぎない──神に甘えっぱなしで、自発的に人間の未来の*考えない人。
新たな時代を切り拓いていくリーダーに自分はなるのだ。


キャラクターストーリー1
名門出身の刻晴は多くの璃月人よりも、岩王帝君が璃月に与えた影響を深く理解している。
まるで輪廻は巡るように、数年ごとにある迎仙儀式の終了後、璃月の商業界には必ず大きな変化が訪れる。帝君が下した政策に璃月の心が左右される。喜ぶ者がいれば悩む者もいる。
貧しい人はこれを機に大金を稼ごうとする。一方金持ちは自分の事業が影響されないように祈る。経済建設に力を入れるより、商人は信仰型の投資を気に入る。
現在の璃月がそういう風になってもおかしくはない。帝君の神権に頼っていれば、お金に困ることはない。
刻晴はずっとこれを問題視していた。
もしいつか、帝君がこの責任を履行しなくなったら、璃月はどうなるか?
璃月の現在の繁栄は、砂浜に建てた壮大な砂の城のようだ。海の潮の流れを決めるのは人間ではない。
当然なことに、刻晴の考えを支持する人は少ない。他人からすれば、人間の一生など、璃月に比べると瞬きほどの刹那で、杞憂するに値しない。
だが刻晴は違うと考える。そのだらしなく弱い考えこそが、人類の存在意義を否定する。存在意義のない人間は、守る意味もなくなる。
人々にもっと進歩して欲しいと、彼女は勇敢に希望を抱いた──帝君の愛は溺愛ではないか?なぜだらしない人がいるか?社会の動き方は正しいのか?
人の運命に関することは人が行う。そして人はきっと上手くやっていけるはずだ。
そしてついに、彼女が迎仙儀式であの名言を生みだした。
「ここ千年、帝君がずっと璃月を守ってきました。しかし千年後、一万年後、十万年後も、私たちを守ってくれますか?」
この発言を聞いた帝君は意味ありげに笑った。その笑いにどんな意味があるのかは、帝君しか知らないだろう。


キャラクターストーリー2
刻晴の考えに追いつける人がいたとしても、彼女の行動に追いつける人はいない。
人々の手本になるため、刻晴はいつも他人の数倍の努力をしている。同時に彼女は全ての「怠惰」と「非効率」を嫌っていた。
人類の権力も寿命も神と比べ物にならない。にも関わらず、怠惰と躊躇にかまけていては、神を統治者の座から引きずり降ろす日は永遠に来なくなる。
その考えのせいで、彼女の行動はいつになっても他人と同調できなかった。
仕事が終えるまで、彼女は決して安まない。例え、半月かかる仕事でも、彼女はなんとかして1、2日に完成する。
刻晴の「完成」はただ終わらせるのではなく、その業務に関するあらゆる細部まで、完成させることを意味する。
他人からすれば、刻晴はいつも効率的で完璧だ。
しかし、刻晴のような行動力を持つ人はほとんどいない。彼女の仕事に協力した者は、皆三ヶ月以内に辞めていく。
「そんな急がなくてもいいじゃないですか」と刻晴は何度も訴えかけられたが、彼女は全て無視した。
しかし、頻繁に人事を変更するのも非効率的だと気付き、刻晴は一応譲歩した。
現在、刻晴の協力者たちが3年後や5年後の計画に着手してるところを見かけても、決して驚くことのないように──先に行かせてやっているだけで、刻晴は彼らにすぐ追いつくだろう。


キャラクターストーリー3
「昨日の経験は明日の力になる」これが刻晴の人生の信条の一つである。
玉京台にいるだけでは、世界の変化を感じることはできない。雷霆の如き判断力と決断力を手に入れたいなら、大量の経験を積み重ねなければならない。
やりがいがあると思ったことを、刻晴は必ず自分でやる。昔、労働者の給与を改善する計画を作る際、彼女は現場に行き、作業員の生活を二ヶ月間、体験した。
身分も地位も高い少女が、層岩巨淵で車を引いたり、南埠頭で労働者の経験をしたり、飲食店でホールを担当していたとは想像しがたいことである。
また、仕事のついでに、労働者を圧搾した悪徳商人を通報することもあった。
悪徳商人は捕まった時、自分はなぜ逮捕されたかさえも分からなかった。彼が千岩軍に取調室に移動されると、そこには凛とした一人の少女がいた。
「俺…俺たちどっかで会ったことあるよな?」
その言葉は、彼自身も理解できなかった。
何故かというと、隣の千岩軍は少女についてこう紹介したからだ。「この方が璃月七星の玉衡様です、なれなれしくするな!」
──そうだ、そんなはずはないよな?


