片手剣
☆5
風鷹剣
誰もが知っているように、鷹の見守りは西風の恩恵である。
西風の恩恵が遠方の異民族のものであることは、ごくわずかな人しか知らない。
当時のモンドは旧貴族の支配下にあり、自由を求めようとしていた。
故郷を離れた異民族の戦士は奴隷として、風の国に入った。
欺きと不公平を前にしても、彼女は努力により正義の風を巻き起こした。
横暴な貴族の統治を終わらせ、慈愛に満ちた騎士団と教会を設立し、
神の恩恵を受け、最期は神に召された。
これは彼女が使用していた武器。これは、彼女の苦難と雄姿を見届けた。
彼女が自由と正義の風をモンドの地に届けた証である。
振り回す時、故人の戦いへの思いが感じられる。
圧迫されたら、正義を。
禁錮されたら、自由を。
騙されたら、知恵を。
風の導くままに。それが自由と正義の風である。
天空の刃
天空を貫いた牙。深邃古国の黒金鱗を突き通した。
古国罪人の後継者の喉を切り裂いた。
昔、モンドの繁栄を終わらせるべく魔龍ドゥリンが襲来した。その翼は日の光を覆い隠した。
魔龍の嫉妬が邪悪を産み、その邪悪が大地の生命を侵触した。
その時のモンド周辺は魔物により荒れ果てていた。
風の神は人々の悲痛な叫びを聞き、天から降り立ち、風龍を呼び起こした。
そしてトワリンは風と共に、命ある者のため戦うべく空へと飛び出していった。
トワリンは風神の祝福と共に廃龍と戦った。巨龍による戦いは雲を突き抜けた。
千の風が毒をまとい、日輪は暗色に変わり、燃える空は世界の終焉を彷彿とさせた。
天空を燃やした激戦の末、トワリンは魔神から授かった剣歯で魔龍の喉を噛み切った。
だが、トワリンは魔龍の毒血を飲み込んでしまった。魔龍ドゥリンは悲鳴を上げることなく空から落ちていった。
風龍は猛毒により、苦痛を伴う昏睡状態へと陥った。
最も練達な詩人もトワリンの行き先を知らなかった。
数百年を経た今、モンドの人々は風龍の奮戦を忘れていた。
トワリンが骨の随まで響く毒の痛みに堪え、その地に帰還しても、友の琴声は聞こえてこない。
かつて風龍に守られた人間は彼を遠ざけ、「魔龍」と名付けた。
いつの日か栄光は取り戻され、毒は浄化される。
詩人の旋律が人々の記憶を呼び起こす。
風龍の名誉を挽回するという願いが、この剣には宿っている。
斬山の刃
遥か昔、神々と妖が大地を駆け回っていた時代、 不安定な天地に、人々はこう聞かずにはいられなかった。 「教えて下さい、私の愛する者と子供たちはどこへ行ってしまったのですか」 「教えて下さい、いなくなった人達はいつ帰ってくるのですか」 「ああ、主よ、この恐ろしい時代はいつまで続くのです」
山の固い石に囲まれて育った人々でも、心に深い傷を負う。 何も言わず辛抱強く神へ信仰を捧げる者でも、瞳に激しい炎を灯す。 疑問の声を出さずとも、心の奥底から訴えかける叫びが聞こえてくる。
岩君は神の力を使い、金色の石拍から長剣を削り出した。 そして剣を振るい山頂の一角を削り取ると、 民と固い契約を交わした。 いなくなった人は必ず戻り、 規則を破る者は必ず罰せられる。 愛する者を失った者、大切な物を失くした者、不平を強いられた者達は、必ず償われる。
これは璃月の長い歴史の中で語られた、真偽不明な民話の一つに過ぎないのかもしれない。
ただ、岩君が交わした契約は、 今日の璃月の隅々までに伝わっている。 そして契約に背く事は、 神が治めるこの大地を敵に回す事である。 岩君が斬った山頂が、いずれその者の頭上に落ちてくるだろう。
近頃、農村部では、 いつか真の主が再び地上に降臨すると噂されている。 その時、あの長剣が再び金色の光を放ち、この世最大の不平を両断するのだ… 数千年前、岩君が民衆に誓いを立てたのと同じように。
磐岩結緑
璃月が創られた時、帝君は玉石の剣を持ち、大地を歩んだと言われている。
歳月の試練を潜り抜いて尚、血で洗った濃緑の剣は未だに輝きを放つ、
血は千年もの雨とともに流れ、詰まった思いと恨みは容易に払えない。
「玉石は碧色の水の魂と優しさを持ち、残された宿怨を洗い流す」
「だが、殺戮の武器にされた美玉の痛みは、誰が慰めてあげられるのか?」
名を忘れた友は、ため息と共に不平を吐いた。
だが、止まる事のない運命はその惻隠の言葉をもかき消した。
長い年月を跨ぎ、血まみれに死闘を交わした敵とも喜びを分け合い、
やがて裏切るであろう親友、憎しみが消えた宿敵とも一杯飲み交わせるだろう。
この宝剣もその時、誰かの贈り物として磨き上げられ、
「結緑」と名付けられた緑の玉石も、元は平和と華麗のために彫琢されたもの。
酒器が血で溢れ、温情が冷酷な欲望によって引き裂かれ、塵と化して飛び散った。
贈り損ねた贈り物、伝え損ねた友情、共に旧友へと向ける刃となった。
蒼古なる自由への誓い
過去に流行っていた祝福の歌は、こう歌うーー
「誰かに舌を抜かれても、目で歌える」
「誰かに目を刺されても、耳で聞ける」
「夢を壊そうとする人が居た、乾杯しようと誘う」
「たとえ明日が来なくても、この瞬間の歌声は永遠になる」
育った風土によって性格は異なる。しかし、土地も人も神によって誕生した。
自由気ままの神が、抗争の中で自由への愛を人々に広めたか。
それとも人々が自由のために、氷雪と烈風の中で、自由を愛する風の神を生み出したか。
この問題を解き明かすことは出来ない。
あの曲はいつも暗い時代に歌われた。
烈風の王者が尖塔に君臨した時も、
腐りきった貴族が神像を倒した時も、
幽閉された地下室で、暗い路地裏で、ぼろぼろの酒場で、
烈風と鉄の拳に浸透し、抗争の英雄を紡ぐ。
遥か昔のある日、環状の静まり返った王城で、
誰かの琴声を伴って、叫び声はついに烈風の監獄を突き破った。
ある少年、精霊、弓使い、騎士と赤い髪の流浪騎士は、
空を突き抜ける槍のような、
巨大な影を落とす尖塔の前で自由を誓った。
そして塔の上の孤独な王を倒すと決意した。
尖塔に登れない体の弱い者たちは、普段小さい声でしか歌えなかった。
しかし、あの乾杯と送別の歌を、城壁が揺れ動くほどの勢いで歌い、旗を揚げた勇者たちを応援した。
「誰かに舌を抜かれても、目で歌える」
「誰かに目を刺されても、耳で聞ける」
「でも、誰かに歌う自由と眺める自由を奪われたら」
「ーーそれは、絶対に、絶対に容赦しない」
霧切の廻光
将軍より賜った旗本の銘刀の一振り。雷光の如く夜霧を切り裂くと言われている。
一度粉々になった後、打ち直した際、刀身に雲のような紋が浮かんだ。
歌謡に歌われた「大手門荒瀧、嵐の岩蔵、長蛇喜多院、霧切高嶺」は武を学び子供らが歴史上の武人の名を並べたものだ。
その中の「霧切高嶺」は、秘剣「霧切」で無数の妖魔や祟り神を斬った。
影向の天狗から弓を習い、その技を意中の人に教えた。
しかし秘剣霧切は伝承されず、物語や絵画、童謡の中にしか存在していない。
その生涯の最期、彼は将軍の陣の中で、漆黒の軍勢と対峙した。
愛用の弓を賭け金として彼女に預けていなかったら、もしかしたら違う結果 になったかもしれない。
だが真の博打打ちに待ったはなし。「もしも」なんて、決して言わない。
敵が霧のように湧いてくるというならば、夜霧を切り裂く剣技をお見舞いすれば良い。
斬撃が速ければ、漆黒の霧をも裂いて、光明を見ることができるだろうーー
「浅瀬、お前との約束は……いや、このすべての賭けを終わらせる賭け、絶対に負けられない」
「俺は帰る。賭け金の弓と一緒に、勝ち取った未来も俺のものだ!」
絶えず光る雷光のように、彼は霧切とともに妖魔を斬った。
だが、刀は剣客の執着ほど強靭ではなかった。
漆黒の濃霧が、彼を呑み込んだ……
その刀の欠片の一部が回収され、打ち直したものは霧切の名を継いだ。
暗闇に垂らす蜘蛛の糸を掴むように、砕けた刀の柄を握りしめ、
漆黒の濃霧の中、執拗に自分に言い聞かせた。
賭けの勝負はまだ決まっていない。俺は絶対に、浅瀬のもとに帰るんだ……
波乱月白経津
たたら砂の目付である御輿長が編纂した『稲妻名物帳』に載っている御腰の物。
刀の流派である経津伝が命を受けて鍛造した月白経津には、「波穂」と「波乱」という二振りの刀がある。
そのうち「波乱」は名工・真砂丸が生涯で唯一、刀に銘を残した傑作だ。
人々はよく、刀剣には刀鍛冶の魂が宿っていると言う…
『名物帳』も、そのような言葉から始まっている。
言い伝えによると、「波穂」という刀は経津伝三代目惣領である経津実の手によって鍛造されたものだ。
薄く青い刀身と波のような刃文を持つ華麗な名刀は、将軍の近侍の腰によく下げられていたという。
その後、鬼人の運命を左右する真剣試合で刃こぼれし、それは鍛え直されることとなった。
だが酒や古傷、祟り神の遺恨に長いこと苛まれた経津実は、その頃すでに「焼きなまし」がされていない刃のように、心が折れてしまっていた。
若き四代目、経津弘芳の技術も母と比べればまだまだ劣る。
そこで彼の義兄である経津政芳――人呼んで「真砂丸」が、
この刀を鍛え直し、経津伝の傑作を再びこの世に送り出した。
月白経津の見た目は二振りとも酷似しているが、その気質は全く異なる。
真砂丸が銘を残したのは生涯でこの一作だけだが、その理由は至極単純なものである。
彼は昔、三代目惣領に引き取られた孤児であったのだ。読み書きができず、生まれつき口もきけなかった。
「波穂」の美しさを再現する命を受けたため、彼は同じように銘を刻んだのだ。
経津実が亡くなってからの数年間、真砂丸は弘芳に鍛造技術を教えた。
一説によれば、三代目は彼に跡を継がせたかったようだが、恩人からの頼みを彼は幾度も断ったという。
「波乱」を鍛造したことで、彼は一躍有名となった。その影響は四代目を継ぐ弘芳にまで及んだ。
ゆえに、義弟が一人前になった後、真砂丸はひとり故郷を離れることを選んだのであった。
その後、彼は他の鍛造流派に足を運び、多くの名匠から優れた技術を学んだ。
