物語

Last-modified: 2022-10-05 (水) 15:46:07

物語:キャラ/ア-カ | キャラ/サ-ナ | キャラ/ハ-ワ || 武器物語 || 聖遺物/☆5~4 | 聖遺物/☆4~3以下 || 外観物語
図鑑:生物誌/敵と魔物 | 生物誌/野生生物 | 地理誌 | 書籍 | 書籍(本文) | 物産誌


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主人公

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キャラクターストーリー1
見知らぬ空の下、旅人は砂浜に立っていた。
あなたたちは旅をする双子で、いくつもの世界を渡って、星屑に分かれた国境を乗り越えてきた。
この「テイワット」という大陸に降臨する前に、あなたはこの世界と仲良くなろうと思った。
だが目を覚ますと目の前は天地異変と災禍の光景だった。――
でもあなたたちがここを離れて、次の世界へ行こうとした時…見知らぬ神が、あなたたちの前に現れた。
塵一つもない神が濁世の天空に浮かび、あなたを俯瞰していた。
神があなたの唯一の血縁者を奪い去った。そしてあなたは封印され眠りへと落ちた。
再び目を覚ませば、目の前の光景が変わった。
そこは戦火もなく、見たことのない世界だった。
自分は何年眠っていたのか?答える人など誰一人いない
そしてかつて会ったその神の居場所を突き止めるために、君はひとり、旅に出た…


キャラクターストーリー2
その後、あなたは旅の仲間パイモンと出会い、共に旅をしていた。
あなたはこの世界に7つの神が存在し、「俗世の七執政」の名の下で、7つの国を統治しているという情報を手に入れた。
最初の行き先は、詩とお酒の自由の都――モンド。それが風神の造った国。
異邦人としてモンドに足を踏み入れた時、モンドはほかの国と同じように人類と人類以外の双方から脅威を受けていた。
人類以外の脅威というのは、非人類によって結成された「アビス教団」のこと。
人類内部の脅威とは、スネージナヤの神である氷の女皇の野望。
アビス教団は風神の眷属――モンドの「四風守護」の東風の龍を腐敗させた。
スネージナヤの使節団は口実をつけて、モンドに圧力をかけた。
内外の危機に直面する時、モンド神が戻ってきた。風の神は吟遊詩人と化し、あなたと共に巨龍を救い出すことになる。
この時のあなたはまだ気づいていない。深淵に落ちた巨龍の瞳に映ったあの人影は…
深淵を統べる者。
かつて、あの(少年or少女)があなたと共にいくつもの世界を渡って、星屑に分かれた国境を乗り越えていた。


キャラクターストーリー3


キャラクターストーリー4


キャラクターストーリー5


運命の織機


神の目
抗えぬ運命を前にした時、人々は自身の無力を嘆く。
しかし人生の最も険しい分岐点にて、その渇望が極致となれば、神の視線は降りる。
それが「神の目」。神に認められし者が得られる外付けの魔力器官、元素の力を引き出す物。
天の上は神々の領域。地上にいる選ばれし「神の目」の所有者は、死後、天空の領域に入ることを許されている。
この世界に来てから、よく人々からこのことを聞かされる。
あなたは「神の目」を取得することができない。外界の者はただただ見ていることしかできない…
一瞬の渇望を一生かけて貫く、これは良いことなのか?それとも悪いことなのか?
数々の世界を渡る旅の中で、「神の目」のような、時間をかけて考えなければと*いけないことはまだまだたくさんある…

ア行

荒瀧一斗

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キャラクターストーリー1
客観的に見て、稲妻城での一斗の評判は決して良くはない。
悪人とまではいかないものの、善良な町民でないことは確かだ。
ただ、彼の恐ろしさを言葉で表すのなら、稲妻の家庭で子供を言い聞かせる際、「父ちゃんと母ちゃんの言うことを聞かないと、荒瀧一斗にお菓子を奪われちゃうよ!」と脅される程度のもの。
無論、荒瀧一斗に菓子を奪われる可能性は十分にあり得ることだ。そのため、「袋貉に山へ連れて行かれる」や「将軍様に神像にはめ込まれる」よりも効果はてきめんである。
しかし、「奪われる」という言葉には少々語弊があるだろう。一斗は真っ向から勝負を挑むことで、子供から菓子を手に入れているのだ。
子供に勝って菓子を奪うなど、卑劣な行為だと思う人もいるかもしれない。
だが、相手が五歳児であろうと、尊き雷電将軍であろうと、一斗は勝負に対して真剣であるべきだと考えている。
たとえ子供相手でも一斗が素直に負けを認められるのは、この純粋な信条を持っているからなのだろう。
大人たちは一斗に不満を抱いている。
しかし、一方で子供たちは、この鬼族のお兄ちゃんを良い遊び相手だと思っているようだ。
荒瀧一斗は巷の様々な遊びに精通しており、どのような遊びであろうと楽しみながら挑む。それだけではない、もしいじめられている子がいれば、必ずその子の味方をするのが荒瀧一斗なのだ。
ここ最近、子供たちが夢中なのは一斗との「虫相撲」である。
この昔ながらの遊びは単純ながらも、非常に苛烈なぶつかり合いによって、見ていて飽きることがない。そして何より重要なのが、他の遊びに比べて一斗の勝率が悪くないという点だ。


キャラクターストーリー2
長いこと、天領奉行は「荒瀧派」をたまに騒ぎを起こすだけの、さほど注意の払う必要がない集団だと認識していた。
この一派の構成員は十人にも満たず、結成日でさえ人によって意見が分かれている。
晃の場合、数人のゴロツキに絡まれていたところを一斗に助けられたことがあり、その日を結成日だと考えているようだ。ゴロツキ相手に一斗は七回も膝を突かされたのだが、まったく負けを認めず、ついには呆れ果てた相手が去って行ったという。そして、一斗は倒れていた晃に手を差し伸べ、こう言った――「お前も今日から荒瀧派の一員だ!」
元太と守の場合、ある年の暮れ、稲妻の郊外で一緒にうずくまりながらスミレウリを焼いた日を荒瀧派の始まりだと思っている。
その日、彼らは無一文で腹を空かせていた。すると、焼いたスミレウリを食べながら、一斗は感慨深げにこう言ったのだ――「荒瀧派の野郎ども、これからは毎年こうやってスミレウリを焼いて、一緒に食おうぜ!」と。
ただ残念なのは、元太も守も、そのような出来事は懐かしむべきものではないと考えている点であろう。
久岐忍の場合、初めて一斗を牢屋から救い出したときこそ、荒瀧派が結成された日だと考えている。なぜなら、そのとき初めて公文書に「荒瀧派」という名が記録されたからだ。
そして一斗の場合、「荒瀧派」の三文字が頭に浮かんだ瞬間から存在していると思っている。
残念ながら、この考えがいつ生じたのか、もうほとんど覚えていない。
しかし、幼い頃から一斗の面倒を見てきた鬼婆婆は、荒瀧派が結成されたことなどないと考えている。
彼女にとって、それはただ一斗と仲間たちが集まっているだけに過ぎないのだ。


キャラクターストーリー3
稲妻には、古くから妖怪の一族が住んでいる。
「白辰狐王一脈」や「天狗党」に加え、「鬼人衆」もこの地で活躍をしてきた。
これら妖怪の大半は、人間が羨むような特殊能力を備えている。だが鬼族の場合、特別な力をほとんど持っていない。
頭に生えている鬼の角を除き、特徴と言えるのはその気性の荒さと厄介事をよく招いてしまう点のみ。
また鬼族が豆を恐れるという言い伝えがあるが、これはすでに学術的に証明がされている。
実は、鬼族の大多数は豆にアレルギーを持っているのだ。ただ鬼族の血は時の流れとともに次第に薄まり、そのほどんど*は軽いアレルギー反応を起こすだけとなっている。
しかし、悲しいことに非常に深刻な豆アレルギーを持っている者がいる、それが荒瀧一斗だ。豆を食べるのはもちろんのこと、肌に触れれば全身にかゆみが走り、呼吸もままならなくなってしまう。
そのため、普段は大雑把で周りを気にしない一斗も、「豆」にだけはいつも警戒しているようだ。
荒瀧派の一員は親分への忠誠心から、一斗と飲みに行っても決して枝豆を注文しないという。
なお、豆を使った食べ物の中でも、一斗がもっとも恐れているのは「油揚げ」である。本人曰く、見ただけで三日は吐き気が続くそうだ。


キャラクターストーリー4
「油揚げ」で真っ先に思い浮かぶのが、ある勇ましくも悲壮に満ちた勝負のことだ。
その勝負の始まりは、日常の小さな揉め事であった。一斗が給料を貰った日、行きつけの屋台へ行くと、一つしかない店の席に狐耳の女性が座っていた。
その席を奪おうとする一斗であったが、次第に狐耳の女性と口論となる。そして、その席を賭けて真剣勝負(必要のない)をすることとなった。
話し合いの結果、勝負の形式は一斗が決め、その具体的な内容を狐耳の女性が決めることになった。
働いた後で腹を空かせていた一斗は大食い勝負を選び、狐耳の女性は食べる料理を選んだ――それが「きつねラーメン」である。
ラーメンの中に油揚げが入っていることを想定していなかったのは、一斗にとって致命的なものであった。しかし、持ち前の根性で勝負を乗り切り、なんとか鬼としての威厳を保つ。
そんな一斗の迫力に腰を抜かした店主は、その争いの火種となった席を彼に渡したそうだ。
それら数々の勝負をくぐり抜けてきた一斗であるが、その中でも心残りが二つある。
一つは天領奉行によって神の目を奪われた際、自分を打ち負かした相手である九条裟羅との再戦が果たされていないことだ。
今なお、九条裟羅は町中での相撲を拒否しており、一斗は不満を抱いている。
そして、もう一つが幼い頃にあったある出来事だ。ある日、天狗の子供と口喧嘩となり、白狐の野で相撲を取ることになった一斗。しかし、その最中に二人とも山から転げ落ちてしまうということがあった。
結局、足を挫いて歩けなくなった一斗を、天狗は家まで運んであげたそうだ。もちろん、勝敗は決まらないまま終わっている。
両方とも天狗が絡んでくるとは、なんともツイてねぇ!
天狗っつうのは痩せてやがんのに、どうしてあんな力が強いんだ。


キャラクターストーリー5
赤鬼と青鬼の話は、どの鬼も子供の頃に聞いたことがあるだろう。
優しくてお人好しの赤鬼が、悪事を働く青鬼を倒し、人々から鬼族の尊重を勝ち取る物語。
これは一斗が幼い頃に一番好きだったお話だ。赤い鬼の角を持つ一斗は、赤鬼の血筋を誇りに思っている。
しかし、そんな子供の純粋な思いは、ある事件をきっかけに揺れ動いた。
一斗の住む村で、凶悪な強盗や暴行事件が相次いだのだ。人々の疑惑の目は、鬼族である荒瀧の家に向けられた。
一斗は、当時のことをもうほとんど覚えていない。しかし両親に連れられて村を出るとき、村人たちから向けられた嫌悪感と警戒心に満ちた視線、そしていずれ幾度も耳にすることになる言葉を、彼はいまだに覚えている。
「やはり鬼はどう足掻こうと鬼のままなんだ。」
いつの時代においても、人間から見れば鬼は鬼でしかないのだ。何も悪いことをしていないのに故郷を追われた両親と比べたら、人々に恐れられている青鬼のほうが幾分かマシなのかもしれない。
両親が病死した後、幼い一斗は町中を彷徨い、鬼の悪口を言う者がいれば喧嘩を吹っかけていた。
しかし、殴られるのはいつも一斗のほうである。彼は地面に何度倒れようとも諦めず、厄介な相手だったことだろう。
だが、このときの一斗はまだ子供。ゴロツキどもに痛い目に遭わされ、飢えと疲れで体は悲鳴を上げ、やがて路上に倒れてしまう。
そんな満身創痍な状態の中、一斗はある人間の老婆に助けられた。
「おい、俺様は鬼だぞ!どうして助けた?」「お腹が空いとるんじゃろう?今ちょうどおかゆが出来たところじゃ。」
「聞いてんのか、俺は鬼族だ!俺の頭に生えてる角が見えないのか?」「もちろん見えとるとも…それより、おかゆはどうだい?」
「あああッ!もう、話を聞けってんだ――ゴホッ…ちっ、婆さん…じゃあ、おかゆを一杯頼む…」「ああ、少し待っとれ。」


「豪歌会」
年の瀬を目前にして、荒瀧派はどう年を越そうかと話し合っていた。
一般的な組織と異なり、荒瀧派は決まった活動拠点を持たず、モラの蓄えもない。きちんとした場を設けるのは些か難しいことだろう。
案の一つである「スミレウリの会」は却下された。スミレウリ自体を焼いて食べるのは問題ないが、食料がスミレウリだけなのはあまりにも惨めだからである。
「虫相撲の会」も悪くない案であったが、年の瀬はオニカブトムシの繁殖期ではないため、いまいち闘志に欠けている。
結局、くじ引きにより「豪歌会」なるものが選ばれた。
これは一斗が提案したもので、崖の上に立ち、潮風に吹かれながら熱き想いと未来への希望を歌にするというものだ。
それを知った面々は心の内で拒絶したという。海に向かって熱唱するくらいなら、スミレウリを食べているほうがマシだと。久岐忍はその場で休暇を取って実家に帰りたいと言い出した。
しかし、豪歌会は予定通り開催されることとなる。大声で熱唱するのは実に気持ちのいいこと。そして、意外にも一斗の歌唱力は見事なものであったという。


神の目
ある朝、眠りから覚めた一斗が腰の下に手をやると、そこには神の目があった。これは一斗が花見坂に来てもう何年も経ち、生活がある程度安定していた頃の出来事である。
「父ちゃん、母ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃん。それに鬼婆婆…とんでもねぇことが起きちまった!」
神の目を見た瞬間、一斗の頭にはそのような言葉が浮かんだという。
その日、彼は人に会うたび神の目を見せびらかしては鼻息を荒くし、神の目を下敷きにしてできた腰のくぼみを見せつけた。皆、耳にたこができるほど聞いたことだろう。
しかし数日後、荒瀧一斗の話す内容は一変していた。
「神の目を見た瞬間、俺様の心は一寸たりとも動かなかった。なぜなら俺様は荒瀧派の初代親分だからな、神の目を手にするのも当然と言える。
そもそも、人の価値なんざぁ、神の目で量れるもんじゃねぇ。そうだろ?」
だが目敏い人であれば、一斗が非常に柔らかな眼鏡拭きを買ったことに気づいていることだろう。
つい先日、『月刊閑事』の質問欄にある投稿が寄せられていた。
「ヒナさん、神の目をより輝かせるためには、どうしたらいいんだ?他のやつらよりもピカピカにしたいんだが…」
それを読んだ荒瀧派の面々は、興奮しながら一斗にその本を見せた。しかし、長年ヒナさんに絶大な信頼を寄せてきた一斗が、一瞥しただけで本を手放したのは想定外だっただろう。

アルベド

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キャラクターストーリー1
アルベドは騎士団において、極めて重要な職務に就いている。だが、彼が人前に姿を現すことは滅多にない。
学者にありがちな変わった性格が災いしているわけではなく、むしろ彼はとても誠実に人と接する。
ただ、行き過ぎた情によって結ばれた親密な関係を彼は当てにしておらず、またそれを維持するための多大な労力を良しとしていないのだ。
そのため、アルベドは他人と友好的かつ適度な距離を置くことにしている。
彼が工房の鍵を閉めて外へ出かけたり、素材を探しに行ったりしている日には、彼の姿をモンドで見つけることは決してできない。
だが、人を遠ざけるその行為は、アルベドの心が冷淡であることを示しているわけではない。
助手であるティマイオスやスクロースを指導している時、彼は心の底から楽しんでいるのだ。
そして、モンドの人たちに描いたばかりのクロッキーを渡すときも、彼は心の底から喜びを感じている。
また才能に恵まれたリサが図書館司書の職に甘んじている姿を見れば…心の底から残念に思うのである。


キャラクターストーリー2
「アルベドは、師匠の推薦状によりモンドに腰を落ち着けることができた」
これは一応事実である。ただ、モンド城はいついかなる時もあらゆる者を歓迎しているため、推薦状は大して重要ではなかっただろう。
むしろ、アルベドにしてみれば推薦状がなかった方が、モンド城の生活はもっと居心地の良いものになっていたかもしれない。
――なぜなら、推薦状の受取人はかの有名な観光ガイドの作者アリス、アルベドの師匠レインドットの旧友だ。
アリスは推薦状を読み終えた後、しばし考えにふけった。
「レインが、君に実験室を用意してくれだってさ…でも、この規模になると一般市民じゃ手が届かないよね。うーん…あ、そうだ!」
こうして、アルベドはアリスによって西風騎士団へと放り込まれたのであった。
騎士団の仕事はアルベドにとって、実に楽なものであった。実力の5%ほどの力を出せば、騎士団の仕事は万事処理できてしまう。
つまり、それ以外の力は全て実験に費やせる上、騎士団の実験室や機材を好きに扱えるということだ。
ところが――
アリスには娘がいたのだ、名前はクレー。
…そう、あの「クレー」だ。
「今日から私たちは家族よ。この子のことは実の妹だと思ってあげて!」
それからアルベドは、クレーの後始末によって日々労力を費やしていくことになる。


キャラクターストーリー3
アルベドは実の親のことを覚えていない。物心ついた頃から、彼は師匠と共に秘境深界を探索していた。
騎士団の人たち、アリス、そして星海の気をまとう旅人。誰もがアルベドにとって特別な存在であるが、その中でも師匠はひと際特別である。
なぜなら、アルベドにとって彼女こそが唯一の親であるからだ。
師匠は冷淡かつ厳格な女性だった。彼女はアルベドを育て、錬金術の秘訣を教えた。
「宇宙――それは星が輝く漆黒の空の本質、地質――それは時間と生命が蓄えた記憶。
白亜――それはあなた、黒土――それは錬金術の語源であり、命の根源でもある。そして――」
彼女はアルベドにその技術を見せる。
巨大な生命が卵を突き破り、培養槽の破片が床一面に散乱した。
「これが誕生だ」


キャラクターストーリー4
かつて、アルベドは煩わしさとは無縁の気楽な生活を送っていた。
何も考える必要はない。生命とは単調なものであり、ただ師匠と共に行動し、師匠の指示に従い、師匠の期待を裏切らなければよかった。
ある日、その師匠と弟子が世界の奥底で「ナベリスの心」と呼ばれる聖遺物を見つけた。
だがその日を境に、師匠は姿を消してしまう。残されたのはメモと推薦状、そして1冊の書物。
メモには「アルベドをモンドへ向かわせ、旧友であるアリスに推薦状を渡し、最後の課題を成し遂げさせる」と書かれていた。
書物は師匠が収蔵していた「大義秘典」の断片。
また、師匠からアルベドへ向けた少し変わった贈り物もあった、それは見習いを卒業したことを証明する「白亜の申し子」という称号。
過去にアルベドがこなしてきた課題は、いずれも困難なものであった。
「できなければ見捨てる」といった師匠の脅しも、アルベドは本気で信じ、課題に打ち込んできた。
ただ、今回アルベドが受け取った課題はあまりにも難問であり、彼の許容範囲をゆうに超えていた…
もしかすると、これは二度と師匠と再会できないことを意味しているのではないだろうか?
「最後の課題――私に世界の真相、そして世界の意義を示せ」


キャラクターストーリー5
アルベドの「錬金術」は、テイワットの七国に存在するどの技術とも異なっている。
彼が師匠から受け継いだものは、七国とはまた別の国――「カーンルイア」に由来するものだ。
カーンルイアは地底奥深くに隠された国であり、そこには動物がめったにいない。そのため、その地の「錬金術」は「生命の創造」に重きを置かれていた。
命を育てる術、「黒土の術」。
幼いアルベドは師匠のメモからそれを理解した。
また「黒土」のもう一つ上の存在が「白亜」である。これについては、師匠が過去に口にしたことがあった。
「白亜は無垢なる土であり、原始の人々の材料である」と。
今のアルベドは、あの頃よりも錬金術の理解を深めており、知識も過去のものとは比べ物にならない。
「黒土が白亜を産む」
彼はこの一言に込められた意味を完全に理解していた。
言葉で言い表せない神秘は、師匠との思い出に固く結びついている。
師匠は母ではない、だがアルベドの命は間違いなく師匠から生まれたものであった。
「はぁ、ボクの思い込みじゃなければいいのだが。両親が子供に求める『世界の意義』は…きっと幸せな暮らしのことなのだろう」
アルベドは、たまにそう考えるのであった。


アルベドの絵
アルベドの絵を描く習慣は、師匠と旅をしていた頃に身に着いたものだ。
最初はメモの挿絵を描く程度だった。だが、細部まで絵を描き込む事で物体の構造や法則を理解しやすくなり、錬金術を学ぶのに大いに役立つことに気付いた。
その上、絵を描いている時は無心になれる、対象の観察と筆を動かすこと以外は何も考えなくていいのだ。それは心地いい感覚であった。
そしてアルベドは独学で絵を学び、芸術家の域に達するまでになった。
モンド城内を散策する時、アルベドはいつもスケッチをする。彼は人々の幸せな時間を記録するのが好きであった。
時折、彼は描いた絵を事情の知らない「モデル」へとプレゼントする。なぜなら、幸福な時間が閉じ込められた絵は、大切にされるべきだと考えているからだ。
時が経つとともに、アルベドの画力も日に日に増していった。それでも「稲妻の挿絵」を初めて目にした時、彼の全身に衝撃が走ったという。
この世界に、絵を使って膨大な物語を伝える技術が存在したことにただただ驚いたのだ。
奇妙な感覚であった、それをアルベド自身も試してみたいと強く思った。
…そして、行秋という小説家と出会い、共に『沈秋拾剣録』を出版することになったのである。
ただ残念なことに、この小説はあまり反響を呼ぶことなく、「神絵師の絵が載っている本」という評価だけが世に残った。


神の目
「神の目」を手にしたことに対し、アルベドは特に驚きを示さなかった。
神の目を手にした瞬間、アルベドはそれを一瞥しただけで、元の作業に戻ったのである。
彼の感情には一切の変化もなく、まるでそれがさも当然のことであるかのように平然としていた。
アルベドにとって、神の目はただ研究を便利にするだけの道具に過ぎなかったのだ。
彼が喜ぶのは、「未知」なるものが知識となった時だけ。
いつの日か、彼は世界中の神秘と智慧を解き明かすことだろう――もちろん、「神の目」もそのうちの一つである。

アンバー

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キャラクターストーリー1
幼い頃から、アンバーはずっとパワーと元気に満ちている。
燃える炎のようなパワーを持つ彼女は、風のように素早く動き、目の前の困難を解決する。
しかし、溢れるパワーは時折、彼女を思わぬトラブルメーカーにしてしまう。
幼い頃のアンバーは、このせいでいくつもトラブルを起こした。鳥の卵を取り出そうとして、うっかりその巣を祖父の頭に落としたり、草スライムの葉っぱに火をつけ、暴れたスライムが狩人たちを驚かせたり、様々な問題を起こした。
しかし、トラブルを起こしたアンバーは、いつも素早く現場から逃げ去り、べテランの偵察騎士でも彼女に追いつけないほどだった。
アンバーがトラブルを起こす度に、彼女の祖父はいつも何も言わずに、彼女のやらかしたことを片付けるのだ。
この言葉のない気遣いを、アンバーはいつもばつ悪そうに笑いながら、受け入れていた。
祖父が騎士団を去るあの日まで、アンバーは祖父が担ってきた「責任」を知らなかった。


キャラクターストーリー2
アンバーの祖父は璃月港から来た傭兵の首領で、大陸を跨るキャラバン隊の護衛を担当していた。ある運搬任務で、キャラバンが巨大な魔物に襲われ、彼一人だけが西風騎士団の医師に助けられた。
故郷に戻る顔がないと思ったアンバーの祖父は恩返しのため、そのまま西風騎士団に加入した。
彼は騎士団のために偵察騎士小隊を作り、自ら騎士たちを訓練し、引率していった。
やがて、彼はこの土地で最愛の人と出会い、自分の家庭を作った。
時が経ち、幼いアンバーは偵察騎士を訓練する祖父の姿を眺めていた。朝になると木に登って、騎士たちの訓練を見て、夕方になるとこっそりと見たことを庭で復習する。
もちろん、アンバーの祖父はそれを知っており、自分の経験やコツを好奇心旺盛な賢い孫娘に教えた。
「モンドが私を受け入れたから、わたしはこの土地を守ることにした。いつか、お前も責任を背負う日が来る…かもしれないな」
頭をなでる祖父の手のぬくもりを感じながら、彼女は力強く頷いた。


キャラクターストーリー3
4年前の出来事をきっかけに、アンバーは大きく変わった。
あの日、彼女の祖父は騎士紋章と剣を騎士団に残し、何も言わずに去っていった。手紙も何もなかった。
元々、祖父に頼りっきりだった偵察騎士小隊は、支柱を失い散り散りとなった。
収穫のない任務を数回経た後、偵察騎士の存在感はますます薄くなった。小隊の制度は保てていたが、実際はすでに壊滅的な状況であった。
経験豊富な騎士たちは別の隊に異動するか、騎士を辞めて家に帰った。「偵察騎士小隊」のメンバーはどんどん少なくなり、日常の見回り任務もこなせなくなった。
更に悪いことに、去った祖父を「反逆者」だと考える人がいた。それにより、偵察騎士の評判はますます下がった。
当時、偵察騎士になったばかりのアンバーは、小隊の崩壊を目の当たりにし、初めて落胆と悔しさを味わった。早く一人前になりたい、本物の偵察騎士になりたいと彼女は願った。
きちんとした計画も、熟練の技もないが、彼女には自信と勇気がある。
彼女は偵察騎士を受け継ぎ、祖父の行き先を調べたいと思った。
そして何より大切なのは、祖父の責任を受け継ぎ、この土地を守ることだった。


キャラクターストーリー4
アンバーの騎士団での生活は、最初からうまくいっていたわけではなかった。
幼い上、祖父が行方不明になったばかりのアンバーは、よくベテラン騎士たちの世話になった。
しかし、この強がりな少女にとって「世話される」ことは、自分がまだ半人前だということを意味する。
こうして、少女は自分自身に与えた責任を背負い、先輩たちに見守られる中、真剣に職務を行った。
やがて、ある魔物殲滅の戦闘で、先輩たちはアンバーの勇敢さと機敏さを目の当たりにした。
彼らはその時初めて、目の前の「少し腕の立つ女の子」が成長したことに気づいた。
しかし、沈黙や気遣い、そして皮肉に対し、アンバーの返事はいつも同じだ――
「先輩たちと比べてまだまだ経験が足りないけど、わたしは最も優秀な偵察騎士になるから!」
落ち込みも迷いもなく、彼女は自分の思いを素直に、率直に話した。
彼女は祖父の願いを絶対に裏切らないと、強く誓っていた。