キャラクターストーリー4
岩王帝君が去ったことにより、璃月港は窮地に立たされた。帝君が仕切るべきだったことを、今は七星八門が担当している。
神による統治は、すでに歴史となり、昔の規則もそのまま引き継ぐわけにはいかない。しかし、千年の歴史を持つ璃月に、新たな規則を制定するのは大変難しいことだった。
始め、刻晴はわくわくしていた。この日のために、彼女はたくさん準備をしていた。だが数ヶ月経っても、彼女は土地建設の仕事だけで精一杯だった。
彼女がどう頑張っても泥沼のように積まれた仕事から抜け出せない。仮に何かを遂げたとしても、それは帝君にとっては朝飯前のことだった。
「なんでここまでしかできないの、なんで…もっとできないの?」
理由は簡単だ。そして、彼女にもすでに分かっている。
自分の「不敬」が神に認められたとは言え…今の自分は「神に取って代わる存在」になったわけではない。
しかし、刻晴の信念は強く、決して揺らがない。
あの日から彼女は家に引きこもり、様々な典籍を読み、必要な知識を再度学び直した。過去のプライドを捨て、新しい姿で未知なることと向き合う。
その時間は、彼女は謙虚にし、今まで岩王帝君への「対抗」意識を捨てさせた。
帝君と刻晴、二人とも千年の璃月のために奔走している――同じものを愛するものの間に、対立はないはず。
昔の迎仙儀式で、帝君が浮かべた謎の笑顔の意味が、今なら分かる気がする。あれはある意味認められ、期待されていた笑顔ではないのかと刻晴は思っている。
今も彼女はかつての行動力を維持している。しかし迷った時、彼女は一旦止まり「帝君ならどうするのかしら?」と考えるようになった。


キャラクターストーリー5
自分のほとんどの時間を璃月に捧げた刻晴は、時間がある際は、意外な方法で暇つぶしをする―。買い物だ。
休みの日、彼女は素朴な服を着て、友達を2、3人誘い、緋雲の丘とチ虎岩で買い物をする。
帝君がいなくなって以来、忙しくなった刻晴は、今でもこうしてストレスを発散する。ただ、少し変化がある。
ある日、買い物中の彼女は、ある小さな店で岩王帝君の二頭身土偶を見かけた。
刻晴はすぐに適当な理由をつけて、友達を別の店に行かせた。そして彼女は店に入り、土偶をよく観察した。
こんなことに時間を多く使うわけにはいかない。周りで誰も見ていないことを確認した彼女は、購入、支払い、商品の受け取りを一気に済ませる。
かばんに土偶を入れた後、刻晴はほっと息を吐いた。思わず笑顔を浮かべた瞬間、肩を友達が叩いた。
結局、この件は皆に知られてしまう。
一番神を敬っていなかった刻晴が、なぜ帝君の土偶を買ったのかと皆が驚いた。
「わ、私は自分を諫めるために買ったの!ダメなことじゃないよね!」
「自分を諫める」ことは、一応筋が通る。しかしこのような「自分を諫める」ためのグッズを、刻晴はすでに一棚分購入していた。


九死一生のヘアピン
璃月七星という身分に相応しくあるため、貴族出身のお嬢様である刻晴は、最低限の贅沢な生活を送っている。
繁華街に出没する以外、彼女は荒野で修行し自分の意志を鍛える。
冒険経験が豊富な彼女は、普通の冒険者との間に少し違いがある。彼女の荷物はヘアピンと剣だけだ。
雷元素力を付着させたヘアピンは、切れ味が鋭いナイフになり、柴刈りや獲物の処理をする際に活躍できる。
高低差が激しい場所でも、ヘアピンを地面に差し込み、その上に藤をつければ、簡単に降りることができる。
野宿する時は、ヘアピンを逆さまにして地面に差し込めば、非常に精巧な警報装置となり、何かあればすぐ、刻晴を呼び起こすような仕込みになっている。
そして、お腹が空いた時は、水中にヘアピンを投げ込めば、運の悪かった魚が何匹*浮いてくる──串を用意しなくても焼き魚を楽しめる。
物を見る目がない人に、ヘアピンがボロボロだよと突っ込まれても刻晴が怒ることはない。むしろ誇りに思っている。
「使い込まれているものの方が、魅力的に見えるのよ」


