物語 4

Last-modified: 2023-11-04 (土) 14:46:21

物語:キャラ/ア-カ | キャラ/サ-ナ | キャラ/ハ-マ | キャラ/ヤ-ワ || 武器物語 || 聖遺物/☆5~4 | 聖遺物/☆4~3以下 || 外観物語
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ヤ行

八重神子

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キャラクター詳細
鳴神大社を司る大巫女であり、白辰の血筋を継ぐ者。「永遠の眷属」であり、その友人…そして、娯楽小説出版社「八重堂」の恐るべき編集長でもある…
八重神子の肩書きは、彼女の性情と同じように予測しがたいものだ。
様々な目的から、神子の「本性」を探ろうとする者がいる。その数は、天領奉行府から「八重堂」の入り口まで並ぶほど。しかし、過去に成功した者はほぼいない。
なぜなら、神子は意図的に何かを隠そうとしたことなど、一度もないからだ。千の相と百の变化は、ただの気まぐれに過ぎず、お題のない謎掛けなど端から成立しない。
だから、これだけ覚えておけばいい。――彼女は、永遠に「英知と美貌を兼ね備えた八重神子様」であることを。


キャラクターストーリー1
その昔、八重堂の編集たちは、編集長様にとある原稿を推薦したことがある。
その作品は秀逸な文章で綴られており、構成も実に巧妙、題材も当時流行りの恋愛喜劇であった。
かようなダイヤの原石ならば、ほんの少し磨いてやり、凝ったイラストを添えてやれば…きっと飛ぶように売れるだろう!と考えたのである。
だが、その予想とは裏腹に、それを読んだ八重神子は喜ぶどころか、深くため息をつき、各担当編集たちを呼び集めた。
担当編集は尻込みしながらこう言った――「八重様…そのような題材を書くよう勧めたのは私です…今もっとも流行っている題材だと思うのですが…」
編集の疑いの眼差しを受けつつ、神子は自らの意見を率直に言った――本来、斬新な観点を持っておった小説が、題材により縛られておる。一言で表すなら「自由度が低い」。
いわゆる売れ行きの良い題材や型を踏襲した作品は…所詮十年ごとに変わる流行に過ぎぬ。
時代の好みに合わせるのは、確かに近道と言えよう。だが、元々時代に飲み込まれぬ素質を持つ作品ならば、その流れに乗る必要もないであろう?
「妾の代わりにその新人作家に伝えるのじゃ。題材や型にこだわる必要はない。今ある『物語』と真剣に向き合えばよい、とな。」
作品を投稿した作者は、何かを悟ったかのように筆を走らせ、考えをまとめるため引きこもった。その数ヶ月後、神子と担当編集のもとに、「斬新」で「新たな」原稿が届いた。
それを読んだ担当編集は唖然とし、これまであらゆるものを受け入れてきた八重神子も眉をひそめた――
「ふむ…どうしたものかのう…これは確かにあまりよくない。」
「そうですよ!題材にこだわる必要はないと言っても、『雷電将軍に転生』なんてのはあまりにも度が過ぎています!」
「題材?それなら問題はないじゃろう。ただ――こやつの筆名があまりにも平凡で、どう考えてもこの小説に釣り合わぬのじゃ。」
「筆名の話でしたか…えっと…八重様がいいのでしたら、私も言うことはありません。」
程なくして、この小説の作者は「堪解由小路健三郎」という、編集長から提案されたとても長い筆名で小説界に現れることになる。
後日、編集長のひらめきで、「八重宮司に転生したら」という題材で原稿の募集が始まったが、それはまた別のお話。


キャラクターストーリー2
宮司という身分でもっとも不便に感じる点は、神社の祭りが開催されるたびに正装で参加し、社殿に座さなければならないことだ。
煌めく花火が夜空に打ち上がる中、神社は人で溢れかえる。それなのに、自分は厳粛な微笑みを絶やさず、神社にずっと鎮座していなければならない…
このような不幸は、油揚げがこの世から完全に消え去ることよりも恐ろしい。
雷神の眷属は寿命が長く、瞬く間に百年が過ぎる。長い年月において、退屈こそがもっとも抗いがたい敵なのだ。
もし、朽ちた木のように一日中座って過ごすのに慣れてしまえば、世の趣と機会を見つけるのが得意な者が、この世界から一人消えることになるだろう。
だから、たまには自分のために楽しむのも、極めて合理的で必要なこと。
たとえ宮司の権利を少し利用したとしても、それは致し方なきこと!
祭りの夜、社奉行から特別に送られた長野原特製花火を見ながら、八重宮司は満足げに頷いた。
その夜の式典はこれまでと同じように、洗練された礼儀作法と厳格な規則のもと執り行われた。
夜闇の中、正座を維持する「宮司様」の見目麗しい姿に、多くの巫女たちが羨望の眼差しを向ける。
流れ星の如く美しい光の雨の中、静かに正座し、祭りに訪れる人々を眺める。
花火の音にかき消されながらも、りんご飴を噛むその口からぽつりと声が漏れた。
「妾が宮司の推薦を受けた時は、祭りを遠目に見ることしかできなくなるなど…聞かされておらんかったのじゃが。」


キャラクターストーリー3
趣味の追求と娯楽の探求、神子が日々を送る上での原則である。
人間を研究するのが好きな彼女にとって、「立場」と「美徳」は、「面白い」の遥か後方にある評価基準に過ぎない。
信仰の異なる大巫女であろうと、敵対陣営の大将であろうと、神子の興味を惹く対象となり得る。
…しかし、時にこの気持ちが、些細な問題を招くことがある。
神社でもっとも神子の興味を惹くのが、真面目な部下や憧憬の念を抱いている後輩などではなく、鹿野奈々という巫女だ。
神子と小説の趣味を共にする同志――鹿野奈々は、早柚の世話に日夜頭を抱えている。
屋内で横になった神子が時折窓をちらりと見ると、逃げる早柚の姿が見え、続いて怒りに満ちた慌ただしい足音が聞こえてくることがある。
その関係はまるで稲妻と雷雨のようで、神子を楽しませてくれるのだ。時には騒ぎをより長引かせるために、わざと間違った方向を伝えたこともあった。
ある時、昼寝する時間を確保してくれた神子に早柚は礼を言い、午後の日差しが一番気持ちよく当たるところを教えてくれた。
それに触発されてか、とある晴れた日、神子は稲妻の一般的な女性に姿を変え、山を下りて一日を過ごした。
町にある「秋沙銭湯」、花見坂の「木南料亭」、通りにある「小倉屋」…どれも欠かさず、すべてを満喫した。
夕方になると、旅先で聞いた動物の失踪事件の依頼をするため、「万端珊瑚探偵所」へ向かった。
「シクシク、飼い主が大泣きして可哀想な思いをしておる。どうか探偵殿、何とかしてやってはくれぬか。」
それを伝えた後、彼女は再び町を歩いた。その顔には、いつしか笑みが浮かんでいた。
このような身分で稲妻の日常生活に関われるとは、実に愉快なこと。
通りがかった九条裟羅から、疑いの眼差しを向けられなければもっとよかっただろう。
ただ「秋沙銭湯」の店主には申し訳ないことをした。異国情緒あふれる温泉は実に良いものであったが、うっかり狐の毛を湯船に少し残してきてしまった。


キャラクターストーリー4
遥か昔、人間が妖怪たちの物語を話す時、まだ「昔々」という言葉をつける必要がなかった時代。
大空には天狗、荒野には鬼衆、小道には妖狸、俗世には仙狐がいた。
鳴神という大きな旗印のもと、妖の衆は想像を絶するような力をもってして焼畑農業に手を貸し、苦境の時代を生きる人間たちを助けた。
山に避難し、海辺に城を築いたのが稲妻の始まりである。
妖の中でも「白辰狐王一脈」はもっとも尊く、大妖怪を代々輩出することから、俗世でも無数の伝説を残していた。
稀に妖たちが集まって酒を酌み交わすことがあるが、その時には自分たちの新たな伝説を自慢げに話すのがお決まりとなっていた。
酒を飲みながら話す言葉は、どうしても事実と異なる部分が出てくる。だが、そんなことを気にする者などいない。ただ楽しく話を聞ければいいのだ。時を経て、いつしかそれは「百物語大会」となった。
当時、盃を高く掲げながら談笑し、妖たちの目を引き付けたのが有楽斎だ。宴を催した狐斎宮も、笑みを浮かべずにはいられないほどのものであった。
まだ幼い狐の姿であった神子は、いつも狐斎宮の肩に乗り、有楽斎が話す物語の矛盾を指摘していた。
無論、有楽斎も頭の回る知恵者である、髭を触りながら話の修正をした。
だが、それでも神子は新たな矛盾点を見つける。斎宮様が笑いながら、「皆、次のくだりが聞きたい頃よ」と止めるまで、そのやり取りは繰り返された。
酒が三度回ってくる頃には物語も数巡し、どの妖もまともに言葉を紡げなくなるほど酔っぱらっていた。
そうなると妖たちは語るのをやめて、妖力を用いて空へ駆け上がると、誰が一番上手く空と月を覆い隠せるか競い合うのだ。
それは――「無月の夜、百鬼夜行」と呼ばれた。
あれから五百年の時が経ち、当時の小狐も今や天地を揺るがすほどの大妖怪となった。
かつて共に酒を酌み交わした妖たちは、戦争と歴史の中に消え、生き残った血筋も日に日に薄れてゆく。
そうして「百鬼夜行」は、ついに「昔々」の伝説となったのだ。


キャラクターストーリー5
稲妻の刀剣は古来より世に知られており、「雷電五箇伝」は国にとっても重要なものである。
だが、わずか数年のうちに五つの伝承はそのほとんどが失われた。
無数の有力者がその陰謀に巻き込まれ、関与した一族は皆、責任を負って追放された。
この一件により社奉行の神里家でさえ、部下の監督不行き届きで責任を問われることとなった。
だが、将軍が最終的な判断を下す前に、長いこと政事に関与してこなかった宮司様が突如将軍に進言した。これにより、嵐の中にいた神里家は救われたのである。
神里家は大きな被害を受けたものの、免職だけは避けることができた。
それから数年に渡り、巷では宮司のその行動について、様々な憶測が飛び交った――
ある説では、社奉行は鳴神大社と親密な関係にあり、此度の行動は自らに忠誠な代弁者を増やすためだと言われた。
――しかし、鳴神大社は元より一派を築いており、ましてや日常的に宮司が政事に関与することはない。社奉行を助けても見返りは少なく、賢明な選択とは言えないだろう。
また、ある説ではこう言われている。宮司も当然不審に思ったが、巻き込まれた者があまりにも多かったのが原因ではないかと。社奉行にまで影響が及べば、稲妻の情勢が揺らいでしまうと考えたのだろう。
――ぱっと見、理にかなった憶測のようにも思えるが、よく考えればそうではないことが分かる。権力を持った一族の栄枯盛衰は世の常。たとえ神里家が力を失ったとしても、新たな主が社奉行に就く、ただそれだけのことだ。
その他にも、嵐が収まった後に神子が当時の神里家当主と密談していたという話がある。
――しかし、老齢で深い傷を負った神里家当主など、まさに風前の灯火。大局を左右するほどの力が、どこにあると言うのだろうか。
そうして、それら憶測が真相を暴くことはなかった。
だが、人々は知らない。当時、神子から送られた言伝が、さながら家訓の如く神里家に残されていることを。
「神里家が此度の件において生き残れたのは、将軍の寛大さゆえのこと。これから先、決して将軍の恩義を忘れるでない。」
この言葉は因縁の種となり、社奉行の未来を位置づけることとなった。
この先、稲妻に嵐が訪れたとしても、社奉行神里家は受けた恩義を忘れず、「将軍」の永遠へ至る道を守るだろう。
それは盤上において、宮司が打った悔いなき一手であった。


「鎮火の儀」
「鎮火の儀」はかつて、天領奉行が中心となって鳴神大社で行われていたものである。これから先の一年の加護と火難除けを祈願するための定例行事だ。
稲妻の家屋は多くが木造であるため、些細な火の不始末が不幸を招くことになる。
天領奉行は将軍の命により火消し隊を設立し、鳴神大社に「鎮火の儀」を執り行ってもらって、民衆の憂いを取り除いた。
その数百年後、火の用心は次第と人々の心に根付き、大火は起こらなくなった。しかし、それでも年に一度行われる「鎮火の儀」は残り続けた。
巫女たちが舞を踊り、民衆がモラを納める…奉納されたモラは、天領奉行が四、神社が六の割合で分配された。
八重神子が「八重堂」の設立を考えていた頃のこと、資金不足に悩まされていたことがある。それを解決すべく、神社で行われている行事を見直した結果、古くから伝わる「鎮火の儀」に目を付けた。
「せっせと働いておるのは鳴神大社じゃというのに、なにゆえ天領奉行にも分け前をやる必要があるんじゃ?
それに、集まった金銭もすべて九条のじじいの懐に入り、火消し隊は年末の特別給与すら出ないではないか。」
こうして、その年の「鎮火の儀」は巫女の舞ではなく、活気あふれる娯楽小説の募集大会に変更された。
その際、大会の運営や作品の出版を担う「八重堂」も、「鎮火の儀」の経費で無事設立されている。
出版した本の収入は、当然ながらすべて神社の懐に入った。
「火災が頻繁に起こらなくなった今でも、奉納金は年々増えておる。此度の改変は民の財を無駄にするのを防ぎ、生活に支障をきたさないようにするためのものじゃ。
それに起源を遡れば、詩文や書画はもとより娯楽の一種――よもや汝ら、妾より祭礼に詳しいと言うつもりではあるまいな?」
突如訪ねてきた九条孝行を前に、八重神子はそう言い放った。
天領奉行様はやむを得ず部下と共に、暗い面持ちで影向山を下りたという。
しかし、彼らは知らない――自分たちが神社から出た次の瞬間、背後で真剣な顔をしていたはずの神子様が、注釈の途中まで入った原稿を奉納箱から取り出したことを。


神の目
「あれは天を揺るがすほどの戦いじゃった。敵は海を切り裂き、空を踏みにじり、天地の色さえも変えてやって来たのじゃ!
宮司様は御幣を手にし、厳かな姿で影向山の頂上へと向かった。
そばにいた巫女たちが秘呪を唱えると、瞬く間に雲が太陽を覆い隠し、雷鳴が轟いた!」
「……」
「戦いは長引き、たとえ宮司様であっても疲弊を隠しきれなかった。その隙を突き、敵は怒涛の一撃を繰り出す!
その瞬間、天から一筋の雷光が流星の如く降り注ぎ、宮司様の目の前に落ちた。なんとそれは――光り輝く神の目だったのじゃ!
宮司様は迷うことなくそれを掴み取り、自らの神威を見せ…」
「ストップ、ストップ!それぜったい嘘だろ?」
「ん?なら他の話にしよう。あの日、妾は花見坂で何とも豪快な『ラーメンの大食い対決』をしておった…」
「ラーメンを食べただけで神の目が手に入るかよ!」
「なんじゃ、面白いと思わぬか?汝らが聞きたいのは、こういった『物語』じゃろう?」
旅人の好奇心に対し、八重神子は謎めいた笑みを浮かべる。
「それに、たとえ『妾の神の目は箔を付けるための飾り』だと言っても――汝は信じぬじゃろう、童?」

行秋

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キャラクター詳細
飛雲商会に行秋という名の坊ちゃんがいることを、璃月港の商人はみんな知っている。
行秋は穏やかで礼儀正しく、勉強熱心でもあるため、若い世代の中で優れた存在だと思われていた。
次男である彼は、商会を仕切る必要はないが、大手商家の出で勤勉な若者が少ないこともあり、行秋は教師たちからも一目を置かれる存在だ。
父親に商人としての心得を学んでいる行秋の兄も、行秋は将来大成すると思っている。
しかし実際の行秋は、商売の心得や先人の言葉などを読んだ後の時間、いつも武侠小説ばかりを読んでいる。
時にふと姿を消すこともある。一体どこに行ったのか、何をしていたのかと聞かれると、彼はいつも「儚い人生の中で一瞬の暇を得ただけだ」と答えている。


キャラクターストーリー1
行秋にとって、「儚い人生の中での一瞬」には様々な意味が含まれている。
「万文集舎」で新たに入荷された小説を読む時があれば、「和裕茶屋」でオーナーの雲菫に新しいドリンクを開発してほしいと駄々をこねる時もある。
そしてたまに、「一人で人助け」ということを指している時もある。
匪賊を倒したり、怪物を駆逐したり、泣いている子供のために木に引っ掛かった凧を取ってあげたり…それは全て行秋にとって「人助け」なのである。
そして、武侠小説によくある「身分を隠して訪問する」物語のように、冒険の終わりに、武力では解決できないような複雑な問題を飛雲商会の力で解決することも、行秋は少しも躊躇わないのだ。


キャラクターストーリー2
ある日、行秋の兄は弟の元を訪れたが、部屋には誰もいなかった。行秋が戻った時、廊下で待つ兄とばったり会った。
「お前の部屋があまりにも汚いから、片付けておいたぞ。行秋よ、お前は俺と同じ、飛雲商会を背負う人間なのだから、みんなの手本となる人でなければならない。部屋の乱れは心の乱れだぞ。昔、仙人様が…」
30分も説教した後、兄はやっと彼を解放した。しかし、次に兄は不可解な言葉を残した。
「次からもうお前の部屋には勝手に入らない。使用人たちにも言っておくから」
訳の分からない言葉に、行秋はどう返事すべきか分からなかった。そして、そんな行秋を置いて部屋を出た兄は、悲しい表情で独り言を漏らす。
「ベッドの下に本を隠すなんて…どんな本かはお兄ちゃんは見ないでおくから。はぁ、行秋も大人になったんだな。俺の事も口うるさい奴だと思ってるのだろうか。そうか、これが…思春期というやつなのかな?」
――その後、行秋自身もおかしいと思い始めた。自分が大量の武侠小説を隠しているのは、使用人たちの知恵と勇気を試すためだったのが、なぜ今日になっても誰も探そうとしないのだろう。


キャラクターストーリー3
数年前、行秋が緋雲の丘にある本屋「万文集舎」に入り浸らないよう、父親は、武芸を学ばせるために彼を「古華派」に送り出した。しかし「古華派」はすでに没落した門派で、きちんと教えられる師範もいない。申し込んだ際に見た豪華な道場でさえ、一時的に借りたである*と行秋はすぐに察した。
もちろん、父親はそれを承知の上で彼をそこに送った。趣味や娯楽として、見た目が華やかだけの剣術を習ってもらうつもりだったからだ。
しかし、皆の予想を遥かに超える出来事がおきた。様々な知識を本で学んだ行秋は、すぐにコツを掴み、己の知識を使い、長らく没落していた古華武術を振興させたのだ――もちろん、それは少し経ってからの出来事である。
入門したばかりの行秋は、最初こそ古華派の実力に失望したものだが、世渡りに使う「小策」を目にした瞬間、やる気が沸き上がった。
石灰の粉、煙霧の砂、紙の魚、剣を飲み火を吹く…商人の家に生まれた行秋は、このような豊富な選択肢を持つ感覚が好きなのだ。
そして、きっとこれは自分の人助けにも役立つものでもある。この時、彼は古華派の奇術を全て覚えると決めたのだった。


キャラクターストーリー4
剣客のお坊ちゃんである行秋は、よく知らない人の前では物静かだが、本当はとても活発で、親しい人に対してかなりお喋りである。そして、彼の兄ほどではないが、十分やんちゃでわんぱくでもある。
そんないたずらっ子な行秋の被害者は、主に璃月周囲の山道を往来する方士――重雲である。
「重雲、重雲、昨日幽霊が出る屋敷を見つけたよ。手慣らしにうってつけだ」
「重雲、重雲、信じてくれ、あのお化け屋敷の罠は僕の仕業じゃ…えっ?お化け屋敷じゃない?えっと、それは僕も予測できっこないよ…」
「重雲、重雲、そんなに睨まないでくれ…ほら、君あざだらけだから、休んだほうがいいよ…」
「重雲、重雲、うちにスメール国の責族の家でオイルセラピーを学んできた使用人がいてさ、彼女に君の傷を診てもらおう、嫌とは言わないでくれよ…」