キャラクターストーリー5
今のアンバーは依然、炎のような少女であり、果てしない情熱とパワーが燃え盛っている。
守られていた子供時代から成長し、祖父の教えを胸に、アンバーは今日も風に乗り、鷹のような鋭い目とウサギのような機敏さでモンドの自由を守っている。
「炎のような赤い騎士」は、モンドの誰もが知っている。
人々はあのやんちゃなアンバーが、頼れる守護者になることを喜んで見守っている。
「心配しないで、わたしは偵察騎士アンバーよ!」彼女の誇りは揺らがない。
「わたしは唯一で、一番優秀な偵察騎士アンバー!」


アンバーの冒険ノート
アンバーは、毎日日記を書く習慣がない。特別なことがあった日だけがこの冒険日記の出番である。
「今日は魔鳥を捕まえた!名前はラミなんだっけ。ここ3日はずっと追っていたから、今日はやっとちゃんとご飯を食べるようになったよ。魔鳥はずるいよ、茂る森に隠れていたの。でもわたしは諦めなかった!それとジンさんはご褒美として特別にわたしに一枚の羽根をくれたの!これからは毎日腰につけるんだ、へへっ!」
「レシピ通りに6分焼いたのに、なんで表面が焦げたんだろう、でも中身は火が通ってない…火加減のコントロールに失敗しちゃったわけ?でもお腹が空いたから、明日もう一度やってみよう。いつか世界一美味しい焼き肉を作ってみせる!よし、決めた!名前は、偵察騎士ステーキ!」
「今日は変な異邦人と出会った。最初は怪しい人だと思ったが、意外とすごくて頼もしい人だった。えっと…でももしそのようなすごい人が悪い人だった*困るね。あっ、ダメダメ、負けてたまるか!わたしも頑張らないと!!」


神の目
祖父の跡を継げば、祖父がモンドを離れた真相にたどり着けるとアンバーは信じていた。
だが、正式な偵察騎士になっても、彼女は祖父が別れを告げずにモンドを離れた真相を、明かすことができなかった。
祖父がアンバーに残したものはなかった。アンバーは自ら道を切り開くしかなかった。
あの日まで、アンバーは迷っていた。彼女が、その後自分の宝物となる寓話の本を開く日まで。
「大事なのは、強き風ではなく勇気だ。それが君たちをこの世界で初めて飛ぶ鳥にした」
アンバーは気づいた。誰かの導きを待つのではなく、自分が勇気を持つ鳥になり、空へ羽ばたくべきだと。
「わたししかやらない」ことがきっとある。「わたしにしかできない」こともきっとある。
そのことを悟った瞬間、「神の目」がアンバーの腰に現れ、光を放った。

アーロイ

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キャラクターストーリー1
アーロイは生まれた時から異端者だ。部族から拒絶され、敬遠されていた。
彼女は、部族に隣接する危険な山の中で、経験豊富な狩人であるロストの手によって育てられた。
ロストは彼女に猫のようなフォームと致命的な精度を持つ狩りの方法を教えた。しかし、彼は最も重要なこと、つまり彼女の出身を伝えることが出来なかったのだ。彼女の両親はいったい誰なのか?なぜ彼女は追い出されたのか?
残念ながら、その理由は彼女を追放した部族の族長にしか分からない。


キャラクターストーリー2
アーロイの両親を知るには、一つだけ方法があった。それは部族に年に一度開かれる狩猟大会「試練」で優勝することだ。優勝者は自由に報酬を要求することができる。
この日のために、物心ついた時から一生懸命練習してきたが、いざ本番になると、その儀式は悲劇に終わってしまう。
謎の刺客が参加者であるハンターたちを襲撃した。そしてロストの犠牲によって、アーロイは脱出することができたのだ。
その後、アーロイは自分が真の標的であることを知る。何故ならアーロイは、謎めいた古代から訪れし女性と、そっくりな顔をしていたからだ。


キャラクターストーリー3
アーロイは理解していた。自分の出身を知るためには、その犯人を見つけなければならないということを。
探し求めた結果、彼女は想像をはるかに超えた荒々しく危険な世界に入り込み、奇妙で強力な部族、謎めいた古代遺跡、恐ろしい敵が彼女の前に現れたーーそれは人間か、それとも機械なのか。
最後に彼女の前に現れたのは、真の敵「ハデス」だった。それは悪意に満ちた人工知能で、世界からすべての生命を浄化しようとするものだった。
「ハデス」を倒す方法はただ一つ。それは彼女とあの古代の女性との繋がりを調べること。過去に存在していたアーロイ…それは、アーロイの母親だったのだろうか?


キャラクターストーリー4
「ハデス」の痕跡をたどり、アーロイは数々の古代遺跡を訪れ、ついに自分の起源を発見した。そして自分は人間の血肉から生まれたのではなく、クローンで作られたものだという衝撃的な事実を知った。
千年前に命を救った女性の遺伝子が、彼女のオリジナルだった。
このような秘密は、彼女に生来の力を与えるだけでなく、彼女の運命を導くものでもあった。これらの遺伝物質は、終末の日が再び来るのを防ぐための要なのだ。
この知識と、各部族からの盟友の助けを得たアーロイは「メリディアン」での壮大な決闘で、「ハデス」とその悪党や機械の手下を倒した。


キャラクターストーリー5
「ハデス」を倒したアーロイは、「ハデス」が踏みにじった土地の浄化を目的として、そして古代の技術を追求する新たな旅に出た。
その長い旅の中で、アーロイは「古のもの」の秘密を求めてあらゆる「古の遺跡」を訪れた。
崩れかけた古代の研究所で、彼女は見たことのないものを発見する。それは、きらめくポータルだ。それに近づくと強力なエネルギーに包まれ、その中に鏡を覗き込むように自分の姿が見え、同時に二つの次元にいるような不思議な感覚に襲われた。
閃光とともに、アーロイが知っていた「世界」は完全に消え、彼女は奇妙な美しき新世界にいることに気づいたのだ。

夜蘭

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キャラクターストーリー1
璃月港の薬屋には、時折珍しいケガ人が訪れる。
ある時はスメールの傭兵、ある時はフォンテーヌの冒険者、またある時は不注意で水に落ち、岩に頭をぶつけたと言うモンドの釣り人…
これらの人々は年齢も身分も異なり、それぞれ遠く離れた場所から来るが、みな―——痛みを求める少しばかり変わった癖を持っているらしい。
彼らは、あざを押したときの痛みや、傷口に薬草を塗るときの痛みを好む。
中には、強い痛みを伴う治療においても、麻酔の有無を気にしない者までいる。
新人薬剤師の多くは、その負傷者たちの並外れた忍耐力に注意を引かれ、それらの者たちがみな同一人物であるということに気づかない。
そう、上述した人物たちはすべて、変装後の夜蘭なのである。優れた変装の技で、彼女は常に人目を忍ぶ。
体に出来た傷は当然ながら、相次ぐ危険な行動によるものだ。
珍しい仕事をしているが、夜蘭はこの世界にさほど興味がない。
もちろん常人のように食事も睡眠も取るが、彼女が心の底から興味を惹かれるような物事はほとんどないのだ。
立ち回りが上手いのは人をからかうためではないし、書物を広く読むのも、本が好きだからというわけではない。
様々な場所を渡り歩き、数々の国へ行ったことがあるが、遠出や旅そのものに興味はない。
夜蘭からすれば、成し遂げなければならない物事は、趣味とは言えないのだ。
そのせいか時折、どんな暇つぶしをするかさえもサイコロで決めることがある。
彼女はまるで、辛いものに舌が慣れ、普通の食事では舌鼓を打てなくなった辛党のようだ。
「平淡すなわち無頓着、激烈すなわち明晰」
そのような理念のもと、彼女はより厳しい生活を選び、身を潜めつつ各地を旅している。
危険、秘密、そして強烈な達成感…それらと行動を共にして、初めて彼女は自身の存在を深く実感できるのだ。


キャラクターストーリー2
すべての仮面を脱いだ裏にある夜蘭の正体は、天権凝光直属の特別情報官だ。
ただし、単に情報官と称するのは、些か正確さに欠けるかもしれない。なぜならこれはあくまでも彼女の仕事を描写するだけの言葉であり、彼女と天権の関係性までは表せないからだ。
夜蘭は自分が誰かの部下であるとは心底思っていない。彼女と凝光の協力関係は、上下関係と言うよりは交渉…あるいは、ある種の「契約」と言ったほうが正しいだろう。
夜蘭は凝光のために、危険の花に実る情報という果実をもたらすことができる。しかし彼女がその見返りに求めるものは、危険そのものと達成感だけだ。
この協力関係がいかにして結ばれたのか、知る者はいない。
唯一確かなことは、夜蘭の足跡がとっくに璃月の外にまで及んでいるということ。
テイワット大陸にある他の国から、さらには危険に満ちたアビスまで…
謎深き危険な洞窟はすべて、満開の蘭の花園になり得る。
天星が語る場所には、常に幽客が巡遊しているのだ。


キャラクターストーリー3
夜蘭はしばしば層岩巨淵一帯を巡廻し、最深部の暗闇を凝視する。
彼女は古い家系の生まれで、祖先はかつてこの地の巨大な災厄に抗った。
その一戦では無数の民の血が流れ、さらには仙衆夜叉でさえ、その地に骨を埋めたほどだった。苦しい戦いの後、生存していた者はほとんどいない。
二人いた夜蘭の祖先も、一人は亡くなり、生き残ったもう一人も精神に異常をきたしてしまった。このことが、夜蘭の一族に影を落としたのだ。
当時何が起こったのか、夜蘭はずっと知りたがっていた。近づいてはならないと理性が告げていても、体はしきりに引き寄せられていく。
まるで体を流れる血の中で、得体の知れない何かが彼女を巨淵へ誘っているかのようだった。
あるいはいつか、彼女もその暗闇に堕ちるのだろうか?当時祖先の身に纏わりついた災厄は、彼女の身にも降りかかるのだろうか。
おそらく、これが自分の奇怪な性格の原因だろうと夜蘭は思う。血筋に潜む未知なるものが、自分に恐怖を感じさせず、また危険を渇望するのだろう。
彼女はずっとそう考えていた…成年に達し、層岩巨淵の封印が解除されるあの日まで。
そのとき、多くの仲間の助けにより、祖先に何が起こったのかが目の前にはっきりと映し出された。
あれは、分水嶺とも言える瞬間だった――
以前の彼女は、ただ危険に引き寄せられる本能から暗闇に足を踏み入れる獣であった。
彼女が真にその本能の意味を知ったのは、その後だ。
彼女の血に潜み、絶えず彼女を呼び続け、憂慮をもたらしながらも、彼女を導いたもの。
その正体は、五百年もの長きに渡って叫び続けた英雄の血であったのだ。
恐れないのは、その勇気が彼女を強くするが故。危険を渇望するのは、英雄の血が平凡を望まないが故。
いつの日か、彼女は祖先と同じ道を歩むのだろう。
彼女は英雄の末裔であり、彼女もまた、後世の英雄となるのだから。


キャラクターストーリー4
総務司には、特別重視名簿というものがある。
掲載されている人物の数は多くないが、いずれも実力の侮れない強者だ――
比類なき威容を誇る武装船隊の長、優秀で万能な異郷の旅人。
さらには、世を退いてもなお名声高き、仙人の名までが含まれている…
これらの者はみな、たとえその意図がなくとも、簡単に璃月の情勢を変えられる力を持っている。
そのため万が一に備えて、総務司は今でも彼らに目を光らせているのだ。
また、この名簿とは別に、より機密レベルの高い秘密情報名簿というものも存在している。
その名簿に載っている人物こそ、正真正銘璃月に危険をもたらす可能性のある者たちだ。
一体、どのような名前が載っているのだろうか?
ファデュイの執行官?あるいは謎深きアビスの勢力?
あるいは、神の名さえも登録されているのだろうか?
七星以外でこの質問に答えられるのは、おそらく夜蘭だけだろう。なぜなら彼女こそが、この二つの名簿の編集をしている者だからだ。
この仕事の成果は彼女に愉悦感をもたらしてくれる。まるで鴉が毎日キラキラの宝物を巣に運ぶかのように、彼女は日々名簿の完成に向けて動く。
だが、この二つの収集癖には違いがある。鴉は翼をはためかせるだけで収集を達成できるが、夜蘭は収集のコストとして、血と汗を支払わねばならないのだ。
しかし幸い、このことにおいて彼女はまったくコストを気にしていない。どれだけの代価を払おうと、情報の価値とは比べ物にならないと考えているからだ。
いつの日か必ず、役に立つときが来る――璃月が五百年前のように、危険に対して無知なまま、災厄のさなかに堕とされることはもう決してないだろう。
彼女がいる限り、璃月が準備不足に陥ることはない。


キャラクターストーリー5
岩上茶室で賽を振ってはならない。
どうしても遊びたいのなら、知り合いと一緒に行ったほうがいいだろう。
もしも見知らぬ女性から誘いを受けた場合は、絶対に無視するように。
これは、界隈の者からの忠告だ。
良い一日に別れを告げたいのでなければ、その恐ろしい女性と勝負してはならない。
その茶室の常勝将軍こそ、夜蘭のことである。岩上茶室の主――これが彼女のもう一つの身分だ。
彼女が異国から戻ってきたとき、ちょうど璃月は渦の魔神がもたらした危機のさなかにあった。そしてその一件が過ぎた後、岩上茶室を占拠していたファデュイがすべて追放されたのだ。
この機に乗じて夜蘭は岩上茶室を引き継ぎ、そこを秘密の事務所に改造した。
理由は二つ。まず、茶室には様々な者が訪れ、格好の情報源となり得るから。もう一つは、たまには一息ついて常連のふりをしながら茶を飲み、賽遊びをするのも悪くないと考えたからだ。
危険の本質は変数にある。夜蘭からすれば、賽を振って遊ぶことも同じだ。
宴席ではジャンケンでさえもが小さな冒険となり、賭け事をすればスリルを味わうことができる。どんな些細な挑戦にも、彼女は決して飽きることがない。
一人の情報屋として、彼女は自身の腕に自信を持っている。相手の目から情報を読み取ることができるし、必要なときには軽く手首を振るだけで、ルール顔負けの目を好きに出せるのだ。
もしも勝負が引き分けになれば、それが意味することは一つ――相手がイカサマをしているということ。
道理を説くべきではない。岩上茶室に道理などなく、あの女は尚更持ち合わせていないのだから。
故におとなしく、「敗北」か「イカサマ」か、一つ選ぶといい。
どちらも選びたくない?ならば初めに戻るだけだ。
――岩上茶室で賽を振ってはならない。


幽奇なる腕輪と白き肩掛け
これまでの情報屋人生において、夜蘭には失敗と成功を兼ね備えた、記憶に残すべき特殊な経験がある。
失敗は、その任務において、「幽奇の腕輪」と呼ばれる先祖代々の腕輪を失くしてしまったこと。
腕輪には一族の術法が刻まれており、簡単な情報伝達に使うことができた。しかしこういった小型法器は二つを一組として使う必要があり、一つしか残っていない今ではただの飾りでしかない。
成功は、相手が彼女から何も得られなかったこと。その相手は、決して小者ではなかった。現ファデュイ執行官第九位――「富者」。
「富者」が密かに敷いた貿易ルートは夜蘭の侵入を受け、貨物は足止めされた。その上、最も貴重な品が腕輪の代償と称し夜蘭に奪われてしまった。
――古く、その毛皮から作られたコートに多大な価値を持つ魔獣がいた。しかしそれはかなり希少な品で、市場には存在しなかった。
魔獣の力は強大であり、数百年前に死を迎えたにも関わらず、未だ遺骨や残骸は腐ることなく、毛皮も香り立つようであった。
女皇へ贈るはずだったそれが、夜蘭に横取りされてしまったのだ。
それだけでなく、スネージナヤの人々が陛下のために心を込めて厳選した様式までもが、夜蘭によって否定されてしまった。
彼女は獣の皮を剥ぐと、璃月の苧麻と組み合わせ、新しく袖付きの肩掛けを自作した。
大きいとも小さいとも言える一連の事件は、二文字で表すことができる――得失。
何かを得て、失う。何かを失い、得る。それはまるで、夜蘭の人生のようだ。
しかし彼女はそんなことは気にもせず、ただそれを楽しんでいた。


神の目
夜蘭は元より単独行動をしていたわけではない。かつては彼女のそばにも、水魚の交わりと称せるような同僚がいた。
様々な理由から、夜蘭と共に暗闇の中へ潜入することを選んだ者たちが少なからずいたのだ。
しかし当時の夜蘭は、まだはっきりと見極められていなかった――詭計、囮、罠…彼女の得意とするこれらのことだけでは、すべてに対応できないかもしれないことを。
自制心の強い敵は囮に食いつかず、狡猾な敵は策謀にはまらず、驚異的な力を持つ敵は罠に落ちない。
その結果、彼らは代価を支払うことになったのだ。この道を選んだ彼ら自身が、とっくに覚悟を決めていたとはいえ…一人、また一人と同僚たちは少しずつ数を減らしていった。
そして、あるアビスの調査任務が終わるのを境に、ついに夜蘭の傍らには誰もいなくなってしまった。そこで彼女は進むのをやめ、長い間足を止めた。
ある日、凝光が直々に彼女の仮住まいである小屋を訪ねた。
「長いこと璃月港に戻ってきていないわね。きっと何かあったのでしょう?ここでやめても、理解に苦しみはしないわ。」
小屋の外に立つ凝光は、表情こそ安らかではなかったが、それでもいつも通りの口調で話をした。
「別に構わないわよ、私は使う者を疑わない。あなたはきっと、ここで道を探っているのだと信じているわ。退路も進路も、どちらも道よ。」
小屋は依然として静寂に包まれ、返事はない。随分と時間が経った頃、凝光は背後からの声を聞いた――
「お互い、間違いを犯していたのよ。私たちがしていることに、常人を巻き込むべきではなかった。」
「常人?」
凝光が思い耽ったと同時に、青い光が空中を突き破り、凝光の後ろで止まった。
極めて繊細に制御された矢は、瞬く間に珠玉のような水滴となって砕け散り、地面に降り注ぐ前にきらきらと輝く光の破片になった。
凝光が振り返ると、遠くからこちらへ近づく夜蘭の姿があった。彼女は手に弓を持ち、指先からは血が滴り落ちていた。
射手の十指に見える血は、全力を尽くし、日夜研鑽を積んだ証拠。
凝光には分かっていた。夜蘭の性格からして、きっと常人を越える挫折を味わい、常人を越える決断をしたが故に、再び武術の修行に励む道を選んだのだということを。
凝光に応えるかのように、夜蘭は遠くの山へ向かって弓を構えた。
放たれた矢はまるで白虹のように、そして飛翔する雷光のように、空を貫いた。その瞬間、山間の泉がせわしくうねり、まるで見えない力に呼び出されたかのように、いくつもの水の矢となって上空に舞い上がった。
何本もの矢が交差しながら空中で凝集し、夏の夜に降る驟雨のように、一瞬で水の幕を下ろした。
やがて空が晴れたとき、そこには蝶も虹もなく、ただ一筋の淡い光の柱が夜蘭の手に降り注いでいた。
凝光によると、その「神の目」はまるで――「これからは、この常人ではない夜蘭にすべてを任せよ」と告げていたようだったという。

ウェンティ

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キャラクターストーリー1
モンドに来てからまだ数ヶ月しか経っていない吟遊詩人ウェンティの収入は、同業者と比べて少ないほうだった。「仕事」の後、地面に置いた帽子の中のモラが十分に溜まると、彼は慌ただしくその場を離れる。そして、その目的地はモンドの酒場である。
しかし、ウェンティは見た目のせいでいつも未成年だと間違えられてしまい、ほぼ毎回酒を売ってもらえなかった。
初めて断られた時は、「前回モンドに来た時は、そういうルールはなかった」と文句を言ったが、ノンアルコールの飲み物しか出してくれないことに気付いた時、このままではいけないと彼は思った。
そして、ウェンティはライアーを弾きながら、コップをくわえて酒を飲むというパフォーマンスを思いついた。吟遊詩人の「仕事」をしている時、彼は観客に金を酒に替えてほしいとお願いする。彼の曲を気に入ったなら、酒場でいい酒を買って奢ってほしいと。
このパフォーマンスを始めてからは、ウェンティはモンドで水を得た魚のように、素敵な暮らしができるようになった。
唯一彼を悩ませたのは、猫が近くにいると、くしゃみが止まらなくなることだ。それがコップをくわえている時ともなれば、現場の状況は最悪だ。
そのため、ウェンティは、いつも猫のいない場所を「仕事」場に選ぶ。
しかし、なぜか彼は、猫にかなり好かれているようだ。


キャラクターストーリー2
風立ちの地の中心にある巨大なオークの木は、千年前にモンドを解放した英雄ヴァネッサが、高天に上った時に芽生えたものだそうだ。
ここ数ヶ月、木の下で休む人々は時折、風神バルバトスの物語を紡ぐ少年の歌声を聴くようになった。
神がまだいる他の国とは違い、モンドはバルバトスが去ってからかなりの時が経ち、残っているのは「七天神像」の姿だけだ。それでも、神の歴史は史書や聖典に書かれ、吟遊詩人たちに歌われる。
しかし、ウェンティが歌う「バルバトス」は、なぜか変わった冒険ばかりしていた。たとえば、氷の神の杖を盗み、代わりにヒルチャールの棒をその場に置くなど。
当然、風神を信奉する聖職者たちは、その詩に不満を抱くわけだが、問い詰められたウェンティの答えには、反省の色が少しも感じられない。
「どうしてそれが嘘だと分かるのかい?」
確かに、一番敬虔なシスターでも、バルバトスの千年前の出来事を全て知っているわけではない。不敵な笑みを見せたウェンティだけが、その歌の真偽を知っている――
うん、嘘だよ。酔っぱらって適当に歌っただけさ。


キャラクターストーリー3
今から約2600年前、魔神戦争はまだ続いており、世界は七神の統治下に置かれていなかった。
当時の「モンド」と呼ばれた都市は暴風に包まれ、鳥一羽も通さなかった。狂風は鳴り止まず、城内の土地と岩を水のように粉々にした。
高塔の上に君臨する風の君王は「竜巻の魔神」デカラビアン。狂風に吹かれ跪いている臣民を睥睨し、それ*光景を従順と捉えた彼は、満足していた。
当時のウェンティは、北境の大地で咆哮する千風のうちの一つであった。
後世に「バルバトス」と称される彼は、その時は魔でも神でもなく、風の中に流れる微小な元素精霊で、「小さな転機と希望をもたらす風」であった。
かつてのモンドで、ウェンティはある少年と出会った。少年はライアーが得意で、一番美しい詩を書くことを目標としていた。
「僕は、鳥が自由に空を飛ぶ姿が見たいな」
風の壁の中に生まれ、青空と鷹、緑の草原を見たことのない少年は言った。狂風の音は彼の声をほとんど覆い隠した。
「友よ、一緒に見に行かない?」


キャラクターストーリー4
風の城に生まれ、空を飛ぶ鳥を見たことがない少年のために、元素精霊ウェンティは鷹の羽根を集めた。
その後、モンドでは「自由」を追い求める戦争が勃発した。
ウェンティが持っていた羽根は、彼と共に反抗の戦いで孤高なる君王が死没するのを見届けた。
かつて、君王は臣民に苦しみのない温かい住処を提供した。死の直前までに、自分が臣民を愛するように、自分は臣民に愛されていると君王は思っていた。
勝利を手に入れたが、ウェンティがこの羽根を少年に渡せる日は来なかった。少年は抗争の中で、詩歌と青空、空を飛ぶ鳥、そして同じ風の壁の中に生まれた同士とのために、戦死してしまったから。
古い神の座が崩れ、新たな神が誕生した。風神バルバトスは、指先に流れる力を感じた。
この力の最初の使い道は、少年の身体を*姿を借り、自分の形を作ることだった。
――人の身体がないと、少年が大好きだったライアーをきちんと演奏できないからだ。
ライアーを奏で、神の風で氷雪を吹き散らし、山を一刀両断する。
新たなモンドを、自由の地にしよう、王のいない国にしよう。
そしていつか、とても素敵でロマン溢れる国になるはず…
「彼もきっとそんな場所で暮らしたいよね」
こうして、「新モンド」の幕が上がった。


キャラクターストーリー5
モンドの全てが、風神のお陰であるわけではない。
君のために、今ここで万物を讃える歌を奏でよう――
西風に感謝を、
春の花がこんなに美しく咲いている。

ヤマガラ、アヒル、ウサギ、それとイノシシ、
モンドが蘇り、万物が育つ。
夏はライオンが野原を歩み、
僕は褒めたいけど、歌詞が思いつかないな。
もっと汗を流して、冷えたお酒を飲んだほうがよくない?
こんなに暑いのは、ライオンの鬣が太陽に見えるから?

山の狭い道や峡谷は、歩いている酔っ払いのように見える。
どうせ東風は歩かずに飛ぶから問題ないさ。
果樹と同じぐらいの高さで飛び、
翼は収穫と果物の香りがついている。

北風は森で静かに眠っている。
本来なら、彼のそばには狼の群れがついているはずだ。
だが、彼らを見た者は誰もいない。何故かというと、狼の群れは冬が苦手だと北風は知ってるからだ。
自分の夢の中には、きっと温かい思いがあると風神も分かっている。

――四季が終わり、四風は吹き止まない
まあ、当然ながらこれは彼らのお陰じゃなくて、ほとんどこの僕のお陰だよ。
だって吟遊詩人がいないと、それを唄う人がいなくなるよね?