神の目
「神の目」に敬意を払わない者のランキングがあれば、刻晴は恐らく一二を争う者だ。
それは、刻晴も分かっている。自分の努力の成果は、他人からすれば全て「神の目」のお陰だと思われていることを。
そのため、彼女はこの紫色の結晶体を、自分の誇りを奪い去った、神からの挑発と侮辱だと考えていた。
「神の目」を破壊するために、彼女は無数の方法を試してきた。強火で丸3日間焼いてみたり、たくさんの石を載せた鉱車で轢いてみたり、または群玉閣の窓から捨て*みたりもした。
しかし残念ながら、これらの方法は全て失敗に終わった。
成す術がなくなった刻晴は、悪人が持つより自分が保管するほうがマシだと、仕方なく彼女の「神の目」の存在を受け入れた。
だが時を経て、刻晴は次第に「神の目」を認めるようになった。神の目には、神の意識は存在しておらず、むしろ様々な場面で活躍できると気づいたのだ。彼女は、この力を活かしていくことを決めた。
「力の源よりも大切なのは、その所有者よ」
過去の「神の目」に対する意見がどうであれ、今では、この力はもはや刻晴の一部となっていた。
あの時、神の目が壊れなくてよかった。でないと、今きっと後悔しているた*だろう──彼女は実用主義者なのだから。

コレイ

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キャラクター詳細
「世話好き」、「明るくて優しい」、「熱心」……ガンダルヴァー村の周辺で尋ねてみれば、必ず彼女を賞賛する言葉が聞ける。
どんなに学業が忙しくとも、コレイは体力が続く限りパトロールの仕事を怠らない。困っている人がいれば、どんな人であっても温かく手を差し伸べる。
ただ、これほど熱心で前向きな彼女にも、知られざる過去や秘められた心があるようだ。
もし彼女がよくパトロールしている森で、奇妙なメモが貼られた木のうろを発見したり、不思議な声を聞いたりしたら…
何を見ても、何を聞いても、アランナラのいたずらだと思ってその場を迂回してほしい。
何故なら、木のうろ相手にしか話せないこともあるからだ――少なくとも今のところは。


キャラクターストーリー1
文字が知恵の媒体であるならば、文字を学ぶことは間違いなく学問の出発点である。そしてコレイは、知恵という名の山のふもとに到着したばかりのようだ。
彼女が初めてガンダルヴァー村に来た時、思ったことをいつも取り留めもなく言うため、ティナリを相当悩ませたという。ティナリは大マハマトラに何度も確認し、自分はまだ「補講」を受け持つ気はないと繰り返し訴えた。
紆余曲折を経たものの、コレイは師匠の指導を受けられるようになる。ティナリはコレイの語彙力を高めるため、読書をさせようとさまざまな書籍や文献を集めた。
子供向けのテイワット文字辞典や頭を悩ませるような科学論文を除くと、コレイがもっとも読んだのはモンドの童話絵本だ。
その理由は単純だ――童話は文字が少なく絵が多いからである。文字が読めなくとも、絵でなんとなく理解することができる。
しかし、童話ばかり読んでいても授業についてはいけない。そこで語彙力が少し上がった頃、コレイは教科書以外にも読める本を探し始めた。
とある噂で、稲妻には「娯楽小説」と呼ばれる本があることをコレイは知った。それは論文よりも理解しやすく、童話よりも挿絵が少ないため、今のコレイにはちょうどいい。
その上、「娯楽小説」は買った当日に夜更かししてでも読み終える人がいるほど、ストーリーが魅力的だそうだ。
夜中に読書するのが難しかったコレイにとって、これは試してみる価値のあることだった。
ある日のパトロールの終わりに、コレイは『鬼武道』を手にワクワクしながら寮に駆け戻り、すぐさま読み始めた――その夜、コレイは確かに眠れなかった。
「封印された力!」、「孤高の復讐者!」、「俺に近づかないほうがいい」、「神々の恩恵など俺には無縁だ!」
――コレイはそれらの言葉が頭から離れず、布団で頭を覆っては一晩中寝返りを打っていたという。