キャラクターストーリー5
「義侠心」という言葉の解釈は十人十色かもしれない。
自由に生きることだったり、善悪がはっきりしていることだったり、正義感を持つことだったり…
行秋にとって、「義侠心」の意味はいいことをして、いい人になることである。
本来、璃月港の商人の子供として、彼の本分はビジネスの場で生きることだ。「義侠心」からは離れていくはずだった。
しかし「神の目」のおかげで、彼はかつて憧れることしかできなかった「伝説の逸話」を、自ら作れるようになった。
もちろん、商会のことを放っておくわけにはいけないが、自らの手で人助けすることは、行秋を満ち足りた気分にさせてくれる。
行秋の笑顔が崩れるのは、他人が「任侠」に対してくだらない憶測を述べた時だけだ。
地位、名利、闇取引…任侠の心をこう解駅されると、彼は表情には出さないが心の中で必ず相手をブラックリスト――彼の一番嫌いなニンジンよりも下等の位に入れる。


『沈秋拾剣録』
行秋が自分の経歴を元に『沈秋拾剣録』という武侠小説を書き、璃月港で出版しようとした。
しかしながら、璃月港の出版社に「常軌を逸した設定につまらない物語の展開、誰もこんな少説を読まないぞ」と出版を断られた。
納得行かなかった行秋は自分で数冊を印刷し、こっそりと勝手に行きつけの本屋「万文集舍」に置いた。残念ながらこの本に興味を持つ人はほとんどいなかった、行秋はかなりショックを受けた。
でも行秋は知らなかった。たまに通りかかった稲妻の商人がこの本を母国に持って帰ったところ、小説は稲妻で大人気を得た。さらに稻妻の文人は皆行秋の書き方を模做し、たくさんの小説を書いたが、『沈秋拾剣録』を超えた小説はなかった。あれからこの小説は常に稲妻の文壇の一角を占めている。


神の目
ここ数百年、武学門派「古華派」はどんどん没落していった。最盛期の「古華派」は、槍と剣法で璃月で名を轟かせていた。噂によれば、古華派には門外不出の三つの秘術がある――槍法「刺明の法」、剣法「裁雨の法」、そして剣と槍の二刀流の「生克の法」。この三つの秘術は、歴代の当主の工夫によりどんどん強くなり完成の域に達したが、威力だけがどんどん弱くなった。そのせいで古華派が衰退し、門生も去っていった。…三つの秘術はお蔵入りになり、次の継承者の出現を待つことになった。
数年後、衰退した古華派に行秋が訪れた。ここ数百年の問で、四年以内に「武理」を悟った者は行秋しかいない。
古華の槍や剣術の神髄は「剣を指の加く使う」ことだ。璃月の数々の門派ではごく普通の考えである。しかし、行秋は違うと思った。槍と剣の使用の根本は「神の目」の使用だと。武人なら「神の目」を自身の体の一部だと思い、そして槍と剣を「神の目」の一部だと考えるべきだ、というのが行秋の考えである。すなわち、槍術と剣術の本質は瞳術そのもの。
真理を悟った行秋は、歩理の口訣を作成した。当時の古華派の当主はそれを読み涙を流し、そしてその場で宣言した。「行秋が古華派を必要とするのではなく、古華派が行秋を必要とするのだ」。あれから、この口訣は古華派の要地である「王山厅」に保管されるようになった。部外者だけではなく、門生も閲覧禁止となっている。
以下は口訣の全文である。
長きこと古華派の武を修錬し、其の奥義全て習得せし。古華槍と剣術は古臭く、今変革の時なり。
古華の剣、雨に打たれし花びらの如く。花びらは拾えど、雨は拾えず。古華の槍は燃ゆる燈火の如く。燈火は消え、そして又燃ゆ、まるで燃えたり霞のごとし。
燃ゆ霞のひかり、何といふかがやきならむ。人は剣を己が身の指とたとえれど、我は剣人の目と思えし。
眼差しは物にとらわれず、正に活殺自在の剣なり。其の疾きこと龍の如く、目は剣、横目は槍なり。
――実は、この口訣が未公開になった理由はたった一つ、行秋の字が汚すぎるからである。

宵宮

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キャラクター詳細
花見坂で、宵宮の名は知れ渡っている。
稲妻で最も腕の立つ花火職人である彼女は、「夏祭りの女王」とも呼ばれている。
「長野原」の衣鉢を継ぐ宵宮は花火に幻の姿を与え、人々に無類の体験を与えている。
職人の身分を除くと、宵宮は子供たちの「英雄のお姉ちゃん」でもある。子供たちにとって、どんなトラブルが起きようとも、宵宮姉ちゃんはそれを解決することができる。
想像による恐怖も、残酷な現実の陰りも、宵宮姉ちゃんが放つ魔法のような光でなくなってしまう。
子供だけでなく、彼女に悩み事を相談する人がいれば、彼女は全力を尽くしてその助けになろうとする。
絢爛たる花火、暖かな星光、それに情熱の灯火。これらすべては宵宮の手のひらで舞い踊る。そして彼女の明朗快活な笑顔は同行者を励まし、進む道を照らし続けている。


キャラクターストーリー1
稲妻人にとって、花火は夏の印だ。
定期的に開催されるそれぞれの祭りではいろんな出し物を見られるが、花火だけは永遠の定番である。
その故は百年前。社奉行は「記念」を題に素晴らしい花火大会を開いた。当時の花火大会は名を馳せていた花火の名家に任せていたのだが、これが「長野原花火大会」の起源である。
その後、花火がだんだん普及してきて、「長野原花火大会」もすべての民が参加できるようになった。
花火大会では、誰もが気に入った花火を自分の手で打ち上げられる。そして「長野原花火大会」で最適な場面で、一番盛大な演目を披露する。
宵宮が店主になった年に、初めて用意した花火大会は息を呑むほどの美しさであった。
その花火大会が始まる前、神里綾華はこう宵宮に言い聞かせた。「大御所様も今回の花火大会をご覧になります。ですので、どうか大御所様の家紋ーー「雷の三つ巴」を花火に入れてください。」
宵宮は自信満々に答えた。「うちに任せとき!」
大会が始まる前に、宵宮は城内の隅々まで走り回り、花火を配置した。そして目玉として、打ち上げられた花火は長大な絵巻物となり、空に掛かる稲妻城を描いた。
しかし神里綾華はどの花火にも肝心の家紋を見つけることができず、宵宮の計画にずれが生じたかと考えた。
その後、宵宮に聞いた神里綾華は、空に掛けた城に「視角」と言う技巧が用いられていると知った。
天守閣から見下ろすと、満開の花火は雷電将軍の家紋となり、さらに、可愛らしく花で飾り付けられていた。
宵宮が花火大会でしくじるはずがないだろう?彼女は民と雷電将軍の心を同時に得た上、その祭りを大勢の人の記憶に残るものにした。
宵宮がいれば、稲妻の夏に咲き乱れる花火は欠けない。「夏祭りの女王」の二つ名は、これによって生まれた。


キャラクターストーリー2
「長野原」の花火は人気が高く、お店は常に賑わっている。そのため、目的もなくお店を訪ねると店主に迷惑をかけてしまうと、人々は思っている。
しかし宵宮の性格はその真逆で、人と話すことが好きなのだ。もし仕事の際に話し相手がいないと、彼女は集中できなくなる。
もし店に訪れた客とじっくり話すことが「お客さんの心を理解し、最高の花火を作るため」ならば、宅配したついでに、お茶を飲みながら雑談することは、自分へのご褒美になる。それでも満足しない時は、帰り道に近所の人たちと熱く話し、お菓子をもらって帰る…
宵宮は人と喋る時、いつも「聞く」と「話す」の均衡を、絶妙な匙加減で保つことが出来る。
口数、距離感、情熱、どれもが程よいのだ。宵宮とのお茶会の後は、みんないい気分になる。
近所の人たちは普通の人であるため、同じ会話を繰り返すことが多いが、宵宮はそれを全く嫌わない。
彼女が楽しんでいるのは人と触れ合う過程だ――同じことでも、話し手が変われば、違うように聞こえるから。
花火屋を受け継いでから、宵宮と近所の人たちの関係はますます良くなってきた。年寄りの多くは宵宮を友人と思い、宵宮を自宅に招いて昔の祭りの話をしたりする。親の年齢の人たちは、子供との関係を円滑にしようと、宵宮に頼む。若者たちは宵宮と兄弟のように接して、花火運びを手伝ったり、共に子供たちを遊びに連れて行ったりする。
宵宮はこう語る。「言葉には特別な力がある、話し合って解決出来んことはない!」


キャラクターストーリー3
卓越した技術を追求する職人は、厳格で自分を律する傾向にあるが、宵宮は例外だ。彼女は自由に行動し、行動に規律が全くない。
たまに人との雑談が長引いて、昼の仕事が終わらなかったら、徹夜でこなす。夜が明けると、仕事完了の達成感と共に高い所に登って日の出と金色の流れ雲を見る。その景色は、いつも宵宮に刺激を与えてくれる。眺めていると、様々な花火模様が新たに脳裏に浮かんでくるのだ。ただし、眠気も共にやってくる…
宵宮はよく、軒先や木の枝、止まった水車などで寝ているところを近所の人に発見される。たまにうっかり落ちてしまうと、楽しい夢が目の前で飛ぶ星と共に消えていく。
幸いなことに、これまで大きな怪我はしていない。かすり傷は結構あるが、その対処法も数を重ねるごとに覚えていった。
たまに、夜中まで寝て、用事を済ませた後に出かける。
気まぐれの冒険や、肝試しかもしれない。友達に興味があればみんなと行動し、一人でいたければそのまま外出する。
自由気ままな生き方の方が、宵宮は楽のようだ。いつでも、どんな時でも、彼女に邂逅する可能性がある。彼女は自由を楽しんでおり、その結果、人生もより面白くなったとよく口にしている。
もちろん、重要なお祭りの前は頼もしい自分に戻り、真面目に、演出という「仕事」の準備を行う。


キャラクターストーリー4
日頃の「長野原花火屋」は、花火以外にも色々な記念品を販売している。これは宵宮の副業とも言える。
棚に並ぶ記念品は様々で、その一部は北斗からの舶来品で、ある程度改造され、独創的な工芸品となっている。もう一部は、宵宮がピンときた時に練習で作った物である。
ぶつかると花びらが咲き出す「散華ビー玉」、回ると鳥の鳴き声がする「小躍りこま」、飛ばすと色が変わる「虹とんぼ」、それと、とても成功とは言えない「オニカブトムシ戦車」…
これらの記念品は子供にだけではなく、多くの大人たちにも大人気である。「荒瀧派」の頭である荒瀧一斗までわざわざ記念品を買いに来て、彼の言う強敵と雌雄を決めるぐらいだ。
宵宮が作った記念品はおもちゃだけではない。少しの創意を加えれば、日常生活に役立てることができる。その中でも典型的なものが、各種の燃焼材と香料を入れた輪、「螽取り輪」だ。夏の夜、それに着火すると、蚊などの虫を退けてくれる。
宵宮の腕を見て、隣の人が手伝ってほしいと言い出す。「花火屋は万事屋ちゃうでぇ、うちもなんでも手伝うわけやない」と、宵宮は答えるものの、誠心誠意、相手の力になろうとする。例え一日苦労した報酬でおやつしか買えなかったとしても、彼女は楽しんでいるのだ。何せ、花見坂のみんなは宵宮のいいお友達だから。


キャラクターストーリー5
「彩霞で花火を取っかえて、花火は願いを知っている。願いは夜空に昇り行き、夜空はそれを映し出す。」
これは昔からある名のない歌だ。ここ数年、この歌の意味を勘違いしてしまう子供たちがいる。キラキラと光った物を取ってきたら、宵宮お姉さんのところで自分だけの特製花火を交換できると信じているのだ。その花火に点火すれば、将来、願い事が叶うと言われている。
そのため、花見坂の子供たちはこの歌を口ずさみながら、辺りで美しいお宝を探し、宵宮お姉さんのところへ持っていこうとする。
宵宮も最初は戸惑ったが、子供たちの歌に対する解釈を聞いた後、その求めを受け入れ、彼女の意見を口にした――歌にある彩霞は、キラキラとしたお宝ではなく、宵宮お姉さんが「輝いている物」と認めるものにしよう。それがたとえ川にある石でも、海辺にある貝殻でも、宵宮はそれと引き換えに美しい花火を作ってくれるという。
もし子供たちが見つけた物が貴重な品だった場合、宵宮は逆にそれを普通の物と称し、子供たちと一緒に落とし主を探す。
お宝が輝いているかどうかは重要ではない。大切なのは、「彩霞」を「花火」と交換できるという子供たちの信念なのだ。
たとえ他人の目には幼稚に見えても、宵宮は子供たちの美しい願いを守るために出来る限り尽くす。
「子供の頃に信じたもんや経験したことは、大人になったらかけがえのない宝もんになる。」
稲妻の伝説を描いた絵本には、しばしば以下のものが登場する。悪戯好きでかわいい「袋貉」、威風凛々とした「柴犬武将」、神出鬼没な「折り紙鵺」…
妖怪をこのように可愛らしく、粋のある形に描いたのも、同じ考えを持っていたからかもしれない。
宵宮のそばにいる子供たちは、鎖国の中でも楽しい日々を送っている。
宵宮自身の童心と活力が、夜空に舞う花火のように、星のように、常に輝き光を放っているのだ。


宵宮の飴箱-「甘々宝球」
お祭りになると、宵宮はすべての屋台のお菓子を食べ、様々な飴を集めて丁寧に包装し、小さな飴箱に入れて保管する。
宵宮の飴箱は朱く円形で、精巧な紐と飾り物がついており、彼女が普段使っている髪飾りに似ている。
宵宮は嬉しい出来事があると、飴箱から飴を取り出して食べる。友達や子供がいれば、必ず彼らにも飴を分け与える。
近所の人はいつも宵宮の髪飾りと飴箱を間違えるため、「甘々宝球」という別名を付けた。
飴箱が軽くなるスピードは、宵宮の幸福度の指標となる。
空になるのが早ければ早いほど、宵宮は幸せなのだ。
たまに、忙しくなると、誤って飴箱を髪飾りとして付けてしまう。一日の仕事が終わるまで、それに気付かない場合もよくある。
それがきっかけとなり、それ以来、彼女はその二つを交代制で使うようになった。
「宵宮姉ちゃんの髪飾りに飴が入ってるか当ててみぃ。当てた人は、好きな飴を選んでええよ!」


神の目
いつもは口数の多い宵宮だが、花火が空に上がる時だけは別だ。彼女にしては珍しく黙り込み、夜空に浮かぶ絶景を見上げる。
花火は刹那に過ぎ去り、須臾であると人々は言う。しかしそれが美しいものであれば、人の心に永遠に咲くだろう。
花火を共に見た人、その瞬間の美しさ、それらは感動と共に深く脳裏に焼き付き、一生の思い出となる。
何年も経ってから再び同じ花火を見上げた時、その感動はきっと潮のように心まで流れ込むだろう。
これもまた、「永遠」と呼べるのではないだろうか?
「長野原」家に独自の花火の配合があるのも、まさにこのためである。
感情と願いを花火に込め、刹那の存在を永遠に変える。宵宮が行っているのは、そういうことなのだ。
「長野原花火屋」を受け継いだ後に訪れた初めての夏の夜、宵宮は眠れずにいた。空が朝を象徴する灰色を現すまで、彼女は一生懸命研究をしていた。
突如、軽い音がした。赤く燃える物が花火の筒に忽然と落ちていた。
当初、宵宮はその「神の目」を着火器具として使っていた。幸いにも宵宮の父親がすぐに気付き、彼女にその物にある重要な意義を教えた。
小さな「神の目」は、信じられないほどの力をもたらすことができる。だが、子供たちを守り、騒ぎを起こす魔物を倒す以外に、何に使えるというのだろう?
宵宮は考えた。たとえ用途があっても、自分にとってはその程度の物でしかない。なぜなら、自分はただ楽しさを追求し、幸せに日々を過ごしている花火職人に過ぎないからだ。
それから時が経ち、宵宮も「火焔」のコントロールが上手くできるようになり、花火作りもますます熟練していった。
時折、彼女は自分に問う――自分のような普通の人間でも、神様に認められた。いったいなぜ?もしかして…神様も花火が好きなのだろうか…?

ヨォーヨ

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キャラクター詳細
岩王帝君との契約のもと、璃月を数千年に渡り守ってきた仙人たち。
彼らは璃月に危機が訪れるたび必ず姿を現し、そして世が平穏な時代であれば、時折その姿を見せていた。
それは無法者を戒めるために、また時に囚われた者を救うために。もし「仙縁」のある璃月人と出会えば、その者を弟子にして仙人たちは秘術を伝授した。
仙人たちの中でも、歌塵浪市真君は俗人と多くの縁を結んでいると言えるだろう。
彼女には多くの弟子がいる。その中でもっとも幼いのがヨォーヨだ。
ヨォーヨは生まれつきの聡明さで、勉学にも積極的な態度を見せている。幼さゆえに、まだ学んだ知識を完全に理解することはできず、時々思わず聞いた人が口角を上げてしまいそうな間違いもするが、時間を置けば、間違いなく広い知識を持った才女になれるだろう。
優しくて思いやりのある、誠実で懐が広い性格のおかげで真君に気に入られているだけでなく、師姐や他の年長者からも大層可愛がられている。
縁のない一般人では足を踏み入れることができない絶雲の間――そこにある仙人たちの洞府をヨォーヨはいつも行き来する。幼くして仙人にこうも愛されるとは、実に羨ましいことだ。


キャラクターストーリー1
ピンばあやはいつも、可愛らしく笑顔を絶やさないヨォーヨを連れている。璃月港の人々からすれば、二人はまるで仲の良い祖母と孫娘のようだ。
しかし、この老人と子供の二人組に、まったく血縁関係はない。ヨォーヨはピンばあや――つまり、歌塵浪市真君の弟子なのである。
ヨォーヨが弟子になったばかりの頃、彼女はまだ字もよく読めていなかった。真君は日常における人との接し方や読書、礼儀から教え始めた。
ヨォーヨが成長するにつれ真君は仙人の儀式、修身の方法、そして自身の槍術を少しずつ日々の修練に加えた。
内容があまりにも多いため、ヨォーヨが覚えきれずに理解できないのはよくあることだった。しかし、真君は特に焦っていない。ヨォーヨがその教えを聞き入れたと、しかと分かっているからである。
重たい槍をヨォーヨは上手く持てないが、毎日怠ることなく練習している。
暗記の難しい詩書も、彼女は毎日熱心に読んでいる。寝言で「衣食足りて礼節を知る」と漏らすほどだ。
本来、真君は厳しい師であろうとしたが、気苦労のかからないヨォーヨを見て、その基準を少し緩めた。
さらに真君の心を温めたのが、ヨォーヨが彼女のことを本当の「ばあや」として扱っているように見えた点だ。
成人の半分の身長にも届かない子が、進んで彼女の食事を管理し、季節の変わり目にはその体調を心配している。頭痛や発熱など、仙人にとってそうないことだというのをすっかり忘れているかのように。
その甲斐甲斐しさを目にして、彼女は本当に孫ができたかのように感じている。それを意識してからは、余計に厳しい言葉を言えなくなった。
あの子を心の底から放っておけないと思うとは、師と弟子の縁を結んだ当初は思ってもいなかったことである。もっとあの子を傍にいさせよう――教えたいことは、まだまだ沢山あるのだから。


キャラクターストーリー2
あれはヨォーヨが生まれる前の話だ。山の暮らしに憧れたヨォーヨの両親は璃月港を離れ、軽策荘の近くに静かな場所を見つけ、そこに家を建てて隠居生活を始めた。
新居は山を背にした、水辺に面した一戸建てだ。裏庭には小さな田んぼがあり、果物と野菜を栽培している。
家からもっとも近い村落は軽策荘のため、日々の生活費に困ったときは山を越え、自家栽培の果物や野菜をそこで売っていた。
ヨォーヨはそんな家庭の生まれである。
片言の言葉を覚え始めたときには、すでに彼女は動物や昆虫たちと一緒に過ごすのに慣れていた。彼女が歩くことを覚えたのは、裏庭の大根畑でのことだったそうだ。
ヨォーヨの心にある純粋で優しい色は、まさにその穏やかな田園生活から来るものだろう。
その後、彼女は仙人に気に入られ、弟子として迎えられた。
最初、両親は娘を仙人に預け、璃月港に定住させることに抵抗があった。山の生活に慣れている純粋な娘が、璃月港の色鮮やかな生活に惑わされるのを心配したからだ。
しかし、歌塵浪市真君の訓戒が両親の考えを改めさせた。
「一生を山に隠れて過ごせば、確かに俗世に汚されることもないじゃろう。じゃが、生涯に渡る孤独がヨォーヨの望む未来とは限らない。あの子に、広大な世で鍛錬する機会を与えてやろう。」
これを聞いて思い直した両親は、娘を手放して仙人に預けた。事実、歌塵浪市真君の弟子になるのはいいことであった。
璃月港には師匠や心優しい友達が多くいるため、ヨォーヨの性格も明るくなっている。新年や佳節が訪れれば、彼女は師匠に休暇を告げて帰省をした。
我が子に良き師を選ぶとしたら、この仙人よりも理想的な人物はいないのではないだろうか?