「風上の密約」
モンドができてから1600年後、今から1000年前、モンドの「自由」はかつてないほどのどん底までに落ちていた。
バルバトスは己が暴君にならないよう、モンドを去った。彼は想像もしなかった。自由を授かった人の中から「人」の暴君が生まれるとは。
貴族による残虐統治がモンドに蔓延り、貴族は民の声を無視し奴隷制度を導入した。
1600年後、風神は再び「自由の都」に戻った。神は奴隷の少女ヴァネッサの願いに応えた。神と少女は共に貴族による統治を転覆させた。
──以上のことは、現在の人なら皆知っているモンドの歴史である。
実は、この歴史の中に面白いエピソードがある。
闘争の中でモンドの民をまとめたのはヴァネッサであった。そして、貴族の兵士たちを寝返らせたのは「風上の密約」であった。
密約の内容は、売国の取引であった。
上層部の貴族は風を裏切り、モンドの全てを隣国の岩神に売り込んだ。
この密約の最後の部分に、神々にのみ印す事ができる神聖なる印があり、その名は「岩王帝君」とあった。
奴隷を虐げてきた兵士たちは、自分が異国の奴隷になることを想像するだけで恐れた。
戦火が貴族を呑み込むことは、当時の誰もが想像できなかった。数年後、歴史学者はあの密約は偽物であったことを発見する。
──実は、岩神にイタズラをしかけるために、ウェンティは密かに彼のサインを練習していたが、あの富と取引の神を欺くことはついにできなかった。
使い道がなかったとっておきの技を、数百年後にやっと披露できたのだ。
めでたしめでたし。


神の目
「俗世の七執政」は「神の目」に期待していない。彼らはすでに偉力を持っている。
だが、バルバトスは人間の世界が好きで、「ウェンティ」の姿でモンドを気ままに歩くのが好きだった。彼は神に選ばれた者に倣って「神の目」に似ているガラスの珠を作った。
模造品の珠に特別な力はなく、元素力を導き出すこともできない。
だが、天空のライアーはそばになく、またウェンティはわざわざ普通のライアーを腰につけたくないから、ガラスの珠を「フリューリング」に変化する能力を追加した。

雲菫

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キャラクターストーリー1
璃月人には、先祖から代々受け継がれる伝統芸能が数多くある。璃月劇もその一つだ。
長い歴史を持つ璃月劇は今日に至るまで受け継がれ、現代の役者たちにも歌われている。しかし、最初とは形が大きく変わってしまっているようだ。
それでも、古い璃月劇に見られる複雑な声楽と抑揚に富んだ曲調は、現代の璃月劇にも受け継がれている。
今の璃月役者は劇団で公演することが多い。その中でも一番名が知られているのが「雲翰社」だ。
「雲翰社」は劇を生業とする一族・雲家によって代々受け継がれ、現座長はいま璃月港でもっとも名を馳せている看板役者――雲菫。
雲菫は、幼い頃からその頭角を現している。初舞台で雲菫が響かせたその甘美で澄んだ歌声と、婉美な姿に観客は心を奪われた。
演じる役が増えていくにつれ、彼女の迫真とした、躍動感ある演技も成熟していったという。
艶やかな令嬢、義理堅い女傑、どのような役も彼女は特徴を捉え、見事に演じ分ける。
さらに特筆すべきなのは、彼女が劇の脚本も手がける点だ。『神女劈観』以外にも、「雲翰社」がここ数年で上演した新作は、その大半が雲菫の書いたものである。
なお、雲菫のファンが彼女の劇を鑑賞したくなった時、まず最初に和裕茶館へ公演時間を聞きに行くそうだ。


キャラクターストーリー2
雲菫は璃月劇を演じる一族の出身である。
彼女の母は祖父の跡を継ぎ、昔は璃月港で名の馳せた看板役者だった。そして、父は脚本家である。
このような家系に生まれた雲菫は、幼い頃から両親の影響を受け、母を真似して璃月劇を口ずさむのが好きだった。
普通、子供の頃の趣味を一生の仕事にするのは難しいことだろう。だが、雲菫は例外だ。
幼い雲菫が抱いていた璃月劇への熱意は、ただの遊び心から来るものではなく、自ら両親に指導を懇願するほどのものであった。
娘の積極的な姿に歓喜した両親は、懇切丁寧に指導したという。そうして、幼い雲菫は芝居を習い始めた。
しかし、璃月劇は細部にまでこだわった劇である。本格的に学ぼうとしても、一朝一夕で出来るものではない。
たとえ、雲菫のように聡い子供であっても、芝居の苦しい修行から逃れることは不可能だ。普通の子供であれば柔軟の痛みや、韻書を暗記する退屈な作業に耐えられないだろう。しかし、幼い雲菫はそれらに耐え、見事にこなしていった。
彼女が一人前になった時、「雲翰社」で雲菫の成長を見守ってきた年配の役者たちは、「これから、璃月港にとんでもない役者が誕生するよ。」と言葉を漏らしたという。


キャラクターストーリー3
「雲翰社」には年配の役者が大勢いる。彼らは雲菫の祖父が座長であった頃から、この劇団の一員だった。
雲菫が祖父から「雲翰社」を継いだ後も、彼らは誠意を尽くし、雲菫が劇団を経営するのを手伝っている。
彼らは心から芸術を愛している。しかし、その愛が深すぎるゆえか、彼らにとって璃月劇以外の音楽――例えばロックなどは異質なものであった。
一方、雲菫はそのように思ってはいない。彼女はロックが持つ絶大な力を気に入っている。さらに、彼女はロックミュージシャンの辛炎とも友人になった。
芝居の稽古中、年配の役者たちは雲菫の指示に喜んで従う。だが日常生活では、若い雲菫のことを孫娘のように思っているようだ。
「よしよし、ワシの言うことをちゃんと聞くんじゃよ。辛いものは喉に悪いから、食べてはならん。肉を食べるのはいいが、食べ過ぎては太ってしまう。気をつけるんじゃぞ。」
「何か食べたい時は、エビをたくさん食べるといい。あの、なんといったか…ロック?なんてものは聞いちゃいかん。大声で叫んだりするようなものが、いいものなわけがない。」
雲菫がロックのライブから帰るたび、彼女は小言を聞かされる。
頑固なお年寄りを説得するのは難しいことだ。そのため、雲菫は小言を聞かなくても済むように、言い訳を考えることにした。
辛炎のライブを聞くのは許されないが、範二の養女「星燕」と一緒に璃月劇の話をするのは問題ないようだ。
お年寄りたちはロックを歌う辛炎を好いてはいないが、範二家の星燕にはいい印象を抱いている。
「星燕という娘は、刺繡も料理もできるそうだ。きっと礼儀正しく優雅な子なんじゃろう。この子と親睦を深めたら雲菫の勉強にもなる。うむ、いいことじゃ。」
雲菫は、これを言い訳の口実に利用している。すでに範二とも相談して口裏を合わせているため、この小さな嘘がバレる心配はない。


キャラクターストーリー4
雲菫に様々な呼び名があるのは知っているだろうか。雲座頭と呼ばれたり、雲先生と呼ばれたり、人によって呼び方が変わるのだ。
彼女が雲座頭と呼ばれるのは、雲菫が「雲翰社」の座長だからである。細かなことはマネージャーが処理しているが、重要なことを決めるのは雲菫だ。そのため、商業界では雲菫を雲座頭と呼ぶ者が多い。
一方、雲先生という呼び名には、ある逸話が隠されている。
雲菫の祖父が「雲翰社」を管理していた頃、劇の愛好家たちは彼を尊敬し、雲先生と呼んでいた。そして、雲菫が劇団を受け継いだ後も、その愛好家たちは彼女の劇をよく観に行った。
ある愛好家が雲菫の役者としての実力を見て、公演後に「今の『雲先生』の芝居も悪くないね。」と言った。
すると、人混みの中から反論の声がすぐに上がった――「若い女性にも、先生と呼ばれる資格があるのか?」と。
その話は雲菫の耳にも入った。彼女は微笑みながらこう話したという。
「人より先に生まれた者であれば、年の功があり、見聞も広いことでしょう。先生と呼ばれるのも当然なことです。」
「しかし見聞の広い者が、必ずしも年配の方というわけではありません。それに、女性では見識を備えることができないのでしょうか?」
「あなたは率直に意見を言うお方だ。それに、若い女性がこのような質問に、真摯に答えてくれた。あなたは先生と呼ぶにふさわしい人だと私は思います。」
その場にいた者たちは感銘を受け、この話をよく人に語る。そしてついには、雲菫本人に会ったことがない者も、彼女のことを雲先生と呼ぶようになったのだ。


キャラクターストーリー5
伝統ある璃月劇でよく題材とされるのが、仙人や岩王帝君に関する物語だ。
『神女劈観』などの劇がそれにあたる。人々は仙人に対して、美しい幻想を抱いており、舞台上で仙人たちがどのように表情を変化させるのかを観て楽しんでいる。そのため、璃月劇の大半を占めるのが、こういった物語だ。
子供の頃、これら物語が雲菫の心の琴線に触れた。しかし、仙人の物語をすべて演じきった後、彼女の考えは徐々に変わっていった。
他の題材に変えてみたらどうなるのか?例えば…私たちの物語を演じたら…。
俗世の哀歓を描き、人が持つ愛憎を讃える。
このような凡人の物語は璃月劇の主流ではないが、歌われる価値がないというわけではない。
愛執、貪欲、妄念。人間は美しさ、あるいは悲壮な気持ちの中で心を確立し、魂を味わうもの。
雲菫は仙人ではないため、仙人の立場に身を置いて彼らを理解することはできない。しかし、人の様々な感情ならよく知っている。
「それでは、人自身の物語を歌いましょう。私の筆と喉で、人々の心を歌いたいと思います。」
それは、誰にも言ったことのない、雲菫の心に秘めた夢だ。


長命錠
雲家は元々劇を生業としていたわけではない。かつては武器の鍛造に専念していた一族だ。
だが、先祖の一人が槍や棍を造る意欲をなくし、劇に興味を持つようになった。雲菫の代では、もう鉄を打つ人間はこの家にいない。
しかし、先祖はいくつかの物を残してくれた。雲菫が身につけている錠の形をした銅の飾りもその一つだ。
幼い頃、彼女が身のこなしに関する稽古をしていた時、炎天下で一日中立っていなければならないことがよくあった。だが、その酷な環境と疲労感から、彼女は気を失ってしまった。
両親は雲菫を可愛がっているが、基礎的な稽古を疎かにしてはいけないということも理解している。
そこで、この錠を雲菫の服につけることにした。これで雲菫の運勢を縛り、健康に過ごせるよう祈ったのだ。
大きくなっても、雲菫はこの錠を肌身離さず持っている。公演が始まる前、あのつらくも幸せな日々を思い出そうと、彼女はいつも錠を手に取り丁寧に磨く。
その時の雲菫の優しい表情は、まるで芝居を習っていた頃の幼い自分が抱く、真摯な心を撫でているかのように見える。


神の目
雲菫が舞台に立って間もない頃、大小合わせて数十回の公演を通じて、芝居の要領をその聡い頭ですぐに理解した。
雲菫が舞台に上がれば、必ず観客からの喝采を浴びる。しかし、歌えば歌うほど、これは自分が求める劇ではないと彼女は思うようになった。
舞台上で演技する時、対立が激しくなれば高い声を張り上げ、形勢が不利になれば声を低くしてゆっくりと吟じる。
時が経つにつれ、雲菫には劇の登場人物がすべて似通った顔を持つように見えてきた。
旋律を奏で、優雅に舞い、美しい声を響かせれば、『神女劈観』の神女も『連心珠』の漁家の娘も、そこに大きな違いはない。
観客はそれで心が満たされるかもしれないが、雲菫はそれに満足していなかった。歌唱力と綺麗な身のこなしだけで、本当に人の心を動かす物語が演じられるのだろうか?
その壁を乗り越えるきっかけとなったのが、『歩雪』という劇であった。
それは、雪の中のつらい行脚を題材にした一人芝居である。雲菫が初めて『歩雪』を歌った時、劇と同じように空から細雪が降っていた。
雪の中で方向を見失い、途方に暮れた劇中の人物が嘆く。するといつの間にか、劇の中にある風雪が現実の風雪と重なり、雲菫も道に迷う旅人に姿を変えていた。
そう、まさにその感じである。彼女は自分自身であると同時に、これまで演じてきた何千もの人物でもある。
彼女は劇中の人物のように呼吸し、生活する必要があり、彼女の気持ちも劇中の人物の表情によって変わっていく。
この何千という人物が織り成す人生が、心ある世界を作り出していくのだ。これこそが、彼女が語りたい物語。
雲菫はその日、それを悟った後の自分がどうやって舞台を降りたのか覚えていない。ただ、舞台衣装を脱いだ時、袖の中に神の目があったことだけは覚えている。

エウルア

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キャラクターストーリー1
罪人ローレンス家の出身、旧貴族の末裔、同時にモンドでも指折りの剣術の達人。
罪深き血筋と高い剣術の腕を兼ね備えた人物、それがエウルアだ。
いつ反乱を起こすのか、何を奪われるのか…モンドの住民にとって、この遊撃小隊隊長は嵐の夜に揺れる波のように予想のつかない存在である。
ただ他人からそのように扱われることに対し、エウルアは無関心で冷淡。もし目の前で嫌疑をかけられれば、彼女はこのように返す――「いい度胸ね…この恨み、覚えておくわ。」
根深い恨みに苛まれる彼女は、いつも城外の任務を請け負っている。たまにモンド城内に戻って来ると、大剣を持ったまま西風騎士団本部へとまっすぐ向かう。
ある日、二人の新人衛兵がそんな彼女を見かけ、慌てふためいた。しかし止めることもできず、彼女がジン団長の執務室に入って行くのを黙って見届けてしまう。
ただ奇妙なことにいくら時間が経っても、執務室から戦いの気配は感じられなかった。
衛兵たちは心配し、騎兵隊長のガイアと図書館司書のリサに助けを求めた。
「あの遊撃隊長がまた勢いよく代理団長のところに?」
「あら、お茶会かしら?そういうことならわたくしも早く行かないと。」
リサは足早に執務室へ、ガイアは二人の衛兵を外に連れ出し笑いながら説明した。
「ジンには人を見る目がある。お前たちもそれは知っているだろう。俺たち西風騎士団が見るのは、出自よりも能力だ。だからジンはわざわざ時間を作って、遊撃小隊隊長と剣術を切磋琢磨し合っている。それは騎士団のためであり、過去の怨念のためだ。賢いと思わないか?」
「は、はぁ…そういうことでしたか…」「お茶とは、切磋琢磨という意味だったんですね…」
このようなことが、ほぼ毎月起こる。しかし、怨念を終わらすために剣術を磨き合っている割には、音が全くしてないのは一体どういうことであろうか?


キャラクターストーリー2
実際のところ、エウルアに危険人物らしき雰囲気はない。そのイメージは先入観のせいであり、むしろエウルアは弱者の立場にあると考えてもいい。
たとえば、商店は彼女に物を売らず、飲食店であれば彼女の注文を雑に扱う。さらには、勤務担当エリアの住民が協力を拒否することもある。そのため、エウルアは仕事中よく壁にぶつかる。
その影響から揉めごとに発展した場合、エウルアは強気にこう言い返す――「この恨み覚えておくわ、いつか必ず返すから。」と。不思議なことに、この言葉はまるで魔法の呪文のようで、それを言うと揉めごとがその場でぴたりと止む。
そんな言葉を口にするエウルアだが、実際にモンドの人々を傷つけたことなど一度もなく、彼女は常に規則を遵守している。彼女の態度は冷淡に見えるものの、その言動や立ち振る舞いは真っすぐとしたものなのである。
彼女の普段の行いから文句をつける理由を見失った人々は、次第に恐怖心が薄れていった。彼女の「恨みを覚える」という発言は、自然と「そこまで」という警告の言葉となったのだ。
西風騎士団を滅ぼすかもしれないエウルア、スパイかもしれないエウルア…騎士団の新入りにとって、そんな彼女は厄介な人物である。
新兵がジン団長の伝言を伝えようとエウルアを探しに行くと、冷たい一言を返されるのだ――「モンドの罪人の末裔を働かせるなんて、君たちもまだまだ努力が足りないわね。」
厳しい口調でそう返すも、彼女は全ての任務を完璧にこなしてくる。そして、伝言を伝えた新兵も彼女の実力を認めざるを得なくなる。彼女は飛ぶ鳥を落とすような勢いで昇進していき、数年で「遊撃小隊」の隊長となった。
冷たく無愛想な波花騎士、騎士団と敵対関係にある旧貴族、付き合いにくい悪人…果たして、どれが本当の彼女なのだろうか?
伝言を伝えた帰り道、新兵は遊撃小隊エウルアの振る舞いを真剣に振り返ってみた。
彼女が他人に目をやる時、優しくて心強い表情になるのはなぜなのか?これほど真面目な人ならば、頼りにしてもいいのではないか、と新兵は考えるのであった。


キャラクターストーリー3
モンドは自由と喜びに満ちた都。ここでは罪人の末裔でも友人を作ることができる。
エウルアと民衆の間には、頼れる橋渡し役がいる、それが偵察騎士アンバーだ。
人に好かれるアンバーといる時、店主は通常価格でエウルアに物を売ってくれる。店主の機嫌が良い時は、アンバーとの雑談が長引いてしまうこともあるが、隣にいるエウルアは社交的な振る舞いを見せる。
お人好しのアンバーはエウルアとよく一緒に出かけ、必要があれば代わりに日用品などを彼女の家に届ける。
また遊撃隊長が積み上げてきた数々の功績は、アンバーが皆に伝えたものだ。民衆がその功績を耳にすると、誰もが驚きを隠せないといった表情をする。
週末の早朝、アンバーは木箱を積み上げて作った講壇の上で、エウルアの新たな功績を伝える――「先日、西風騎士団の遊撃小隊隊長がドーンマンポートで一人の女性を救出しました。そして調査の結果、港に潜伏していたアビス教団を発見し、一網打尽にしたんです。救出した女性は璃月でも有名な法律家で、後日騎士団は璃月の和記庁から感謝の手紙を…」
歴史がもたらす偏見を変えたのはアンバーの努力のおかげかもしれない、もしくはエウルア自身の騎士としての行いがモンド人の長年抱いていた恐怖心を晴らしたのだろう。ここ数年、民衆のほとんどは彼女に対し敵意を持たなくなった。騎士団のメンバーも、彼女の活躍を目の当たりにし感嘆を漏らす。
エウルアが率いる「遊撃小隊」の隊員達も彼女の味方であり、強き後ろ盾となってモンドを守っている。
これらの変化を一番嬉しく思っているのはアンバーだ。なにせ、エウルアが騎士団に入るずっと前から二人は知り合いなのである。祖父の弟子であったエウルアを、アンバーは心の底から信頼している。


キャラクターストーリー4
普段は冷たく鋭いエウルア、そんな彼女だが優れた料理の腕前を持っている。
遊撃小隊の隊員が「騎士団で最高の兵糧」と自慢するほどだ。彼らの懐には常に月の形をしたパイが入っている。この携帯食は絶妙な味をしており、食べた者は皆必ず絶賛する。
小隊の専属料理人がこの携帯食を開発する際、エウルアの作ったデザートを参考にし、長時間焼くことでパイの歯ごたえを高めたそうだ。元のレシピにあった長期保存に向かない材料を変更することで、コストを下げると同時に保存期間を延ばしたという。
これほど手を加えられていてもパイの味は美味しい。遊撃小隊の隊員はそれを食べながらふと思った――隊長が作ったオリジナルのパイは、どれほど美味しいのだろうか?
それほどまでの腕を持つに至った理由は、図書館の古い本の中に記されている――遥か昔に没落したローレンス家だが、今も支配階級に戻ることを望んでいる。その偉大なる時を迎えるため、跡継ぎとなる子供には異常とも呼べるような厳しい英才教育を施してきた。
「貴族の義務」とは、あらゆる面で完璧でなくてはならない。所作、礼儀、学問だけでなく、そこには料理や家事も含まれる*ている。
ローレンス家ではこのように考えられてきた――「解放後のモンドは礼儀と品位に欠けている。我ら一族がいずれ権力を取り戻しても、適任となる召使いを見つけられないかもしれない。俗世の泥沼にはまらぬよう、注意せねば。」
ローレンス家に仕える料理の先生は非常に厳しい人物である。生地を作る際、小麦粉を小さじ半分間違えたり、塩が多すぎたり、焼き上げのタイミングが二秒遅れたりしただけで、叱責と罰を招くおそれがある。エウルアにとって、他人から羨ましがられるような料理の腕も、古いしきたりに従っただけの無駄な結果に過ぎない。
彼女に認められた…いや、彼女に「恨みを持たれ、世話を焼くも素直になれず、いつも近くをうろうろとしている者」のみが、彼女の手作り料理を味わうことができるだろう。


キャラクターストーリー5
伝統的な礼儀作法の他に、旧貴族が「第二の魂」として尊重するものが芸術である。
祭礼の舞――名門貴族が自身の高貴さを誇示する儀式はまさにその魂の結晶、権力の頂点に位置する最も輝かしい宝石だ。
民衆の間で伝わる話によれば、旧貴族が力でモンドを統治する前、大貴族たちがこの祭礼の舞を作ったという。
ローレンス家を表す第三幕「輝きの燭光」は、祭礼の舞の中でも一番重要な部分だ。舞人は地位の高い者が担うことになっており、通常は一族の長女が務める。
舞を完璧なものとするため、ローレンス家は一流の踊り手を教師として雇ってきた。つま先から体の端々へと流れる血は栄光の証、舞人は誇りを胸に踊る。
この古き伝統は長い年月を経てもなお脈絡と受け継がれ、ローレンス家が民衆から追放されて久しい今日まで守られてきた。
しかし、華麗な舞を踊るのに相応しい盛大な饗宴と優雅な舞台を失った今、かつてほど「祭礼の舞」は高貴なものではなくなった。舞に対する要求も次第に低くなり、教師の指導も厳しいものから緩いものになっていった。ローレンス家は己が無力をついに痛感した、こうして舞の練習は時間が余った時にのみ行うものとし、必修科目から外されることになる。
時が経つにつれて、この舞が背負ってきた悪しき色彩は薄れ、そして今は美しい舞のみが残った。
辛く苦しい他の鍛錬と比べ、舞の練習はローレンス家長女のエウルアにとって唯一息抜きができた時間だ。
今のエウルアは芸術とは無縁に見える。他の人が見ても、「波花騎士」と舞を結び付けるのは難しいだろう。
だが舞が持つ独特な芸術、言葉では表現しきれない律動の美しさは、エウルアの剣術に引き継がれている。
大剣を振るう優雅な姿は、まるで月の光のように穢れなく、遠く手の届かない存在だ。


「堅氷」と「波花」
エウルアはローレンス家の家紋「堅氷の印」を所持している。これは一族の武力を象徴する至高の証であり、モンド開拓時代初期、まだローレンス家が没落していなかった時の意志を表したものでもある――この印は高潔で炎を恐れず、冷静で揺るぎないことを意味した。
過去千年の間、「堅氷の印」を受け継ぐ試練を通過した者はごく僅かである。この家紋は一族の希望と共に継承されてきた。
エウルアが試練を受けたのはまだ幼い頃のこと。だが、彼女はいとも容易く試練を突破し、「堅氷の印」を授かった。この誇りを背負い彼女は一族の屋敷を離れ、家族との連絡を最小限に留めるようになった。
彼女の氷の剣は、まさにその実力を表している。吹雪のように冷たく、あらゆるものを足止めさせる。
冷たく透き通った、氷のように輝く彼女。しかし、彼女の称号は氷のイメージとはほど遠い「波花騎士」。人々がこの称号を聞けば、水元素の使い手だと勘違いするだろう。
この称号の由来は彼女の戦い方が関係している。
エウルアは精巧な骨笛を持っており、それを吹くことでまるで本物の波が打ち寄せるかのような音が辺りに響き渡るのだ。
彼女が率いる小隊の勤務エリアは海岸の隣。そのため波の音は戦略の幅を広げ、敵の判断をかく乱させることができた。さらに知力の低い魔物であれば津波と誤認させ、四方に散り散りにさせることも可能にした。
このような技術を用いて、エウルアは少数で多数の敵を制してきた。他に類を見ないこの戦術こそが、「波花騎士」の称号を賜った所以である。また、エウルアが波を選んだのには、彼女なりの理由も存在する。
「波花」よりも「堅氷騎士」の方が彼女のイメージとして想像しやすいだろう。
それでも、冷たく堅苦しい堅氷より、踊る波花の方が彼女は好きなのだ…
波であれば珊瑚や砂浜を優しく抱きしめることができる。
厳しく鎖で束縛するのではなく、自由に打ち寄せる波こそが彼女の憧れなのである。


神の目
「恨み」の根底には何があるのか。
悲惨な境遇?それとも不幸な出来事?
「復讐」で何を成せるのか。
正しき地位を取り戻す?それとも憎き相手に苦痛を与える?
一族の栄光を取り戻し、民衆の畏敬を勝ち取り、再び支配者として頂点に君臨する…しかし、エウルアの胸の内では、そんなこと全てどうでもよかった。
彼女は過去の屈辱を直接受けたわけではない、むしろ一族の重圧の方が彼女を苦しめていた。枷を取り除こうにも、人々に認められるのは決して容易いことではない。
恨みと復讐、それは彼女にとってただの惰性であり、争いを避ける合図と盾に過ぎなかった。
特殊な身分と立場を持つ自分は批判の言葉をどう無視し、どのような価値観を重視すべきなのか…
どう戦えば、重く苦しい血統と決着をつけられるのか…
様々な悩みを心に抱えながら、彼女は世に忘れられた年老いた偵察騎士に弟子入りした。そこで広い心と堅実であることがいかに大切かを学んだ。
恨みや復讐よりも、家族や他人よりも、まずは「自分自身」を見つけなければならないことを学んだ。
「自分」らしい生き方、「自分」を守るすべ、「自分」の目標…
恨みや復讐を口にしてきた彼女だが、その根の善良さと打たれ強さは本物だ。
エウルアだけの優しい復讐の道。彼女がその道を見出した瞬間、神の目が静かに現れた。

煙緋

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キャラクターストーリー1
璃月港で引く手数多の法律家、相談料も抜きん出ている。
それでも彼女を予約する人は後を絶たない。商人は調停に掛かる費用を気にしない、しかし誰が調停人になるかは気にするのだ。
「金は多く使っても構わないが、煙緋に頼まないと気が済まない。」と商人は皆口を揃えて言う。
大多数の人間が煙緋に抱く評価は頭の回転が速く、口達者。また、法律の基盤である「公平」を重んじている点を挙げる。
彼女が調停に入ると、そのほとんどが円満に解決する。敵対していた商人たちも大人しくなり、敵意を収める。
岩神と契約を結んでいない彼女だが、璃月の平和に大きく貢献しているのは間違いない。


キャラクターストーリー2
優れた法律家である煙緋にも、苦手な分野がある。それが「民事訴訟」と言った情や家族愛の絡んだ感情的な内容のものだ。
例えば離婚の際の財産分与、子供の親権、高齢者の扶養、家族との縁切り問題…等々。
家庭のいざこざを処理するのは難しことだ。幼い頃から愛されてきた煙緋からすれば、なおさらである。また、彼女がこの分野に関する知識が乏しいのも事実。
過去の調停を振り返ると、双方とも筋が通っていると感じるときも、双方とも間違っていると感じるときもあった。親権の問題になると、どのように調停しても罪のない子供を傷つけてしまう。結果、無理して調停を成し遂げ、煙緋はくたくたに疲れ果ててしまうのだ。
「みんな相性がいい人と結ばれてほしい、こんなにもつらい事はもううんざりだ。」


キャラクターストーリー3
璃月で煙緋の顔が広い理由は、彼女の器の大きさが関係している。
彼女と会話する時、逆鱗に触れる可能性は一切心配しなくていい。話し上手であろうとなかろうと、彼女は全ての人と楽しく会話できる。
もちろん、彼女と討論をしないことと、彼女の前で法律を語らないことが大前提ではあるが。彼女が「仕事モード」に切り替わると、別人と感じるほど雰囲気が変わる。
また、長年法律を研究してきたせいか、煙緋は「細かくて厳しい」。たとえ雑談であろうとも、話の中の矛盾と誤りをなくすため細かな説明が入り、話が長くなりがちになるのだ。このようなしゃべり方が相手を不快にさせていると気づいた時には、反省して本の角で自分の頭をたたく。
しかし、法律関連の著書に大量の時間を費やす彼女にとって、この習慣を直すのは至難の業だろう。