キャラクターストーリー2
テイワットには由来が定かではないが、恥をかいた時の状態を表すことわざがある。
「――木のうろがあったら入りたい。」
コレイが本で覚えたばかりの言葉を繰り返しながら、森の中を歩いていた時のこと。
スメールへ戻る前に、彼女はある友人と約束をした――将来、自分と同じように重い病で絶望している人たちを助けるため、優れた医術を身につけると。
しかし、誓いを立てるのはその一瞬の熱意で済むことだが、実現をするには何年もの努力が必要になる。先ほど終わった試験で、コレイはまたしても現実と夢の間に立ちはだかる壁にぶつかった。
「こんなこと…アンバーには言えない。」
しかも旧友に手紙を書くには、師匠に代筆を頼まなければならない。試験が上手くいかなかったことを誰かに相談したいなんて、師匠にどう言えばいいのか。
ちょうどその時、コレイの独り言を聞いたかのように、人がひとり入れるくらいの大きさの木のうろがパトロール中の彼女の前に現れた。
「いやいや、童話ではアランナラに悩みを打ち明けるなんていうのがあったけど…さすがにそんな年じゃないし…あっ、でも周りに誰もいない…」
気が付くと、コレイは木のうろの中で頭を抱えながらしゃがみ込んでいた。
堅固な要塞のような暗闇が、現実のあらゆるプレッシャーを遮断してくれた。
コレイは内向的な性格なため、分け隔てなく明るく人と接することができない。そして、アンバーのように明るい人を真似ても、困難や寂しさを無視することができなかった。
頭を悩ませていたコレイは、スメールに帰ってから溜まったストレスを嵐のように木のうろへとぶつけた。
「コレイ、またあの辺りをパトロールしているのか。」
数日後、最近頻繁にコレイがパトロールしているルートと、彼女が進歩していることの分かる答案用紙を見て、ティナリは考え込んだ。
「森で成績を上げる方法でも見つけたのだろうか?うん、いいことだ。他の巡回路は他のレンジャーたちに任せて、コレイの邪魔はしないでおこう。」


キャラクターストーリー3
筆記試験を除けば、コレイの成績は悪くない。特に「サバイバル」に関しては優れたスキルを持っている。
スメールの森には毒を持つ野獣や防ぎようのない想定外の事態など、危険が数多と潜んでいる。レンジャーを目指すなら、それらに対して万全の準備を整えなければならない。
だが、コレイはそういったことに対する心得を持っている。筆記試験の成績が同僚よりも劣っているのは、ただ本に触れるのが人よりも遅かったせいだ。実戦における彼女の能力は優れたもので、驚くような発想を見せてくれる。
とげのあるツル草を靴に巻きつけてグリップ力を高めたり、潰した毒キノコの汁で獣を捕る罠を作ったり…
これらアイデアを用いることで、彼女は森の中を安全に行き来する。そして、森で迷子になっている人や毒のある物を食べてしまった人、獣に襲われている不運な人たちを助けてきた。
コレイに助けられた通行人は、誰もが彼女の不思議なサバイバルスキルに驚かされ、その優しさと熱意に心を打たれる。
危険が差し迫ろうとも、食料が不足していようとも、そして助けられた人が情緒不安定になろうとも、コレイは太陽のような温かさで受け止めてきた。彼女は自分が傷だらけになり、飢えることになろうとも気にせず、一心に人を助ける。
ただ唯一受け入れがたいのは、コレイが危険に遭遇した時に食べているものだろうか。すり潰したサイトゥン桃の種だけでなく、頭を取り除いたホタルも容赦なくいただく。体力さえ補えれば、彼女は気にしないのだ。
そんな彼女に会った人は、このレンジャ一見習いの過去がどうしても気になってしまう。
――まるで、大自然を自分の故郷のように扱う彼女。どのような生い立ちがあって、このあどけない少女をこのようにしたのだろうか。


