武器/物語(両手剣)

Last-modified: 2024-03-06 (水) 19:05:52

☆5

狼の末路

北風の騎士と呼ばれた者、風神の都で旅の終点にたどり着いた。
流浪の旅人は身を寄せ合う。思うままの旅は所詮彷徨い。

騎士が街に入った時、遠い丘にいた仲間は何も言葉にせずとも、別れを告げた。
城壁と灯火の匂いを好まない狼は広い野原を選んだ。

自由の心を持つ北風の騎士は自らを町に閉ざした。
ともに来た狼は城外を自由のままに走るが、騎士のことをずっと忘れられなかった。

魔物を討伐しに、騎士は再度城外に出た。狼も共に戦っていた。
孤独の狼と騎士は心が通じ合うように連携し、まるで一つになったようだった。

寄り添った二人は歳月の流れに勝てなかった。狼は先に去っていった。
北風の騎士は自分の剣を墓標とし、街から離れた郊外に親友を葬った。
あれから、彼は街を離れ、狼の自由を心に刻んで、また風と共に旅を始めた。

狼の不滅の魂は永遠に、この地に居を定めた。
騎士が護っていたこの青い大地をずっと、ずっと永遠に見守る。

天空の傲

天空を揺り動かす武勇。
罪人の魔龍の子は深淵なる古国に生まれた。
最期は黒金の翼が、風の誇りによって断ち切られた。

昔、モンドの繁栄を妬んだ魔龍ドゥリンが襲来し、万民は塗炭の苦しみに陥った。
人は荒無に慟哭し、泣き声は風の神を起こした。
風の神は人々の声により現れ、眷属を召喚した。
命と自由を護る魔神、その風龍と共に参る。

雲を切り裂く激戦の中、風龍は神の恩恵を受けた六つの翼を展開し、
大剣を振り回すように、天空を切り開き、ドゥリンの鋼鱗を切り裂いた。
驚天動地の戦いの中、風龍は風刃の爪を湾刀のように、
黒く腐っているドゥリンの体の奥まで差し込んだ。

天空を揺り動かす戦いに恐れ知らずの太陽さえ震えていた。
最後に悪龍は喉をトワリンに噛み切られ、空から落ちていった。
風龍は神の祝福により、勝利へと導いた。モンドの人を護ることができた。
しかし、風龍は毒血に侵食され、骨の髄まで腐り始めた。

トワリンは英雄にも関わらず、孤独を共にせざるを得なかった。
深淵の誘惑に風龍は堕落しかけた、その執着は邪悪になったこともある。
復讐心を煽る憤怒や猛毒を伴った激痛を、最後は仕えていた優しい主人が癒してくれた。
親友や新しい仲間と共に、勇気を持って魔物をなぎ払い、風龍の名を取り戻した。

数百年に渡る眠りについていたため、モンドの人々のはトワリンの猛威を忘れていた。
しかし、最近の事件で六翼風龍はまた人々の前に現れた。
バルバドスの歌声と風神の祝福の元で、
不羈の千風を巻き起こした風龍は、再び空を駆ける。

無工の剣

遠い昔、瑠月には龍がいた。
風に乗って飛び回るのではなく、龍は連なる山の中にいた。
身体が山のように大きな石龍であった。

伝説によると、龍は南天門の辺りで、群山と一体になるかのように眠っていたそうだ。
小さく寝返りを打ったり、背伸びをするだけでも、
台地は揺れ動かされた。
当時の岩君は大地を鎮めるため、古龍の元へとやって来た。

伝説によると、大地は長い間平穏だった。
そして、岩君の傍には仲間が一名増えていた。

だが結局、龍と神、そして人は恐らく相容れなかったのだろう……

龍が地底に鎮められた後、仙人や神の怒りに触れることを恐れて、
かつて、一同になって暴れまわり、岩が揺れ動く音を傍聴していたヴィシャップも
山の地底深くに潜り込んだ。
だが、数千年の時が過ぎ、ヴィシャップが再び騒ぎ出す……

伝説によると、勝者は古龍が鎮圧された巨木の傍に剣を突き刺した。
この封印は、魔物や邪悪な心を持つ人には触れることができないものだった。
伝説が本当であれば、清らかな心を持つ人のみ、それに近づく事ができる。
だが、もし伝説が本当であれば、なぜその剣は行方が不明なのだろうか……

松韻の響く頃

昔、平民の間にある歌が流行っていた。
「凹んだ硬貨を遠方から来た歌手と詩人にあげよう」
「花束を少女に渡そう」
「涙が出るほど苦いお酒で」
「取り戻せない昨日に乾杯しよう、歌声を未来に捧げよう」

詩歌と音楽が風と共に流れる国では、人々は楽観的で敏感な魂を持っていた。
話のよると、孤独な王と貴族が一部の和音と調の使用を禁止する時期があった。
敏感な人々が詩人や歌手の音楽から反逆の意志を感じ取ることができ、
実際に歌と詩は抗争者の連絡方法として使われていたからだ。

貴族が統治していた時代、風神を敬う教会が二つに分かれた。
一つは貴族と呑み交わし、神像を倒し、頌詞と聖歌を書いた教会。
もう一つは聖職者という名を持たない信徒。
彼らは地下街と高い壁の外で行動し、安酒を飲む。そして平民の間に伝わる聖書原典と風と共に流れてきた言葉で、
平民と奴隷たちのために祈り、禁じられた詩と歌を書いた。

異国の奴隷剣闘士が風の神と共に蘇り、反旗を掲げた。
無名の牧者と呼ばれる年寄りの聖徒が、西風教会の真の教徒を集め、
彼らと共に自らの血でこの青い土地を潤した。
その反逆の合図は、まさに今まで歌うのを許されなかった歌の残り部分だった。

「鋭い鉄片は命懸けの戦いまで取っておこう」
「絞首台は小賊のために残そう」
「錆びた矢先は研いでおこう」
「松韻の響く頃、低劣なものを撃ち落とそう」

赤角石塵滅砕

全称は「赤角石塵滅砕金塗金嚼獅子」。
「御伽金剛獅子大王」と名乗る傾奇者が愛用していた刀。

しかし…両者の名前があまりにも長く言いづらいため、
子供たちは刀を「赤角大杵」、刀の持ち主を「御伽大王」と呼んだ。

赤角大杵は狂気に魅入られた般若の角から作られており、
いかなる妖狐や妖狸、悪鬼さえをも地面に叩き伏せ、命乞いをさせる。
かの有名な「影向山霊善坊」大天狗ですら、
その禍々しい気に恐れをなし、大王の前に姿を現さない!