キャラクターストーリー4
法律の研究をする時、煙緋は条文を通してその背後に隠された意図を読み解く習慣を持っている。
この影響から、人付き合いにおいて相手を理解することに煙緋は長けている。
例えばある日、旅人が煙緋と偶然出会った時、旅人は「ここで会えるなんて思わなかった」と挨拶をした。
本来、どこでも聞くような挨拶だが、煙緋は全く異なる意味を見出す。
「ここで会えるなんて思わなかった」ということは、旅人は彼女と会うことを「思った」ことがあると推測できる。それなら「思わなかった」はどのように解釈すればいいのか?つまり、煙緋が現れるところに対して、旅人は「大まかな予想」があったと推理できる。そして、実際はその予想が裏切られた。しかし、旅人の予想はどこから来たものなのか?旅人が煙緋のことを常に「注目」していた可能性は?
「もしかして、ずっと私に興味を持っていたの…?」
その日の夜、煙緋は何度も寝返りを打ち、眠ることができなかった。


キャラクターストーリー5
煙緋が最も大切にしている物は、父親から譲り受けた竿秤。
一説によると、この竿秤は帝君から頂いた宝物で、全ての物の価値を計ることができるという。煙緋はモラを分銅代わりに、すなわちモラで物の価値を量るようにしている。
もちろん時が経つにつれて、物の価値も変化し続けている。だが、竿秤はモラが生み出された当時の価値しか量ることができない。残りの部分は己の知識で判断する他なかった。
色んなものを計っていくうちに、煙緋は璃月の遷移を身をもって感じた。千年前にごく一般的だったものが、今では千金にも値するものになっている。
また、多くの物は俗世の価値観では測れないということを竿秤から教わった。
煙緋は「神の目」の価値を計ったこともある。しかし、どんなにモラを積んでも、竿秤は平衡にならなかった。
苛立ちを覚えた煙緋は、常に腰に提げている手写しの法典が入った箱を載せた。するとなんと、竿秤は水平になったのだ。


最後の法典
煙緋が集めている数多くの法典の中で、最も特殊な一冊。
数多とある分厚くて煩雑な法律書に比べると、この本は驚くほど薄くて軽い。
読んでみると、序言以外は基本的な法律理論が何条か書かれているだけだと気づくだろう。
煙緋からすれば、もしかしたらこれこそが法律の最終形態なのかもしれない。遥か遠い未来では、法律が人々の心に刻み込まれており、誰もが友好的で、謙虚で、楽しく暮らしている世になっているかもしれない。法廷の外はガラガラ、山のように重ねられた法典も歳月の埃に埋もれているそんな世に。
長い長い時が必要になるだろうが、仙獣の血が流れる煙緋であれば、そのような時代まで生きることはそう難しくないだろう。
「でもよく考えてみると、その時は仕事を失っているのでは…」
未来の自分は何をすればいいのだろうか?
ある日、偶然辛炎のロックコンサートを拝見した彼女は、その場で新しい様式の芸術の虜となった。
しかし、ゼロから楽器を学び始めるのは困難なこと。そのため、煙緋は様々な資料を研究し代案を考えた。
――もし本当にその日が来たら、ラッパーになるのがいいかもしれないと。
一時間以内に何万字もの璃月の法律を完璧に暗唱できる彼女は、少なくとも「早口」の面ではすでに達人の域に達している。


神の目
煙緋の父親は仙獣で、母親は普通の商人である。平和な時代に生まれた煙緋は、岩王帝君と契約を結んでいないが、両親と「楽しく生きる」という約束をしている。
煙緋は璃月港の法律家の頂点に立つ者、必要とあらば法の抜け穴を突くこともある。それは自分のための場合もあれば、他人のための場合もある。
煙緋は規則を必ずしも遵守する性格ではない。彼女は規則に縛られることを嫌う。
彼女は自身の幸せを追求すると同時に、璃月を良くしたいと願っている。そのためには多少、法の目をかいくぐることもいとわない、しかし決して悪用はしない。
「天権」凝光が毎年法典を改定する際、煙緋のしたことを大量に参考する。煙緋は璃月に存在する法律の検査官みたいな存在なのかもしれない。
ある意味、煙緋は最小限の代価で、規則の改善に貢献している…これが法の抜け穴を突こうとも、彼女が罪に問われない理由の一つなのだろう。
「矩有らずして事為せず」を信望としているが、真に望むのは「心の欲する所に従えども、矩を踰えず」である。
煙緋は神の目を所有している。そしてその神の目は、彼女が信じている「規則」と等価である。

カ行

ガイア

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キャラクターストーリー1
面白いことに、この騎兵隊隊長と最も遭遇できる場所は、騎士団本部ではなく、夜の酒場だ。
ガイアはよく一人でカウンター席に座り、モンドで有名な混成酒「午後の死」を飲みながら、酒好きなモンドの住民たちと会話を楽しむ。
彼は、モンドの酒飲みと年寄りの間で特に人気があり、「安心して孫娘を託せる男」という称号すらある。
会話を楽しみながら、ゆっくりと酒を嗜む。これほど親しみやすい男を、西風騎士団の騎兵隊隊長と結びつけることは難しい。
ガイアの酒の相手は、すでにほろ酔い状態の狩人もいれば、酒好きな盗賊もいる。しかし警戒心がどれほど強い者でも、ガイアの前ではつい本音を漏らしてしまう。
その後が悪夢となるか、それともなんともない冗談で済むか、それは相手がうっかり話してしまった内容次第である。
「誰もが秘密を持っているが、皆がそれを正しく扱う方法を理解しているわけではない」
少し憎たらしい微笑みを浮かべながら、ガイアはそう言った。


キャラクターストーリー2
「正義は絶対的な原則ではなく、武力と策略のバランスによってできた結果だ。だからその過程で…あまり自分を追い詰めなくてもいいかと」
大団長ファルカの前で、ガイアはそう口にしたことがある。
結果が期待通りであれば、結末がどんな形であろうと、ガイアは気にしない。
その考えが、彼の型にはまらないやり方と、自由気ままな態度を作り上げた。まるで、刺激の強い「午後の死」のようである。
しかし、このような自分勝手なやり方は、多くの批判を招くものだった。
ある日、盗賊の首領を正面から討つため、ガイアは上古遺跡の守衛をわざと発動させ、敵の退路を断つことに成功した。しかし、それは同時に、自身と仲間を危険に晒すことになった。
こういう時、彼を信頼している代理団長ジンでさえも、頭を横に振るのだ。
しかし、ガイアはそんな事を少しも気にしていない。むしろ、他人に選択を迫られる状況を、楽しんでいるようにすら見える。
仲間が共に戦う時に見せた一瞬の迷いも、決死の戦いを前にした敵が恐怖を隠そうとする姿も、彼の大好物である。


キャラクターストーリー3
長い歴史を持つ醸造業はモンドに富を運び、そしてその富は盗賊と魔物を引き寄せた。
影に潜むそれらの根源は複雑で、集まる理由も様々である。モンドに侵入してくる盗賊と魔物に抵抗するため、ガイアは剣だけでなく、その頭脳とユーモアセンスをも駆使して敵を倒す。
ある若い騎士が、数年かけて観察し得た結果は、彼自身も信じられない内容だった──
名酒「午後の死」の出荷時期が過ぎると、城内外の襲撃報告は大幅に減る…
そしてそれは、次の「午後の死」が出荷されるとまた増える*始めるのだ。
若い騎士は緊張した顔つきで、報告書を情報整理に長けた騎兵隊長ガイアに見せ、彼からアドバイスをもらおうとした。
目の前の不安そうな騎士を見ながら、ガイアは怪しく微笑みながら答える。
「…いい考えだ、参考にさせてもらうぜ」


キャラクターストーリー4
普段のガイアはかなり饒舌な人だが、自身の過去に関することになると、口を固く閉ざしてしまう。
たとえそれが、大団長の命令であっても、彼は詳しく話そうとせず、当たり障りのない言葉で、自分の身の上を説明した。
「あれは十数年前、ある夏の日の午後。俺は父に連れられ、アカツキワイナリーの前を通りかかった」
「『ブドウジュースを買ってくる』そう言ったのを覚えている。しかし父は行ったきり、二度と帰ってこなかった」
「クリプス様が助けてくれなかったら、あの嵐の夜に、俺はもう死んでいたかもな」
理にかなった説明に聞こえるが、それは真実を隠すための嘘だ。
あの午後にあった本当の出来事を、ガイアは誰にも教えたことがない──
「これはお前のチャンスだ。お前は我々の最後の希望だ」
父親が彼の薄い肩を強く掴んでいる。
その目は、彼を通り抜け遥か遠い先を見ていた。
地平線の果てに、親子の故郷カーンルイアがある。
ガイアは、あの憎しみと期待が混ざった眼差しを忘れることはない。


キャラクターストーリー5
数年前、モンドにいた一際目を引く二人の少年を、今でも多くの住民が覚えている。
一人目は完璧な紳士、ディルック。在りし日の彼は、剣を執る優雅な剣士で、優しい笑顔と自信に溢れる姿が印象的だった。
もう一人は異国の風貌を持つ庶務長ガイア。あの時の彼はディルックの友人、協力者、そして「頭脳」であり、ディルックの戦いの後始末をしていた。
彼らは、まるで心が通じ合う双子のように、表と裏からモンドを守り、一度も失敗したことがなかった。
…あの暗い日までは。ディルックが護衛をしていた馬車隊が、森で魔物の襲撃を受けたのだ。
あれは、ガイアにとって初めてで唯一の失敗だった。
彼は急いで現場に向かったが、到着した時はもう何もかもが終わっていた。
彼とディルックの「父親」は、正体不明の力を操って魔物を撃退したが、その力の反動により命を落とした。
ガイアもディルックも目の前の光景に呆然とし、騎士が持つべき冷静さを失っていた。
「クリプス様のような人でも、危険な力に手を出すとはな。」\*悪い考えが頭をよぎり、ガイアは微笑んだ──
「この世界は、本当…面白い」
共通の「父親」を失った夜、二人の少年は別々の道を歩き始めた。


ある名簿
騎士団の公文書に書かれた名前のリストが、『アンゲロス探偵集』に挟まれている。
リストにはモンド内や郊外の盗賊、傭兵と宝盗団の中高層人物の名前及び、その活動範囲や個人情報が記載されている。
そのうちの十数人の名前が丸で囲まれており、隣に「退屈すぎるとまずいから」と書かれていた。
このリストに対しガイアは「酔っ払って適当に書いたのだ」とコメントした。
ガイアが、わざとこのリストを見せてくれた気がしてならないと思うが、その証拠はどこにもないのだ。


神の目
ガイア・アルベリヒが「神の目」を手に入れたあの夜、モンドの空から大雨が降っていた。
この日の午後、クリプス・ラグヴィンドが無理やり邪な力を使用し、結局「邪眼」のフラッシュバックに襲われた。父を苦しみから解放しようと、ディルック・ラグヴィンドは自らの手で父にとどめを刺した。
養子であるガイアは隣で見ていただけであった。養子の彼は親子の惨劇に溶け込めなかった。
あの夜、クリプスを弔うようにモンドの空から大雨が降っていた。
ガイアには人に知られていない一面がある──彼はカーンルイアがモンドに送り込んだスパイであった。この使命を果たすために、生みの父はガイアを異国に見捨てた。当時のガイアを引き取ったのはクリプスとモンドであった。
カーンルイアとモンドが戦争になったら、どっちにつく?自分を見捨てた生みの父と自分を引き取ってくれた養父、どっちを助ける?
長い間、ガイアはこの答えのない問題で苦しんでいた。本音を言わない彼にとって、忠誠と使命、真心と幸福は同時に手に入れない。
だがクリプスの死がこのバランスを崩した。苦しみから解放されたと同時にガイアは自分の利己的な気持ちを恥と思った。養子であった彼はクリプスを救うべきであったが、彼は間に合わなかった。義兄弟として彼はディルックと共に苦しみを分かち合うはずであったのに、彼はただ後ろに隠れて古い陰謀を考えていた。
罪悪感に追われて、ガイアはディルックの部屋のドアを叩いた。土砂降りの雨が嘘の匂いを洗い流し、ガイアの秘密は暴かれた。
ディルックが憤るのをガイアはもう予想した。兄弟二人が剣を抜き相手に向けた。嘘つきの報いだと、ガイアは心に思っていた。
だが戦いが始まると、ガイアは初めて身体中に迸る凄まじい元素力を感じた。今までディルックの影響で彼はずっと自分の実力を隠していた。全力を出して自分の兄と向き合ったのは今回で初めてであった。
冷たくて、脆い元素の力が剣先を経由しディルックの炎へと。赤と青の力がぶつかり、凄まじい嵐を形成した。そしてガイアの「神の目」はこの時に誕生した。
あの日から、ガイアと彼の義兄弟の間に少し変化が起こった。だが彼は一切口にしない、自分の「神の目」の由来を教えないように。
たとえそれが全力の一戦の記念、家族に本音を語った結果でも、ガイアはそれを自分への警告としか思っていない。そして嘘の重みを背負いながら生きていくと。

楓原万葉

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キャラクターストーリー1
璃月の「南十字」武装船隊は一年を通してほぼ海に出ているため、船員たちは皆、異国の地を目にすることに慣れている。それどころか、旗艦「死兆星」号には他国出身の船員もいるほどだ。
その船員は「死兆星」号が稲妻の港ーー離島に停泊した時に加わった。
船長の北斗はその若者と親交があり、彼がやって来るや否や「こいつはしばらく船に滞在する、みんな面倒を見てやってくれ。」と部下たちに告げた。
船員たちは、北斗の人を見る目を信じて疑わない。それに、その稲妻人は武芸に秀でており、さらに天候の移り変わりを見抜く力を持っていた、たとえ彼の素性がわからなくとも、彼が船に滞在することをみなは受け入れた。
しかし、隠されたことを知りたくなるのが人の性というもの。船員たちは彼の素性を知ろうと、様々な口実を作って過去を探った。
「稲妻で作られた刀っつうのは、切れ味が半端ねぇって聞いた。身分が高けれ高いほど業物を持てるらしいんだが…お前の刀はどうなんだ?やっぱり凄いのか?」
「……」
ただ、返ってくるのは沈黙だけ。
いくら探ろうとも答えが返ってくることはなく、船員たちは次第に諦めかけていた。
しかし数日後、重佐という一人の船員が放った何気ない文句に対し、意外にも言葉が返ってきた。
「おい稲妻の、名前を言わないんじゃ、どう呼べばいいかわからんだろ…」
船員はタコだらけの手で汗を拭いながら、愚痴をこぼすように言った。
「姓は楓原、名を万葉と申す。元は浪人であった。拙者を受け入れてくれたこと、誠に感謝いたす。万葉と呼んでくれて構わぬでござるよ。」


キャラクターストーリー2
万葉は平民の出身ではない、彼はかつての稲妻における良家――楓原家の末裔である。
数々の一族が名を連ねる稲妻城で、楓原家は強大な力を誇っていた。しかし、時代とは移ろいゆくもの。万葉が家督を継いだ時には、楓原家は廃れた荒山のようにすでに衰退していた。
当時の万葉では手の施しようもなく、借金で屋敷は差し押さえとなり、家来は散り散りとなってしまった。しかし、彼は逆に胸をなでおろしたという。これを機に浪人となり、世を渡り歩くのもいいと思ったからだ。
山や竹林、自然の中を巡ることは万葉の夢だった。彼は幼い頃から、自然の美しさと趣を心地良く思っていた。
万葉にとって、自然は静かなものではない。それらはいつも独特な言葉で心情を語っているのだ。
風が突如止み、すべてが静まり返る。即ち空が涙を落とす前の静けさ。澄んだ泉が跳ね上がり、地面が揺れる、即ち大地の怒りの表れ。
これらは自然が彼に授けた特別な感性である。万葉は生来、名声や誉を追い求めるような性格ではない。一族の負担が肩から下りたからこそ、気ままに旅へ出ようと、そのように考える人間だった。
こうして、中庭の落ち葉が風に乗って空へ舞うように、万葉は旅に出た。


キャラクターストーリー3
旅をするには、ある程度の技能が必要である。風の音を聞き、雲を眺めることは、万葉の十八番だった。
稲妻城を離れた後、万葉は各地を旅した。旅に出てからというもの、何もかもが一変した。天と地、山と海が彼の最も親しい住み家となり、雲の下を歩きながら風と水の音を聞くことで、身も心も癒されるようになっていった。
旅の途中で見聞きしたものは、旅をより一層新鮮で刺激あるものにした。そのような心境の中、万葉は南方のとある山を訪れた。
初夏、雨の多い季節、山道はぬかるんでいた。日が暮れていくのを見て、雨をしのげる場所を探していた万葉は、道の先に小さな小屋があるのを発見した。
旅の途中で偶然出会い、行動を共にしていた商人は、その小屋を見るなり興奮して甲高い声を上げた。「おい、見ろよ万葉!泊まれる場所があるぞ!」
しかし、万葉は黙っていた。しばらくして、万葉が口を開く。「拙者の意見を聞くのであれば、行かないことをお勧めするでござるよ。」
雨に濡れたくなかった商人は、万葉を置いて一人小屋へと駆け出す。
商人が戸を叩くと、中から美しい女性が現れ、彼を小屋の中へ招き入れた。香りのよいお茶、美味しい食事、暖かい布団、それらすべてを用意してくれた。
あまりの心地良さから、商人は食事をしている内に眠くなってしまい、そのまま眠りについたという。
目を覚ましたのは夜明けと同時だった。頭上にあったはずの屋根はどこかに消え、陽の光が直接顔に当たっていた。微笑みながら自分を見下ろす万葉が商人の視界に入る。
商人が口を開けて言葉を発しようとした瞬間、大量の木の葉と泥が口の中から吐き出された。暖かい布団などどこにもなく、あるのはぬかるんだ地面だけ。
「家屋のある場所では、風の音が他より小さくなるのでござる。しかし、あの小屋を前にしても、風はいつも通り吹いていた。拙者が思うに、おそらく化け狐による仕業だったのでござろう。…やはり旅をする時は、風の音に耳を傾け、目を見張ることが大切でござるな。」万葉は笑いながらそう言った。


キャラクターストーリー4
万葉は旅の中で数々の友と知り合ってきた。その中でも、ひと際強い絆で結ばれた者と、しばしの間行動を共にしていたことがある。
しかし、万葉とその友の目的地は異なっていた、旅の途中で二人は別々の道を行くことになる。
偶然の出会いではあったが、心の通ずる友であった。一度は別れたものの、またいつか会えるだろうと、万葉はそう思っていた。
だが、後に起きる出来事により、万葉のその思いは無残にも瓦解する――神の目を狩り尽くす「目狩り令」が将軍により下されたのだ。
万葉をはじめ、「神の目」を所有する者たちは皆、恐怖を感じた。彼らは身を隠しながら日々を過ごした。
そんなある日、万葉は耳を疑う話を聞くことになる。それは、ある人物が「御前試合」に挑もうとしているというものだった。そして、その人物とは万葉の友。
敗者は将軍によって罰せられるのが「御前試合」である。万葉の友は強者に勝つため、そして勇猛さとは何かを世に示すため、危険を顧みず御前試合に挑むことを決心したそうだ。
しかし今の時世、「御前試合」を仕掛けた本人が敗れれば、将軍の下す雷により命を落としてしまうかもしれない。
普段、冷静さを欠くことのない万葉でさえ、その時は動揺を隠せなかった。刀を持ち、天守閣へと乗り込む万葉。だが、時はすでに遅く…
刀は折れ、神の目は抜け殻となっていた。断腸の思いでその場を離れる万葉であったが、将軍に目を付けられ幕府のお尋ね者となる。
それ以降、万葉は幾度となく戦いに巻き込まれることとなり、生活は一変してしまう。
戦うことを恐れはしなかった、ただ延々と続く果てのない戦いに万葉は虚しさを覚えていた。
だが、彼は友を助けるため行動したことを決して後悔していない。自分を残し、勇猛な英雄として世を去った友を責めることもない。しかし…
「仁義を貫くためには、こうも他者と争わねばならぬのでござるか。」


キャラクターストーリー5
現在、万葉は「南十字」武装船隊の一員として、海上を旅している。
時に厄介事に見舞われることもあるが、「南十字」の船員たちのおかげでそれらも難なく解決ができている。
「死兆星」号の高い見張り台の上に座り、紺碧に染まる海と空を眺めながら、ようやく過去の日々を振り返る整理がついた。
刀を振り、自らの名誉を勝ち取る――武士たちは皆、そうした激動の生涯を望んでいる。
しかし、それらの中には欲望に駆られ「仁」や「義」を蔑ろにし、刀を使って果てのない憎しみに駆られる者も存在する。
世界は生きとし生けるものすべてに血肉を与え、神はその命を守ってきた。だがそれは決して、人々に刀で争わせるためではない。
己が持つべきは、人を殺す剣ではなく、人を活かす剣でなければならない。
武士の一生を懸け、そのただ一つの信条を守る、それが自らの歩む「道」。
そんなことを考えているうち、万葉は詩を書きたくなり、その言葉を座右の銘として残そうと思った。しかしその時、甲板から不満げな声が聞こえてくる。
「万葉、見張り台で空ばっか眺めてないで、降りて手を貸してくれ!」
操舵手の海龍が彼を呼んでいた、座右の銘についてはまたの機会に考えるとしよう。


神の目の抜け殻
あの大戦の中、「神の目」が一瞬光ったことに万葉自身も驚いた。
誰かの手を借り、再びこの「神の目」に光を灯したいと思ってはいたが、まさか最終的に自分の手で灯すことになるとは思ってもいなかったからだ。それはまるで、かつての友が後ろから支えてくれているかのような感覚だった。
「神の目」の抜け殻はそれ以外にも、万葉に様々な出会いをもたらした――
抵抗軍に迎え入れられ、姉君に救われ引き取られた。そして、噂の旅人にも出会うことができた…
この世に生きる以上、波乱に満ちた経験をすることもあるだろう。しかし、恵まれた出会いというものは確かに存在する。
山道のように勾配が厳しく、苦難に見舞われようとも、いつの日か雲の上へと至る時は必ず来る。それが人生というものなのだ。


神の目
早朝、霧のかかった崖とその小道、そこを万葉が一人歩いていた。
辺り一帯は静寂に包まれ、鳥の羽ばたきも虫の鳴き声もない。打ち付ける波ですら寝静まってしまったかのように、風の音だけが聞こえた。
その中で万葉は舌を出す、湿った重苦しい味を空気中に感じた。
雨が降る、そう万葉は悟った。
顔を上げ遠くを眺めると、視線の先に煙の立ち上る家屋がいくつか見えた。今夜はきっと宿にありつけるだろう。
万葉は家屋に辿り着くと、大雨が降ることをそこの家主に伝えた。最初は家主も半信半疑であったが、昼を過ぎたあたりから突如大雨が降り始める。
家主はこの旅人にいたく感心し、食事と寝床を提供してもてなした。
夜になり、窓の外は澄んだ空気で包まれていた。万葉は布団の上に寝そべり、雨が秋の葉を叩く音を聞きながら思いにふけっていた。
楓原家の財が底を突き、跡取りである万葉が旅に出てから、彼はいくつもの島を巡り、旅をする者の困難を数多と知ることになった。
稲妻の島々を行き来するには、本来海を渡る必要がある。しかし一人孤独に旅をする万葉は、自身の力のみで小舟を漕ぎ、ゆっくりと海の上を渡るしかない。向かい風や雷雨、数々の試練が旅を危険なものにしてきた…。
心が「空」であれば、天地万物すべてが「空」となり、心が「浄」であれば、天地万物すべてが「浄」となる。
手には刀、心には道、それさえあれば彼は何も恐れず、詩を吟じながら自身の道を歩んで行ける。
そうして気持ちを新たにした彼は、満ち足りたかのように深い眠りについた。
翌日、鳥のさえずりで目覚めると、万葉の腕の中には光り輝く神の目があった。

神里綾華

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キャラクターストーリー1
稲妻では、雷電将軍のところまで届かぬ事務は、そのほとんどが「評定所」によって処理される。
「評定所」の議事権利は三家に分かれており、三奉行と呼ばれている。すなわち――「社奉行」、「天領奉行」、「勘定奉行」である。
この3つの奉行権利を有する一族の名が、神里、九条、そして、柊。稲妻で知らない人などいないほど有名な御三家である。
そして神里綾華は、まさに社奉行神里家の令嬢、かの有名な「白鷺の姫君」だ。
なぜ彼女が白鷺の姫君と呼ばれているか、稲妻人はそれぞれ違った解釈を持っている――
「綾華さまは白鷺のように優雅で高貴な方です。見てください、あの澄んだ美しいお姿、知的で丁寧な言葉遣い。まさにお姫様ではないでしょうか?」
「綾華さまは、身分が高いとはいえ、私たちにも礼儀正しく、親身に接してくれるんです。彼女は優しくて寛大で、人々に手を貸すことを惜しみません。知ってますか?周りの反対を押し切って、庶民であるトーマさんを引き取ったのも彼女なんですよ。」
数々の意見があるが、「白鷺の姫君」の名の由来について、正確に言える者は誰もいない。
ただ、綾華が人々に慕われていることだけは、一目瞭然だろう。


キャラクターストーリー2
社奉行神里家の娘として、綾華は常に公家同士の権力争いに気を配らなければならない。
彼女は若くして天下に名を馳せた。そのため、時に、神里家兄妹に嫉妬する名門の子息たちに挑発されることもある。
公共へと向けた印象を作ることは、本来は形式主義である。だが神里家の場合は、その地位から、そのように無意味な慣習でも社会的な重要性を持っている。
稲妻の関係網に参加しなければ、社奉行の地位が揺らいでしまう。そのため、兄妹はあることに対して合意に達した。
兄の綾人は政務で忙しく、顔をあまり出さない。神里家の公共の場での印象は、上品で社交的な妹の綾華に任せている。
控えめでおしとやか、礼儀正しく優雅な綾華は、社交的な場での地位を確立している。潜在的な仕事相手との交渉も、気難しい貴族とのやり取りも、彼女は上手にこなし、非の打ち所がない。
また、お家の内部の事柄も、ほとんど綾華が管理している。彼女がいなければ、家はとっくに混乱に陥っているだろう。