キャラクターストーリー4
スメールに戻る前、コレイは長いこと流浪していた。
流浪と旅の違い、それは出発点は分かるが終着点が不明なことだ。
彼女の流浪はとある焼けた廃墟から、またはそれよりも前、ある病気に罹った時から始まった。それは、闇へと続く果てしない悪夢に至る運命。
彼女と共に廃墟から脱した仲間は、空を舞う風や砂に紛れたか、魔神の残骸による苦しみに倒れていった。
病と呪いに蝕まれた彼らに、身を寄せるところなどない。ゆえに、誰もいない森と原野に助けを求めるほかなかった。
大自然は優しくも残酷だ。病気だからといって恵みを与えることを拒まないが、呼びかけたからといって何かを与えることもない。
仲間はどんどん倒れていき、彼らの残した教訓が後に続く者に危険な状況下で生き延びるすべを教えた。
そして、最後の仲間が倒れた。コレイがそこから学んだのは――「誰にも手を差し伸ばしはしない」ということだった。
当時、コレイたちは崖を背にして、命がけで走っていた。その背後からは野獣の唸り声が迫る。
道が狭かったからか、それとも別の原因か、唯一残っていた仲間とぶつかり、コレイは崖から落ちてしまう。
幸い、彼女は間一髪で生えていた枝を掴むことができた。もう片方の手を思いきり伸ばし助けを呼ぶ。
しかし、仲間は複雑な表情を浮かべた後、迷わず一人で逃げてしまった。
ただ、その仲間はあまり遠くへは逃げられなかったようだ。野獣の唸り声は逃げていく足音よりも速く、瞬く間に追いつかれたことが分かった。野獣の捕食本能は、崖の下で震えるコレイに目もくれなかった。
コレイは密かに手を引っ込め、今にも折れそうな枝にしがみつきながら、頭上の気配が消えるのを待った。
そして、野獣の唸り声と仲間の悲鳴が消えた。
コレイは一緒に逃げてきた仲間を憎みはしなかった。もし立場が逆だったら、違う選択をしていたとは言い切れなかったからだ。
この時、コレイの頭に浮かんだのはただ一つの思い。
人を助けるにせよ、助けられるにせよ――
「もう誰にも手を差し伸ばしはしない。」


キャラクターストーリー5
コレイが再び誰かの手に触れたのは、ある年のモンドのバドルドー祭でのことだ。
街は鮮やかな装飾で彩られ、多くの人で賑わっていた。夜のとばりが空を染め上げ、祭りの雰囲気が広がっていく。
炎のように赤い少女が狭い木箱からコレイの手を取ると、人混みへと引っ張って行った。
人々は集まり、輪投げや的当てといった単純で簡素な出し物に笑顔を浮かべている。
当時、コレイには理解できなかった。このような遊びが上手くても、外で食料を得ることなどできないからだ。
しかし、一緒にいた少女は成功するたびに喜び、手に入れた賞品を子供たちに配っていた。
コレイは不思議に思う――賞品が目当てでないなら、どうしてこんなものに参加するのか?いったい、それの何が楽しいのか?
彼女はこっそり的当てのパチンコを手に取り、試しに撃ってみた――すると、十数発のうち一発だけ的の端に当たった。
「当たった!!」と興奮した様子で振り返り、「おい!見ろよ…」と大きな声を出す。
その時、彼女は自分がそれに夢中になっていたこと、そして赤い服の少女が既にいなくなってからずいぶん時間が経っていたことに気づいた。
それから数日、コレイは練習に没頭した。次第にゴムを引く動作や発射音にも慣れていった。そして長い練習の末、ついに十数発のうち外すのがたった一発になった。
ゴムを引くたびに、コレイはあの夜、初めて的に当てた時の感動を思い出す。
そして、人混みへと引っ張ってくれた少女の、太陽のように温かい手のひらを思い出すのだ。