晩年の彼は楓原景光、丹羽長光、赤目実長の三人の愛弟子を抱え、
その三人はやがて、一心伝の「一心三作」を生み出した。
「あの頃の私は口のきけない、醜く汚れた捨て子に過ぎなかった。」
「寒い夜は暖を求める蛾のように、鍛刀場の炉を眺めていた。」
「そこにいたのは、自由奔放でひねくれていると噂の経津三代目の女職人。」
「しかし、彼女は他の人と違って私を追い出そうとはせず、空腹を満たす玄米まで与えてくれた。」
「鉄砂まみれの私の姿を見て、彼女は『真砂丸』と名付けたんだ。」
口がきけず思慮深い真砂丸は、多くの物語を心に隠しているのだろう。
それらの口にできぬことは、やがて沈んでいき、また波に呑まれて消えてしまう…
「話せない私に対し、三代目は静かに色々と語ってくれた。」
「体の半分を覆う古傷や、母と兄上の願望について、」
「身に纏うことの出来ぬ緋袴や、やがてすべてを飲み込む津波のこと…」
ある夜、子供が恐る恐る鍛刀場に忍び込み、気ままに生きる名匠の姿を見た。
彼女は涙を頬に伝わせながら、懸命に鉄の塊を鍛えていたという…
「さっき見たものは忘れろ、分かったな?」
彼が慌てて頷くと、彼女は突然手を叩いて笑い出した。
「忘れてたよ、あんたが口の堅い友人だってことを!」
「酒に溺れた、気まぐれな人――噂の大半は本当だったようだ。」
「今にして思えば、師匠の誘いに乗って一杯やっておくべきだった…」
『名物帳』には、月白経津の異なる姿が記録されている。
経津実が鍛え上げた傑作であり、夜の澄み切った優美な海面のようであることから名付けられた「波穂」。
そして、言葉を持たぬ政芳が鍛え直した刀は、荒れ狂う嵐のような覇気を持っていることから、「波乱」と呼ばれている。
聖顕の鍵
これは砂の王の夢が泡のごとく破裂し、草木の主宰が魔天の囁きを埋めた後の話。
衰微の歯車は広大な神国を多くの国へと分解し、また規則的にそれを砕いてすべてを砂利にした。
一人の王妃が、幼子の金で飾られた羽織と冠を焼やすと、彼に召使いの粗布の服を着せて逃がした。
数年後、王の子は奴隷市場の商品となっていた。彼はすべてを失い、流浪者へと成り下がっていた。
「蜃気楼の日の出のために、まだ涙を流せた時、ある覇者のもとで策を捧げ、彼と共に幾多の国を滅ぼした。」
「先王の子が誕生した時、こう祝福した――『たとえ彼が死した後も、彼を称える詩歌は世に伝わるだろう…』と。」
「かつて私は、いくつかの人と事柄を見誤った。ゆえに運命の罰として、今の私は何も見えなくなっている。」
「私の弟子となれ。私の目となり、私に黄金の砂原の人と事柄を教えてほしい。」
「いつか英雄の詩を、神の宮殿のもっとも美しい掛絨毯にして織るために…」
金貨が手から手を行き来する時、それは劣化する。しかし、高貴な血統を持つものは、主が変わる時に強くなる。
彼の最後の主は盲目の詩人であった。ここからの物語は、主従から師弟へと変わる。
「別れる時、母は私に言ってくれた。私たちはきっと永遠のオアシスで会えると…」
「この剣を楽園の扉の鍵とし、翠玉とザクロの間で国を再興しよう。」
年老いた詩人は貴族の子の荒唐無稽な話を聞いて、切っ先のない黒剣の輪郭をなぞった。そして彼はこう答える――
「師弟の縁はここまでだ。私はその叙事詩にある取るに足らない一部でしかない。」
「師匠…」
「サイフォス、我らのような詩人の運命はお前に属さない。 お前によって他人の物語を創作すべきではない――」
「お前はジンニーの寵愛を受けし者。その手に聖顕の鍵を持ち、国土を失った王子。」
「衰微した王国を流浪するがいい。お前なら新たな神話をもたらし、永遠のオアシスを見つけられるだろう。」
「私が覇王のために賛歌を、王子のために愛の詩を書いた時代ーー私は運命の主役のために作品を書くのを夢見ていた。」
「母と会い、砂の王の栄光を王国に取り戻す叙事詩は、私に語らせてくれ…」
最後、奴隷から英雄になった王位継承者と玉座から落ちた傭兵、その二人の道が交叉する…
言い伝えでは、空中に砂利で川を形成し、砂の王は古い友人と別れた後に故郷を封鎖した。
泡が破裂し、国が広く分布したのち、鍵は砂上の楼閣と夢の楽園を蜃気楼に隠したそうだ。
それは貨幣のように人の覇者と王のもとを行き来し、最終的には流砂の懐へと帰ったという。
年老いた盲目の詩人は、物語の痕跡と血で塗られた足跡を追う。そして、ついに森へと辿り着いた...
萃光の裁葉
黄金の地から来た流浪者は、心にも体にも戦いの傷が残っている。
かつての一国の王子は、今や曲がりくねった蒼翠の迷宮に迷っている。
年老いた森林王は権力の血の匂いを嗅ぎ、眉をしかめてため息をついた…
白い弓を持つ狩人は呼ばれた。森に属さない囚われの野獣を捕獲するために。
黒い影が拡散し、「死」の囁きは森の迷宮で向かう先を探している。
流亡する者の後を追って、呪いは砂海から蔓延り、「生」の領域を浸食していく。
緑色の回廊と路地を通り抜け、彼女は見知らぬ気配から、来る者の目的に気づいた。
記憶と野望の間で、彼は乱れる水音と鳥の鳴き声の中を彷徨う…
「我が矢に射られたのよ、無礼な侵入者!次の矢はあなたの心臓を狙うわ。」
「雨林を彷徨わないで。子供たちの心地よい夢を邪魔しないで。ここにあなたが欲しがる王冠はないの!」
森のたくましい女狩人はそう警告した。彼女の矢と鋭い目から逃げられた獲物はいない。
だがなぜか、彼女は長弓を少し下げ、わざと道に迷ったあの者に当らないようにした。
草木は困惑し、夢に逃げた子供たちも、血が流れずに済んだことにほっとした…
すべての夢を洞察した森の王は彼女の意図を察し、巨木をも震わせる囁きを発した。
「穢れた地から来たあの凡人はお前とは違う。あの者の手は血に染まり、心は欺瞞と妄想に満ちている。」
「だが森は無邪気な夢しか受け止めない。血は狩りと犠牲のためだけに流され、欺瞞は許されない。」
「もし彼が森の迷宮で栄誉を取り戻す資格があると思うのなら、彼が白い枝を手折るよう導いてくれ…」
「その時になれば、月と星は彼に純粋な霊智を与え、苦い酒のような思い出と欲望を捨てられるだろう。」
そして、彼女は再び白い狩猟弓を握ると、流浪者を迷宮の奥へと慌ただしく追いやった…
それからのことは月と星が見届け、子供たちのあいまいな夢に残るのみであった。
流浪する貴族は、白い枝を自分だけの鋭い剣に仕上げたと言われている。
また、彼はあれから故郷の名を忘れ、王になる夢も忘れたと、子供は夢の中でささやいた。
やがて、王子ファラマーツの名は雨林に消え、風砂と共に砂漠へと帰っていった。
静水流転の輝き
(1ページ目)
「深き罪が永遠の都に没落をもたらし、無数の奴隷と僭主が闇夜の荒波に沈んで命を落としました」
「我らはエゲリアの名にかけて誓う。純水の杯を探し出し、あの方の国に返すと」
「これこそが、我らの生まれ持つ現在を償い、同じ死を避けるための唯一の方法…」
「いかなる犠牲を払おうとも、純水騎士の名において、必ずや気高き使命を果たしましょう」
壮大な楽章の終わりも、また定められし終演を迎えた。揺らぐことなき正義を守る人々は、古の世の栄華を失った廃墟でこう誓いを立てたのだ。
柄が水色のこの杖は、かつてエリニュスという騎士が所有していたものだ。調和と栄光の歌が響き渡る時代、彼女は高海諸国の神に抗う人々を束ねた。
伝説によると、彼女の故郷は遥か昔、神王の憤怒によって燃やされた。そして黄金の都より来た軍団は、彼女の親族をみな奴隷のように酷使し虐殺した。
その運命から逃れられたのはたった二人。一人は戦火の中で高慢な調律師と出会い、最後には権威の継承者に抜擢された。
もう一人は衆の水の主から憐れみを受け、アルモリカ島の領主に引き取られ育てられた。そして、神王に奪われていない純水を守護した。
同じ故郷を持つ末裔であろうとも、運命は彼らを善と悪に隔てた。まるで水中の浮萍が最後には四散するかのように。
こうして、海風と、湖中の少女の優しい囁きに従い、気高く逞しい騎士たちは確固たる足取りで旅に出た。
想像を絶するほど多くの試練と、世にも稀な困難を幾多も乗り越え、ついに人々の最も誠実な願いを高天に伝えた。
善良なる清き心によって無数の犠牲を経て得られた純水の杯により、最終的に衆の水の女主人は古の幽閉から解き放たれた…
「衆の水の主よ、慈心のエゲリアよ、あなたの審判を所望します」
「かつては多くの善行と功績を為した私も、この旅の中で深き罪に染まってしまいました」
「あなたの理想は一点の汚れも受け入れるべきではありません。私の心が安らぐためには追放されるしかないのです」
「衆の水の主よ、慈心のエゲリアよ、どうか最後の悲願を聞き入れ給えーー」
湖水の煌めきのように清く澄んだ朝日の中で、切実で悲痛な言葉が、衆の水の主の心を打つ。
自身に満ちた神は、人の子の願いを聞き届け、彼女の前途を祝福した。
神も知るように、無私な者にとっては正義の審判だけが寛大な赦しとなる。
あるいはそうすることで、その崇高な決意はいわゆる運命をも染め上げたのかもしれない。
湖水の煌めきのように潔白な水色の長剣は、エゲリアの祝福を伴って澄んだ光の中に沈んだ。
剣の持ち主だった騎士は感慨に耽った様子で顔を上げた。谷を去った後、その行方を知るものはいない。
(2ページ目)
「深き罪が永遠の都に没落をもたらし、無数の奴隷と僭主が闇夜の荒波に沈んで命を落としました」
「我らは母なる神の名にかけて誓う。純水の杯を探し出し、あの方を幽閉する束縛を打ち砕かんことを」
「これこそが、我らの生まれ持った原罪を洗い流し、同じ死を避けるための唯一の方法…」
「いかなる犠牲を払おうとも、必ずや正義の名において為すべき使命を果たすのです」
壮大な楽章の終わりも、また定められし終演を迎えた。報復に沈溺する人々は、古の世の栄華を失った廃墟でこう誓いを立てたのだ。