キャラクターストーリー3
ピンばあやのもとに旧友がたまに訪れると、そのたびにヨォーヨは師匠と客人に付き合い街の中を回る。
遠路はるばるやって来た客人であれば商店と料亭だけでなく、和裕茶館へと講談や璃月劇を鑑賞しに行くこともある。
そして、この広い璃月港であれば、暇をつぶしに和裕茶館へ行くのはヨォーヨたちだけではない。外国人の中には異国の文化に興味を持つ人もいる。
ある時、ヨォーヨたちが和裕茶館で劇を鑑賞していると、初めて璃月を訪れた三人の外国人が隣の席に腰を下ろした。劇中で語られる仙人の話を聞いた三人は、お茶とお菓子を口に運びながら璃月の仙人の話をし始める。
師匠と客人の会話に入れないヨォーヨは暇を持て余しており、お菓子を食べながら周りの人の雑談に耳を傾けた。
稲妻から来た女性は、璃月の仙人は稲妻の鳴神大社の宮司と同じで、神事を担当したり璃月の書店を管理したりしなければならないと思い込んでいるらしい。
フォンテーヌから来た商人は、仙人は全員、国家機関の職位を持っていると頑なに思っているようだ。彼がかつて七星の秘書である甘雨とやり取りをしたからか、それとも彼の国で似たような制度があるからかは定かではない。
モンドから来た冒険者は、仙人の伝説にとても憧れを抱いている。なぜなら彼は吟遊詩人の歌でしか神の話を聞いたことがなく、神やその眷属に会ったことがないからだ。
彼は思わず、仙人と話したことはあるかと茶博士に尋ねた。しかし、その答えはがっかりするものであった。
「これはただの物語。我々のような一般人は絶雲の間に毎日いるわけではない。仙人に会える機会なんてめったにないことだ。」
それを聞いたヨォーヨは思わず声を出して反論した。「そんなことないよ。仙人はみんなのすぐ傍にいるんだから。さっき削月おじちゃんも講談が面白いって言ってたよ。」
すると、なぜかピンばあやの隣にいる客人が急に黙り込んだ。ピンばあやは微笑みながら茶博士に声をかけると話をそらした。
ヨォーヨには理解できなかった。どうしてみんな、仙人を遠い存在だと思っているんだろう?仙人はみんなの傍で生活しているのに、ただ簡単に姿を見せないだけで。


キャラクターストーリー4
誰もが仙人に受け入れられ、その弟子になれるわけではない。「仙縁」を持つ者だけが仙人たちに気に入られるのだ。
ヨォーヨは師匠にこう尋ねたことがある。「なんでヨォーヨには仙縁があるって言うの?仙縁って何?」
「ばあやと心が通じ合ってるから、出会えたんじゃよ。」
師匠の答えはまるで本に書いてある道理のようである。そこには様々な因果関係が短い言葉の中に込められているため、ヨォーヨはその意味をちゃんと理解できなかった。
初めて師匠と出会ったとき、ヨォーヨはただいつも通り山で遊んでいたことを覚えている。
当時、彼女はまだ両親と一緒に住んでいた。遊びに出ると、彼女はいつも石や雲に自分の気持ちを伝えていた。ヨォーヨにとって花や動物、山や川は大切な遊び仲間なのだ。
あの日、石と雲が初めて彼女の言葉に答えた。ヨォーヨはとても嬉しくて、一日中ずっとおしゃべりしていた。
仙人が法術を解き、幻の石と雲が消えて、歌塵浪市真君がヨォーヨの前に真の姿を見せるまで彼女は驚きもしなかった。
仙人の道とは、世を救い、人々を守ること。璃月の仙人たちは人間だけでなく、世の万物を大切にしている。万物の生長には理があり、その理に従えば豊かに生長して、互いに侵害することもない。
ヨォーヨが遊び仲間を大切にする気持ちには、仙人たちが万物を大切にする気持ちと似ているところがあった。そのため、歌塵浪市真君は彼女を気に入ったのだ。
惜しいのは、まだ小さなヨォーヨが頬杖をつきながら半日考えても、師匠の先ほどの言葉に含まれた複雑な真意を理解できなかった点だ。ヨォーヨは、この問題を一旦置いておくことしかできなかった。


キャラクターストーリー5
師匠と共に璃月港での生活を始めてから、ヨォーヨは日々の予定をいっぱいにしている。朝は日課の読書をし、午後は槍の鍛錬。その後の時間は遊びに集中するというものだ。
遊びを軽く見てはいけない。ヨォーヨのような年頃の子供にとって、遊びは勉強と同じくらい大事だと師匠は言う。
そして、彼女は遊びを通じて様々な人と知り合ってきた。「南十字」船隊の船長や、「不卜廬」の医師と薬採りがそうだ。それによって、分からないことがあったときに教えを乞える相手も多くなった。
また、彼女は港をあちこち探索するのが好きであった。山ばあやのおもちゃ屋、師姐の万民堂、璃月港船舶局。行けるところであれば、彼女はあらゆるところに行ってみたいと思っている。
そのため、本を読むだけでは見ることのできないものを数多く目にしてきた。船隊が出航するときに帆を上げる壮観な姿や、玉京台にある璃月全土の地図など…こうして、彼女は世界の広さを知った。
遊びの合間に、彼女はたまに師匠に付いて絶雲の仙人たちのもとを訪ねる。仙人たちから璃月の昔話を聞いてみると、実際の出来事が本の中の物語より息を呑み、胸躍るものであると知った。
日々新しい知識を勉強して、日々身の回りの出来事に変化が生じる。毎日は単なる繰り返しではない。
これが璃月港のもっとも魅力的なところだと彼女は考えている。
璃月港での生活は大河のように勢いよく、絶えず前へと流れている。
それと比べて、かつて両親と一緒に過ごしていた時間は、まるで穏やかで静かな小川のようだ。小川は素敵なもので、そのゆったりとした流れは彼女に温かい思い出を数多くもたらしてくれた。
そして、大河も魅力にあふれている。彼女はその止まることない勢いで、師匠や両親に自慢できる大人へと育っていく。
そんな展望を胸に、彼女はひそかに未来を夢見て、成長することを楽しみにしている。


「月桂」
歌塵浪市真君の知り合いは璃月の至るところにいる。弟子であるヨォーヨはまだ一人前になっていないため、会ったら面倒を見てくれと、彼女は各方面に既に頼んでいた。
本来であれば、皆に弟子を紹介したついでにヨォーヨの指導を頼み、もっと多くのことを学んで、考えてもらうことを期待していた。
だが、素直で心優しいヨォーヨがあまりにも可愛かったため、留雲借風真君はその話を聞くとそれを深く心に留めた。
そして、ヨォーヨも師匠も知らないうちに、留雲借風真君は精巧な仕掛けのウサギを作ったのだ。
「ほれ、ヨォーヨ。この小さいのをお前にやろう。危ない目に遭ったら、そやつを呼ぶとよい。」
ヨォーヨはその可愛い仕掛けのウサギを大変気に入り、「月桂」という名前を付けると、どこに行こうにも持ち歩くようになった。
「月桂」を贈った後、留雲借風真君はヨォーヨの師匠を訪ねて得意げにこう言った。
「先に伝えておくが、あの仕掛けのウサギにはもう一つ機能が備わっておる。ヨォーヨが見つからないとき、『月桂』と呼べばあの子の居場所が分かるのだ。」
「だが、この機能を無闇に多用してはならん。いつか子供が大きくなれば、自分だけの秘密も持つようになる。いつもどこにいるか探られていると知ったら、不愉快に思われるかもしれん。度が過ぎないよう、妾を見習うとよい。申鶴のことを過度に束縛したことなどないからな…」
「はいはい。分かっておるよ、留雲。」
「分かればよろしい。とにかく裏でヨォーヨをいじめる者がいれば、月桂は必ず警告を発する。その時、そやつらは身の安全を祈るしかないだろう。」


神の目
「どうして神の目を授かったのか?」
神の目を手に入れたばかりの頃、ヨォ―ヨはしばらくそれを考えていた。
日頃の行いが良いから、神様がご褒美をくれたのか?師匠を尊敬し学問を重んじているから、神様がヨォーヨを良い子だと思ってくれたのか?
そういえば、香菱師姐も留雲おばちゃんの弟子の申鶴ねぇねも神の目を持っている。神様が仙人を認めていて、ヨォーヨたちはその仙人の弟子だから、神様も自然とヨォーヨたちを認めてくれたの?
どれだけ考えても、根拠のある答えは出てこなかった。
ヨォーヨは璃月港の裏にある丘に座り、自分の後をついてきた犬を抱えると「はぁ」とため息をついた。
両親のもとを離れてから、彼女には分からないことが山ほどできた。これが初めてというわけではない。今までは分からないことは仕方ないと割り切り、大きくなったら分かるようになるかもしれないと思っていた。
しかし、認められた証である神の目を手にした以上、その期待を裏切ることはできない。
ヨォーヨは師匠の自慢の弟子だ。この先、師匠を見習って世を救い、人々を守らなければならない。それは師匠や師姐、友達の面倒を見るだけでなく、博愛の心を持ってすべての人を助けるということ。もっと頑張らないと――うん、明日は槍の鍛錬の時間を普段より長くして、法帖をもう一枚書こう。

ラ行

雷電将軍

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キャラクター詳細
人類は世界への憧れや好奇心を抱いて生まれてくる。これは世界を認識するための原点であり、知性を築く基盤でもある。
稲妻の人々にとっての世界も同様だ。そこには遥か昔から風雨と雷電、天光と大海が存在した…そして「雷電将軍」も。
就寝時、母親は幼子に将軍の話を語り聞かせる、魔神を斬り伏せ、異族を鎮めた伝説のことを。
少年と少女が列島を歩き回り、目の当たりにしたのは刀で真っ二つにされた峡谷と、地面にそびえ立つ蒼白の蛇骨だけ。
戦線に駆け付けた兵士たちは、「常道を恢弘せしは、永遠なる鳴神なり。」と口々に叫ぶ。
平和で幸せに暮らす民は、将軍とその配下の三奉行に感謝している。
「雷電将軍」の威名は、既に命の枷を超越し、稲妻の永遠なる信仰となっていた。
このような威名と権力の下、彼らの子孫も同じ景色を目にし、同じ信仰で心の世界を構築する。そして、この伝承を永遠に引き継いでいくのだと、彼らは心から信じていた。
これぞ──将軍様が民に約束した恒常楽土なのだ。


キャラクターストーリー1
雷電将軍、本名を「雷電影」。
彼女は遥か過去より歩み、稲妻が千百年にも渡り払ってきた数々の代償を経験した。
最も幸福であった歳月は過ぎ去り、かつての友は敵に。そして最後、刀を握る理由さえも失った。
「前へ進めば、必ず何かを失ってしまいます。」
これこそが、時間を媒介にして全ての世界に作用する揺るぎない法則であると、影はそう思った。
最も繁栄していた人の国が一夜にして崩壊し、最も歴史のある璃月港が岩神に別れを告げた。別れの風は、時間の向こう側から吹いてきている。
「雷電将軍」の名声は今も知れ渡っているが、幾星霜の年月が経てば…いつの日か、稲妻は神の庇護を失うことになるだろう。
武人として、あらゆる敵を警戒する。たとえ時間のように虚空なる脅威であっても、必ずその日が訪れる前に反撃の糸口となる武器を見つけ出す。
彼女の答えは「永遠」。「永遠」のみが全てのものを維持し、稲妻を不滅の国にすることができるのだ。
「ならば、全てがまだ美しいうちに止めましょう…このまま…永遠へと。」


キャラクターストーリー2
肉体に閉じ込められた魂が「永遠」を追求するのであれば、寿命を避けて通ることはできない。
限られた時間が影の頭を悩ませた。ある日、不思議な技術が運命に導かれたかのように、彼女のもとへ届く。
この技術があれば、まるで本物の生命体であるかのような精巧な人形を作り出せる。
理論上、人形は影の全てを完璧に再現することが可能であった。それは寿命の限界を超え、稲妻を永遠に庇護することを可能にする。
しかし、神の複製体を作るのは、そう簡単なことなのだろうか?
影はこのために数え切れないほどの実験を行った。失敗作を大量に処分し、想像を絶する時間と材料を費やしてきた。
その執念と武人の志によって、彼女は完璧な人形を作り上げたのだ。
新生の「雷電将軍」は静かに座り、影が話す彼女のこと、そして「彼女」と彼女たちにまつわることに耳を傾ける。稲妻の未来は、輝かしい青図として描かれた。
彼女は影に対して一つの疑問を抱いていた。「肉体を捨てるということは、もう後戻りできないということ。あなたは後悔していないのですか?」
「あなたの存在が私の答えです。」
その後、影は刀に宿る意識となった。「一心浄土」は、こうして誕生したのである。


キャラクターストーリー3
将軍になる前の雷電は一介の武人であり、先代の命令に従っていた。
先代の雷神、雷電眞は武力に乏しく、戦いや殺しの仕事を影に任せていたのだ。ただ影には殺戮だけではなく、友人と櫻の木の下で歌やかるたに興じ、のどかに過ごす時間もあった。
その性格ゆえか、遊戯中の影は朴訥としていた。彼女が最終的な勝者になることも、狐斎宮様が特別に用意した賞品を獲得することもなかった。
そんな彼女は、武道の修行に充てていた心血を、歌とかるたの修行へと注いだ。眞と御輿千代にかるたの勝負を申し込んだり、月明かりの下でひとり詩歌を読んだりした。
ある日、櫻の木の下で影は勝ち進み、最後は天狗に勝ち、ついに勝者の座につくことになった。
影は勝利に歓喜したが、友人の笑い声を耳にする。とっさに自分が冷静さを欠いていたことに気付き、慌てて両手を下げると、凜とした冷たい顔に戻った。
もちろん、友人たちは嘲笑っていたわけではない。彼らは影のことをよく知っており、きっと勝利のために努力してきたのだろうと思ったのだ。
狐斎宮様も笑みを浮かべながら、菓子を影に渡す。
「褒美といっても、妾が作った菓子に過ぎぬ。まさか影がそこまで喜ぶとは。ならば、この勝者だけが手にできる褒美をじっくりと味わうがよい。」
無論、影は菓子を欲していたわけではない。武人として、負けたのならば勝つまで挑む。この菓子は、彼女の勝負に挑む心構えへの褒美だった。
影はすぐにまた無意識のうちに微笑んでいた。勝利の味もさることながら、この菓子は影の舌を唸らせたのだ。その笑顔を隠そうとする不器用な彼女の姿に、友人たちはまた笑みをこぼす。
今でも影は、その櫻の木をよく思い出す。
長いこと見に行っていなくとも…たとえ櫻の木の下に誰も座っていなくとも、彼女は時間が永遠に止まることを願うのであった。


キャラクターストーリー4
影は、眞が稲妻の風景や美食、人々の物語をこよなく愛し、それを自分に教えるのが好きだったことを今でも覚えている。
二人とも「摩耗」という概念をよく理解していたが、未来を案じる影と違って、眞は現在に目を向けていた。
「儚い景色であることを知っているからこそ、一層楽しむべきではないか。」
それを聞いた影は、自分がただの影武者であったことに反省し、雷電将軍よりも古い考えであったことに苦笑いを浮かべた。影はもっと余裕ある心を持ちたいと思った――そう、眞のように。
しかし、時代は瞬く間に移り変わり、予想だにしないことが影に起こる。気がつくと、彼女の手には死にゆく雷電眞から受け継いだ刀が握られていた。
この日、影武者であった影は、まことの「雷電将軍」となったのだ。
そして、影が「摩耗」の苦しみを本当の意味で理解した日でもある。
時が流れれば、この刀も、あの櫻も…稲妻の全ての生命が目の前で散っていくのではないか。
それらは稲妻の根幹であり、雷電将軍が守らなければならないもの。
「ならば、先行きを読むことは無意味なことではなく…過ぎたことでもない。」
心の内で覚悟が定まり、生命が肉体を超越する、そして永遠は浮世に降り立った。


キャラクターストーリー5
ある夜、雷電影は瞑想中に夢の世界へ入った。
彼女は天と地の間に残された唯一の存在、鏡像のように存在するもう一人の「自分」。
ため息をつくかのような声が人形の口から漏れ出ると、彼女の耳へと届いた。「あなたが心に決めた永遠は、人々の無数の願いによって揺らいでしまいました。ならば、あなたは既に私の敵です。」
人形を作る際、影はあらゆる危険を考慮した。
すべての可能性を考えてきた、最悪の場合…いつの日か自分自身が「永遠」の脅威となることさえも。
しかし、彼女は前へ進み、「永遠」に辿り着かねばならない。その意志は、誰であろうとも決して邪魔することのできないもの。
人形の言葉は、過去の自分からの責苦のようであった。
「過去の自分よりも、今の自分の信念の方がしっかりとしたものだと考えている。だから、今の自分こそが正しい、果たしてそうなのでしょうか?」
同じ顔をしていても、その口から語られる意志は異なっていた。過去の自分と戦う日は、いずれ来るだろう。
だが、それは今日ではない。まだ彼女の準備が整っていないことを、影は知っていた。
澄み渡る心を持ち、無我の境地へと達したが、民衆の叫喚によって足を止めた。
明鏡の上では空が濁りはじめ、無我の殿堂で烏が鳴く。夜明けの時が来た。武士は刀を取らねばならない。
それは泡影の如く、虚像のようで真実のような夢であった。


「夢想の一心」
影のように、今に至るまで受け継がれてきた刀。
二人の主君の手を経て、時と永遠を見守ってきた刀。
それは雷電眞の神威によって生まれたものだが、一度も刃を研がれたことはない。物は主人に倣うもので、眞が戦いを苦手とするように、それも戦わず、眞の思う平和を象徴するものであった。
眞が亡くなった日、それは影の手に渡った。刀は血に染まり、その先端から初めて真紅色が滴ると、荒風と奔雷によって散った。
眞はこれに「夢想の一心」という名をつけていた。それは夢のように美しい稲妻を見届け、この世と共に歩み続ける高貴な心を象徴するかのよう。
影はその名を変えなかった。彼女もその光景を目にしたことで、より純粋でより強い「心」が生まれたからだ。
稲妻の美学とは、まさに浮世の儚き幻夢、その中の大切な瞬間を捉えることである。