コレアンバ―
成長とは、未熟な過去の自分に勝つことである。
コレイはよくガンダルヴァー村の子供たちのためにおもちゃを修理したり、レンジャーの同僚から木の枝などに引っかけて破いた衣服の修繕を頼まれたりする。
とはいえ、コレイは生まれつき手仕事が得意だったわけではない。それどころか、初めて服を縫った時は、とんでもない状況になったそうだ。
これはコレイがちょうどモンドを離れることが決まり、修繕した古着をアンバーに返すようリサに頼んだ時の出来事だ。
縫いはしたものの、くねくねと踊るような縫い目が服全体を這っており、それを着て人前には出られないほど酷い状態だったそうだ。
リサは笑うか批判するだろうと、コレイは予想していた。
だが意外にも、リサは背中に回してた*コレイの手を取り、丁寧に手当てしてくれたのだ。
彼女はコレイの指先が傷だらけになっているのを見てもまったく驚かず、「まるでググプラムをボールにして一晩中遊んだみたいね。」と言った。
「スメールで勉強する時は、そう焦っちゃダメよ、コレイちゃん。」と、リサは笑いながらアドバイスをした。「何事にも初めてはあるわ。その初めての難しさに慣れていくことが、成長というものよ。」
コレイは気づくと顔が赤くなっていた。彼女はまだ、人の親切を受け入れるのに慣れていなかったのだ。
彼女はまだ子供で、そして子供はいずれ成長する。
この世に絶望していた子供は希望を取り戻し、苦手だったパチンコも次第に狙いを定めることができるようになった。
傷ついた子は、他の子のお手本になるよう少しずつ成長していく。
ガンダルヴァー村では、やんちゃな子供たちがコレイの周りに集まり、憧れの眼差しを送っている。
「かわいい猫!本当に手先が器用なんだね。」「コレイ姉ちゃん、その子なんていうの?」
コレイは精巧に、そして丁寧に縫われた猫の人形を高く挙げると、珍しく誇らしげに顔を輝かせた。
「こいつの名前は――『コレアンバー』だ!」


神の目
大雨が降り、落石と泥がコレイの帰路を阻んだ。
コレイは崖の下で焚き火の支度をし、隣にいる震えの止まらない少女を温めようとした。
この河谷は、彼女が毎日パトロールをしている森から一日かけて歩いたところにある。彼女一人なら、雨の中を帰ることも不可能ではない。
しかし、長いこと森で迷子になり、飢えと寒さに苦しんでいる子を一人連れ帰るとなると、今のコレイには難しいことだった。
少女の顔は青ざめ、額は熱を帯び、母親のことをつぶやいている。
コレイはその子の母親のことをはっきり覚えている。彼女はガンダルヴァー村へと焦燥し絶望した様子で助けを求めてきた――その表情は、まるで苦しむのは娘ではなく自分であって欲しかったと言っているようだった。
その母娘はキャラバンと共に河谷を越え、キャンプを設営して休んでいたそうだ。しかし、娘が逃げ出して森から帰ってこなくなったという。キャラバン隊はその子を探そうと力を尽くしたが、見つからなかった。
母親は仕方なくガンダルヴァー村へと戻り、助けを求めたのだ。
今、ティナリはレンジャーの先輩たちを連れて会議のためシティへ行っている。あまりにも危機的な状況であるため、師匠の帰りを待つことはできない。地面は大雨に洗われ、救助犬の鼻もあてにならない。
コレイはバッグと弓と矢を手に、一人森へ向かった。
それと同時に、雷鳴と雨音の中、獣の低い唸り声が徐々に近づいてきた。
過去の嫌な記憶が蘇る。しかも、もっとも直面したくない記憶だ…
雨が止むと、知らせを受けたティナリが休むことなく、急いで現場に駆けつけた。
崖の下の道には戦いの跡が続いており、遠くで数匹の獣が倒れている。その先にコレイと少女が互いに肩を寄せ合って、静かに眠っていた。
ティナリの心臓が跳ねる。彼には分かっていた、目の前にいるコレイがここまで強くないことを。まさか、彼女は使ってはいけない力を使ったのではないか。
これは毒を飲んで渇きを癒やす行為、コレイの病状を悪化させてしまうことだ。早く大マハマトラに連絡しなければ…
ティナリの足音で目を覚ましたコレイ。彼女は慌てて身振り手振りで、隣の女の子を驚かさないよう音を立てないでと師匠に頼んだ。
ティナリは心配そうに彼女の様子を確認する。「コレイ…君、もしかして…」コレイは首を横に振り、手を上に伸ばすと、一晩中握りしめていた拳を緩めた。
「師匠、あたし強くなったんだ!みんなの努力を無駄にしないためにも、今日からはあたしがみんなを守ってみせる。」
彼女の手の中で、神の目が静かに光を放っていた。