…当然、このような話は子供であろうと信じはしない。
確かに、御伽大王は力を持ってはいる。七人まとめてかかっても、彼を土俵から押し出すことはできない。
かつて果実に手が届かない子供を見て、その木を蹴り、スミレウリを落とそうとしたことがあったのだが、
その蹴りで果樹を折ってしまい、老人に山の上まで追いかけられたこともあるそうだ。
また紅葉を楽しむ幕府の歌会に、酒を飲みながら子供たちを連れて現れると、
「この御伽金剛獅子大王が悪鬼退治に馳せ参じたぜ!」と大声で叫んだという。
ちょうどテンションが上がっていた小柄な鬼人と相撲対決したこともあったが、その結果は当然、見るに忍びなかった。

大王はこの程度であり、将軍の旗印を掲げる資格もなかった。
それじゃあ、歌の中の妖怪たちを敬服させられるわけがないじゃないか。子供たちはそう言った。

「この前は、月に向かって酒を思う存分飲んだせいで、風邪を引いてしまっただけだ!」
御伽大王は詭弁を言いながら、飾り気のない大声で笑った。
恥を知らないだけなのか、本当に勝つ自信があるのか…

「今度こそ、妖怪の角を折り持ち帰って、」
「御伽金剛獅子大王の実力を見せてやる。」
「海を渡って来たデカい怪物でも、俺様には敵わない!」

「だから、狐の使者に従って、身を隠せばいい。」
「まあ、俺様が戻ったら、またお前たちと相撲をしてやる。」

相撲という言葉を聞いた子供たちは、小柄な鬼人が容易く、
咆えながら突進してきた御伽大王を空高く放り投げた光景を思い浮かべた。

その後、御伽大王と相撲対決した鬼人は、腕と角が折れたまま逃げ出した。
影向山の大天狗も山に隠居し、人の前に出ることがなくなった。
結果から言うと、この奇妙な形をしている刀の自慢話は確実に真実となったが、
ふらふらと遊んでばかりいたあの傾奇者、御伽金剛獅子大王は、二度と現れなかった。
その後、傾奇者が蹴り倒したスミレウリの木も、再び果実を付けた。

葦海の標

国が興っては砂上の楼閣のように崩れ、英傑が流れ星のように現れては消えた時代、
砂の王が夢を胸に、海雪のように沈んでいった後、かつて貴人であった盲目の流浪詩人は、
鉄のような砂利の大海を気ままに旅し、散り散りになった砂の民から砂海の叙事詩を集めていた。

彼は聞いた。故郷の陥落を、彼の目を刺したあの王子が、その重みに耐えられなかった王位を押しつぶしたことを。
彼は聞いた。あの舞姫が如何にして王者を作り上げ、また如何にして彼らを砂嵐の中に消し去ったかという伝説を。
彼は聞いた。砂の流れに取って代わられる清き泉の哀声を、崩壊し村や部落に分かたれた都市国家の老いた悲鳴を。
彼は聞いた。故郷を失った王子の死と彼の二つの剣の運命を、人殺しが森に消えた物語を…
ここに至り、水のようにつかみどころがなく、砂のように彼を魅了する数多くの歌は、すべて彼の心深くに沈み、積もった。
灼熱の砂嵐の中、廃れて久しい砂漠の夢が、歌の欠片から姿を現した——

「幾重にも重なる砂丘の海の彼方に、赤砂の王の住居は聳え立っていた。」
「多くの街路や路地が赤金の道のように、あの唯一の玉座へと集まっていく。」
「きらめく金の片目のように、貴き心のように、キングデシェレトはかつて、すべての道の終点だった…」
「だが金メッキの熱き夢は遂に醒め、偉大なるその目はまぶしい太陽と砂嵐に眩まされた。」
「運命は歳月の砂のように暗闇の奥底に沈み、流砂の国土は金の塵となった。」

運命の振り子は、王や凡人の愚行のために止まることなどしない。
砂海の中の矮小な国々や卑劣な君王は、やがて流砂に飲み込まれる…
かつて偏執的だった王侯は砂の栄誉を固く守るため、森の外に要塞を築いた。
やがて、王の兵士や民は四散し、彼の名も砂のように消え失せた。
罪人を処刑したレガリアが掘り出された池の廃墟に、
砂の夢を失っても、砂の海を諦めんとする人々が集った。
存在しない葦海の名のもとに、かつて約束していた夢と呼応する…

裁断

「いいかい、レティシア。お前はランドルフ家の長女だということを忘れないでおくれ。」
「私たち貴族が席に就けば、国という船は我々のために傾く。」
「私たちが倒れれば、無数の家々とそこに住む平民たちを押し潰すことになる。」
「だからよく聞きなさい、愛しいレティシア。」
「常に気品ある振る舞いと品位ある身だしなみを保ち、喜怒哀楽をあまり表に出してはいけないよ。」
「なぜなら、私たち一族は平民に富貴を与えることも、サーンドル河に送ることもできるのだから。」

父はそう言ったが、少女は貴族である前に、ただの少女だった。
手が煤や機械油で汚れていないが故に、気持ちは自然と「冒険」に向かう。
父や兄、使用人たちに隠れ、日差しも雨も当たらない地下都市に、変装して忍び込んだ。
彼女はただ、自分の運命を握ることのできない卑小な人々の生活を見てみたかったのだ。
もしかしたら、パルジファルのマジックよりも面白いかもしれない! と少女は密かに色めきだった。
しかし、冒険は彼女の期待とは異なっていた。それもそうだ、それは誰かが用意したものではないのだから。
彼女が得たものは、パーティーで同年代の貴族の友人と笑って話すような物語とは違っていた。
音楽、嘘、毒酒のような、見えない危険が刃を光らせたとき…

「おやおや、僕たちのサーンドル河にわざわざやってくるなんて、一体どこのお嬢ちゃんだい?」
四方から近づく恐ろしい影を払ったのは、柔らかな見覚えのある光だった。
「あなたは…」
彼の名前は喉まで出かかっていたが、実際に口から出たのは「どうやって自分の変装を見破ったのか」ということだった。
「嘘をつくことに慣れていないみたいだね。よそ者であることを認めているのと同じじゃないか?」
「それに、君の服は煤や機械油で汚れていないし、血の跡もない。」
「そうそう、君の歩き方からして、ズボンを履くのにも慣れていないみたいだ。」

彼女の知っているリードが、なぜサーンドル河を自由に歩いているのか聞くと、若い男性はこう答えた。
「ここでの出来事を君の家族や友人、使用人たちに知らせないでくれるかな。そうしてくれるとありがたいんだけど。」
「ボスが言うように、太陽の下にあるものは彼らのものであり、サーンドル河の中のものは僕たちのものだ。」
「大切なレティシア、今は自分がランドルフ家の長女だということを忘れてほしい。」
「一人の人間として僕についてくるんだ。そして埃に覆われたことのない、その明るい両目で見てくれ――」
「君と同じように赤い血の流れる、血気と愛情にあふれる同胞たちが暮らしてる世界を。」
それは結局のところ、彼女の期待する冒険とは異なっていた。それもそうだ、運命の采配のもとで、
彼女はパーティーで同年代の貴族の友人や使用人たちに、笑って話せないような物語を経験したのだから…

「レティシア、君の高潔な魂を心から愛する。」
「僕らはもう、樹木を叩き切る斧の柄じゃない。」
「もしいつか、僕が俗世の栄華に浸ることになったら、」
「その時は君が、僕の運命を裁決してほしい…」