キャラクターストーリー3
ある秋の午後。綾華が用事を済ませて家に帰る途中、偶然にも古い屋敷の中から年老いた歌声を聞いた。
屋内に住んでいたのは失明した老婦人だった。やせ細った指で弦をつま弾き、木製の琴から出る音はまるで水の流れのようだった。
耳が良かったからか、老人は足音に気付くと、門の外の人が誰なのか尋ねた。綾華は彼女に迷惑をかけたくないと思い、自分はただの迷子で、誤ってここに入ってしまった近所の住民だと告げた。
社奉行として、綾華は民をよく知っている。一目見てすぐ、この子供のいない老人が、よく晴れた日に路上で弾き語りをして稼いでいる人だと気付いた。
古くて時代遅れの曲、歌も然り。目が見えない老人は、すでに他人とは随分遅れている。永遠を追求する国にすら、このような苦労をして生きている人がいるのだ。
好意から、綾華は自身の身分を隠して老人と話をした。老人は彼女を普通の少女だと思い、琴の作り方や弾き方を教え、さらには自分が集めていた茶葉を分けた。
神里家に常備されている極上の茶葉と比べ、この粗茶は草の葉程度のものだろう。しかし綾華はそれを大事に受け取り、何度も老人に礼を言った。
この日、彼女は何度も両親のことを思い出していた。もしまだ両親が生きていたら、このように歳を取っていたのだろう。
家に帰った綾華はこのことを兄の綾人に告げ、老人から贈られた粗茶を二人で飲んだ。
その後、綾華は一定の期間ごとに老人に会いに行った。依然として付近の住民の名義で、彼女のために平民が愛用する生活必需品を贈っていた。
「町の緋櫻が咲きました。」綾華は微笑みながら老人に言う。「貴方の琴の音と同じように、美しく。」


キャラクターストーリー4
一般的な想像では、武家の生活は庶民とは桁違いのものだと思われているだろう。ならばきっと、高貴な神里綾華も、極めて贅沢な生活を送っているに違いない。
しかし、その考えは半分しか合っていない。
形から見れば、綾華の生活は確かに普通の民より凝っている。
普段は華道、茶道、名茶の試飲、珍しい花の鑑賞など、多くの費用がかかる。しかし、それは武家の令嬢として備えておくべきスキルであり、「放漫」というわけではない。
真に綾華を笑顔にすることができるのは、まさに庶民でも楽しめる普通のことだ。
お菓子を作ったり、池で金魚すくいで遊んだり、隠れて八重堂の最新小説を読んだり…どれも些細なことである。
そのような時の彼女は、人々に慕われる白鷺の姫君でも、神里家の屋敷を取り仕切る綾華さまでもなく、ただの「少女綾華」なのだ。
厳かなイメージを脇に置き、気ままに自身を表すこと。「少女綾華」として居る時だけ、重責を下ろすことができる。
深夜にお腹が空けば、使用人を避けながらこっそり厨房へ行き、歌を口ずさみながらお茶漬けを作る。茶道の授業の時、こっそりと茶葉の形で恋愛運を占う…などなど。
これまで誰にも言ったことはないが、綾華は自身が普通の少女でいる時間をとても大切にしている。なぜなら、このような自由な時間は滅多にないからである。


キャラクターストーリー5
様々な技能で綾華を指導している先生方は、みな、満足そうに言う――茶道、剣道、棋道、それらのいずれにおいても、綾華は完全に習得していると。
彼女は文武両道で、容姿端麗な武家の令嬢なのだ。そんな学生を指導できるのは、指導者としても嬉しいことに違いない。
しかし…本当に後悔はないのだろうか?綾華は静かにそのことについて考える。
茶の心、和敬清寂な正の心。
剣の心、鋭く勢いのある武の心。
棋の心、状況を判断する慧の心。
茶の心、剣の心、棋の心、すべて彼女の心である。それに加え、友人に対する真心も持っている。
綾華は彼女と同等に接し、肩を並べられる友人が現れることをずっと待っている。
その者は彼女を「社奉行」や「白鷺の姫君」とは見ず、礼儀や地位に制約されることもない。さらには数々の知識を知っていて、数々の物事を見てきた経験があり…時には、彼女に物語を聞かせるだろう。
そのような者こそ、彼女の親友になれるのだ。
「難しいことではないと思いますが…このようなお方は、いったいどこにいるのでしょうか?」


杜若丸
「あんたがたどこさ」
「稲妻さ、稲妻どこさ」
「神櫻さ、神櫻どこさ」
「影向さ」
「影向山には手まりがあってさ」
「それをみんなで遊んで取ってさ」
「見てさ、持ってさ、投げてさ」
「それを綾華ちゃんのもとへ」
これが幼少期の綾華が最も好きだった童謡である。
当時の彼女は最も気に入っていた手まりに「杜若丸」という名を付けていた。毎日色彩鮮やかな杜若丸を叩いて遊んでは、童謡を歌っていた。
綾華の歌声を聞くと、父と兄は思わず微笑む、彼女の遊びに参加する時もある。家族みんなで輪になり、順番に手まりを投げる。
しかしそれはすでに遠い昔のことだ。今の綾華はもう手まりで遊ぶことはない。
彼女は今や、一人前の大物だ。子供時代を象徴し、貴重な思い出が詰まった杜若丸も、綾華のたんすの中に仕舞われている。


神の目
何年も前、一族に大きな変化が起こり、兄の綾人に重責がのしかかった。その時、綾華はまだ今のように大人びておらず、能力もなかった。
彼女は元々、遊びが好きな子供であり、一族の責任などは知らず、様々な人物とやり取りをする技能も経験も不足していた。
しかし、病床の母と疲労した兄を見て、綾華は思ったのだ――一人前に成長しなければ。
そして彼女は、長い間やっていなかった剣術や詩と再び接した。これは武家としての基本的な教養であり、この二つを習得できれば、彼女はきちんとした神里家の令嬢として見なされ、兄の代わりに祭典などの場に出席することが可能になる。そうすれば、兄の負担も多少なりとも肩代わりできるだろう。
綾華は並外れた才能を持っているわけではない。かつては詩を覚えられず、字が綺麗に書けず、剣術も上手く繰り出せないことで悩んでいたほどだ。
しかし彼女が動揺したことは一度たりともない――一回で覚えられなければ五十回覚え、一回で上手く書けない字は五十回書き、一回で上手く繰り出せない剣術は五十回練習する。
「何千回も磨かれた素振りを止められる者はいない。」――それが、母が言った言葉であった。
母が亡くなってから、彼女は子供の綾華ではなくなった。今の彼女は、神里綾華。将軍の下にある三家の一つ、社奉行神里家の令嬢なのだ。
剣術の訓練はすでに日常生活の一環となっていて、始めた日から今まで、途切れたことはない。
何日目だろうか、綾華はついに敵を一撃で倒すことができるようになった。その瞬間、氷の花が道場内に咲き乱れ、道場の中心にいた彼女の刀の先には、氷のように明るい「神の目」がぶら下がっていた。
何千回も磨かれた素振りを止められる者はいない。それは、神さえ動かすことのできるものかもしれない。

神里綾人

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キャラクターストーリー1
稲妻名門の長男である神里綾人は、生まれた時から愛されて育ってきた。
両親は執務で忙しく、常にそばにいるわけではなかったが、それでも彼の面倒をよく見ていた。もちろん、日頃から「坊ちゃま」に色々と気を配ってくれた者も数多くいた。
年を重ねて少し大きくなると、綾人は父の求めに応じて、一族の「後継者」に足る能力を基準とし、複雑で難解な勉学に励んだ。
しかし、負担の大きな政務と一族復興の重圧から父は過労で重病を患い、不幸にも早くに逝去してしまう。
まだ年若かった綾人は、一族の地位が危機に瀕している中、権力争いの渦中へと身を投じることになったのである。
当時、まだ駆け出しであった若き青年に期待の目を向ける者など誰一人としていなかった。神里綾人は裕福な家で育った貴公子から、巷で噂される「神里家の可哀想な坊ちゃん」、そして政敵からは鼻で笑われる「見込みのない小僧」と呼ばれるようになった。
だが、その者たちの考えが間違いであったと、時間が証明することとなる。
当主の跡を継いだ神里綾人は、並々ならぬ大胆さと一流とも言える手腕によって、神里家の衰退をくい止め、一族の地位をより確固たるものにしたのだ。
手が回らなくなるほどの激務や悪意の潜んだ欺瞞、至る所に蔓延る詭謀…彼はそれらすべてを払いのけ、さらには自らに有利に働くよう利用した。
時が流れ、幕府と民から寄せられる社奉行神里家への声誉は、ますます高くなった。
今の神里綾人は紛うことなく、稲妻名門の筆頭格たる神里家の「当主」であり、要職に身を置く「社奉行様」だろう。


キャラクターストーリー2
社奉行は鳴神の祭祀を司り、また文化や娯楽活動の管理をしている。神に通じ、民衆と心を通わす、筆頭格に恥じぬ存在だ。
無論、携わる領域が広まれば、仕事の量が増えるのは必然のこと。
ただ幸いにも、妹の綾華が兄に代わって家業の大半を引き受け、社奉行と民の間でされる交流をほとんど担ってくれている。そのおかげで、綾人はより政務に専念できるようになった。
幕府の役人との交渉は簡単なものではない。所属する奉行、一族、立場、そのすべてが各々で異なっている。一つの事柄に対して関わる者が多ければ多いほど、それを遂行するのは困難になる。
綾人の強みは、それら事柄の対処に長けているところだ。彼からしてみれば、人の行動はすべて利益に準じたものであり、要所さえ押さえていれば、相手を妥協させることができるという。
標的に狙いを定め、相手を自分の理論に引き込む。そして建前を織り交ぜながら諭し、少しばかりの恩を売れば大方の問題は解決する。
もし仮に相手が考えを変えない頑固者であっても、より強い勢力を引き合いに出して制圧すればいい――どれだけ地位が高く、尊大に構えていようとも、天の威光を揺るがせる者などいない、そうは思わないだろうか?
教養があり、礼儀を知る神里家当主は、やがて幕府の中で高い名声を手に入れた。
「これは…なかなかに難題だな。社奉行様に聞いてみたらどうだ?」
人々は常々そう口にする。
ただ、数多の手段を持つ綾人ではあるが、いつでも手を差し伸べるというわけではない。
すべての事柄が社奉行と関わっているとは限らないからだ。その上、他の勢力の僅かな利益のために、神里家を巻き込むのは割に合わないだろう。
大半の場合、綾人が熱い茶を手に持ちながら微笑みを携え、相手を立てつつ話に付き合うだけに留まる。
「まあまあ、長岡様、そう腹を立てる必要はございません。皆さん将軍様のために動こうとしているのです。他意など誰も持ってはいません。腹の内を明かして話し合えば、必ずや共に解決できるでしょう。」


キャラクターストーリー3
その身分と仕事の制限から、神里綾人が人前に姿を見せることはあまりない。町中を出歩く時間も滅多に取れないほどだ。ただ、それら制限は彼の新しいものを追求することへの妨げにはならない。
――朝起きて剣の稽古をしていると、たまに八重堂の者が門の外からこちらの様子を伺っているのが見える。どうやら、また「報告の作業」に来たようだ。そんな時は気付かぬふりをして、彼女がどのような新しいサボり文句を口にするのか聞く。機会があれば、それを「さりげなく」八重宮司に伝えるのもいいかもしれない。
――天守閣へ足を運び、時代後れの頑固者たちと会合をする際、発言を急ぐ必要はない。いい歳をしながら顔を赤くし、些細な利権や利益で争っているのを見るのは、実に愉快だからだ。
――町の辺りまで来て、ふと独特の感性を持つ屋台があることを思い出す。新しい料理はないか、商売はうまくいっているかを店主に尋ね、新商品を試しに買って味見をする。それが興味深いものであれば、家の者にも少し持ち帰る。
――近ごろ花見坂一帯でよく見かける鬼族の青年は、虫相撲の腕があまり達者ではないようだ。親切心から少し励ましの言葉をかけてやり、彼を立ち直らせる。何気ない雑談の中で、この赤鬼が「綾人」という名が何を意味するのか知らないことに気付いた…だがそれでいい、改まって説明する必要などない。
――帰り道、鎮守の森を歩いていると、妖狸にいたずらされている通行人を偶然見かけたため、その幻を見破った。もしも今後、妖狸たちの変化の術がより熟練されることになったら、自分に感謝してほしいものだ。
――たとえトーマほど有能な者でも、夕食の献立が思い浮かばない日がある。そんな時には、鍋遊びを提案する絶好の機会だろう。綾華は毎回、予想だにしない食材を入れてくる。さすがは自分の妹。
これらすべてが、社奉行様の楽しみなのだ。


キャラクターストーリー4
執事と家司の尽力により、神里屋敷は内も外も整然としている。しかし、ただ一か所を除いて――
神里綾人が使用した後の文机は、いつも散らかっているのだ。
無造作に広げられ、そのまま伏せられた本。雑多に積み重ねられた大小様々な書類。使用後の硯と墨汁も片付けられておらず、文机の下には将棋の駒や紙札が散らばっていることもある。
当主様が執務を終えると、使用人たちは毎回、文机や書斎の片付けに時間を費やすことになるという。
その時、乱雑に置かれた紙の間に小さな便箋が挟まっているのをよく見かける。手に取ってそれを見てみると、便箋の筆跡はすべて異なり内容も様々。
「若、家来からまた新鮮な花が届きました。花瓶を置くために机の一角を少し片付けておいたので、また倒してしまわないようお気を付けください。」
「当主様、本日は鳴神大社の巫女がいらっしゃいました。宮司様からお願いがあるそうです。とても重要なことらしく、離島の一部地区の収用に関する内容のため、神社へとご足労いただきたいとのことでした。」
「奉行様、『百代』未だ枯れず。枝はまだ伸びております、ご安心を。」
「お兄様、この間、旅人さんと一緒にお祭りへ行き、新しい料理を覚えました。旅人さんが異国からいらしたことを考慮して、料理に手を加えるべきか迷っています…お兄様はどう思いますでしょうか?」
「当主様、使用人たちではこの件を口にする勇気がないようなので、この婆やからお伝えさせていただきます。食べたいものがあれば、どうぞ何なりと家司にお申し付けください。勝手に厨房の食材を使うのはどうかご遠慮いただきたく存じます…当主様に料理をさせるわけにはいきません。皆が困惑してしまいます。」
神里綾人は多忙なため、朝早くに出て、夜遅くに帰ることが多い。彼に会えない時、神里屋敷ではこのようにして彼と連絡を取っている。
これは綾人が考えた方法である。神里家ではこの小さな便箋が、屋敷全体を支えているのだ。
ただ残念なことに、この方法を使うと元より散らかっていた当主様の机が、さらに散らかることになる…しかし、気にすることはない。これは些細な犠牲に過ぎないのだから。


キャラクターストーリー5
稲妻では、とある柏木の葉を神に捧げて祈ることがある。
ただ、神を祀る儀式は稲妻に数多とあるため、規模の小さいものはよく見過ごされてしまう。
もう随分と昔のことだが、綾人には今も忘れられないことがある。それは母から聞いた話だ。その柏木は常緑の高木であり、葉は針状ではないらしい。葉は大きく、葉脈もとてもくっきりとしている。新たな葉が芽吹いても、古い葉が色褪せることはない。
そのため、それは「繁栄」を意味し、古くは食べ物を捧げる際の器としてよく使われていたそうだ。
現在では料理の盛り付けに葉を使うことはなくなったが、柏木の葉を捧げる習慣はそのまま残っている。
趣味の影響か、あるいは元より見聞が広く、知識が豊富だったからか、母はそれら祭礼のことになると淀みなく流れるように語る。
「神里家が代々社奉行を管理しているのは、生まれながらにして神を守る存在だからかもしれないわね。」
それに対して、幼い頃の綾人は完全に同意することができなかった。
神里家は神里家であり、家族のいる場所であると彼は考えていた。一族は家族がいてこそ存在するのであって、神に仕えることはただ流れに従って行う仕事に過ぎない。
しかし、このようなおこがましい考えを口になどできなかった。それに、興に乗って話をする母を遮るのはとても忍びない。
母がどんなに長く話しても、綾人は母の前に正座し、足が痺れても最後まで静かに聴いた。
歳月は流れ、綾人が成長すると、日々の時間を剣術と書物に費やした。「講師」は母親から父親に変わり、内容も祭礼の知識から一族の後継者に求められる必須科目へと変わった。
一族の責任という概念が、次第に綾人の生活における割合を占めていく。「雷電将軍」への認識も、もはや童心の中に浮かぶ幻想ではなく、正真正銘実在する神――稲妻の永遠と平和を守る大御所様となった。
「かつて、鳴神の恩恵を受けたことで、神里家は今日まで存続することができた。そのため何があろうとも、神里家は『永遠』の道を守護し、永久に将軍様に付き従う。」
「これは既に定まった約束であり、破ることの許されない一族の掟。しかと心に刻んでおきなさい。」
先祖の教えを読んでいた綾人は、その理由を既に少し理解していた。神里家の先祖が職務を疎かにした結果、国の重要な宝である「雷電五箇伝」に多大な損失を及ぼしてしまったのだ。八重宮司の進言によって将軍様の許しを得られていなければ、神里家は他の没落した有力者たちと共に消滅していただろう。
これは大御所様からの恩賜であり、神の眷属からの警告だった。
そのため、父の教誨に対して、神里綾人も当然それを踏み外すようなことはしていない。一族を守るという信念が何より大切であろうとも、彼は道理を弁えている――稲妻は雷神の守護により存続しており、稲妻の安定のみが、一族の長きに渡る繁栄を保証できる、と。
今後、稲妻の情勢がどのようになろうと、神里家だけは御建鳴神主尊に反旗を翻してはならない。
たとえ異議を心に秘めていようと、水面下深くにある暗い川の中に隠すのだ。
そう、かつて母が言っていたように――
神守の柏は古き枝をそのままに、新たな材へと生まれ変わる。
庭の椿は冬に呑まれることなく、澄んだ香りをかもし出さん。


夢見材筆箱
幼い頃にもっとも退屈であった習字の授業が、今や良い暇つぶしになるとは、神里綾人本人でさえ思っていなかっただろう。
昔、秀麗な字を書くために練習に励んだのは、神里家長男たる身分に相応しくあろうとするためであった。
しかし今、様々な詩歌を時折模写するのは、思考を整理して静かに考える時間を自分に与えるためになっている。
もちろん、それ以外にも理由はある。手の空いている時でもまるで政務に追われているかのように見せることで、面倒なことや会いたくない者を後回しにしているのだ。
やがて、彼の身の回りの世話をする使用人たちは、当主様は将棋以外にも書道を趣味にしていると思うようになった。
そして、この話は人づてに広まり、多くの人が知ることになる。慶事や誕生日が訪れると、綾人のもとには良質な筆が贈り物として届くようになった。しまいには、精巧で高価な羽毛筆を国外から仕入れ、奉行様に喜んでもらおうとする投機的な輩も多く現れる。
それに対し、綾人も特に説明をすることなく、精美な木箱を購入してそれら文具を収納した。
彼は元より目新しく珍しいものを好む。そのため、多種多様な新しい筆を試せるのは、実に愉悦を覚えることなのだ。
それに、様々な出自の贈り物には、贈り主に関する情報が含まれていることが多い。これら情報は綾人が彼らを掌握する手段の一つとなっている。
この筆箱は文具の収納のために買ったものだが、三つの特別な筆だけは未だその中に入れたことがない。
一つは作りが丁寧で、筆の持ち手は細く、社奉行の文机の上に直接置かれている。多少傷みはあるものの、書き心地はとても軽く滑らかであり、公文を書くのに使用している。
二つ目は、文机の一番下の引き出しにしまわれており、筆先が少し毛羽立っている。かつて愛用していたもので、子供の頃の習字の際に綾人が選んだものだ。初心者向けであるため、以前はよくトーマと綾華が借りていた。
三つ目は、骨董品が保管されているタンスの奥深くに隠されている。絹の袋に入っており、高級な素材と精巧な設計がなされたものだ。これは綾人が成人した日に、母から贈られたものである。


神の目
何年も前のある夜のこと。病気で寝たきりだった父が突然、綾人をそばに呼んだ。
その夜、病で疲弊していた今までと比べ、父の様子は少し違っていた。ただ、厳かな表情をしてはいるものの、彼の目に浮かんでいる心配の色は隠せていない。
どうにか気力を振り絞り、父は綾人に聞く――「今日の修行は終わらせたか?」「夕食はしっかりと食べたか?」「剣術の修行に進歩はあったか?」
綾人がそれに一つ一つ答えると、父は満足気に微笑みながら頷いた。しかし、すぐにまた顔に陰りが差す。何かを言いたいのに、言えずにいるようなそんな表情だった。
長い躊躇いの後、母の憂いに満ちた眼差しを受けて、父は重々しく口を開いた――
「綾人、これを…覚えておきなさい。この先、神里家がどのようになろうと、綾人は私たちの長男であり、綾華の兄であり、そして神里家の紛うことなき後継者だと。」
安心して休んでいただくよう父に伝えた後、綾人はゆっくり寝室へと向かった。
扉を開けてすぐ、光り輝く「神の目」が文机の上にあることに気付いた。
綾人は幼少の頃、「神の目」とは神の眼差しを象徴しており、人々の願いに応じて生まれるものだと聞いた。
何か大義があるわけではない。ただ、一族が末永く繁栄し、家族の安寧を守ることこそが、幼い頃より綾人の志すものである。
「神の目」がこの時分に現れたということは…彼が責任を担うべき日が来たということなのかもしれない。
そこまで考えを巡らせると、綾人は使用人に明かりを点けさせることなく、文机の前に正座した。
様々な事柄が、まるで渦潮のように彼の脳裏をよぎる――
父は重い病を患い、母も体調が芳しくない。一族には当主もおらず、政敵たちは神里家の地位と権力を狙っている。
妹はまだ幼く、心安らかな成長のためには己が身を賭して事に当たらねばならないだろう。幕府官界はまるで暗礁に囲まれた海域、何をするにも慎重でなくてはならない…
代々神里家に仕える「終末番」も当然見捨てることはできないだろう。神里家が衰退する中、周りにいる使用人にまだ信頼できる者がどれだけいるのか…
それから異郷出身のトーマについても。彼は友人であり頼りになる存在だが、低迷する神里家に対して本当に何も企てはしないだろうか…
乱雑に存在する事柄すべてが、綾人の脳内で整理されていく。その情報の渦の中心にあるのが、彼の変わらぬ信念だった――
未来のため、家族の安寧のため、使えるものは手段を問わずすべて使い、邪魔するものは一切の代価を惜しまず排除する。
その夜、室内には明かりが点くことなく、神の目だけが彼に付き添う唯一の照明となった。
黎明が訪れ、その日、最初の光が窓から文机に降り注いだ時、すべてを迎え入れる準備を終えた一族の若き長男がそこにはいた。

甘雨

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キャラクターストーリー1
甘雨は、七星のうち誰か一人の「専属秘書」というわけではなく、「璃月七星」全体の秘書である。
その温厚な見た目とは裏腹に、その内には盤石な意思が秘められている。
このことを、仙人たちを率いる岩王帝君はとうに見抜いていた。
遥か昔、「璃月七星」が初めて璃月に現れたとき、甘雨は初代七星の秘書を務めることになった。
それから璃月七星は幾度となく世代交代を繰り返すも、そのそばにはいつも甘雨がいた。
それはその長い年月の間、璃月各所の膨大な書類の処理を全て甘雨が担ってきたことを意味する。
彼女は仕事量が七倍、百倍、千倍になったとしても、微塵も責任感を減らすことなく、あの最初の日から変わらずに働いてきた。
かつて、何が甘雨をそうまでして突き動かすのか理由を探ろうとした者がいたが、その答えは明らかになることがなかったそうだ。
「私がしたことは、帝君の功績と比べたら…足元にも及びません」


キャラクターストーリー2
「私の仕事は、璃月に存在する数多の命に、最大の幸福を与えることです」
ほとんどの状況下において、甘雨は信頼に値する秘書である。
膨大ともいえるその仕事の数々を、彼女以上に上手く処理するものはいないだろう。さらに、彼女は璃月のあらゆる物事に対して、独特で鋭い視点を持ち合わせている。
ただ、甘雨が頼りになるのは「ほとんどの状況下」でのことであり、一部はそうではない。
肝心な場面であればあるほど、少しの失敗も許されないと力み、彼女は余計な緊張をしてしまうのだ。そして、その緊張のせいで失敗を犯す。
例えば、璃月の1年の中で最も重要な儀式のひとつである「七星迎仙儀式」でのことだ。
甘雨はある年の「七星迎仙儀式」に3分遅刻し、群衆が見つめる中、人混みをかき分けてやっと儀式の場に到着したことがあった。
その後、甘雨は顔を赤面させながら口ごもり、言い訳もせず、ただ心の中で「岩王帝君」に何千回と謝罪した。
仲のいい同僚は、この失態には何か裏があると考えた。
顔見知り程度の同僚たちは、帝君が特に気にしていないのを見て、それに倣うことにした。
プライベートでも付き合いのあるものは彼女を心配し、仕事量を調整するか、短期の休暇を取得するよう勧めたが甘雨は首を横に振った。
「今年の式典に来ていく衣装の飾りをどれにすべきか悩んでいたら、2時間も経っていました…」
ーーこのような理由を、甘雨は絶対に誰にも言わないだろう。


キャラクターストーリー3
千年はどれくらい長いのか?
それは荻花洲に咲き誇っていた瑠璃百合が洪水により絶滅するほど長く、賑やかだった帰離原が戦後寂れて廃墟と化すほど長い。
千年はどれくらい短いのか?
甘雨にとって、それは瞬く間のこと。
凡人では想像もできない長い年月の中、甘雨は玉京台に座り続け、あらゆる書類を処理してきた。
全ての楼門の建設を記録し、すべての産業の繁栄を目にした。
甘雨は時間の流れを客観的に捉えていた。時間は白紙の上で絶え間なく更新される膨大な数字であり、あらゆる色を使って区分される必要のあるテーブルであると。
時間は、甘雨の心を変えることができなかった。彼女はずっと、「人」と「仙獣」の間で揺れ動いている。
麒麟である彼女には、人間の世界で起こるたくさんの争いを理解できない。
一方、その身に流れる人の血が彼女に、人間社会に融け込む希望を囁くのだ。


キャラクターストーリー4
ひとたび仕事から離れると、甘雨は普段とは違う一面を見せる。
彼女には昼寝の習慣があり、まるで体内に寸分の狂いもない時計が埋め込まれているかのように、時間になると場所や状況に関係なく、体を丸めてすぐに眠ってしまうのだ。例えヒルチャールが彼女を囲みながら騒がしく踊っていても、彼女が目を覚ます事はない。
この習慣は最初「璃月七星」の身内同士の笑い話でしかなかった。
だが、ある日「天璇星」に同伴し昼食を外で済ませた後、満腹になった甘雨が道端に積まれた干し草の上で眠ってしまったことがあった。そして、そのまま荻花洲へと運ばれてしまい、荷下ろしの時に頭を地面にぶつけてようやく目を覚ましたという。
元の場所へ戻るまでの3時間、「天璇星」は甘雨が何も告げずに姿を消すやつではないと重々理解していたため、危うく失踪届けを出してしまう寸前だったそうだ。
その後、「今後、昼寝は安全な場所で行うこと」という訓戒を受けた甘雨は、落ち込みながらこう口にした。
「璃月は…どこも安全な場所ではないのですか」と。
甘雨の世間に対する認識が多くの人とズレているのは、彼女の中に仙獣の血が流れているからなのかもしれない。