ゴロー

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キャラクター詳細
ゴローは海祇島軍隊の大将であり、軍での人望は厚く、部下たちからも慕われている。
目狩り令が敷かれていた当時、ゴローは海祇軍を率いて何度も幕府軍と戦い、厳しい状況下におかれても、防衛線を守り抜いた。
兵士たちは彼を「常勝の立ち耳将軍」と名付け、この称号は幕府にまで広まった。
普段のゴローは、兵士たちの前で偉ぶることはしない。真摯で素直な性格の彼は、心優しい兄貴分として知られている。
しかし、こんな立派な将領にも、悩みがあるようだ…


キャラクターストーリー1
ゴローは元々、海祇島の一般兵だった。ある特別行動中、ゴローが所属していた「チンアナゴ二番隊」は、前代未聞の危機に遭遇した。
隊長が矢で射られて亡くなり、生き残った隊員も山の中に閉じ込められてしまったのだ。
任務を続けるべきか、救援を呼ぶべきか、敵と交渉するべきか…目の前には問題が山積しているのに、山には静寂が漂うばかりだった。
指揮者はおらず、兵糧もなく、隊の全員が危機に瀕していた。士気は低下し、多くの者の頭には「降伏」という考えも浮かんでいた。
ゴローが前に出たのは、そんな時だった。彼は「交渉」と「降伏」という意見を撥ねのけ、大胆な作戦を立案したのだ。
隠れることをやめ、ほとんどの兵士を率いての攻撃を装い、残りの兵士が救援を呼びに行くための隙を作る。そして援軍が来たら、ゴローと協力し、敵を挟み撃ちにするというものだ。
作戦が失敗したらどうするのかと問われたが、それに対しゴローはこう答えた。
「敵が包囲網を強化すれば、状況はさらに不利になる。今ならまだ生き延びられる可能性が残っている。だから全力で戦わなければならない。」
「もし作戦が失敗したら、俺が全責任を負う。」
何日も寝ずに持ちこたえ、疲労困憊だったゴローたちはついに、珊瑚宮心海率いる援軍を迎えることができた。
その後、彼はチンアナゴ二番隊の隊長に任命され、現在の海祇島「大将」にまで昇進したのである。


キャラクターストーリー2
兵士たちが考えるゴローとは、威厳はあるが傲慢さは感じない、そんな将領である。
彼は明るく素直な性格で、部下のことを仲間と思い、喜びや悲しみも共に分かち合う。
珊瑚宮心海は、軍におけるもっとも重要な要素とは、装備、兵糧、俸禄の三つだとゴローに教えた。
それ以来、ゴローは自ら部下に武器の手入れの仕方を教えるようになった。さらに、兵糧と俸禄の配布にも誤りが生じないよう、厳しく管理している。また、海祇島の「大将」であるゴローは、常に自分で部隊を率いて戦う。
前線にいる彼の後ろ姿はまるで軍旗のように、後ろに続く兵士たちを鼓舞しながら進んでいくのだ。
これこそ、兵士たちがゴローを尊敬する理由であろう。心海と同じく、ゴローは兵士たちの命を何よりも大切にしている。だが、自分のことはそれほど重要ではないと思っているようだ。
事情を理解していない人は、ゴローは大将らしくない、ただの「小僧」だと笑うだろう。
しかしその「小僧」こそが、海祇島の兵士たちにとって最高の大将なのだ。


キャラクターストーリー3
ゴローは勇敢で決断力があり、部下を率いては、常に自分よりも強い敵に勝利する。
しかしそんな彼にも、衝動的になるという短所があった。
戦うほどに気が高ぶり、自分を抑えられなくなってしまうのだ。
戦争とは残酷なものであり、何十年も戦場に身を置いてきたベテランと比べれば、ゴローは間違いなく経験不足である。
しかし、彼の高い学習能力によって、このような欠点は徐々に改善されていくだろう。
珊瑚宮心海は、軍隊の将領に虎の巻を用意してくれる。だが虎の巻の使い方は、将領自身に一任されていた。
ゴローはいつも、虎の巻からその時の状況に応じて最適な戦略を見つけ出し、それを最後まで貫き通す。
時間が経てば、いつか虎の巻のすべてを理解することができると、彼は信じている。そしてその時が来たら、ゴローはさらなる自信を手にすることができるだろう。