神の心
「一心浄土」に住みつく前、影は神の心をどう保管するか悩んでいた。
影はもう神の心を必要としていないが、これほど大切なものを不用心に置いておくわけにもいかない。最初はエネルギー供給装置へと改造することも考えたが、彼女の技術はなぜか神の心に通用しなかった。
そこで彼女の頭に思い浮かんだのが、狡猾で聡明な八重神子。八重神子は頼れる性格ではないが、影にとって最善の選択であったのは間違いない。
頼みを聞いた八重神子は思わず、「妾はこれを売ってしまうやもしれぬ、怖くないのか?」と口にした。
「あなたは神の心の価値を理解しています。たとえそれを売ったとしても、同じ価値のあるものと交換する必要がある、しかしそれは容易なことではありません。」
八重神子のような性格であれば、神の心を売っても不思議なことではない。だが、彼女が決して損を選ばないのも事実だ。
それは旧知の仲である影にとって、言葉にせずとも分かること。八重神子は影の意図を理解し、微笑みながら神の心を受け取った。
「汝からの申し出じゃ、後悔しても遅いぞ。」

リオセスリ

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キャラクター詳細
検律庭をこの上なく安堵させる事実、それはフォンテーヌ廷の大多数の市民が法を順守し、メロピデ要塞とは無縁の人生を歩んでいるということだ。
同時にもう一つ、もっともながら悲哀も垣間見える事実が存在する。それは、服役を終えた罪人が再び水の上での暮らしに馴染むことは非常に難しく、ほとんどの場合、自分から水の下での経験を語らないという点だ。
メロピデ要塞は、具体的な場所というよりもある種の概念に近く、警告、不幸、懲罰の象徴としてフォンテーヌのことわざや決まり文句の中に引用される。この概念を司るのが誰であるか、というのは決して重要ではない。
そのお陰で、リオセスリはあたかも世捨て人のように、「公爵」の身分には極めて不釣り合いな形をもってフォンテーヌで暮らしている。
人々が「次に騒ぎでも起こしたら、メロピデ要塞に叩き込んでやる」「こんな厄介事に関わるくらいなら、海の底でネジを回してたほうがマシだ」などと言うとき、ちょうど水中要塞の管理者がアフタヌーンティーをテイクアウトすべく、カフェへと通じる石畳の上を歩いているかもしれない。


キャラクターストーリー1
リオセスリがメロピデ要塞を離れることはあまりない。自らの手で作り上げた情報網と人脈を頼りに、執務室で座ったまま必要な情報と物資を手にすることができるからだ。
だが彼も理解はしていた。「煩雑な業務のせいで、ここに囚われ続けるわけにはいかない。さもなくば永遠に眠れぬままか、でなければ遅かれ早かれ海底で永遠の眠りにつく羽目になる」と…
この場所を肩ひじ張らずに管理していくために何より重要な事柄は二つだけ——そう、金と人だ。
彼の場合、メロピデ要塞が元々巨大な工場であり、なおかつ自身が金儲けに長けており、パレ・メルモニアのような太っ腹な客を捕まえられたのは、幸運なことだった。手厚い対応をするのは、パレ・メルモニアの権勢を敬ってのことではない。フォンテーヌ廷にはそもそもメロピデ要塞の庶務に口を出す権利がない——要は貴重なモラのためだ。モラはあればあるほどいい。ゆえに、たとえ共律庭が書類仕事に対して煩わしいほどの厳しい要求を出してきても、リオセスリはそのすべてに応えた。
(もともと、フォンテーヌ運動エネルギー工学科学研究院は研究材料としてアルケウムを大量に必要としていた。パレ・メルモニアと取引先として張り合うこともできたかもしれないが、あそこが壮麗な空中の観光スポットとなったことで、惜しみつつもビジネスパートナーの選択肢からは除外した。縁があればまたの機会に。)
金持ちが犯しがちな過ちと言えば、お金の力を高く見積もりすぎて、傲慢になってしまうことだ。だが、そうならずに済んでいるという点でもリオセスリはツイていた。彼は生まれつき裕福だったわけではないため、善意の人助けがどれほど大切であるかを知っていたのだ。
メロピデ要塞に身を寄せる人々と分け隔てなく接し、罪人だろうが看守だろうがただの従業員だろうが、立場を弁えてさえいれば責め立てることはない。
逆に言うと、分不相応な振る舞いをする者に対しては物申すこともあった。水中の空間は地上に比べれば閉塞的で、大多数は行く当てがなくここに留まり続けるしかない。できることなら、皆が理屈の分かる人間であってほしいとリオセスリは願っている。言葉で伝えても効き目がないなら、より説得力のある手段を取るまでだ。
人間同士の無意味でありながら避け難い揉め事や些末な事柄に関しては、時には放っておくのもよい。頭が冴えている人なら事を荒立てるべきでないと分かるし、冴えていない人であれば自ずと向かうべき場所がある。水に自浄作用があるように、人間にも似たような力が働くのだ。
それゆえ、リオセスリは忙しさで目を回すこともなく、むしろある程度自由な時間を作ることができた。
ある時、フォンテーヌで決闘代理人として名高いクロリンデが訪れると、何気なく聞いた。「私よりあなたのほうがのんびりして見えるのはなぜだ?その公爵の称号とやらは、金で買ったわけじゃないのだろう?」
「少し待て。」
疑いをかけられたリオセスリはそう言うと、三つの引き出しを立て続けに開け閉めして、数ページに渡る分厚い書類をガサゴソと取り出した。「どれどれ…『…適切に管理を行い…納税に前向き…』…『ここに特別に称号を授ける…』…どう思う?おおよそ、あんたの言う通りだな。」


キャラクターストーリー2
公平無私の国として知られるフォンテーヌにおいて、金で買える肩書きなどはない。先ほどの二人の会話はでたらめである。リオセスリとクロリンデは味気ない公務のやり取りの合間に冗談を言い合ったにすぎない。
しかし、「公爵」の称号は取引と無関係であるものの、リオセスリがメロピデ要塞を任されていることと「お金」との間には切っても切れない関係がある。
特別許可券はメロピデ要塞で流通している「お金」だ。ここでは特別許可券が取引の媒介であり、それは今も昔も変わらない。だが、具体的な価値は常に変化している。リオセスリがまだ囚人としてここに留まっていた頃は、特別許可券の使い道は今よりも自由で、買える物の品ぞろえもずっと豊富だった。ポケットに十分な数の券がありさえすれば、健康を害する薬品や100%当たる賭け予測、揺らぎがちな人の心、他人が息をする権利までも買うことができた。
これらは非公式な取引だが、公式のほうも素晴らしい。個人的な伝手を持たない場合、食堂で値の張る水や食べ物を買うしかない。そして、付いてくるおみくじに書かれているのは意味不明なことわざなどではなく、嘘でも偽りでもない、その日のうちに終わらせなければならない追加の仕事内容だった。当時の特別許可券はお金というよりも前管理者が罪人を支配するための道具のようであった。
法に背いた罪人をルールのない混沌に放り込み、各自で何とかしてもらう。確かにいい方法にも聞こえるが、リオセスリは賛同できなかった——「生き延びるために環境に順応することならできる。だが、その環境が生存に適していないのなら、何もせずに死を待つわけにはいかない」と、そう考えていた。
彼は相当長い時間をかけて地下格闘場で特別許可券を貯め、それを元手にさらに稼いだ。他人を観察することにも説得することにも長けており、なおかつ謙虚な態度だったため、大多数が気づかぬうちに他の人々を遥かにしのぐ数の特別許可券を手にしていた。
富を蓄えたことで罪人の間での声望が高まった彼の元に、やがて長年心待ちにしていたその時は訪れた。ある日一夜にして、彼の口座はメロピデ要塞前管理者の手により空にされてしまう。
だがすでに述べたとおり、リオセスリは説得が上手かった。言葉には人を扇動する力がある。彼は言葉を使って皆に気づかせるだけでよかった。「あんな管理の下では誰もが——貧しかろうが裕福だろうが——自分と同じような憂き目に遭う可能性がある」と…こうなれば人々は彼のために声を上げるだろう。彼の実直な語りかけと壮大なシチュエーションが揃う時、人々は自らに足りない価値を補うべく仲間に加わろうとする。
こうして、公平、正義、秩序の名の下にリオセスリは要塞の前管理者に決闘を申し込んだ。彼らの身分と住まいからすれば、決闘と言っても名ばかりのもの。だが、取り囲む人々は罪人であれ看守であれ、誰一人として異議を唱えなかった。
幸運にも前管理者は決闘直前に逃げ出したため、リオセスリは人殺しを重ねずに済んだ。一方で不運と言えることもある。本来、その日は彼が服役を終える日だった。しかし管理者不在のため、出獄手続きをしてくれる人がいなかったのだ。
そこで彼はメロピデ要塞の中央に位置する執務室に入り、すべての職務を引き継いだのだった。


キャラクターストーリー3
書類を手に取ることができるようになり、リオセスリは自分の事件記録を閲覧した。内容は多くはないが、フォンテーヌ当局が調べうる情報のすべてだった。里親の売買記録によれば彼は捨て子として引き取られたそうで、それ以外にめぼしい情報はなかった。
目を通すうちに見覚えのある名前を見つけた。ぼんやりとした人の顔が記憶の中で束の間に浮かび上がっては、ページをめくる音と共に脳裏に消えた。リオセスリが望めば、自身の人脈を使うことで昔の仲間の現在を調べることもできただろう。しかし、その考えは浮かんだ瞬間にかき消された。
彼らにとってみれば、リオセスリは思い出したくない過去を象徴するようなものだ。そしてリオセスリにとっては、それらの名前はもはや今の生活を形作る一部ではなくなっている。彼には新しい身分、新しい住まい、新しい友人がいる。
それは普通とは違う体験だ。知り合いは大勢いるが、友と呼べるのはごく一部で、中には少なからず人間ではない者がいる——メリュジーヌたちは確かに人とつるむのが好きだな、と彼は思う。見た目だけで彼女たちの小さな体と年齢を結びつけるのは難しい。だが彼女たちが見せる善意には、確かに年長者特有の純朴さがある。「年端もいかない生き物は根っからの善良で、親心を持って接するにふさわしく、予測のつかない無限の未来が待っている」と彼女たちは信じているのだ。
リオセスリは何度もメリュジーヌの世話になった。無一物で街を彷徨っていた頃には、通りがかりのメリュジーヌが温かいスープをごちそうしてくれた。鉄拳闘技場に出るたびケガをして戻っていた頃は、医務室のシグウィンが毎回親切に迎えてくれた。そして、極秘事項を調べる必要があった時には、マレショーセ・ファントムの警察隊員たちが法律の範囲内でできる限り手を差し伸べてくれた。
それゆえに、メリュジーヌがメロピデ要塞を見物に来るたび、余計な面倒事が起きる可能性があってもリオセスリは黙認してきた。警告すべきことは看護師長が伝えてくれるため、自分までしつこく言う必要はない。ましてや彼女たちに彼の目を盗んであちこちにポスターを貼る能力があるなら、その身の安全をわざわざ心配してやる必要もないだろう。


キャラクターストーリー4
床に広がった赤錆色を見つめるリオセスリの頭に、非常に場違いな笑い話がふと浮かんだ。ここにあるすべての血痕を調べようと思ったら、メリュジーヌの警察隊員は全部で何人必要になるだろうか?
そして、すぐに違うことを考え始めた。「自分と自分を騙した者が流す血はこんなにも似ていて、しかも混ざり合うだなんて吐き気がする」と。
しかし彼はすでに吐く力など失っており、指一本すら動かせない。思考も温度感覚も鈍くなり、頭の中に残されたのは深い霧だけ——これまでの人生において、思い出すほどの価値あるものなど彼にはなかった。
だが、死ななかった。生きて罰を受けよと神が望んだのだろう、彼が病院のベッドで目を覚ますと両手は金属の手すりに繋がれていた。立派な身なりの女性が緊張した面持ちで彼を見つめながら、離れたところで椅子に座っている。生まれつきの反社会的な非行少年だと勘違いしているのだろう。
彼女は筆記用具を取り出して彼に名前を聞いた。リオセスリは長く沈黙した。そして、以前新聞で見かけた訃報と、晩年を幸せに過ごしたその死者の長くて言いづらい名前を思い出した。その名前を特に気に入ったというわけではなく、養父母に与えられた名前をこの先使いたくはなかっただけだ。
女性はうつむいて「リオセスリ」と記録すると、審判の日——彼が病院を離れて動けるようになる日だろう——について簡潔に伝え、足早に立ち去った。
審判は順調に進み、心は弾んだ。罪が彼の手を染め上げ、心の奥底に根を張り、正義の判決が下されることを渇望する。彼は殺人の一部始終を漏れなく陳述し、細部まで補足したため、観衆が事件について議論を交わす余地はほとんど残されていなかった。観衆はまず孤児に関連した過去の事件について話し合い、規則性を探ろうとしたが見つけられなかった。次になんと彼の肩を持ち始めて、復讐相手は元々卑劣だったのだから罪を背負うべきではないと考えた。
こういう背景音は最終判決になんら影響も及ぼさない。審判の終了後、彼はただちに海の底に送られ服役することになった。出発前、判決書を書いた共律庭の職員は、再度彼に個人情報を確認した。
「あなたの名前は…リオセスリだね?生まれた日は?」
「…今日だ。」


キャラクターストーリー5
リオセスリの機械仕掛けのナックルは何度も生まれ変わってきた。
遡れば里親の家から逃げ出した時が始まりだ。当時の彼の年齢と体格では、大人に対抗し続けることは不可能だった。街を彷徨い歩くしかなく、アルバイトや見習いとして働き、解錠と小型装置製作の技術を手探りで身につけた。そしてできる限りの準備を整え、あの劣悪な場所を破壊しに戻った。
彼は腕に嵌められる装置を作った。それは高速で釘を弾き出せて、硬度の高すぎない場所ならどこにでも打ち込めた。使用回数が限られている点が玉に瑕で、戦いの後の装置はまるで彼自身のように瀕死状態に陥った。しかも彼とは違い、回復する見込みはなかった。
以前、メロピデ要塞で地下闘技をやっていた時は、決まった試合場所もルールもなかった。彼は勝つため、特別許可券を稼ぐために、ナックルの機能を常に新しくする必要があった。なぜなら、同じような小細工を二度も使えば、相手に利用されてしっぺ返しを食らう可能性があるからだ。また、試合で生き延びたとしてもナックルが盗まれたり壊されたりする可能性も大いにあった。そのため、数えきれないほど振り出しに戻ってきたのである。
より良いリソースを確保できるようになってからは、ナックル作りの手際もよくなった。化学薬品に頼って装置を駆動させる必要はなくなり、フォンテーヌ科学院の助っ人たちにも恵まれた。彼ら研究員たちはいつも機械の動く仕組みについて解説しながら、科学院で起きた荒唐無稽な事件についてあれこれと愚痴をこぼす。一方のリオセスリは、科学技術の進歩が犯罪の増加をもたらすとともに、事件捜査にも役立っていることを鑑み、良くなったとも悪くなったとも言い難い状況を興味深く思うのだった。
その頃にはもうほとんど試合に出ることはなく、ナックルはひと際厄介なトラブル解決のために使われていた。もはや人の命を奪う道具ではなく、むしろ称賛と敬意をもたらしてくれる。
しかし、人々は彼の犯した過ちを知らない。そして、彼だけが今もはっきりと記憶しているのだ——どれほど多くの栄誉や名声を手にしても、依然として自身の知る「リオセスリ」であることに変わりはないことを…
善人でもなければ完全なる悪人でもない。生き延びている命、ただそれだけなのだ。


ウィンガレット号
「…しかし古代の作家たちはこぞって、栄枯盛衰は世の常で、永久不変のものはないと言った…」
ファデュイが差し向けたスパイの件を解決した後、リオセスリは一人メロピデ要塞付近の海をひと回り泳いでみた。泳いだのはほんの短い時間だったが、帰ってから肌に軽く赤みが出ていることに気がついた。とはいえすぐに元に戻り、医務室で検査をすることもなく、この件を誰かに伝えようともしていない。ここ数年、予言が一歩ずつ現実になりつつあることは、様々な兆しから見て明らかだ。信じる者も信じない者もそれぞれに自分の揺るぎない指針があるがゆえ、その情報を必要としていない。
彼はメロピデ要塞で歴史を研究する罪人に何人か会ったことがある。その数は少ないが、意識のはっきりしている時でもよく突拍子のないことを口にしていた。そして「これは歴史学者にはよくある病気みたいなものでして、公爵様のお気に障りませんように」と言うのだ。もちろん彼らの口から聞く言葉を不快に思うことはなく、その理論に興味さえ抱いた。ある説では、繁栄を極めれば必ず衰退し、やがて再興するのがこの世の常であるならば、レムリアを飲み込んだあの大きな海はいずれ帰ってくるかもしれない、と言われている。そう聞くと、予言がもはや予言には聞こえず、ある種の規則に基づいて得られた推論のように思えてくる。
この理論を信じるか否かについては、他の多くの物事に対してそうであるように、様子見の立場を取っている。というのも、メロピデ要塞では常日頃から「仲裁」を必要とする問題が起きるが、同じ現場にいた目撃者の証言はほとんどの確率で一致しない。それゆえに、存在するあらゆる記録について鵜呑みにしないようにしている。歴史的な記述であればなおさらとなる。叙情的な語りには誇張された表現が当たり前にあるからだ。「…海淵の下の巨龍までもが王に臣従した」…とは言うが、単に特大級のヴィシャップだったりするんじゃないだろうか?
こういった輝かしい語りを除いた部分にこそ、彼は目を留める。
まだ先のある人生において、リオセスリはいつも何かしらの目的のために準備をしているようだ。彼はどのような状況下でも、人々が恐慌によって支配されることを望まない。恐慌に陥った個人の感情を取り除けば、後には危機意識と呼ばれるものが残る。危機に対応するために、たとえ無駄骨になろうと彼は何かをしなければならない。
歴史は常に壮大だ。歴史の下では、「人間」と波で砕かれ砂浜に打ち上げられた「貝殻」との間に何の違いもない。彼はウィンガレット号の製造準備を始め、物資と人手を大量につぎ込んだが、それほど期待を抱いているわけではない。これは災禍を逃れるための船であり、文明と栄光をもたらす金色のフォルトゥナ号とは雲泥の差がある。
しかし、結果がどうなろうとこの船を無事に動かすことができたら、少なくともジュリエとルールヴィのケンカは無駄ではなかったことになる。
「…古代の作家たちがいみじくも言ったように、栄枯盛衰は世の常で、永久不変のものはないのだ。」