……
しばらく時が経って再び父親に会ったとき、彼女はすでに「ローズ」という偽名を使っていた。
無理やり着せられる華麗な服には慣れず、戦斧の重さのほうにより親しみを持つようになっていた。
ただ、彼女は記憶の中の厳格で心優しい父親の、こんなにも年老いて弱くなった姿を直視できなかった。

「親愛なるお父様、私は自分の愛する人、愛する人々と誓いを立てました。」
「私が今もまだ生きているということは、私たちの血がまだ絶えていないということ。」
「それに私はまだ、自分のせいでランドルフの家名に消えない汚名を着せるようなことはしていません。」

「レティシアよ。私はお前のためにろうそくに火を灯さなかった日は一度もない。」
「お前が過去にランドルフの名を捨てようとしていたとしても、私たちは変わらず親子なのだ。」
「さあ、取るに足らないゲームはもう終わった。私たちの家に帰ろう。」
「お前の子にはもともと罪がないのだから、お前の血肉を無暗に捨てるつもりはない。」
「夫のことに関しては、私もランドルフの魔法を少しは使うことができる…」

……
しかし、彼女は最終的に夢の中で思い出した。その時の艦砲の爆撃は、私たちを少しも動揺させなかった。
猟犬が忍び込む暗い道は、よそ者に知られるべきではない。

☆4

西風大剣

西風騎士団の大型の儀礼用剣。団長と教会両方の許可を得ないと所持することは許されない。
モンドの古き聖遺物を研究し、モンドの工学者が元素の活用方法で成果を挙げた。
この重い剣は西風騎士の栄光だけでなく、モンドを護る人々の勤労と技術の結晶でもある。
この剣であれば容易に元素の力を引き出すことが可能だ。だが肝に銘じてほしい。剣の鋭さは護るための力であり、傷つけるための力ではないことを。

今なお引き継がれる、幼い狼ルースタンが編み出した長剣の剣術だが、
一部の派生技は継承されなかった。それは、光の獅子エレンドリンが使用した長剣と大剣の二刀流戦法である。
求められる技量が高すぎるため、天賦の才を持つ者しか会得できずに伝承が途絶えたのだ。

正当な騎士の一族出身のエレンドリンと農民出身のルースタンは、子供の頃から一緒に成長してきた仲間である。
英雄になるという共通の夢により二人は仲良くなった。そして同僚に、さらに団長とその右腕となった。

団長となっても、エレンドリンは神の目を授かることはなかった。力の源は天賦の才と努力によるものである。
彼は自分の力を誇りに思った。騎士団、さらにモンドの人々にも、このような優秀な団長がいてくれることを誇りに思った。
しかし、ルースタンが亡くなって以来、エレンドリンが自らの力を示すことはなくなった。凶暴な魔獣に挑むことが誇りであるとも思わなくなっていた。

祭礼の大剣

東にある海を一望できる崖で、古の住民は時と風の神を一緒に祭った。
「風が物語の種をもたらし、時間がそれを芽生えさせる」という思想が、度々両者を混同させた。
この剣は戦争を語るもの。
元々は刃がついていない道具用の剣だったが、時の風により真剣のように鋭くなっていった。

かつてはエーモンロカー族が所持していた剣。
祭祀では、黒い血に染められた戦争中の戦士を演じる。

エーモンロカー族にとって、戦いは守るものではなく、栄光や開拓のためのものであり、
天上の神々を喜ばせる暇つぶしにすぎないと考えていた。
魔物や盗賊が来たとしても、無事に恋人の元に戻れるかなど心配せず、
血を浴びながらただ全力で戦い、叫ぶことができればいいと思っていた。

こんな一族は、長い歴史の中からすぐ消えるだろう。
彼らの戦いには終わりがない上、その勝利には望みがないからだ。
しかしモンドの誕生によって、彼らは自分の護るべきものをついに見つけた。

雨裁

幽冥の無鋒剣。
昔、その弱く暗い光ゆえ、「幽冥の印」と山賊が名付けた。
その光を目にした者は帰れない。
その光を目にした者は死を待つしかない。

「この世のものとは思えない活殺自在の剣」
「その疾きこと龍の如く、目は剣、横目は槍」

もともと雨裁は無銘の剣だったが、所有者への敬意を込めて名前が付けられた。
無銘の剣の最初と最後の所有者は古華という遊侠である。

噂によると彼は仙人だった。古華の時代、盗賊の行動は制限され、荒野は恒久の平和に包まれた。
古華の侠客は旅の最後、紫色の光の中で星になったという。

古華への恩を返すため、ある人が古華の名で流派を立ち上げた。しかし、流派は所詮消えてゆくものである。

鐘の剣

奇抜な大剣。剣身には華麗かつ精巧な鐘が付いている。
シャンと響く鐘の音は使い手の戦闘を演奏する。
楽団が解散した後、大剣は酸性の水に浸かってしまったため、装飾の歯車は錆び、回ることができなくなった。
それにしても、致命的な武器である。

流浪楽団と共に行動する反逆者の名はクロイツリード。かつてはロレンス一族の一人だった。
この時代、学者と詩人は歴史を語らず、旧貴族は自らの堕落に気づかなかった。
そのため、クロイツリードが剣を振るった時、旧貴族は恐れ慄いた。

反乱は失敗に終わったが、彼の処分内容は不明である。ある意味、彼の血統が証明されたのかもしれない。
爵位を剥奪された後、彼は亡き同士の志を受け継ぎ、貴族政権の転覆を目的とする秘密結社を作り上げた。
そして、遙か西方から訪れた異民族の戦士が起こした反乱に協力することになる。

クロイツリードの組織はずっと機能していたという噂がある。
モンドを護るため、西風騎士の代わりに騎士道の精神に背く汚い仕事を請け負っていたそうだ。
また言い伝えによると、「幼い狼」ルースタンも大団長の名義でこの無名の組織を運営していたという。

旧貴族大剣

かつてモンドを支配していた旧貴族に使われていた長剣、その材料と細工は極めて凝っている。
よって、長い年月が経った今でも、切れ味はそのまま。
戦いは貴族の責任の一つだった。
領土と民を守るために、平和を壊す魔物と戦う。
しかし記録によると、彼らは最終的に自分の使命を忘れ、人を喰う怪物となっていた。

ある研究によれば、今は西風騎士団に禁じれらた闘技の始まりは、
貴族の間で行われた祈祷であった。

やがてそれは、ロレンスによって権力者の娯楽となった。
最終的に騎士団によって禁じられるも、祈祷文の一部は今も残っている。

「モンドの千風よ、我は友と、同胞と、仇敵と、剣と刃が交差する音を鳴らそう、血と汗を汝に捧げよう」
「進むべき道を導く風よ、我が困窮した時には、前へ進む力を与えたまえ。我が迷った時には、善悪を見分ける知恵を授けたまえ」

黒岩の斬刀

希少な黒岩で作られており、大岩のように重く、山をも断つ佇まいの大剣。
黒岩の結晶と紅色の鉱石が混ざった剣身は、黒く赤い墨と炎を彷彿させる。

黒岩武器は「試作」シリーズを継承した品である。その特徴は、岩のように堅く、氷のように冷たく、血のように熱い。
この「斬刀」は大剣であるが、刃の部分は絹布のように薄くできている。
黒岩の結晶と紅色の鉱石が融合した刃に、
離火のトーテムと紅玉が飾ってあり、遠くから見ると円硯から血が滲んだような邪気を感じられる。