キャラクターストーリー5
甘雨に仙獣「麒麟」の血が流れていることは、璃月港であまり知られていない。
緋雲の丘を通る時、彼女を初めて見る者は毎回、その長い髪から伸びている物について聞く。それに対し、彼女はいつも家に伝わる髪飾りだと誤魔化すのである。
「もし、みんなに本当のことを知られてしまったら、もっと距離を取られてしまいます…」
今まで、一度も璃月の民と親しくなったことなどないが、甘雨にとって心の距離を置かれることは悲しいことなのだ。
また、それとは別にもう一つ重要な理由がある。これが「麒麟の角」であることを正直に話してしまえば、好奇心から角を触る人が現れるかもしれないからだ。
ーー心理的や生理的に関わらず、角にも感覚があるのだ。
また他にも、甘雨が用心深く隠してる秘密がある、それが「体型の維持」だ。
麒麟は菜食主義者だが、璃月の料理はその名を天下に轟かせるほど美味であり、たとえ野菜料理であっても食欲を抑えるのは難しい。
そのため、町での生活に慣れた甘雨は、己の体型と体重を常に気にするようになった。
気づけば美味しいものに吸い寄せられていたなんてこともしばし*あり、食欲をコントロールすることはドラゴンスパインで烈焔花を見つけるのに等しいくらい困難であると彼女は考えている。
だが、たとえ困難なことであっても、甘雨は努力を怠ったりしない。
彼女は数千年前の魔神戦争中、毬のように丸々と太っており、その体型ゆえに巨獣の喉を詰まらせたことがあった。息の出来なくなった巨獣はいとも容易く降伏したという。
その恥ずべき過去を繰り返さぬよう、甘雨は何がなんでも体型を維持すると心に強く誓っているのである。


玉京台植物誌
玉京台でよく見られる植物の特徴や習性を記した手記、その秀麗な字は甘雨の手書きによるものである。
手記は明確に部類分けされており、内容は簡潔かつ的確で、小難しい内容は分かりやすく要約までされている。例えば、瑠璃百合の保護の要点や霓裳花の移植についてなどだ。
読み物としても専門書としても、正式に出版しても良いレベルのものである。
ーー以上が、最初のページをいくつかめくった時の感想だ。
ページを後ろからめくった時、その内容に驚かされることだろう。
手記の後ろの数ページは、その大部分が黒く塗りつぶされているのだ。
じっと目を凝らすことで、そこに各種野菜の育て方が記されていることを辛うじて判別できる。
「自分で野菜を育てられるようになると、食欲をコントロールするのがもっと難しくなります」
甘雨は拳を強く握りしめながら己の欲望を抑え、苦労してまとめ上げた成果を全てなかったことにしたのである。
ある日の事、お腹を空かせた甘雨が花の水やりをしようとした時、霓裳花へと頭から突っ込んでしまった。その時、もしこれがスイートフラワーだったらと妄想することで、自分の食欲を紛らわせたという。
そして、そのまま昼寝の時間になり、彼女は山積みのスイートフラワーに包まれる夢を見るのであった。


神の目
麒麟は仙獣の中の仁獣であり、露を飲み、稲を食す。
生きた虫を踏まず、生きた草を折らず、群れず、旅をせず、罠に入らず、穏やかで寛大で、温厚で優雅な一族だ。
過去に海の中で巨獣が暴れまわり、足元の大地が脅かされた時、平穏という言葉は日常の中から消え去った。
三千年前、甘雨は岩神モラクスの召喚に応え、魔神戦争において彼に助力した。
戦争が終結すると、彼女は璃月に残り、人々がより完璧な国を作り上げるための手伝いを始めた。
初代の璃月七星が補佐を必要とした時、彼女はこの任を引き受けて七星の秘書となる。
そして彼女がこの決断を下した瞬間、腰元に「神の目」が現れたそうだ。それは彼女に卓越した肉体と、世界と共鳴する力を与えた。
その時、甘雨の心は平和と安堵に満たされていた。
どんなに強くなろうとも、「神の目」を使うことはないだろう。これは璃月を守る最後の手段である。
仙獣と人間の混血として、彼女は二つの種族の架け橋となることを選択した。そして「神の目」は、その新しい責任への証人である。

キャンディス

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キャラクターストーリー1
「アアル村こそが、キングデシェレトの末裔にとって最後の安息の地である。」
「アアル村の『ガーディアン』の使命とは、最後のキングデシェレトの民がいなくなるまで、この村を守り続けることである。」
八歳の時、キャンディスは正式に新たな「ガーディアン」に任命され、彼女に職位を授けた者からそう忠告された。
キングデシェレトが逝去し、彼ら末裔がこのような俗世から離れた地を手にしたのは何よりも良いことだった。
ガーディアンたちは代々、黙々とその職務を執行した。無数の村人が「キングデシェレトの末裔」としてこの世を去り、永遠の安寧を手に入れられるよう守り続けた。
そうやって村の中で静かに消失していくことが、アアル村の人々の悲願なのだ。
しかし、この古の村に新たな生命が現れた時…これまでのすべてが、変化せざるを得ないかもしれない。


キャラクターストーリー2
村長のアンプおじさんが、スメールシティからやってくるキャラバンがまもなく村に到着し貿易を始めると宣告すると、前任の「ガーディアン」たちは自身の耳を疑った。
考えが古い前任の「ガーディアン」たちは激昂し、「お前は伝統を破壊している」と責め、現任の「ガーディアン」であるキャンディスに守衛を集めて商人たちを追い出すよう要求した。
しかし、キャンディスはそれを拒否した。彼女はすでに村長と合意していたのだ——村の人々の未来のため、アアル村は変わらなければならないと。
何度も説得したが、前任の「ガーディアン」たちは聞く耳を持たなかった。さらには「キャンディスがやらないのなら、自分が武器を取ってガーディアンとしての責務を果たす」と主張し始めた。
最終的に、槍と盾のぶつかる音が彼らの激しい口論を鎮めた。キャンディスは立ち上がり、槍と盾を手にして微笑みながら周囲を見回すと、驚いた表情の古参たちに向かってこう言った。
「皆さんの気概が見られて、私はとてもうれしいです。」
「でも、今のアアル村の『ガーディアン』は私ですから、皆さんはもう休んでいてください。」
武器の説得力が言葉に勝ったのか、激しい口論も止まったようだ。
短い準備の後、キャンディスは「ガーディアン」として村長に同行した。そして、正式にキャラバンを迎え入れて彼らと貿易の交渉を行い、相手が村から出る時は自ら護衛についた。
数日後、再びキャラバンが村を訪れると、一見何の変哲もない布地の取引を済ませていった。
このキャラバンが取引を成立させた情報をスメールシティに持ち帰りしばらくすると、スメールの商人たちの間で新たな話題が出回り始める。
「なぁ、知ってるか?アアル村に商売をしに行ったらかなり儲かったらしいぞ!今度、俺たちも試してみないか…」と。


キャラクターストーリー3
実際のところ、キャンディスが槍と盾を使って他人と発言権を争うようなことはほとんどない。
アアル村の子どもたちはいつも「キャンディスお姉ちゃん」がどんなに怒ったとしても、ただ眉をひそめて、悪いことをした子どもにクルスームおばあちゃんが用意した法帖を書き写させるだけだと思っていた。
アアル村の他の守衛たちは、キャンディスの要求は厳しくとも、適切に行動しない人や怠惰な人に対して彼女は体罰を加えることはせず、懇切丁寧に彼らを指導すると思っていた。
村の老人たちは、キャンディスは負の感情を表に出さない人だと思っている。彼女はこれまで、彼らの前で悲しい顔を見せたことがなかったのだ。
村を訪れる商人ですらも、キャンディスからはとにかく完璧なおもてなしを受けた。出迎えから宿泊に至るまで、すべてが彼女によって整然と手配された。
彼女があまりにも優しすぎるせいか、商人たちを少し不安にさせてしまう程であった——
この村は、大赤砂海に隣接しているのだ。周囲には多くの魔物がいるだけでなく、無法者の盗賊たちがこの村を狙っているに違いない。
このような「ガーディアン」で、本当にみんなの暮らしを…それと商売を守っていけるのだろうか…?
ある晩、酒が入りすぎた行商人が勇気を持って聞いてみた。
「ガーディアンさん、俺たちはこの村で商売ができるようになったけど、知ってるでしょう?この砂漠には無法者もたくさんいるってことを…」
「それなら心配いりません。掟を守る人だけがアアル村のお客様ですから——つまり、掟を守らない人は…」


キャラクターストーリー4
掟を守らぬ者はアアル村の「敵」である。
砂漠に身を潜めるエルマイト旅団、冒険者になりすましてやり過ごそうとする盗賊、荷物を奪うため現れる宝盗団……この村を脅かそうとする者は、どんな手段で逃げ隠れしようとも最終的には相応の罰を受けることになる。
心から罪を認めて反省した者は赦され、砂漠を越えるのに十分な補給も与えられるが、その代償として彼らは二度とアアル村の周囲に姿を見せてはならない。
頑なに抵抗を続ける者の場合…その卑劣な魂は、その場で砂礫と運命を共にするだろう。
砂漠を離れたあるエルマイト旅団のメンバーはかつて仲間に対し、アアル村の恐ろしい「ガーディアン」キャンディスこそ真のキングデシェレトの末裔だと警告した。
彼女の盾にはアフマルの祝福が宿っている。盾を手にすれば、大赤砂海のすべての砂礫が彼女の呼びかけに従う。彼女が願えば、巨大な砂嵐を引き起こしてすべての敵を呑み込むことすら可能なのだ。
それだけに留まらず、彼女の琥珀色をした左目には未来を見通し、相手の運命を見抜く力があるという。これほどまでに恐ろしい存在の彼女だ、その追跡から逃れられる者は誰一人としていない。
人々は、キャンディスがこれら神通力でアアル村にとっての「敵」をすべて一掃したと信じている。


キャラクターストーリー5
アフマルの恩恵を真に感じ取ったことがないのは、キャンディス自身が知っていた。
「ガーディアンは未だかつて神に祝福されたことがない」——これは「ガーディアン」の間に伝わっている秘密だ。
新たに「ガーディアン」となり盾を手にし、正式に任命されて初めて、その者は真実を知らされる。
真実を知った「ガーディアン」の反応は様々であり、ある者は自暴自棄になって落胆し、武芸の修練すらも怠けるようになる。またある者は自分が見守られていないのなら規律を守る必要がないと身勝手な行動をし、果てには掟を無視する。
しかし、キャンディスはその事実で落胆することはなかった。
「私の槍と盾は、神の恩恵を祈るために振るうものではありません。」
「神の祝福があろうと無かろうと、『ガーディアン』の責務が変わることはありません。」
来る日も来る日も彼女は鍛錬に励み、他人より優れた意志と武芸を自ら身に着けた。
アアル村を訪れた多くの客人がキャンディスを引き抜こうとした。彼女は誰よりも優れているのに、どうしてアアル村のような目立たない場所に留まる必要があるのか?もし彼女が外の世界に出たいと思えば、新しい事を始めるのも不可能ではないかもしれないのに…
しかし、キャンディスはいつもこう答える。「『ガーディアン』が守るべき対象から離れることはありません」と。


キャンディスの装飾品
キャンディスはよく、アアル村を訪れた客商から様々な装飾品を購入する。
水色の石がはめ込まれたヘアピン、シルクでできたヘアバンド、金メッキが施された首飾り、カルパラタ蓮の模様が刻まれた金属の腕輪、教令院の各大学院の紋章が描かれたペンダントなど…
ディシアからは、普段からもっとおしゃれをしてお金を自分のために使ったらどうだと勧められるが、装飾品の中にはあまりに脆いものもある。普段の仕事環境のことを考えると、せっかく買った品を壊してしまうのではないかとキャンディスは心配し、結局それらを衣装棚の奥にしまっていた。
どうやら、これらの装飾品はキャンディスが一時的に「ガーディアン」の職務から解放され、他の服に着替えて日陰で休む時になって初めて役立ちそうだ。もしくは、いっそのことプレゼントとして友人にあげてしまう手もある。


神の目
部外者がひっきりなしに訪れ、アアル村は未だかつてない状況に置かれていた。
商人を装って村に潜入した宝盗団、キャラバンを脅かす傭兵集団、悪巧みをする悪徳行商人…
それに、外の人々と関わったことでアアル村の住民たちは次第に外での生活に憧れを抱くようになった。そうして次第に外で生計を立てようとする人が増え、村に残りたいという若者が減ってきた。
前任の「ガーディアン」たちは伝統に「背いた」キャンディスに早くから不満を抱いていた。アアル村がそんな状況に置かれているのを見て、彼らは再び会合を開きキャンディスを非難した。
「ガーディアンがすべきことは、村の秩序を守ることではないのか!」
「キャンディス!お前のやっていることはすべて、この村から平穏を奪うことにしかなってないではないか!」
「キャンディス!今すぐ自分の職務を全うしろ!」
激しい論争の最中、長槍を持った女戦士が猛然と立ち上がった。
「もう十分です!」
「あなたたちがこの村の『過去』をそんなに守りたいと言うのなら、自分で守ってください!家の中に閉じこもろうが、アアル村を離れようが、あなたたちの勝手です!」
「私はアアル村の人々を永遠に『過去』に縛り付けておくことはしません。」
「あなたたちが前に進もうとしないなら、私が一人でみんなの『未来』を守ります!」
古参のガーディアンたちは女戦士の激昂する様子に驚いた。若く、炎のように燃え上がる瞳を前に、彼らはそれ以上問い詰めることなどできなかった。
めったに見せない怒りと共に、キャンディスは長槍を持って争いにまみれた小屋をあとにした。
まるで彼女の信念に応えるかのように、槍の先端にはいつの間にか輝く「宝石」があった。
神の眼光が彼女に気づき、彼女を認めたのだ。
「神の目」、それは揺るぎなき心。それは最良の装飾品となる。

凝光

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キャラクターストーリー1
璃月港の上空には、浮石で駆動する空中宮殿が浮いている。それは凝光の産業、「群玉閣」である。
晴れた日には、宮門外のデッキから璃月港の景色を見下ろすことができる。
何か大きな問題を処理せねばならない時、凝光は3名の腹心を連れてこの空中宮殿に来る。腹心たちに資料を整理させ、結果が出次第、要点をまとめて壁に貼ってもらうのだ。一方、凝光自身は手すりに凭れて璃月の景色を眺めながら、静かに考え事をする。
そうして、壁が資料で貼り尽くされる前に、凝光は必ず解決策を思いつく。
その後、彼女は全ての書類を粉々にし、まるで粉雪を降らすかの如く、大量のくずとなった紙を窓の外に捨てるのだ。
紙くずに染みた筆跡は、璃月港にいる全ての商人にとって、雪の上の墨を零したように目立って見えた。
そして、この「粉雪」が降る度に、璃月港の商売合戦に大きな変化が訪れる。


キャラクターストーリー2
「凝光様はなんでも知っている」。璃月の住人はよく外部の者にそう警告する。
法の抜け穴をつく商会、売り惜しみする悪徳商人、禁制品をこっそり持って帰る船隊…「天権」はこれらのことを全て把握している。
昔、とあるスメール国の錬金術師が、璃月留学中に偶然、黒岩場の10年前の取引の帳簿を見てしまった。そして、その日の夜のうちに、凝光の近侍が彼の部屋を訪れ、彼を「群玉閣」へと誘ったらしい。
あの巨大な空中宮殿「群玉閣」には凝光の魔法がかかっており、璃月港にいる人々の言葉をすべて集め、一つ一つ凝光に聞かせているという噂もある。
しかし、凝光の本当の「耳」は、璃月港の街で無邪気に遊ぶ子供たちである。
見知らぬ人の来訪、秘密の会話などは全て子供たちに見られている。そして子供たちが「凝光お姉さん」の周りに集まる時、凝光の手にある菓子によって、彼らは持っている情報を全て凝光に渡すのだ。
凝光が子供の言葉に隠された真実を見つけた時、この璃月港で彼女の知らない事はなくなるのだろう。
彼女は誰よりも「人情」の価値を知っているからこそ、市井に時間を使うようにしているのだ。
もちろん、個人的な感情も少し含まれている――彼女は子供たちの笑顔が大好きなのである。


キャラクターストーリー3
金を稼ぐことにおいて、凝光は多くの人と同じ、金は多いに越したことはないと考えている。
彼女にとって、稼いだ金は自身の富であると同時に、勝利の象徴でもある。
凝光は、民衆に対しては優しいが、相手が同業者になると話は別である。
ビジネスの場での競争は、彼女にとってはかけがえのない刺激的なゲームであり、商人たちが仕方ないと言って渡してきたモラは彼女の笑顔を濃くする。そして、商会が彼女の言うことを聞く様子を見る度に、彼女の機嫌がよくなるのだ。
重なる勝利は「璃月七星」の財力を強くし、璃月港の経済の日々の発展は、凝光に更なるビジネスゲームと利益をもたらす。この双方にとって好都合な展開は、「璃月七星」全員をも満足させた。
すでに巨万の富を持っているのに、なぜまだビジネスの場から引退しないのかと凝光に聞いてくる人はよくいる。
「巨万の富?それはもちろんいいことでしょう」
変わった質問に、凝光は困惑する。
「でも、モラは多いほうがいいに決まっている…そうでしょう?」


キャラクターストーリー4
規則を守って暮らすのが璃月での決まり事である。規則は人々の利益を守るもので、それを守らない人々には処罰が与えられる。
これらの規則は璃月の守護神「モラクス」が最初に作った法律であり、絶対的な信憑性を持つ。そして、璃月の数千年の歴史の中で、歴代の「天権」が法律の解釈を担当するのだ。これらの法律は本にまとめられ、279ページの解釈付録をつけて全ての璃月の住人に配られる。
凝光は規則に守られた璃月港が大好きだ。それは、きちんと整った秩序はビジネスをよりパワーアップさせるからであり、彼女本人が誰よりも秩序の細部を理解しているからでもある。
しかし、ある「北斗」という名の船長は、珍妙な貨物と唯一無二の情報を武器とし、何度も規則を破った。凝光の中では、彼女は璃月の規則を破る厄介者である。
凝光は「天権」として、規則を破った北斗に重い処罰を与えてきたが、いつも平然として受け入れている北斗に彼女は少し驚いたものだ。
立場上のためだけでなく、彼女自身も個人的に、何度も北斗にやり方を変えるよう遠回しに言及していたが、北斗にいつも「人助け」、「助太刀に入った」、「船隊を養うため」などの理由でごまかされてしまう。
時間が経つにつれて、「頑固者」という言葉以外で、凝光がこの船長を評価することはなくなった、*


キャラクターストーリー5
凝光のような魅力的で富に溢れる女性を、もちろん男たちが放っておくわけがない。
玉京台出身の貴公子、若い事業家、七つの国を周遊する船長、誰もが凝光の笑顔を得るためにあの手この手を尽くした。噂によると、あるフォンテーヌ廷のオーナーは、偶然凝光と言葉を交わしただけで、璃月港との貿易ルートを開けと部下に命令したという。なんでも、ただ彼女と話す機会がもっと欲しいためだけだということだ。
凝光は、こういった男たちにはいつも礼儀正しく、優雅に振る舞いながら、適度な距離を保つ。そのため、凝光様を射止めるのは一体誰なのかという話題は度々、港に上がった。
――凝光は「有限」なものを愛さないし、「有限」に囚われるつもりもない。
「群玉閣」、この璃月港の上空を飛ぶ、凝光だけの宮殿は最初は一部屋ほどの大きさだったが、今では璃月上空の月を隠せるほど広くなった。
凝光が稼いだ金の一部はいつも「群玉閣」に使われる。トップクラスの職人を招聘して、「群玉閣」をより広く、華やかにするのである。
凝光にとって、「群玉閣」は彼女の権威と力の象徴であり、彼女のビジネスが良好な証でもある。
まるで「無限」を思わせるこの場所は、モラの次に凝光が愛するものだ。
いつか「群玉閣」の影は七国を覆うと彼女は信じている。


ボードゲーム「璃月千年」
凝光は暇つぶしに碁のゲームを開発した。
璃月港の街の地形を元に作った基盤に露店、茶館、商店、食堂と店舗があるほか、6面、10面、12面のサイコロがついている。プレイヤーはサイコロを振って進むマスを決める。止まったところによって様々なイベントが発生する。
ゲーム終了時に所持チップで勝敗を決める。
凝光の機嫌によって、ルールは常に変わる。他人と遊ぶ時のルールは、凝光が持っている最新版を基準にしている。
機嫌が良い時はその場で紙を持ち出しルールを更新することもある。ーー今まで凝光に勝った者はいない。ちなみに最新バージョンはVer.32.6である。
市場に流通しているもののうち、凝光が最もわかりやすいと評価したのはVer8.0である。だが一般市民にとって、このルールは相変わらず複雑である。
でも碁の設計が極めて美しいため、買う人が後を絶たない。
実は、このような目的で購入した人は、実際に碁をプレイした人よりも多い。


神の目
「神の目」はどういう風に誕生するのか、誰も知らない。神の目はいつも突然現れる。逆に、いくら求めても現れてくれないこともある。
持ち主のいない「神の目」の抜け殻は、使用者が死んだ後に残ったもの。中に元素力はなく、それを呼び起こすこともほぼ不可能である。低い確率で人と共鳴できるが、試す機会は限られている…
凝光はこの抜け殻を見た時、頭にアイデアが浮かんだ。これが新しい商機なのだ。
この抜け殻を競売に出したら、金持ちはきっと大金をかける。例え共鳴できなくても、飾りとして自慢できるはずだ…
抜け殻の入手ルートが分かれば、うまい話し*になるじゃないかと凝光は考えていた。
凝光は「神の目」の抜け殻をいじりながら、競売の計画書を書いている。これから次々に入ってくるお金のことを考えると、彼女は思わずニヤッと笑った。だがその時、抜け殻が急に光りだした。
「神の目」の覚醒と共に、凝光の笑顔はどんどん消えていく。
部屋に入った近侍が凝光の手にある「神の目」を見て、「凝光様おめでとうございます」と連呼した。
だが、凝光は機嫌悪そうにこう言った:*
「何がめでたいの?開封済は、売り物にはならないわよ!?」

久岐忍

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キャラクターストーリー1
名刺は社会人の顔だと、人々はよく言う。
名刺に金や銀メッキの模様を描く人たちの行動はあまり理解できないが、小さな紙一枚で、名前や身分、連絡手段までを残すことができるのは、確かに効率的だ。
忍は社会に出たばかりのとき、名刺の肩書について真剣に悩んだことがある。
元鳴神大社の巫女?その考えに至った瞬間、彼女は心の中で自身の首を絞めた。
それじゃあ、「久岐忍」と、名前だけを書くのは?…まるで長所も何もない、無職の人間みたいだ。
だったら資格証を取りに行こう。これも人々がよく言うことだから。
資格証はいいものだ。一定の期間、頑張ってきた証明にもなるし、説得力があるから自分紹介のときにも使える。
いくつかの資格証をさらっと手に入れた後、これでやっと名刺の空白に何かを書ける、と忍は思った。
しかし、同時に問題も生じた――好奇心と、自分を鍛えようという考えのもと、彼女は一気にいくつかの資格証を取った。そのため、名刺にある肩書がどんどん長くなってきてしまったのだ。
「初級料理人、縫製工、保険数理士、健康管理士、人事管理士…」
身につけたスキルは多ければ多いほどいいと言われるが、あまり多すぎるのも困りものだ。そうなれば忍のように、どの肩書にするのか迷ってしまうことになる。
久岐忍は、今までどれほどの名刺を作ってきたか、もはや覚えていない。
だが、「荒瀧派」に入ってから、名刺の一番最初に書いてある肩書はずっと「荒瀧派の二番手」だ。


キャラクターストーリー2
久岐忍が焼いたスミレウリを食べた「荒瀧派」のみんなは、涙をこぼしながらこう褒めた――スミレウリって、こんなに美味しく焼けるのか!
それにこの味、今まで試してきた焼き方とも全然違う。もしかして、高級料理人の試験には、スミレウリの焼き方を教わる項目でもあるのか?
焼いていたスミレウリを置くと、忍はゆっくりと過去の話を始めた。
法律を勉強するために璃月に赴いたあの頃、暇さえあれば、いつも「万民堂」という店に通っていた。
万民堂の料理は種類が豊富で、料理法も斬新。巧妙なアイデアで作られていた。当時すでに上級料理人の資格を取得していた彼女はとても驚いた。
細切り肉の醤油炒めなのに、魚の風味を感じられる。ゆで白菜なのに、鶏肉スープの旨味がある…世界は広く、不思議なことはいくらでもあるのだ。
各業界において、たとえ上級の資格証を取ったとしても、新たなものを受け入れないという姿勢でいてはいけない。定められた標準に縛られずに色々試して、勇気を持って突破するのだ。
「荒瀧派」のみんなはよく理解できていないようだったが、彼女を喝采し続けた。何と言っても、そのスミレウリが美味しかったからだ。
みんなが美味しそうに食べている姿を見て、忍は物語の結末を言わないことにした。
あの時、忍の言葉を聞いた「万民堂」の料理人は心得たように、卯師匠に塩コショウスライムを作らせた…
そんな料理が料理人試験に出ることはきっと、世界中を探してもあり得ない。
そして、忍がスミレウリをスライムの液体につけてから焼いたのだということについては、「荒瀧派」のすべての者にとって、死んでも知りたくない情報だろう。


キャラクターストーリー3
久岐家は巫女の一族であり、代々鳴神に仕えることを誇りに思っている。
彼女の世代になっても当然ながら例外はなく、姉の幸が大社に入った後、まだ子供だった忍も見習いとして鳴神大社に送り込まれた。
一族の栄誉と共に受け継がれてきたのは、冗長な規則である――誠意と意志を示すためには何日物忌みしなければならない、だとか、神様を冒涜しないためには何回沐浴しなければならない、なんて言うものまで…
これらの規則は一体どこから来て、どのように決められたのかについては、誰も説明してくれなかった。ただ、「ずっとこうやってきたのだから、守るべきだ」と言うことらしい。
忍は初めて神社に来た時、山頂で夜を過ごしたために、風邪を引いてしまった。当時、家族は神社から遠く離れたところにいたし、姉も外で仕事があったため、傍にいなかった。
ところが、子供の頃から強がりだった忍は他の巫女に助けを求めようとせず、山に生えているとげのある草を摘んできて輪を作ると、体に巻きつけた。
そのようにすれば、鳴神の加護を得られ、病を追い払えると言われていたのだ。そんなわけで彼女は、とげのある草の輪に巻きつかれたまま、震えながら「鳴神様のご加護を」と念じた。
しかし夜が明けても、風邪は全く治らず、体にはひりひりと痛む赤い跡が残されるばかりであった。
それからの数日間で、忍は何度も繰り返し気づかされた――先人から伝わる多くの規則は、必ずしも正しいわけではないことを。そして巫女という仕事は、家族の言っていたほどに「なくてはならない」仕事ではないことを。
――それなら、久岐家に生まれたから巫女にならなければいけないという掟も、考え直すべきなんじゃないか?
数年後、神社を出てから随分と時が経ったある日。暇をもてあました彼女は薬理学の本を開いた。
その本には、山に生えているとげのある草には獣を動けなくする麻痺の効果があると詳しく書かれていた。その特性から、古代の人々はこの草を外傷の痛みを和らげる薬に使ったそうだ。
忍は…言葉が出なかった。
そして、様々な規則にはそれなりの道理があるかもしれないが、規則そのものを道理と見るのは少々時代遅れだろう、と思った。
そう考えると、少し幸せな気持ちになる――やっぱり、今の生活の方が楽しいんだ。