神の目
メロピデ要塞の受付の前で、リオスセリはポケットに手を突っ込む——自分の名前と刑期が書かれた紙を職員に見せる必要があったからだ。
すると、紙と一緒に手のひらサイズのガラス玉がポケットから出てきた。
…いや、ガラス玉などではない。リオセスリはまばたきをした。いつの間にこんな物を持っていたのだろうか?
受付の職員は軽く息を呑んだ。その女性は厳粛な面持ちで、顔には皺があり、一瞬見せた驚きの表情もすぐに抑え、ペンを握る手はどっしりと力強い。彼女の唇がわずかに動いたが、結局口は開かれなかった。
リオスセリはとっさに、彼女はここで暮らしたことがあるのだろうと思った。そこで神の目をできるだけ手のひらに収めながら、小声でこう言った。「マダム、お聞きしたいことが…」
年長者の受付係は答えなかった。そして彼の手から紙を引き抜くと、冷淡に彼の背後を見やった。登録に来た次の罪人の姿を確認したようだ。彼女は必要な情報を登録し終えると、そんな必要はないのに、返される書類の端っこに「持っていなさい」とぞんざいに書き加えた。
その時、リオセスリは確信した。ここでの暮らしは街をさすらっていた頃よりもキツくなるだろうと。
幸いなことに、仮に後ろに誰かがいたとしても彼の体が視線を遮っていた。さらには親切な受付係が彼に助言をくれた。その後、彼女と再び会うことがなかったのは残念だが、職員の入れ替わりが激しかった当時のメロピデ要塞を思えば意外なことではない。
正式にメロピデ要塞に入り、リオセスリが最初にしたのは、針金を数本バレないようにくすねて、擦り減ったそれで神の目を服の布と布との間に縫いつけることだった。
帰る家のない生活には幾ばくかの心得がある。何より困難なことは、リソースを得ることではなく留めておくことだ。人には睡眠が必要で、無防備になるタイミングが必ずある。ゆえに、昼間に蓄えた財は眠りに落ちた後に易々と奪われてしまう。それは強盗とも呼べないほどだ。
神の目はなおさら普通の財とは比べようがないため、様々な理由から興味を抱く者がいるに違いなかった。また持ち主も悪い視線を集めがちだ。
のちの日々で彼の懸念は証明された。耳にしただけでも神の目が盗まれる事件は二、三件起きていた。事件のその後と被害者の境遇については、どの噂も違うことを言っていて、リオスセリはさして関心を寄せなかった。
彼はここでも自らの幸運を思った。とはいえ、他人の悲惨な失敗を踏み台のようにして自分を守るというのは、そう簡単に心の底から喜べるものではない。
その後の彼は長きに渡って、神から一度も憐れみを受けたことがない者だと偽ってきた。以前と同じように苦難に立ち向かうだけなら、彼にもどうにかできた。
そうして、かつての倍の年齢に達した頃、パレ・メルモニアからの招待を受けた。
慣例に則り、栄誉ある称号を授けられる市民は誰であれ授与式に参加する必要があったのだ。「公爵」ほどの称号ともなれば、儀式は大がかりになると聞く。
リオスセリは職務の特殊さを口実にやんわりと断り、簡潔にサインして証書を受け取るだけにしたかった。仲間と群れることを好まず、その日暮らしであるという点で、彼は実にフォンテーヌ人らしからぬ性格だ。
やがてかなりの仕事時間を割き、書簡のやりとりを経て、ついにパレ・メルモニアからの同意を得た。
水中を離れる時、リオセスリは久々に神の目を取ると、手のひらに乗せて軽く上下に振った。それは記憶にあるものよりも軽く、手のひらよりも小さかった。彼は服のちょうどいい場所を選び、神の目を引っ掛けた。
最初にそれに反応したのは、彼に称号を授与した最高審判官だ。ヌヴィレットの微笑みは非常に礼儀正しくて嫌味がなかったが、リオセスリよりも嬉しそうにしてこう言った。「おめでとう。ようやく自分の為したいことを見つけたようだ。」
リオセスリはそれを聞くと微笑むだけで、何も語らなかった。

リサ

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キャラクター詳細
彼女は西風騎士団の図書司書、物知りな淑女である。
噂によると、スメール教令院の200年に一人の天才魔女でもあるそうだ。
詳細は明らかにされていないが、リサはスメール国で2年間勉強した後、モンドに戻った。
現在は西風騎士団で仕事をしており、騎士団蔵書の管理を任されている。


キャラクターストーリー1
リサの仕事は大きく分けて二つある。
一つ目は図書館の書物の整理、二つ目は騎士団の薬剤の供給を保つ事である。
そのため、モンドの人々がリサに会えるのは、騎士団本部で本を借りるか、本を返却する時のみである。
その時のリサは、いつも気怠そうに受付に座り、欠伸をしながら貸出や返却の手続きをする。
そんな彼女を見て「図書館司書がこんな感じで大丈夫か…?」と疑問を抱く人も稀にいる。
しかし、リサの仕事は常に完璧で、少しの手抜かりもないのだ。


キャラクターストーリー2
スメール教令院の学者に「200年に一人」の優等生と言わせるリサの博学多識は言うまでもない。
荒野にいる妖魔に関する禁忌とされる知識、元素に満ちた花薬の処理方法、磁碗を2重に使う事で蒸留過程を1回省ける醸造方法…
リサはいつも分かりやすくその原理を解説できるため、若い騎士と錬金術師の間で「リサさんならきっと知っている」という共通認識が、いつの間にか生まれた。
もちろん、それは適切な時間に彼女の元を訪ねることが前提である。
うっかり二度寝の時間や、アフタヌーンティーの時間にリサの元を訪ねると、どうなるかは言わずもがなである。


キャラクターストーリー3
初めてリサに会った人の多くは、彼女に対し「さすが教令院の天才卒業生」という第一印象を抱いてしまう。
だが実際は、彼女は効率がいいというよりも、面倒事を嫌っているだけである。
薬剤の調合や補充の仕事はガイアを通して、ホフマンとスワンに丸投げ。薬草はフローラを通して、ドンナに届けてもらっている。
ただ、本と書類の整理だけは自分の手で行っている。
知識を自分で管理することが、リサを安心させられるからである。


キャラクターストーリー4
リサが西風騎士団に入ったばかりの頃、第8小隊の隊長を任せられた。
当時小隊佐官のニュンペーは、この件に対してかなり不満を抱いていた。リサのような「学院派」が、隊長という重荷を背負っていられるわけがないと思ったからだ。
そして、庶務長ガイアの同意の下、リサとニュンペーは魔法の「実戦練習」を行った。
練習はたったの2分で終了。その後、リサは「ニュンペー佐官には隊長が務まる程の力が十分にある」と、第8小隊隊長を辞退した。
その後の1年間は、ニュンペーから差し出された隊長推薦書が、団長の机に置かれる光景が度々見受けられた。推薦書に書かれた名前はいつも同じ、リサ・ミンツだ。
それらの推薦書は、最終的にリサの手元へ送られるが、リサはいつも適当な理由をつけて断ってきた。
もちろん、自分が指揮を取れば第8小隊はより強くなるが、それは必要のない強さであり、常人には理解できない力は大きなリスクが伴うからだ。
リサは数多くの局面をコントロールできる自信があるが、予想外の危険は、予想外の仕事が増えることを意味している。彼女には、それがどうしても耐えられないのである。


キャラクターストーリー5
スメール雨林の中で狂言を呟く学者や、評議会の最中に知恵を悟り、超俗の境地に入った賢者をその目で見た後、深淵のような「学問」が人にどんな痕跡を残すか、リサは深く理解した。
これほど重い代価…一体どれ程背負えば、魂の奥からそのような知識を掘り起こせるのだろう?
リサはその全てに反感をおぼえ、スメールを離れた。
その後、リサは何事に対しても真剣な態度を取らなくなった。
「神様に過ぎた奇跡を求める時は、その代価を支払えるかどうか、きちんと考えなければいけないわ」
これは、彼女がモンドに戻った後、聞かせるべきだと思った3人だけに伝えた言葉である。


特製加熱釜
特製加熱釜は、モンド人には理解できない設計を用いたオーダーメイド品である。加熱時刻の設定に材料投入の半自動化、そして保温機能がついている。
これはリサが莫大な予算をかけ、錬金工房を二週間貸し切って作った「特殊設備」だ。
この設備ならハンドルを2回操作するだけで、加熱する際の精密操作が自動的に完成する。
しかしこの機器の出番のほとんどは、リサが書籍の整理をしている間に淹れたお茶を、最高の状態に保つ時である。
リサにとって一日の中で、最も大切な時間はアフタヌーンティーの時間なのだ。


神の目
「神の目」──神に選ばれし者、世界を変える者の証。
或いは、魔導の秘密を探求する道に残されていた小さな注釈。
魔導を研究するためには、元素を理解しなければならない。古書から知識を得るより、実戦の方がいい。
あら、どうやら「神の目」が必要だわ。
そう思った瞬間、「神の目」がリサの手の中に現れた。
「神の目」を手に入れたリサは、知りたかった知識を得た一方、その中に隠されていた秘密も知ってしまった。
神はとある理由で、全てを変えられる鍵を手にする代償を、人々に告げなかった。リサはこの「真相」を恐れた。
首にかけられている「神の目」は、リサの心の中に危険な甘い香りを放つ深淵になった。
だから、時折リサは、彼女が興味を持った者に、様々な物事に対する見解を教える。
恐らくリサは、ずっと密かに期待しているだろう。いつか「神の目」の裏にある真実を見抜ける人が、目の前に現れる事を。

リネ

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キャラクター詳細
フォンテーヌの人々は様々な推理小説に熱中しており、精巧に作り込まれた事件の構想や意表をついたストーリーの逆転劇について、いつも興味津々に語り合っている。
マジックはこのような体験をスポットライトの下で再現し、チケット一枚と余暇さえあれば、拍手と歓声に包まれた不思議な旅を楽しませてくれる。
一番期待値が高いのはどのマジシャンの「ツアー」かと問われれば…ほとんどの愛好家たちはリネの名をあげるだろう。
スマートでロマンに溢れる彼は、豊かな才能の持ち主だ。何事にも頓着しないように見えるリネだが、彼は次々と奇跡を起こすことができる魔術師なのである。
マジックの業界では、「十八番」さえあれば名声を我が物にでき、かなりの期間、衣食住に困ることはない。
しかしリネのパフォーマンスは常に、新しい趣向に溢れている。貧しい出自のリネは、名声や利益に対して貪欲であるがゆえに、創作の歩みを止めないのだろうと人々は語る。
しかし実際には、彼はただパフォーマーとして常に真新しさを追求したいと思っているだけだ。全力で臨まなければ溢れんばかりのパフォーマンスへの意欲を完全燃焼できないと感じているのだ。
だから彼は、どれほど要望があっても同じショーを繰り返し観たいという観客の期待に応えることはない。そのため、もう一度観たいと願う熱心なファンを落胆させることもある。
――そして、チケットを手にして彼のショーを観るたび、今日見たショーは二度と見られないのだろうと、観客たちは口惜しさを募らせるのだ。


キャラクターストーリー1
ただ、空腹を満たしたかったから。それがマジックの世界に足を踏み入れた最初のきっかけだった。しかしフォンテーヌで自分の居場所を手に入れてからも、リネは技を磨き続けた。
マジックの恩恵によって自分や妹は生きるチャンスを得ただけでなく、本来両親から与えられるはずだった「初めての称賛」をも手に入れた。
彼にとって、パフォーマンスは早くから生活の一部であった。ステージに上がるたび観客は歓声を上げたが、リネが人気に酔うことはなく、むしろ彼は困惑していた。
マジックショー自体に夢中になっているのなら、観客たちはどうしてわざわざ「リネ」のステージに注目してくれるのだろう?
言い換えれば――花びらやカードのトリックに魅了されている観客たちも、より派手なショーがあれば次はそちらに引き寄せられていってしまうだろう。マジシャンは、常に新しいショーを見せ続けることしかないのだろうか?
その後のショーで、観客たちはある変化に気づく――マジックショーの合間合間で、リネが観客とやり取りをする機会が増えたのだ。
彼は少しももったいぶる事なく日常の様々な面白い事を喜んで共有し、観客がマジックのタネを知りたいと求ても*一向に気にしなかった。
とはいえ…洞察力のある観客は、リネの話が真実ではなく、ショーの雰囲気を盛り上げるための伏線に過ぎないことに気が付いただろう。
それでも、この善意の嘘にこだわる者はいなかった。彼のショーには真偽を見極められない部分が多すぎて、マジシャン本人でさえマジックの一部と化していたのだ。
彼はこれからも観客とつかず離れずの距離を保ち、他人への優しさと奇妙なマジックのバランスを意のままに操り、その微笑みで人々にあらゆる想像力を与えていくことだろう。
富める者にも貧しき者にも、悲しむ者にも喜ぶ者にも、どんな者にだって、想像力さえあればマジックの魅力は等しく伝わるのだ。
不思議で優雅なイメージで広く知られるリネだが、ある人の評価によれば、ショーの雰囲気を作り出す技もマジックと同じくらい巧みなのだという。
「そうかな?僕はただ、みんなに現実からちょっと離れて、一休みしてもらいたいだけだよ。」


キャラクターストーリー2
リネの新しい家は、フォンテーヌ廷の一角にある「ブーフ・ド・エテの館」だった。
そこにはリネ兄妹と同じような経歴を持つ孤児たちが沢山いて、家族のように助け合い、孤児としての自分たちの人生を受け入れようとしていた。
しかし、リネたちがこの場所に溶け込むまでの過程は、あまり順調なものではなかった。館の管理者から紹介されたところで、元からいた子供たちにとって新たな「よそ者」をすぐに受け入れることは難しいことだったのだ。
そんな重苦しい雰囲気の中、リネットが衆目の中で館の取水設備を壊してしまい、皆の不信感は頂点に達した。
そこでリネは自ら責任を負い、日常生活に支障をきたさないよう設備を修理することを約束した。
リネは機械の修理についてはちっとも詳しくなかったが、リネットがよく小型設備を壊してしまうことがあったので、感覚のみに頼って修理することには慣れていた。
しかし残念なことに、取水設備の複雑さは彼の想像を遥かに上回るものであった。どうにかもう一度動かすことには成功したものの、根本的な問題を解決できたかどうかは分からなかった。リネが途方に暮れていると、ある物静かな少年が設備の点検と修理を買って出てくれて、謝罪までしてくれた。
どうやら、その少年は「ブーフ・ド・エテの館」の設備の維持補修を一身に担っているようだった。パーツの老朽化をすぐに発見できなかったのは自分の責任で、壊したのはリネットのせいではないと彼は話した。
リネは責任の話にはほとんど関心がなかったが、少年の素晴らしい手際を何度も褒めた。そしてリネは、リネットが物を壊してしまった時にすぐ対応できるように、少年から技術を学びたいと考えた。
断ることが苦手だった少年は、小さな作業部屋でリネに助手をしてもらうことにした。時が経つにつれ、リネと少年――「フレミネ」は確かな友情を築いていった。
リネはフレミネにせよほかの仲間にせよ、館の仲間たちのためには時間を惜しまなかったが、仲間たちの過去には一切触れず、ただいつも静かに側にいてあげるのだった。
「エゴを満たすための思いやりを必要とする人なんていない。」――これはリネも納得する、リネットが導き出した答えだ。
更に時が経つにつれ、館の仲間たちはリネに昔の話をするようになり、リネも次第に家の用事をよりうまく処理できるようになっていった。
どんどん館の中心人物になっていくリネに向けて、フレミネは、そこまでする必要はないのにと、理解できずにいる本心を露わにしたこともある。
それに対してリネは最初、今後も妹のリネットが色々な機械を壊してしまいそうで申し訳ないから、フレミネの助手を買って出たのだと冗談混じりに言った。
しかし、そんな言い訳がフレミネにもう通用しないことは明らかだったので、彼の目線に応えて、リネは正直に告げた。
「リネットは唯一の家族だから。僕はあいつから『家族』との接し方を学んだんだ。」


キャラクターストーリー3
「ブーフ・ド・エテの館」の創立記念日、子供たちは家の飾りつけに大忙しだった。
館のメンバーにとって、外で聞かれるお祭りなど、彼らの暮らしとはまったく無関係な、冷たく無情なものであり、彼らに確かな温もりをもたらしてくれるのはこの家だけだった。
リネの計画のもと、みんなは動き出した。リネットは記念日の飾り付けに使うものを山ほど買ってきて、他の子供たちと一緒に色とりどりのテープを飾り、手書きのお祝いメッセージを掲げた。
フレミネはマジックの小道具がちゃんと動くかチェックしていた。リネはフレミネの腕を信頼していたので、今回の装置の設計をすべて彼に委ねたのだ。
そしてリネはと言えば、誰よりも忙しく動き回ってみんなの進捗状況を確認するとともに、オリジナルの盛大なマジックのために、最後の仕掛けを密かに仕上げていた。
みんなの協力のおかげで、パーティーは無事に開催された。ホールはレコーダーから響く軽やかな歌声で満たされ、子供たちは踊ったり食事を楽しんだりした。この日は誰の誕生日でもなかったが、自分たちが生まれ変わる記念日だと、誰もが感じていた。
クライマックスはもちろん、リネ、リネット、フレミネが準備した創立記念日を祝う大がかりなマジックだ。部屋の真ん中にはマジックボックスが置かれ、みんな息を呑んで待っている。
マジックの驚きを損なわないよう、その中身についてはリネットとフレミネですら知らされていなかった。辺りが暗くなり、箱の前にいるリネに視線が注がれた。期待が高まりすぎたせいか、慣れっこのはずの彼も、さすがに少し固い表情だ。
「これから僕が言うことはちょっと大げさかもしれないけど…僕が贈りたいのは、僕たちの人生において一番大事な『プレゼント』さ」
クラッカーがパンパンと鳴り響き、空っぽだったはずのマジックボックスがひとりでに開くと、みんなは歓声を上げ、驚き、呆然として…やがてあたりはシンと静まった。
そこに現れたのはプレゼントなどではなく、館の管理者でありオーナーでもある人物…つまり、みんなの「お父様」だったのだ。
「お父様」は厳格で慎み深いイメージで、普段はあまり姿を現さない。そして、「お父様」がいるときは誰も勝手な発言や行動をすることはない。
こんなふざけた方法で「お父様」を登場させるなんて、リネは気でも狂ったのか――
しかしそんな子供たちの反応を見ても、「お父様」は声を尖らせることはなく、リネが完璧に秘密を守り、マジックを期待通り成功させたことを褒めた。
その夜、子供たちは「お父様」とデザートを分け合い、「お父様」はその場にいる子供たちにケーキを切り分けてやり、自身もそれを少し味わった。
彼らの「お父様」がしばし重責を忘れて家族愛に満ちたひとときを楽しむことができたのは、リネの創立記念日のマジックにおける、もっとも不思議な部分であったと言えるだろう。


キャラクターストーリー4
マジックと秘密はリネの足元にどんどん積み重なっていき、やがて塔の如くそびえ立つようになった。彼は塔の頂上に立って風の匂いを感じ、行き交う人々を見下ろしながらもう後戻りできないことを自覚していた。
次から次へと観客の目線を惹きつけるマジックの技のためにも、後に「ブーフ・ド・エテの館」で背負うことになる責任のためにも、彼は嘘を利用することに慣れざるを得なかった。
時に利益を得るために嘘を使うこともあったが、大抵は大勢の者を面倒に巻き込まないようにするために使った。
リネは、一度信頼が崩れてしまえば評判の天秤は二度と機能しなくなり、良い目標ですら悪と曲解されてしまう事を理解している。
そのため、彼は他者と協力する際にも、不必要な情報は一切公開しなかった。おかげで作戦はより順調に進み、全員にとって理想的な結果が得られるのが常だった。
しかし、嘘が風とともに消え去ることはない。だからリネはいつも精巧な幻たちを注意深く保ち、利害関係者と距離を置く必要があった。
——塔が高くなりすぎて、いつしか彼に触れられる者がいなくなり、彼らの姿さえ曖昧にぼやけてしまうまで。
しかしリネは常に冷静であり続けた。彼は嘘と共存する道を選んだのだ。その道は長く、孤独だ。
誰もがステージの上でライトに照らされて輝く「大魔術師リネ」を知っているが、彼らが愛するのはその不思議でロマンチックな一面や手が届かない存在という一面のみであって、その奥底にある彼自身の心を知るわけではない。
それでも、彼には他人に打ち明ける資格はなく、日々歯を食いしばって前進するしかない。高所から落下したときの痛みという代償に彼は耐えられないからだ。
リネはあまりに多くのキャラクターを演じてきたためか、「自分」というものがよく分からなくなり、困惑することがある。
彼はまた、塔の夢を見た。塔の上にある足場はますます狭まり、塔の下には「裏切り」という名の死の霧が立ち込め、行き場がない。
しかし、墜ちる前に彼の手を掴む者があった。その手から伝わってくる懐かしくて温かい感覚が、魂を肉体に引き戻し、自分を取り戻させてくれた。
「ありがとう、リネット…」
少年は目覚め、静かにひとりごちた。