職人の寒武は黒岩武器を鍛造するため、坑道に素材を探しに行ったが崩落事故にあった。
負傷した目は暗闇のように光を失い、剣と岩のぶつかり合う音だけが耳に残った。
それ以来、未練は残っていたが寒武は武器の鍛造を辞めた。
寒武の息子である寒策が山の中に妖怪がいるという噂を聞き、寒武にそれを伝えた。
驚いた寒武は、あの時の採掘が山の龍や神々を怒らせたのだと思った。そして、病弱の身でありながら斬刀を鍛造しようと決めた。
斬刀ができた後、父の要求に従い、龍の怒りを鎮めため、寒策は坑道の外に神棚を設置し、その中に「斬刀」を置いた。

数年後、寒武は永遠の眠りについた。
その時、ちょうど一人の冒険者が天衡山の異変に気付いた。
山が揺れはじめ、神棚が勝手に開いた。
神棚の中に置いてあった剣が微かに光り、泣いているように見える。
寒策は急いで斬刀を手元に戻した。
そして現在、天枢がその斬刀に銘をつけた。
「天崩地裂、斬雲断月」

古華・試作

璃月の武器工場が作った古い試作型の巨大な剣。製造番号や製造時期は不明。
希少な鉱石と鋼鉄で作られ、その重さは数十キロにも及ぶ。剣身が艶と輝きを放っており、振るう時の勢いは雲をも飲み込む。

災厄の後、武器に新たな躍進をもたらすため、鍛造の名門である雲氏と武器職人の寒武が再び手を組んだ。
それにより「試作」シリーズという武器が誕生する。最初の「試作」は大剣であった。古めかしい素朴な色合いであった。
黒、金、褐色と、一見すると普通の見た目をしており、重そうだが手を伸ばすと重くないことに気づく。

寒武は北陸に行き、この大剣をある侠客の友に贈った。
侠客は森に行き、試しにこの大剣を振るうと、周りの樹木がすぱっと切れて倒れる。剣の衝撃波の音が響く、100年に一度とない光景であった。

侠客は寒武にこう言った。この大剣、色味は実に優雅で、振るえば一級品だ。
こんな絶世の大剣には「古華」という名が相応しい。
後日、「古華」は璃月の大剣の基盤となった。

白影の剣

世の全てが璃月にあり。これは偉大な璃月港への讃美である。
他の国の珍宝も人と共に璃月港に来る。
良質な材料で作られた精巧な大剣。特徴は鍔に近い部分に刃が付いてないこと。
噂によれば、その部分は柄として扱え、持ち手の部分を変えることで臨機応変に戦えるらしい。

あまり知られていないが、この大剣は異国の職人の傑作である。
謙虚な職人が丹念に鋳り、剣のバランス調整を行った。
火花と共に幾つかの夜をこえて、
丹念に鍛造を続けた彼の心の中に、
恋人の凱旋への期待と未来への不安が募る。

「この戦争が終わったら」
職人はこう思った。
「彼女がこの大剣を使う時が来るかな」
「……彼女は無事に戻って来られるだろうか」
職人はすぐさま雑念を払い、剣の鍛造に全身全霊を注いだ。
余計な心配をするより、集中して良いものを鍛造しようと決めた。

ある日、遠征軍が魔物の討伐から凱旋した。
職人はまだ大剣に彼女の名を刻んでいなかった。
慌てて剣を携え、帰郷した彼女の前に立つ。
その顔には笑みと涙が浮かんでいた。

武器を置いた女戦士は束ねていた長い髪をほどいた。これからは兵士を必要としないだろう。
女戦士は故郷の恋人にプレゼントを用意していた。新品の猟弓である。
「なんてことだ!俺は何年も費やしたというのに。君のためにこれを作ったんだぞ……」
職人は思わず口にした。だが幸いにも、二人は幸せな結末を迎えた。大剣が一流の品であったのは言うまでもない。

チ龍の剣

海獣の脊髄で作られた大剣。冷たい骨に様々な物語がある。
昔の船乗りは、人の命を狙う深海の巨獣を威嚇するために、
獣骨を船首や竜骨に飾っていた。

海が荒れていた遥か昔、船に乗って海に出るのは生離死別と同じだった。
今は陽気な唄も、当時は悲壮な別れの歌だった。
一人の大剣を持つ船頭がいた。出航する前に酒を飲み、歌を歌っていた。大丈夫かと聞かれても、彼は笑ってこう答えた。
「大丈夫さ、酔ってないよ。それより船出の時まで一緒に飲まないか」
と言って、酒杯を高く挙げ、笑ってみんなと酒を飲んだ。

ようやく海流と風向の重なる時が来た。彼らを乗せた巨大船は出航した。
海霧の奥深くは暗流が激しく起伏し、海獣が出没する。
結局、楽観的な船頭を乗せた船は帰らなかった。
やがて、深海巨獣の死体が座礁した。
引き裂かれた傷口から白骨が露出し、血は海水に洗い流されている。

「海流と風向が重なる時、波の音に溺れていた彼女の復讐に出かける」
「海獣に喰われても構わない。それで彼女が眠る深海に、彼女の好きだった歌を届けられるなら」

今の海に、嵐の中で大波を伴ってあらわれる巨獣はいない。
海獣の遺骨を船首や竜骨に飾る風習も、海獣の絶滅によって忘れられた。
しかし、遠洋を航海する際、時々深海から雷鳴のような低い鳴き声が聞こえる。


正確には「螭龍の剣」。「螭」がタイトルには表示できないため暫定の読みを付加した。
螭龍はあまりょう、うりょう、みずちなどの読みがある、雨を起こすといわれる龍の一種。

雪葬の星銀

緑豊かな都が霧によって覆われたとき、
終わりのない吹雪が月明かりを遮り、
起きた出来事や生きた証も、
空から降る寒天の釘に貫かれてしまった…

祭祀の娘は星銀の大剣を異邦の勇士に手渡した、
彼女の言ったことは、吹雪の音にかき消され、相手にを伝えることができなかった。

「ここの4番目の壁画はあなたのために用意されています。あなたの肖像はこの壁に永遠に残ります。」
「この壁画のために、みんなのために、私はいつまでもここであなたの帰りを祈っています…」

雪葬の都の娘が実りのない銀の枝と共に枯れたとき、
氷雪を切り裂くために、この剣を振るう運命にあった異邦人は、遠くで答えを求めている。
月明かりのように輝いていた彼女の最後の思いも、遠くの旅人に伝えることができなかった。

「もう長い間澄んだ空と緑の草原を見ていません。父が望んでいた氷雪が溶ける光景を描くために、どのような青と緑の色を使うべきか、もう分からないままです。」
「もう一度、あなたに会えれば、どんなによかったか…」