キャラクターストーリー4
真に自由な仕事を見つけるために、忍は「役職につかないか」と言う誘いを数え切れないほど断り、短時間労働や外注だけで生活費を稼いできた。
その中で、うっかりぎっくり腰になってしまった手練れの漆器職人から、とある依頼を受けたことがある。すでに漆器製作の上級試験に合格した彼女にとって難しい仕事ではなかったが、ただ…依頼人の地位がやや特殊であった。
忍が手入れの済んだ人形を持って奉行所に到着したその時。建物の中から泥棒が慌てて飛び出してきて、忍にぶつかった。人形はあえなく彼女の手から弾き飛ばされ、空高く舞い上がる。
今までの苦労が水の泡になると思った忍は、電光石火の勢いで人形を掴むと、身を翻して逃亡者をつまずかせた。
すぐに集まってきた群衆が泥棒を捕らえ、その後、今回の依頼人でもあった九条裟羅がお礼を言いにやって来た。
品が無傷だったと聞き、裟羅は漆器職人がこれほどの腕を持っていることに驚いた。
忍の境遇や「真に自由な仕事を見つける」という思いを知った裟羅は、熟考の末、天領奉行への誘いを申し入れた。
忍は「いえ…お気持ちだけ頂戴しておきます。公務員は自由ではなさそうですから。」と断った後、少し躊躇った末にこう続けた。「でも、仰っていた法律や武術の指導については、兼業で宜しければ検討させていただきますよ。」
その日から、久岐忍は新しい兼職を始めた。
忍が驚いたのは、法律講座や武術指南の会を開く度、天領奉行のあの大将が欠かさず来ていたことだ。
「法を執行する者として、もっと法を知るべきだ。」と真摯に語る裟羅。
「同じような技量を持つ武者と手合わせできる機会になんか、滅多に恵まれませんよ。」と忍も真摯に応える。
裟羅の誠実さと迅速果敢な行動力を忍は深く認め、裟羅の方も忍に人形の手入れを依頼するようになり――二人はたちまち仲良くなったのだ。
裟羅は何度も忍を天領奉行に勧誘した。忍はなかなか譲らなかったが、かと言って、「真に自由な仕事」はどうにも見つかりそうになかった。
ある日、忍は裟羅との約束通り、二人がよく会う居酒屋まで人形を届けにやって来た。しかし、裟羅の姿が見えない。夜中まで一人で呑んでいたところ、裟羅はようやく現れた。
「珍しいね、裟羅が遅刻するなんて。」
「すまなかった、騒がしい集団を相手にしていたもので…」
「へえ?あんたを手こずらせるなんて、どんな集団なんだ?」
「手こずると言うほどではないが、やつらは『荒瀧派』と自称していて…」


キャラクターストーリー5
荒瀧派に二番手が登場したことは、花見坂で少なからず話題になった。
噂によると、その二番手は礼儀正しく、よく法を知り、腕っぷしもかなりのものらしい。入ったばかりだというのに、すでに子分たちを大人しくさせている。
二番手の「後片付け」を目撃した人たちは、ついに荒瀧派が知識のある、筋の通った礼儀正しい人を仲間に加えたと絶賛した。
しかし、心配する声も多々ある――「荒瀧派」はまともな集団じゃないのに、と。
過去の小さな騒ぎは痛くも痒くもないが、頭の切れる成員が入ったことで統率がとれた結果、今後大きな問題が起こるのではないかと疑う者もいるのだ。
何しろ、荒瀧派の日常業務は貨物の運搬や住宅の修繕、会場の盛り上げに留まらず、最近は税務代理や法律相談、宴会の催しなど多岐に渡っており、どれも巨額の資金を必要とする、危険と隣り合わせの業務ばかりなのである。
「業務があまりに幅広すぎないか?まさか無免許営業じゃないよな?」
「無免許かどうかはともかく、新たな業務を開拓するために詐欺なんかしてないでしょうね?そんなことしたら天領奉行に捕まるんだから!」
――このような疑惑や噂は、すぐに払拭された。荒瀧派の様々な行動は、彼らが正々堂々と約束を守る者たちであることを自ら証明したのだ。
ある物好きな人は、新たに追加された「モラ管理業務」を荒瀧派に任せてみた。すると、なんとその人の経済状況は劇的に改善されたのだ。業務過程の透明性や、その快活さと度量の広さは、素晴らしいの一言に尽きた。
しかし残念ながら、荒瀧派はあくまでも荒瀧派である。花見坂の子供たちは未だ、夕飯時におやつを勝ち取りに来る荒瀧一斗のせいで、怒りながら家に帰らねばならない日が続いている。
伝説の二番手と呼ばれる忍の手にかかっても、荒瀧派の奔放さを変えられる未来はまだまだ遠いようだ。


鬼の面頬
「荒瀧派」に入ったばかりの頃、久岐忍はまだ面頬を着けていなかった。
ある事業展開に関する真剣な商談のさなか、「荒瀧派」の他の成員は、忍の後ろに並び、真剣な面持ちをして後ろで手を組んでいた。
「あんたら、この姿勢のまま、何も話すなよ。」「これがあんたらにとって…一番効率的な方法だ。」出発前、忍は彼らにこう言いつけた。
交渉は忍の思惑通り、順調に進んだが――突然、通りかかった子供が忍を指さして嬉しそうにこう言い放ったのだ。
「ママ見て!昔、神社で会ったあの笑うのが好きじゃない巫女のお姉さんだ!ほら、あんなにかっこよくなってるよ!」
子供は怯えた表情をする母親に抱き上げられてすぐにその場を去ったが、忍は気まずさと無力感が顔に出てしまい、今すぐこの地を離れ、山に潜って生きていきたい気持ちでいっぱいになった。
一方、荒瀧一斗の表情は、まるで二匹のオニカブトムシが口の中でケンカしているかのよう。元太たちも必死に抑えようとしたが、我慢しきれず、やがて大声で笑い出してしまった。
――今度の演武で、彼らの顔は今の忍の顔よりも真っ赤に腫れ上がることになる。そのような結末が待っていると知っても、彼らはこのように大笑いできるだろうか。
何はともあれ、その日から忍は面頬を着けるようになった。黒い顔で、鬼神の如く牙を剥く。
「鬼の副手」という肩書きも、その演武によって定着した。


神の目
神社を去る日、久岐忍は「巫女」を務めていた頃に持っていたすべての物を家に残し、最小限の荷物だけをまとめた。
だから、荷物を手に取った瞬間、それが重いことにすぐ気付いた――「あれ、手拭いぐらいしか入れてないのに?」
少し探ってみると、なんと荷物からは光り輝く「神の目」が出てきた。その美しい輝きには、彼女の姉である久岐幸も見とれてしまったという。
皮肉なことに、神に仕えるはずの巫女は、神社からの脱走を決めたことで初めて神の目に振り向いてもらえたのである。
これは忍が手に入れた、最初の「証」であった。神から授かり、自由を証明するもの。
彼女を止めようとしていた幸も、この光景を見て考えを改め、両親は自分がどうにかすると請け負った。
…「目狩り令」の時、久岐忍は自らの意志で神の目を渡した。
一つは、天領奉行にいる知り合いに迷惑をかけたくないという思いがあったからだ。そしてもう一つは、忍にとっての「神の目」が、彼女の持つ数ある資格証明のうち、たった一つのものに過ぎなかったからである。
人が生きていく上で遭遇するほとんどのことは、「神の目」がなくても対処できる。本当に厄介な難題については、「神の目」があれば簡単に片付けられると言うような類のものではない。
例えば、何世代にもわたって蓄積されてきた先入観をいかに排除するか、とか、真の自由をいかに探すか。
あるいは、忍の「神の目」を一緒に取り戻すと駄々をこねて騒ぐ「荒瀧派」の連中を、いかに阻止するかという問題だ。

九条裟羅

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キャラクターストーリー1
稲妻では、「永遠」を追求する雷電将軍の意志を表した「目狩り令」があり、裟羅はそれを執行している中心人物である。
裟羅は、「神の目」が邪な心を持つ者の手に渡れば、稲妻の基盤を揺るがすことになると考えている。そういった点から言えば、「目狩り令」は必要だと思っているのだ。
とはいえ、裟羅はどんな手段を使ってでも目狩り令を執行するわけではない。
それにより、必然的に稲妻の民が影響を受ける場合、彼女は最大限の忍耐と誠意をもって、将軍様の長きを見据えた考えを理解させようとする。
また、令状の執行という名目で一般市民を傷つけたり、弄んだりする行為も明確に禁止した。なぜなら、そのような悪しき行為は、神の威名に泥を塗ることだからだ。
残念ながら、神の崇高な理想は、人間には理解しがたいものだ。それ故、憤りが生じ、一致団結して抵抗の道を選択する。
このように、行動を起こさざるを得ない状況では、裟羅は武力を行使する前に、無力なため息をつくことが多い。


キャラクターストーリー2
九条裟羅の統率力によって、幕府軍では、恐れを知らない兵士たちが一致団結している。
戦線の調査、訓練計画の立案、武器や防具の選定…裏方で戦略を練ることを好む多くの将とは異なり、裟羅は自ら実行する場合が多い。
裟羅は自分に厳しく、一般兵士の10倍以上の厳しい訓練を行っている。夜になって世間が寝静まっても、道場には裟羅が弓を引く音が響いている。
戦場では、常に槍の穂先に立ち、絶対的な英姿と闘志をもって部隊を率いてきた。
戦いが終われば、自ら負傷者を見舞い、功績に応じて褒美を与えたり、罰を与えたりする。彼女の手にかかる戦闘はすべてうまく管理されており、ミスはほとんど発生しない。
裟羅の部隊の兵士は、彼女の言動を毎日のように目の当たりにしている。彼女と共に戦い、高く評価しなかった者はいない。
大将は軍隊の魂である。しかし優秀な大将はなかなかいない。裟羅は常に、幕府軍の誇りであった。


キャラクターストーリー3
訓練以外の時間でも、裟羅は自身の厳しさを日常生活に取り入れている。
彼女の人生は、ある種の永遠、不変の規則に従っているように見える。決まった時間に起き、決まった時間に訓練し、決まった量の食事を取る…
訓練から食事まで、裟羅は己の視点を持ち、己が作った基準をとことん追求する。
「細々とした日用品は分類し、家具は真っ直ぐに並べる。隅々までほこりがあってはならない。」
これは、自室に対する要求である。
彼女はこれらの雑務も訓練の一環と考えているため、使用人の助けをあまり求めていない。
とはいえ、使用人たちが黙って見ているわけがない。彼らは裟羅に会うたびに、掃除道具を置いて欲しい、自分たちに任せて欲しいと懇願した。
断ることを諦めた裟羅は、扉を閉めて掃除をするようになり、部屋の外に以下の文言を貼った。
「修行中だ、邪魔するな。」


キャラクターストーリー4
人間と共に育ったとはいえ、裟羅は天狗の習性を持っている。たまに天領奉行所を離れるが、そのほとんどは山に行くためである。
彼女は山に詳しく、人間の物語ではあまり語られることのない、多くの妖魔を見てきた。
その中には、凶暴で邪悪なものも多いが、何の害もない小さな妖怪もいる。しかし、裟羅にとって、それらは形態上の違いに過ぎない。
奉行所に、犯人不明の強盗事件が頻発していた時期があった。裟羅が警戒しながら森の中を散歩していたとき、盗品を背負いながら焦る妖狸に気が付いた。
妖狸の本性は悪ではない。彼らはただ食いしん坊であったため、食べ物を盗んでいただけなのだ。
妖狸を捕らえ、窃盗品を取り返した裟羅は、このように言った。
「山に隠れていても、裁きからは逃れられないぞ。これは最後の警告だ、よく聞け。二度と民に迷惑をかけるな、さもなければ…」
怯え、骨の髄まで冷え切った妖狸たちは、うなだれて片隅に丸まってしまった。以後、この約束を守り、二度と悪事を行わぬようになった。
そして、恐ろしい警告を口にした裟羅は、あれから修行に出かけるときに、長期保存が可能な野菜や果物を持って行くようになった。道中、妖狸たちに食べ物を配るのだ。
彼女は何の説明もせず、これを贈り物だとも思っていなかった。強いて言えば、悪の道から更生した者への慰めのようなものなのだろう。


キャラクターストーリー5
養子になってから、裟羅は幕府の兵士と一緒に訓練を受けていた。一時期、兵士たちは裟羅を若い男の子だと思い、世話を焼いていた。
人と接することを少し怖がっていた裟羅は、周りの面々が良く面倒を見てくれたおかげで段々と積極的になり、他の兵士と一緒に遊ぶようになった。
しかし、彼女と一緒に遊んでいた兵士たちは、家主から厳しい罰を受けた。裟羅自身は叱られただけだった。
「規則を守らず、訓練を怠る…そんな無意味なことをさせるために、お前を養子にしたのではない。」
それ以来、裟羅は他人と一定の距離を保つように意識した。周りに溶け込むのではなく、まずは卓越した武術を身に付け、いつの日か、指揮を執ることを常に念頭に置いていた。
「雷電将軍の力。天領奉行の手本。そして、当主様の誇りとなる。」
この三つの身分のすべてを、自分よりも優先していた。冷静、そして厳格を兼ね備えた戦士。それが彼女自身だった。
誰も彼女に「もっと自分のことを考えてあげなさい。」と言ってはくれなかったし、裟羅も、そのような心遣いを必要としていなかった。
彼女の使命と地位は、常に養子としての鎖や、異類としての孤独感を伴っていた。
しかし、そのようなことで立ち止まってしまうわけにはいかない。九条裟羅である以上、ここで止まることはできない。彼女は雷神の最も忠実な信奉者であり、最も頭脳明晰な大将である。


御建鳴神主尊大御所様像
雷電将軍への崇拝と忠誠心から、多くの商人は雷電将軍に関する工芸品を制作し、販売している。
その中で最も人気があるのは、ご尊顔を象った漆器の人形「御建鳴神主尊大御所様像」だ。
裟羅は発売日に早起きし、無事、購入列の先頭に立った。この件は一時期噂になった。
裟羅は、そのような噂に全く反論しなかった。何故なら、彼女の立場から考えれば、敬虔な気持ちでその品を購入したからだ。
将軍に関わる全てのことにおいて、彼女は一度たりとも怠慢な行為をしたことがない。実際、彼女は自ら彫像を購入し、それを安置するための祠も自ら用意した。
彼女はその像を五体安置し、家にいる時は常に掃除をしていた。忙しい時も、職人を手配し手入れをしてもらっていた…
忙し過ぎて友人が少ない裟羅にとって、雷電将軍は単なる神というだけではなく、憧れでもある。
全知全能の将軍は、遠く離れた天守閣の中にいるのではない。知恵、意志、強き心のように、常に彼女を支えている。緻密に作られた神像は、裟羅にそう感じさせた。
彼女はこのような、言葉では上手く表現できない静かな時間を、とても楽しんでいた。


神の目
神の目を獲得した時、彼女はまだ名前を与えられていなかった。
彼女は元々、穏やかな山の森に住んでいた。いつの日か、悪霊が騒ぎ出し、かつての平和を失った。
天狗の力をもってしても、幼かった彼女は魔物に対抗できなかった。そして、戦いで羽を傷付けられ、崖から落とされた。
高所から落ちた彼女は、傷ついた翼を開くことができず、絶望しながら地面へと落下していった。
「そんなはずはない!私の力があれば、この山を永遠に守れると思っていたのに…」
翌朝、山の麓を通りかかった住民が、道端で倒れている少女を見つけた。その少女は、取り乱してはいたが、無傷のようであり、なぜそこに横たわっていたのかという謎が深まった。
人々はあまりにも驚きながら、彼女を町に連れて帰り、天領奉行に報告した。
その当時、九条家の当主であった九条孝行は、彼女が手にしていた光るもの、それが幻の「神の目」だということに気が付いた。
幼いながらも神に注目されたこの少女を、孝行は、天から天領奉行に賜った運命の子だと確信した。
彼はその子を養子として迎え、「裟羅」という名を与えた。そして万能の戦士として鍛え、彼女に、将軍に従い、稲妻のために戦うことを求めた。
九条孝行は、名将を育てることができれば、九条家の地位と民望はますます安泰になると考えていた。そしてすべてが思い通りに、着実に進んだ。
神の目を手に入れた裟羅は、すぐに頭角を現し、多くの人の期待通りに、若くして天領奉行の将領にまで登りついた。
あの時無傷でいられたのは、神の目のおかげだと裟羅は誰よりもよく理解していた。
神の目の注目を浴びた彼女は、自身の生涯を支える力を与えられたのだ。彼女の全ては、全能の将軍によって存在していると言っても過言ではない。
将軍様のために戦うのであれば…
それは命令ではなく、養父の策でもない。彼女が真に望んでいることなのだ。

クレー

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キャラクターストーリー1
3年前、有名な冒険者の両親はクレーを西風騎士団に託した。
幼いクレーはそのまま「白いお兄ちゃん」と共に、モンドの人と「家族」になった。
クレーは外の世界に純真な好奇心と愛情を持っていて、特に爆発するものに対していつも夢中になる。
騎士団に守られたクレーは悪意とは無縁な環境で成長し、騎士団の人たちと切っても切れない絆を結んだ。
クレーにとって、ジンに反省室に閉じ込められた日常も、アンバーにウサギ伯爵を改良する日常も、こっそり新型爆弾を研究する日常も…全て彼女の宝物である。


キャラクターストーリー2
「あの両親の子供がこうなるのも*、必然なのだろうか…」
山のような報告書に悩まされる代理団長ジンはたまにそう言う。
爆発された車両、突然燃えた倉庫、騎士たちが苦労してやっと消した森林火災…
それから見るに忍びない「星落としの湖の魚大量死亡事件」…
それらの犯人は一人だけ、ちょうどこの騎士団本部にいる。
「クレー!」
代理団長の厳しい視線に睨まれた少女は大人しく持ち歩いている大量の爆発物を提出するしかなかった。
そして彼女は事件を面白がる騎兵隊隊長に送られ、泣きながら反省室に入った。
こういう光景は週に1~2回は見られるらしい。


キャラクターストーリー3
もちろん、トラブルを起こしたクレーは後片付けを手伝おうとするが、その自由気ままな性格は時に更なるトラブルを作ることになる。
例えば、騎士団のみんなに焼き魚を振舞おうとしてコンロを丸ごと爆発させたり、風の力を借りて火を消そうとした結果逆に遠い先の草原まで丸焦げにしたり…\クレーは悪い子ではないが、その好奇心と遊びたい本性はいつも彼女を暴走させてしまう。
過ちを犯す度に、クレーは後ろめたさで補おうと決意するのだが、反省室から出るとそれを忘れて…そしてまたモンド城内のどこかから爆発音が聞こえてくる。
騎士団内で名の知れた「火花騎士」の実力はいつも変わったところで発揮される。


キャラクターストーリー4
騎士団とモンドにいろんな迷惑をかけたクレーだが、彼女は決してただの足手まといの見習い新人ではない。
むしろその才能を正しいところに使うと、かなりの戦力になる。
ある討伐任務中、ジンはクレーの爆発才能をうまく使い、見事に侵入してくるヒルチャールを一気に倒した。
ただ、後先を考えないクレーは予定よりも多く爆弾を仕掛けたせいで、大きな爆発が起き望風山地に穴が開いたことは決して忘れてはいけない。
その後、赤い服を身にまとった謎の騎士が騎士団の宝物を持っているという「望風山地の赤服騎士」の伝説はモンドで広がり始めた。
そしてその「宝物」の正体はクレーだけが知っている。


キャラクターストーリー5
クレーにとって騎士団のみんなは欠けてはいけない家族で、「アイドル」は冒険の旅に出た母親である。
『テイワット観光ガイド』の作者で、有名な大冒険者の母親アリスは、クレーの中でなんでもできる存在である。
昔から、クレーは母親にいろいろ教わった。火薬や信管の選び方を始め、自分のインスピレーションをどう花火の配合に反映させるか、どうやってより大きくて綺麗な花火を*作るか…
爆弾をどこに設置すれば星拾いの崖を丸ごと壊せるか…
はたまた騎士団にバレて、青い顔をしたホフマンに怒られながら二人して気まずそうに舌を出すことも、クレー*にとって大事な思い出である。
その後、クレーの父親と母親は遠い、危険な場所へ赴くこととなり、クレーをアルベドと騎士団に託した。
しかし幼いクレーはわかっていた。いつか自分も大人になって、母親と同じ道を歩くと。
そしていつか、自分は母親の誇りになれるような作品を作り出せるとクレーは信じている。


「ドドコ」
「ドドコ」はクレーの最初の友達で最高の友達の一人である。
昔、クレーの母がこの人形を作ってくれた。
アリスはドドコとクレーの幸運四つ葉を綴ってクレーの大きなリュックにつけた。
こうしてドドコとクレーはいつまでも寄り添う仲間になった。
クレーの母はこう言った、クレーに孤独を感じさせたくない、一人の時も内緒話を話せる友達がいて欲しいと。
困った時もお互いを守ってくれる、アンバーと彼女のウサギ伯爵のように。
しかしこの話*については、騎士団の皆さんがずっと心配している。――アリス親子の他の「発明」を考えると、ドドコはいつ爆発してもおかしくない…
「ドドコ」はクレーが人形につけた名前。
名前の由来を聞かれたら、クレーは顔が真っ赤になり、もごもご答える:*
「えっと…クレーの最高の仲間って意味なんだよ!」


神の目
クレーにどうやって「神の目」を入手したかを聞いたところ、恐らく彼女自身もよく分からないだろう。
生まれつきの爆弾魔として、クレーは小さい頃から「神の目」に認可された。
クレー自身の話*によると、当時は「スーパービッグよりも大きなビッグボム!」を作っている時であった。
これは彼女が初めて制作した作品で、威力は予想より遥かに小さかった*――
作業小屋をぶっ飛ばし、灰燼だけを残した。
その時、がっかりしたクレーは灰塵から浮かんできた炎のような「神の目」を発見した。
なぜクレーが神に認可されたか?
それが爆弾への生まれつきの才能と執着か、それとも母と同じようなマイペースか、あるいは彼女の純真な心の影響なのか?
答えがどうであれ、要するにクレーは何の心配もいらない年齢で、誰もが欲しがる神の目を手に入れた。
今後の人生に何があろうと、彼女はこの「プレゼント」を手放さない。

刻晴

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キャラクターストーリー1
名門出身の刻晴は多くの璃月人よりも、岩王帝君が璃月に与えた影響を深く理解している。
まるで輪廻は巡るように、数年ごとにある迎仙儀式の終了後、璃月の商業界には必ず大きな変化が訪れる。帝君が下した政策に璃月の心が左右される。喜ぶ者がいれば悩む者もいる。
貧しい人はこれを機に大金を稼ごうとする。一方金持ちは自分の事業が影響されないように祈る。経済建設に力を入れるより、商人は信仰型の投資を気に入る。
現在の璃月がそういう風になってもおかしくはない。帝君の神権に頼っていれば、お金に困ることはない。
刻晴はずっとこれを問題視していた。
もしいつか、帝君がこの責任を履行しなくなったら、璃月はどうなるか?
璃月の現在の繁栄は、砂浜に建てた壮大な砂の城のようだ。海の潮の流れを決めるのは人間ではない。
当然なことに、刻晴の考えを支持する人は少ない。他人からすれば、人間の一生など、璃月に比べると瞬きほどの刹那で、杞憂するに値しない。
だが刻晴は違うと考える。そのだらしなく弱い考えこそが、人類の存在意義を否定する。存在意義のない人間は、守る意味もなくなる。
人々にもっと進歩して欲しいと、彼女は勇敢に希望を抱いた──帝君の愛は溺愛ではないか?なぜだらしない人がいるか?社会の動き方は正しいのか?
人の運命に関することは人が行う。そして人はきっと上手くやっていけるはずだ。
そしてついに、彼女が迎仙儀式であの名言を生みだした。
「ここ千年、帝君がずっと璃月を守ってきました。しかし千年後、一万年後、十万年後も、私たちを守ってくれますか?」
この発言を聞いた帝君は意味ありげに笑った。その笑いにどんな意味があるのかは、帝君しか知らないだろう。


キャラクターストーリー2
刻晴の考えに追いつける人がいたとしても、彼女の行動に追いつける人はいない。
人々の手本になるため、刻晴はいつも他人の数倍の努力をしている。同時に彼女は全ての「怠惰」と「非効率」を嫌っていた。
人類の権力も寿命も神と比べ物にならない。にも関わらず、怠惰と躊躇にかまけていては、神を統治者の座から引きずり降ろす日は永遠に来なくなる。
その考えのせいで、彼女の行動はいつになっても他人と同調できなかった。
仕事が終えるまで、彼女は決して安まない。例え、半月かかる仕事でも、彼女はなんとかして1、2日に完成する。
刻晴の「完成」はただ終わらせるのではなく、その業務に関するあらゆる細部まで、完成させることを意味する。
他人からすれば、刻晴はいつも効率的で完璧だ。
しかし、刻晴のような行動力を持つ人はほとんどいない。彼女の仕事に協力した者は、皆三ヶ月以内に辞めていく。
「そんな急がなくてもいいじゃないですか」と刻晴は何度も訴えかけられたが、彼女は全て無視した。
しかし、頻繁に人事を変更するのも非効率的だと気付き、刻晴は一応譲歩した。
現在、刻晴の協力者たちが3年後や5年後の計画に着手してるところを見かけても、決して驚くことのないように──先に行かせてやっているだけで、刻晴は彼らにすぐ追いつくだろう。


キャラクターストーリー3
「昨日の経験は明日の力になる」これが刻晴の人生の信条の一つである。
玉京台にいるだけでは、世界の変化を感じることはできない。雷霆の如き判断力と決断力を手に入れたいなら、大量の経験を積み重ねなければならない。
やりがいがあると思ったことを、刻晴は必ず自分でやる。昔、労働者の給与を改善する計画を作る際、彼女は現場に行き、作業員の生活を二ヶ月間、体験した。
身分も地位も高い少女が、層岩巨淵で車を引いたり、南埠頭で労働者の経験をしたり、飲食店でホールを担当していたとは想像しがたいことである。
また、仕事のついでに、労働者を圧搾した悪徳商人を通報することもあった。
悪徳商人は捕まった時、自分はなぜ逮捕されたかさえも分からなかった。彼が千岩軍に取調室に移動されると、そこには凛とした一人の少女がいた。
「俺…俺たちどっかで会ったことあるよな?」
その言葉は、彼自身も理解できなかった。
何故かというと、隣の千岩軍は少女についてこう紹介したからだ。「この方が璃月七星の玉衡様です、なれなれしくするな!」
──そうだ、そんなはずはないよな?