キャラクターストーリー5
フォンテーヌで活動を行う「ブーフ・ド・エテの館」の目的は正当なものだったが、彼らはいつも過激な手段を取った。「お父様」の影響力を使ってフォンテーヌ廷の内部をコントロールしなくては、問題が起きないことを保証できないからである。
「執律庭」にはリネからの資金援助を受ける役人がおり、館の作戦のために情報を提供し、不当な行為による影響を排除してくれる。
役人にとっても、このようなやり方にはそれなりのリスクが伴うのだが、現在のフォンテーヌには「お父様」のように冗長な規則を避けて直接行動を起こせるだけの力を持つ者がいないと役人は感じていたため、すべてを完璧にこなした。
リネはかつて、「これからは何があっても協力するし、君が危険な目に遭ったときは僕が助けにいくよ…ああ、でもあんまり期待はせずに、自己防衛もしっかりね。」と冗談混じりで言った。
役人は、リネが「気遣い」を表する方法としてそんな科白を言っただけだとわかっていたが、それでも不吉な予感が的中することを常に恐れていた。そしてついに彼の行ったことが発覚し、逮捕されようとした瞬間…役人は緊急連絡用の装置でリネに連絡を入れた。
現場に到着した警察隊員はこの装置を見つけ、役人の幼稚さを笑った。連絡装置など、有事の際に館側が自分たちを守れるよう知らせてもらうことが目的で持たせたのであり、助けに来るような愚か者はいるはずがないのだ。
しかし、役人の答えは非常にシンプルだった。たとえこれが、単に彼らを捜査の手から逃がすためのものだったとしても、今までの協力が間違った選択だとは思えなかった。
ところが、警察隊員が役人を護送しようとした矢先…周囲にあらかじめ設置されていた発煙装置から濃い煙が立ちのぼり、役人はその数秒間にまばゆい炎の光を見た——
その後、「サーンドル河」に落ちた役人は、フレミネによって救出された。
後に聞いた話では、警察隊員たちは犯人が飛行装置を使って現場を逃亡したと考え、空に光る火の手を追いかけるのに時間を費やしたらしい。しかし、結局発見されたのは、グライダーの下にある服を着た状態の丸太のみであった…
これは、リネが前もって警察隊の注意をそらすために仕掛けておいた装置であった。実際、役人は地下から脱出していたのだ。
役人は、魔術師のことも館のこともさほど信頼していなかったので、装置のボタンを押したときもあまり期待はしていなかったと認めた。それでも、わずかな可能性に賭けてみようと思ったのだった。
「あははっ!他人を信じるのも一種の賭けだからね。」
「まぁ安心してよ。魔術師はいつもでたらめばかり言うものだけど、観客の期待に背くことは絶対にないんだからさ。」


ロスランド
リネとリネットが飼っている猫たちの中に、「ロスランド」という名の特殊な猫がいる。
猫たちはそれぞれ館内に自分の縄張りを持つが、中でもロスランドはリネのハットに夢中だった。
ハットはマジシャンにとって重要な道具だ。つまり、リネがそれを使うときはロスランドを追い出さなければいけないわけであり、不満そうに鳴いて出ていく姿を見るのはとても心苦しい――ましてや、ようやく「家」を手に入れたリネとリネットなのだから、尚更だ。
そこで二人は代わりになるものを探し始めたのだが、どんなにきれいで快適そうなねぐらを探してきても、ロスランドは見向きもしなかった。
そこでリネは、まったく同じハットを用意した。さすがにこれならロスランドもケチを付けないだろうと思ったのだが、すると今度はなんと新しいハットまで独占し、どちらを持っていこうとしても恨めしそうな顔をするのだった。
とはいえ、この程度の気ままな行動を責めることもできないので、リネはあれこれ考えた末にある解決策を思いつた。それは、ロスランドもマジックの一部にしてしまうというものだった。
リネとリネットは、ハットのぬいぐるみを作った。普段はロスランドのクッションだが、ショーのときにはロスランドに中に入ってもらうと、とても粋で可愛い姿になった。
ロスランドがまったく人見知りせず、むしろ新しい仕事を気に入った様子だったのは意外だった。ひょっとすると、舞台照明が楽しかったのだろうか?ショーの最中、少しの間「ねぐら」を離れることがあっても、ロスランドはさほど独り占めをしたがらなくなった。
ある時、ショーでリネが珍しくミスをして、本来変化させるべきカードをステージ裏に置いてきてしまったことがあった。観客の期待の目がリネに注がれる中、応急策を考える猶予はわずか数秒。しかも、常に余裕なふうでいなければならない。ふと、宙に浮かべたハットが予想外に重いことに気づいた。見れば、空っぽだったはずのハットの中に、いつの間にかロスランドが隠れているのではないか。
ハット姿の「ぬいぐるみ」がおしゃれに登場し、さらに小さなシルクハットの中からリネのカードがこぼれると、会場はあっという間に湧き上がった。リネはほっとすると同時に、とても驚いた。
きっとロスランドは見たり聞いたりするうちに、いつの間にかマジックショーの技を身につけていたのだろう。


神の目
リネットが神に選ばれて以来、果たすべき任務はますます難しく危険なものになっていった。
恐ろしい危険を伴う作戦やあまりにも過酷な隠密行動は神の目を持ったリネットにしか達成できず、次第に二人が別れて任務を遂行するケースも増えてきた。
リネがそれに順応できなかったのは、小さな頃からいつも二人で一緒に過ごしてきたからという理由だけではない。離れることに動揺しているのが、自分だけではないことを理解していたからだ。
これまでと同じように常にリネットの側にいて、できる限り助けてやりたい。それが彼の譲れない願いだった。
あるいは——心が純粋ではなくなったから、自分には神に見守られる資格が与えられないのだろうか…そうリネは考えた。二人の間にある大きな力の差は一向に埋まらない。ならば…
リネは慎重に「お父様」と対面し、リネットと作戦を共にするために奇怪で危険をはらむ「邪眼」の力を手にしたいと提案した。
「お父様」はしばらく黙り込んだのち、リネに対して珍しく怒りの表情を見せた。身をすくませる斜めの十字架は、今にもリネの魂を射抜いてしまいそうだ。
「リネットはそれを望んでいるのか?」
短くも力強い質問は、リネの心に張り詰めていた糸を断ち切った。目まいの中で、妹の言葉が再び頭の中を巡った。
——「エゴを満たすための思いやりを必要とする人なんていない。」
問うまでもなく、わかった。「邪眼」を使ってでも、妹と作戦を共にしたいという考えは許されることがないだろう。リネは、自分の考えがどれほどでたらめなものであったかを痛感した。
「お父様」は立ち去った。リネが力不足を感じたのはこれが初めてのことではなかったし、彼はもう答えを見つけていたのだと、「お父様」は気づかせてくれた。
リネは部屋に閉じこもって、「お父様」の言葉の意味を理解した——兄妹が街を放浪していた頃、リネが見つけた答えは「マジック」だった。ならば、今出せる答えは何だろう?
リネは、リネットの最近の任務リストを見つけ出すと、各任務の計画フローを細かく分析して妹の取りうる行動を脳内でシミュレートした。
ターゲットに接近する時に、そこまで危険な谷を通る必要があるだろうか?
現場から離脱する時に、そこまで流れが急な川に飛び込む必要があるだろうか?
——否。神の目の光に覆われて、リネット自身が見えなくなっているだけだ。
リネは、リネットの行動について綿密な計画を組み立てた。妹に対する理解に基づいて最適なルートを決めるとともに、極めて実用的な道具を作り、最も適切な合流ポイントを定めた。
兄妹の信頼関係は変わらず、任務に行く時のリネットの目には、以前のような張り詰めた様子がなくなった。そして指定のポイントで合流できた時には、幸せそうに抱きしめ合った。
家族を守りたいという純粋な願いは、神に選ばれるかどうかによって変わるものではなかったのだ。
しかし完璧な計画だったとしても、想定外の状況をすべて予測するのは難しい。何十回も順調に任務をこなした頃、館の子供たちはある裏切りに巻き込まれ、リネットの足跡も露呈してしまった。
兄妹の目の前にあるのは、切り立った崖。すべてはリネットが神の目を手に入れたあの夜の再演のようだった——しかし今回は、リネが眼前の危機を逆転させる番だった。
緊急用のパラグライダーを開いて、リネットを抱えて飛び降りる。その瞬間、追っ手がやってきて続けざまに発砲した。
リネは懸命に方向をコントロールし、幾度も銃弾を避けたが、いくつかがパラグライダーに命中した。ついにパラグライダーはバランスを失い、二人は地面に向かって墜落していった…
それでもリネは歯を食いしばり、諦めようとはしなかった。たとえ運命がやっと見つけた「家族を守る」という答えを否定したとしても、最後まで抗ってみせる。
この速度で落ちれば決して助からないことを知っていた追っ手たちは余裕の表情を浮かべた。しかしその時、突然上空で炎が燃え上がり、パラグライダーは近くにある流れが急な川のほうへと向かっていった。
炎の力は墜落方向を大きく変え、風の力が二人を衝撃から守った。月夜の下で絡み合って広がった二つの光は、フィナーレで沸き起こる拍手のように、ゆっくりと消えていった。
リネは手の平の中で輝く神の目を見つめていたが、その意味を推し測ろうとはしなかった。すでに彼にとって、それは重要なことではなかったからだ。

リネット

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キャラクター詳細
フォンテーヌ廷で最も名高いマジシャンと言えば、観衆は間違いなく、ステージ上で生き生きと輝くリネを思い浮かべることだろう。
しかしフォンテーヌ廷で最も名高い「マジシャンのアシスタント」と言えば、皆まったく見当がつかないか、意見が一致しない。
拍手喝采は彼女のために鳴らされるものではない。アシスタントとして、彼女は必要なタイミングで観衆の注意を引き付け、最も高まる瞬間を主役に返すのだ。
ステージの上であろうと下であろうと、リネットは自分という存在をリネの背後――小さな光も賞賛も届かない影の中に隠すことを習慣づけている。
マジシャンのアシスタントが目立たないでいられるのは、日頃のプロ意識の賜物だ。
そして、「家」の子どもたちにとってはなおのこと…影に隠れることこそ、生存の道となる。


キャラクターストーリー1
リネットは不要な面倒を避けるため、よく「待機」や「省エネ」といった言葉を口にする。
やりたくない雑用が舞い込んできたときに、「ぼーっとしている」とでも答えてしまえば、十中八九「じゃあ暇ってことか!」と言われて雑用を押し付けられるに違いない。
しかし「待機モード」だから「エネルギー節約」の必要があると真剣に公言すれば、リネットの彫刻のような表情も手伝って、相手は一瞬言葉を失ってしまう。
その際にリネットは真面目な表情のまま、平然とその場を立ち去れる。
彼女をよく知る人にはあまり効果的ではないが、そもそもリネットをよく知る人のほとんどは面倒事を避けようとする彼女の性格をよくわかっており…彼女に雑用を任せた場合の結果について、よく知っている。
機械に関する専門用語を並べ立てる彼女だが、リネットが持つ機械の知識は、残念ながらそれがすべてなのだろう。
リネットの家では、「リネットを一人で食洗機や掃除機などの機械がある部屋にいさせるな」という教えすらある。
さもなくば、第三者――大抵の場合はフレミネ――が駆けつけた時、機械が辿っている運命は次の二択だ。
1.よく分からない壊れ方をしている(食洗機は白い泡を吐き、掃除機は倒れてけいれんを起こし…リネットは我関せずの表情でめちゃくちゃになった部屋の中に立っている)。
2.機械は無事だが雑用はまったく進んでおらず、リネットは隅っこでサボって寝ている。
どちらの場合も扉を開くまでは予想ができず有害無益であることから、リネットは心安らかにすべての家事に別れを告げることとなった。
それにしても、どこからどう見ても単純明快な機械だったとしても操作方法がわからず、たちどころに壊してしまうとは本当に不思議である…
ただ、唯一マジックの仕掛けを操作する時だけは、リネよりも精一杯の集中力を傾けており、一度もミスしたことはない。


キャラクターストーリー2
見方によっては、「マジシャンのアシスタント」とは矛盾した職業であると言える。
ステージ上の拍手喝采は主役であるマジシャンのものであり、ステージ下の花や名誉や利益も、アシスタントには関係のないものだ。
しかし、素晴らしいパフォーマンスにはアシスタントの協力が不可欠である。
ステージ上で最もマジシャンに近い存在として、アシスタントはマジシャンの秘密を知り尽くしている。また、危険なパフォーマンスをする際には、アシスタントの一挙手一投足がマジシャンの生死に直結する。
ステージ上のマジシャンとアシスタントは両面鏡のようなものであり、片面が光に向かって観客の注意を引き付けている間に、その後ろでもう片面が闇に向かって技を完成させる。そして両者の役割は交互に切り替わり、常に変化するのだ。
二人の息をぴったり合わせるためには、マジックへの造詣がアシスタントとマジシャンの間で大きな差があってはならない。
そのような技術を持っているならば、どうして他人の下で生きていくことを良しとできようか?――ゆえに、大多数の見習い出身のアシスタントは芸が完成すると独立するものであり、永遠にアシスタントの地位に留まる者はあまりない。
リネがデビューして有名になると、多くの著名な人物がリネットの潜在能力を評価し始めた。独立すればさらに輝くスターになれるだろうと、映影フィルムの主演女優のオファーをする人までいた。
猫耳、女の子、魔術師…これだけの要素が揃っていれば、注目を集めるのは間違いない!
しかし残念なことにリネット自身はその厚意にまったく応えず、すべてのオファーを断った。しかも断る時には…理由を並べ立てることさえ面倒に思って、すべての返事をリネに丸投げしたのだ。
しかし、そういった観衆の多くは地位の高い人々で、「お父様」からも軽視してはならないと言われていたため、リネはかなり頭を悩ませていた。
もし引き抜きの誘いの手紙に返事を書いたのが他でもないリネ本人だということが発覚すれば、今後かなり気まずくなってしまうだろう。
だから、彼はリネットの口調を真似て、礼儀の行き届いた丁重な文面でお断りの返事を書き上げるしかなかった。
いくらリネが雄弁だといっても、普段から口が重いリネットの喋り方で返事を書くのは相当骨が折れた。
返事を書くのに頭も腕もへとへとになったリネは、ソファでのんびり寝ているリネットを目にした瞬間――「だったら本当にやらせてみるか?僕がアシスタントになってもいい」と考えてしまった。
「…よしましょう。」そんなリネの一瞬の閃きを鋭く察知したのか、リネットはそう言うと、背伸びをしてリネのほうに向き直った。「私はお兄ちゃんのアシスタントでいるのが好きなの。」


キャラクターストーリー3
お茶は、リネットの数少ない趣味の一つだ。
ティーカップから立ち籠める湯気を見ながら上品な香りを楽しめば、一日の疲れは消えていく。
賓客の来訪がある日は、たいていリネが応対し、リネットはお茶でもてなした。家でティーパーティーを開くときも、彼女がお茶を淹れ、他の人々はお喋りにいそしんでいることがほとんどだ。
他の人が弁舌を振るったり世間話をしたりしている間、リネットはいつもそばに座って両手でカップを持ち、フーフーと冷ましながら、黙ってお茶を飲んでいる。
彼女は猫舌なので、熱すぎるお茶は飲めないのだった。
しかし、ぬるま湯でお茶を淹れるのはもったいない。ましてやお茶に氷を入れたり、冷ますためにカップを二つ使って交互に注いだりするのは、彼女に「邪道」だと叱られてしまう。
氷を入れればお茶の濃さに影響が出るし、何度も注げば飲み心地が失われてしまう…対して、少しずつ吹いて冷ませば、最適な温度で飲めるので火傷することもないし、風味を損なうこともない。
難なく飲める頃合いになっても、リネットは決して焦って飲み尽くしたりはしない。
終わりに近づくほど風味が濃くなるお茶もあり、ひと口飲めば数分間は後味を楽しみ続けることができるのだ。だから彼女はいつも、非常にのんびりとお茶を飲む。
ティーポットが空になる頃には、世間話も終わりに近づいていることだろう。
ただし、テーブルに残されたティーセットについては…食洗機を壊されないよう、他の人に任せたほうがいいだろう。


キャラクターストーリー4
あるフォンテーヌの役人が、「ブーフ・ド・エテの館」のここ数か月の資金の流れを調査しようとした。
しかし調査計画の草案が出されると、上司は慌てて調査を止めさせた。
その上司が、とある名家の女性と密会している写真が同封された一通の手紙を受け取り、それにより調査を中止に追い込んだなどとは、役人は想像もしなかった。
上司自身も、まさかマジックショーの最中に妻のものではないハンカチを取り出したことが、秘密露見のきっかけになるとは想像もしなかった。
あの時、ステージ上の素晴らしいパフォーマンスに感動していた彼は、暗がりから注がれる視線など、気にも留めていなかったのだ…
しかしリネットにとって、その一瞬の隙は、まったく気付かれないうちに情報をすべて「盗む」には十分だった。
人々は、服装、目線、仕草、さらには会話の中の沈黙などによって…無意識のうちに、自分をさらけ出しているものだ。
それらの情報は無数のディテールに覆い隠されているため、普通の人には何も読み取れないが、リネットは尋常ならざる観察力によってそこから「鍵」を見つけ出すことができる。
一見何でもないような無数の詳細情報を繋げていけば、館にとって有用な情報が導き出されていく。
一方は光の中に、もう一方は闇の中に。館の二つの「目」はフォンテーヌの著名人たちから数え切れないほどの秘密を盗み出すが、当人たちは盗まれたことにすら気づかない――さながら、マジックのようである。
鋭敏な感覚を保つためには精神の絶対的な集中が不可欠であるため、仕事モードのリネットは口数を減らして労力を節約している。
任務のない時でさえ、彼女は不要な情報をふるいに掛ける癖がついている。
…ただし、どの情報が有益か不要かの判断基準は、完全にリネットの好みによる。
例えば、様々な機械の操作や家事スキルについては、まったく関わらなければ正々堂々忘れ去ることができるのだ。
そして、お茶会でのお喋りやうわさ話も「なるほどね」「そうだったの」「それで?」と適切に相づちを打ってやれば…スムーズに話を進められる。
労力と手間を省くことができて、リネットは満足だ。


キャラクターストーリー5
多くの人は、リネットの猫耳も衣装の一部だと思っている。彼女と同じ血が流れているはずの兄のリネは、常人と変わらぬ見た目だからだ。
しかし、リネットの頭から生えている耳や尻尾は飾りなどではなく、正真正銘の本物である。
この猫のような形質は遺伝によるものが多いが、後世になって祖先の血が薄れても、隔世遺伝によって現れることがあるという。
幼い頃のリネットは、ご先祖様からのこの「贈り物」があまり好きではなかった。
悪意の有無は定かではないが、いつもおせっかいな子が耳と尻尾を指さしてリネットに言うのだ。「どうしてみんなと違うの?」「リネとは本当の兄妹じゃないの?」
内向的なリネットにはどう答えていいかわからない。だが、いつもリネがそばにいてくれるわけではない。そんな時はただ、耳を押さえて尻尾を丸め、隅っこにうずくまっていつも独りで悲しむのだった。
街のあちこちにいる野良猫だけが、リネットを慰めるように寄ってきてくれて、足首に毛並みを擦りつけるのだった。
こんな顔のままじゃ、リネに会いにいけない。それはよく理解していた。ただでさえリネはたくさんの心配事を抱えているのだから、こんな幼稚なことで困らせてはいけない。
…しかし、何でもないふりを装っても、リネには必ず見抜かれてしまう。天才マジシャンを騙すなら、まずは自分からだ。
リネットは足元の子猫を抱き上げると、その背中をやさしく撫でた。子猫の息づかいを感じるうちに、リネットの気分は少しずつ和らいでいった。
子猫が彼女の腕から飛び出した頃には、リネットの表情はいつもの穏やかさを取り戻していた。
フォンテーヌの貴族の中には、珍しいものに楽しみを覚えるろくでなしもいる。パーティーで、とある「大物」がリネットの変わった外見に目をつけた。
すると、当時の養父は何のためらいもせず、彼女の反対も抵抗も無視して、まるでソファを引っ掻くペットの猫を送り出すように、彼女を「大物」の車に押し込んだ。
どうして私なの?どうして私には耳が生えてるの?
息が詰まるような孤独の中で、リネットはついに長年の鬱積に耐えられなくなり、苦痛に耳を塞いだ。
「もう隠れるのはやめたまえ。怯懦は何の役にも立ちはしない。」——その声は、月明りとともに差し込み、暗闇の中で反響した。「出てくるといい。君を傷つけようとした者はもう死んだ。」怯懦冷たく厳粛な響きではあるが、どこか安心させるような魔力を持つ声だ。リネットは顔を上げ、今後自分の「お父様」となる人物を見た。怯懦「いい耳だ、監視に役立つだろう。これからはそれの使い方を覚えるんだ。」怯懦「お父様」がリネットの耳をなでる。手も言葉も、決して優しいものではなく、あの夜の月光と同じように冷たい。怯懦しかし、それはあの月と同じく、世界の片隅にある暗闇を照らしてくれるものでもあった。
……
「猫が耳を後ろに反らせるのは、恐怖や警戒のサイン。逆に、前向きにして立てているときは、ご機嫌なことがほとんどなんだ…」
ブーフ・ド・エテの館の新入りに猫の習性について説明するとき、リネは毎回ついそばにいる妹にちらりと視線を向けてしまう。
リネットの耳はまっすぐ前を向いて立ち、たまに外側にぴくぴくと動いている。
もう随分長く、この耳は後ろを向いていない。