これが彼が見つけた答え――

異邦の勇士はついに彼の旅を終えた、
大剣の刃からは黒い血が滴り落ち、
すでになじみのない雪道を重い足で踏んだ。
疲れ果てた異邦人がついに山国の宮殿に戻ったとき、
彼を待っていたのは、死という響きだけだった。

「ここですら、俺の守るものは残っていないのか…」
「天上にいるお前らは、ただ生者の苦しみが見たいだけだろ。」
「だったら、この鋼と血の歌を、お前らに捧げよう。」
異邦人は少女からもらった、風と雪を切り裂くはずだった星銀を壁画の間に残した。
それから山を下り、彼は血を見るために戦いの場に行った。

千岩古剣

古代の千岩軍兵士が愛用していた武器。
璃月港の建造に使われた神鋳基岩を削って作られた。非常に重い。
普通の人は持ち上げることすらできず、戦うことなんてとんでもない。
だが記録によると、古代の千岩軍兵士はそれを実際に使用していた。

千岩軍は当初、岩君の信者が自発的に結成した部隊であった。
その歴史は町が出来たばかりの時まで遡る。
岩君は璃月の名の下、共に歩み続け、絶対に諦めないと誓った。
「千岩牢固、揺るぎない。盾と武器使ひて、妖魔を駆逐す。」
千岩軍の兵士たちは皆この箴言を守り、自身の命よりも重要視していた。

彼らは岩王帝君に付従って妖魔を斬殺し、民を救い璃月の平和を守った。
千岩軍の最も輝かしい功績は殺戮ではなく守護であった。己を盾とし、彼らの故郷を守った。
この巨剣は守護者の責任と意志のように非常に重くて硬い。
最初に岩を削り剣を作った武装兵団の星氏と寒氏は、
将来、この岩剣を自在に扱える人は少なくなると予想した。
やがてこの剣は世界平和の象徴となり、守護者も剣も必要なくなるだろう。

桂木斬長正

たたら砂のとある代の目付が設計した長巻。
本人同様、堅実な性格だと言われている。

異国の技術を輸入し、「御影炉心」を作る前の長い間、
たたら砂は伝統的な「たたら製鉄法」を使っていた。
御輿長正が目付になって、鉄の冷たい美しさに夢中になった。
同じく刀鍛冶に熱中する宮崎造兵司佑兼雄に教えを請うた。
遂にその手でこの堅実な刀「大たたら長正」を鍛え上げた。

御輿家の養子でしかないけれど、養母が御輿家の名に泥を塗ったけれど、
御輿の嫡子である道啓が天涯孤独な自分を捨てて何処かへ消えたけれど、
彼の忠義心が御輿の名を捨てられなかった。
幕府に入り、人一倍の努力で、一族の汚名を雇ごうとした。

自分の部下である桂木の些細な不作為でも、容赦なく斬り捨てた。
その後、この刀の名前と別称が違うものになった。

補足

魔神任務「伽藍に落ちて」と放浪者のキャラクターストーリーで言及されている。たたら砂に置いてある「古い手帳」や聖遺物「華館夢醒形骸記」のストーリーでもこれに言及されており、当時の出来事を垣間見ることができる。

銜玉の海皇

誰もいない真夜中に、その鰓の鼓動は次のように訳すことができる。

「俺が海を離れた時、それは間違いなく死を意味する。」
「心臓が止まり、目が白くなり、生臭い臭いを発する――」
「魚にとって、それは死んだも同然。」

「俺は鰆の中で最も強い。」
「かつては浅海一の強者だった。」
「海獣、鯨や鮫さえも俺を倒せない。」
「しかしそのような俺は強敵に出会った。」
「あの海月、クラゲとも言うのか。」
「波に身を任せているだけの生き物なのに、」
「全ての衝撃を流す力を持っていた。」

「そして俺は力を諦め、」
「クラゲの生きる道を選んだ。」
「長き人生を過ごした後、」
「体のあらゆる器官を制御できるようになった。」
「自分の心臓を止めたり、」
「新鮮な魚とみなされ、さばかれることを防いだりした。」
「俺がただの雑魚だと思っているヤツは多い。」
「俺をお前らの力にならせてくれ。」

「老体を振り回す力士よ。」
「ほほほっ…」
「全ての水路が海に流れ込むまで、」
「全ての星が消滅する日まで、」
「全てが原始の大海で出会う時、」
「この俺と手合わせしてくれないか?」

惡王丸

海祇出身の猛将が使っていた刀。
噂によると、彼が扱った剣術は我流の「月曚雲」と「夕潮」、この二つだけだったそうだ。
だが、この二つの剣術を使った彼は、戦場でも試合でも誰にも負けたことがないという。

ヘビや魚は冷血な動物だとよく言われるが、冷血な生き物であるほど、燃えるような情景に酔いしれるものである。
民衆の夢を実現するために、大御神は凝集した雷雲に挑んだ。
海祇を追って遠征に出た人々の中で、あるひとりの少年が際立って、いた。
海祇は彼の勇猛さと恐れを知らぬ姿を高く評価し、「東山王」の封号を与えた。
しかし年月が経つにつれ、王の称号は忘れ去られ、代わりに敵からの蔑称となった。
「惡王」、大蛇が使役する凶悪なる手下、ヤシオリ島で猛威を振るった魔王…

命のやり取りは、少年を海の塩のように荒々しい戦士へと変えた。
だが、そんな彼でも、
遠征前、神社の傍らで海中の月に託した願いだけは消えなかった。

「いつの日か影向山の頂上に立って、雷王の居城を見下ろす」
「天守閣の上で、伝説の影向大天狗と心躍る決闘をする」
「そして、その面を菖蒲と曚雲姉さんにお土産として持ち帰るんだ!」

最後には、まるで砂上の楼閣を崩すように、波がすべての夢を洗い流してしまった。
赤紅の星のような天狗の面が、戦乱により海砂のように粉々になった。
深海の月光のように、在りし日の少年の心を照らしてくれた巫女は、もう帰ってこない。
そして、「惡王」も大蛇と共に、まばゆい一筋の稲光を正面から受けたのであった。

森林のレガリア

「ずっと昔、森は巨大な迷宮だった…」

最後の森林王は、サルバへと帰っていった。そして彼の侍従だった者が、「虎」の名を受け継いだ。
昔、木陰のあるところはすべて、森林王の領地だった。彼は己の領土を散策することもあったが、
森に頼って生きている鳥と獣は、尊敬と服従の意を示すため、彼が通り過ぎる時は軽く頭を下げるものだった。

歴代の王はみな、自身の宮殿を持っていた。新しい森林王が王座につく度、森は王のイメージと夢に沿って変わっていった。
最後の森林王の宮殿は、多くの樹木とツル草で作られた柵と、水流と崖によって築かれた格子の後ろに隠されていた。
そしてあれは、葉っぱを通して静かな水面に差し込んだ月明かりが形成した、真珠の円盤だった。王は水辺で一人、二倍の月明かりを楽しんでいた。