柄が水色のこの杖は、かつてエリニュスという歌い手が所有していたものだ。調和と栄光の歌が響き渡る時代、彼女は高海諸国の神に抗う人々を束ねた。
伝説によると、彼女の故郷は遥か昔、神王の征服によって滅ぼされた。黄金の都より来た軍団は、多くの先住民たちを奴隷のように酷使し虐殺した。
その運命から逃れられたのはたった二人。一人は戦火の中で高慢な調律師と出会い、最後には権威の継承者に抜擢された。
もう一人は崩れた骸骨の間に身を隠し、アルモリカ島の首領に拾われ育てられた。そして、神王に奪われていない純水を守護した。
海風がそよぐ中、共にあの水色の美しい歌に耳を傾けた中であろうとも、運命の流れはついに二人を背反の彼方へと引き裂いた。
こうして、潮汐と、精霊の優しい囁きに従い、仇敵の壊滅に目をむいた剣の歌い手はついに旅に出た。
想像を絶するほど多くの試練と、世にも稀な困難を幾多も乗り越えたが、いまだに純水の杯を見つけ出せずにいる。
それはちょうど高天が万水の女主人を古の幽閉へと再び戻し、それを引き継いだ黄金の君主が、諸海の廃墟を統べていたときのこと…
「万水の主よ、誉れある原初の母よ、どうかあなたの戒めをお与えください」
「かつてあなたのために多くの不義なるものを皆殺しにし、無数の城郭を陥落させました」
「どうか教え給え、諸海の後継ぎはどうすれば絶滅を免れるのか」
「万水の主よ、誉れある原初の母よ、どうかこの一度だけ慈悲をーー」
滴る血のように暗い夕暮れの中で、切実で悲痛な言葉が、万水の主の心を打ち、
自身に満ちた神は、かつてフォルトゥナの君主に述べたことの全てを人の子に語った・
神だけが未だに知らない。独りよがりな願望の報いは、独りよがりな絶望でしか無いことを。
あるいはそれによって、その幻想に満ちた破滅がいわゆる信仰の背景をも染め上げたのかもしれない。
とうの昔に血で汚され、漆黒に染まった水色の長剣は、最後の理性と共に砕け散った。
剣の持ち主だった歌い手は力なくよろめいた。谷を去った後、その行方を知るものはいない。
名誉と報復に酔いしれた首領はついに彼女の夢の国を目にするとができなかった。かつて、同様に偉大な志を抱いた神が、
いわゆる救いを探し出せなかったように。何年も後、黄金の狩人と称される楽師がその名を思い出したとき、
彼の脳裏に浮かんだのは血でも涙でもなく、遥か遠くで響く葦笛の音と、あの水色の月下で揺れる美しい舞だけだった。
有楽御簾切
言い伝えによれば、狐族の有楽斎は酔っぱらった折に、森の舞台にあった金漆の御簾を切り裂いたことから、妖狸の長の恨みを買ったという。
そうした理由で刀はこう名付けられたそして、月明かりの下で披露された妖狐の狂気じみた剣舞は、妖狸以外の見物人に逸話として語られたのであった。
その後、有楽斎は舞台を企画した妖狸に謝罪し、貴重な茶器と様々な宝を贈呈した。
「大手門」は、それまで彼と一度しか面識がなかったが、この件の仲裁に入ったため、名刀「御簾切」を贈られた。
民間の言い伝えには、少々誤りがある。それというのも、「大手門」はスミレウリの木と戦うただの変人ではなかった。風雅にも理解があり、演劇、玩具、衣装も好んでいたそうだ。
戦に向かう時は、いつも金の錦でできた秋草雲の縫箔を身に纏い、色鮮やかな模様を顔に塗った、独特の出で立ちであった。
しかし、古書や小説において、最後の戦いで金を飾った名刀「御簾切」を手にした姿は描かれていない。
数多くの逸話や史話の中で、彼の武器はいつも、彼自身と同じ言いにくい名を持つ「刀」だった。
彼が大小二本の刀を持ち、潮を切り裂く勢いで黒い妖魔と戦う姿を描いた絵巻はあったが、
当時の権威ある書『名物帳』によれば、「大手門」は異変が起きる前のある夏に、すでに「御簾切」を失くしていたのだという。
そのため、「御簾切」が果たして敵を斬ることがあったのかどうかは、酒を酌み交わしながら英雄の逸話について話す人々にとって、常に想像を刺激してくれるものだった。
文字がなく、歌だけで伝説や歴史を伝えてきた鬼族は、『名物帳』と異なるー
ーあるいはそれを補足してくれるような物語を知っている。
ある祭典の相撲大会の後、「大手門」はなんと名刀の「御簾切」を武家の出身ではない裁縫職人に贈った。
その少女は彼の陣羽織からとれそうになっていた、金色の花の飾りを再び縫い付けてやった。だから彼は腰に下げていたそれを報酬として彼女に渡したそうだ。
「報酬がいらねぇとはどういう了見だ。よし、ならこうしよう。この刀をお前の鋏と交換するんだ!そしたら報酬にはならねぇだろ!」
「あぁ?あんだって?布を切るのに使えねぇだと?嬢ちゃん、天狗みてぇにつまらねぇことを言うんだな!」
「『平民と武家とは違う』ってのはどういう理屈だ!?小さいハサミで切れるもんなら、長いほうがもっと切りやすいだろ!」
「な、違っ!この刀をやるのは、元の主がうるさくて、名刀は棚に置いて鑑賞すべきだなんて言ってやがったからだ。」
「…贈り物なんかじゃねぇ、取引だ!しょっちゅうあの狐に刀のことを聞かれるくれぇなら、お前に布を切ったり服を作ったりするのに使ってもらったほうがいい!」
「大声を出すなだと?ああん?俺がうるせぇとでもいうのか?まあいい、目ぇかっぴらいてよく見てろよーー」
そう言いながら、鬼の大将は突然立ち上がり、名刀を鞘から抜いた。冷たい刃に、月明かりと祭りの煙が映る。
彼は躊躇うことなく自らの袖を切り落とした。そして刀を鞘に戻して姿勢を正し…真剣な面持ちで刀を錦の袖と共に差し出した。
普段は町人の前でも気にせず笑ったり怒ったりする、あっけらかんとした鬼て、人の武士だが、真剣な顔になるといささか凶悪な形相であった。
「ほれ、俺みてぇな裁縫ができねぇ荒っぽい野郎でも、この刀を使って布を切り落とせるぜ!あんまり俺をなめるんじゃねぇ!」
「っつーわけだ、この名刀を受け取ってくれ。こいつをうまく扱えるのはお前しかいねぇって信じてる。俺じゃ、こいつを壊すだけだからな。」
「家宝として保管しとけって?ハハッ、俺も考えたことはあるんだけどな!でもそれだと名刀を使う場面がなくて、ちともったいねぇだろ。」
「有楽斎がこれを知ったら、きっと俺をつまらない、風流の分からん奴だとあざ笑うだろうな。」
そのとき、鬼人が見せた真剣な顔は、平民であった仕立て屋の少女を驚かせた。
彼女が恐る恐る貴重な礼を受け取ると、お調子者の武人は大声で笑い、満足そうに去っていった。
こうして、「大手門」はまた町民から「大馬鹿」という素敵なあだ名をもらうことになったが、本人はあまり不快だとは思わなかった。
喜怒哀楽の激しい彼は、長くも短くもない一生の中で、多くの友人と知り合い、多くの命を守った。
異変の後、無数の命を救った神、狐、妖怪、鬼、人を祀るために、文字なき錦の絵巻を作ったときーー
仕立て屋は彼に名刀を返せなかった故に、敵陣において刀が彼の助けにならなかったことを遺憾に思い、二本の刀を振るう彼の威厳ある姿を縫い留めた。
が...それはまた後の話だ。そうなる前に、有楽斎は民家に下げ渡されたことを、あと何年か嘆かなければならなかった。
「大手門」と同じ氏を持つ鬼族の後継者は、昔と変わらぬ華麗な名刀を手にした、もはや少女ではなくなった仕立て屋を見て、昔を思い出しながらこう語った。
「伯父は刀を拭く時、よくため息をついていた。なぜ有楽斎様がこのような美しい品を、自分のような粗野な人に託したのかと。」
「『こいつは世の繁栄を楽しんで、あらゆる賛美を受けるべきだ。殺しや怒りで汚すわけにはいかねぇだろ?』」
本題に戻すが、少女が刀の戦場以外の使い道に気付いたのは、彼女が例の絵巻を作るよりもかなり前のことだった。
あの頃、鬼人の千代が華麗な十二単を身に纏い、刀を手に踊る姿は、まるで春風に舞う花びらのようにきらびやかだった。
赦罪
(1ページ目)
「真心と勤勉はかならず報われる。お母様、あなたはそう教えてくださいましたね。」
「けれど真心を愛する者は、往々にして詐欺師なのです。そして勤勉な者はいつも、他人に利用されてしまう…」
「お母様、あなたも嘘つきだったのですね。そうでなければ、こんな場所で侘しく葬られたりしないでしょう?」
「…ですから、感謝しています。お陰で私はようやく、あなたの教えの神髄が理解できました。」
木材が「斧の柄」になるまでは、手段を惜しんではならず、尊厳にこだわってもならない。
動きづらい礼服も、埃や油や血で汚れたぼろ布も、どちらもこの世の中で上り詰めるための衣装だ。
そのような時代では…いや、たとえ千年、万年経とうが同じだろう。
あまりに早く大人になったがゆえに、「適者生存」の旗を掲げて生きることしかできない——このような少年はいつの時代にも必ず存在する。
そして真心、期待、夢を糧に…地上の都市のごとき、堂々たる怪物に成長するのだ。
陽の光の届く街、届かぬ街…どちらも彼にとっては実り豊かな狩場である。
「おやおや、僕たちのサーンドル河にわざわざやってくるなんて、一体どこのお嬢ちゃんだい?」
そしてサーンドル河に誤って足を踏み入れた貴族の少女は、最も暖炉の上に掛けるにふさわしい獲物であった…
恐れが月光を遮る雲のように、彼女の生まれ持った美しい顔立ちに影を落としている——そう怪物は思った。
彼女は怪物の正体が分かったが、口から出たのは「どうやって自分の変装を見破ったのか」ということだった。
「嘘をつくことに慣れてないみたいだね。よそ者であることを認めているのと同じじゃないか?」
「…それに、君の服は煤や機械油で汚れていないし、血の跡もない。」
彼は少女に手を伸ばし、考えた。これほどのチャンスを逃すわけにはいかない。
蜘蛛の糸が、天上の雲からひそかに垂らされた。これを機に、最も勢いと力のある一族に取り入るのだ。
これは雲の頂へと続く階段であり、真珠の扉を開く鍵だ。
彼女を放してはならない…僕は彼女から、離れてはならない…