キャラクターストーリー4
岩王帝君が去ったことにより、璃月港は窮地に立たされた。帝君が仕切るべきだったことを、今は七星八門が担当している。
神による統治は、すでに歴史となり、昔の規則もそのまま引き継ぐわけにはいかない。しかし、千年の歴史を持つ璃月に、新たな規則を制定するのは大変難しいことだった。
始め、刻晴はわくわくしていた。この日のために、彼女はたくさん準備をしていた。だが数ヶ月経っても、彼女は土地建設の仕事だけで精一杯だった。
彼女がどう頑張っても泥沼のように積まれた仕事から抜け出せない。仮に何かを遂げたとしても、それは帝君にとっては朝飯前のことだった。
「なんでここまでしかできないの、なんで…もっとできないの?」
理由は簡単だ。そして、彼女にもすでに分かっている。
自分の「不敬」が神に認められたとは言え…今の自分は「神に取って代わる存在」になったわけではない。
しかし、刻晴の信念は強く、決して揺らがない。
あの日から彼女は家に引きこもり、様々な典籍を読み、必要な知識を再度学び直した。過去のプライドを捨て、新しい姿で未知なることと向き合う。
その時間は、彼女は謙虚にし、今まで岩王帝君への「対抗」意識を捨てさせた。
帝君と刻晴、二人とも千年の璃月のために奔走している――同じものを愛するものの間に、対立はないはず。
昔の迎仙儀式で、帝君が浮かべた謎の笑顔の意味が、今なら分かる気がする。あれはある意味認められ、期待されていた笑顔ではないのかと刻晴は思っている。
今も彼女はかつての行動力を維持している。しかし迷った時、彼女は一旦止まり「帝君ならどうするのかしら?」と考えるようになった。


キャラクターストーリー5
自分のほとんどの時間を璃月に捧げた刻晴は、時間がある際は、意外な方法で暇つぶしをする―。買い物だ。
休みの日、彼女は素朴な服を着て、友達を2、3人誘い、緋雲の丘とチ虎岩で買い物をする。
帝君がいなくなって以来、忙しくなった刻晴は、今でもこうしてストレスを発散する。ただ、少し変化がある。
ある日、買い物中の彼女は、ある小さな店で岩王帝君の二頭身土偶を見かけた。
刻晴はすぐに適当な理由をつけて、友達を別の店に行かせた。そして彼女は店に入り、土偶をよく観察した。
こんなことに時間を多く使うわけにはいかない。周りで誰も見ていないことを確認した彼女は、購入、支払い、商品の受け取りを一気に済ませる。
かばんに土偶を入れた後、刻晴はほっと息を吐いた。思わず笑顔を浮かべた瞬間、肩を友達が叩いた。
結局、この件は皆に知られてしまう。
一番神を敬っていなかった刻晴が、なぜ帝君の土偶を買ったのかと皆が驚いた。
「わ、私は自分を諫めるために買ったの!ダメなことじゃないよね!」
「自分を諫める」ことは、一応筋が通る。しかしこのような「自分を諫める」ためのグッズを、刻晴はすでに一棚分購入していた。


九死一生のヘアピン
璃月七星という身分に相応しくあるため、貴族出身のお嬢様である刻晴は、最低限の贅沢な生活を送っている。
繁華街に出没する以外、彼女は荒野で修行し自分の意志を鍛える。
冒険経験が豊富な彼女は、普通の冒険者との間に少し違いがある。彼女の荷物はヘアピンと剣だけだ。
雷元素力を付着させたヘアピンは、切れ味が鋭いナイフになり、柴刈りや獲物の処理をする際に活躍できる。
高低差が激しい場所でも、ヘアピンを地面に差し込み、その上に藤をつければ、簡単に降りることができる。
野宿する時は、ヘアピンを逆さまにして地面に差し込めば、非常に精巧な警報装置となり、何かあればすぐ、刻晴を呼び起こすような仕込みになっている。
そして、お腹が空いた時は、水中にヘアピンを投げ込めば、運の悪かった魚が何匹*浮いてくる──串を用意しなくても焼き魚を楽しめる。
物を見る目がない人に、ヘアピンがボロボロだよと突っ込まれても刻晴が怒ることはない。むしろ誇りに思っている。
「使い込まれているものの方が、魅力的に見えるのよ」


神の目
「神の目」に敬意を払わない者のランキングがあれば、刻晴は恐らく一二を争う者だ。
それは、刻晴も分かっている。自分の努力の成果は、他人からすれば全て「神の目」のお陰だと思われていることを。
そのため、彼女はこの紫色の結晶体を、自分の誇りを奪い去った、神からの挑発と侮辱だと考えていた。
「神の目」を破壊するために、彼女は無数の方法を試してきた。強火で丸3日間焼いてみたり、たくさんの石を載せた鉱車で轢いてみたり、または群玉閣の窓から捨て*みたりもした。
しかし残念ながら、これらの方法は全て失敗に終わった。
成す術がなくなった刻晴は、悪人が持つより自分が保管するほうがマシだと、仕方なく彼女の「神の目」の存在を受け入れた。
だが時を経て、刻晴は次第に「神の目」を認めるようになった。神の目には、神の意識は存在しておらず、むしろ様々な場面で活躍できると気づいたのだ。彼女は、この力を活かしていくことを決めた。
「力の源よりも大切なのは、その所有者よ」
過去の「神の目」に対する意見がどうであれ、今では、この力はもはや刻晴の一部となっていた。
あの時、神の目が壊れなくてよかった。でないと、今きっと後悔しているた*だろう──彼女は実用主義者なのだから。

コレイ

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キャラクターストーリー1
文字が知恵の媒体であるならば、文字を学ぶことは間違いなく学問の出発点である。そしてコレイは、知恵という名の山のふもとに到着したばかりのようだ。
彼女が初めてガンダルヴァー村に来た時、思ったことをいつも取り留めもなく言うため、ティナリを相当悩ませたという。ティナリは大マハマトラに何度も確認し、自分はまだ「補講」を受け持つ気はないと繰り返し訴えた。
紆余曲折を経たものの、コレイは師匠の指導を受けられるようになる。ティナリはコレイの語彙力を高めるため、読書をさせようとさまざまな書籍や文献を集めた。
子供向けのテイワット文字辞典や頭を悩ませるような科学論文を除くと、コレイがもっとも読んだのはモンドの童話絵本だ。
その理由は単純だ――童話は文字が少なく絵が多いからである。文字が読めなくとも、絵でなんとなく理解することができる。
しかし、童話ばかり読んでいても授業についてはいけない。そこで語彙力が少し上がった頃、コレイは教科書以外にも読める本を探し始めた。
とある噂で、稲妻には「娯楽小説」と呼ばれる本があることをコレイは知った。それは論文よりも理解しやすく、童話よりも挿絵が少ないため、今のコレイにはちょうどいい。
その上、「娯楽小説」は買った当日に夜更かししてでも読み終える人がいるほど、ストーリーが魅力的だそうだ。
夜中に読書するのが難しかったコレイにとって、これは試してみる価値のあることだった。
ある日のパトロールの終わりに、コレイは『鬼武道』を手にワクワクしながら寮に駆け戻り、すぐさま読み始めた――その夜、コレイは確かに眠れなかった。
「封印された力!」、「孤高の復讐者!」、「俺に近づかないほうがいい」、「神々の恩恵など俺には無縁だ!」
――コレイはそれらの言葉が頭から離れず、布団で頭を覆っては一晩中寝返りを打っていたという。


キャラクターストーリー2
テイワットには由来が定かではないが、恥をかいた時の状態を表すことわざがある。
「――木のうろがあったら入りたい。」
コレイが本で覚えたばかりの言葉を繰り返しながら、森の中を歩いていた時のこと。
スメールへ戻る前に、彼女はある友人と約束をした――将来、自分と同じように重い病で絶望している人たちを助けるため、優れた医術を身につけると。
しかし、誓いを立てるのはその一瞬の熱意で済むことだが、実現をするには何年もの努力が必要になる。先ほど終わった試験で、コレイはまたしても現実と夢の間に立ちはだかる壁にぶつかった。
「こんなこと…アンバーには言えない。」
しかも旧友に手紙を書くには、師匠に代筆を頼まなければならない。試験が上手くいかなかったことを誰かに相談したいなんて、師匠にどう言えばいいのか。
ちょうどその時、コレイの独り言を聞いたかのように、人がひとり入れるくらいの大きさの木のうろがパトロール中の彼女の前に現れた。
「いやいや、童話ではアランナラに悩みを打ち明けるなんていうのがあったけど…さすがにそんな年じゃないし…あっ、でも周りに誰もいない…」
気が付くと、コレイは木のうろの中で頭を抱えながらしゃがみ込んでいた。
堅固な要塞のような暗闇が、現実のあらゆるプレッシャーを遮断してくれた。
コレイは内向的な性格なため、分け隔てなく明るく人と接することができない。そして、アンバーのように明るい人を真似ても、困難や寂しさを無視することができなかった。
頭を悩ませていたコレイは、スメールに帰ってから溜まったストレスを嵐のように木のうろへとぶつけた。
「コレイ、またあの辺りをパトロールしているのか。」
数日後、最近頻繁にコレイがパトロールしているルートと、彼女が進歩していることの分かる答案用紙を見て、ティナリは考え込んだ。
「森で成績を上げる方法でも見つけたのだろうか?うん、いいことだ。他の巡回路は他のレンジャーたちに任せて、コレイの邪魔はしないでおこう。」


キャラクターストーリー3
筆記試験を除けば、コレイの成績は悪くない。特に「サバイバル」に関しては優れたスキルを持っている。
スメールの森には毒を持つ野獣や防ぎようのない想定外の事態など、危険が数多と潜んでいる。レンジャーを目指すなら、それらに対して万全の準備を整えなければならない。
だが、コレイはそういったことに対する心得を持っている。筆記試験の成績が同僚よりも劣っているのは、ただ本に触れるのが人よりも遅いかった*せいだ。実戦における彼女の能力は優れたもので、驚くような発想を見せてくれる。
とげのあるツル草を靴に巻きつけてグリップ力を高めたり、潰した毒キノコの汁で獣を捕る罠を作ったり…
これらアイデアを用いることで、彼女は森の中を安全に行き来する。そして、森で迷子になっている人や毒のある物を食べてしまった人、獣に襲われている不運な人たちを助けてきた。
コレイに助けられた通行人は、誰もが彼女の不思議なサバイバルスキルに驚かされ、その優しさと熱意に心を打たれる。
危険が差し迫ろうとも、食料が不足していようとも、そして助けられた人が情緒不安定になろうとも、コレイは太陽のような温かさで受け止めてきた。彼女は自分が傷だらけになり、飢えることになろうとも気にせず、一心に人を助ける。
ただ唯一受け入れがたいのは、コレイが危険に遭遇した時に食べているものだろうか。すり潰したサイトゥン桃の種だけでなく、頭を取り除いたホタルも容赦なくいただく。体力さえ補えれば、彼女は気にしないのだ。
そんな彼女に会った人は、このレンジャ一見習いの過去がどうしても気になってしまう。
――まるで、大自然を自分の故郷のように扱う彼女。どのような生い立ちがあって、このあどけない少女をこのようにしたのだろうか。


キャラクターストーリー4
スメールに戻る前、コレイは長いこと流浪していた。
流浪と旅の違い、それは出発点は分かるが終着点が不明なことだ。
彼女の流浪はとある焼けた廃墟から、またはそれよりも前、ある病気に罹った時から始まった。それは、闇へと続く果てしない悪夢に至る運命。
彼女と共に廃墟から脱した仲間は、空を舞う風や砂に紛れたか、魔神の残骸による苦しみに倒れていった。
病と呪いに蝕まれた彼らに、身を寄せるところなどない。ゆえに、誰もいない森と原野に助けを求めるほかなかった。
大自然は優しくも残酷だ。病気だからといって恵みを与えることを拒まないが、呼びかけたからといって何かを与えることもない。
仲間はどんどん倒れていき、彼らの残した教訓が後に続く者に危険な状況下で生き延びるすべを教えた。
そして、最後の仲間が倒れた。コレイがそこから学んだのは――「誰にも手を差し伸ばしはしない」ということだった。
当時、コレイたちは崖を背にして、命がけで走っていた。その背後からは野獣の唸り声が迫る。
道が狭かったからか、それとも別の原因か、唯一残っていた仲間とぶつかり、コレイは崖から落ちてしまう。
幸い、彼女は間一髪で生えていた枝を掴むことができた。もう片方の手を思いきり伸ばし助けを呼ぶ。
しかし、仲間は複雑な表情を浮かべた後、迷わず一人で逃げてしまった。
ただ、その仲間はあまり遠くへは逃げられなかったようだ。野獣の唸り声は逃げていく足音よりも速く、瞬く間に追いつかれたことが分かった。野獣の捕食本能は、崖の下で震えるコレイに目もくれなかった。
コレイは密かに手を引っ込め、今にも折れそうな枝にしがみつきながら、頭上の気配が消えるのを待った。
そして、野獣の唸り声と仲間の悲鳴が消えた。
コレイは一緒に逃げてきた仲間を憎みはしなかった。もし立場が逆だったら、違う選択をしていたとは言い切れなかったからだ。
この時、コレイの頭に浮かんだのはただ一つの思い。
人を助けるにせよ、助けられるにせよ――
「もう誰にも手を差し伸ばしはしない。」


キャラクターストーリー5
コレイが再び誰かの手に触れたのは、ある年のモンドのバドルドー祭でのことだ。
街は鮮やかな装飾で彩られ、多くの人で賑わっていた。夜のとばりが空を染め上げ、祭りの雰囲気が広がっていく。
炎のように赤い少女が狭い木箱からコレイの手を取ると、人混みへと引っ張って行った。
人々は集まり、輪投げや的当てといった単純で簡素な出し物に笑顔を浮かべている。
当時、コレイには理解できなかった。このような遊びが上手くても、外で食料を得ることなどできないからだ。
しかし、一緒にいた少女は成功するたびに喜び、手に入れた賞品を子供たちに配っていた。
コレイは不思議に思う――賞品が目当てでないなら、どうしてこんなものに参加するのか?いったい、それの何が楽しいのか?
彼女はこっそり的当てのパチンコを手に取り、試しに撃ってみた――すると、十数発のうち一発だけ的の端に当たった。
「当たった!!」と興奮した様子で振り返り、「おい!見ろよ…」と大きな声を出す。
その時、彼女は自分がそれに夢中になっていたこと、そして赤い服の少女が既にいなくなってからずいぶん時間が経っていたことに気づいた。
それから数日、コレイは練習に没頭した。次第にゴムを引く動作や発射音にも慣れていった。そして長い練習の末、ついに十数発のうち外すのがたった一発になった。
ゴムを引くたびに、コレイはあの夜、初めて的に当てた時の感動を思い出す。
そして、人混みへと引っ張ってくれた少女の、太陽のように温かい手のひらを思い出すのだ。


コレアンバ―
成長とは、未熟な過去の自分に勝つことである。
コレイはよくガンダルヴァー村の子供たちのためにおもちゃを修理したり、レンジャーの同僚から木の枝などに引っかけて破いた衣服の修繕を頼まれたりする。
とはいえ、コレイは生まれつき手仕事が得意だったわけではない。それどころか、初めて服を縫った時は、とんでもない状況になったそうだ。
これはコレイがちょうどモンドを離れることが決まり、修繕した古着をアンバーに返すようリサに頼んだ時の出来事だ。
縫いはしたものの、くねくねと踊るような縫い目が服全体を這っており、それを着て人前には出られないほど酷い状態だったそうだ。
リサは笑うか批判するだろうと、コレイは予想していた。
だが意外にも、リサは背中に回してたコレイの手を取り、丁寧に手当てしてくれたのだ。
彼女はコレイの指先が傷だらけになっているのを見てもまったく驚かず、「まるでググプラムをボールにして一晩中遊んだみたいね。」と言った。
「スメールで勉強する時は、そう焦っちゃダメよ、コレイちゃん。」と、リサは笑いながらアドバイスをした。「何事にも初めてはあるわ。その初めての難しさに慣れていくことが、成長というものよ。」
コレイは気づくと顔が赤くなっていた。彼女はまだ、人の親切を受け入れるのに慣れていなかったのだ。
彼女はまだ子供で、そして子供はいずれ成長する。
この世に絶望していた子供は希望を取り戻し、苦手だったパチンコも次第に狙いを定めることができるようになった。
傷ついた子は、他の子のお手本になるよう少しずつ成長していく。
ガンダルヴァー村では、やんちゃな子供たちがコレイの周りに集まり、憧れの眼差しを送っている。
「かわいい猫!本当に手先が器用なんだね。」「コレイ姉ちゃん、その子なんていうの?」
コレイは精巧に、そして丁寧に縫われた猫の人形を高く挙げると、珍しく誇らしげに顔を輝かせた。
「こいつの名前は――『コレアンバー』だ!」


神の目
大雨が降り、落石と泥がコレイの帰路を阻んだ。
コレイは崖の下で焚き火の支度をし、隣にいる震えの止まらない少女を温めようとした。
この河谷は、彼女が毎日パトロールをしている森から一日かけて歩いたところにある。彼女一人なら、雨の中を帰ることも不可能ではない。
しかし、長いこと森で迷子になり、飢えと寒さに苦しんでいる子を一人連れ帰るとなると、今のコレイには難しいことだった。
少女の顔は青ざめ、額は熱を帯び、母親のことをつぶやいている。
コレイはその子の母親のことをはっきり覚えている。彼女はガンダルヴァー村へと焦燥し絶望した様子で助けを求めてきた――その表情は、まるで苦しむのは娘ではなく自分であって欲しかったと言っているようだった。
その母娘はキャラバンと共に河谷を越え、キャンプを設営して休んでいたそうだ。しかし、娘が逃げ出して森から帰ってこなくなったという。キャラバン隊はその子を探そうと力を尽くしたが、見つからなかった。
母親は仕方なくガンダルヴァー村へと戻り、助けを求めたのだ。
今、ティナリはレンジャーの先輩たちを連れて会議のためシティへ行っている。あまりにも危機的な状況であるため、師匠の帰りを待つことはできない。地面は大雨に洗われ、救助犬の鼻もあてにならない。
コレイはバッグと弓と矢を手に、一人森へ向かった。
それと同時に、雷鳴と雨音の中、獣の低い唸り声が徐々に近づいてきた。
過去の嫌な記憶が蘇る。しかも、もっとも直面したくない記憶だ…
雨が止むと、知らせを受けたティナリが休むことなく、急いで現場に駆けつけた。
崖の下の道には戦いの跡が続いており、遠くで数匹の獣が倒れている。その先にコレイと少女が互いに肩を寄せ合って、静かに眠っていた。
ティナリの心臓が跳ねる。彼には分かっていた、目の前にいるコレイがここまで強くないことを。まさか、彼女は使ってはいけない力を使ったのではないか。
これは毒を飲んで渇きを癒やす行為、コレイの病状を悪化させてしまうことだ。早く大マハマトラに連絡しなければ…
ティナリの足音で目を覚ましたコレイ。彼女は慌てて身振り手振りで、隣の女の子を驚かさないよう音を立てないでと師匠に頼んだ。
ティナリは心配そうに彼女の様子を確認する。「コレイ…君、もしかして…」コレイは首を横に振り、手を上に伸ばすと、一晩中握りしめていた拳を緩めた。
「師匠、あたし強くなったんだ!みんなの努力を無駄にしないためにも、今日からはあたしがみんなを守ってみせる。」
彼女の手の中で、神の目が静かに光を放っていた。

ゴロー

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キャラクターストーリー1
ゴローは元々、海祇島の一般兵だった。ある特別行動中、ゴローが所属していた「チンアナゴ二番隊」は、前代未聞の危機に遭遇した。
隊長が矢で射られて亡くなり、生き残った隊員も山の中に閉じ込められてしまったのだ。
任務を続けるべきか、救援を呼ぶべきか、敵と交渉するべきか…目の前には問題が山積しているのに、山には静寂が漂うばかりだった。
指揮者はおらず、兵糧もなく、隊の全員が危機に瀕していた。士気は低下し、多くの者の頭には「降伏」という考えも浮かんでいた。
ゴローが前に出たのは、そんな時だった。彼は「交渉」と「降伏」という意見を撥ねのけ、大胆な作戦を立案したのだ。
隠れることをやめ、ほとんどの兵士を率いての攻撃を装い、残りの兵士が救援を呼びに行くための隙を作る。そして援軍が来たら、ゴローと協力し、敵を挟み撃ちにするというものだ。
作戦が失敗したらどうするのかと問われたが、それに対しゴローはこう答えた。
「敵が包囲網を強化すれば、状況はさらに不利になる。今ならまだ生き延びられる可能性が残っている。だから全力で戦わなければならない。」
「もし作戦が失敗したら、俺が全責任を負う。」
何日も寝ずに持ちこたえ、疲労困憊だったゴローたちはついに、珊瑚宮心海率いる援軍を迎えることができた。
その後、彼はチンアナゴ二番隊の隊長に任命され、現在の海祇島「大将」にまで昇進したのである。


キャラクターストーリー2
兵士たちが考えるゴローとは、威厳はあるが傲慢さは感じない、そんな将領である。
彼は明るく素直な性格で、部下のことを仲間と思い、喜びや悲しみも共に分かち合う。
珊瑚宮心海は、軍におけるもっとも重要な要素とは、装備、兵糧、俸禄の三つだとゴローに教えた。
それ以来、ゴローは自ら部下に武器の手入れの仕方を教えるようになった。さらに、兵糧と俸禄の配布にも誤りが生じないよう、厳しく管理している。また、海祇島の「大将」であるゴローは、常に自分で部隊を率いて戦う。
前線にいる彼の後ろ姿はまるで軍旗のように、後ろに続く兵士たちを鼓舞しながら進んでいくのだ。
これこそ、兵士たちがゴローを尊敬する理由であろう。心海と同じく、ゴローは兵士たちの命を何よりも大切にしている。だが、自分のことはそれほど重要ではないと思っているようだ。
事情を理解していない人は、ゴローは大将らしくない、ただの「小僧」だと笑うだろう。
しかしその「小僧」こそが、海祇島の兵士たちにとって最高の大将なのだ。


キャラクターストーリー3
ゴローは勇敢で決断力があり、部下を率いては、常に自分よりも強い敵に勝利する。
しかしそんな彼にも、衝動的になるという短所があった。
戦うほどに気が高ぶり、自分を抑えられなくなってしまうのだ。
戦争とは残酷なものであり、何十年も戦場に身を置いてきたベテランと比べれば、ゴローは間違いなく経験不足である。
しかし、彼の高い学習能力によって、このような欠点は徐々に改善されていくだろう。
珊瑚宮心海は、軍隊の将領に虎の巻を用意してくれる。だが虎の巻の使い方は、将領自身に一任されていた。
ゴローはいつも、虎の巻からその時の状況に応じて最適な戦略を見つけ出し、それを最後まで貫き通す。
時間が経てば、いつか虎の巻のすべてを理解することができると、彼は信じている。そしてその時が来たら、ゴローはさらなる自信を手にすることができるだろう。


キャラクターストーリー4
ゴローは八重神子に頼まれて、八重堂で臨時の「仕事」をしている。
目狩り令が撤廃された後、海祇島と幕府の交渉がうまくまとまったことで、両者の距離はますます近付いていた。
ゴローは時々、鳴神島の変化を見たり、最新の書籍を買ったりし、そしてある約束を果たすため、八重堂へと足を運んでいる。
八重神子はゴローのために、『月刊閑事』に匿名の質問欄を設けた。読者たちが自分の悩み事を手紙に書き、八重堂に投稿する。それを読んだゴローが、自分の見解を述べるというものだ。
読者の手紙とゴローの回答における個人情報は、八重堂を経由する過程で特殊な処理が施され、匿名に書き換えられる。
八重神子曰く、彼女がゴローを選んだ理由は、彼がよく部下と交流しているからだそうだ。
この読者からの質問欄は人気を博したが、八重堂の編集者はゴローに原稿料を渡すたび、なぜかこんな質問をする。
「そういえばゴローさん、ヒナさんって知ってる?」
「最近わりと人気の作家だと聞いてるが、それがどうかしたのか?」
「いえ、何でも…」


キャラクターストーリー5
兵士たちがゴローにすべてを語らないように、ゴローもまた、口にはしづらい悩みを抱えていた。
例えば、風雨に長くさらされるとしっぽの毛がくすんできて、やつれて見えるとか。手入れをしたいのに、正しいやり方が分からないとか。
また、部下と入浴する際、自分の体格に劣等感を覚え、悔しい気持ちになることもあるらしい。
さらには、八重神子のような捉えどころのない女性を前にすると、瞬時に警戒態勢に入ってしまい、まともに接することができなくなることも…
ゴローは威厳を保つため、このような悩みを兵士に打ち明けることは避けていた。
そして海祇島の兵士たちも、彼の悩みをある程度察することができたとしても、気付かないふりをするのだ。
ゴローの悩みは増す一方だった。しかし旅人が現れたことで、人の悩みを解決するのが得意な海祇島の大将にも、自分の悩みを打ち明けられる仲間ができたのだった。


登山着
ゴローの趣味の中でも、「登山」は三本の指に入るだろう。
仲間と共に山に登って汗を流し、周囲の美しい景色を眺めることは、心と体を鍛え、団結力を高めるのにも役立つ。
この趣味をより楽しむために、ゴローは、旅の商人から登山着一式を購入した。
この登山着は特別高価なものではなかったが、頑丈さと耐久性を兼ね備えており、登山中、何度も危険な場面でゴローの身を守ってくれた。
武器を大切にするのと同様、ゴローはこの登山着を大切にしてきた。これからもこの登山着が、彼の旅のお供となることは間違いないだろう。


神の目
ゴローは一時期、敗戦の責任をすべて自分一人のせいにしていた。
「俺がもっと強かったら、戦局を変えられたかもしれない。」
その悔しさを抱えながら、ゴローは自分の力で仲間を勝利に導こうと、日夜、弓の訓練に励んだ。
しかし、戦場で腕を磨いてきたゴローは、屈強な兵士が孤立して倒れ、生け捕りにされたり、不利な状況に置かれた力ない兵士たちが、協力して敵を倒したりする場面を目の当たりにした。
その時ゴローは、個人の力には限界があるのだと悟ったのだった。
個人が強くなることはもちろん重要だが、それ以上に、兵士が一致団結して戦うことが肝要なのだ。
兵士は集団で強くなってこそ、戦場で無敵になれる。
それに気付いたゴローは、弓術の頂点を追い求めることをやめ、自分の時間と労力を割いて、周囲の者と共に強くなる道を目指した。
今にして思えば、これこそが神の目を得る契機となったのかもしれない。