森の迷宮はこのようにして産み出されたのだ。伝説によると、森林王の目を眩ますまだら模様の中には、迷宮の道筋が描かれていたそうだ。
歴代の王の宮殿が一つまた一つと増えていくうちに、木々の間の小道は交わり、小川は途切れ、あるいは新たな支流を生み、
森の中の道はどんどん複雑になっていた。森林王と、私たちアランナラ、そして王樹の加護を受けた人々だけが、
森林王の領土を自由に行き来し、木々の間や小川の流れに自らの道を見つけることができた。


その後、最後の森林王は森を守るために亡くなった。森は新たな宮殿を作らなくなり、そのために、迷宮も消えてしまった。
また、漆黒の獣たちは嵐のように、木を麦の波の如く倒してしまった。迷宮は死に絶え、森林王も死に絶えた。

この物語を私に教えてくれたアランナラはとても臆病で、私たちに歌を聞かされるのを嫌い、いつも一人になれる場所を探していた。
ある夜、森の迷宮を通り抜け、水の中の明るい月に出会った彼は、最後の森林王の物語を聞くことになったそうだ。
その後、水の流れは変わり、そこに映っていた明るい月も崩れ去ってしまった。色々なことに変化が起きたが、ここから変わらないことも沢山あった。
けれど私と同じように、あなたがたも、たとえ王を見たことがなくても、「虎」が高貴で強い森の王者だという印象は持っていることだろう。

マカイラの水色

言い伝えによれば——千年前、あの愚昧な王が砂丘に沈んだあの時代、
荒廃した果てのない金色に輝く大地に、短命な国がいくつも点在していた。
この大剣は舞子マカイラのもので、彼女は暴君の側室であった。
彼女の凛とした無情の剣舞は君主の寵愛を受け、王子の目を釘付けにした。

退廃した国の高貴な王は、肥えており傲慢。日々を美食と美酒、漫遊や猟をして楽しんだ。
この腐敗した時代のすべての王と同じように、彼もまた征服や破壊、蓄財に心酔していた。

すべてが暗闇へと沈む夜、水色の月光が狂騒なる王国を静めて、一切が安らかに眠る時、
肥えた暴君も睡魔に襲われ、仙霊の微かな歌声の中でウトウトと眠りに落ちる。そして、イビキがまるで雷のように轟いた…
艶やかな側室は壊滅の兆しを早々に見ると、剣を磨いて、最後の舞のために準備を始めた。
若き王子も破滅の兆しをとうに予見し、夜になると心配するマカイラのもとを訪れた。

「熱き砂からやって来るものも、いずれ熱き砂に埋もれる。長き夜の砂海が氷のように冷たくとも、苛烈で熱く滾る運命を忘れることはできない。」
「もし、これがあなた様が心に決めたことなら、どうか一つだけ手を貸してください。あのすでに没落した祖国のために、一つだけさせてください。」
「ほんの小さな復讐で、我らのここにある大患を取り除ける。漫遊と猟に溺れるものも、その溺愛する鷹のために死ぬ。」
「ジンニーの母から七重の剣舞を教わった。もしあなた様のために玉座を手にして、人に媚びずに済むのなら、これもまた私の本望。」

こうして、国を崩す陰謀は寝室で形を成す。愛する人の優しい言葉は鋭利な刃となった。
やがて暴君は目にも当てられぬ方法で熱き砂の大地へと帰り、王国と宮殿を征服する偉業は夢に終わった。
城の朝生暮死は一夕の夢に過ぎない。その間に良民も悪人も麦の殻のように、形のないひき臼によって潰される。
大剣の舞を得意とする側室は王妃になることはなく、このすべてを語る年老いた賢臣も両目を失った。
国を失った者は、すべてを削る渦巻によって砂海へ投げ捨てられた。そして流浪者に、傭兵に、最後は樹海に飲み込まれたのだ…

鉄彩の花

千年に渡って流れる風の中で「風の花」のイメージは徐々に人々に忘れ去られ、
平和な時代の中、愛と喜びの意味が付与された。
征服と勝利を目指す鋼鉄の兵器にも、
時には依頼者や鍛造者の意志で、花が飾られることがある。
この剣は、ある人物が気になる人のためにオーダーメイドした武器らしい。

「鋼鉄にも断つことはできない。牢獄の石壁に閉じ込められることもない。」
「風は未来が来ることを恐れず、絶えず明日へと流れてゆく。」
教会に属さぬ無名の牧者は、風の物語を静かに語り、
まだ目に光を宿し傾聴する者に「花」を贈る。

もし貴種たちが本来の誓いを忘れるなら、もし虚栄の沈黙が広く伝わるなら、
そしてもし血筋の原則が風の流れに背くなら、草木や花の伝説は禁句となるだろう。
あの時代、多くの花は人目に触れないところで咲いていた。
最後に風に吹き飛ばされたとしても、灰色の世界に一瞬の彩りを残した。

「過去の高塔の影に、今の街や路地に、」
「花たちは片隅で小さく光を放っている。」
宮殿を出入りすることのない無名の牧者は、花の叙事詩を静かに語る。

彼は言った。今、「バドルドー祭」は既に貴族に奪われた。
しかし知っているだろうか。烈風が渦巻く古都で、花たちは野原いっぱいに咲き誇っている。
あれは尋常の花ではない。風が強ければ強いほど、その根や茎も強くなり、数を増す。
花が王城いっぱいに咲く頃、高塔が倒れる時が来るだろう。

話死合い棒

テノッチが燃える野原を眺めると、空の果てから濁った黒い潮流が押し寄せてきた。
そこで彼は青銅のラッパを吹き、ずしりと重い黒曜石の棒を肩に担いだ。

「今まさに危機が近づいているのに、部族の族長たちは言い争いをやめない。」
「テノッチが『話死合い棒』を持って、みんなの仲裁をしよう。」
「テノッチはもうどこの部族にも属さないけど、怒りの炎はまだ燃えているから。」

こうして、孤独なテノッチはずしりと重い黒曜石の棒を肩に担いで、
恐竜が駆け回る野原を、温泉と熔岩だらけの険しい地を通り抜けた。

最初に英雄テノッチを迎えに来たのは、情熱的なワンジルとその騒々しい相棒のケウクだった。
彼女のどす黒い肌には英雄とともに冒険した証拠が残っており、深い傷跡がはっきり見える。
大部族と互いに争って疲れ果てていたが、彼女はテノッチに招かれて再び気力を奮い起こした。
ナタの灼熱の大地のため激戦に身を投じようとしているのに、ワンジルと部族の者に断る理由などあろうものか?