「非自動」給餌器
フレミネがオーダーメイドで作った自動給餌装置。家の中で増え続ける小さな動物たちのために使われている。
ある日のショーが終わった後、リネットは劇場の裏口に捨て置かれた箱を見つけた。
蓋を開けると、生まれてから一ヶ月にも満たない子猫たちがびっくりしたように顔を上げたが、お腹が空いているのか逃げる元気すらなく、ただプルプルと震えながら彼女の目を見つめてくる。
リネットは何も言わず――手を伸ばして驚かせることもなく――ただじっと子猫たちを見つめ返した。
やがてリネットに悪意がないとわかったのか、子猫たちは見上げ続けて疲れてしまった小さな頭を戻し、項垂れた。
そこで、リネットは初めて箱を持ち上げた。箱の中に入った子猫たちは静かに横たわったまま、目の前の少女が新しい「家」へと連れて行ってくれるのを待っていた…
この小さな動物たちの面倒を見るかどうか、家族たちは小さな議論を交わしたが、いつもは口数が少ないリネットも、この時ばかりは珍しく「飼う」と言って譲らなかった。
そして、ついに事情は「お父様」の耳にまで届き、つまらない諍いはやめるようにと、鶴の一声があった。
「飼いたいならば自力でどうにかするがいい。ただし、しつけもすべて自分でやるんだ。他人に迷惑をかけないように。」
一瞬の沈黙の後、さらに彼女はこう付け加えた。「もし、この冬が終わるまでにルールを守ることを教えられなかったら、その時は自分でその子たちを処理することだ。」
「お父様」からそう言われてしまえば、もう双方とも、何も言えるはずがなかった。そうして、子猫たちを躾けて育てる任務はリネットに任されることとなった。
リネットがいつも面倒ごとを避けたがっていることをよく知っていたフレミネは、彼女のため、特別に自動給餌器をオーダーメイドした。
マシナリーの中にはタイマーと計量装置を組み込んだ上、湿気を防ぐルーレット式のエサ箱を備え、これを使えば、子猫に様々な種類のエサを決まった時間に決まった量で与えることができた。
これは、リネットの手に渡ってもなお無事だった、数少ない機械の一つでもある。長年役目を務めていながら一向に故障する気配はなく、内部構造も未だに新品同様の状態だが、給餌口の下にあるお皿だけは使い込まれた様子が見て取れる。
それは、リネットがこの機械の機能を活かしたことがないからだ。
各箱にどのエサを入れておくか、エサの時間や量はどうするか。それらを覚えておくよりも、毎日自分の手でキャットフードをお皿に盛り付けてあげるほうが便利だと思ったのだ。
それに、エサやりまでも機械任せにしてしまったら…
リネットは「非自動」給餌器の横にしゃがみ込み、エサを食べる猫の毛並みを整えてやりながら静かに考える。
――それでどうやって、この子たちを教育できると言うの?


神の目
小さい頃、リネはよくリネットに神の目の物語を話してくれた。
その物語の主人公に不可能なことは何もなく、少し指を動かすだけで嵐を巻き起こし、軽く息を吹くだけで霧を吹き飛ばすことができた。
それはあらかじめ準備されたマジックなどとは違う、本物の奇跡だった。
「私たちにも神の目があればいいのに…」当時、リネットはよくそう考えた。
神の目があれば、マジックを本物の魔法に変えることができる。帽子の中から、食べ物や暖を取るためのたき火を呼び出すのだ。そうすればリネが暮らしのために苦労する必要もない…
しかし、神が彼女の祈りに耳を傾けることはなかった。それからしばらくの間、彼女はリネとともに放浪し続け、街のあちこちや貴族の邸宅を転々とし、ついに「お父様」の庇護の下に定住の地を見つけた。
二人はこれを得難い機会だと理解し、厳しい訓練を乗り越えて、互いに助け合いながら数々の任務をこなした。
そんな現実は幼い頃の考えを早々に洗い流し、神の目に対するあこがれも遠い過去へ置き去りになった。
とある作戦において、二人は貴族の山荘でマジックを披露することになり、その書斎に隠された犯罪の証拠を盗み出す機会をうかがっていた。
任務そのものは至って平凡なものだ。作戦は順調に進んでいった。ショーの機会に乗じて二人は山荘の扉や窓に小細工を仕掛けた。ショーの後、こっそり山荘に戻って潜入すれば、誰にも気づかれずに罪の証拠を盗むことができる。
しかし、上手くいったと思った矢先、窓の外の深い森の中で三つの炎が灯った——見張り役として待機していた「家族」からのメッセージである。
三つの炎は最悪の事態を意味していた。なんと、執律庭もこのターゲットを注視しており、すでに人員を送り込んでいたのだ。
元のルートで退避すれば、執律庭と出くわす可能性が高い。二人がマジシャンの立場を利用して任務を遂行していることが露見すれば、自分たちの運命が終わるだけでなく背後にいる「家族」までを巻き込むことになる——
書斎の外から聞こえる声は、ますます大きくなってきていた。最も迅速に、目立たぬように撤退するためには、リスクを冒すしかない。
山荘は山を背にして建てられており、窓の外は崖になっている。そして、その下にあるのは急流の川だ。
リネットとリネは顔を見合わせると、何も言わずに手を握り合って窓から飛び降りた。
「ゴオォ——」怒涛の水流がリネの体を襲う。
水に落ちる瞬間、彼は自身の肩と背中で必死に衝撃を受け止め、またしてもリネットを守った。しかし、その激しい衝撃に意識を失ってしまったのだった。
リネットはパニックに陥りながらも何とかもがいて流木を掴み、意識を失ったリネを岸に引き上げると激しく咳き込んだ。
焼けつくような肺の痛みに必死に耐えながら、リネットはリネの状態を切迫した様子で確認した。顔は青白く、目は閉じており、いつもの彼の面影はない。
リネットはこれ以上リネの体温が下がらないようしっかりと抱きしめながら、周囲を注意深く観察した。一寸先も見えないような、深い森の中である。夜の闇に立つねじ曲がった木々は、余計に凶悪に見えた。
リネットは小さな声でリネの名前を呼び、いつものショーのように平然と立ち上がって冗談を言ってくれることを祈った。しかし返って来たのは、沈黙と彼の微弱な息遣いばかりであった。
もう何年も経っているというのに、「あの夜」の孤独と恐怖を再び思い出した。
長い時間が経ち、色んなことを経験したはずで…あの頃に比べて明らかに成長したはずなのに。
なのに、どうして自分はあの夜と同じように、守られながら暗闇の中で震えて待つことしかできないのだろうか?
そんなはずはない…私たちは協力して多くの奇跡を起こし、数々の困難を乗り越えてきたんだから。
…お兄ちゃんの後ろで背中を合わせ、肩を並べて立ちたいとずっと願ってきた。
執律庭の人間が近くを巡回しているかもしれない以上、大声で「家族」に助けを求めることもできないし、これ以上ここに留まるわけにもいかない。
今のリネットができることは、リネの手を握り、肩を支えてあげることだけだった。
——前が見えないならば、聞こえるものを利用しろ。
彼女は耳を高く立て、かすかな風の音さえ逃すまいとした。
風が木々の間を吹き抜ける音、低木を揺らす音、頬を掠める音…次第に彼女の目の中に、ぼんやりとした風景が描かれていった。
暗闇の中を手探りで往く。植物のトゲで怪我をして、衣服は赤く血に染まった。
そうして進むうち、次第に目の前の景色がより鮮明になってきた。耳が風の音に順応したのか、目が暗闇に慣れてきたのかはわからない。しかし彼女の足取りはますます速く、確かなものになった。
一切明かりのない舞台の上で、誰からの声援も得られないパフォーマンスの中で、リネットはついに主役になったのだ。
森に朝日が差し込む頃、リネットはリネを担いで「家族」との連絡地点である拠点にたどり着き、予想外の人物——昨晩こちらに駆けつけてきた、彼らの「お父様」に出会った。
リネットは力を振り絞って水で濡れた罪の証拠を懐から取り出そうとしたが、「お父様」に渡す前に体力が尽き、リネと一緒に倒れ込んでしまった。
「お父様」は、証拠品が地面に落ちて泥まみれになるのも構わず、二人を手で支えた。
「よく眠るといい。君たちは…もっと貴重な戦利品を持ち帰ってきてくれた。」
神の目が朝日と双子の寝顔を映し出し、リネットの腰でひっそりと輝いていた。

レイラ

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キャラクター詳細
ルタワヒスト学院はスメール教令院の管轄にある六大学院のうちの一つでもあり、六大学派の明論派に属するものである。
六大学派の研究対象はそれぞれ違っており、明論派は主に、古くから万象を包み込む星空を研究している。
レイラは数多くの研究者の中で、勉強している一人の学生だ。
レイラが教令院に入って勉強し始めてから、そう長い時間が経った訳では無いが、すでに彼女は数々のおかしなあだ名を付けられていた。
「夢遊の怪人」、「人形自動計算機」、「天から降ってきた論文」…これらはすべて、レイラを知るものによって与えられたあだ名だ。
日を追うごとに、彼女のあだ名はどんどん増えていく。


キャラクターストーリー1
教令院においては、どの研修室にもニ種類の人間が居るーー
一方は慣れて落ち着いた様子で、実験も論文もいつでも余裕に見える者たち。
もう一方は、いつも悩んでいるように見え、溜め息ばかり付く者たちだ。実験機材を抱きかかえて途方に暮れていることもあれば、紙に文字を書いては消し、書いては消しを繰り返していることもあり…とにかく苦しそうに見える。
研修室のレイラは、まさしく後者のタイプであった。
睡眠不足で、体調が悪いーーこれは一部の学者にとって常態化していることとも言えるが、レイラの場合、それが特に酷いらしい。その巨大な隈と疲れ切った顔は、彼女の抱えているプレッシャーがいかほどのものか、はっきりと証明している。
彼女の近くに寄ると、小さな声で「わからない」、「何でなの」、「やばいかも」…と言った同情したくなるような言葉を呟いているのが聞こえてくる。
教令院は学者たちが知識を求め、最も憧れる聖地であるが、彼らの悪夢の由来でもある。ここでは数え切れないほどの学者たちが、実験の失敗や理論の否定に苦しめられている。プレッシャーに耐えきれず退学を選ぶ学生は、毎年少なくないという。
レイラも見るからに、諦め寸前かと思うほど切羽詰まっている。実際、同時期に入学した何名もの同級生が既にここを離れたが、彼女は未だに頑張っている。
知識を求める道においては、素質も確かに重要だが、最後まで踏ん張り続ける根気が大切なのだ。


キャラクターストーリー2
レイラの体調がここまで悪くなってしまったのは、長期に渡る不眠のせいである。そして、その不眠は学業というプレッシャーによるものだ。
教令院の学生はみな、必ず授業を履修し、論文を完成させ、試験や考査を通過しなければならない。聞くだけならばさほど複雑ではなさそうなことだが、どれも学生たちが長い時間と労力をかけなければならないものなのだ。
不幸なことに、レイラの論文はいつも他の人々より遅れ気味だ。
彼女はいつも長い時間考え込む。自分の論点は合理的か?学友たちのものと比べて易しすぎないか?ーー計算や効率性についても、毎回疑ってしまいがちだ。
教令院の学生である以上、学業においてだらしない一面を見せてはいけないとレイラは常々考えている。しかし、そう考えれば考えるほど、性急に筆を進める勇気はなくなってしまう。
そうして悩んでいるうちに、時間は指の隙間や眉間からどんどん滑り落ちていくのだ。終えなければならない課題はまだそこにあり、一文字も書かれていないのに…
彼女は仕方なく夜更かしすることにした。もう、睡眠を昼間に回すしかなかったのだ。しかし夜が明ければ、また新しい課題が彼女を待ち受けている。
そうしてすっかり悪循環に陥ってしまった。
ついに、彼女の体に異変が起こり始めた。
熟睡している間に身を起こして辺りを周るが、目が覚めたときには自分が何をしていたか全く覚えていないーーそれはまるで、噂の「夢遊」現象のようだった。
彼女が「夢遊」するところを目撃した同級生曰く、「夢遊」状態にある彼女は不規則に様々な場所へと姿を表し、彼女がどこへ行き、何をしていたのか、言える者はいないという。
また、彼女が「夢遊」状態になり始めると同時に、あるおかしな出来事が起こり始めた。
毎回、彼女が「夢遊」状態から目覚める度に、寝る前にまだ手を付けていない論文が全て終わっているのだ。その上それらの論文は厳密なロジックで書かれており、データも正確、そしてなんと紙の上の筆跡は、彼女本人のものだった。
もっと不思議なことに、作者は彼女の名義で、論文中においてずけずけと他人の論文と研究方法を批判していた。これはどう考えてもレイラにできることではないのだが…いったい誰が自分をからかっているのだろう。
レイラは今まで進んできた道のりを振り返ってみた。しかし故郷から教令院に至るまで、どの知り合いにも、こんなことをする動機はなさそうだ。
スメールのことわざで、「天から降ってきた論文」というのは本来起こり得ない奇跡を例えた言葉だが、彼女の遭遇している出来事はまさに「天から降ってきた論文」としか言えないものだった。
まさか本当に奇跡が起こったのだろうか?偉大なる星空はレイラが占星学の研究に向けるひたむきな精神に心動かされ、その思いに応えて、祝福してくれたのだろうか?
真相がどうであれ、「星空の祝福」は、彼女の差し迫った悩みを解決してくれた。これでいくつかの単位については、論文を提出できるだろう。
残りは、時間のあるときにでもまた自分で考えよう…もう、授業に行く時間だ。


キャラクターストーリー3
負担の大きい学業の傍ら、レイラも時間を作ってリラックスすることがある。
彼女は船に乗ってオルモス港へ行き、ぶらつくのが好きなのだ。あそこでは、各地からやってきた旅商人が新鮮で面白いものを色々と売っており、あっとするようなトリックを見せてくれることもある。いつも疲れ切っているレイラにとっては、目新しい体験だ。
ある時レイラはここで、不思議なナイフ投げを見た。ナイフの扱いに長けた砂漠の民が手を動かしたその瞬間、遠くのリンゴに的中した。
「自分は飛べる」と主張する奇人が、ありきたりな絨毯の上で、地面から離れることに成功するところをみたこともある。
一番印象深かったのは、何といっても、福引に誘ってくる店主だった。そこでは、色んな額の賞金を記入した紙切れが、それぞれ木箱へ入れられる。すると店主は、いくつもの木箱の位置を驚くようなスピードで入れ替えるのだ。そして最後は福引に興味を持ったお客さんに木箱を選んでもらう。
レイラは以前、何度か挑戦したことがあるのだが、いつも大賞を当てることはできなかった。しかし回数を重ねるごとに、彼女はなんと、コツが分かってきたのだ。
店主の手捌きはかなり素早く、確かに常人が見極めるのは難しいだろう。しかし、実は彼の左親指は、木箱を移動する際にほとんど動かないのだ。
そのため、彼の左親指に近い木箱ほど、大きな移動はしなくなる。
その後、鋭い観察力のおかげで、レイラは何度も大賞を当てた。不思議に思った店主はレイラが観察力のみに頼って彼の得意芸を見抜いたと知って感服し、喜んで多額の賞金をレイラに渡してくれた。
しかしレイラにとっては、賞金を獲得できるかどうかは二の次で、こんな珍しいテクニックを見られたことのほうがよほど嬉しいことであった。
彼女は教令院の保守派のように曲芸や手品を蔑むことはなく、むしろオルモス港の露天商人たちのおかげでこのように素敵な体験ができることを、感謝している。


キャラクターストーリー4
教令院での一年目が終わる頃、レイラは自分の長所と短所を紙の上に書き、個人的にまとめようとした。
彼女の観察力や推論能力はかなり良い方であり、いつも星図をもとに素早く星体運行の軌跡を描き出せる上、スピードも人一倍早かった。
その他、彼女は数学に関してもまあまあ出来る方だった。簡単な問題であれば、筆すら必要とせず、瞬く間に答えを出せるのだ。
教令院に入る前、レイラは偶然にも将来彼女の担任となる先生と出会った。
その時、先生はレイラのことを、「星空に祝福された子で知識を求める資質がある」と言って褒めた。
これらの長所が彼女に希望を与え、教令院へ知恵を求めに行くための勇気になった。
しかし、いざ教令院へ足を踏み入れてみた彼女は、同年代のものと比べると、それらの長所はまったく取るに足らないものだと気づいた。
教令院には強者が多く存在し、優れた者たちと並んでみれば、どうしても自分が非常に見劣りする存在だと感じてしまうのだ。
また、短所の方については、自分には沢山あるとレイラは考えている。例えば問題について考えるときは優柔不断だし、かなり時間をかけないと、いつも考えがなかなかまとまらない。
それに、人とのコミュニケーションも得意ではない。周囲と問題について話し合う時、いつも己の観点を発表したがらないせいで、他人には「自分を孤高の存在だと思っている」とか、「討議を軽視している」などと思われてしまうこともある。このこともあってか、レイラは教令院に友達がそういない。
さらに自信を失くしてしまうことは、提出した多くの論文も自分が書いたものではなく、「星空の祝福」からの恩恵であることだ。
レイラからしてみれば、自分など取るに足らない人間だ。
しかしレイラは、同級生や先生たちからは全くそのような印象では見られていないことを知らない。
「不思議ちゃんだし、変な癖もある。けど、まあ才能ある人ってそんなもんよね。」
「みんなで測量する時、どうして彼女はあんなに早く星図を描けるんだろう?彼女の目は写真機なのかな?おまけに星の軌跡まで描き終わってるし…」
「彼女の論文と算式は全て見た。厳密で周到なロジック…時々できすぎていると思うこともあるほどで、教師である私まで意表を突かれてしまう。この生徒は見込みがある。」
慎重すぎる性格のせいで、終始自分が優秀でないと思い込み、謙遜の気持ちを心に、没頭して前に進む者というのは存在する。
だが、このいつまでも自己に満足しないという思いこそが彼らを前へと進ませ、知らず知らずのうちに他人を後に置いてゆくだの。