「レティシア、君の高潔な魂を心から愛している。」
そう口に出した時、彼は不快な違和感を覚えた。それでも彼は話し続けた…
(2ページ目)
いかなる物事にも予兆がある。それは嵐の前夜のようなものだ。
ある時、彼は普段とは打って変わった様子で、自身の願いについて延々と話した。
「レティシア、こんな世界を想像したことはあるかい。」
「そこには三倍の明るさの太陽と収穫し切れないほどに実り豊かな土地がある。」
「人々は鳥のように自由で、隔たりも嘘も略奪もない。」
「僕らは空を飛び、果てしなく広がる荒野と、川や湖を、あるいは丘や谷を一望する。」
「そして僕らの木を見つけて、そこで二人だけの家を築くんだ。」
「誰にも邪魔されず、何事にも煩わされずにね…」
その時彼は、かつて曖昧な希望が煙のように消えてしまったことを——
あるいは彼らの同胞のように、静寂と血だまりの中にとっくに沈んでいたことを、もはや認めていたのかもしれない。
「僕のレティシア…子供たちのことを考えよう。新たに生まれる苗木のことを」
「大砲の音が響く中、汚れた土や水で育てる訳にはいかない。」
「まさか、怒りの涙と恨みの誓いで子供たちを育てようと——」
「ただ不安な夢だけを子供たちに残し…先の見えない使命を引き継がせようと言うのかい。」
しかし、心配はない。何もかもすでに手配済みだ。
我々の未来…僕の未来に、問題など何もない。
そう考えたところで、彼はすでに慣れ親しんだ違和感を覚えた。
……
その頃の彼は貴族と付き合わなくなってから随分と経っていた。裏切りの理由について問われた彼は、こう答えた——
「褒賞、そしてより高い地位のためだ。」「彼女と子供の平穏のためだ。」
どちらが口をついて出た言い訳でどちらが本当の理由だったか、彼はとうに忘れてしまった。
それも致し方ない。何万回も繰り返した嘘は、吐いた本人でさえ本当のことだと信じてしまうものなのだから。
だから妻が最後に同じ質問をした時も、彼は依然として、よくわかっていなかった。
それでも、かつて彼女と交わした約束だけは覚えていた。少なくとも、最初の契りだけは守り抜くことができるだろう。
岩峰を巡る歌
「命はすべて、花のごとく散るのみか?」
「炎の栄華もやがては塵に埋もるるか?」
「輝やかしき名でさえもいずれは影に消えゆくか?」
「たとえそれが咲き誇る花々のように美しく、軽やかな歌声のごとく、いかに優美であろうとも。」
岩峰を越えるのはもう何度目になるだろう。これまで過ごした冬の日の数を覚えていないように、彼女はその回数など覚えていない。
毎年エンバーコアフラワーが咲く前に、鉱山の女主人は一人でテケメカンの谷の中でも辺鄙な地を訪れる。
古い伝統に従って、黎明を目にすることなく、この世を去った友人たちに露に濡れた花を供えるためだ。
かつては黒曜石のように硬く冷たかった心も、今は歳月によって角が取れ、温もりを帯びている。
しかし、その温もりを分け与えてもらえる者は皆、すでに聖火に還っていた──
鉱山に響く轟音と職人たちが歌う仕事歌で、昔の苦い記憶からあの鉱山の女主人を思い起こしてはじめて、
族長の代理人はナナツカヤンのこだまがここまで広がっていることに気づき、驚いた。
かつては荒れ果て、ひっそりとしていた山々は、今や鈴を振るうような、明るく楽しげな声に包まれている。
それは──彼らが姿を隠すしかなかった時代に、若者が夢見ていたものだった。
暴君を打倒するべく抗った無数の者が願ったもの、そして未来であり、文明の胎動であった。
年を重ねた代理人の口元はほころんでいた。かつて赤い瞳を持つ少年から教わったが、
当時の彼女はくだらない戯れだと思って、恥ずかしさから彼に歌ってやらなかった歌を口ずさんだ。
花で飾りしタンバリンのごとく、涙で飾りしその語り、岩峰の間にたゆたいて、今なお歌に呼応する。
泥まみれの燧石のごとく、木霊するテペトルは、鍛冶の焼入れの火のように、皆に祝福を授けたり。
集い、散り、燃え尽き、蘇り死ぬ。新生の炎の為に、黎明の一角を見せよ。
部族の権力を取り戻してから数千年の間に、無数の物語が夜の月明かりに消えていった。
「平和の再鋳造者」サックカが残した歌の歌詞は、今となっては知る人もない。
しかし、その力強くシャープなリズムは、金づちやたがねの音と共に今日まで伝えられている。
何しろ古から今に至るまで、灼熱の律動は鉱山を流れる血なのだから。
叩きつけられる金づちから飛び散る火花は、抗う者へと贈られる永遠に色褪せない歌である。
「命はすべて、花のごとく散るのみか?」
「一切の喧騒が静寂へと帰した時、心はどこへ向かうだろう?」
「この世に永遠には留まれず、ここも旅路の途中に過ぎぬ。」
「しかし、かつてこの場所は花が咲き乱れ、歌声が響いていた。」
☆4
西風剣
これは西風騎士の栄光だけでなく、モンドを護る人々の勤労と技術の結晶である。
この剣は簡単に元素の力を引き出せる。だが肝に銘じてほしい。剣の鋭さは護るための力であり、傷つけるための力ではない。
現在の西風剣術は光の獅子エレンドリンの影である幼き狼のルースタンから引き継いだもの。
伝説によると、彼は雨粒さえも斬ることができ、剣を振り回すとその衝撃波は薔薇を両断し、炎をも吹き消すという。
多かれ少なかれ西洋剣術の特徴を表している。軽く、速く、正確。それでモンドの平和を守るのだ。
27歳の時、ルースタンは「幼き狼」の名を授かった。
西風騎士団の伝統によると、獅子か狼の名を授かった騎士は、
いつの日か、騎士団を率い、全身全霊でモンドを護る大団長になる。
しかし、ずっとモンドを守り続け、モンドのために全てを捧げた彼にその日は来なかった。
ルースタンが編み出した剣術を、彼ほど上手く操れる実力者は二度と現れなかった。
だが、彼の忠誠と思いは現在まで引き継がれている。
祭礼の剣
東に海を一望できる崖で、古の住民は時と風の神を一緒に祭った。
「風が物語の種をもたらし、時間がそれを芽生えさせる」という思想が、度々両者を混同させた。
この剣は護りの力と勇気を語るもの。
もともと刃がついていない道具用の剣だったが、風の中で真剣のように鋭くなっていった。
かつては穏やかなグンヒルド一族が所持していた。
祭祀では、彼らは守護者を演じる。
時の風への祭祀は三つの幕に分けられている。
終幕の内容は、守護者が命と自由を護る物語である。
祭祀の慣習と歴史は失われたが、
グンヒルド一族は守護者を続けている。
匣中龍吟
璃月の街に伝わる噂の宝刀。
刀の鞘は沈香をベースに雲母を飾り、戦争伝説の絵が刻まれているらしい。
連城の璧ほどの価値がある貴重な刀の鞘は既に失われた。
この刀にとって、鞘は刃の運命を縛る鎖だった。
非常に鋭く、刺された人は一時間後にようやく自分が死んでいたことに気づくと言われている。
噂によると、クオンがたった一日でこの鋭い宝刀を打ったらしい。
高齢な師は弟子の作品を見て、ただただ嘆き、杖で地面を叩いた。
「無念、無慈悲の極み」
老人は嘆き、無言で去っていった。
そして、クオンは刀剣に一切触れず、三日間ずっと師の言葉について考えていた。
さらに一年の月日を掛け、この沈香の鞘を作り上げた。
若いクオンはこの鞘なら、刀の力を抑えられると思った。
その後、宝刀は町に現れた。鋭い刃だけが残っていて、鞘は伝説になった。
刃は永遠に血に渇く。どんな鞘でも、その衝動を抑えることはできない。
笛の剣
軽い剣。剣身に紋様が刻まれ、穴が空いている。
優れた腕前の持ち主はこの剣を振る時に笛音を奏でる。音調は振る方向と力
に左右される。
楽団が解散したと後、この剣も葬られた。月日が流れるにつれ、今は音を出すこ
とができなくなった。
それにしても、致命的な武器である。
流浪楽団に凛とした剣舞者がいた。
楽団による旧貴族の討伐計画が失敗し、彼女は奴隷戦士になってしまった。
たとえ希望を失い、全ての仲間を無くしても、戦う時は、
彼女の剣は光の唄を歌う。彼女は「夜明けの光剣士」と呼ばれた。
曙の騎士ラグヴィンドは彼女の元のお付きの騎士である。
共に行動し、彼女の剣に感動した。
そのため、彼は自分の騎士名とやるべきことを決めた……
旧貴族長剣
かつてモンドを支配していた旧貴族に使われていた長剣、その材料と細工は極めて凝っている。
よって、長い年月が経った今でも、切れ味は当初のままである。
剣術は貴族の必修科目の一つだった。
身を投じて戦う人の勇猛と違って、彼らの身振りは知性と気品に溢れていた。
しかし記録によると、最終的に彼らの剣術からはその知性や気品は失われてしまった。
二千六百年前、モンドの地で最古の血統は、
新風神が降り立って天地を作ったあとに、厳粛な誓いを立てた。
「永遠にモンドを護り、モンドの青き平原、山と森に永遠の命があらんことを」
「永遠にモンドを護り、暴君の如き風雪と風雪の如き暴君に困ることなく、永遠の自由があらんことを」
時間が経っても、暴君と魔獣に蹂躙されても、たとえこの誓いの石碑が壊されても、
誓いの魂は千風になって、恋人のようにモンドを撫で、父のようにモンドを守る。
黒岩の長剣
希少な黒岩で作られた非常に鋭い長剣。黄金と玉石を簡単に切れる。
明るい月の下なら、暗紅色の剣身がはっきりと伺え、
血のような光がまるで大地を切り裂くように見える。
「試作」ができた後、職人の寒武は新しい武器の設計図に着手し、
希少な黒岩でより優秀な武器を製造しようとした。
黒岩剣は製造時の温度と水の条件により、剣の堅さとしなやかさが変わる、鋳工にとっては大きなチャレンジである。だからこそ、超えなければならない。
寒武は剣を鍛造することに心を奪われた。友人の雲氏の依頼を受け、素材を探しに層岩巨淵へと向かった。
だが坑道が崩落し、彼を含む数人は4日間も坑内に閉じ込められた。
彼らは地下牢獄へと落ち、普通の道具では道を塞ぐ岩を取り除くことができなかった。
漆黒の闇の中で、彼らは迷い狂って絶望した。