二番目に英雄テノッチと抱擁を交わしたのは、勇猛なメネリクとその忠実な相棒のンゴウボウだった。
「さあ、ゆこう!たとえ諸部族がお前を追放したとしても、たとえ俺たちの仲がいつも悪くとも!」
「メネリクから見れば、棒を持ったテノッチは勇士の中の勇士であり、兄弟の中の兄弟だ。」

三番目に英雄テノッチが訪ねたのは、狡猾なサンハジェ·コンポレと掴みどころのない相棒のマハンバだった。
サンハジェは過去に「話死合い棒」に説得されたことがある。英雄が戦利品を譲ることを承諾して、やっと戦士の隊列に加わった。
コンポレはテノッチと自分の壮絶な結末と、その後「燼寂海」と呼ばれる地がどのように誕生するかを予見した。
「だが構わん、毒蛇のように抜け目なく名声を得た悪党が、英雄を気取る日が来るかもしれん。」

四番目に自ら進んで英雄テノッチに追随したのは、若いブルキナとその無謀な相棒のコンガマトーだった。
ブルキナはテノッチとの苦戦を経験したことはないが、雄壮な黒曜石の棒が彼を危険な前途に導いた。
戦いによりテノッチの体に残された無数の傷跡を見て、ブルキナは自分がこのあと通る道を確信した…
変革はそもそも若者の運命である。燃え盛る正義のために血を流すのも、寝台で怠惰に過ごして腐るよりいい。

五番目に英雄テノッチに説得されたのは、鉱山の長であるスンジャタとその穏やかな相棒のムフルだった。
「その昔、諸部族の安定のために、争いが再び起きないよう、炎神にお前を追放する投票を求めたことがある。」
「今なお、血みどろの戦いをあきらめないとは…まあよい、これが我々の世代にとって最後の戦いになるかもしれん。」
「お前が自分の考えを曲げないなら、わしも付き合うが、部族の者を巻き込むな。」

六番目に英雄テノッチと同行したのは、若い頃に不倶戴天の敵であった巨人のトゥパク。その巨体を騎乗させられるものはいなかった。
テノッチが大きな棒を持ってトゥパクの住処を訪ねたとき、彼は挑戦者がその身に残した傷跡を細かく数えているところだった。
「傷跡が三百ヶ所以上、骨折が二十ヶ所以上。それに黒曜石の破片が百個ほど皮膚の奥深くに食い込んでいて、宝石をちりばめたようだ。」
「軽傷は二百カ所余り。肋骨が二本砕け、片目はもう遠近が分からない。お前が残してくれた戦利品も同じくらい豪華だ。」

かつての敵同士は大笑いして、それから握手した。
こうして、テノッチは六大部族から盟友を集め、
明るく輝く野火のように、黒い山岳と激突した…

タイダル・シャドー

輝かしい過去の時代、純白の甲鉄艦「スポンジアン」はフォンテーヌ海軍の誇りだった。
その時代、巨大な重砲と頑丈な衝角を備えた甲鉄艦隊はフォンテーヌ廷の寵児であり、
グロリア劇場の時代には、観客は白い艦隊が魔像の軍団を掃討する物語に拍手喝采を送った。

スポンジアン号の艦橋に立つ傲慢な海軍司令官バザル・エルトンの姿は、彼が退役するまで変わらぬ風景だった。
エルトンの一等航海士ナサニエル・ピックマンは、最終的に所属先を失うことになる。晩年は英雄の虚名の中をさまようしかなかった。
当時、海軍は艦隊がなくなったことから解散し、一時は羽振りが良かった海軍大臣も辞任した。
ピックマンは、フォンテーヌ廷を説得して装甲艦「スポンジアン」の引き揚げと再建をはかろうと長年奔走する。
だがその努力は実らず、フォンテーヌ海軍の再建に意欲を示したことも戦没者遺族から売名行為だと思われた…
最終的に残ったのは虚名と伝説、それから海軍司令官の持ち物だった、この白と青の剣だけだ。

「『スポンジアン』?ひどい名だな…ピックマンはどう思う?」
「ある独裁君主の名前ですが、彼とその王朝は実在しなかったかもしれません――」
「とにかく…思いつきで口をついて出ただけです。失礼しました、長官。」

「いや、ピックマン。この名前でいい。」
「そういう幻とも真実ともつかない感じは、私も嫌いではない。」

「スポンジアン」と「白き艦隊」が成した数多くの伝説は、グロリア劇場が壊滅してからしばらくの間、
エリニュス島に新しく建設された大歌劇場で人気の演目となった——公演中に事故が起きて、上演が禁止となるまで…
中でも忘れられないのは艦隊の最後の一戦、舞台上で十門の艦砲が繰り広げる壮絶な戦いである。
その詳細は、バザル・エルトン旗下の一等航海士の記録から復元されたものだ。
ピックマンもそのでたらめな行動について語ったことがないように、書くに値しないことだと思っていたのか、
それとも脚本家がこの詳細は予期される悲壮な叙事詩と合わないと考え、脚本から善意で省いたのかは分からないが、
バザル・エルトンは数年ぶりに艦に乗り込んだとき、整列したピックマンら乗組員に向かってこうささやいた。
「どうやら、今度こそ敵に向かって発砲できそうだな。」

それから歌劇場の演出と同じように、笑いながら大声で言った。
「どうやら諸君は、私がいないとダメなようだな。だが、昔話は後にしよう。」
「まずは、あの身の程知らずのデカブツを、大瀑布の下へと追い払うのだ!」

携帯型チェーンソー

かつての労働者がよく使っていたチェーンソー。竜骨やパイプの切断用。
シンプルで丈夫な構造をしており、メンテナンスや部品交換がしやすい。
両手で取っ手をしっかり握って、硬い鋼材を断ち切ることができる。
こうした強力な道具はかつて、進歩の代名詞でさえあった。

のちにフォンテーヌの市街地が拡張すると、あらゆる影が次々と秩序の光に追いやられた。
下水道がサーンドル河になり得るのはこうした便利なツールによる貢献が大きい。
サーンドル河の住民は、たとえ日光と雨露のない地下に住んでいても、
有り余る勤勉さと強靱さによって、あるいは地表に住めるだけの権利を獲得し、
あるいは身を寄せる「水の国」を地表のような美しい場所にできると信じている。

これらのチェーンソーは船渠剣、プロスペクタードリルなどの道具とは異なり、禁止されてはいないが、
それは初期のクロックワーク・マシナリーの生産において代替不能な働きをしていたからである。
さらに後の時代、郊外の絶対に安全な場所に最大のクロックワーク・マシナリー工場が建つと、
それを使い熟した者共々、進歩という大きな流れの中で次第に姿を消した。