キャラクターストーリー4
ゴローは八重神子に頼まれて、八重堂で臨時の「仕事」をしている。
目狩り令が撤廃された後、海祇島と幕府の交渉がうまくまとまったことで、両者の距離はますます近付いていた。
ゴローは時々、鳴神島の変化を見たり、最新の書籍を買ったりし、そしてある約束を果たすため、八重堂へと足を運んでいる。
八重神子はゴローのために、『月刊閑事』に匿名の質問欄を設けた。読者たちが自分の悩み事を手紙に書き、八重堂に投稿する。それを読んだゴローが、自分の見解を述べるというものだ。
読者の手紙とゴローの回答における個人情報は、八重堂を経由する過程で特殊な処理が施され、匿名に書き換えられる。
八重神子曰く、彼女がゴローを選んだ理由は、彼がよく部下と交流しているからだそうだ。
この読者からの質問欄は人気を博したが、八重堂の編集者はゴローに原稿料を渡すたび、なぜかこんな質問をする。
「そういえばゴローさん、ヒナさんって知ってる?」
「最近わりと人気の作家だと聞いてるが、それがどうかしたのか?」
「いえ、何でも…」


キャラクターストーリー5
兵士たちがゴローにすべてを語らないように、ゴローもまた、口にはしづらい悩みを抱えていた。
例えば、風雨に長くさらされるとしっぽの毛がくすんできて、やつれて見えるとか。手入れをしたいのに、正しいやり方が分からないとか。
また、部下と入浴する際、自分の体格に劣等感を覚え、悔しい気持ちになることもあるらしい。
さらには、八重神子のような捉えどころのない女性を前にすると、瞬時に警戒態勢に入ってしまい、まともに接することができなくなることも…
ゴローは威厳を保つため、このような悩みを兵士に打ち明けることは避けていた。
そして海祇島の兵士たちも、彼の悩みをある程度察することができたとしても、気付かないふりをするのだ。
ゴローの悩みは増す一方だった。しかし旅人が現れたことで、人の悩みを解決するのが得意な海祇島の大将にも、自分の悩みを打ち明けられる仲間ができたのだった。


登山着
ゴローの趣味の中でも、「登山」は三本の指に入るだろう。
仲間と共に山に登って汗を流し、周囲の美しい景色を眺めることは、心と体を鍛え、団結力を高めるのにも役立つ。
この趣味をより楽しむために、ゴローは、旅の商人から登山着一式を購入した。
この登山着は特別高価なものではなかったが、頑丈さと耐久性を兼ね備えており、登山中、何度も危険な場面でゴローの身を守ってくれた。
武器を大切にするのと同様、ゴローはこの登山着を大切にしてきた。これからもこの登山着が、彼の旅のお供となることは間違いないだろう。


神の目
ゴローは一時期、敗戦の責任をすべて自分一人のせいにしていた。
「俺がもっと強かったら、戦局を変えられたかもしれない。」
その悔しさを抱えながら、ゴローは自分の力で仲間を勝利に導こうと、日夜、弓の訓練に励んだ。
しかし、戦場で腕を磨いてきたゴローは、屈強な兵士が孤立して倒れ、生け捕りにされたり、不利な状況に置かれた力ない兵士たちが、協力して敵を倒したりする場面を目の当たりにした。
その時ゴローは、個人の力には限界があるのだと悟ったのだった。
個人が強くなることはもちろん重要だが、それ以上に、兵士が一致団結して戦うことが肝要なのだ。
兵士は集団で強くなってこそ、戦場で無敵になれる。
それに気付いたゴローは、弓術の頂点を追い求めることをやめ、自分の時間と労力を割いて、周囲の者と共に強くなる道を目指した。
今にして思えば、これこそが神の目を得る契機となったのかもしれない。

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