その時、坑内の片隅で寒武が持ってきた試作剣が微かに光っていた。
この剣のお陰で彼らはようやく脱出できた。陽射しを浴びた瞬間、手に持っていた剣が粉々になって砕けた。
寒武は驚いた。数ヶ月後に寒武はこの長剣を再現して「黒岩」と名付けた。
人々は黒岩の美しさ、鋭さ、堅さを賛美する。
坑道の崩落事故にあった者は、当時のことを一切口にしなかった…
――暗闇の中、寒武は渾身の力で岩を切り、剣の衝撃波が稲妻のような音を響かせる。
その時から、後に起こる地震のカウントダウンが始まったのかもしれない…
斬岩・試作
璃月の武器工場が作った古い試作剣。製造番号や製造時期は不明。
古い剣身には流雲紋が飾られ、剣を振るう時は微かに金色に光る。
噂によれば、一度は技術不足で製造が中止となり、別の製造方法を考えることになった。
鍛造の名門である雲氏の当主は武器職人である寒武と協力し、「試作」という武器シリーズの設計図を書いた。
設計図に沿って最初に作られた片手剣は音が響く。
天衡山で剣を試す時、寒武はうっかり剣を地面に落とした。
意外なことに、剣は逆巻く風のように岩盤に割れ目を作った。
これは天啓だと思った寒武は剣を「斬岩」と名付けた。
一刀両断、万剣朝宗。
岩を簡単に切れるこの剣は後日、璃月の刀剣の原点となった。
朝宗【ちょう-そう】:古く中国で、諸侯が天子に謁見して帰服・従属すること。転じて、権威のあるものに寄り従うこと。
鉄蜂の刺し
世の全てが璃月にあり。これは偉大な璃月港への讃美である。
他の国の珍宝も人と共に璃月港に来る。
刃がついてない細い剣だが、先は極めて鋭い。振り回すより、突き刺すことに特化した剣。
使いこなすには技術が必要だが、もともと良質な剣のため、修練を必要とせず、使いやすい。
遥か遠い異国からの武器。遠洋航海帆船のオーナーが腰に下げていた。
剣身は細く、優雅な曲線美は帆船の雰囲気に合わない。
剣の詳細を聞かれるたび、オーナーは無視する。噂は風とともに流れていく。
海賊からの戦利品だ、あるいは略奪した物だろう、と噂された。
日が暮れ、帆を下ろしたら、彼はいつもそっと剣を拭う、
風の国の思い出を、遊侠としての失われた時間を、
故郷で出会った少女のことを、報われなかった恋を、そして再会の約束を思い出す。
降臨の剣
これは、あなたが特殊な方法でこの世界に辿り着いた証。
これは「世界」に挑んだ者にしか握れない剣。
過去にこの剣が振られた時、人々は滅びかけた世界を救おうとしていた。
その世界は、彼らの唯一であり最後の居場所。
この剣が挑んだのは、滅び行く世界の運命だった。
――しかし、「生者必滅」の宇宙の法則に対して剣で挑むのは、
馬に乗り、槍を持って風車に突進する行為と同じくらい滑稽なこと…
それ以前に、かような運命と億万の星を呑み込む深い闇と向き合うには、
どのような武器を手にすればいいのか?やはり、この剣こそが相応しいのだろう。
少なくとも、世界と戦う勇敢な記憶を運ぶことはできる…
過去にこの剣が振られた時、あなたは世界に隠された答えを探していた。
このような世界ならば、この武器を使うことができる。
宇宙の暗き目が向きを変えたわけでも、かの世界が元からこのような風格を備えていたわけでもない。
――「追求」こそが、あなたがここに降臨した真の理由であるからだ。
「過去」が消滅する前に、「未来」が降臨する前に、
「現在」が消え行く今、この剣を信じるといい。
身を護るには最適だ。なぜなら、あなたみたいな
「挑戦する者」、「追求する者」のために調整が施されているのだから。
それを持ってして、この世界を行け。
そして、「世界」が残したすべての謎と挑戦を切り開いてみせるのだ。
黒剣
永遠に鮮血を渇望する剣。血の匂いによって目覚める。
持ち主はこの剣から戦い続けられる力を得る。
無垢な人も、やがて返り血によって漆黒に染まる。
純白で高貴な騎士は、正義の道を求めていた。
光沢のある銀の鎧を身に着け、鏡面のように明るい長剣を携えていた。
不公平を訴える人々のところへ、人食いの魔獣が現れたところへ、遠方の炎が燃えているところへ、
騎士はすぐその場に赴く。一、斬る。二、振り下ろす。三、突き刺す。
彼に騎士道や正義、剣術を教えてくれた「幼い狼」の訓戒に従って、
斬って、振り下ろして、突き刺した。そしてまた斬って・・・・・・。
魔獣が動けなくなるまで正義は執行された。
「いつからだろう、斬る、突き刺す、振り下ろす、その感覚に病みつきになった」
「剣と肉の絡み合う感覚は、まるで脊椎に電流が走ったようだ」
「ああ。たぶんこれが正義が執行された感覚だろう」
「このまま切って*、突き刺して、振り下ろし続けていれば、この歪んだ世界の罪も」
「いつか、いつの日にか、粛清されるだろう」
「騎士よ、正義と称しても殺戮は所詮殺戮だ」
「いや、お前は間違っている。正義のための殺戮は即ち正義だ」
一、斬る。二、振り下ろす。三、突き刺す。そのまま正義を貫き続ける!
例え少女からもらった白い花が汚れた血に黒く染まっても、剣の輝きが失われても、
秀麗な顔が歪み、鉄仮面で隠さなければならないようになっても、
守られた人々に理解されないとしても、決して止まらない!
黒く染まった騎士が正義を果たす旅の中で、魔物の跡を追い、
滅ぼされた古国を見つけた。そこで、最大の問題を発見した・・・・・・。
腐植の剣
それは遥か昔のこと…
誕生することを許されない生命、満たすことができない願い、
暗い宇宙を彷徨う、悲しき夢、
私の体を借り、「現世」に降臨しなさい。
そして、私のかわいい子供たち、
雨水が小川に流れ、植物が太陽に伸びるのと同じように、
美しい場所に行き、自分の美しさを満遍なく放ちなさい。
これは、ドゥリンと呼ばれる子供の、「母親」に関する記憶…
「お母さん、ありがとう」
「空を飛ぶ翼と、丈夫な体、全部お母さんがくれたもの」
「僕は、美しい歌声がある場所に行きたい」
「皆のことや、お母さんのこと」
「僕の生まれたところが、どんなに美しいか。全部、彼らに伝えたい」
ダークアレイの閃光
真っ直ぐで高貴な長剣。夜の閃光に似ている。
その刀身は一度も血に触れたことがない。
噂によると、後世の人々はこの剣を元に高貴な騎士の剣を作ったという。
剣は黒く、夜に溶け込む。
なぜなら、その時代は夜になっても平民は灯火をつけなかったからだ。
一部の詩歌によれば、その暗闇は貴族の統治によるものらしい。
古い時代に書かれた先祖の徳政を記録した叙事詩は、貴族の少年の心に反逆の種を植えた。
機は熟した。名門出身の彼は一族を置き去りにし、長剣を盗み路地の奥へと姿を消した。
彼は平民と同じように酒場に行き、貴族から教わった剣術で富者から財物を奪って貧者に施した。
貴族の宝庫から取り出したこの剣は、暗闇の中、貴族の後裔と共に屋上や路地を走った。
長剣の刃は一度もその輝きを失わず、ずっと光っていた。陳腐な貴族の後裔という身分を捨てた義賊の心のように。
歌と酒と若い歳月はいずれ終わる。やがて色々なことが起こった。
最後は月光の下、長年共にしてきた長剣を埋葬し、船に乗って亡命した。
彼はあの日の出来事を思い出した。家を出る前、宝庫からこの長剣を盗み出し、
家族に、過去と未来に、この土地に、腹違いの弟エバハートに誓った言葉
「ほんの少しでも、僕は僕自身の力でこの漆黒の世界を変えて見せる」
天目影打
名刀「薄縁満光天目」の影打ち。
岩蔵流初代当主「道胤」が紺田村に隠居中に世話になった礼として、
柴門家に贈呈したものだ。
岩蔵流の秘剣「天狗抄」は迷いをすべて捨ててやっと使える技だという。
「天狗抄」は「天狗勝」のもじりで、空飛ぶ天狗さえも斬り落とせる剣だ。
数百年間、「胤」の名を世襲してきた岩蔵の剣豪たちは稲妻で秘剣を振るい、無数の妖魔を斬り捨てた。
「天狗抄」が完成したのは、祀られなくなった社の中だった。
秘剣の威力が大きく、建物は尽く壊され、岩蔵道胤の刀も真っ二つになった。
その後、剣術の腕で岩蔵流を創立し、九条家の指南役になった。
当時の天目に依頼して、胤の名とともに受け継いでいく名刀「薄縁満光天目」を打ってもらった。
その刀の逸話も諸説あり、人の縁さえも切れると言われている。
長い号は、岩蔵道胤が直々に指定したものだそうだ。
シナバースピンドル
愉悦を浮かべ烈火より塵を分離し、粗悪なるものから精巧を生み出す。
宇宙が一つのものから派生したように、一つの思索は万物へとなり得る。
あなたの兄である一本角の白馬が成し遂げられなかったことを追求し、
哲学の果てに辿り着いて、あなたの兄と私のために、新たな運命を紡ぎ出さんことを…
籠釣瓶一心
「一心」の名を冠する血の色をした長刀。優れた切れ味を持つが、不吉な色合いである。
水に満ちた隙間だらけの竹かごを、その水を一滴も漏らさず真っ二つにできるという。
刀には、茎から先端にかけて、霊が宿っていると世の人は云う。
つまり、「祟り神」が作った刀には、当然怨霊が宿っているのであろう…
真紅の名刀「籠釣瓶」は、ついに惣領にはなれなかった匠、赤目兼長の作品である。
しかしこの刀は稲光と玉鋼の地ではなく、雪原地帯の北国で鍛造された。
月明かりの下で刀身を見ると、妖しい紅の刃文が水のように流れ、まるで郷里を離れた者の血と涙のようである。
「『祟り神』なるもの、元は大悪なりーー浮世への憎悪を溜め込むものなのだ。」
「刀は大悪の武器。悪がなければ殺すことはできず、恨みがなければ、血の色を理解できない。」
「『一心』とは雑念を捨て去り、純粋な目的のために鍛造を続けること。」
「つまり、生に対する憎しみを糧にして、生き物を真に斬ることのできる刀を鍛え上げることである。」
赤目一門「一心」への執念から、「人斬刀」を極め続けてきた。
その結果、弟子の多くはひねくれ者となり、短命だった。身も心も大毒に侵され傷跡だらけだったのだ。