キャラクターストーリー5
こんな少女がいた。彼女は忍耐強く聡明で、時には度が過ぎるほど謙虚である。
彼女は自分のように少しばかりの才知しか持ち合わせていない人間は、本物の天才と比べればまだまだだと常々思っていた。
しかし、優秀になりたい、本物の天才たちと肩を並べられるようになりたい、家族や先生たちに誇りに思ってもらえるような知恵あるものでありたいと、切に願ってもいる。
相反する気持ちが彼女を束縛し、自分の気持ちに従って思うまま振る舞うことを怖がらせた。しかし彼女は、平凡に生き続けることに甘んじることはなかった。
日が経つにつれ、恥ずかしさや失望、渇望…そういった強烈な感情たちは彼女の中でどんどん発酵していき、重い負担に耐えきれなくなった。そしてどうしようもなくなった結果、心はついに小さく口を切って彼女の魂に一息つかせようとしたのだ。
体と精神が完全に冴えている時、様々な束縛にある彼女は自由に動けず、体が休眠状態に入った途端、彼女の心は短い自由を手にして、魂の中にある、鋭く洒脱な人柄を目覚めさせる。
夢遊状態にある時、彼女は自分を疑って抑え込むことをやめる。論文を描いたり、星図を描いたり、星位表を作ったり…普段彼女が頭を抱えてしまうことの全ては気楽で簡単なことになる。
そこで彼女は思うがままに観点を指摘し、難題に挑戦するのだ。
これは彼女が心の底から長く望んでいた開放であったーーしかし夢はやがて終わるもの。自信に欠けた、内気な女の子となってしまう。目覚めたレイラはあの才能あふれる文字や算式のすべてが、自分自身の手によって書かれたということも知らない。
忍耐強く謙虚なあの女の子は彼女であり、あのスマートで鋭い彼女もまた、紛れもなく彼女である。両者は元々表裏一体なのだ。
レイラはまだ成長途中の苗木であり、自己懐疑と突破を渇望する二つの心情で揺れ動いている。そのアンバランスさが、いわゆる「夢遊」を引き起こした。しかし、目覚めているのが彼女のどんな一面にせよ、それはすべてレイラなのだ。


レイラの写真集
レイラの机の上には、山のように積み上げられたノートや星図と論文集以外に、一冊の分厚い写真集があった。
机の上にあるものがどんなに場所を変えようと、写真集はいつも机の上で最も目立つ場所に置かれている。
写真集の中にあるのは全て、レイラ自身が写真機を使って撮った写真たちだ。写されているのは故郷にいる両親や友人…それから教令院へ進むように進めてくれた、担任の姿もあった。
どの写真にも、裏には印象深い出来事がある。レイラは日記代わりに、この方法で故郷から教令院までの経歴を記してきた。彼女にはそんな習慣があるのだ。
写真集をめくる度に、レイラは様々な決断をしたときの気持ちを、はっきり思い出すことが出来る。そして、その気持ちを借りて、心の中にある迷いを払拭する。
最近、レイラはこの写真集に、金髪の旅人と一緒に写っている写真を追加した。写真が一枚、また一枚と増えていく中で…レイラが卒業する頃、この写真集はどれほど分厚いものになるのだろう。


神の目
レイラはそう簡単に人と争わない。これは彼女の性格によるものだ。ただ、一度だけ、今までにないほど他人と「争った」ことがある。
あれは理論占星学の授業の研究討論会だった。徳望高いハーバッドがレイラや他の何名かの生徒の論文を読んだ後、重点的にレイラのとある観点を批判したのだ。
そのハーバッド曰く、理論占星学は歴代の研究者の知恵による神聖なる結晶であり、そのどの法則も、大勢の学者が数え切れないほどの計算による検証を重ねた結果で、正確さは疑いようがない。しかし、レイラは論文の中でとある法則を疑った。その上それを補正しようとするなどというのは、冒涜である…ということだった。
批判を受けたレイラは面と向かっては反論しなかったが、討論会の後、レポートとこの件に関する考えの詳細を、併せてそのハーバッドへ提出した。
暫くのち、そのハーバッドは彼の反論をレポートに添付してレイラへ戻してきた。
事がこうなれば、多くの学生は手を引くだろう。研究討論会でレポートが通らないことは学生の最終考査にかなりネガティブな影響を与えるからだ。
それに、どのハーバッドも学識や年功において、勉強中の学生に勝っているものであり、彼らと学術問題について討論することは僭越なことだ。
もしかすると、レイラが提出したものは彼女自身によるただの計算ミスかもしれないのに、最後まで弁論して、もし己の間違いだとわかれば、大恥をかくことになる。
しかし、それでもレイラは最後まで諦めなかった。そしてこの方法で、ハーバッドと「弁論」し続けた。ーー半年が過ぎた頃、このハーバッドは再びレイラを探し出すと、「より多くの学者と交流した結果、確かにこの法則には考慮されていなかった、適用されない状況が存在するとわかった」ことを認めた。
説明し終わった後、彼は感慨深げに、レイラのようにハーバッドにチャレンジし続ける学生は年々少なくなってきている、と告げた。
本来、学を求めるうえで一番重要なことは真の知識に対する純粋さと執着であり、彼は久々に、レイラを通してその純粋さと執着を見ることができたという。
討論会が終わった後、レイラが再びハーバッドと「弁論」を重ねた過程を残したファイルを開いた時ーーその中から思いがけず、キラキラとした「神の目」を見つけた。
分厚い手書きレポートの上に転がったその姿は、まるで地に落ちた星のようだった。

レザー

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キャラクター詳細
レザーは奔狼領で暮らしている謎の少年だ。彼の姿を目撃したモンドの住人は多くない。
数少ない目撃者によると、レザーは五感が鋭く、体つきは逞しく、素早く木々の間を駆け抜け、よく狼の群れと共に行動し、自ら人間に近づくことはないらしい。
更に、彼は狼に育てられた捨て子、実は少年の姿に化けた狼の神様、などといった噂まである。
これらの噂は「狼少年」のイメージをより謎めいたものにした。
そして話題の「狼少年」である本人は、今日も丘の上で日向ぼっこをしている。


キャラクターストーリー1
レザーはいつも狼の群れの中で暮らしている。
どの狼とも仲が良く、例えば、誰の吠え声がよく通るか、誰が奇襲に適しているのかなど、レザーが知らない狼はいない。
レザーは風の感情が読め、遠い先のにおいや様々な花草の用途も分かるが、唯一、本当の両親のことだけは分からなかった。
一体どんな人だったのか、いくら頑張っても思い出せない。
物心がついた頃から、彼は狼と一緒に暮らしていた。狼は彼を「ルピカ」――「家族」のように扱っている。


キャラクターストーリー2
空を、小さな歌う生き物が飛んでいる。
雲は長くふわふわで、狼のしっぽみたいだ。
レザーの世界はとても単純だった。
晴れの日に思いきり狩りをして、熟した果物を取る。雨の日には樹洞に隠れ、狼のしっぽを腕に抱き、葉っぱの上で眠る。
肉を頬張って水をごくごく飲む。熱くなったら湖に飛び込んで泳ぎ、喉が乾いたら甘い果物を探す。
レザーは自分の体と腕を見て、そして「狼」の体と腕を見る。
自分は「狼」とは違うと、彼は知っていた。
それでも、今の暮らしをレザーはとても気に入っている。


キャラクターストーリー3
ある日、背の高い男が山に入ってきて、レザーの穏やかな生活に終わりを告げた。
レザーは彼のことを知らないが、「人類」の一員だということだけは分かっていた。困惑したレザーに、相手は優しい微笑みを見せた。
「坊主、一緒にモンドに戻らないか?」
男はそういって手を伸ばしてきた。
レザーも狼たちも、その意味が分からなかった。レザーに近寄らせまいと、狼たちは前に出た。
狼のしっぽの間に隠れたレザーは自分の体と腕を見て、そして狼たちの毛の隙間から「人」の体と腕を見る。
自分は賢くないと知っていたが、あの時、彼の中に一つの疑問が生まれた。
「オレは狼?それとも人間…?」


キャラクターストーリー4
「レザー」という名前は、あの男につけられたものだ。
単純な狼少年は、人間の言葉を理解できなかったが、男の顔を見て、なんとなくそれが自分の名前だと分かった。
「レ、ザー」
奔狼領の木の影が短くなり、また長くなる。
男はレザーに剣を振る方法を教えた。
「鉄の爪」は重いが、木を裂けるほど鋭い。
「これで友達を守るんだぞ」
「とも、だち」
レザーは男の言葉を繰り返したが、その意味は分からなかった。そもそも、名前というものが大事かどうかすらも分からなかった。
あの男の名前を、レザーは最後まで告げられる事はなかったからだ。


キャラクターストーリー5
「師匠、友達とは、なんだ?」
レザーは決して豊富とは言えない語彙の中から、なんとか言葉を見つけて、新しく知り合った師匠に質問した。
じゃがいもを調理する方法から、夏の夜空で一番輝く星の名前まで、紫色の師匠は何でも知っている。しかしリサはその質問にひとつ欠伸をして、笑顔を見せるだけだった。
レザーは考えた。風の日も、雨の日も、ググプラムが髪にくっつくまで考えた。しかし答えは分からなかった。
それからしばらくして、レザーは赤い、熱い女の子に出会った。
彼らは一緒に風に吹かれ、雨に打たれ、ググプラムだらけの灌木帯の傍を転がった。
女の子の名前はクレー。彼女と一緒に遊んだ時、レザーは小さい頃、狼たちとじゃれ合った時の楽しさを思い出した。
「友達は、ルピカみたいだ」
レザーは世の中のことをあまり理解できないが、彼には獣のような原始的で率直な忠誠さがある。
「――じゃあ、ルピカのように、命をかけて守るべき人だ」
狼の群れが遠いところで吠えている。帰ろうと呼んでいるのだ。
レザーは今でも自分は狼なのか、それとも人間なのか分からない。
しかし、この暮らしをレザーはとても気に入っている。


レザーの木箱
気をつけて開けなければ、指を傷付けてしまうくらい粗末な木の箱に、レザーの宝物が入っている。
割れた大剣の柄と『風車アスターと狼』という童話集と枯れた四つ葉のクローバー。
世の中のことをあまり理解できないレザーにとって、これは「友達」が送ってくれたプレゼント、彼の大切な宝物である。


神の目
「神の目」を手に入れた時のことは、レザーが思い出したくないことの一つである。
あれは雷雨の日であった。アビスの魔術師が、背後からレザーを襲った。レザーを救おうと、狼の群れは恐れずにアビスの魔術師に攻撃を仕掛けたが、全滅させられたのだ。
仲間の惨死をただただ見ることしかできなかったレザーは、野獣のように苦しく咆哮した。
――「ルピカ」。
憤怒の雷電が彼の体にまとわりつき、限度を超えた元素力が、彼の身体中に流れた。
守りたい、復讐する。
彼は鎖を断ち切り、武器を持ち上げた。
アビスの魔術師は、この乱れた雷電の力に倒された。だが、倒れた仲間は護れなかった。
……
「神の目」を得たが、その時のレザーはまだこの力の*使いこなせなかった。あれから長い月日を経て、ある日、彼は薔薇の魔女であるリサと出会い、彼女から人類の知識を教わった。
「もう仲間を傷つけさせない」
レザーの「神の目」の扱い方は、日に日に上達している。彼は密かに決意した。もっと強くなる、誰よりも強くなる。
危険なことに遭っても、彼は彼の「ルピカ」を守り抜くと。

ロサリア

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キャラクター詳細
ロサリアは、モンドの西風教会に所属するシスター。
同じ聖職者でも、バーバラやジリアンナたちとは違った目で見られることが多い。
服装こそは聖職者だが、普段の言葉遣いや所作は聖職者と掛け離れている。
モンドの一般市民たちよりも信仰心が低く、普段も教会の活動に参加しない。
彼女は単独行動を好む。稀に大聖堂に姿を現すこともあるが、一番後ろの長椅子で黙々とタバコをくゆらすだけ。
他人を頼らず、いつも一人で行動するロサリアは名ばかりのシスターである。


キャラクターストーリー1
ロサリアの規則違反は、教会に百回以上記録されている。
しかし、彼女がそれを気に病んだことは一度もない。同僚と一緒に行動することもなければ、市民と交流する場にもめったに現れない彼女。
変わり者で謎の多いロサリアは、まるで黒い煙が立ち上るかのように、目を離すとすぐに消えてしまう。
さらに人付き合いをすることがほぼなく、誰とも関わり合おうとしない。
シスターヴィクトリアによると、心優しいバーバラだけはロサリアと交流を図ろうとしているらしい。
「教会でタバコを吸わないでください」、「時間通り式典に出席してください…」
「あの…話を聞いてください!」と言った具合に。
ロサリアの後を追いかけては、仕事をするよういつも優しく彼女を諭すバーバラ。
しかし、モンド城の人々が愛するアイドルであろうとも、ロサリアは無関心な態度を貫く。
彼女は…冷酷な人間なのだろうか?


キャラクターストーリー2
ロサリアはよく姿をくらます。居場所を告げることなく姿を消しては、数日間戻ってこないことも珍しくない。
彼女が姿を消すたび、教会のシスターたちもどこを探せばいいのか見当がつかないという。
あるシスターが彼女を監視していた時、「拾われた野良猫だって、逃げる時に一言いうわよ!」と、ため息交じりに愚痴をこぼしたそうだ。
姿を消した後、ロサリアは人知れぬ場所で、彼女にしかできない仕事を処理している。
見たことのない商人、怪しげな旅人、これら人物がモンドに害をなすか否かを見定めているのだ。
調査、追跡、必要とあらば拷問も。
モンドにとって好ましくない人物がいれば、最後に会う人物は必ずロサリアとなるだろう。
日の目を浴びることのない影の仕事を、ロサリアは全て担っている。
彼女は日が沈むと同時に仕事に出て、処理すべき問題を一息に片付ける。そして、帰りが夜明け頃となれば、朝日が昇ると同時に一杯のワインを嗜む。
モンド人は金色の日差しの下で日常を享受するが、ロサリアは銀色の月光の下で息をする。
透き通るような凛冽なる月光は…まさしく彼女が操る氷元素と同じだ。
「若者が知る必要のないことよ」
ロサリアにとって、太陽の下で暮らすモンド人は老若男女問わず「若者」なのだ。


キャラクターストーリー3
あらゆる物事に対して関心を持たないロサリアは、まるで捉えどころのない煙のようだ。
しかし、そんな彼女も仕事になると纏う空気が一変し、任務を果たすため全力を尽くす。
普段は怠惰な態度が目立つロサリアだが、不審人物を拷問する際にはそれもなりを潜め、決して手を抜くことがない。
また彼女は並外れた腕力の持ち主であり、人体の急所にも精通している。人を痛めつけることに対し躊躇いがなく、殺すことも厭わない。
怠惰で、ヘビースモーカーで、シスター…しかし、その裏の顔は優秀な処刑人なのだ。
神の威光のもと生きる彼女だが、その背には重い使命がある。
その手を血に染め、死刑執行人になったのはなぜなのか?なぜ神の祝福を拒絶するのか?
ましてや、ロサリアはモンド生まれではない、そんな彼女がこういった暗部を担っていることにも疑問が残る。
「このような幸せで退屈な街には、汚い仕事をする人がいても当然」
ロサリアは紫煙をくゆらせながら、気怠げにそう言う。
「私にとって、この種の仕事は真っ当なシスターとして過ごすよりもよほど簡単だわ。」


キャラクターストーリー4
祈りを捧げることのないロサリアだが、神学に対して独特の見解を持っている。
彼女曰く、自由はモンドの人々にとって心の支えであり、彼女が今ここにいるのも自由のおかげだという。
ロサリアは人里離れた山奥にある村の出身だ。だが、彼女が生まれて間もない頃、盗賊が村を襲い、ロサリアはその盗賊に拾われることになる。
盗賊に育てられた彼女は幼い頃より戦うすべを叩き込まれ、盗賊として活動しながら雑用係をし生きることになった。
その生活はまさしく奴隷であり機械のよう。彼女は子供でありながら盗賊であった。
外からの脅威と戦うだけでなく、時には仲間であった者とも戦い、飢えと寒さに苦しみながら、弱肉強食の世界で育ったのだ。
ロサリアの青春時代は、まるでモンドの夕日の如くーー視界に入るもの全てが血の色であった。ある日、その日々を振り返ったロサリアは、手遅れであることにようやく気づいた。
その数年後、西風騎士団の活躍によりその盗賊団は壊滅する。ロサリアは盗賊団の中で最も若く、更生の余地があると判断された。
彼女をモンドへ連れてきたのは騎士団の大団長ファルカ。彼はロサリアがモンドに馴染むことを期待し、こう告げるーー
「教会の神の光でその身を洗え。そうすれば生まれ変わって、普通の人と同じように生きていける」
しかし、ロサリアはファルカの期待を裏切るかのように、教会のミサや合唱を理由もなく欠席した。
平和に過ごすシスターではなく、彼女が選んだのは外での狩り。彼女にとって、金色の太陽は眩しすぎたのだ。
ロサリアははるか昔から理解していた。
ーー月の下で生まれた自分は、いずれ闇へ帰るのだと。


キャラクターストーリー5
怠惰さにおいて、教会内でロサリアの右に出る者はいない。修習時代からすでにその怠惰な態度は有名であった。
「ロサリアさん、分別ある行動をお願いします!教会のシスターとして、合唱に参加しないなんて許しません!」
「落ち着いて、シスターオルフィラ。ロサリアさん、必修科目に一つも出ていないと聞きましたが本当でしょうか?」
「ええ、本当よ」
「そういえばマレア婦人、こちらをご覧ください…ロサリアさんが書いた神学の論文ですが、目も当てられません!」
「ロサリアさん、失礼ですが…この先、教会に仕える気はありますか?」
「ないわ。仕事はもう見つかっているもの」
あまりにも真剣味に欠けるロサリア、彼女の背景を考えれば確かに影の仕事のほうが向いているのかも知れない。
ただ意外だったことに、その仕事のために協会に属すことになる。
聖職者の身分から逃れられなかった彼女は、「見習いシスター」ロサリアから「シスター」ロサリアとなった。
だが任務がなくとも、彼女は教会の行事を避けーー酒場で酒を飲んだり、城壁の上から景色を眺めたりしていた。
避けようがない状況でも残業を忌避し、定時になるとすぐに姿を消す。
表の仕事でも、裏の仕事でも、彼女は「残業」をしないのだ。


教会から配られたノート
白いカバーのノート。表紙には「西風教会」と書かれている。
ノートの中には奇麗な字が並んでいるが、内容は至極どうでもいいもの。
「蒲公英酒はどうだい、ただいま20%オフだよ!」
「漁師トースト、お値段以上のおいしさ!」
「小麦の大セール!小麦粉にしたい場合は店主までお声がけを!」
「3個買ったら1個おまけ!」
「新鮮なイグサはどう、トイレの照明に使えるよ!お客さん見てらっしゃい…!」
均整の取れた美しい筆跡だが、書かれているのは呼び込みの言葉やお店の広告ばかり。
このノートはロサリアが見習い時代に持っていた物だ。
当時、彼女は授業を抜け出すと商店の屋上へと行き、陽の光を浴びながら下から聞こえてくる様々な声をノートにただただ書いていた。そんな風に過ごす彼女の姿は、想像に難くないだろう。


神の目
ロサリアの「神の目」は、とある寒い日の夜に現れた。
盗賊にとって最も厄介な季節、全員が生きていくには食料が足りなかった。
常に空腹に苦しんでいた彼女は、寒風吹き荒ぶ中での雑用に耐えかね逃げ出した。
しかし、盗賊の一人である老人に捕まり連れ戻されてしまう。彼こそが、過去に彼女を村で拾い、人を殺す技を教えた張本人である。
「逃げるやつは全員裏切り者だ。裏切り者は決闘に勝たなければ自由になれない」
そう言うと、老人は古いナイフをロサリアに投げた。「来い、俺を殺せばここから逃げられる。俺はただの年老いた獅子だ。お前はまだ若い。お前なら容易いことだろう?」
ロサリアが勝つなど、誰一人として想像していなかった。しかし、確かに老いた獅子は若き野獣の爪の前に敗れた。
その夜、盗賊団は古株の一人を失ったが、新たなメンバーを迎え入れることにした。
老人を殺したロサリアは盗賊たちに避けられたが、面白いことに彼女の持つ「神の目」を見た途端態度が豹変した。
ーー「神の目」を持つ者なら、きっとあのジジイよりも強い。それにお前は小食だ、食料の節約にもなる。
氷のように固く凍ったロサリアの心に、ふとある疑問が浮かんだーー
彼はわざと私を勝たせたんじゃないかと…拾った子に対し、偽りながらも父としての気持ちが彼に生まれていたのかもしれない。

ワ行