「スーパーアルティメット覇王魔剣」

「…安いダンボールでできた剣じゃないからな! えっと…その…これはかつてカニ大帝を打ち負かした…スーパーアルティメット覇王魔剣なんだぞ!」

遠い昔、ロマリタイムフラワーがまだその名前で呼ばれていなかった頃、遠い大海の中に偉大なカニ魔大帝が住んでいた。
カニがなぜそんなに偉大なのか、魔大帝が統治する国や民はどこにいるのか、それらを誰も知らなかったが、皆がそう言うので魔大帝の威名も広大な海原へと知れ渡っていった。これが生まれ持った崇高さというやつなのだろうか? 威張るカニ魔大帝はそう考え、皆が自分を敬遠している事実を次第に受け入れていった。
世界の高みにいる(もしくはそう自称する)人間のように、偉大な陛下も大帝である自分の境遇に嘆いた。大帝に友達などいるはずがない(ここにもやや上から目線が含まれている)。つまるところ、チョキチョキと音を立てる鋭いカニの爪は、自分を見慣れていない相手をいとも容易く驚かせることができるし、もっと信念の固いやつの運命の糸を断ち切ることだってできる。そして、大帝の宝物庫にはモン・オトンヌキと同じくらい高さのある金貨が積まれており、フォンテーヌの美味しいクッキーなど簡単にすべて買うことができた――これこそ、王者の身分にふさわしい生活だ!そうであろう?
ただ、彼には一緒に遊んでくれる友達がいない。退屈なときや心が傷ついたとき――つまり、たくさんのクッキーでも楽しい気持ちになれないとき――陛下は、その巨大なハサミで水草を剪定するしかなかった。当然カニ陛下も結局はカニなので、他のあらゆるカニより強くても、水草を剪定する能力はそこら辺のエイと大差ないだろう!
ある日、偉大なカニ魔大帝がブクブクと孤独な泡を吐いていたとき、一人の小さなメリュジーヌに出会った…
「こら! 魔大帝の宮廷に侵入してくるとは度胸のあるやつだ。何しに来た?」
(カニ大帝は激しく火を吹いたが、内心少し嬉しかったし、怖くもあった。海原にいるやつらは、大帝の威厳を前にするとそそくさと去っていくからだ。だから、大帝はもう長いこと誰とも話していなかった。)
「カニさん」と小さなメリュジーヌが言った。「あなた、何だか楽しくなさそうだね。一緒に遊ぼうよ、そしたら楽しくなるよ!」
「わかっていないな」…続けてカニ大帝は最初メリュジーヌが自分のことを「陛下」ではなく「~さん」と呼んだことをとがめようと思った。だが結局そのことは口にせず、こう言った。「覇王は小さなメリュジーヌとは一緒に遊べない。でないと王者の威厳を失ってしまうからな。」
「王者の威厳がなくなっちゃったら、どうなるの?」
「もし威厳を失ったら、覇王はもう覇王ではなくなる。他の奴よりハサミが大きくて甲羅が厚いことを除けば、普通のカニと変わらなくなってしまうな。」
「カニさんのハサミは私の体より大きいし、足だって私より多い、それに甲羅は私の家の壁よりも厚いよ。それに金貨やクッキーの他にもカニさんはいい物をたくさん持ってるし、すっごく楽しいはずだよね? …あっ、わかあった、きっと王者の威厳がカニさんをつまらなくさせているのね。」
「小さなメリュジーヌよ、お前は王になったことがないから知らないのだろう。だから、その無知については大目に見てやる。覚えておけ、帝王は自分が楽しいかどうかなど気にするべきではないのだ。」
「でも、カニさんだって王になる前は普通のカニだったんでしょ? カニさんがつまらなそうにしてたら私もつまらないよ。カニさんのために、王の威厳を捨てさせてあげる!」
「こら!身のほど知らずの小さなメリュジーヌめ。自分の統治を自ら放棄する帝王など、この世のどこにいるというのだ!」陛下は怒ってハサミを振り回した。「そうだな…例えば、あくまでも例えばだが、勇者が聖剣で魔王を倒したら…覇王であった者も小さなメリュジーヌと遊んでやるしかないだろうな。」
「あっ! そんな方法もあったんだ!」メリュジーヌは嬉しそうに大きな声を上げたが、別の問題に思い至って、がっかりした様子で言った。「でも…勇者がどこにいるかも、聖剣がどこにあるかもわからないよ…」
「ええい、そんなことはどうでもいいのだ! 魔王を倒しさえすれば誰でも勇者になれるし、どんな武器でも聖剣となる」と大帝は口早に言った。「オホン! 身のほど知らずのメリュジーヌよ、理解したか?」

「『…カニさんがそう言ってたから、みんな力を貸して!』」彼女がそう言うと、メリュシー村のメリュジーヌたちは、彼女を助けなくてはと思った! 彼女たちは大きな貝殻を拾ってきて彼女のために盾を作り、水草を月桂の代わりにして冠を作り、エリナスの内部の切れ切れになった帆をマントにして、最後に貴重な乾燥したダンボールで宝剣を作った。
こうして、勇者メリュジーヌはカニ魔王を倒すための遠征に出た。そして、究極無敵の魔剣で威張りをきかせるカニ魔王を倒したのであった。こうして魔王でなくなった「カニさん」は、その時からメリュジーヌたちのよき友達となったのだ…

簡単な議論の末――メリュジーヌたちは、かつて映影で異彩を放ったメリュシー村の最強の剣を究極無敵の勇者へと贈り、それを友情の証とすることにした。

☆3

飛天大御剣

挫折を味わった御剣公子は、剣術では到底実現できないことがあると気づいた。
それからというもの、彼は自身の剣術に盲信せず、剣そのものに着手をし始めた。
「大きければ大きいほど優れている。そう、剣もそうだ」と彼は考えた――
壮大な孤雲閣で、公子は壮絶な結末を迎えた。
空を駆ける旅はやっと終わりを告げる。それでも、彼と剣の物語は永遠に続いていく……?

理屈責め

どんな弁論においても、論理的かつはっきりと話す。
どんな頑固な人だろうとも、論理的に話し合えば分かり合えるようになる。
これを道理の力という。
最終的に民衆の抗議により製造は中止された。
これは世論の力という。

白鉄の大剣

軽い白鉄で作られた扱いやすい大剣。雪のような白銀色に輝いている。
この大剣は素早く振り回すことで、白鉄の輝く光が相手の目を眩ます。
しかし、この剣はあまり武器として使われない。
昔、命を落とした戦友の傍に、輝く武器を突き立てる風習があった。
時が経ち廃れてしまったが、僅かな人はその儀式の意味を覚えている。

龍血を浴びた剣

伝説によると、ある有名な英雄が毒龍を斬った後、
龍の血を全身に浴びて、刀も槍も通さない体を手に入れようとした。
龍の血の力の賜物か、洗礼を受けた体は、
数え切れないほどの剣と槍を折った。
飛んできた無数の矢を嘲笑いながら、その全てを弾き飛ばした。
だが最後、彼の弱点を敵が発見する。
彼は愛用していた大剣を背負いながら、龍の血を浴びていた。
そのため、背中には大剣と同じ大きさの弱点があった。

鉄影段平

幼いエレンドリンは北風騎士レイヴンウッドの剣の模造品を手に持ち、想像の中のモンド旧貴族へ突撃した。その時、まさか自分が将来、世界に名を轟かせるとは思ってもいなかった。幼い頃、剣術の真似事をしたルースタンが自分の右腕となり、モンドの民に23年を捧げた末に殉職するとも思っていなかった。
今、「光の獅子」が持っていた模造品は、別の若者の手へと渡った。
この神秘的で偉大な宿命は、どのように伝承されていくのだろうか。

☆2

傭兵の重剣

彼はいつも自分の若いころの冒険話をしたがる。
どれも大袈裟で陳腐な話だ。
だが、この使い古された大剣はまるでこう言っているようだった。
「私もその場にいたが、流石にそれは言い過ぎだ」

☆1

訓練用大剣

このような重く大きな大剣を持つ者が一番よく知っている。
大切なのは武器ではなく、己の力量であることを。