赤目の門下生が鍛造した刀は、それ故に切れ味に優れるが、魔性が宿るが故にやがて役人から「劣悪」と判断された。
そのため、赤目実長の「一心伝」惣領の職は官府によって取り上げられ、三代も続かず終わってしまった。
その後、赤目兼長は傾奇者の事件に巻き込まれ、大逆の罪を犯してしまう。
彼は名前を変えて雪国へと旅立ち、やっとのことで生きる術を見つけたのであった。
逃亡する「楓原」は、「一心伝」が刀に酔う者たちからの喝采を受けるようにと願うばかりであった。
しかし匠も「祟り神」も刀と同じで、所詮人の使うものや名に過ぎない…
「『一心』などという虚名のために半生を無駄にしてきたが、念願かなって俺も『楓原』になってしまった!」
「ははっ、まあいい。氷雪で鍛えてきたこの刀が、虚名のように脆くないことを祈る…」
楓原一族は知識が豊富で、その作には真砂丸の気骨が見られる。丹羽一族は仁義に厚く、刃の焼入れに長けている。
赤目一門は「一心」への執念から、「人斬刀」を極め続けてきた。
雪原に埋葬されたその時も、逃亡者は名刀一振と楓原の名が無事故郷に還り、感嘆されることをただただ願っていた…
原木刀
「これは、ワルカから伝わる物語…」
あの頃、叢林はまだ、金色に輝く砂漠だった。私たちも、ザクロから生まれてはいなかった。
かつて、三人の仲間がいた。その仲間たちは、アランジ、アランマハ、アランヤマのグループと同じくらいに仲が良かった。
しかし、仲間の一人が大地に戻ってしまい、他の二人もそれを理由に仲間割れしてしまったのだ。
そのうちに一人は、地上に理想的な国を築き、全ての悲しみを消し去ろうと決意した。
もう一人は草木と緑を増やして、この地を知恵と幸せに満ちたものにしようと決めた。
しかし、やがて国は滅亡し、知恵は歪み…幸せの定義も変わってしまう。
あなたがたは夢を忘れ、私たちは夢の中に還り、太陽と月の移り変わりも忘れ去られてしまう。
それでも、砂漠の深部に森林王が足跡を残したように、あなたと私は物語を残す…
過去の友情の痕跡は、種になったアランナラのように、静かに眠っているという。
サイフォスの月明かり
あれは千年も前の出来事——あの愚かな神王が、砂嵐で滅んだ後の時代に起きたこと。
凡人の国は立ち並び、智者の集まるトゥライトゥーラはその中でも秀でていた。
その国には空を思わせるサファイアの天蓋があり、暖かな翠緑の花園が広がっている。
神王が死んだ時代であったが、幸いにも知恵と繁華がこの都市国家で煌めいていた。
人々によると、この青色の国にはサイフォスという名の戦士がいたと伝えられている。
その者は双刃の長剣を巧みに操り、魔物の鋭い爪から少女を救い、宝物を奪ったという。
古いティナル人の伝説によれば、彼の剣には残忍で捻くれ者のジンニーが宿っていたそうだ。
その剣は殺戮により光を帯び、血を浴びれば浴びるほど月色の光を見せた。
「ああ、愛しき主よ。あの深紅の果汁を私に飲ませておくれ、あの深紅の美酒で私を喜ばせておくれ。」
「私の愛は、あなたのためだけに湧き出づる。葡萄のつるの娘が、愛酒家のために血の味の死を捧げたように。」
「主が私の愛を有している限り、月が依然とその永遠と老衰しない顔を照らす限り。」
「敵がこの世に未練を持ち、母親の名を忘れぬ限り、あなたは無敵の戦士であろう。」
その後、月光のジンニーに深く愛された戦士サイフォスは、異国より亡命してきた浪客に出会った。
その浪客は、敵方の王たちから血で汚れた銀銭を受け取っていた。そして、卑劣な王たちの英雄に対する妬みや恨みを抱えていた。
本来であれば酒の友となり得た二人の侠客。彼らは月光が見届ける中で殺し合うことになる。
こうして、ルビーの美酒は剣先を洗った。ザクロは熟し、破裂して鮮紅の滝を噴出させる…
最後、一切が落ち着いた時、青白い明月は勝者を照らし、そして敗者を照らした。
「風向きがどうであれ、命の盃にはさざ波ひとつ立たなかった。」
「死した三人の女神は勇士の運命を定めた、たとえその幽玄を悟れなかったとしても。」
浪客は月色の長剣を手に取り、血に染まった銀銭を拾い上げる。沈黙を保ったまま遠い雨林をゆっくりと歩んだ。
サイフォスの守護を失ったサファイア城は色褪せ、数年で急速に衰退し滅びる。
城と運命は潰され砂利となり、砂原の風はすべてを目に見えない細かな砂の流れへと砕いた。
幼き王子に託された再興の運命と黒き鍵は、最終的に流砂の懐へと沈んでいった…
東花坊時雨
「稲妻の傘。雨を防ぐ道具というより、独自の工芸品と言ったのほうが良さそうだ。竹の骨の感触も、傘の模様も、水や埃が油紙に染みた淡い色でさえ、細やかで細密に見える。狭い路地を通るたび、店舗の前にぶら下がっているこのような傘を見ると、ふと思い出してしまう話がある。昔々、町全体を騒がせたある傘があったそうだ…物語はこんな出だしから始まる——」
「今から数百年前、ある祭りの日、花見の席で狐や狸たちは戯れ、楽しく遊んでいた。普段あまり笑顔を見せない天狗たちでさえ、人々と杯を交わし、談笑していた。中でも最も注目を引いたのは華傘を手にした少女だ——鬼族の美酒を飲んで大いに盛り上がる中、月明かりの下で、少女は花吹雪のように舞った。妖怪も人間も、彼女の踊る姿に歓声を上げた。その後、軍勢と共に出征した時、少女は不幸にも命を落とした。彼女が愛用していた傘は、忠実な眷属たちの手によって神社に寄贈された。」
「ある武家出身の女性は、神社でお参りをする時にこの傘を見つけて惚れ込み、高値でそれを買った。次の日にちょうど雨が降り、彼女は傘を持って出かけようとしたが、着替えも終わらないうちに、遠方から夫が戦死したという訃報が届いた。女性は傷心のあまり、数日も経たないうちに病にかかり、この世を去っていった。葬式の後、彼女が買ったあの傘は、残された父母に不吉なものだと思われて、再び神社に贈り返され、棚にしまわれたまま置き去りにされることとなった」
「まさかその数ヶ月後、雨が降る夜の町で、見たこともない妖怪が祟っているという噂が広まったとは誰も思っていなかった。噂によれば、その妖怪は傘のようで、成人男性よりも背が高く、一つ眼で足も一本しかないという。そして長い長い舌を持つその妖怪は、一人で夜道を歩く人がいると、いきなり飛び出して、通りかかった人を舌で舐めるのだ。フォンテーヌ人から見れば、その妖怪は祟っているというよりも、悪戯をしているように見えた。とは言え、誰もあの妖怪の意図を知るわけではない。しばらくの間、町の人々は不安に駆られ、若い女性などは妖怪に出くわすのが恐ろしくて、出かけることすらできなかった。年寄りたちは、あの方がまだご存命ならば、あのような小妖怪が祟ることはなかっただろうにと口々に嘆いた——しかし、もはやこのような小妖怪の退治法ですら、知っている者は少なくなっていた。」
「その後、ある若い巫女がこのことを聞いて、神社からあの傘を出してきた。彼女は柄杓で水を掬うと、持ち手から石突までを丁寧に洗い、絹で油紙を何度も繰り返し拭った。そして傘にこう言った。」
「『あの時の雨が再び訪れることはないけれど、明日が過ぎても明日はまた来る。あの方がご存命ならば、このようなお姿はご覧になりたくなかったはずでしょう!』」
「そして彼女は、傘を神社の別殿に祀るようにと指示を出した。それからというもの、誰も傘が祟る話を聞かなくなった。」
「…というのが、稲妻の友人から聞いた話だ。しかし、鳴神各地の神社を多く訪問したが、傘を奉っていると言う話はてんで聞かなかった。これについて友人に話したら、彼女は失笑してこう言った。」
「『まさか、レフカダさんってば、怪談を本当の話だと思ったの?』」
サーンドルの渡し守
下水道に流れ落ちてくる廃棄された部品は、いざという時に武器として使える。
最初の相手は「栄養たっぷりの水」で育った魔物だった。
ともあれ、それは無数の「獣」の膝の皿と下顎を粉砕したことがある。
すべてを抱き込むサーンドル河に、同胞を脅かす連中を大勢送り込んだことから、
エドワルドの友人の間では、「渡し守」という愛称で親しまれている。
フォンテーヌの都市開発の終点は、下水道を地下の町としたことだ。
サーンドル河の秩序を守れるのは、むろんフォンテーヌ廷の官僚ではない。
だから、後のギャングの出発点は、拾った銅パイプでワニを撃退したことである。
その後、暴力団の侵入や恐喝から商人や店を保護し、
サーンドル河の「同胞」間の紛争を仲裁して、新婚夫婦を祝福するようになった。
最終的に「日の当たる場所は彼らのもの、サーンドル河は我らのもの」としたのだ。
だが、都市開発に終わりは無い。
人々の位置は変えられないが、位置の座標は変えられる。
ある観点から見れば「彼ら」と「我ら」の間に違いはない。
開発可能な区域と、整理もしくは「移動」すべきゴミがあるだけだ。
サーンドル河の整備に反対して逮捕されたエドワルドの一味は砂漠への流刑が決まり、護送される途中、
その一味に救い出された。一行はモン・オトンヌキで活動していた盗賊と組んでポワソン町を占領し、
護送を担当する執律庭のメンバーを人質に取って、理不尽な要求を数多く出した。
この事件は、最終的にファントムハンターが積極的に介入したことで収まっている。
当時、志願して交渉の要求を伝えたカール・インゴルド記者は、事態が悪化する前にポワソン町である集合写真を撮っていた。
写真の真ん中に立つのがエドワルド・ベイカーで、この有名な(あるいは悪名高い)先の曲がった銅パイプをステッキのように持っている。
エドワルドはもう一方の手を息子のジェイコブの肩に置き、ジェイコブは緊張した面持ちでルネ・ド・ペトリコールの袖を握っている。
二人の左側には、大魔術師「パルジファル」が軽く手すりに寄りかかり、トレードマークである舞台で見せるスマイルを浮かべている。
エドワルドの右側にいるのが、当時ポワソン町の町長だったルノー・ド・ペトリコールだ。このためにわざわざ礼服に着替えたが、襟が曲がっていた。
彼の息子のルネはその前に立っている。写真機という珍しい物に興味津々で、目を丸くしながら少し戸惑っている。
パルジファルの左側で赤ん坊を抱いているのはローザ・リードと夫のトンプソンで、写真の一番右側はトム・オールターだ。
前を見ている彼らの顔は、写真機のライトで白く照らされている。彼らが見つめている先は、インゴルドでも、写真機でもなく――
未来のようだ。
狼牙
何かの偶然なのか運命なのか、モンドの騎士団の中で、
最も尊敬される騎士の名と、それに対応する獣の紋章はいつも次の二つになっている。
まずは騎士団の初代団長の「獅子」を受け継いだ意匠と称号、
二つ目はほぼ同時代にやってきた「狼」の騎士「北風」である。
実際には、北風騎士の名はどこにも記載されていない。
この名前がついたのは、当時巷に広まっていた物語の影響である。
物語の最後で、娘を救ってもらった商人(または農夫)はこう尋ねる。
「騎士様には、なんとお礼をしたらよいやら…」
騎士はこう答えた。「お嬢さんが嫁に行くとき、酒を一杯勧めてくれればいい。」
「ああ、それは申し訳ございません。して、騎士様のお名前は?」
騎士は少し考えてこう言った。
「では、やはり仲間に勧めてやってくれ。彼の名前は『北風』だ。」
通常、この物語は次のように終わる。
その時、森の中(あるいは山の坂道。視界の外のどこか)から、
一陣の風が吹いてきた。商人(または農夫)がその方向を見ると、
暗闇の中に氷のように冷たい獣の瞳があった。
この二つの光はすぐに消えた。気がつくと騎士もいなくなっていた。
物語には多くのバージョンがある。ただ、娘はいつも救われ、騎士はいずれも名がない。
だが、この物語ができる前、彼は長旅でくたびれた古いぼろぼろのマントをまとった、無名の旅人であった。ある人が、そのマントの下に美しい彫刻の施された傷だらけの鎧を着ていることに気づいた。しかし、それでは何の説明にもならないだろう。鎧の主は革新に伴って高貴な地位を失った、ただの落伍者かもしれない。
酒場の主人たちは、彼が本物の金貨と銀貨で払っていることに気づいたが、表面に刻印されている記号は誰も見たことがなかった。しかし、これでは何の説明にもならないだろう。金貨や銀貨は人の手から手に渡り、持ち主が絶えず変わるからだ。このようにいつもその場で飲み代を支払い、酔っぱらっても騒ぎを起こさない人であったため、非常に歓迎された。
物語の発端は、領域外の海から暖かさと平和を求めてモンド海岸にやってきた蛇の妖魔だ。黎明期の騎士団はまだ力が弱かったため、無名の騎士は銀貨一枚の報酬で魔物狩りを引き受け、町の外に出て狩った。そのあと血と腐った肉の匂いに誘われて、幾千もの鷹が数日間ずっと砂浜を旋回していたという——ゆえに、鷹飛びの浜という名の由来は、実は西風の鷹のロマンチックな伝説とは関係がない。
それから数年間、初代の大団長は彼を騎士団に招聘しようと全力を尽くした。だが無名の騎士はずっと首を縦に振らなかった。実をいうと、「北風」の名に関わる物語が対応している実際の事件は、初代大団長と無名の騎士の間で起きたものである。幾度となく拒絶されて業を煮やした大団長が、騎士たちを率いて彼を街中に閉じ込めたのだ。後世に語り継がれる物語に出てくる台詞は、無名の「北風」騎士が立ち去るときに出たもの。双方の口調はそれほどかしこまっていなかったが、大意はだいたい一致している。
とはいえ、こんな事件を詩にしても興ざめである。そのため、才気あふれる詩人たちはこの部分の会話と、騎士のモンドでのいくつかの事跡を結びつけて、数多くの物語を創作した。
彼がモンドに滞在していたのはわずか数年間だけであったが、去るときにはその姿が永遠にモンドに刻まれることとなった。
海淵のフィナーレ
この儀礼剣はある楽師のものであったと伝わっている。その名はもう忘れられてしまった。
幾重にも重なる華美な装飾と燦めく宝石が、楽師の身分の高さを物語っている。
その楽師は、古い壮大な楽章を誇りに思っていた。だが、人前でその曲を演奏したことはないという。
この濁世にはもはや、その楽章のために拍手して涙を流そうとする人はいない。あの複雑な楽譜を清書しようという人はいないという理由で…
フォンテーヌには、彼の生涯を描いた歌劇がある――誰も彼の出自を知らないが、彼の悲喜劇はよく知られている。
貧しい家の出身者が大抵そうであるように、数々の水路が通じる中心街で彼の運命は決まった。
「学生諸君!我々は楽章の編纂者であり、権力の調和者である。楽曲は我々の指揮に従って行進するのだ。」
「我々の楽曲は波と水紋のように、タクトのリズムと恋人に撫でられるように、聴衆という聴衆を征服するだろう。」
高々とそびえる劇場学院で、教授たちが華麗な楽章の講釈をしながら、文明と芸術を無知な学生に教え込む。
楽譜上の音符と音調が完璧な秩序で並び、絶対的な理性と英知によって正しく演奏される…
「しかし、秩序の意志が規則だけに従って実行されるわけがない。楽者は超越者と同行し、崇高な代弁者とならねばならない。」
「ヒバリがさえずる山の峰、嵐の中の怒涛のように、崇高さは力強いものだ。秩序には必ず偉大な情熱が含まれている。」
「そして、栄光は情熱から生まれる。情熱が団結を作り、団結が秩序を固める――楽曲と楽師の役割はここにあるのだ。」
「仇敵を滅ぼす情熱、同胞を愛する情熱――まさに、この崇高な感情が人間を主人と下僕に分けている。」
その後、歌劇に歌われているように、楽章に対する独特の理解と表現によって、楽師は最も華やかな殿堂へと登った…
その時代、楽師の指揮と独断の下、楽章は権威の盾と杖となり、無数の聴衆を征服したのだ。
黄金の時代、聴衆は崇高な美しさに陶酔し、同じ情熱のために喜びと悲しみを分かち合った。
だが、人々の視線が高い山や大波に阻まれると、呑み込まれた者の悲しみは沈黙に変わる…
ついにある日、高々とそびえる歌劇場が津波で崩れ、人々は恐ろしい事実に気づいた――
楽師の情熱によって燃え尽きた人々の屍が、建物の下から姿を現したのだ。
船渠剣
フォンテーヌが今より労働力に依存していた時代によく使われていたツール。
刃の強度は長時間の激しい使用方法に耐えられないが、
切れ味の鈍った部分を折り取ることができて便利。
船渠の労働者は、薄い素材を切断するときや、もつれた縄を解くときによく使う。
この種の道具には規制が多く、許可がないと使用できないが、
不正な方法で広く流通し、庶民の刃だと称えられていた時代もある。
痩せ地の環境での自衛用、水草の生い茂る地に通り道を切り開く用途にも。
粛正の時代に新たな用法を発見した人は多いという。
のちにこの種の刃物は進歩と規制により、フォンテーヌの歴史の舞台から去った。
ツールの所有権がその使用者のものではないとはいえ、
頼りにする者は自分の手足の延長のように思っているため、
失くさないよう、常に取っ手と替え刃に名前を刻んでいる。
この刃物には、ポワソン町の元町長の名前が刻まれていた。
水仙十字の剣
旅路は出会いと別れで溢れている。
最後まで旅人と歩み続けてくれるのは、
剣と遠い夢しかないだろう。
老いる前に、永遠の旅人は幾多の世界を旅し、
無数の物語と、少しだけ明るい未来を残す。
エズピツァルの笛
それは遠い昔、今では神話として語り継がれる時代のことだ。その頃、巨龍はまだ深谷を闊歩していた。
生まれた瞬間に足首を抉られた少女は、伝統に倣い聖王の名を継承した。
当時、深谷はまだ「ミクトラン」として知られておらず、龍の祝福を受けただけの無名な村だった。
古代の烽火は、誇り高い龍の栄光を焼き尽くし、朽ち果てた夢の中へ突き落とした。
そこで龍たちは安住の地を渇望する人間と契約を結び、並外れた才能を持つ聖王を選出するよう命じた…
「我々は、鏡の迷路と霧の要塞を築き、人間という小さな部族を戦火から守ろう」
「対価として、我々が求めるものはただ一つ。我々を夢へ導いてくれる王を選んでほしい」
世界のあり方と同じように、夢もまた欲望の炎であり、人生という薪を燃やしながら飲み込んでいく。
いわゆる運命の王は、夢に捧げられた生け贄にすぎず、やがて煙塵のように冷たい夜風に消えていくのだ。
そのため、聖王に付き添っていたのは笛と無口な従者だけであった。
忠誠心や憐みからなのか、彼は早くに死する運命にあった若い主君の傍を片時も離れなかった。
しかし、後世の人々に尊敬されることになるこの英傑は、すべてを見通す少女がすでに夢の結末を予見していたことをまだ知らない。
勇者が笛の音に導かれて鏡と煙の向こうに辿り着くと、足首を抉られた少女が彼を抱きしめる。
彼女は、夜風にそよぐ囁きを優しい歌に変え、耳にしたすべてを彼の耳元にささやいた…
「……」
「私たちが再び出会う日が来たら、どうか私の心臓を貫き、烽火と灼熱の風で私の名を包んでほしい」
「そうすれば、古い盟約は破棄され、新しい盟約はあなたによって確立される。あなたなら、彼らに真の平和をもたらしてくれるでしょう」
「再会するその日まで、私の最も忠実な従者であるディンガ、王となる運命を背負った龍殺しのマグハン」
「これが私の最後の命令。私だけの英雄、ミクトランの名を千年語り継いで」
ストロング・ボーン
荒波の中を生きる海獣に、水の声の導きで辿り着く安息の地があるように
燃え盛る炎の大陸を支配していた巨龍にも、亡骸を納める墓がある。
そこには、蜘蛛の足のような白骨がまるで天をつかもうとする巨大な爪のようにうずたかく積まれている。
夜の闇と死の境を見張る秘源装置が、命令を受けて一日中そこを巡回していた。
そこは誰の目にも極めて危険で、凄腕の伝達使でさえも、探索しようとはしない。
それに、残されたわずかな時間を指折り数えるような敵の邪魔をする必要がどこにあるだろう?
部族の集落で焚火を囲んでいたワンジルは、巨龍の墓に関する物語を聞いて喜び勇んで立ち上がった。
この世にこれより恐ろしい敵などいるはずがない。そして、きっとそれはその亡骸から手に入れられる──
怪力を持つワンジルが、この時何よりも渇望しているものだった。
怪力のワンジル──たとえ樹齢百年の鉄の樹でも、彼女の一振りで真ん中から折れてしまう。
鉱石は彼女の手のひらで粉々になり、道を阻む巨石であろうとも、その腕力の前には無力である。
最も硬い金属で作られた物でさえ、彼女の手の中では泥のように形をなくす。
自分に合う武器は、どこで手に入れられるだろうか…ワンジルを日々悩ませていたその問いに、ついに答えが現れた。
彼女はトゥランの山頂から火山に飛び込んで、蛇のように進む造物を躱し、長きにわたり荒れ果てたままの廃墟に辿り着いた。
英雄たちがかつて巨龍と激戦を交えた時の痕跡を追い、武力でもって戦った者たちが壁に残した巨大な痕を辿った。
自分がその時代に生まれていたらどんなに良かっただろう。ワンジルは英雄たちを羨んだ。伝説を残した数多の先人たちが、
雄強な巨龍と戦い、最初の神と武芸を競っていた先祖たちを羨ましがったのと同じように。
しかし、語り部が生き生きと語ろうとも、そこは
惨たらしい死を迎えた数体の巨獣の孤独な亡骸を納める場所に過ぎなかった。
失望し、手を伸ばしてぼんやりしていた少女の目に、翼を広げ飛び掛かってこようとする影が映った。
それが何なのか考える暇もなく、少女は大きく笑いながら金色の影と戦い始めた。
戦いが苛烈を極めたことは言うまでもない。目には目を、歯には歯をもって報いなければ。命がけで抗った。
ついには、部族の勇士が戦いの幕を引いた。勇士が血にまみれた両手で巨龍の翼を引き裂く。
すると金色の影──まるで本当に存在していたような何者かは、一声悲鳴を上げて消えた。
ふと我にかえると、彼女はまだ手を伸ばした時のままだった。まるで、さっきの出来事は儚い夢だったかのようだ。
あれは本当に夢だったのだろうか。しかし夢の中で戦って骨が砕けた腕に微かに痛みを感じる。彼女の手の中に、いつの間にか現れた重い龍骨は、戦いの最中、彼女が掴んだ巨龍の尾と全く同じものだった。
物語が好きな友人、「謎煙の主」のあの祭司にこのことを話すと、祭司は少し眉をひそめた。
「トゥラン大火山は立入が禁止されていて、一般人が入ることはできないはずだ。ましてや、その時君はまだ子供だろう。」
儀式の刃を携えた男はこうも言った。「それは本当のことかい? 君がその剣を抜いたところなんて誰も見たことがない。」
「もちろん本当さ。今までこの剣を使わなかったのは、ほとんど使うまでもなかったからだ。たいていは素手で十分だよ。」
出陣前に篝火の近くにいると、向こう岸に漆黒の巨獣の輪郭が見えるんだ──ワンジルはそう言った。
彼女は剣を固く握り、再び白骨の刃を抜くに値する戦いを静かに待っている。
厄水の災い
光り輝く蝶も、羽化する前は縮こまった青い蛹であったように、
あでやかな赤フラミンゴも、幼い頃は灰色の羽毛の塊にすぎない。
美辞麗句で人々を惑わした偉大な祭司にも、
生まれてから長きにわたり、頭がぼんやりとして一言も発さない時期があった。
部族で祭祀の炎を司る老人は、彼の魂の半分が夜の火の中に消えたと言った。
言葉を失った子供は自らの誕生日に、荒れ果てた石の地へと足を踏み入れ、失った自分を取り戻さなければならない。
しかし、この旅は危険に満ちている。寂静の主に謁見するために、魂は七重の帳を越えていかねばならないのだ。
二つの世界を行き来できる竜の助けがあったとしても、帰ってこられた者はごくわずかだった。
少年と共にその謎の地へと足を踏み出そうとするイクトミ竜は、イクトミ竜の中でも最も掴みどころのないマハンバだけ。
曜石で葺かれた長い階段のある殿堂で、まるで初めてそうするかのように子供は目を開けた。
遥か昔の国の記憶が水のように彼の瞳を流れていく。ゆらめくほのかな光の中で、
本当にその歳月を過ごしているようだった…最初の炎神が火山の前で手を上げ、誓いを立てた。
彼は過去の思い出には存在しない。ただ数々の英雄の影の中に立っている。
煙霧に堕ちた城の僭主が、赤い瞳の少年に討たれた時、空の玉座の階段の前から、
燃える都市と黒淵へと落ちた者の顔を見た。
過去が彼に全てを──言葉、音節、その裏に隠された意味を悟らせた。
そのおかげで、彼は時間の流れをより深く、より長い目で見通すことができた。そして、ついに知ったのだ──
夜の主がこうなるように計画し、すべてを目の前に現したのだと。成長した子供は、
その時から、ナタ全体を覆うほどの影と外界から来た魔物を見るようになった。
孤島を占拠する黒い影を見た。それはまるで寄生虫のように奥深くまで蝕み、あらゆる境界を炎のように蹂躙していく。
黒い影が占拠した場所では、過去の亡者と死にゆく者が悲痛な泣き声をあげていた。
漆黒の霧がナタの部族に迫ろうという時、思わず口を開いた。「やめろ!」
最初の言葉を口にした途端、彼ははっと目を覚ました。そして自分が青い炎の横に倒れていることに気づいた。
マハンバの瞳に微かな光が浮かんだ。老人は祭祀の杖を彼に渡した。
それ以来、過去のすべてを知るサンハジは言葉巧みに人々を欺き、
未来の危険を軽視する無脳な愚か者たちを、遠い昔の言葉で戒めた。
それからというもの、すべての物語を知るサンハジは大きな嘘をつくようになる。
幾重にも重なるウォーベンを迷霧へと変え、触れてはならない過去を隠したのだ。
☆3
飛天御剣
剣術に優れた御剣公子が絶雲の間の頂上から飛び降り、
吠える強風を物ともせず、剣に乗り、雲を突き抜けた。
剣の断裂音が体を通じ、頭の中に響いた――
その時、彼は気づいた。剣術ではどうにもならないことがあると。
剣は壊れてしまったが、金創丸剤が手に入った。
御剣公子はまだ諦めない。偉大なる空を駆ける旅は終わっていない!
金創【きん-そう】:金瘡。刃物による切り傷。
チ虎魚の刀
伝説によると、過去の璃月では蝸虎魚(ちこざかな)が豊富で、平民が一番好きな魚であった。
だが、長い歴史の中で、いつからか人々はそれを「チ虎魚」と呼ぶようになった。
今となっては、本物の蝸虎魚は滅多に見られないが、
「チ虎魚」という言葉はは璃月人の食用魚の代名詞となった。
旅道の剣
頼れる鋼の剣。全体的にバランスがよく、持ちやすい。硬くて良質な鋼鉄で作られている。
最大の欠点は全てが竜骨構造でないため、耐久性が落ちている点だ。
その代わりに、空洞の柄に小さな果物ナイフ、ハサミ、発火布などが入っている。
旅の剣と呼ばれる理由はそれが由縁……?
黎明の神剣
この剣の正式名はとても長い。
「黎明を切り開き、勝利へと導く払暁の神剣」
ある日、戦場で一人が倒れた。
暗闇の中、男がこの剣を抜き、勝利を叫んだ。
刹那の間、光が漆黒の夜を白昼に変えた。
その輝きによって、彼は的となり、
雷霆の如く降り注ぐ矢の雨を招いた。
冷刃
硬い鋼材を何度も折り返して鍛え作り上げられた剣。
薄暗く冷たい光が輝いている。
かつて有名な冒険者が所持していた。広く、幽邃な大地を目にしてきた。
魔物の鋼骨を斬り、強盗の刃をも相手にしてきた。
ただ最後は、
少女のために、彼はこの広い大地と果てのない空、
協会の仲間、そしてこの冷たい「鋼の親友」を捨てた。
暗鉄剣
「おじさんはなんで剣を地面に置くの?」
「日焼けさせるためだ」
「どうして?」
「いい質問だ。嬢ちゃん、どんなものが黒いか知ってるか?」
「カラス?」
「そうだ!他には?」
「う~ん……鉄鍋?」
「いい答えだ!じゃ鉄鍋の下に何があるか知ってるか?」
「火!」
「じゃあ、火はどこからくる?」
少女はひらめいた。
「木炭!木炭だ!木炭は黒いの!」
「そうだ、炭によって、鋼はさらに強く硬くなる。だからおじさんは剣を干してるわけだ」
そう言って、おじさんは剣をひっくり返した。
☆2
銀の剣
一般的な言い伝えと違って、実は銀の退魔の力は大きくない。
剣を持った迷いのない旅人こそ、魔を退ける要になる。
☆1
無峰の剣
旅路は出会いと別れで溢れている。
最後まで旅人と歩み続けてくれるのは、
剣と遠い夢しかないだろう。